2020年3月26日木曜日

国際的にも異常!財務省をサポートする「使えない学者」たち 震災でもコロナでも増税路線 マスコミも「アメ」与えられ…情けない日本の現状 ―【私の論評】異次元の積極財政と金融緩和を迅速に実行し、増税・コロナによるダブルパンチ不況をいち早く抜け出すべき(゚д゚)!

高橋洋一 日本の解き方


 新型コロナウイルスによる景気後退がいよいよ現実のものになってきた。欧米では外出禁止などの行動制限や規制が行われ、実体経済がどんどん縮小しており、2008年のリーマン・ショック級になりつつある。

 米国では、200兆円規模の経済対策が検討されようとしている。しかし、日本では消費回復の起爆剤になる消費減税を有力政治家が否定している。その背後には財務省がいるからだ。

 財務省には、実は多くのサポーターがいる。それらは、学者、マスコミと財界だ。

 一部の経済学者が、コロナ・ショック対策として経済政策を発表した。提言では、消費増税による悪影響がまったく言及されず、消費減税は完全に否定されていた。経済政策の提言としてはまったくお粗末だといわざるをえない。

 しかし、提言者の名前を見ると納得する。11年の東日本大震災後の復興増税から、昨年10月の消費増税まで、増税一本やりの人たちだったのだ。

 本来、大震災のような500年に1度の危機の際には超長期国債で対応し増税しないというのは基本中の基本だ。日本の復興増税のような悪手は、古今東西でほぼ見当たらない。

 今回のコロナ・ショックは、リーマン・ショック級のインパクトを経済に与える。各国の政策担当者は、そうした認識だろう。

 そうした学者たちを持ち上げ、財務省の宣伝記事をしばしば書くのが日本の大半のマスコミだ。日本の財政事情が悪くないのに財政再建の必要性をたれ流し、減税政策にも否定的だ。

 日本の場合、日刊新聞紙法により新聞社の株式には譲渡制限があるので、新聞社を中核としてマスコミグループが形成されるケースが多い。財務省はその新聞社に消費税の軽減税率という「アメ」を与えた。このため、新聞業界は消費減税に賛成と言いにくい事情があるのだろう。

 経済界も、消費増税の代わりに法人税の減税を主張する財務省を支持している。また、社会保障の充実のためには、社会保険料負担が不可避であるが、財務省は企業にも負担が及ぶ社会保険料ではなく、消費者に負担が及ぶ消費税を推してくれている。そこで財界も目先の利益のために、財務省支持になっているのだと思われる。

 このように、財務省は、学者、マスコミと財界の支持を得て緊縮財政を行っているので、政治家としても簡単には財務省に反対できない。

 マスコミと財界が自分の利益で行動するのはどこの世界でもある話だが、それにしても日本の学者の体たらくぶりは、国際的にみてもちょっと尋常ではない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】異次元の積極財政と金融緩和を迅速に実行し、増税・コロナによるダブルパンチ不況をいち早く抜け出すべき(゚д゚)!

3月14日夕、安倍晋三首相は首相官邸で開いた記者会見で声を張り上げた

「現在はあくまで感染拡大の防止が最優先ですが、その後は日本経済を再び確かな成長軌道へ戻し、皆さんの活気あふれる笑顔を取り戻すため、一気呵成かせいにこれまでにない発想で思い切った措置を講じてまいります。その具体的な方策を政府・与党の総力を挙げて練り上げて参ります」

3月14日夕、安倍晋三首相は首相官邸で開いた記者会見で声を張り上げました。今の経済状況は極めて深刻です。会見から3日後の17日には日経平均株価(225種)の終値は1万7000円レベルでした。既に「危険水域」を突破しており、大胆な経済対策は待ったなしの状態です。

本来であれば新年度予算案の国会審議が続いている時に追加経済対策や補正予算の議論をするのはタブーだったかもしれません。野党側から「ならば本予算案を組み替えればいい」と横やりを入れられて予算案審議がストップする恐れがあるからです。しかし、今は、そんな悠長なことは言っていられない状況です。野党も審議を拒否すれば、自分たちに批判が集まることを知っているでしょう。

現段階で経済対策の柱として語られているのは、キャッシュレス決済時のポイント還元の延長・拡充や、子育て世帯などへの現金給付などがあります。ところが、これらはいずれも「想定の範囲内」の対策です。特に「ポイント還元」については、昨年10月に消費税率が10%に上がった際の景気冷え込み策と目されていたが、その期待を見事に裏切ったことは実証済みです。今は「異次元」の対応が求められているのです。

そこで浮上したのが消費税減税論でした。消費税は1989年に導入されて以来、約30年の間に3%、5%、8%、10%と税率が上がってきました。1度も下がっていません。

それは、財務省が消費税減税に絶対反対の立場を貫き、多くの自民党議員も財務省に同調するだけではなく、上の記事にもある通り、多くの経済学者やマスコミまでが同調しているからです。

財務省は、少子高齢化が進み社会保障費の増大が避けられない状態の中、安定的な税源である消費税は、税率を上げる議論をすることはあっても、下げる議論はあり得ないかのごとく、世論を操作し、実際世論はその方向に動きました。この議論に反対するのは、少数派という状況になっていました。

財務省にとっては、消費税は税率を上げる際、大変な政治的エネルギーを費やしてきました。1度下げると、再び上げるのは途方もない苦労がいる。それは回避したかったのでしょう。

破綻した山形県の老舗百貨店、大沼。コロナショックは構造不況業種の百貨店の淘汰も加速させる

しかし、それが許されたというか、なんとか財務省が抑えつけられたのは、コロナショック前のことです。それにしても、10%増税後の景気の落ち込みは酷く、内閣府が9日発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比1.8%減、年率換算では7.1%減でした。

昨年10月の消費税の10%増税に対処するため、ポイント還元制度などを導入したのですが、これらは全く何の役にもたたかなかったことが実証されたのです。

それに、今回のコロナウイルスによる打撃は、リーマンショック以上といわれるのですから、消費税減税もタブーとせずに議論すべきなのです。

そうして、無論そのような動きは自民党の中でも起こりました。自民党の安藤裕衆院議員ら若手有志は11日、西村康稔経済再生担当相と面会し「消費税は当分の間軽減税率を0%とし、全品目に適用する」よう提案しました。形式的には軽減税率の拡大だが、実質的には「消費税を0%にする」という意味になります。

「消費税0%」は、昨年の参院選、れいわ新選組の山本太郎代表が主張したことで知られています。当時は他の野党でも荒唐無稽と受け止められたものです。しかし新型コロナ問題が起きてからはにわかに現実味を帯びてきました。

安藤氏ら以外にも、自民党若手・中堅を中心に消費税率の一時引き下げ論が高まっていました。

安倍総理は14日の会見で消費税減税について問われ「自民党の若手有志の皆さまからも、この際、消費税について思い切った対策を採るべきだという提言もいただいている。今回(昨年10月)の消費税引き上げは全世代型社会保障制度へと展開するための必要な措置ではあったが、今、経済への影響が相当ある。こうした提言も踏まえながら、十分な政策を間髪を入れずに講じていきたい」と発言。わざわざ若手の提言を口にして思わせぶりなことを語りました。

安倍総理はもともと財務省の「増税史観」に懐疑的で、消費税率アップを先送る決断も二度経験済みです。自民党内では消費税増税には最も慎重な考えの1人ともいえます。もし、昨年の今ごろ「新型コロナ」がまん延していたら、昨年10月の「消費税10%」は先送りしていたかもしれません。であれば、時限的に8%に戻す選択をしてもおかしくないです。

ところが、麻生太郎財務相は19日の閣議後記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気対策として浮上する消費税減税論について「現段階で消費税を考えているわけではない」と述べました。国民に現金を配る「現金給付」についても「今の段階で検討しているわけではない」と否定的な考えを示しました。

麻生財務大臣 19日日閣僚会議記者会見で

3月前半に大型経済対策の検討が伝わると、真っ先に動いたのは財務省でした。消費喚起策として、消費税率を5%程度に引き下げるべきとの主張が与野党の一部から出始めたため、その火消しに回ったのです。

消費税率引き下げについては、自民党の岸田文雄政調会長らも慎重な姿勢です。財務省の火消し作業は官邸や与党内で一定の成果を上げており、消費減税の可能性はかなり低くなってしまいました。

ただ、安倍首相は経済対策の考え方として「前例にとらわれた対応では、前例なき危機に対応できない」という言葉を繰り返しており、それが財務省との駆け引き材料として使われているようです。安倍首相は消費減税の可能性は排除していません。

そこで、消費減税に代わる経済対策案の目玉として浮上したのが、財務省自身も否定しない現金給付案です。目下の議論では、リーマンショック後の2009年4月の経済対策で配った1人当たり1.2万円(子どもと高齢者は2万円)を大幅に上回るのは確実です。最大で国民1人当たり10万円とする案が出ています。

しかし、これは明らかに財務省の政治的越権行為です。いつの間にか、消費減税と給付金が財務省の中でいずれをとるかの選択肢となっています。

これに沿った論評をする経済学者もでてきました。たとえば、Yahooニュースにもでていた、以下の記事です。
新型コロナショックに対しては、生活下支えが目的なら給付金、景気浮揚なら消費税減税が望ましい
詳細は、この記事を読んでいただくものとして、この記事で著者は、経済対策の選択肢とそのシミレーションをあげ、以下のような結論を述べています。
このように、消費税減税が得になるか、給付金の支給が得になるかは、その人が置かれた所得水準やライフステージに依存することが分かります。つまり、誰もが納得する所得支持策はないのです。 
強いて言えば、低所得層や子育て世帯の生活底上げを目指すのであれば給付金の支給が望ましく、景気の底上げを目指すのであれば高所得階層に有利な消費税減税が望ましい、ということになるでしょうか。 
蛇足ながら付け加えれば、金持ちに給付金を渡すぐらいなら消費税減税の方が望ましいという意見も一部に見られますが、実際には消費税減税の方がお金持ち有利な政策であるということが明らかになります。
現状は、コロナによる経済の大停滞と未曾有の危機であり、かつ、消費税増税で景気が低迷しているわけですから、低所得層や子育て世帯の生活底上げを目指す給付金の支給と景気の底上げを目指す、消費税減税の両方を目指すべきなのです。

財源は、国債を大量に発行すれば良いだけです。これは、以前もこのブログに掲載したように、現状の日本では将来世代のつけにはなりません。それについては、以前のブログに掲載したことがあります。
政府、赤字国債3年ぶり増発へ 10兆補正求める与党も容認見込み―【私の論評】マイナス金利の現時点で、赤字国債発行をためらうな!発行しまくって100兆円基金を創設せよ(゚д゚)!

詳細は、このブログをご覧いただくものとして、この記事では、「国債は将来世代のつけにはならない」というラーナーの議論を掲載しました。

さらに、この記事ではマイナス金利の国債を大量に発行すれば、政府は国債で利益が得られることも掲載しました。

現状では、国債を大量に発行しても何の問題もないので、大量に発行し100兆円基金を創設べきことを掲載しました。この状況は現在もあまり変わってません。とにかく、現状はためらうことなく、国債を大量に発行し、異次元の積極財政を行うときなのです。

それと、先日もこのブログで述べたことですが、我が国のような変動相場制の国において、財政政策の効果は非常に低くなるので、金融緩和を同時に行う必要がります。

とにかく、現状では、減税・給付金による異次元の積極財政と異次元の金融緩和が必要であり、これらを迅速に実行して、いちはやく増税とコロナウイルスによるダブルパンチの不況をいち早く抜け出すべきなのです。

財務省の省益などに、かかずらわっている場合ではないのです。米国のように、挙党一致で、真に効果のある経済対策を打つときなのです。

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【日本の解き方】米と「ケタ違い」だった日銀緩和 80兆円の量的緩和復帰すれば、財政出動の効果も発揮される―【私の論評】簡単なことがわからない日銀総裁と、日本の政治家(゚д゚)!

