2021年7月18日日曜日

五輪無観客とアスリート。吉田麻也が伝えたかったこと―【私の論評】私達日本人は、人類がパンデミックに打ち勝てることを示す新たな世界史の1ページを綴るはずだった(゚д゚)!

五輪無観客とアスリート。吉田麻也が伝えたかったこと

吉田麻也選手


真剣に再検討を願う理由

「サッカーに限らず、オリンピックの舞台は毎日命かけて人生かけて戦っているからこそこの場に立てている選手たちばかり。マイナー競技でオリンピックに人生を懸けている選手たちは山ほどいる。なんとかもう一度考えて欲しい、真剣に検討してほしい」(吉田麻也)

 17日に行われた東京五輪男子サッカー日本代表と同スペイン代表のキリンチャレンジカップ。五輪前最後の準備試合となるこの一戦を終えて、テレビの前で吉田麻也主将が沈痛な雰囲気で繰り出した言葉は「(五輪の)無観客は残念ですね」というものだった。おそらく放送枠の都合でその言葉は途中で切られてしまう形となったので、あらためて試合後の取材で本人にその“続き”について聞いてみたところ、出てきたのが冒頭の言葉である。

 以前から吉田は無観客試合について無念の思いをにじませていた。「ウインブルドンでもEUROでも(観客が)入っている」とこぼしたこともあったので、あらためて観客の前でプレーする最後の機会で「なぜ日本だけダメなのか?」という思いを繰り出した形だろう。もちろん、これまで繰り返し医療現場で戦う人々への敬意を示し、そこへの感謝を口にしてきた吉田である。「(コロナ禍に対して)陰で戦っている人たちがいるのは重々理解しているし、オリンピックがやれるということだけでも感謝しなければいけない立場にあることは理解しています」と強調したように、それを忘れたわけでは決してない。

 それゆえに、アスリートのこうした主張を快く思わない人がいることも承知している。「実際、いまはどっちのコメントをしても叩かれるような状況だと思う。ただ、それは個人的に間違っていると思っている」とまで言うが、しかしそれでも伝えたい思いがあった。

「JOCの山下泰裕会長もオンライン壮行会のときにおっしゃっていましたけど、自分がちっちゃいときに観たオリンピックから影響を受けたし、ものすごく感動した。僕たちがやっぱり子どもたちにできることということは、家の中に閉じ込めて友達とも会わず、ことが過ぎるのを待つだけじゃないと思う。もっともっとできることたくさんあると思うし、僕にも娘がいるし、まだ4歳で、僕のプレーしているところを覚えていられないとは思う。そういう子どもたちに絶対いろいろなモノを与えられると思います。時差がなく、オンタイムで試合を観られるというのは、僕が2002年W杯のときにそうだったように、やっぱり物凄い感動と衝撃を受けると思うし、そのためにこそオリンピックを招致したのではなかったのかと個人的には思っている」

 せめて家族だけでも観に来られないのかというのは他のアスリートから聞かれた言葉だったが、吉田も選手の家族たちのことについてあらためて言及した。

 「じいちゃんばあちゃん、孫がオリンピックに出るところを観たいと言う人はたくさんいるだろうし。家族も、僕なんかもそうですけど、いろいろなモノを我慢して犠牲にしながら、ヨーロッパで戦う僕をサポートしてくれています。僕だけじゃなくて家族も戦っている一員なので、それが観られないというのは、誰のための何のための戦いなんだろう。そこはクエスチョンです」

 もちろん、「苦しいときにファンの助けは本当に大きい」と語ったように、パフォーマンス面でのメリットもあるだろうが、そこにとどまる話ではあるまい。スポーツの価値自体が毀損されてきたコロナ禍の中で、東京五輪が非科学的で感情的な攻撃の対象になり、政治的な闘争の具材にされてしまった現状に対する一人のアスリートの意思表明だった。

「もう一度検討していただきたいなと心から願っています」

 吉田はその言葉を残し、会見場を後にした。その言葉が届かないであろうことは百も承知。それでも、スポーツの価値を信じる人々に伝えておきたい言葉があった。

【私の論評】私達日本人は、人類がパンデミックに打ち勝てることを示す新たな世界史の1ページを綴るはずだった(゚д゚)!

上の記事を読んでいると、吉田麻也選手の気持ちかひしひしと伝わってきます。東京五輪は、制限付きで良いから、「有観客」で実施すべきと私は思います。

世界中がコロナ禍にあるものの、各国の主要なスポーツイベントは「有観客」に舵を切っています。大谷翔平が出場した米国メジャーリーグのオールスター(7月13日)は約5万人が観戦。テレビ映像などを観る限り、マスクをしていた人はごくわずかでした。英国でも、オーストラリアでも、その他の先進国等では同じよう状況です。

大谷翔平選手

では、日本国内のスポーツイベントはどうなのといえば、非常事態宣言下では、プロ野球、Jリーグ、陸上競技などの大規模イベントは、「人数上限5000人かつ収容率50%の制限」で行われています。現在開催中である甲子園の東東京大会と西東京大会もメガホンなど鳴り物の持ち込みを禁じているが有観客で行われています。

では、なぜ東京五輪だけが「無観客」なのでしょうか。 東京都では7月12日に4度目となる「緊急事態宣言」が発出された。東京五輪の無観客開催について、小池百合子都知事は、「都民の命と健康を守り、安全を重視した大会とするため」と説明している。
無観客となった理由のひとつに、英国や米国のようにワクチン接種が進んでいないことが挙げられます。「Our World in Data」の集計によると、ワクチン接種の完了率は、英国が51.8%(7月13日時点)、米国が49.7%(7月14日時点)。一方の日本は19.8%(7月14日時点)です。

確かにワクチン接種率の低さが目立ちます。英国は昨夏から法改正を進めて、摂取会場も確保。昨年12月からワクチン接種を開始しました。日本は、医療従事者への先行接種が始まったのが今年2月17日です。

ただ、日本と米英などの他国とは、明らかに異なる背景があります。それは、100万人あたりの感染者数が二桁以下だったということです。死者の数も桁違いに低いものでした。

感染症学の常識というか、世間一般常からいっても、感染症の酷い国や地域から、ワクチン接種を開始するのは当然のことであり、最近では接種速度もあがっており、五輪開催国としての日本がワクチン接種で後れを取ったという批判は一見もっともらしいですが、正しいとはいえません。

もし日本が、財力でワクチンを早めに獲得し、米英などと同じ時期に接種をはじめた結果、米英の接種が遅れたということにでもなれば、相当批判を受けたと考えられます。その意味では、日本のワクチン接種の時期は、まともだったといえます。

前安倍政権は、昨年には大規模なコロナ対策補正予算を組み、5月頃からワクチン確保や一日100万程度接種できるように、冷蔵庫を用意するなどの前準備を進めていました。安倍政権を引き継いだ菅政権が一日100万接種を目指すといったのは、このような背景があったからです。

このブログでも以前掲載したように、最近では高齢者のワクチン接種がかなりすすみ、高齢者の感染は減っています。確かに最近では若者の感染者数は増えていますが、死者ということでみれば、交通事故による死者よりははるかに低いのです。

昨年はわからなかったコロナ感染症の特徴も明らかになっています。若者は感染しても無自覚か、継承で済む場合がほとんどです。一方、高齢者は感染すると重症化する割合も高く、死亡率も高いです。ところが、その高齢者のワクチン接種がすすみ、感染率が劇的に減少しているのです。

この状況だと、同じ感染者数であっても、昨年から今年の2月〜3月の状況とはかなり変わっており、感染者数そのものの増加は以前ほど不安要因ではなくなりました。そもそも、若い世代から高齢者まで、重症化する比率がかなり低まり、同じ感染者数であっても、従来ほど医療崩壊になりえる確率は随分減ったといえます。 


そのさなかで、なぜか東京五輪がスケープゴートにされたのか、非常に気になります。他のスポーツイベントは緊急事態宣言下でも「人数上限5000人かつ収容率50%の制限」という条件で有観客開催が認められているのです。東京五輪だけ“特別”になる合理的な理由は見当たりません。 

一番問題だったのは、大手紙やテレビ局を筆頭とするメディアの姿勢です。東京五輪の開催について多くのメディアが「開催」に関してネガティブなトーンだった一方で、「観客を入れて開催できる」といったポジティブな意見はほとんど報道しませんでした。 

そうしたメディアの影響もあり、世間も「コロナ禍で東京五輪なんてとんでもない」という雰囲気を醸成してしまったのではないでしょうか。そのため、アスリートやスポーツ団体は「有観客で開催してほしい」という声を出しににくい状況になっていました。

出せば、叩かれるのは目に見えているからでした。実際、そのように主張した選手はSNSで、かなり叩かれていました し、そうした主張をしてもいなかった池江璃花子選手が叩かれていたのは本当に痛々しく、残念でなりませんでした。アスリートたちは世間から厳しい目を向けられているようです。自分の意見を言えない世の中は“正常”とはいえません。

本来ならば、政府を追求する野党から「有観客」を主張する声があがっても良いような気もしますが、「五輪開催」そのものに反対してきた野党にはそれはできないのでしょう。というより、今更「有観客」を主張してしまえば、矛盾すると糾弾されるでしょうし、「コロナ禍で東京五輪なんてとんでもない」という雰囲気を醸成されしまった現状では、とてもできないのでしょう。

元々は「有観客開催」を考えいていた与党の政治家からそのような声が起こっても良いと思うのですが、そうした声もありません。

まさに、吉田麻也選手、言いにくいことをよくぞ言ってくれたと思います。これは、本来は政治家が言うべきことです。日本国内にいるチケットを持っている人のうち、ワクチン接種済みプラス 検査陰性 の条件付きでも良いから、観客入れるべきです。その他の制限があっても良いかもしれません、ただ「無観客」だけは避けるべきでした。

当然のことながら、無観客開催になれば、不要になるものが出てきます。まずはハード面。観客入りを想定して造られた仮設スタンドはほとんど使われることなく撤去されることになります。結果として無駄な経費になります。

それからチケット収入で計上していた約900億円が消滅。赤字分は都や国が税金から補塡(ほてん)することになります。選手の立場はどうなのでしょうか。試合に向かうモチベーション自体は変わらないとはいえ、声援の有無はパフォーマンスに影響するでしょう。

実際、観客に応援されることで選手の運動量が約20%アップしたという調査も報告されています。特に沿道で行われるマラソンは観衆との距離が近いこともあり、声援が耳に届きます。それがエネルギーになるだけに、今回は“孤独な戦い”になるかもしれないです。 

また、集まる人数が多いほど熱狂の渦も大きくなる。「火事場の馬鹿力」のような驚異的なパフォーマンスは非日常の雰囲気から生まれるものです。無観客ではそういうシーンが観られる機会が激減するでしょう。これでは、ホームアドバンテージが無くなってしまいます。

無観客になると、東京五輪2020のレガシー(遺産)を次世代に引き継ぐことも難しいです。選手、ボランティア、大会関係者以外は、東京五輪を“体感”することができないからです。 