2020年3月25日水曜日

小池都知事、週末の外出自粛要請 感染爆発「重大局面」―新たに41人・新型コロナ―【私の論評】あと三週間くらいは不要不急の外出等避け、自宅で過ごすよう心がけよう(゚д゚)!

小池都知事、週末の外出自粛要請 感染爆発「重大局面」―新たに41人・新型コロナ

緊急記者会見をした小池知事

   東京都は25日、新型コロナウイルスの感染者が新たに41人確認されたと発表した。小池百合子知事は同日夜、緊急記者会見し「感染爆発の重大局面だ」と述べ、今週末の不要不急の外出自粛を都民に要請した。

感染者数、東京都が最多に 北海道抜く―新型コロナ

都の感染者はここ数日急増しており、1日当たりの感染者は3日連続で過去最多を更新。累計で212人となった。


会見で小池知事は、都民に最大限の警戒を呼び掛けた上で、感染拡大を防ぐため、平日の自宅勤務や夜間の外出自粛も要請した。

海外からの帰国者の感染が急増していることを受け、帰国から14日間の外出自粛を順守することも求めた。大阪府などでクラスター(小規模な感染集団)の発生源となったライブハウスの営業自粛も要請する方針を示した。

新たに判明した41人中、11人は台東区の永寿総合病院の関係者だったことから、都は同病院に立ち入り検査に入った。5人は海外渡航歴があった。

【私の論評】あと三週間くらいは不要不急の外出等避け、自宅で過ごすよう心がけよう(゚д゚)!

以下に本日の小池東京都知事の緊急記者会見の模様を収めた動画を掲載します。ご覧になっていない方は、是非ご覧になって下さい。



3月23日、新型コロナウイルスによる感染の拡大防止策として「首都封鎖」の可能性に言及した、東京都の小池百合子知事。ウイルスに対する緊張感の低下も指摘される中、我々(特に都民)はこの発言をどう受け止めるべきなのでしょうか。そうして、本日の緊急記者会見です。

なぜ、小池都知事は、現状を強く心配しているのでしょうか?理由は、「感染源が特定できない感染者が増加していること」です。東京都の新たな感染者数は3月23日、16人でした。これは、それまでで過去最多でした。しかも16人のうち9人は、どこで感染したのかわからない人たちなのです。

政府専門家会議メンバーである館田一博医学部教授は、
これは、非常に危険なサインです。 
我々が把握していない大きなクラスター(集団感染)が起きているのではないか 
そういうことを放っておくと、これがメガクラスターになって、それがオーバーシュート(感染者の爆発的増加)につながってしまうのではないか
と語っておられます。

新型コロナウイルスの感染は全世界に広がり、多くの都市で、厳しい外出制限が行われています。ニューヨークも、人がガラガラ。モスクワでも、市長が直々に動画をだし、「食料品と薬を買う以外に、外にでないように」と要求しました。

ところが日本では、3月初めの緊張感がすっかり緩み、花見でにぎわっている状況です。無論さすがに、宴会式の花見は、行われていないようです。遊園地の「としまえん」は、営業を一部再開(屋外のアトラクションだけ)。21日(土)の来園者数は、約6,000人。22日(日)は、約5,000人。これは、例年なみの数だといいます。それでも「屋外」アトラクションなので、「そんなに感染リスクは高くないのではないか」と思えるかもしれません。

「さいたまスーパーアリーナ」で3月22日に開催された【 K1 】はどうでしょうか?観客数は6,500人だったといいます。これで、集団感染が起こらなかったらかなり運が良かったといえるのではないでしょうか。

何がいいたいかというと、安倍総理の休校要請から約1か月が過ぎ、国民の緊張感が薄れているということです。

しかし、小池都知事は「首都封鎖」もあり得ると危機感を露わにしました。そして、「今後3週間、大型イベントへの参加を控えるよう」都民に要請しました。これは、都民だけではなく、全国民も同じだと思います。

中国で感染者数が爆発的に増加していた時、ほとんどの人は、「日本はああならない」と感じていたようです。安倍総理が2月27日、「全校一斉休校」を要請し、結果、日本での感染者増加スピードは、緩やかになりました。

今、イタリアの状況を見て、日本国民の大部分は、「日本は、関係ないね」と感じ、他人事としているようてす。しかし、日本がイタリアのようにならなかったのは、国民が緊張感をもって用心深く、注意深く生活してきたからです。ここでリラックスしすぎると、イタリアのようになる可能性があります。

欧州では、高齢者施設での集団感染が相次いで発覚しています。スペインでは十分な介護を受けず、多数の入居者が施設内で死亡していたことが分かり、検察が捜査を開始しました。



スペインでは今月、消毒作業で高齢者施設を訪れた軍兵士が、感染者や遺体を発見しました。ロブレス国防相は地元テレビで「施設には見捨てられた人たちがいた。自分のベッドで死んでいる人もいた」と証言。検察は23日、捜査着手を発表しました。

同国紙パイスによると、マドリード近郊の施設では17~19人の遺体が見つかり、職員を含めて70人以上が感染していたことが分かりました。職員は予防手段がなく、台所用ゴム手袋を着けて介護をしていたというのです。「感染が疑われる患者が出て救急隊に連絡すると、『対応できない』と言われた」いう証言もあります。

フランスでも東部ボージュ県の施設で23日、約160人の入居者のうち、感染の疑いで20人が死亡していたことが分かりました。パリなどほかの地域でも集団感染が見つかっており、仏保健省高官は記者会見で、高齢者施設への監視を強化する方針を示しました。

医療崩壊という言葉は、かなり普及したようですが、これは社会の崩壊です。社会が崩壊してしまうと、高齢者、子供、貧困な人たち、など弱者といわれる人々から先に社会から見捨てられることになりがちです。

そのようなことにならないように、都民の皆様、そうして全国の皆様、ここしばらく(3週間程度)は、不要不急の外出などは控えるべきと思います。私も、最近では生活必需品の買い物以外では滅多に外出しないようにしています。外出するときには、マスクのほかに、医療用のゴーグルをつけて、目からの感染を防いでいます。

そうして、家ではいままで読めなかった本をじっくり読んだり、これもなかなかできなかった語学学習をしています。また、NeflixやAmazon Videなども視聴しています。特に、一気見には良いです。音楽も、普段はなかなか聞けない、長編のブルックナーの作品などを聴いています。それなりに充実した時間を過ごしています。

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2020年3月24日火曜日

新型コロナで首都封鎖!?:小池都知事:自粛疲れとリスクコミュニケーションの心理―【私の論評】カタカナ英語は、会議・打ち合わせでは絶対に使うな(゚д゚)!

碓井真史 | 新潟青陵大学大学院教授(社会心理学)/スクールカウンセラー

新型ウイルス肺炎の世界流行で3/23に行われた小池都知事の会見

首都封鎖。インパクトのある言葉です。

■首都封鎖!? 東京封鎖!? 小池都知事

「首都の封鎖あり得る」。インパクトのある言葉です。オリンピック延期容認につづき、都知事の言葉として注目が集まっています。
東京都の小池知事は、新型コロナウイルスの大規模な感染拡大が認められた場合は、首都の封鎖=ロックダウンもあり得るとして、都民に対し、大型イベントの自粛などを改めて求めました。
 「この3週間オーバーシュートが発生するか否かの大変重要な分かれ道であるということです」(小池百合子 東京都知事)出典:新型コロナ、小池都知事「首都の封鎖あり得る」:TBS 3/23
■新型コロナウイルス感染への適切な不安、正しく怖がる

私たちは、「適切な不安」を持たなくてはなりません。よく言われるように「正しく怖がる」です。

もしも不安がなければ、どんなに危ない道も用心しないで走って転んでしまいます。不安が全くなければ、試験勉強もしないし、ドアに鍵をかけることもなくなってしまいます。これでは、生活していけません。

ただし、不安は私たちの心を蝕むこともあります。試験に落ちる不安が高まり過ぎれば、かえって試験勉強に手がつきません。試験本番では上がってしまって、実力を発揮できません。不安な状態が長く続けば、心も体も病気になってしまいます。

不安が高くなりすぎると、動けなくなることもありますし、暴走してしまうこともあります。これでは困ります。

必要以上に人々を怖がらせてはいけませんし、油断させてもいけないのです。

■自粛疲れとリスクコミュニケーション

正しい行動のためには、適切な「リスクコミュニケーション」が必要です。専門家や政治家のメッセージが、正しく人々に届かなければなりません。

世間では、「自粛疲れ」などという言葉も出てきました。テレビも新聞も、毎日毎日コロナコロナでは、気が滅入ります。客は減るし、景気は悪い、仕事もひま。こんな状態がいつまでも続いては困ります。

学校の生徒たちは、突然の休校、部活もなし。カラオケもダメだと言われるし、繁華街に出ると白い目で見られることもある。これでは、息が詰まります。

人の心も体も、適度に活動するようにできています。活動が制限され、人との交流が制限されれば、よくうつ状態が出たり、子供若者などはイライラし始めます。

また、ヨーロッパなどと比べると、日本の生活は安定しています。医療崩壊も起きてはいません。

自粛生活にも疲れたし、ストレスはたまるし、もうそろそろ活動を再開しても良さそうだと、少なくない日本人が感じ始めています。

繁華街や観光地にも、少し人が戻ってきたようです。外国人がいないので空いていて、今がチャンスといった宣伝もあるようです。

大阪のライブハウスですら、若い人が集まっているところもあります(地下アイドルのライブ活動などが再開したと大阪の人に聞きました。決してライブハウスが悪者ではないのですが)。

公園などに行くことは、良いことでしょう。必要以上の自粛はよくありません。経済が死んでも困ります。本当に正しい行動は何なのかは難しいのですが、疲れや油断が出てきた面はあるかと思います。

この現状で、適切な緊張感を保つための、「首都封鎖」の発言とも見られます。効果はあるでしょう。

政治家は、必要に応じて、人々を安心させたり、また用心させたり、覚悟させたり、勇気を持たせたりしなくてはなりません。政治家による扇動ではいけませんが、ウイルスに関する正しい知識に基づいて、必要なメッセージを届けることが大切です。

事実や数字だけでなく、気持ち、感情を伝えることが大切です。人は数字では動かず、感情で動くからです。

■新語、カタカナ言葉の問題とリスクコミュニケーション

以前の新型インフルエンザ騒動のときに、一般の人も知った新語が、「パンデミック」や「フェーズ」です(「フェーズ」は、もう忘れた人もいるかもしれません)。

今回の新型コロナウイルスに関しては、パンデミックに加えて、「クラスター」「オーバーシュート」「ロックダウン」です。

マスコミも、私たちも、新語、カタカナ語が好きなので、これらの言葉は注目されやすい良い面があります。

一方、カタカナ言葉は苦手な人もいます。

私は、新型インフルエンザ騒動の時に18を対象に調査しました。これだけ大報道がされていても、「パンデミック」の意味のわからない若者が数パーセントはいました。

また意味は分かったとしても、漢字よりもかえって実感が持ちにくい場合があることも忘れてはいけません。

感染症以外の日常生活でも、アルファベット表記やカタカナ言葉がスマートでカッコ良くても、結局日本語、漢字が、最も直感的に理解できることは、よくあることです。

新語カタカナ語は、時には日本語、漢字以上に、不気味な不安感を呼び起こすこともあります。また時には、カタカナ言葉の意味がわからなかったり、本来感じて欲しい適切な不安感情を導きにくいこともあります。

今回の記事の見出しも、「首都ロックダウン」ではなく「首都封鎖」でした。

新語やカタカナ言葉が悪いわけではありませんが、きちんと正しいメッセージが伝わるリスクコミュニケーションのためには、様々な工夫と配慮が求められています。

本当に首都封鎖などにならないように(本当に首都ロックダウンなどにならないように)、

怖がりすぎず油断せず、新型コロナウイルスと戦っていきたいと思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
新語解説
  • パンデミックとは:パンデミック(pandemic)は「広範囲に及ぶ流行病」「感染症の世界的な流行状態」のことです。
  • フェーズとは:フェーズ(phase)とは、局面、一側面、位相、段階、「変化する過程の一区切り」です。フェーズは、分野業界によって使い方が異なりますが、医療業界では、 パンデミックの警戒段階を「フェーズ」で表したりします。
  • クラスターとは:クラスター(cluster)とは、房、集団、群れの意味で、これも分野や業界によって使い方が異なりま。心理学の人間だと統計手法の「クラスター分析」を思い浮かべます。感染症に関しては、「小規模な患者の集団」です。
  • オーバーシュートとは:オーバーシュート(over shoot)とは、これも分野や業界で意味が違って、経済分野では為替や株価が過剰反応して行き過ぎたことを指します。感染症に関していえば、「爆発的患者急増」です。
  • ロックダウンとは:ロックダウン(lockdown)は、「封鎖」という意味ですが、IT分野ならセキュリティを強化するためにOSやアプリケーションの機能を制限する仕組みです。建物の内部の人を守るために外部の人が入れないようにするのもロックダウン。緊急事態に人の移動や情報を制限することもロックダウン。感染症で外出禁止もロックダウン。小池都知事は、「感染の爆発的な増加を抑え、ロックダウン(都市封鎖)を避けるために不便をお掛けするが、ご協力をお願いしたい」と呼び掛けました。
カタカナ言葉って、難しいですね。

【私の論評】カタカナ英語は、会議・打ち合わせでは絶対に使うな(゚д゚)!



最近は、確かにテレビ等を見ていると、「パンデミック」とか「クラスター」「オーバーシュート」とカタカナ英語が氾濫しています。これは、はっきりいいますが、良くない傾向です。

この良くない傾向に、真正面から警鐘を鳴らした人がいました。そうです、河野防衛大臣です。

「わざわざカタカナで言う必要があるのか」―。河野太郎防衛相は24日の記者会見で、新型コロナウイルスに関する用語として政府が「クラスター」や「オーバーシュート」、「ロックダウン」といったカタカナ英語を使っていることに対し、「分かりやすく日本語で言えばいい」と疑問を呈した。

河野氏は22日に自身のツイッターで、クラスターは「集団感染」、オーバーシュートは「感染爆発」、ロックダウンは「都市封鎖」にそれぞれ置き換えられると指摘。会見では「年配の方をはじめ、よく分からないという声を聞く」と語り、厚生労働省などに働き掛ける考えも示しました。

これに関し、菅義偉官房長官は会見で「国民に分かりやすく説明することは大事だ」と述べた。

このような河野防衛大臣の発言があったことを知ってか、知らずか、23日に小池百合子東京都知事は、会見で「ロックダウン」、「オーバーシュート」という言葉を使っていました。

小池知事は、今回に限らず、元からカタカナ英語を多様する人です。東京都知事選の頃から多様していました。それについては、このブログでも解説したことがあります。

詳細は、当該記事をご覧いただくものとして、以下に当該記事から、画像を以下に貼り付けておきます。


小池知事に限らす、現状ではコロナウイルス関連で、日々「カタカナ英語」が流れています。この風潮が、止むどころか、どんどん広まる傾向があったので、ついに河野太郎防衛大臣にまで言われてしまったというところだと思います。

河野氏は英語ができますから、これまでは堪え難きを堪えていたのでしょうが、ついに「我慢できずに」言ってしまったのでしょう。いくらなんでも、おかしすぎです。

常識的な人なら、ほぼ全員が同じことを思っていたと思います。何しろ、「クラスター」から始まって、このコロナ禍の真っ最中に、次から次へと政府から「カタカナ英語」の数々が発せられる必然性があるのでしょうか。

 しかもそれらは、ほとんどが「なにやら妙な使いかた」をしているカタカナ英語ばかり、です。ちなみに、これらの言葉は、「新語」とされていますが、英語自体の言葉としては、新語でも何でもなく、使い古された言葉です。

しかし、新聞記事などでは、記事中に「新語」として、説明や注釈やらがついています。

しかし、「それだけで」十二分に説明が可能なのですから「クラスター」は「感染者小集団」で良いではありませんか。私自身は、「より正確な意味が伝わる」はずの、日本伝来の「漢語的表現」で十分用が足りると思います。

「クラスター」は英語のclusterのカタカナ表記で、辞書を引けば、「花、果実などの房やかたまり」、「動物、人、物などの群れ、集団」というように書かれています。

これまで日常的な英単語としてはあまり知られていなかった「クラスター」ですが、実際のところは、今回の感染症疫学的な用語としてだけでなく、様々な分野で使われています。

たとえば、日本の大学では、関連性のある学科の科目をまとめたものを「クラスター」と称するのがトレンドになっています。日本語では「科目群」ということですが、専門分野重点型、あるいは分野横断的なクラスターを作って、学生が深く、幅広く学べるようにするという「クラスター制度」を導入する大学が増えています。また、研究者の幅広い取り組みのために、関連分野を統合して「研究クラスター」という共同研究体制を作っている大学もあります。

そのほか、次のような分野でも「クラスター」が用いられています。

【天文学】

星の観測がお好きな方はよくご存知だと思いますが、星がまとまって集団となっているものを英語ではstar cluster(「スタークラスター」)と言います。日本語にすると「星団」です。有名な「すばる」もスタークラスターで、英語ではthe Pleiades star cluster(プレアデス星団)。

肉眼でも6個ほどの星が見えますが、望遠鏡では100個以上の密集した星々を見ることができるのだそうです。こうした数百ほどの星がまばらに集まっている星団をopen cluster(散開星団)、数万個以上の星が丸く球状に集まっている星団をglobular cluster(球状星団)と言います。

【人文社会学一般】

人々の嗜好やライフスタイル、意見などについて、様々なアンケート調査がよく行われますが、その結果を分析するのに「クラスター分析」(cluster analysis)が使われることがあります。

統計解析の手法の一つで、簡単に言えば、雑多な集団の中から似たもの同士をまとめて「クラスター」にして対象を分類するテクニックです。商品アンケートなどの調査データをマーケティングに利用するのに、このクラスター分析がよく用いられます。

この手法は、人文科学だけではなく、生物学でも系統樹を作成するときなどに、用いられます。

【IT】

「クラスター」はコンピューター関係のIT用語でもあります。色々なことを指して使われていますが、複数のコンピューターを連結させた一つのユニットを「コンピュータークラスター」(computer cluster)、あるいはもっとシンプルに「クラスター」と呼びます。

クラスター化してシステムを運用することで、1台のコンピューター以上の処理能力などの高い性能を発揮することができるだけでなく、クラスター内のコンピューターのどれかが故障や障害で停止しても、システム全体を継続して稼働させることができるので、システムの安定性強化につながります。

【英語】

「クラスター」は言語学でも使われ、英語に限らず、単語中の母音の連続をvowel cluster(「母音クラスター」の意味)、子音の連続をconsonant cluster(「子音クラスター」の意味)と言います。日本人の英語の発音の問題でよく取り上げられるのが、子音クラスターについてです。

英語には子音が2つ、3つと続く単語がたくさんあって、子音連結とも言われますが、日本人はこうした子音クラスターを含む単語を発音するのに、連続する子音の間にありもしない音をつけて発音してしまいがちなのです。

わかりやすい例をあげると、電車のtrainは、単語の最初にtrと2つ子音が続きますが、カタカナでトレインと書くこともあって、trの間にはないはずの母音oをつけて「ト(to)」と発音してしまいがちです。日本語と英語の構造の違いによるところが大きいのですが、日本人はこうした「子音クラスター」の発音には注意が必要です。

【軍事】

国際社会で、「クラスター爆弾」(cluster bomb)の使用の是非が問われています。クラスター爆弾は多数の小型の爆弾(子爆弾)を内蔵する爆弾で、空から投下されるか、地上からロケット弾や砲弾として発射され、空中で炸裂して子爆弾を広範囲にまき散らします。無差別に殺傷する能力が高い非人道的な兵器として、使用禁止を求める声が集まっています。

ほかにも、化学分野で「金属クラスター」の研究が、物理学分野で「量子クラスター」の研究が、それぞれ盛んになってきています。ある意味、学術の世界では「クラスター」ブームが起こっているといっても差し支えない状況があります。

このように、色々な分野においてそれぞれの意味でよく知られている「クラスター」なのですが、この度の新型コロナウイルス感染拡大で、感染者集団としての「クラスター」は、一気に私たちの日常用語になった感があります。

しかし、私としては、感染者集団としての「クラスター」は、わかりやすく「小集団」などとすべきと思います。元々、「クラスター」には感染などという意味はありません。

実際、新聞やテレビを見ていると、「クラスター」を「感染者小集団」の意味で使ったり、「集団感染」の意味で使ったりしています。これは、無用な誤解を生みかねません。

そもそカタカナ英語の多様は、誤解を招く元です。
私たちのミッションを考えると社員一丸となって、コンセンサスをとらなければ、モチベーションは下がってくると思うんだよね。だから、何から行うかプライオリティをつけそれをみんなにコミットメントさせればいいんじゃないかなぁ。
このようなカタカナ英語の会議は危険です。

例えば、「モチベーション」という言葉について考えてみましょう。あなたは、このー「モチベーション」をどのような意味で解釈して使っていますか?以前、ある上司と部下が「モチベーション」について話をしていて、言った言わないと話がかみ合わないことがありました。「モチベーション」は、どういう意味で使われていますか?


上司は、「動機づけ」と解釈し、部下が自ら企画の提案をしてくれるきっかけになればと考えていました。部下は、「やる気」と解釈してました。お互い「モチベーション」の解釈が違っていることが判明したのです。これが複数人数での会議だったらどうでしょうか?解釈の違いに気づかず、話はかみ合わない事態を引き起こします。

カタカナ英語を頻繁に使うことに何の得もありません。先にあげたカタカナ英語の会議は、以下のような日本語で十分に意味が通じるのです。
私たちの使命を考えると社員一丸となって、合意をとらなければ、やる気は下がってくると思うんだよね。だから、何から行うか優先順位をつけそれをみんなに約束させればいいんじゃないかなぁ。
この表現であれば解釈の相違は低くなります。しかし、日本語ですら、育った環境や、学歴、言語能力などにより、違って受け取られることもあるのです。だから、日本語でもできるだ誰にでもわかるように、平易で誰にでも知られている言葉を用いる必要があるのです。ましてやカタカナ英語を多用するようなことがあれば、そもそも会議など成り立たないのです。

やはり、カタカナ英語は使わないほうが良さそうです。どうしても必要なら語義をはっきさせる必要があります。最初に必要な意味づけをしておくことで誤解は防ぐことができます。しかし、そもそも、使用の是非について吟味をする必要性があります。

最後にはっり言います、カタカナ英語などを多用する人は馬鹿です。

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2020年3月23日月曜日

東京五輪「中止」は回避 安倍首相とIOCの利害一致 「延期」容認に入念にすりあわせ―【私の論評】今こそ、オリンピックを開催しても経済が悪化した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!