サッカー、野球、テニス、ゴルフなど一部の種目を除けば、オリンピックがその競技種目にとって真のナンバー1を決める最高の舞台になります。多くの種目(団体)はオリンピックで競技の魅力を観客にPRしたいと考えていたはずですが、その願いはかなわないのです。

東京五輪を生観戦できないことは、今後のスポーツ界にも大きな影響が出るでしょう。 また無観客になることで、10万人に依頼していたボランティアの一部は出番がなくなってしまいます。SNSの発展で情報を共有できても、体験をシェアすることはできないのです。

東京五輪の無観客は一般の方々が一生に一度できるかどうかという貴重な体験の場が奪われたことになります。 

人間が生きていくためには、安全安心に命を守る環境も大事だが、それと同様に精神的満足・充実を得ることも必要です。東京五輪を観戦したい、と熱望している人は少なくありませんでした。 

そもそも東京(日本)が開催地に立候補したわけで、世界中から開催を押し付けられたわけではないです。「お・も・て・な・し」という言葉で誘致に成功したはずですが、その精神はどこかに消えてしまったようです。 

東京五輪・パラリンピックの出陣式で、気勢をあげる(前列左から)JOCの竹田恒和会長、猪瀬直樹都知事、安倍晋三首相、森喜朗元首相(肩書はいずれも当時)=2013年8月23日、都庁

菅義偉首相は東京五輪に関して、「全人類の努力と英知で難局を乗り越えていけることを東京から発信したい。安心安全な大会を成功させ、歴史に残る大会を実現したい」と話しています。  
はたして東京五輪を無観客にすることで歴史に残る大会になるのでしょうか。無論、「無観客」という異常事態そのものは歴史に残るかもしれません。

しかし、大きな長い苦しみの果にとうとう最初に五輪が開催される場が日本になったということは、本来名誉なことであり、これをたとえ制限つきでも「有観客」で成功させれば、人々の間に長く記憶に残る祭典になったはずです。まさに、私達日本人が、人類がパンデミックに打ち勝てることを示す新たな世界史の1ページを綴ることになったはずです。

この大きな機会を日本は自ら逃したのです。しかも、このような機会は今後100年間は訪れないかもしれないのにです・・・・。目の前の安心安全にばかり執着して、大切なことを失ったことに気づかない人があまり多いのではないでしょうか。

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2021年7月17日土曜日

【日本の解き方】「政府日銀連合軍」安倍氏の発言、大型財政措置の断行を後押し 衆院選への危機感と打開策に―【私の論評】菅総理は、マクロ経済音痴・親中派政治屋のきな臭い蠢きを断って、政治の表舞台に立てないようにせよ(゚д゚)!

【日本の解き方】「政府日銀連合軍」安倍氏の発言、大型財政措置の断行を後押し 衆院選への危機感と打開策に


安倍晋三元首相


 前回の本コラムでも取り上げたが、安倍晋三前首相が「政府と日銀の連合軍による経済対策の必要性」について発言した。あらためて「連合軍」の意味を解説したい。

 新潟県三条市で10日に行われた講演で、安倍氏は以下のように発言した。

 「昨年いわゆる金融政策も含めた形でコロナ対策に挑んだ。政府と日本銀行が連合軍で200兆円という対策をとった。このうち100兆円くらいはしっかり財政措置をした。『子供たちの世代につけを回すな』との批判がある。ずっとこの批判は安倍政権に対してあった。でも必ずしもその批判は正しくない。なぜかというと、今回のコロナ対策においては、政府と日本銀行が連合でやっているから、政府が発行する国債は日本銀行がほぼ全部買い取ってくれている」

 続けて「皆さん、どうやって日本銀行は政府の出す巨額な国債を買うと思いますか。どこからかお金を借りてくるか、持ってくるのか。それは違う。それは紙とインクでお札を刷る。20円で1万円札ができるから。つまり、それは新しいお金が誕生して世の中に出ていくから、それはデフレの圧力に対抗する力にもなる。日本銀行というのは、政府の言ってみれば子会社の関係にある。連結決算上、実はこれは政府の債務にもならない。ですから、『孫、子の代につけを回すな』というが、これは正しくない」と説明する。

 さらに「ただ、1つだけというか2つだけ副作用がある。それはインフレがどんどん進んでいくという問題。もう一点は円の価値がどんどん暴落していくという問題。でも、皆さん、そんなことになっていますか。まったくなっていない。私は今の状況であれば、もう1回、もう2回でもいい。こうした大きなショットを出して、国民の生活を支えていく、大きな対策が必要であり、スピードアップして、足の速い対策を打っていかなければならない」と述べた。

 これらの説明は「完璧」だ。

 実際に安倍政権と菅義偉政権とで、昨年3回の補正予算を計上した。その総事業費はおおむね200兆円で、真水の財政措置は約100兆円だ。この両者はマスコミ報道でも混同されているが、安倍氏はきちんと使い分けている。

 日銀が政府が発行した国債を買い取るという本質論も正しい。本コラムの読者であれば、昨年5月の麻生太郎財務相と黒田東彦(はるひこ)日銀総裁による記者会見で明らかにされたことをご存じだろうが、マスコミはあまり報道していない。

 副作用が2つという整理も正確だ。通貨が物に対して多くなるのがインフレで、他の通貨に対して多くなるのが円の価値下落だからだ。

 今の時期に安倍氏がこの発言をしたのは、東京都議選や緊急事態宣言、東京五輪の「無観客」などで自民党への逆風を感じ、このままでは秋の衆院選で勝てないという危機意識によるものではないか。実際、内閣支持率は低下し、飲食業者の締め付け問題で政権運営も危うくなっている。その打開策が党内から上がっているのだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】菅総理は、マクロ経済音痴・親中派政治屋のきな臭い蠢きを断って、政治の表舞台に立てないようにせよ(゚д゚)!

日銀と政府の連合軍に関しては、昨年このブログにも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

麻生氏の「豹変」が象徴する政府と日銀の“対コロナ連合軍” 相変わらずのマスコミ報道には笑ってしまう ―【私の論評】ピント外れのマスコミには理解できない日本国債の真実(゚д゚)!

麻生財務大臣

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事の高橋洋一氏の記事から一部を引用します。
政府と日銀との連合軍では、政府が大量の国債発行によって財源調達を行うが、その一方で、日銀がその国債の買い入れを行う。これによって政府が巨額の有効需要を創出でき、不況の下支えをする。まさに大恐慌スタイルの経済政策だ。

この政策のリスクは、インフレ率が高まることだ。しかし、コロナ・ショックは基本的に需要蒸発した需要ショックなので、当面はインフレというよりデフレを心配すべきときだ。

ご存知のように、日本ではコロナ・ショック以前からデフレ気味でした、それに輪をかけて、コロナショックで、需要ショックが起こったわけで、現状ではインフレの心配など全くする必要はなく、それよりもデフレを心配すべきなのです。

いまこそ、日銀政府連合軍で政府が空前絶後の大量の国債を発行し、日銀がそれを引き受け、現在の需要不足30兆〜40兆円を埋めるべく、財政出動をすべきときなのです。いまやらずしていつやるのかという次元なのです。

この方向で、具体的に、どのくらいの対策をどの程度実行するかについては、様々な論議があるでしょうが、これに対して、日銀政府連合軍方式の調達そのものに対して様々な屁理屈を言って反対する人たちは、すべて間違えています。なぜなら、この方式は欧米では常識といっても良い方式だからです。

さて、なぜこのようなことを安倍元総理がいいだしたかといえば、やはり東京都議選や緊急事態宣言、東京五輪の「無観客」などで自民党への逆風を感じ、このままでは秋の衆院選で勝てないという危機意識によるものであると考えられます。

新型コロナウイルスをめぐっては、東京都で緊急事態宣言を発令して五輪を無観客とするか、蔓延防止等重点措置として一定の観客を入れるかという二択でした。当初、菅義偉政権は一定の観客を入れる方針でしたが、結局、大半の会場で無観客にせざるを得ませんせんでした。

東京で新規感染者が増加していることが宣言の根拠ですが、今回の感染者増は過去と比べて顕著な差があります。それは、ワクチン効果により高齢者の感染が大きく減少していることです。さらに、若者の感染者数が増えたといっても、交通事故の死者よりはかなり低いです。

政府は宣言発令について「先手を打った」といいますが、それは現状を説明できないことを白状してしまったようなものです。

では、なぜこのような非合理的な決定をしてしまつたのでょうか。この背景には、小池百合子都知事の影があるようです。小池氏は、都議選の自軍の「勝利」後の5日、自民党の二階俊博幹事長、公明党の山口那津男代表とそれぞれ面会し、五輪無観客の流れを作ったようです。7日には政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長とも2時間近く会談しています。

五輪や緊急事態宣言に関して都は当事者であるので小池氏が表に出てもいいはずですが、あえて水面下で行い、決して過度に露出しませんでした。この政治的老獪さは驚くばかりです。

こうした小池氏の戦略はまんまと当たり、今回の緊急事態宣言・五輪無観客についても、世間は菅政権が決めたことと思い込んだようです。そうして菅政権が各方面から批判を受けています。

自民への逆風をはね返すのは容易なことではないようです。このブログでも当初、五輪・パラリンピック直後の9月上旬に臨時国会召集、大型対策を含む補正予算を通してから、9月下旬に衆院解散、10月上旬に衆院選の投開票というスケジュールを想定していましたが、ここにきて10月解散、11月投開票の可能性も出てきたと思います。

幸いにもワクチン接種は順調に進んでいるので、その効果が十分に出てから、衆院の任期満了直前に解散、その後総選挙という荒業もありそうな気配になってきました。

ただ、その前に、菅政権は臨時国会を開催して、真水の30兆円〜40兆円のコロナ対策補正予算を組み、潤沢な資金を得て、飲食業への手厚い保護等の対策を行うべきです。

11月選挙となると、小池知事の策謀も間が空きすぎて、コロナの収束も目処が立ち効力を失う可能性が大きいです。それでも、選挙には勝つでしょうが、大きな話題になることはないかもしれません。さらに、最近の二階氏、小沢氏のきな臭い動きも封じることができるかもしれません。

安倍総理が議員に初当選したのは1993年の衆議院選挙で、自民党が初めて野党に転落した時です。この選挙で自民党は過半数を失ったのですがそれでも第一党でした。他の政党と連立を組めば野党には転落しませんでした。しかし小沢一郎氏がいち早く日本新党の細川護熙を担いで8党派をまとめ上げ自民党は野党に転落しました。

二階幹事長の初当選はそれより10年前、小沢一郎氏の後輩議員として自民党田中派に所属しました。政治改革を巡って自民党が分裂した時、二階氏は小沢氏に付いて自民党を離党、安倍総理が初当選した93年には運輸政務次官に就任しました。その後、小沢側近となり新進党、自由党の結成に加わりました。