東京五輪「中止」は回避 安倍首相とIOCの利害一致 「延期」容認に入念にすりあわせ

IOCバッハ会長(左)と安倍総理(右)

安倍晋三首相は23日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、7月の東京五輪の開催延期を容認する考えを初めて示した。首相が先進7カ国(G7)首脳による16日の緊急テレビ電話会議で、五輪を「完全な形で実施したい」と語ったことを受け、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が柔軟な姿勢に転じたとみられる。首相もIOCも「中止」の判断だけは避けたかったようで、22日には大会組織委員会の森喜朗会長を挟み、入念なすりあわせが行われた。

 「トランプ米大統領をはじめ、G7の首脳も私の判断を支持してくれると考えている。判断を行うのはIOCだが、中止が選択肢にない点はIOCも同様だ」

 首相は23日の参院予算委員会で、IOCが4週間以内に延期も含めて検討を進めることに理解を示しつつ、東京五輪そのものが「中止」とはならないことを強調した。

 中止となれば、これまでの準備の多くが水泡に帰すばかりでなく、日本経済に及ぼす悪影響は「延期」の比ではない。IOC側も五輪開催が1回分吹き飛べば、スポンサー料など収入面で甚大な被害を受ける。

 首相は、G7首脳に「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」として、規模縮小や無観客ではなく「完全な形で実施したい」と根回しし、「中止」の選択肢を消すことに努めた。大会組織委幹部は「首相のG7での振る舞いを見て、利害の一致したIOCが延期を含めた検討を始めた」と解説する。

 「好都合だった」と森氏も振り返る。これまでは、感染がどう広がるか分からない現状で、早々と結論を決めるのは得策でないとして、決断を5月下旬頃まで先送りする案もあった。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中で日を追うごとに深刻化していた。連日のように各国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)や競技団体、現役アスリートらが声を上げ、組織委への風当たりは強まっていた。

 森氏は23日の記者会見で「われわれもIOCと話を合わせたいと、月曜日(23日)から(電話会議を)やろうと思っていた。(開催が)早まり、よかった」と打ち明ける。組織委側がバッハ氏から「延期」という単語を聞いたのは22日が初めてというが、事実上、電話会議が決まった時点で延期の検討は決まっていたのかもしれない。

 森氏は22日、首相や東京都の小池百合子知事らと電話で対応を協議し、特に首相とは3回も連絡を取り合った。首相は、IOC側が延期を決断した際、受け入れる考えも示したという。首相は23日の参院予算委でこう強調した。

 「世界中のアスリートがしっかり練習でき、世界からしっかり参加していただき、アスリートや観客が安心できる形で開催したい」(森本利優、原川貴郎)

【私の論評】今こそ、五輪を開催しても経済が悪化した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!

オリンピックの開催は、やはり延期にした方が良いです。たとえ、7月24日までに日本で武漢肺炎が終息したとしても、他国がどうなっているかはわかりません。

以下のグラフをご覧になって下さい。


これは、新型コロナウイルス 第1感染者確認後のグラフです。 3/22時点の感染者数累計は、 日本(1101)、韓国(8897)、イタリア(59138)、イラン(21638)、フランス(15810)、ドイツ(24806)、スペイン(28603)、アメリカ(32582)です。

このグラフでもわかるように、日本は、いまのところ感染の封じ込めに相対的に他国よりも成功しています。このグラフは単純に感染者数の比較をしていますが、日本の場合は人口が1億2千万人ですが、先進国では米国の人口は3億人ですが、その他の先進国は数千万人です。

人口10万人あたりの、感染者数などで比較すれば、韓国、イタリア、フランス、ドイツ、スペインなどは、さらに悲惨な状況であることがわかるでしょう。

これらの国々にすれば、現状ではオリンピックどころではなく、感染症対策で精一杯でしょう。

さらに、日本だって今までは、感染封じ込めに成功してきたようですが、これからはどうなるかはわかりません。

小池百合子東京都知事

新型コロナウイルス対策について東京都の小池百合子知事は、23日の記者会見で「感染の爆発的な増加を避けるためロックダウン(都市封鎖)など強力な措置を取らざるを得ない状況が出てくる可能性がある」と述べています。ネット上ではこれに反応し『東京封鎖』『ロックダウン』という言葉がツイッターのトレンド入りし、さまざな憶測や不安が飛び交いました。

小池知事は封鎖について「何としても避けなければならない」とイベント自粛継続などへ協力を呼び掛けました。ネット上では「封鎖するのは警察?自衛隊?」「山手線も止まるのか」「検問所どれだけ必要なの」「仕事は?給料は??」との声が相次ぎました。映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』の主人公・織田裕二が発した「レインボーブリッジ封鎖できません!」のセリフを連想して「映画みたいなこと本当に起きるの?」と疑問を抱く人もいました。

飲食店閉鎖などの措置が実施されている海外からは「友達とも自由に会えない状況だけど、みんな頑張ってる。私も頑張ろう!」との反応もありました。相次ぐ新型コロナ関連のニュースに「流行が早く終わったらいいな。明るく笑いながら、何気ない日常を過ごしたいな」と切望する声もありました。

無論、小池百合子知事の「ロックダウン」という言葉は、最悪のシナリオを想定したものですが、それにしても全くあり得ないとはいえません。

運悪く、東京がロックダウンされれば、当然のことながらオリンピックは開催できません。そうした可能性もあるのですから、やはりここは、延期すべきでしょう。

オリンピックを延期とか、中止などというとすぐに経済の落ち込みを心配する人もいますが、日本や米国などの経済規模がかなり大きな国では、オリンピックの経済効果は実はさほどでもありません。それよりも、個人消費を伸ばしたほうがはるかに、経済効果は高いです。

これに関しては、良い事例があります。それは、2012年のロンドンオリンピックです。英国は、オリンピックの直前に付加価値税(日本の消費税に相当)を大幅にあげ、大失敗しています。日本でも、オリンピックの前年である昨年に消費税を上げて大失敗しています。

英国は量的緩和政策で景気が回復基調に入ったにもかかわらず、「付加価値税」の引き上げで消費が落ち込み、再び景気を停滞させてしまいました。 その後、リーマン・ショック時の3.7倍の量的緩和を行っても、英国経済が浮上しなかった教訓を日本も学ぶべきです。

このようなことを主張すると、英国の財政は日本よりも良い状況だったからなどという人もいるかもしれませんが、日本の財政は負債のみでなく、資産にも注目すれば、さほどではないどころか、英国よりもはるかに良い状況にあります。

英国は、日本よりは経済規模が小さいですが、それでも経済対策を間違えば、オリンピックなど開催しても景気は落ちこんだのです。

オリンピックを開催すれば、経済効果は大きいですが、かといって経済対策の間違いを補えるほどかといえば、そうではないのです。英国よりも経済規模が大きい日本ではなおさらです。

私は、もともとさほど大きくはない経済効果を期待して、オリンピックを無理に開催する必要性などないと思います。そのようなことをするよりも、オリンピックは延期して、消費税減税、給付金対策、無論追加の金融緩和をするなどのことをして、経済を浮揚させてから、オリンピックを開催すべきです。

武漢肺炎で、経済が破壊されてとんでもないことになるのではないかと心配する人もいるようですが、まともな経済政策をしている国において、大規模な災害や、伝染病等で経済が一時かなり悪化しても、災害や伝染病が終息した後はかなりの勢いで消費等が伸びて、回復します。これについては、このブログでも香港の事例をあげたことがあります。

詳細は、当該記事をご覧になって下さい。以下にグラフだけ引用しておきます。


戦争の場合もいっとき景気は落ち込みまずか、それでもその後ものすごい勢いで経済が伸びることは、私達日本人が経験しているところです。これについても、当該記事に書きましたので是非ご覧になってください。

現状では、オリンピックは延期して、ロンドンオリンピックの失敗に学び、上げてしまった消費税を減税して、一人あたり10万円くらいの給付などを行い、日銀も異次元緩和のスタンに戻り、オリンピックが開催するときには、日本経済が大きく回復する状況ををつく出すのがベストです。

誰もが、先行きにあまり不安を感じない状態で、平和の祭典を開催するのが、日本にとっても世界にとってもベストだと思います。

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2020年3月22日日曜日

中国「新型コロナ封じ込め」強権の行く先は北朝鮮化か、それとも…―【私の論評】『言論統制』の崩れは、中国の「すでに起こった未来」かもしれない(゚д゚)!

中国「新型コロナ封じ込め」強権の行く先は北朝鮮化か、それとも…
習近平とWHOは世界に謝罪すべきだ


テレビ・キャスターや中国人民は謝罪する必要がない

 中国中央テレビの邱孟煌キャスターがSNSに「我々は申し訳ないという気持ちを込めて柔らかい口調でマスクをしたまま世界に向けてお辞儀をし、『すみません、迷惑を掛けました』と言わなければならないのではないか」と投稿して炎上したと報道された。

 その後コメントは削除されたが、邱キャスターの気持ちはよくわかる。多くの日本人が「もし、日本発のウィルスで、しかも対応の不手際によって(人災で)世界の人々を混乱に陥れた」とすれば同じ感情を持つのではないだろうか? 