小池都知事は細川護熙氏が日本新党を作った1992年に参議院議員に初当選、翌93年の衆議院選挙で衆議院に鞍替えしました。彼女も小沢側近として新進党、自由党結成に加わりました。

街頭演説する小沢一郎新生党代表幹事(当時)。右は小池百合子氏(1994年撮影)


安倍元総理と小沢氏にも因縁があります。安倍総理の父親である安倍晋太郎氏は小沢氏を高く評価し、息子の後見役に考えていました。衆議院議員に初当選した時、母親の洋子さんが小沢氏に頼みに行ったことがあると野上忠興著『沈黙の仮面』(小学館)は書いています。

いずれにしても二階氏も小池氏もその後小沢氏と袂を分かち、安倍総理を含め3人とも今では小沢氏と対立関係にあります。一方でこの3人は小泉純一郎氏から引き立てられ現在の地位を築いた。その小泉氏と小沢氏はこのところ反原発などで近い関係にあります。

二階氏や小池氏が保守党から自民党に入ったのは小泉政権時代です。入党するとすぐに小池氏は環境大臣として初入閣し、夏の軽装「クール・ビズ」の旗振り役となりました。二階氏は小泉総理から郵政民営化法案を審議する特別委員長を任され、郵政選挙では自民党の選挙責任者として自民党圧勝の功労者となりました。

安倍氏、小池氏、二階氏、小沢氏にはこのような因縁があります。ただ、大きな違いは、安倍氏が先にあげたように、「政府日銀連合軍」に関して説明するなど、マクロ経済を熟知していようですが、他の3人はそうではない事が挙げられます。

小池、二階、小沢は、政治的には「老獪」なのですが、マクロ経済政策などには全く無頓着なようで、マクロ経済政策などにそもそも関心がなく、単なる政争・派閥争いの道具であるかのように考えているようです。

実際彼らからは、政局に対応して、減税とか積極財政などの話などを聞いたことはありますが、上述の安倍総理の「政府日銀連合軍」の説明ように、まともで具体的なマクロ経済政策の話を聞いたことがありません。彼らにとっては、国民経済・都民経済などどうでも良いのでしょう、経済対策等はその時々の政局の道具でしかないようです。

もう一つの大きな違いは、安倍総理は、自他共認める反中派ですが、小池、二階、小沢は親中派・媚中派です。二階、小沢については説明の必要がないほどの、根っからの親中派です。彼らの頭の中は、田中角栄氏が存命だった頃からほとんど進歩していないようです。

小池氏はどうなのかといえば、最近でも以下ようなことがありました。

新型コロナショックが起きて間も無くの昨年、まだ日本ではマスクや防護服の必要性が希薄だった頃に、親中派二階幹事長の要請を受けて、小池知事は備蓄している防護服220 万着の内、33万6000着を中国に送りました。報道では10万着とか14万着とも言われていましたが、どうやら33万6000着のようです。

時系列で見ますと、以下の通りです。
1/28、武漢から日本人を国内に引き上げる際の往路便に、日本から中国への支援として、2万1000着の防護服を東京都の判断で送付。

2/7、自民党、二階幹事長からの要請で、10万着を中国が用意したチャーター機で送付。

2/13、武漢から日本人を国内に引き上げる際の往路便に、外務省からの要請で5000着送付。

2/14、北京の清華大学からの依頼で1万着送付。

2/18、3回に分けて北京に20万着送付。
これらの合計が33万6000着という事です。

新型コロナ感染対応でドタバタしている最中に、都民の税金で備蓄された防護服を、当時尖閣諸島への連続45日間に及ぶ領海侵犯を繰り返す中国に贈呈したのです。

4月14日に、大阪市の松井一郎市長は、大阪府内の医療現場で防護服が不足していると訴え、「使用していない雨合羽があれば、ぜひ大阪府・市に連絡してほしい」と提供を呼びかけるほど、大阪の医療現場の物資不足は切羽詰まっていました。

日本国内でそれ程の厳しい状況に陥る可能性を未然に予見できたにも拘らず、上述しました様に、2月の段階で、小池知事は何故か二階幹事長の要請に従って大変貴重な防護服を33万6000着も中国に送ったのです。

この事実をみても、小池氏は自ら親中派であるか、あるいはそれよりも始末の悪い、政局のためには何でもやる政治屋なのかもしれません。

小池、二階、小沢の頭の中は、おそらく政局だけなのでしょう、いかに派閥争いや権力闘争で勝ち抜くか、そうして小池氏の頭の中には、日本初の女性総理大臣になることしかないのでしょう。

昨年の都知事選の各候補の公約


安倍氏と、小池、二階、小沢とを比較すれば、いずれが政治家にふさわしいのか、特に有権者からみて、誰がふさわしいのか明らかだと思います。

安倍元総理は、現在は菅政権が継続することを前提としているようです。それはまともな政治家なら、現在のようなコロナがまだ完璧に収束していないような時期であれば、政権が継続するのが望ましいと考えるのが当然だからだと思います。

この時期に政権交代を望むような連中は、本当はコロナなどたいしたことがないと思っているか、あるいは国民のことなど二の次で政局しか頭にないのだと思います。

9月末には、総裁任期切れに伴う党総裁選が行われます。安倍元総理は、当然のことながら、安倍政権を継承する菅総理を応援することになるでしょう。

菅総理には衆院選前に、大型補正予算を成立させ、それをもって様々な財政政策を実施して、その後に衆院選に挑み、大勝利していただきたいです。

そうして、その後小池、二階、小沢のマクロ経済音痴、親中派政治屋のきな臭い蠢きを断って、二度と政治の表舞台に立てないようにしていただきたいものです。

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2021年7月16日金曜日

日本の防災対策を進める方法 公共事業実施の基準見直せば「2倍以上の規模」が達成可能だ ―【私の論評】B/C基準の割引率を放置し、インフラの老朽化を招くのは本当に罪深い(゚д゚)!

日本の防災対策を進める方法 公共事業実施の基準見直せば「2倍以上の規模」が達成可能だ 

高橋洋一 日本の解き方


 今年の梅雨も各地で記録的な豪雨があり、静岡県熱海市では土石流も発生した。このところ毎年のように大規模な水害が起きているが、防災対策として何を優先すべきなのか。

 筆者は毎週大阪で仕事があるので、東海道新幹線を利用している。熱海市の土石流は、新幹線のところまで来ていたので、そのあたりでは速度を落として通過している。たまたま車窓から土石流の跡を見ることができたが、想像以上のひどさだった。ネットでは別のところの土石流の映像もあり、被害のすさまじさがわかる。

 原因については、上流にあった盛り土によるものかどうかなどさまざまな究明が待たれるところだ。

 まずは、そうして解明された原因の除去が必要だ。これは、各種の規制・届け出などを改善することによって行われる。その上で、防災対策としての公共事業が切り札になる。

 地域ごとに災害予測ができればそこに重点的な防災対策ができるが、現状では不可能だ。なので、毎年一定の公共事業予算をつけて、計画的に防災対策をせざるを得ない。

 ここ3年ほどで、当初予算と補正予算を合わせた公共事業関係費は8兆5000億円程度だ。公共事業では社会ベネフィット(便益)がコスト(費用)を上回っているという採択基準がある。その基準を満たしている公共事業は建設国債を発行して実施可能だ。この意味で、国債発行額が予算制約になるのではなく、採択基準が公共事業の規模を決定する。

 その採択基準において、ベネフィットもコストも将来見通しを現在価値化するために割引率を使うが、現時点では4%だ。ベネフィットは将来にわたって長く継続し、コストは遠い将来にはあまりないので、割引率が高いほどベネフィットに不利になり、採択しにくくなる。

 割引率は15年ほど前に設定されたままとなっているが、本来は金利と同水準であることを考えてもあまりに異常である。

 国土交通省関係者も、財務省に忖度(そんたく)しているのか、15年も放置しているが、インフラ整備への熱意があるのか、疑問を感じざるを得ない。

 本来の割引率は期間に応じた市場金利であるが、海外では市場金利の変動に応じて、ほぼ毎年見直すのが当たり前だ。

 これを現在の低金利環境を踏まえて機械的に見直すだけで、4%から1%程度以下になるはずで、となると公共投資予算について、これまでの倍増以上の大幅増が達成可能だ。

 なお、ちなみにこの話は、予算事務の話なので、最近はやりのMMT(現代貨幣理論)とは無関係だ。この割引率4%問題を直さずにMMT思想に走るのは、本質をずらしているといわざるを得ない。

 MMT思想をいくら主張しても、実際の予算実務で割引率を是正しないと、公共事業を行うことはできない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】B/C基準の割引率を放置し、インフラの老朽化を招くのは本当に罪深い(゚д゚)!

熱海の土石流と工事が関係あるかどうかは、未だ明らかにはなっていませんが、公共インフラの老朽化が全国で深刻な事態になっているのは明らかです。1960~70年代の高度成長期までに建設された多くの道路や橋、上下水道、建築物(公共施設)などが、いま一斉に更新の時期を迎えており、地震などがきっかけで危険視される市庁舎や橋が使用停止になる事例が多発しています。

公共事業には、様々なものがあります。具体的なイメージを思い浮かべていただくために、ここでは橋を例にとります。

日本では1950年代に大量の建設ラッシュが始まり(表1参照)、ピークの60~70年代には年間1万本近い橋を建設しました。第2次世界大戦後の復興から高度成長期に向かう時期であり、社会経済活動の基盤として次々と整備されたのです。この公共投資はわが国の高度成長の源になり、大きな意義があったと思います。

表1: 米国・日本の年次別橋りょう建設数の推移

しかし現在、これらの橋が老朽化しています。老朽化すると、使用停止や通行規制になる橋が増えます。2013年のデータでは、全国で使用停止が232本、通行規制が1149本あります。このままでは、崩壊に近づいていきます。高度成長期に集中投資した結果、老朽化も集中して起きているのです。

米国では日本より30~40年早い1930年代に橋の大量建設が始まりました。世界恐慌で落ち込んだ経済と雇用を下支えするため、ニューディール政策の一環として大量のインフラを建設したのです。80年代になると一斉に老朽化し、あちこちで事故が起きました。それと同じ状況が30~40年遅れて今日本で起きているのです。

日本全土に73万本の橋がありますが、日常的に管理されているのは比較的大規模な少数の橋だけです。予算がないために実態調査ができず、実態が把握できないために更新や維持補修の予算要求ができない、という悪循環に陥っています。

老朽化自体は当然起きることなので仕方ありません。問題は、むしろ老朽化を放置せざるを得ない、つまり十分な対策を取るための財源を用意しない、あらかじめ準備していなかったという点が問題なのです。

橋以外でも、建築物(公共施設)の破損や上下水道に起因する道路の陥没などが問題です。建築物の事例としては、病院や学校、図書館などでコンクリートが剥げ落ちる事故が起きています。内部の鉄筋がさびて膨張する爆裂現象が主な原因です。

2016年の熊本地震では、宇土市役所が崩壊寸前となり、東日本大震災では震度6以下だった福島県庁や水戸市役所、郡山市役所などの庁舎が使用停止になりました。地震がきっかけでしたが、根本的な原因は老朽化にあります。