 ただ、「反省しすぎ」なのが日本人の欠点である。冷静に考えて、日本政府の対応の不手際によって、日本で発生したウィルスが拡散したとすれば、一番の被害者は日本国民である。日本国民はまず、政権や官僚・役人に対して怒るべきなのである。

 共産主義中国でも同じことが言える。キャスターも含めた人民は、共産党政権の「隠ぺい工作」によって、武漢肺炎ウィルスを中国全土のみならず全世界に広げた組織を糾弾すべきだ。

 「A級戦犯」は習近平氏と、それを支える共産党幹部、さらには人口のわずか数%である特権階級の共産党員である。

 武漢中心医院の眼科医、李文亮氏は、 12月30日に「海鮮市場で7件の重症急性呼吸器症候群(SARS)に似た肺炎が確認された」とSNSに書き込んだ。ところが、この書き込みを発見した武漢市公安当局は李氏の書き込みを見つけ出し、事実でない書き込みであり「治安管理処罰法」に違反しているとして李氏を処罰した。そして、とても悲しいことに、李医師は2月7日に武漢肺炎によって亡くなった。

 その他にも隠ぺい工作が数え切れないほど行われ、世界中に感染が拡大した。謝罪すべきは、人災でウィルスを拡散した習近平氏と、その隠ぺい工作(責任逃れ)に加担した国連機関であるWHO事務局長のテドロス・アダノム氏である。

人民解放軍は中国共産党の「親衛隊」だ

 アドルフ・ヒットラーが率いた、ファシズム政党であるナチスはプロパンガダに秀でており、ヒットラー自身も、演説の前に鏡を見て身振りや手ぶりの練習をしたりした。今で言うイメージ戦略であり、その参謀が有名なヨーゼフ・ゲッペルスだ。

 しかし、中国共産党も負けてはいない。人為的飢饉による餓死者も含め、リンチ・拷問・処刑による死者をおよそ8000万人(西側推計)出した愚策を「大躍進」「文化大革命」と呼ぶだけではなく、機関銃で武装して無防備な人民を追い立てる組織を「人民解放軍」と名付ける。

 親衛隊は、ドイツ国軍とはまったく別個にナチス(ヒットラー)に忠誠を誓う私兵組織である(突撃隊も別途組織されていた)。人民解放軍も中国共産党に忠誠を誓う組織である上に、本当の意味での国軍が存在しない。共産主義中国では、ナチスの親衛隊が、国軍も兼ねているというような恐るべき状態なのだ。

 この「人民解放軍」という奇妙な名前の集団が、今回の「武漢封じ込め」でも存在感を見せた。もちろん、感染対策の基本、特に初動は「封じ込め」を中心にすべきであり、日本政府が共産主義中国の封じ込めを行わずに、早期に中国から日本への入国を全面的に規制しなかったのは誤った対応である。

 しかし、封じ込めは「より多くの人命を救う」という大きな効果があるとともに、封じ込められた人々にとっては「災難」という面もある。

 ハリウッド映画で、感染症あるいはゾンビが広がり始めた街を、軍隊が封鎖するというシーンがよくある。架空の話ではあるが、封鎖地域から逃れようとして、撃ち殺される人々もいる。共産主義中国や北朝鮮では実際に行われているという話も伝わってくる……

 実際、事実上の戒厳令が、病気で苦しむ中国人民を封じ込め、死に至らしめている。ウイグルやチベットの状況も心配だ。習近平氏が封じ込めようとしているのはウィルスではなく、「自由な言論」、すなわち「国民の声」である。

 米人権団体フリーダムハウスの2019年末の調査では、共産主義中国は4年連続でネットの「自由度」が世界最低だった(北朝鮮などを含まない65カ国中)。

 今回の武漢肺炎による封鎖は、ウイグルやチベットの「封鎖」で「隔離」されている人々に対して、収用所などでいったいどのようなことが行われているのか、世界中の人々が想像する材料を与えてくれた。

共産党発表の相手をしているのは国連と日本だけ

WHOの武漢肺炎に対する対応は、中国に忖度しているとしか思えないが、事務局長のテドロス・アダノム氏(エチオピア元保健相)の出身国にとって、中国からの投資は極めて重要である。2019年のエチオピアへの直接投資流入額の60%は中国によるものとされる。

WHOだけではない。ユネスコの世界記憶遺産に中国が登録申請していた、真偽のほどが検証されていない「南京大虐殺文書」を記憶遺産に登録するという暴挙が行われたことも記憶に新しい。

常任理事国は別にして、加盟国が平等に扱われる国連では、国家の数が多いアフリカの国々を「媚中派」としてコントロールすることによって、共産主義中国が運営を牛耳ることが可能だ。

また、「媚中派」である韓国の潘基文氏が、2007年から2016年の10年間、事務総長を務めた影響も大きい。

もちろん、このような共産主義中国の横暴を、大部分の先進国は不快に思っている。米国が拠出金の支払いをしばしば留保するのはその象徴である。

先進国の中でも経済的に困窮しているイタリアは、G7で初めて中国と「一帯一路」構想に関する覚書を締結したが、武漢肺炎が蔓延し全土の移動制限をしなければならなくなった現在はどうであろうか?

自らの失策を認めるどころか、「封じ込めに成功しつつある」と自画自賛する習近平氏と共産主義中国を見る目はかなり厳しいはずだ。

今や国連や共産主義中国をまともに相手にする先進国は、習近平氏の国賓招待を「秋に延期」などと言い続けている日本以外に存在しないと考えたほうが良いであろう。米国は、とっくの昔に見放している。

崩壊か? 北朝鮮化か?

習近平氏は、一度ついた嘘をつき続けるしかない。なぜなら、共産主義という全体主義(独裁主義)では、指導者は完璧な存在でなければならないからだ。特に毛沢東時代への回帰を目指している習政権では必須だ。

したがって、毛沢東の大躍進や文化大革命のように、「嘘に現実を合わせる」ことが必要である。

鋭い政権批判を行うことができる、良識ある知識人が今危険にされている。「文化大革命」の時にも、政府を論理的に批判できる良識的知識人が最大の攻撃対象にされた。

「大躍進」の際には、「先進国並みの鉄鋼生産を産実現する」という政府の嘘を実現するために、全土の田畑に「製鉄所」が建設された。

しかし、実のところ農家の納屋を改造した程度のものであるから鉄鋼の生産などできるはずがない。農家の貴重な鍋などの食器類、果ては鍬や鎌まで溶かして、「鉄鋼を生産しました」と報告したのである。

生産する農地を「製鉄所」に奪われ、鍬や鎌まで失った人々が食糧生産できなくなり、飢饉を招いたのも当然だ。

このような馬鹿げた行為が行きつく先は2通り考えられる

まず、中国人民自らの力による「悪夢の習政権」の打倒である。香港や台湾の状況は追い風だ。しかし、高度に武装した「親衛隊」を支配する中国共産党がすんなり国民に権力を禅譲するはずがない。

人民解放軍は、外国から国民を守るというよりも、国民から共産党を守るための組織である。国民が共産党を打倒すことができたとしても惨劇は避けられない。

もし国民が勝利すれば、新しい国家は台湾主導の「1つの中国」になるかもしれない。1つの中国は、結局、台湾主導で実現されるであろう。

米国は、すでにならず者の共産主義中国を見限っている。米国下院は、全会一致で台北法案を可決。この法案は、台湾の国際的地位を高めることを目的とする。

1979年の正式な米中国交正常化は、鄧小平だからこそ実現した。毛沢東ではあり得なかったといえる。

雪解けそのものは1971年のキッシンジャー、1972年のニクソンの訪中で行われたが、正式な国交回復は1976年の毛沢東の死去により鄧小平が実権を握ってから3年後に行われている。

鄧小平が、中国の発展に果たした役割の大きさは、2019年1月9日の記事「客家・鄧小平の遺産を失った中国共産党の『哀しき運命』を読む」を参照いただきたい。

つまり、鄧小平の遺産をひっくり返し毛沢東化している習近平氏を、米国は「ならず者」と認定し、1971年キッシンジャー訪中以前の「台湾が 1つの中国であった時代」に時計の針を巻き戻そうとしているのである。

1971年に採択されたアルバニア決議によって民主主義中国(中華民国・台湾)は国連安保理常任理事国の座を失い、共産主義中国(中華人民共和国)が国連安保理常任理事国と見なされたのだ。

さもなければ北朝鮮になる

現在の中国が示しているのは、「『共産党による一党独裁』と、『民主主義』『自由主義』にもとづく市場経済は結局両立しえない」ということである。

国民によって共産党が打倒されなくても、先進国を中心とした海外の共産主義中国に対する態度は激変するはずだ。

また、国民の「自由な言論」を封殺しなければ政権を維持できないから、ネットだけではなく、現実の海外との交流も極度に制限する北朝鮮のような状況に向かわざるを得ない。

友人の1人が、文化大革命が終了した直後の共産主義中国を訪問したことがあるが、旅行者はホテルに監禁され、外に出るときは機関銃を水平に構えた「護衛」が必ずついた。もちろん、この「護衛」は監視役である。このような、北朝鮮のような状況に戻る可能性もかなりある(これが2つ目のシナリオ)。

あり得ないのは「共産主義中国が再び発展に向かう」というシナリオである。

【私の論評】『言論統制』の崩れは、中国の「すでに起こった未来」かもしれない(゚д゚)!

上の記事で、人民解放軍は、先進国でいうところの国民の生命・財産を守る軍隊ではなく、共産党の私兵であるというのは本当で、さらに付け加えると、各地方軍にわかれていて、各地方の共産党に属し、さらに特異なのは、各々が様々な事業を展開しているということです。

そうして、地方軍の中には、核武装している軍もいるという有様です。わかりやすく説明すると、日本でいえば、商社のような組織が、軍隊並みの武装をしているということです。

この事実だけでも、中国は他国とは全く異なる異形の存在であることが、おわかりいただけると思います。

この異形の存在、中国が将来どうなるかについての、上の大原氏のシナリオでは、中国共産党の崩壊、もしくは北朝鮮化です。どうなるのかは、なんとも言えないところがありますが、大原氏の主張するように、私もあり得ないのは「共産主義中国が再び発展に向かう」というシナリオだと思います。


中国共産党の崩壊を予感させるようなことは現在でもあります。経営学のドラッカーは、「われわれは未来についてふたつのことしか知らない。ひとつは、未来は知りえない、もうひとつは、未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違うということである」(『創造する経営者』)と語っています。

ありがたいことにドラッカーは、ここで終わりにせず、続けて言っています「それでも未来を知る方法は、ふたつある」と。

一つは、自分で創ることでことです。成功してきた人、成功してきた企業は、すべて自らの未来を、みずから創ってきました。ドラッカー自身、マネジメントなるものが生まれることを予測する必要はありませんでした。自分で生み出したのです。

もう一つは、すでに起こったことの帰結を見ることです。そして行動に結びつけることです。これを彼は、「すでに起こった未来」と名付けています。あらゆる出来事が、その発生と、インパクトの顕在化とのあいだにタイムラグを持っています。

出生率の動きを見れば、少子高齢化の到来は誰の目にも見えたはずです。対策もとれたはずです。ところが、高齢化社会がいかなる社会となり、いかなる政治や経済を持つことになるかを初めて論じたのはドラッカーでした。

こうして東西冷戦の終結、転換期の到来、テロの脅威も彼は予見していました。

「未来を築くためにまず初めになすべきは、明日何をなすべきかを決めることでなく、明日を創るために今日何をなすべきかを決めることである」(『創造する経営者』)

中国共産とは、明日の中国を創るために、今日何をすべきなのかを決めているようです。しかし、彼らの中には、先進国がかつて先進的な主権国家になるために実行してきた、民主化、政治と経済の分離、法治国家家を実行していくというシナリオは、持ち合わせていないようです。

これらを実行せずに、技術革新などを実行し、現在の体制を維持しつつ、経済的に発展していこうというのが、彼らのシナリオのようです。しかし、これは、茨の道です。自分たちだけが、他国と全く異なるシステムで発展し続けようということにはかなり無理があります。事実上不可能です。

明治維新の以前の日本が、幕藩体制を維持したまま、欧米と対等にわたりあい、経済的に発展しようとすると同じようなものであり、到底無理です。日本は、明治維新により、体制を一新し、当時としては世界的にみてもかなり先進的であった大日本帝国憲法を制定し、国際法も重視しました。

幕藩体制

国際法を重視しすぎたことが、後に日本災いをもたらした面もあるのですが、それはさておき、国際関係では、欧米と同一歩調を歩む道を歩んだのです。

中国がこれから発展しようとした場合、表面面だけではなく、文字通りの自由貿易ができる体制を築かなければ、不可能です。そのためには、ある程度の民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現しなければ無理です。

ちなみに、法治国家化をする前には、政治と経済の分離が必要不可欠です。そのたためには、その前に民主化が不可欠です。そうして、民主化のためには、言論の自由が不可欠です。

現在中国では、言論の自由に関わる出来事が、いくつか起こっていて、これらはドラッカー氏のいうところの、「すでに起こった未来」かもしれません。

中国政府は19日、新型コロナウイルス感染症を「原因不明の肺炎」といち早く警鐘を鳴らした湖北省武漢市の男性医師、李文亮さんを摘発し処分したのは「法執行手続きが規範に合っておらず不当だ」として、処分取り消しと関係者の責任追及を求めた。市公安当局は処分を撤回し遺族に謝罪することを決定しました。

李さんが2月7日に新型コロナウイルスによる肺炎で死亡した際、国民から当局批判の声が上がった経緯があり、習近平指導部は処分取り消しに追い込まれた形です。

病床の李医師

李医師は、まだ中国政府が新型コロナウイルスによる肺炎の発生を公式に認めていなかった去年12月30日の段階で、「市場で7人のSARS(重症急性呼吸器症候群)感染が確認された」などの情報をSNS上のグループチャットに発信しました。

同僚の医師たちに防疫措置を採るよう注意喚起するのが目的でしたた。

感謝されてしかるべき行為。しかし4日後の1月3日、李医師が受けたのは賞賛ではなく、地元警察からの呼び出しでした。

中国政府の最高の監察機関である国家監察委員会の調査チームが、李医師の死から1か月以上経った、昨日3月19日、調査結果を発表しました。調査は、実際に12月中に武漢市内の複数の病院で原因不明の肺炎患者が確認されていた事実などに触れました。

その上で、李医師の処遇について「警察が訓戒書を作ったことは不当であり、法執行の手順も規範に合っていなかった」と結論づけました。警察に対し訓戒書の取り消しと関係者の責任追及などを求めました。

この調査結果に対し、ネット上では「真相が明らかになった」「国家を信じ、調査結果を支持する。李先生安らかに」などと賛辞が寄せられています。もっとも中国では政府の判断に反対する意見がネット上に残るはずはないですが、人々の批判の矛先を逸らすには、まずまずの効果があったようです。

しかし、この調査結果は、重要な点に触れていません。李医師の発信が「社会の関心を集めた」などとしていますが、訓戒によって李医師が口をつぐんでしまった事態が招いた結果についての検証がされていないのです。

その結果とは「情報隠し」が引き起こした感染拡大です。特に、医療関係者の防疫が後手に回ったために、武漢では医療崩壊が起きました。

国営新華社通信が、李文亮医師の調査チームとの質疑を報じています。その中で、李医師の情報発信が、社会にどのような作用を与えたかとの質問に対して、調査チームは次のようにこう答えています。

「一部の敵対勢力は中国共産党と中国政府を攻撃するために、李文亮医師に体制に対抗する“英雄”“覚醒者”のラベルを貼っている。しかし、それは事実に全く合わない。李文亮医師は共産党員であり、いわゆる“反体制人物”ではない。そのような下心を持つ勢力が、扇動したり、人心を惑わせたり、社会の不満を挑発しようとしているが、目的を達せられないことは決まっている」

中国の現在の体制にとって感染症そのものよりも、対策で明らかな手落ちがあったとして民心が離れる事態の方が脅威なのでしょう。民心が完璧に離れてしまえば、習近平が現体制を維持しようしても不可能になります。

今回の調査結果の一番の狙いは、おそらくこれなのでしょう。

習氏は10日、新型コロナウイルスの感染拡大後、初めて武漢市入りし、「(感染状況に)前向きな変化があり、重要な成果が出ている」と強調し、感染が終息に向かっているとアピールしました。中国政府の発表では、湖北省でこれまでに5万8000人近くが治療を終えて退院。武漢市では今月中旬以降、1日あたりの新規感染者数が10人以下で推移しているといいます。

ただ、この「中国政府発表」が信用できないのです。

武漢市の隔離施設の医師が共同通信の取材に対し、武漢市の状況改善は欺瞞だと内部告発したのです。

この医師によると、習氏の視察以降、自身の担当患者に肺炎の所見が見られたにもかかわらず、感染症対策を担う当局の「専門団」の判断で隔離が解かれたといいます。このころから解除の判断が甘くなり「感染者の大規模な隔離解除が始まった」といいます。習氏への配慮から「対策成功アピール」のため治療中の患者数を意図的に減らしていると指摘しました。

中国政府は、武漢市で18日に新規感染者が0人になったと発表しましたが、医師は政府の集計は「信頼できない」と断言しました。

中国を代表する北京大学からも「異論」が飛び出しました。

北京大学の姚洋国家発展研究院院長は20日までに、中央集権の強権統治の下、圧力を感じた地方の当局者が「新規感染を1例も出してはならない」と萎縮していると批判する「異例の論文」を発表しました。

姚氏は「ミスを許容しない」中央の姿勢を受け、新規感染が出た際の処罰や失職を恐れて、地方当局者が経済復興に取り組めないと指摘。地方行政に自主性と実権を与えるよう訴えました。

共産党一党独裁の中国で、習政権の意向に逆らうような発信が相次ぐのは極めて稀です。

これまで中国共産党は言論を抑圧してきました。ただ、新型コロナウイルスは感染症のため、真実を発信しなければ、自らの命にもかかわる問題にもなりかねないです。

知識人の間で、当局のウソに耐えきれず、真実を発信していこうとする機運が高まり、『言論の自由』の重要性が意識され始めた大きな変化です。これが、権力闘争一環である可能性もあるとする日本の識者もいるようですが、仮にそうであったにしても、これはかつての中国にはみられなかった重大変化です。

この言論統制の崩れが、いずれ民主化に結びつくかもしれません。この民主化はやがて、政治と経済の分離、法治国家化に結びついていく可能性は否定できません。

今回の事態が、体制崩壊に直結するとは考えられないですが、共産党独裁体制の維持に不可欠な『言論統制』が崩れ始めていることから、長期的にみれば、体制崩壊の兆しが見え始めているといえるかもしれません。そうして、これは中国の「すでに起こった未来」なのかもしれません。

冒頭の記事で、大原氏は「共産党発表の相手をしているのは国連と日本だけ」としています。ところが、中国共産党が武漢肺炎が終息したような発表をした後でも、中国から入国制限を緩めるべきとの声はこ起こっていません。これは、親中派とみられる人々の間からも起こっていません。

従来なら、少なくと多少は起こっていたに違いありません。特に親中派からは起こっていたに違いありません。ツイッターなどでは、「親中派は中国の発表を真に受けて、中国からの入国制限を緩めろというかもしれない」というものは見かけましたが、実際に「緩めろ」というものはありませんでした。これは、日本の「すでに起こった未来」なのかもしれません。

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2020年3月21日土曜日

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米中、新型肺炎の初動遅れで非難の応酬 双方の報道官もツイート

   米ホワイトハウスで定例会見を行うマイク・ポンペオ国務長官(手前右)と
   ドナルド・トランプ大統領(手前左、2020年3月20日撮影)

マイク・ポンペオ(Mike Pompeo)米国務長官は20日、中国政府に対し、新型コロナウイルスに関してもっと情報を他国と共有するよう求めた。一方の中国政府は、ポンペオ氏は米国の初動の遅れに関してうそをついており、米政府は責任転嫁しようとしていると非難している。

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領と同じく新型ウイルスを「中国ウイルス」と呼び、中国政府の怒りを買っているポンペオ氏は、ホワイトハウス(White House)で記者団に対し、新型肺炎に関して早くから把握していた中国政府には研究者への「特別な責務」があると述べ、「これは報復とは関係ない」と続けた。

 これに先立ちポンペオ氏は、FOXニュース(Fox News)のインタビューで、中国は新型コロナウイルスを特定するまで「何日も貴重な時間を無駄」にし、その間、武漢(Wuhan)から「数十万人」がイタリアなど世界各地に移動するのを容認したと主張。「中国共産党は適切な対応を怠り、その結果、無数の人命を危険にさらした」と述べていた。イタリアは死者数が中国を上回り、世界で最多となっている。

 中国外務省の耿爽(Geng Shuang)副報道局長は、北京で行った記者会見で、中国は「大きな犠牲を払って」世界の保健に貢献したと主張し、「米国には、病気の流行に対する中国の闘いに汚名を着せ、中国に責任転嫁しようとする人がいる」と述べた。

 中国の国営メディアは、トランプ氏お気に入りのSNSだが中国国内ではおおむね禁止されているツイッター(Twitter)に「#TrumpSlump(トランプ不振)」や「#Trumpandemic(トランプパンデミック)」などのハッシュタグ付きのメッセージを投稿して嘲笑。

 中国外務省の華春瑩(Hua Chunying)報道官は、中国は米国に対して1月3日にウイルスの発生を報告したにもかかわらず、米国務省が武漢在留米国人に警告したのは1月15日になってからだと指摘し、「今になって中国の対応が遅いと言うわけ?本当に?」とツイッターに投稿した。

 米国務省のモーガン・オータガス(Morgan Ortagus)報道官は引用リツイートで反論。「中国当局は1月3日までに#COVID-19ウイルスの検体の破棄を命じ、武漢の医師らの口を封じ、ネット上の世論を検閲した」と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についてハッシュタグ付きでツイートし、「この時系列の流れを世界は綿密に調べなければならない」と主張した。

【私の論評】中国共産党の大きな勘違い!彼らは、ウイルスの遺伝情報まで操作できない(゚д゚)!

新型コロナウイルスをめぐる、初動遅れに関する米中の非難合戦に関しては、明らかに中国側に非があるものと考えられます。しかし、中国がいくら強弁したとしても、中国の隠蔽は完璧に暴かれることになるでしょう。

なぜなら、ウイルスの遺伝物質から、感染経路だけでなく、世界での広がり方や封じ込めに失敗した状況が、最終的に分かる可能性が高いからです。

現在科学界では、ウイルスの感染拡大に伴う遺伝子変異を追跡することで、ほぼリアルタイムでウイルスの系統樹が作成されています。この系統樹は、感染が国から国へ飛び火する様子を特定するのに役立つといいます。

ブラジルの科学者たちは、2月下旬に国内初の新型コロナウイルスの感染例を確認した際、すぐにウイルスの遺伝子配列を解読しました。そして、すでにオンライン上で公表されていた150以上の配列(多くは中国からの情報)と照らし合わせました。

感染者はサンパウロ在住の61歳で、2月にイタリア北部のロンバルディア地方を旅行していたため、イタリアで感染した可能性が高いと思われていました。しかし、感染者のウイルスの遺伝子配列は、さらに複雑な履歴を物語っていました。それは、感染した状態で中国から来た渡航者が、ドイツでのアウトブレイクならびにその後のイタリアでの感染拡大に関連するというものでした。

ウイルスは流行と共に変異し、ゲノムの塩基がランダムに変わります。科学者たちは、そうした遺伝情報の変化を追跡することで、ウイルスの進化の様子や、最も密接に関連する事例を辿ることができるのです。最新の系統樹では、すでに多数の分岐が示されています。

新型コロナウイルスの遺伝子データは「ネクストストレイン(Nextstrain)」というWebサイトで追跡されています。ネクストストレインは、「病原体のゲノム(DNAのすべての遺伝情報)データの科学的・公衆衛生的な可能性を活用」するためのオープンソースの活動です。科学者たちがすみやかにデータを投稿しているおかげで、アウトブレイクとしては初めて、ウイルスの進化と拡散がかなり詳細に、ほぼリアルタイムで追跡されています。