1981年の建築基準法改正で震度7での耐震性が求められるようになりましたので、多くの施設は耐震補強されましたが、耐震補強だけでは寿命が延びるわけではありません。大規模改修や更新をしなければ安全性を維持できないということです。

建築物の老朽化は首都圏と近畿圏で特に顕著です。東京五輪(1964年)や大阪万博(1970年)など、公共投資を集中的に実施するタイミングが、他地域より早かったためと考えられます。

下水道管の損傷に起因する道路の陥没は現在、全国で年間3000件以上起きています。上水道管は水圧がかかっているので管に若干の亀裂が生じただけで破裂し、地面から噴き出します。下水道管は、圧力はかかっていませんが、一度穴が開くと下水がじわじわ流出して空洞を広げ、道路の陥没を引き起こします。

2016年の博多駅前の大陥没

2017年3月時点で「個別積み上げ方式」により、公共インフラの種類別(建築物、道路、橋、上下水道管、浄水場、下水処理場、空港、港湾、病院、ごみ処理場、機器類)の物理量にそれぞれの更新単価をかけて算出した金額によれば、最も金額が大きい建築物は年額4.63兆円、道路1.32兆円、橋0.42兆円、上下水道3.03兆円で、その合計が9.17兆円です。放置しておけば、これが永遠に続きます。50年間であれば459兆円となります。9兆円は毎年の国家予算の約1割にも相当する大きな金額です。もしインフラの補修や更新が行われなかった場合どういうことになるでしょうか。

予想されるのはインフラの故障や使用停止です。橋やトンネルは崩壊の危険が高まって通行禁止になり、交通や物流がマヒします。庁舎や公民館、ホールなど多くの公共施設も使えなくなり、住民サービスは機能不全に陥ります。いたるところで赤さびた歩道橋、でこぼこの道路といった光景を目にすることになります。上下水道や公共施設の使用料は大幅に値上げされるでしょう。

こんなふうに都市機能が損なわれると、日本の最大のセールスポイントである「安全」が脅かされます。海外からの観光客は激減し、外資系企業などが日本から撤退する事態も起こりかねません。

冒頭の高橋洋一氏の記事にもあるとおり、公共事業採択基準であるB/C(ベネフィット/コスト)の算出で重要な割引率がここ15年間4%とあまりに高すぎます。これで公共投資は本来の半分以下の過小投資になってきたのです。これを見直すべきなのです。

公共投資を適正に行うために、先進国ではB/C(ベネフィト・コスト比)基準が導入されています。これが1以上ならいい公共投資、1未満なら悪い公共投資と、定量的判断ができます。

B/C基準の割引率が採択基準に影響を及ぼすのです。この割引率とは、金利のような計算がそのなかに入っています。金利と置き換えても良いです、国交省では「金利で4%」という基準で判断しているのです。

このような基準は、本来「市場金利を見ながら毎年変わる」というのが当たり前なのです。それを普通に計算すると、いまは0.5とか1なのです。採択基準を変えるだけで公共事業が2倍〜3倍くらいになりますし、そうすべきなのです。

そもそも、4%の利回りを市中で求めたたとしても、多くの人がご存知のように、現在の低金利時代にそれを求める事自体が奇異と受け取られるでしょう。

この4%の割引率で考えると、よほど利益が上がるような仕事ではない限り、公共事業はできないということになります。これは逆に言うと、「やるべき公共事業を抑えているように見えますよ」といえます。

4%もの利回りが見込めるなら、公共事業でやらなくても民間が率先してやるはずです。そもそも、基準がずれすぎているのです。毎年金利が変わるのですから、この手の話は毎年割引率変えるのが当たり前です。

まともな国では、長期金利から機械的に計算するのが普通です。そのために財源として、建設国債などもあるわけであり、本当B/C基準と連動しているべきなのです。いくら何でも15年も据え置きというのはないだろうというレベルの話です。

金利と連動していれば、その時々で適正な公共工事などが実施でき、現在のようなすさまじいインフラの老朽化も防げたかもしれません。さらに、国債を大量発行したとしても、それで財政破綻することはないことをこのブログでも何度か掲載してきました。そのあたりは、ここで掲載すると長くなるので、他の記事に譲ることとします。

何かといえば、「財源がー」と叫び、インフラの老朽化を結果として放置するのは本当に罪深いことです。このようなことは、すぐにやめるべきです。


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2021年7月15日木曜日

『防衛白書』の台湾めぐる記述に中国政府「断固として反対」―【私の論評】中国の台湾統一の最大の障害は、日本の潜水艦隊(゚д゚)!

『防衛白書』の台湾めぐる記述に中国政府「断固として反対」



 日本政府が13日に公開した「防衛白書」に台湾情勢をめぐって日本の安全保障に重要だと初めて明記されたことを受け、中国政府は「断固として反対する」と強く反発しました。

 2021年版の「防衛白書」では台湾情勢について、「わが国の安全保障や国際社会の安定に重要」と初めて明記。急速な軍拡を進める中国を地域と国際社会の「安全保障上の強い懸念」と位置づけていますが、中国政府は反発しています。

 「これは極めて間違った無責任なことだ。中国は強烈な不満を表し、断固として反対する」(中国外務省 趙立堅報道官)

 会見で中国外務省の趙立堅報道官は「台湾は中国の領土で、中国は必ず統一する」と改めて主張しました。

 また防衛白書で、尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国当局の船の活動について「国際法違反」などと指摘されていることについては、「正当で合法」だと強調しました。

【私の論評】中国の台湾統一の最大の障害は、日本の潜水艦隊(゚д゚)!

日本政府の発行する「防衛白書」に台湾情勢をめぐって日本の安全保障に重要だということが、明記されたことになぜ、中国が神経を尖らせるのでしょうか。

その答えは簡単です。日本の潜水艦隊(数年前の防衛白書に掲載されている22隻体制をすでに整えている)が怖いのです。それはなぜかといえば、このブログに何度も掲載したように、中国の対潜哨戒能力(潜水艦を探知する能力)は、日米に比較するとかなり低いからです。そうして、日本の潜水艦はステルス性(静寂性)においては、世界トップクラスです。

本当は、世界トツプといいたいところですが、潜水艦情報は各国が隠すので、世界一とはっきり言い切るには、情報がかなり少ないからです。おそらく、日本の通常型潜水艦のステルス性はぼ世界一と言って良いでしょう。

特に最新型でリチウムイオンバッテリーを動力に用いた潜水艦は、無音といっても良いくらいの静寂性であり、これは中国海軍には発見できません。そうなると、日中が台湾を巡って武力衝突した場合、中国海軍は日本の潜水艦隊を発見できません。

呉基地に出撃待機する日本の潜水艦隊

その結果何が起こるかは亜からかです。台湾に近づく中国の艦艇は、ステルス性に劣る潜水艦から、イージス艦から空母に至るまで、ことごとく撃沈されることになります。

日本は戦略兵器を持っていませんが、潜水艦は唯一、戦略兵器に近い性格の装備です。潜水艦は実は最強の海軍兵器で、究極のステルス艦です。特に日本の潜水艦の探知は難しく、魚雷一発で空母、揚陸艦などのハイバリューユニットを無能化できます。

そのため中国艦隊はその海域に潜水艦が一隻でもいると入って来れません。その海域にいるかいないかをあやふやにするのが、海自潜水艦部隊のコンセプトなのです。

さらに、中国側にとっては恐ろしいことに、日本の潜水艦隊が米国の強力な攻撃型原潜と協同すれば、日本の潜水艦は、静寂性を活用し、中国海軍に発見されずに、台湾付近から黄海や中国の軍港の中まで入り込んで、情報収集ができます。

その情報をもとに米国の攻撃型原潜が攻撃をすれば、効率的に攻撃ができます。魚雷だけではなく、対空ミサイルや巡航ミサイルなどで、効率的で正確な攻撃ができます。。

米軍原潜はステルス性に劣りますが、台湾近海などの要所要所に予め潜み動かなければ中国に発見されることはありません。

このようなことを実施されると、中国軍は台湾に上陸できません。上陸する前に撃沈されることになります。たとえ上陸したとしても、日米の潜水艦隊に台湾を包囲されれば、中国の上陸舞台は補給が絶たれることになります。

以上のようなことが、想定されるため、中国が神経を尖らせるのです。台湾有事に日本が参戦することになれば、中国にとっては、台湾奪取はほぼ絶望的です。

このようなこと、ほとんど日本の軍事評論家など述べないので、軍事評論などが意味不明になることも多いようです。その事例を以下にあげておきます。
台湾の旧式潜水艦をなぜか怖がる中国軍
これは、JBプレスに掲載されていた記事ですが、潜水艦に関して記載された部分のみを以下に引用します。
 最も頻繁に接近飛行した空軍機は、4隻の台湾潜水艦を追う対潜哨戒機だ。

  台湾に接近した中国空軍機の機種は、対潜哨戒機、情報収集機、電子戦機、早期警戒管制機、爆撃機および戦闘機の6機種だ。

  これらの機種で最も活動日数が多かったのは、対潜哨戒機で、123日だった。台湾の潜水艦は、1945年と1985年前後に建造された旧式の潜水艦の4隻と100トンクラスの特殊潜航艇2隻だけだ。

  中国海軍は、たった6隻の潜水艦・艇の情報を収集するために、最も頻繁に活動している。中国軍は、台湾の潜水艦の動きに、かなり神経質になっていることが分かる。

  2021年5月20日の飛行航跡を見てのとおり、対潜哨戒機が台湾の周辺を飛行している。台湾を不安にさせる軍事的な威嚇そのものである。


中国の対潜哨戒機


1988
年以降現在に至るまで、台湾海軍は4隻の潜水艦を保有しています。そのうち2隻は、第2次世界大戦中にアメリカが建造したグッピー級潜水艦の「海獅」(44年起工)と「海豹」(43年起工)で、骨董品と言ってもよい代物です。


残る2隻はオランダのズヴァールトフィス級潜水艦を基にしてオランダで建造された「海龍」(82年起工、87年就役)と「海虎」(82年起工、88年就役)です。後者の海龍級潜水艦といえども40年以上前の設計構想(同レベルの潜水艦で、海上自衛隊が使用していた「うずしお」型潜水艦は、96年までに全て退役した)で、すでにかなり時代遅れの潜水艦となっています。


台湾海軍潜水艦「海獅」


このような骨董品ともいえるような台湾の潜水艦に、中国が神経を尖らすでしょうか。確かに、中国の対潜哨戒能力はかなり低いですから、台湾の旧式潜水艦でも脅威なのかもしれません。


ただ、よく考えてみれば、これは、日米等の潜水艦に対する牽制のつもりなのかもしれません。日米の潜水艦は、台湾付近はもとより、南シナ海へも巡航しています。


中国が台湾統一の強力なメッセージを発すれば、当然のことながら、日米の潜水艦は、台湾付近に潜み、人民解放軍の潜水艦の動きなどを監視しているはずです。というより、日米、それにロシアや他国の潜水艦など、台湾付近や南シナ海などに潜んでいるのは常態です。


潜水艦の情報などは、昔から発表しないのが普通であり、一般に知られていないのが普通です。そのため、中国としてもその動向、特に日米の動向を探るために、対潜哨戒機を派遣していると考えられます。


ただし、彼らが対潜哨戒機を台湾付近の海域に派遣したとしても、日本の潜水艦は彼らには発見できません。米国の原潜は、動き回れば、発見できる可能性があります。ただし、航行せずに潜んでいれば、発見できません。


ちなみに、原潜は乗組員の水や食料が尽きるまでは潜りつつけることができます。燃料は原子力ですから、無尽蔵と言ってもよく、酸素も作り出すことができます。ただ、原子力潜水艦は構造上どうしても騒音が出るのて、動いていれば、中国側も発見できる可能性があります。中国側はこれを狙っているのかもしれません。


中国軍は、日本の潜水艦隊が台湾を包囲してしまえば、自国軍の艦艇は台湾に近づくことができず、台湾統一は絶望的になります。だから、台湾有事に日本が参戦したり情報収集をすることを極度に恐れているのです。


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2021年7月14日水曜日

キューバの政府批判の大規模抗議デモ 米バイデン政権が支持―【私の論評】キューバ政府が民主的にデモを収拾できなければ、米・キューバ関係は改善されない(゚д゚)!