ネクストストレインで示されている新型コロナウイルスの系統樹

ゲノムの探索は、封じ込め対策が失敗している場所を知るのに有効です。各国が、1つだけでなく複数の経路でウイルスに直面していることも明らかになっています。そして最終的には、遺伝子データから、大流行の最初の発生源を突き止められる可能性があります。


ブラジルでは、研究者が遺伝子データを用いて、最初の症例とその後に見つかった2番目の症例の間に密接な関連がないことがわかりました。2人の患者のウイルスから採取した遺伝子サンプルには、それぞれ別の場所で感染した可能性が高いことを示すだけの十分な違いが見られたからです。

患者の渡航歴と組み合わせた結果、ブラジルで判明した2つの症例は、それぞれ別の経路で国内にウイルスを持ち込んだことがわかったのです。
ブラジル政府は20日新型コロナウイルスの感染拡大を受け、非常事態を宣言。写真は、ボルソナロ大統領

新型コロナウイルスに対するワクチンがまだない現状では、感染者の発見や隔離といった積極的な公衆衛生対策が、ウイルスを食い止める最適な方法です。

その際、ウイルスの系統樹が役に立つのです。ウイルスの広がりを追跡し、封じ込めに成功している場所と失敗している場所を特定するのです。

この系統樹を活用すれば、どこで最初にウイルスが蔓延して、どのように感染していったかをトレースできるのです。

このトレースを恐れて中国は、情報を隠蔽あるいは捏造する可能性もあります。そうなると、中国の初動の遅れが、パンデミックの原因になったかもしれないことが、不明確になるのでしょうか。私は決してそうはならないと思います。

なぜなら、これは中国のGDP統計の統計が出鱈目であり、それを多くの経済学者らが、実証している事例があるからです。

たとえば、対中国の輸出と輸入からGDPを類推するという方式があります。中国のGDPの統計が出鱈目であったとしても、輸出、輸入の数値に関しては、中国だけではなく輸出国や輸入国のデータがあるので、それらの内容まで中国は操作できません。

そうなと、輸出、輸入の動きから、大体の中国のGDPの真の値を類推できるのです。そうして、そこから出てくる結論は、中国の公表するGDPの統計値は、出鱈目だということです。経済学者の中には、中国のGDPの値は日本以下どころかドイツ未満とする人も多いです。


このことからもわかるように、ウイルスの伝播についても、中国政府は中国国内については、隠蔽や操作もできますが、伝播した他国の数値まで隠蔽したり、操作することはできません。
そうなると、各々系統樹の頂点はどこになるのかを調査すれば、中国のどの都市かまで特定できないにしても、少なくとも中国であることか、あるいは中国のどの地域あたりかまでは、特定できることになります。実際、もうすでにかなり特定されているでしょう。
先にも述べたように、すでにオンライン上で公表されていた150以上の配列(多くは中国からの情報)があります。これについては、その後も提供され、今も提供され続けていると思います。
これらから、中国発のウイルスがどのように他国に伝播して、どのような感染をして、どのような結果になったのかをかなり詳細に分析できるはずです。
中国共産党は大きな勘違いをしています。彼らは、新型コロナウイルスの遺伝情報までも書き換えることはできないのです。この情報がある限り、中国は言い逃れはできません。
言い逃れしても、誰にも信用されません。中国人民の多くは、中国で武漢肺炎が終息しつつあるという中国政府の発表を信じていないようですが、正しい判断だと思います。
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2020年3月20日金曜日

【日本の解き方】米と「ケタ違い」だった日銀緩和 80兆円の量的緩和復帰すれば、財政出動の効果も発揮される―【私の論評】簡単なことがわからない日銀総裁と、日本の政治家(゚д゚)!


日銀黒田総裁

 米連邦準備制度理事会(FRB)は15日、ゼロ金利復帰と7000億ドル(約75兆円)規模の量的緩和を決めた。16日に前倒しした日銀の金融政策決定会合では上場投資信託(ETF)の買い入れ額を年6兆円から12兆円に増やすと公表された。

 筆者は事前に、FRBはゼロ金利と純増で5000億ドル程度の量的緩和を予想していたので、日本の円を安定化させるためには、日銀も同様の量的緩和が必要と考えていた。

 具体的には先日の本コラムに書いたように、80兆円ベースの量的緩和への復帰を思い描いていた。そうなれば、60兆円程度のマネタリーベース(中央銀行が供給するお金)の純増分が日米でほぼ同じなので、当面の為替の安定は確保できる。

 しかし、現在のイールドカーブコントロール(長短金利操作)政策から量的緩和への復帰に日銀内で抵抗があり、ETFの買い増しで対応するという情報が漏れ伝わってきた。これは、日銀事務局によるいわゆる「地ならし」だ。こうした話が出てくるのは、経験則上ダメな政策のときだ。筆者は決定会合の前に、「ETFの買い増しでは緩和の規模について日米間で桁が違って力不足になる」とツイートした。

 日銀が会合を16日に前倒したのはいいが、内容はやはり事前情報通りにETF購入額を6兆円から12兆円へ増やすというもので、純増は6兆円だった。

 これに対し、FRBは国債などの買い増しにより75兆円の純増だった。やはり、日米間で金融緩和の桁が違ってしまった。

 これに対して、国民民主党の玉木雄一郎代表から興味深いツイートがあった。「今、求められている政策は12兆円で株を買うのではなく、12兆円を家計に流すことだ。国債発行による給付と減税を大規模にやるしかない」というものだ。

国民民主党の玉木雄一郎代表

 12兆円を家計に流すというのは正しい政策だ。しかし、大規模な金融緩和を否定して、この政策を行うのは、必ずしも効果的でない。

 というのは「マンデル=フレミング効果」があるからだ。その原理をかいつまんでいえば、国債発行をすると、国内金利が海外と比べて高くなりがちなので自国通貨が高くなるというものだ。国債発行による財政出動で内需を拡大しても、為替高で外需が減少し、財政出動の効果が減殺されるというわけだ。

 提唱者のロバート・マンデル氏のノーベル経済学賞受賞業績にもなっているくらいなので、古今東西で事例が見られる。例えば2011年3月の東日本大震災後、大規模な財政出動をした際、円高に見舞われたのはその好例だ。

 こうしたメカニズムが分かっているので、財政出動と同時に金融緩和すれば、国内金利は落ち着き、自国通貨高にならずに、財政出動の効果がそのまま発揮される。

 要するに、消費増税の失敗と「コロナ・ショック」による影響はリーマン・ショック級なので、消費税5%への減税や1人10万円の給付金を実施すれば、25兆円程度の財政出動になる。同時に80兆円ペースの量的緩和への復帰が必要だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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上の記事では、「マンデル=フレミング効果」について語られてますが、これを定量的に理解するのは結構難しいところもありますが、ざっくりと理解し、現状の財政政策や金融政策を理解する程度にするのは、難しいことではありません。

以下に簡単に説明します。これが、経済理論的に厳密に正しいかどうかは、別にして、これくらいの理解でも、現状の財政政策や金融政策を理解するには十分役立つと思います。

マンデル・フレミング効果とは1960年代初頭に発表された経済モデルです。経済学者のロバート・マンデル氏とジョン・マーカス・フレミング氏が同時期に発表したことによって、両方の名前をとって名付けられました。

世界各国で認められたモデルで、ノーベル経済学賞も受賞しています。簡単に言うと変動相場制において、財政政策の効果は非常に低くなる、というものです。

財政政策とは政府が公共投資、給付金、減税、などの政策行い、市場にお金を流す政策です。市場にお金が供給されるので、景気の改善に繋がります。

しかし、マンデル・フレミング効果を踏まえて考察すると財政政策だけでは、景気対策に限りがあるということがわかります。

政府が財政政策特に積極財を行う時、国債を発行し銀行からお金を吸い上げます。そのお金で様々な対策を行えば、景気がよくなるはずです。しかしこれには、限界があります。

お金を銀行から吸い上げることにより、市中のお金が減少しますから、円高方向に進むことになります。吸い上げたことによる円高で、海外からの投資が増えるので、益々円高が加速することになってしまいます。

それによって、輸出産業に大打撃を与えるので、景気にも後退にも繋がるのです。公共投資による景気改善と、輸出による後退で、財政政策の効果がなくなってしまうのです。以下に財政支出が弱まる仕組みの図表を掲載します。


ただし、固定相場制だと、マンデル・フレミング効果は起こりません。固定相場制の場合、為替レートが決められています。市中からお金を吸い上げても、円高方向に進むことはありえません。

為替レートが変わらないのならば、輸出にダメージを与える心配はありません。このように固定相場制の場合はマンデル・フレミング効果は働かず、財政政策のメリットが非常に大きくなるのです。

では、日本のような変動相場制の国で財政政策の効果を出すにはどうしたら良いのでしょうか。財政政策と金融緩和を同時にやることです。

財政政策による円高が、無効化の原因であれば、金融緩和で市中に回る円を増やし、相違的に円高にならないようにすればいいのです。ちなみに、為替についてざっくりと説明すると、たとえば日銀が金融緩和を実行し、FRBが実行しなければ、相対的にドルよりも円が多い状態になりますから、円安になります。

これは、物価と同じように考えれば、すぐに理解できます。ある特定の物が非常多くなれば、その物の価格は安くなります。通貨も同じです。ある国が徹底的に緩和をして、他国が緩和しなければ、ある国の通貨は相対的に他国の通貨よりも多くなり、安くなります。

「そんな、簡単なことなの?」と思われる皆さんも、いらっしゃるかもれませんが、そんなに簡単なことなのです。無論、方向性としては、全く簡単ということです。

米国の作家・詩人チャールズ・ブコウスキー(写真)の言葉。『簡単なことを難しく言うのがインテリ。
難しいことを簡単に表現するのが芸術家。』

ただ、方向性がわかっても、日本国内や世界の情勢を理解し、どの程度の緩和をすれば良いかという定量的なことを計算するのは難しいかもしれません。しかし、これもある程度金融政策を実行してみて、緩和をしすぎれば、引き締めをし、緩和が足りないならさらに緩和するという具合で実行すれば、さほど難しくありません。

そのための目安として、日本には物価目標というのがあります。物価目標を達成し、さらに物価が上がり続ければ、緩和をやめれば良いのです。物価目標が達成できなければ、緩和を継続すれば良いのです。何も難しいことはありません。

これが、日銀の実行すべきことなのです。この簡単なことがわからないのが、他ならぬ日銀の黒田総裁であり、日本の大方の政治家なのです。もしかすると、日本では金融機関の人もわかっていないかもしれません。

情けない限りです。

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2020年3月19日木曜日

米国家安全保障会議、中国が「武漢コロナウイルス」を食い止めていないと声明で非難―【私の論評】反グローバリズムで中国は衰退し、新たな秩序が形成される(゚д゚)!