キューバの政府批判の大規模抗議デモ 米バイデン政権が支持


カリブ海の社会主義国、キューバで、経済の悪化などを背景に、政府に対する大規模な抗議デモが行われたことについて、アメリカのバイデン政権は支持を表明するとともに、多くの市民が不当に拘束されたとして、キューバ政府を非難しました。

キューバでは、経済の悪化に伴い食料不足や物価の高騰が問題となっていて、11日に各地で数千人が参加して、政府に対する抗議デモが行われました。

社会主義国のキューバで政府を批判するデモは異例で、現地の日本大使館によりますと、12日以降、首都ハバナ市内ではデモは行われていないものの、警察による警備が厳しくなり、国営の通信会社のインターネットもつながりにくくなっているということです。

抗議デモについて、アメリカのバイデン大統領は12日に「キューバ国民が普遍的な権利を主張することを強く支持する」と述べて、支持を表明しました。

また、アメリカ国務省のプライス報道官は13日に「キューバ政府は国民の声を封じ込めるためインターネットを遮断し、恣意的(しいてき)に多くのデモ参加者や活動家などを拘束した」と述べて、キューバ政府を非難しました。

一方、キューバのディアスカネル大統領は12日に、国民に向けたテレビ演説の中で「経済の悪化はアメリカの経済制裁によるものだ」と述べて、反発しています。

アメリカは2015年のオバマ政権時代に、キューバと54年ぶりに国交を回復しましたが、現在も経済制裁を続けています。

【私の論評】キューバ政府が民主的にデモを収拾できなければ、米・キューバ関係は改善されない(゚д゚)!

ドナルド・トランプ前大統領は12日にキューバのデモ抗議者に支持を表し、「彼らは恐れていない!」と声明で述べました。

「キューバとマイアミで共産主義キューバ政府に抗議する大きなデモが起こっている(現在キューバではデモ抗議者はゼロだという―それがどういう意味か分かるだろうが!)」とトランプは書きました。


第45代大統領は、キューバの人々の「自由のための戦いを100パーセント」支持すると続けました。

「政府は彼らに発言させ、自由にしなければならない!ジョー・バイデンは共産主義政権に立ち向かわなければならない―さもなければ歴史が記憶するだろう。キューバの人々は自由と人権を得てしかるべきだ!彼らは恐れていない!」

トランプはバラク・オバマ元大統領のことも追及し、カストロ家は「キューバの人々を投獄し、殴り、殺した」のにオバマは彼らと野球の試合に参加したと述べました。オバマは、キューバで行われた、キューバ代表チームとタンパベイ・レイズの間のMLB公開試合で、独裁者のラウル・カストロの隣に座りました。

トランプは、ジョー・バイデン大統領と民主党が自身の「キューバに対するとても厳しい姿勢」を覆す運動をしていたとも主張しました。

何千人ものデモ抗議者が12日にキューバ各地で行進し、同国の共産主義政権に対する不満と、基本的な必需品が得られないことへの不満を訴えました。キューバ人は報道によると32以上の都市でデモを行い、「自由!」「共産主義を倒せ!」また「祖国と生活(Patria y Vida)」と唱えました。




デモ抗議者は報道によると、食料、薬、ワクチンの提供と共産主義の終結を要求しました。

米国務省西半球局のジュリー・チャン次官補代理は、「自由」が叫ばれているにもかかわらず、デモはCOVID-19による感染と死亡に対するものだと主張しました。ロイターによると、以前キューバ市民は、4月のキューバ共産党議会の4日間の議会中にインターネット接続を遮断し、外出を禁止したとして共産党を非難しました。

報道によると、キューバのミゲル・ディアスカネル大統領はデモは米国のせいだと述べました。同大統領は、軍事介入を正当化するために「暴動を誘発」させようとして米国が意図的にキューバが生活必需品を得られないように制限したと主張した、とマイアミ・ヘラルドは報じました。

バイデン政権の対中南米政策で注目される国がキューバです。半世紀にわたる確執の後、バラク・オバマ政権はキューバとの外交関係を再開し、経済制裁を一部緩和するなど、両国の関係は雪解けを迎えたかにみえました。

2015年、米国とキューバは(キューバ革命後の)1961年以降断絶されていた外交関係を再開し、米国は対キューバ経済政策を一部緩和、2016年にはオバマ大統領がキューバを訪問して関係改善は大いに進んだのですが、トランプ政権はオバマ政権下の緩和措置を取り消し、キューバ軍関連企業との取引禁止、テロ支援国家の再指定等、制裁を強化して両国関係は一機に冷え込みました。

バイデン大統領は大統領選挙戦中からトランプ政権の対キューバ政策を撤回すると述べ、キューバもディアスカネル大統領が米国との建設的な関係への期待をツイートするなど関係改善が期待されていたましたが、バイデン政権発足後には米政府当局者が「対キューバ政策は最優先事項ではない」と述べる中、キューバの出方が注目される中4月には共産党大会が開催されました。

13年ぶりに開催された共産党大会

今次共産党大会の諸文書や演説では対米批判に多くが割かれました。ラウル第一書記の中央報告では33ページのうち7ページ強が対米批判に充てられ、ディアスカネル新第一書記は、米国の制裁が「人道に対する罪」であり「冷酷なジェノサイド政策」とまで評しています。

同時に「米国との間では、キューバが革命や社会主義の原則を放棄したり、主権と独立に反する譲歩をすることなく、、、相互に敬意を持った対話を進め、新しい関係を築きたい」(ラウル第一書記中央報告)として、関係改善には期待を表明しています。

対米批判と関係改善への期待という一見相反するメッセージは、キューバの発信手法としては珍しいことではありません。今回の共産党大会でも、キューバの体制や政策は変えるつもりはないが、米国からの「一方的な」歩み寄りを期待しているという趣旨でしょう。

共産党の世代交代とトップの禅譲という機微な事項を扱う党大会で、対米強硬姿勢を見せたのは当然とも言えるでしょう。

現在、トランプ政権下の制裁強化策は維持されたままです。その背景とされるのは米国内政事情です。2020年11月の選挙では最大のスイングステートであるフロリダ州において、キューバ系の反カストロ勢力が共和党躍進に一役買ったとされます。

連邦上院に議席を持つ3名のキューバ系議員は、共和党のルビオ、クルスのみならず、民主党のメネンデス上院外交委員長でさえ社会主義キューバに厳しい立場である等、2022年の中間選挙を控えるバイデン政権にとって、キューバとの関係改善は早急な成果が期待し難く内政上のコストが高い案件なのです。キューバも米国に対する歩み寄りの国内政治上のハードルは低くありません。

一方で、米国内にはリーヒー上院議員(民主党)を筆頭としてキューバとの関係改善を求めるグループもあり、キューバ系米国人の中にもキューバに残った親類を気遣う人も多いです。

何よりトランプ政権の対キューバ政策見直しはバイデン大統領の選挙公約です。キューバ側にしても、頼みの綱のベネズエラは依然混迷を続け、世銀もIMFも米州開発銀行(IDB)も支援が期待できず(キューバは加盟国ではない)、オバマ時代の関係改善によって観光増大、送金増加、諸外国からの投資機運の盛り上がり等で経済が上向いたことを覚えています。

双方とも、大きな国内の反発を呼ばないシナリオで、かつ適切なタイミングで関係改善に向けて歩を進めようとしていたようです。

第一歩を踏み出し易いのは、権力基盤の固まっていないキューバの新政権ではなく、米国側でした。タイミングの判断は難しいですが、人道的な措置、キューバの民主化に貢献する措置、技術的・事務的に対処できる措置は反発が少ないでしょう。

例えばキューバ系米国人からキューバの親類への送金制限撤廃、商業便の再開による親族訪問、オバマ時代に開始した政府間諸対話の再開、臨時代理大使に替えて本任大使の任命、さらに2万人/年の移住査証供与の再開等です。

一方キューバ側から米国に提供できる事は少ないですが、政治犯の釈放、革命時の接収資産補償交渉の開始等は、比較的ハードルが低いと思われます。とは言え、その第一歩の後も、キューバ側に抜本的な変革がない限り、関係改善は相当時間のかかるプロセスとなるとみられていました。

そうして、今回のデモ騒ぎです。バイデンとしては、国内の反キューバ派を意識して、バイデン政権はデモの支持を表明するとともに、多くの市民が不当に拘束されたとして、キューバ政府を非難せざるを得なかったのでしょう。

今後、キューバ政府が米国を納得させる形で、デモを収拾することができなければ、米・キューバ関係が改善されることはないでしょう。

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2021年7月13日火曜日

<社説>那覇市議選野党躍進 基盤揺らぐ「オール沖縄」―【私の論評】単純に米軍基地反対だけを唱えていれば、確実に「オール沖縄」は崩壊する(゚д゚)!

<社説>那覇市議選野党躍進 基盤揺らぐ「オール沖縄」

琉球新報

当選確実の報道を受け、支持者らと万歳三唱で喜ぶ外間有里氏(前列左から4人目)
=11日午後11時42分、那覇市安里の選挙事務所


 11日投開票の那覇市議選で、城間幹子那覇市長を支持する市政与党は現有より1議席減らした。一方の野党は5議席を増やし、躍進した。

 県都・那覇の市議会与野党構成は、県内の政治勢力の優劣を測る指標となる。今回の選挙は、秋の衆院選、特に那覇市を含む沖縄1区の情勢に与える影響は大きい。天王山に位置付けられる来年の知事選の行方を占う意味でも重要だ。このため各党・各派は前哨戦として、しのぎを削った。

 城間市長や支持勢力は名護市辺野古の新基地建設反対を一致点に結集する「オール沖縄」勢力の一角だ。「オール沖縄」にとって今回の結果は今後の選挙に向け、厳しいかじ取りが迫られる。一方、躍進した野党の自民・公明勢力にとっては弾みとなった。

 「オール沖縄」を率いる玉城デニー知事は選挙後、記者団に対し野党の躍進について野党系候補者数が多かったことを一因に挙げた。ただ「オール沖縄」勢力は候補者数に占める当選の割合も野党に劣る。現有議席を一つ減らした結果を真摯に受け止めるべきだ。次期衆院選に向けては、沖縄1区現職で共産党の赤嶺政賢氏を支援する同党の現職2人を落としたのは痛手だ。支持基盤が揺らぎかねない。

 議席を増やした自公勢力にも課題がある。沖縄1区では、自民党の現職国場幸之助氏と無所属現職の下地幹郎氏による保守分裂選挙になる可能性がある。下地氏側は自民党への復党を目指しているが、めどは立っていない。今回、下地氏が支援した立候補者5人のうち3人が当選し一定の勢力を保った。保守系同士の候補者調整の可否が情勢を左右しそうだ。

 市議選では20~40代の比較的若い候補が目立った。しかし投票率は50%を切り、46.4%と過去最低を更新した。新型コロナ感染症防止のための行動自粛が響いた面もあるだろう。ただ市長選や知事選、県議選などの各種選挙でも那覇市の投票率は軒並み下がり続け、低下に歯止めが掛からない。背景に政治不信があるとみられる。その払拭(ふっしょく)は与野党共通の大きな課題だ。

 一方、定数40のうち女性議員が9人から13人に増え、3割を超えたことは大きい。しかし社会の男女構成比と照らすとまだ少ない。男性議員も一緒になって男女平等社会の実現に取り組んでほしい。

 早稲田大マニフェスト研究所による2018年度議会改革調査で、回答した全国1447議会のうち那覇市議会は県内過去最高位の20位だった。情報公開や傍聴のしやすさ、議会基本条例制定などが評価された。当選した市議らはさらなる改革に挑み、市民の政治参加を促してほしい。

 秋の衆院選から来年にかけて注目選挙が続く。コロナ禍の出口が見えない中、有権者は、選挙での選択は私たちの暮らしや経済に直結することを再認識し、政治の場に意思を反映させたい。

【私の論評】単純に米軍基地反対だけを唱えていれば、確実に「オール沖縄」は崩壊する(゚д゚)!

那覇市議選の結果をメディアは殆ど報じません。上の記事も、沖縄地元紙「琉球新報」の記事です。これは、菅政権支持率低下という大手メディアの望む展開に水を差すからでしょう。

しかし、このようなことは本来大手メディアのやる事ではありません。沖縄の反日勢力が惨敗し野党が躍進するのは当然です。沖縄は中国の脅威を本土より強く認識できるからです。多くの沖縄県民が、不安を抱えていることでしょう。公明党には問題がありますが、与党は間違いなく玉城知事を追いつめているのです。

沖縄県では長きにわたり米軍基地を容認するか否かを軸に保守・革新が対立してきました。その沖縄県内で保革対立を乗り越えた枠組みをうたい、普天間飛行場の名護市辺野古への基地移設反対を旗印に、各種選挙で圧倒的な存在感を発揮してきたのが政治勢力「オール沖縄」です。

革新系や一部の保守系らが結集してきたが、近年、その支持層の柱となってきた県内経済界の重要人物が相次いで「オール沖縄」からの離脱を表明するなど、距離を置く動きを見せています。一体何が起こっているのでしょうか。


「オール沖縄」というキーワードは、2012年の米軍の新型輸送機オスプレイの沖縄配備や、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古移設に反対する保革を超えた政治勢力を指して使われてきました。その流れをつくり出したのは、翁長雄志・前沖縄県知事(故人)でした。

翁長氏自身は保守系の二世政治家で、自民党の那覇市議、沖縄県議、那覇市長(2000~14年。4期目途中で知事選に出馬し、知事に転身)を歴任しました。日米安保体制を支持する立場を取り、県議時代には普天間飛行場の辺野古移設推進を主張。当時の大田昌秀知事(故人)と激しく対立しました。

若くして自民党沖縄県連幹事長も務めるなど頭角を現し、県内保守政界の“エース”と目されました。 

大票田の那覇市での得票が結果を大きく左右する国政選挙や県知事選では、自民党から出馬する候補の選挙対策本部長を必ずと言っていいほど務めるなど、“キングメーカー”としても力を発揮しました。 

その翁長氏が、県内世論に耳を傾けずオスプレイ配備が強行されたことなどをきっかけに「イデオロギーよりアイデンティティ」を訴え始めたのです。 

この動きに県内の革新勢力のみならず、那覇市長時代から翁長氏を支えた一部保守系や経済界の重鎮らが呼応。14年の知事選では、前回知事選で自らが選対本部長を務め、再選した仲井眞弘多知事の対抗馬として出馬し圧勝しました。

その後、翁長氏を支えた勢力が「オール沖縄」として団結し、知事選挙や国政選挙で「辺野古移設反対」を訴える候補を擁立し、多くの選挙で圧勝し、現在にいたります。

翁長前沖縄致死

とはいえ、異なる勢力が結集しているゆえ、基地問題に関する反対の立場で一つになれても、それ以外で「オール沖縄」が統一的な政策を掲げているわけではありません。特定政党の主義主張が頭をもたげることもあり、それが亀裂を生じさせ、2018年ごろから表面化しました。

きっかけは、けん引役となってきた地元の著名な経済人が、翁長知事の支持団体「オール沖縄会議」から相次いで「離脱」すると表明したことです。 

その1人が、県内でスーパーや建設業などを展開する「金秀グループ」の呉屋守将(もりまさ)会長。翁長氏を全面的に支援する考えを打ち出し、県内の選挙にも積極的に関与してきました。

ところが、18年2月の名護市長選で、「オール沖縄」が支援した現職が政府与党の強力なバックアップを受けた新人に敗れたことを理由に、呉屋会長は「オール沖縄会議」の共同代表を辞任すると表明(18年3月)。辞任に際し、オール沖縄は「政党色が強くなりすぎた」と語りました。


「金秀グループ」の呉屋守将(もりまさ)会長

「オール沖縄」の退潮を印象づけたもう一つの出来事が、県内ホテル大手「かりゆしグループ」のオール沖縄会議からの脱会(18年4月)でした。オーナーの平良朝敬会長もまた、翁長氏を支援してきた代表的な沖縄の経済人。

「オール沖縄」を保守側から支えるシンボルだった呉屋、平良の両氏が距離を置いたことで、「オール沖縄」の革新色は強まったことは否めないです。対立してきた自民党内からは「オール沖縄にもはや実態はなく、共産党や社民党などでつくる革新共闘に過ぎない」(自民県議)とやゆする見方があります。

急逝した翁長氏の後を継いだ玉城デニー氏は18年9月の県知事選で、普天間飛行場がある宜野湾市長で、辺野古移設を容認した 佐喜眞淳氏に大勝。

また、「オール沖縄」の立場を掲げる国政野党の議員が多く当選していることからも分かるように、選挙における「オール沖縄」の影響力は健在です。県議会でもかろうじてですが、玉城知事を支える県政与党議員が多数を占める構成となっています。

沖縄県内の選挙は「自民・公明VSオール沖縄」の対決構図が定着し、米軍基地問題を背景に「政府VS沖縄県政」の代理戦争の様相を呈しています。この流れは当面続く見通しです。 

沖縄県内11市の首長選挙でも「オール沖縄」の影響力は地元メディアで盛んに取り上げられてはいます。21年2月の浦添市長選では「オール沖縄」を掲げる新人候補が大敗を喫し、三選を果たした現職を支援した自公を勢いづかせました。

ただその一方で、ここ3~4年の間、11市のうち9市を占めていた自公系の首長は21年5月現在6市に減り、「オール沖縄」の威勢が衰えたわけではないようてす。 

玉城知事の任期は折り返しを過ぎ、22年秋には県内政界の天王山たる知事選が予定されています。それまでの間、21年内に必ずある衆院選から22年1月の名護市長選をはじめとする県内の各市長選、次期参院選(22年7月)など、沖縄県内は選挙ラッシュとなります。単純に、米軍基地反対を唱えているだけでは、「オール沖縄」はいずれ崩壊するでしょう。

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2021年7月12日月曜日

中国で「今年最悪の洪水」…北京では「休校令」・航空便は「500便の欠航」―【私の論評】食料を海外から円滑に調達できなくなった中国に、危機迫る(゚д゚)!

中国で「今年最悪の洪水」…北京では「休校令」・航空便は「500便の欠航」


中国・北京で 今年最大規模の大雨が降ることが予想されていることから、都市が非常事態となった。


今日(12日)中国官営CCTV(中国中央テレビ)などによると、北京の気象当局は 11日の午後5時から13日の午前8時までに 豪雨が降るものと予測し、黄色警報(4段階のうちの下からレベル2)を発令した。北京市は累積60ミリから100ミリの雨が降り、一部の地域では 200ミリから300ミリの大雨が降るものと予想されている。 

このことにより 北京の空港は、計500便ちかくの航空便が欠航となった。この日の前まで北京の首都空港では 285便の航空便が欠航となり、その後も航空便が調整されている。北京の都心から南に遠く位置する北京の大興国際空港では、156便の航空便が欠航となった。 

また 北京市内の幼稚園・小学校・中学校などにも、全て休校令が発令された。

会社は弾力的な勤務が適用され、万里の長城をはじめとした144の観光地も 全て閉鎖された。

 一方 北京だけでなく、天津・河北・内モンゴルなどの周辺地域でも 豪雨に備えている。

 中国西部の四川省では、すでに洪水被害が起きている。11日午前10時基準で、四川省では 約59万人の被害者が発生し、11万人ちかい住民たちが避難している。

 直接的な経済的損失だけでも、17億7400万人民元(約301億8200万円)に達している。

【私の論評】食料を海外から円滑に調達できなくなった中国に、危機迫る(゚д゚)!