米国家安全保障会議、中国が「武漢コロナウイルス」を食い止めていないと声明で非難

習近平

国家安全保障会議(NSC)は17日、中国共産党がジャーナリストを国外に追放し、中国が起源となったウイルスを止めることに集中するのではなくその起源に関する偽情報を広めていることを非難した。

「中国と香港からジャーナリストを追放するという中国共産党の決定は、中国国民と世界から同国に関する本当の情報へのアクセスを奪うことに向けてのまた新たな一歩である。米国は、中国の指導者がジャーナリストを追放することと、武漢コロナウイルスを食い止めようとする全ての国に対して偽情報を広めることから関心を向け直すことを求める」とNSCは声明で述べた。

NSCの声明は、中国がニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナルの米国人ジャーナリストを追放すると発表したことを受けてのものだ。

「(中国共産党は)また、ボイス・オブ・アメリカ、タイム・マガジンを含めたそれらの報道機関が、中国政府に活動の詳細情報を提供するよう要求した。発表ではさらに、現在中国本土で活動する米国人ジャーナリストは、『香港とマカオ特別行政区を含む中華人民共和国でジャーナリストとして活動することを許可されなくなる』としていた。2つの地域は半自治区であり、理屈の上では本土よりも報道の自由が大きかった」とニューヨーク・タイムズは報じた

「世界が自由な報道活動を行う能力を中国が今日締め出すと決定した事を遺憾に思う。そうした活動があれば率直にいって中国国民にとっては本当に有益になるのだが。これは残念なことだ。彼らが再考することを願う」とマイク・ポンペオ国務長官は報道陣に語った。

ニューヨーク・タイムズのディーン・バケット編集長は中国の措置を非難し、「コロナウイルス・パンデミックに関する確かな情報が、自由で開かれた形で流通することを世界が必要としている時に、ことのほか無責任である」と述べた。

ワシントン・ポストのマーティン・バロン編集長は、「我々は、米国人記者を追放するための中国によるいかなる措置も明白に非難する。中国政府の決定がとりわけ遺憾であるのは、COVID-19に対する国際的な対応に関する明確で信頼できる情報が不可欠な、前代未聞の世界的危機の只中でのものであるためだ。その情報の流れを大幅に制限するという、現在中国が行おうとしていることは、状況を悪化させるだけだ」と述べた

ウォールストリート・ジャーナルのマット・マレー編集局長はツイートでこう述べた。「中国の報道の自由に対する前代未聞の攻撃は、前例のないほどの世界的危機の時に行われているものだ。中国から同国に関して信頼できる報道を行うことは、この上なく重要なものだった。我々は世界のどこであっても、政府が自由な報道に干渉することに反対する。中国について完全に深く報じることに対する我々の深い関与は不変だ」


ウォールストリート・ジャーナルのマット・マレー編集局長

中国はコロナウイルスの起源に関する偽情報を広めることを目指した必死のプロパガンダ活動を開始している。

外交問題評議会の上級研究員でアジア研究部長のエリザベス・C・エコノミーは、ニューヨーク・タイムズに、「習近平にとっての危機は、ウイルスが世界的に広がる中で、タイムリーな対応を遅らせることにおいて中国の統治制度が果たした役割が、国際社会からますます監視と批判を浴びることだ」と語り、プロパガンダは「責任を逸らし、何が本当に起きたかについての国際社社会からの誠実な釈明要求を避けるための、習による苦肉の策」であると述べた。

【私の論評】反グローバリズムで中国は衰退し、新たな秩序が形成される(゚д゚)!

中国が恐れているのは、世界の中国を見る目が変わることです。現状では、未だ武漢コロナウイルスが蔓延しているため、各国政府も、個々の国民もこれに対応することで精一杯で、中共を非難するよりもまずは、病気を食い止めることに注力しています。

しかし、これが一旦小康状態になるか、終息すれば、多くの人々から中国共産党や習近平に対する怨嗟の声があがるでしょう。

以前のこのブログにも掲載したように、
親しい人、愛する人を失った人々、感染してひどい目にあった人たち及びこれらに惻隠の情を禁じえない人々は、この不条理を生涯忘れないでしょう。自分の過ちを認めない、上から目線の中国共産党に対しては、世界中の多くの人々がこれを認めないでしょう。米国の対中国冷戦は、世界中の多くの国民から支持されることになるでしょう。 
たとえ、自国の政府が親中的であったにしても、支持するでしょう。
このような事態に遭遇した人たちは、ウイグルやチベットの人々に対してもさらに深い理解を示すようになるでしょう。迫害されている他の中国人民の気持ちも理解できるでしょう。
そもそも、中国共産党や習近平は巧みに論点をすり替えています。そもそも、武漢コロナウイルスの発生源など主たる問題ではないからです。発生源がどこであろうと、中国共産党が、武漢コロナウィルスによる肺炎が発生しているにもかかわらず、それを中国国内や海外に対してさえも隠蔽したことが問題なのです。

この隠蔽さえなければ、国内では武漢市内、もしくはもっと極限された地域だけで、感染を食い止められたかもしれません。そこまでいかなくても、中国国内だけで感染が食い止められた可能性が大きいです。特に、世界各国の支援を受け入れ、早めに防疫体制を整えていれば、今日のような事態を招くことはなかったでしよう。

しかし、中共が隠蔽したため、多くの国々が武漢コロナウイルスの備えを固めることができないうちに、侵入を許してしまったという、事実があります。この事実は、変えようがありません。

この隠蔽の事実と、世界に武漢コロナウィルスが蔓延しつつある事実は、中共がいくら発生源で論点をすり替えようとしても変えようがありません。

先に述べたように、今後武漢コロナウイルスの世界への伝播が小康状態になったり、終息した場合には、世界は大きく変わるでしょう。

それは、過去の世界史をみてみれば、わかります。たとえば、 強大な軍事力を背景に北はスコットランドから南はシリアまでを領地に繁栄をつづけたローマ帝国の衰退の一因に「疫病」がありました。

皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌス(121~180)のお抱え医師、ガレノスが当時蔓延した疫病について詳細な記録を残していました。この疫病は165年から167年にかけてメソポタミアからローマに到達したとされています。

皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌス(121~180)の像

この疫病では、多くの患者が血を吐いたされています。病人の顔が黒くなれば葬式の準備を始めたほうがいいともいわれたそうです。もちろん治る患者もいました。「黒い発疹」が出れば生き延びる可能性があったそうです。この疫病は、今では天然痘だったのではないかと見られています。総死亡者数は1000万人を超えたのではないかと推定されています。ローマでは毎日2000人が死んだともされています。

ローマ軍の軍人たちも罹患し、軍がガタガタになりました。それに乗じて一時はゲルマン人がローマにまで攻め込んできました。最終的には押し返したのですが、ローマ帝国の最強神話がぐらつくきっかけになりました。

皇帝マルクス・アウレリウスもこの病気で死んだといわれています。『ローマ帝国衰亡史』で知られるギボンは、「古代世界はマルクス・アウレリウス統治時代に降りかかった疫病によって受けた打撃から二度と回復することはなかった」と書いています。

このように、大きな疫病は、昔から流行した後に、世界を変えています。今回の武漢コロナウイルスによっても、終息後には世界は大きくかわるでしょう。

まずは、中国自体の弱化です。

武漢市の全面閉鎖に象徴される社会機能の麻痺により当然、経済は落ち込むでしょう。その結果、軍事に投入される国家資源も相対的に減ることになります。なにしろ国民多数の国内での移動や就業自体が大幅に制限されたのですから、総合的な国力が削られるのは自明です。

次に、中国をみる世界の目の変化です。

上でも述べたように、世界の多くの国は習近平政権が当初、ウイルスの拡大を隠し続けたことを非難しました。国際社会のそうした非難は当然、中国の孤立傾向を強めることになります。伝染病の流行までも隠蔽しなければならない独裁政権の異様な体質への国際的な忌避や嫌悪だともいえます。

そもそも中国はいま全世界を苦しめる武漢コロナウイルスの発生地であり、加害者です。日本も米国もそのウイルスから自国民を守るためには中国との絆を断つ動きをとらざるを得ないのです。

日本をはじめ多くの諸国が中国からの来訪者を入国制限をしました。これは、自国民保護のための自衛の防疫措置でしたた。しかし、その結果は中国との交流の縮小となり、中国は世界のなかで孤立に向けて押しやられることになりました。

三番目は、グローバリゼーションの変化です。

このウイルス拡散がグローバル化を阻み、縮小させる影響である。

グローバリゼーションとは、国家と国家の間で人、物、カネが国境を越えて、より自由に動く現象を指します。そのグローバル化は貿易の実例でも明らかなように世界全体、さらには人類全体に数えきれない利益をもたらしてきました。ところがそのグローバル化にも光と影がありました。

ウイルス感染症が中国から他の諸国へとすばやく拡大していったのも、グローバル化の産物でした。この危険なウイルスの国境を越えての拡散を防ぐためには、国境の壁を高く厳しくする措置が欠かせなくなります。国境を高くすることはグローバル化への逆行です。

米国のトランプ大統領は選挙公約にもはっきりとグローバル化への反対をうたっていました。トランプ大統領は、主権国家の重要性を強調した政治リーダーなのです。その米国で中国発生のウイルスへの対策として、中国との絆の縮小や遮断を説く声が起きるのも、自然な流れです。

このブログでも以前、トランプ政権のウイルバー・ロス商務長官は「このウイルスの拡散は雇用を北米へ戻すことを加速させる」と述べて、批判されました。

ウイルバー・ロス商務長官

仮にも中国の多数の国民を苦しめる感染症を米国の雇用を増すプラスの出来事として描写したことの不謹慎さを非難されたのです。ところが、今回のウイルス拡大がこれまで中国へ、中国へ、と流れていたアメリカ国内の生産活動の移動を元に戻す効果があることはまぎれもない事実です。

トランプ政権はウイルス拡散の以前から中国との経済関与を減らすことを政策目標にしていました。中国共産党政権の国際規範無視の膨張に反対するためでした。

ところが、このウイルス拡大はそのアメリカ主導の脱中国の動きを加速させ、中国に重点が移りかけていた全世界のサプライチェーンまでにも正面からブレーキをかけられることになったのです。まさにグローバリゼーションの大きな変化でした。

すでにコロナウイルスの感染者が多数出たイタリア、イラン、韓国などという諸国も多様な方法で中国との関与や接触を断つ方向への措置を取り始めました。グローバル化への逆行です。

ただし、このブログでも以前述べたように、中国の過剰貯蓄が世界の経済を変えてしまったところがあります。これが、グローバリゼーションの変化により是正される可能性があります。

1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えてしまいました。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰は、それまでとは異なるものです。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのです。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達することはありません。世界中で供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

この「長期需要不足」の世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくいのです。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができません。

ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからです。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのです。

中国の過剰生産は、凄まじいものがあります。先進国などでは、とうに倒産したようなゾンビ企業が、中国政府から補助金等の支援を受け製造を継続し、製品をつくりまくり、輸出をし続けたのですから、世界も供給過剰になるわけです。

しかし、今回の武漢コロナウイルスの蔓延をきっかけに、各国が中国から輸入を減らせば、世界の供給過剰はなくなるわけですから、世界経済は従来よりは良くなる可能性が高いです。

無論短期では、様々な問題が生じるでしょうが、それは決して克服ができないような問題ではありません。何しろ、中国が製造できるものは、先進国ではすべて製造できるものがほとんどだからです。ただ、自国で製造するよりも安いといういう理由で輸入してきただけです。

とはいいながら、世界は、グローバル化の恩恵を完璧に捨て去ることはできず、自由貿易のルールを守れない中国とその他の少数の例外的な国々が貿易圏をつくりその中で貿易を行い、他方では、自由貿易ができる先進国等の国々が貿易圏をつくり、その中で自由貿易を行うというように、変わっていくと思います。

ただし、自由貿易のルールが守れない、中国や他の国々など、徐々に衰退していき、いずれ消滅するのではないでしょうか。ただし、それらの国々も国民がいるわけですから、それらの国民が新たな国を設立して、自由貿易ができる国を目指すことになると思います。その時は、また世界はグローバル化の時代を迎えることになるでしょう。

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