中国は、洪水が続いていますが、ここまでの水害となると、やはり心配は食料です。その中でも、中国人の主食であるコメの生産はどうなっているのでしょうか。

中国の主要穀物(コメ、小麦、大豆、トウモロコシ)の生産地の重心は北方地域にありますが、コメに限っていえば、生産の中心は南方地域にあります。水稲の作付け面積は南方地域が全国の8割、長江流域だけで6割を占めます。中国ではコメの3毛作が一般的であるが、昨年は3回の生産サイクルのすべてで豪雨による被害を受けました。


中国政府が今年1月に発表した報告書によれば、昨年南部地域は1998年以来最も深刻な増水に遭遇し、農作物の被災面積は約1996万ヘクタールに達したといいます。その被害規模は中国の全耕地面積(約1億3486万ヘクタール、2017年時点)の約15%に相当する甚大なものでした。

「長江流域がこれだけの自然災害を被ればコメ不足に陥るのは必至である」と判断する向きが少なくなかったのですが、予想に反して中国政府は「全国レベルで引き続きコメの供給は順調だった」と総括しています。

中国政府が講じたコメ対策は、(1)増産、(2)食品ロスの削減、(3)備蓄米の放出、(4)海外からの緊急輸入などです。

まず増産だが、中国政府は四川省や湖北省などの農家に補助金を支払って果樹からコメへの作物転換を促しました。しかし農民が政府の増産の呼びかけに応じたかどうかについては疑問符がついています。

近年、農民の間で農業に対する意欲が減退しているからです。この傾向は特に若い世代に顕著であり、膨大な面積の耕作放棄地が各地に広がっています。土壌汚染の深刻化により、基準値以上のカドミウムを含むコメが全国に大量に出回っているという問題もあります。

このような状況から「農民に土地所有権を与え、都市住民と同じ権利・福祉を付与しない限り、解決できない難題である」との認識が強まっています。

次に食品ロスの削減ですが、長江地域の洪水被害が生じた昨年8月から習近平指導部は食品ロスのキャンペーンを実施しました。効果のほどは定かではないですが、中国で1年に出る残飯の量は3000万~5000万人分の1年間の食料に相当するといいます。

食べ残し防止のスローガンが貼られた中国の飲食店

さらに備蓄米の放出ですが、中国政府は昨年8月、360万トンの備蓄米を市場に放出しました。安全保障上の理由で中国の国家の穀物備蓄量は公表されていません。

最後に、海外からの緊急輸入ですが、昨年12月、中国は世界最大のコメ輸出国であるインドから10万トンのコメを輸入する契約に調印しました。中国はタイやパキスタンなどからコメを輸入しているが、コメの自給率は95%を維持しているとされています。

中国は2005年に主要穀物の世界最大の輸入国となりましたが、国民のメシ(主食用穀物)であるコメについては「絶対的に自給する」と政府は宣言しています。主食用穀物の絶対的自給を確保できなければ、他の食料の輸入が脅かされた場合、国内での飢餓などの混乱を回避できないと考えているからです。

毛沢東

「毛沢東時代に使用した食料配給切符が一部地域で復活するのではないか」と危惧されていたのですが、昨年の大水害はなんとか乗り切りました。しかし、今年も同様の被害が出るのであれば、中国政府が公約する「コメの絶対的自給」に赤信号が灯る可能性があります。

中国はこれまで外国からの円滑な食糧調達を期待できましたが、米中対立の激化など国際環境が変動するなか、未曾有の危機を乗り切ることができるのでしょうか。

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2021年7月11日日曜日

世界で拡大するウイグル問題 太陽光パネルの価格も上昇中…影響を過小評価すべきでない ―【私の論評】日米に先行され、稼ぎ頭を失いそうな中国の小型原発開発(゚д゚)!

世界で拡大するウイグル問題 太陽光パネルの価格も上昇中…影響を過小評価すべきでない 

高橋洋一 日本の解き方

豪雨の影響でパネルが地面ごとずり落ちた太陽光発電所=2018年7月26日兵庫県姫路市

 新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐり、米国が中国の太陽光パネルの部品を輸入禁止とした。またフランスの捜査当局はウイグルの強制労働の疑いでユニクロなど衣料品企業の捜査を始めたと報じられている。欧米のこうした動きはどこまで本気なのか。日本はどう対応すべきだろうか。

 今回の動向はやはり米国の影響が大きい。トランプ前政権では、対中姿勢は強硬だったが、連携がなかった欧州は対中姿勢では同調しなかった。しかし、バイデン政権になって、欧州との協調路線が明確になるとともに、対中姿勢でも欧米は徐々に強硬姿勢に転じている。おそらく来年2月の北京冬季五輪まで、人権問題はうってつけの理由となるし、中国は対抗措置を取りにくいので、今の流れは続くだろう。

 フランスで捜査対象になったのは、ユニクロの他、スペイン、フランス、米国のアパレルメーカーだ。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が2020年3月に発表した報告書では、82社がウイグルの人権を侵害する現地企業と取引をしていた。今回捜査対象になったのは、その中の4社であり、NGOが提訴したものだ。

 こうした訴えは、フランス以外でも起こり得るだろう。

 太陽光パネルについては、バイデン政権が21年5月、強制労働を利用した疑いで中国製パネルを貿易制裁の対象製品に指定するか検討していると明らかにしたが、その結果、バイデン政権として大規模な禁輸措置になった。欧州でも中国製パネルを問題視する声がでており、この動きも欧州に広がる可能性がある。

 問題は、太陽光パネルの主原料であるシリコンは、ウイグル地区で生産されたものが世界の5割程度を占めていることだ。短期的には、代替地を確保するのが困難だ。そのため、シリコン価格は1年間で5倍近くに高騰。パネル価格も3~4割上がった。

 もっとも、この価格の動向は歓迎すべきだろう。というのは、これまでの太陽光発電は安価な中国製パネルで支えられて、必要以上に推奨されてきているとも言えるのだ。

 中国製が安価なのは中国政府の補助金のためだといわれてきたが、それも不公正で問題だが、ウイグルでの労働搾取でもあれば、それは人権問題からも容認できなくなるだろう。

 パネル価格は、そうした懸念のシグナルと見た方がいい。となると、脱炭素戦略としては、(1)太陽光などの再生可能エネルギー(2)既存火力の炭素ガス除去(3)安全な原発と3つに大別できる。安価な中国製パネルを前提として、(2)と(3)は消極的扱いだったが、もはや(2)と(3)も積極的選択肢になりうる。

 本コラムでは、安全な小型原子炉を紹介してきたが、エネルギー戦略として、ますます有望になっていくのではないだろうか。

 ウイグル問題は、各分野にさまざまな波及があるので、その影響を過小評価しない方がいい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日米に先行され、稼ぎ頭を失いそうな中国の小型原発開発(゚д゚)!

このブログにも以前掲載したように、太陽光発電業界の中国強制労働への依存がバイデンのクリーンエネルギー経済を脅かすことが懸念されていましたが、バイデン政権は太陽発電によるクリーンエネルギーに固執する考えはないようです。

それはなぜかといえば、バイデン政権は安全な小型原子炉を、クリーンエネルギー戦略の中心として位置づけたからだと考えられます。そもそも、いわゆる代替エネルキーとされる、風力発電、太陽光発電はあまりに不安定で、現在までの開発経緯から何かとてつもない突破口が見つからい限り、次世代を担うエネルギーになることは、考えられません。

特に、太陽光発電のネガティブな点は、以下の記事をご覧になってください。
太陽光発電業界の中国強制労働への依存がバイデンのクリーンエネルギー経済を脅かす―【私の論評】日米ともに太陽光発電は、エネルギー政策でも、安全保障上も下策中の下策(゚д゚)!
太陽光パネルの上に横たわる女性

この記事では、太陽光発電がクリーン・エネルギーとは呼べないし、結果として、ウイグル人のブラック労働に依存することになることを述べました。まさに、太陽光発電は、発電手段としては、下の下です。先にも述べたように、当初懸念していた、バイデン政権は太陽光発電への依存はしないようです。これは、冷静に考えれば、当然といえば当然です。

小型原子炉についても、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日米首脳共同声明で追い詰められた中国が、どうしても潰したい「ある議論」―【私の論評】小型原発を輸出しようという、中国の目論見は日米により挫かれつつあり(゚д゚)!

         小型モジュール炉「NuScale Power Module」
     高さ約23×直径約4.6m。加圧水型炉(PWR)を構成する圧力容器や蒸気発生器、加圧器など
     を1つのモジュールに収めている。(出所:米NuScale Power)


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まずはこの記事から小型原子炉に関する部分を以下に引用します。

菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を掲げたことを受け、経済産業省は20年12月25日にその具体的な産業施策として「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を公表した。

その中で注目されるのが新型炉です。具体的には、[1]小型モジュール炉(SMR)、[2]高温ガス炉(HTGR)、そして[3]核融合炉、です。経済産業省は20年12月、カーボンニュートラルを実現するにあたって、既存の原子力発電所の再稼働と並行し、これら3つの新型炉の開発を推進するとしました。

3つの新型炉のうち、最も開発が進んでいるのが[1]小型モジュール炉(SMR)です。これは、文字通り小型の原子炉にモジュール化の発想を取り入れたもので、使い勝手がよく安全性も高いとされています。

小型モジュール炉についての詳細はこの記事をご覧になってください。 

さて、この小型モジュール炉の優れた点は、使い勝手の良さや安全性が高いだけではなく、他にも大きなメリットがあります。それは、工場で大部分を製造し、現場では据え付けだけですむということがあります。

既存の原発で主流の軽水炉は大型化が進み、1基当たりの出力が100万キロワット以上が主流なのに対し、数万~数十万キロワットと小さいのですが、原子炉の容積に対する表面積が大きく、原子炉を冷却しやすいのが特徴です。

プレハブ住宅のように、主要機器を事前に工場で製造してから現地で据え付けるため、初期投資抑制や工期短縮が可能です。建設費が1兆円を超えることも珍しくない軽水炉に対し、数分の一で済むようです。

安定的に発電できるため、天候に発電量が左右されがちな再生可能エネルギーにとって変わることが期待されるほか、比較的狭い地域ごとに発電所が散在する形が想定されており、万一の事故の影響も少ないとされます。

無論モジュール一個だけでは、発電量は少ないのですが、それは、このモジュールの数を増やすということで、増やすことができます。ただ、従来軽水炉のように、かなり広い地域に送電するのではなく、比較的限られた地域に送電することが想定されていますから、一箇所で多数のモジュールで発電することはないと考えられます。

この小型モジュール原子炉は、輸送もしやすいです。工場でほとんどを組みたて、船で運び現地で設置するという方式が考えられます。これだと、従来よりかなり簡単に運ぶことができます。現地での複雑な組立作業も必要がないので、原子力発電所の工期も以前より、格段に短くなります。

日立GEニュークリア・エナジー社と米国GE Hitachi Nuclear Energy社はSMRであるBWRX-300を開発中です。同社は、原子力発電所の設計・製造経験と、さまざまな製品のモジュール製造経験が豊富で、その経験を活かした原子力イノベーションを進めています。米国でBWRX-300初号機の建設をめざして、米国原子力規制委員会にはすでに安全審査項目に関する技術レポートを提出しています。また、カナダでの建設も視野に入れ、カナダ原子力安全委員会でも審査を開始しています。

従来型の巨大原子力発電所は時代遅れになる

中国は、これを強力に推進しようとしているようです。一つは、たとえば南シナ海に小型モジュール原子炉を積んだ船舶を派遣して、南シナ海の中国の環礁を埋め立てた地域の軍事基地などへの電力の供給に用いようとしています。

さらに、一帯一路の一環として、対象地域にこの原子炉を輸出しようと考えているようです。ただし、この計画いまのところは、スムーズには進んではいないようです。

中国の原子力開発を担う国有企業、中国核工業集団(CNNC)は3月19日、国産原子炉「華龍1号(Hualong One)」を採用したパキスタン・カラチ原発2号機が送電網に接続されたと発表しました。中国が初めて海外に輸出した原子炉が稼働することで、同国の原子力業界の海外進出が加速しようとしているようです。

原発は大きなビジネスとなるだけでなく、輸出相手国に大きな存在感を示すことができます。国の成長を支えるエネルギーを保証することで、政治的な結び付きの強化や国民の対中感情向上につながる可能性もあります。

華龍1号は英国ブラッドウェルB原発建設プロジェクトへの採用も決まっており、年内中にも設計承認確認書が発給されるとみられています。原発輸出が順調に進めば、中国の国際的影響力も高まっていきそうです。

ただ、そこに伏兵が現れたのです。先に中国は小型モジュール原子炉を開発を進めているのに、開発はスムーズには進んでいないことを掲載しました。

実は、これを最初に実用化しそうなのは、米国なのです。米国がこれの開発に成功して、世界中に輸出するようになれば、中国の出る幕はなくなります。中国にとっては、大きな稼ぎ頭がなくなってしまうのです。

しかも、実は日本もこの方向に進むと見られています。バイデン政権を見越して、米大統領選の直前の昨年10月26日、菅政権はギリギリのタイミングで「2050年カーボンニュートラル」を打ち出しました。それを受けて、経済産業省は12月25日、カーボンニュートラルを実現するにあたって、既存の原子力発電所の再稼働と並行し、新型原子炉の開発を推進するとしたのです。

日米欧どこでも、再生エネルギーには現状ではあまり多くを頼れません。あまりに不安定ですし、発電効率が絶望的に低いからです。主力は原発と火力にならざるをえません。カーボンニュートラルのためには火力で生じるCO2を回収・貯留する必要がありコスト高にならざるを得ません。となると、やはり原発が必要です。

といっても、従来の大型原発の再稼働も政治的に難しく、新設は事実上不可能に近いので、いずれ減らしていかざるを得ないです。その場合、カーボンニュートラルで、より安全な小型原子炉の開発が大きなカギを握ることになるのです。

日米が、小型モジュール原子炉に先行すれば、一帯一路で失敗ばかりしている中国は、最後の稼ぎ頭を奪われることになります。


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2021年7月10日土曜日

米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを―【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!

米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを

9カ月間のアフガン派遣から帰国し、荷物を降ろす米兵(2020年12月、ニューヨーク州フォートドラム)

 米軍のアフガニスタンからの撤収完了を前にイスラム原理主義勢力タリバンの政府軍への攻撃が勢いを増しており、大きな不安を禁じ得ない。

米軍は20年にわたり拠点を置き、政府を支え、治安を守ってきた。撤収はアフガン国内のみならず、中央アジアを含む地域全体、あるいは世界を巻き込んだテロとの戦い全般に影響を及ぼさずにはおかない。

重大な岐路にあると認識すべきだ。アフガンがかつてのような内戦状況に陥り、「テロの温床」となる事態は絶対に避けたい。

米国は急ぎ、周辺国の協力を得て、バグラム空軍基地に代わる出撃拠点の確保など、いざというときの態勢を整えなければならない。日本を含む国際社会は、アフガンへの変わらぬ支援を表明し、関与の継続を明確にすべきだ。

バイデン米大統領は今年4月、米中枢同時テロから20年の9月11日までに撤収すると表明し、すでに9割以上が作業を終えた。

一方、タリバンは北部を中心に着実に支配地を拡大させ、劣勢に立たされた政府軍は1000人を超える兵士が国境を越え、タジキスタンに逃げる事態になった。

気がかりなのは、米軍撤収が早めのペースで着々と進められていることだ。内戦や政府崩壊を危惧する声も上がる中、慎重さを欠くのではないか。タリバンの攻勢に歯止めをかける必要がある。撤収がトランプ米前政権とタリバンとの合意に沿ったものとはいえ、「人権外交」を掲げるバイデン政権が、住民に厳しい規律を押しつけるタリバンとの合意を進めようとする姿勢に違和感を覚える。

バイデン氏は撤収表明の際、「中国との競争」に言及し、撤収で生まれる余力を対中国シフトに振り向ける考えを強調した。

その発想は正しいが、危うさもはらんでいる。撤収後のアフガンが混乱し、再度、本格介入を迫られれば、元も子もないからだ。

米軍不在となるアフガンには、中国、ロシアも無関心ではいられまい。中国は過激派流入を警戒する一方、アフガンを「一帯一路」の中核地域とみている。アフガンの北の中央アジア5カ国はロシアが「勢力圏」とみなす。

アフガンに介入するなら、この国の安定とテロとの戦いへの貢献につながるものでなくてはならない。やみくもに影響力拡大を競うなどもってのほかだ。

【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!

超大国がアフガニスタンで苦杯を喫するのは米国が初めてではありません。米国と入れ替わるようにアフガニスタンを去った旧ソ連は、親ソ政権擁護のために1979年から10年間駐留したましたが、武装勢力ムジャヒディーンの抵抗で1万4000人以上の戦死者を出し、ソ連崩壊の原因の一つにもなりました。

 それ以前に英国も、帝国全盛時代の19世紀から20世紀初めにかけて三次にわたりアフガニスタンで戦いましたが、1842年にはカブール撤退で1万6000人が全滅させられました。その後シンガポールで日本軍に敗北するまで「英軍最悪の惨事」と言われていましたた。

 こうしたことから、アフガニスタンは「帝国の墓場(Graveyard of Empires)」と呼ばれるようになり、米国もその墓場に入ったのですが撤退を余儀なくさせらました。

最貧国にあげられるこの国がなぜ超大国を屈服させられるのでしょうか。まず、国土の四分の三が「ヒンドゥー・クシュ」系の高い山で、超大国得意の機動部隊の出番がありません。ちなみに「ヒンドゥー・クシュ」とは「インド人殺し」の意味で、この山系を超えるインド人の遭難者が多かったことによるものとされています。

アフガニスタン ヒンドゥー・シュク山脈

 次に、古くは古代ギリシャのアレクサンドロス大王やモンゴルのチンギスハーン、ティムールなどの侵略を受けて、国民が征服者に対して「面従腹背」で対応することに慣れていることです。

 さらに、アフガニスタン人と言っても主なパシュトゥーン人は45%に過ぎず、数多くの民族がそれぞれの言語を使っているので、征服者がまとめて国を収めるのはもともと無理なことが挙げられます。

この国を征服しようとした超大国は、なす術もなくこの国を去ることになったわけですが、この後もアフガニスタンを自らのものにしようという帝国が現れるのでしょうか。

 一つ考えられるのが中国でしょう。中国が米軍撤収完了後のアフガニスタン安定化に向け、関与を深める姿勢を見せています。アフガンが「テロリストの温床」と化せば、隣接する新疆(しんきょう)ウイグル自治区への中国による弾圧に影響を与えかねないことなどが、その理由です。米軍撤収による混乱拡大を最小限に抑えるため、イスラム原理主義勢力タリバンを支援するとの観測も上がっています。

「中国は地域の国や国際社会とともに、アフガン内部の交渉や平和再建を推進するために積極的に努力したい」。中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は8日の記者会見でアフガン情勢についてこう語り、安定化に向けて関与する意向を強調しました。

6月3日には王毅国務委員兼外相がアフガンとパキスタンの外相とオンライン会合を開催。「3カ国は意思疎通と協力を強化し、共通の利益に合致する方向へ情勢を進める必要がある」との考えを示しました。

古くはシルクロードの拠点だったアフガニスタンは、今中国が推し進めている「一帯一路」でも要地と位置付けるからです。 米国が去った後のアフガニスタンの空白を中国が埋めようとするかもしれないですが、おそらく「帝国の墓場」入りを避けることはできないでしょう。


さらに、中国は英国や米国とは異なり、新疆ウイグル自治区を介して国境を接しています。崩壊したソ連もこの状況に似ていました。

現在のロシアは、アフガニスタンと国境を直接接していませんが、当時のソ連は、連邦に加盟していた中央アジアの国々を介してアフガニスタンと接していました。


1979年、ソ連のブレジネフ政権が、親ソ政権を支援し、イスラーム原理主義ゲリラを抑えるために侵攻しました。反発した西側諸国の多くはモスクワ=オリンピックをボイコットしました。経済の停滞するソ連でも大きな問題となり、ソ連崩壊の一因となりました。

ソ連軍に対しイスラーム原理主義系のゲリラ組織は激しく抵抗、ソ連軍の駐留は10年に及んで泥沼化し、失敗しました。

ソ連のアフガニスタン侵攻に米国など西側諸国が反発し、70年代の緊張緩和(デタント)が終わって新冷戦といわれる対立に戻りました。これを機にソ連の権威が大きく揺らいで、ソ連崩壊の基点となりました。 

当時はソ連のアフガニスタン侵攻の理由は明確にはされず、諸説あったが、現在では次の2点とされています。

まず第一は、共産政権の維持のためです。アフガニスタンのアミン軍事政権が独裁化し、ソ連系の共産主義者排除を図ったことへの危機感をもちました。ソ連が直接介入に踏み切った口実は、1978年に締結した両国の善隣友好条約であり、またかつてチェコ事件(1968年)に介入したときに打ち出したブレジネフ=ドクトリン(制限主権論)でしたた。

第二位は、イスラーム民族運動の抑圧のためです。同年、隣国イランでイラン革命が勃発、イスラーム民族運動が活発になっており、イスラーム政権が成立すると、他のソ連邦内のイスラーム系諸民族にソ連からの離脱運動が強まる恐れがありました。

現在の中国も似たような状況に追い込まれることは、十分に考えられます。アフガニスタンのイスラーム過激派などに呼応して新疆ウイグル自治区の独立運動が起きる可能性もあります。

それに影響されて、チベット自治区、モンゴル自治区も独立運動が起きる可能性もあります。そうなると、中国はかつてのソ連や、米国のようにアフガニスタンに軍事介入をすることも予想されます。そうなれば、かつてのソ連や米国のように、中国の介入も泥沼化して、軍事的にも経済的にも衰退し、体制崩壊につながる可能性もあります。

意外と、トランプ氏はそのことを見越していたのかもしれません。米軍がこれ以上アフガニスタンに駐留をし続けていても、勝利を得られる確証は全くないのは確実ですし、そのために米軍将兵を犠牲にし続けることは得策ではないと考えたのでしょう。

さら、米軍アフガニスタン撤退を決めたトランプ氏は、中国と対峙を最優先にすべきであると考え、米軍のアフガニスタン撤退後には、その時々で中国に敵対し、中国を衰退させる方向に向かわせる勢力に支援をすることに切り替えたのでしょう。バイデン氏もそれを引き継いだのでしょう。誰が考えても、米軍がアフガニスタンに駐留し続けることは得策ではありません。

今後米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直すことになると思います。その先駆けが、米軍のアフガニスタン撤退です。

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