2025年8月24日日曜日

参院過半数割れ・前倒し総裁選のいま――エネルギーを制する者が政局を制す:保守再結集の設計図


まとめ

  • 自民党は参院で過半数を失い求心力が低下したが、綱領に「保守」「改憲」を明記する本来の保守政党であり、保守系は“ガス抜き要員”ではないという立場を再確認した。総裁選は推薦人20人が必要で、運用次第で政局は大きく動く。
  • 現状打開には、自民党内保守×参政党の保守的潮流×日本保守党×草の根・保守メディア・論壇を横断連結して結束を固めることが要諦だ。
  • 国家運営の土台はエネルギーであるとの前提に立ち、短中期はLNGで安定を確保しつつ既存原発を活用、並行してSMRを立ち上げ、長期は核融合へ投資する「多層戦略」を採る。家計・企業負担となる再エネ賦課金は見直し(縮減・廃止)を争点化する。
  • 技術ロードマップは、SMRの国際連携・国内整備を進めつつ、核融合はJT-60SAで運転知見を蓄積し、ITERの工程(D-T運転の段階的開始見通し)と接続して2030年代の発電実証、2040年代の商用化を狙う。
  • 象徴的リーダーには高市早苗氏が最適と評価する。政・官・党の実務経験(経済安保担当相、総務相、政調会長)、安保・外交での一貫性、エネルギー戦略との整合性、世論調査での競争力という点で条件を最も満たす。
🔳いま何が起きているのか――政局の骨格
 

石破茂内閣は昨年秋に発足し、今年7月20日の参院選で与党(自民・公明)が過半数を割り、政権は上下両院で“少数与党”となった。総裁である石破首相が続投表明をしつつも、党内外から責任論と路線論が交錯する構図だ(選挙の結果と与党の過半数割れは nippon.comの選挙分析(日本語)同(英語) 参照)。

自民党のルール面を押さえる。総裁選は党則と「総裁公選規程」に基づき、立候補には国会議員20人の推薦が必要である。運営の細目は執行部の裁量余地が小さくないが、規程が示す枠(推薦人要件、投票主体など)が基盤である点は変わらない。自民党は「立党宣言・綱領」に保守政党であること、そして「憲法改正を目指す」ことを明記してきた事実も確認しておくべきだ。
 
🔳自民保守は“ガス抜き”ではない――勢力図と再結集
 
SNSの保守層が自民は「所詮ガス抜き」と辛らつな反応が目立つように

「自民党保守系は党のガス抜き要員にすぎない」という揶揄がある。だがこれは間違いだ。第一に、綱領上の自己規定は保守であり、改憲推進を掲げるという“党の芯”がある(前掲の綱領・改憲特設サイト 自民党 憲法改正実現本部 参照)。第二に、数の上でも保守色を持つ議員層が最大であることは衆目の一致である。確かに派閥資金問題を経て派閥は形式的に解体・縮小し(派閥解体の難しさを解説する論考 参照)、旧来型の“締め付け”は弱まった。だが、だからこそ理念軸での結束が効く。左派リベラル・対中融和的な結束の強さに押され、総裁選の力学で主導権を奪われたという反省は重い。ここからの反転には、保守が“同盟”を組むしかない。自民党内保守、日本保守党、参政党の保守層、他党保守系、草の根・メディア・論壇まで、横串に束ねる発想である。象徴としての人選は効果が大きい。たとえば高市早苗氏のように、改憲・安保・エネルギーに明快な旗を立てられる総裁像を担ぎ、以後は“数の力”を健全に回しながら、保守内部で政権交代が起こり得る仕組み(政策競争の土俵)を整えるべきだ、という提案である。

新勢力の動きも直視する。参政党は党員主導・草の根色の濃い“参加型”の運営を打ち出しており(公式の政策ページ)、保守層を含む大衆政党志向が強い。他方、日本保守党は綱領・政策の明確さが前面に出る“理念先導型”の保守政党で、エネルギー・税・移民などで明瞭な選好を提示している(党公式サイト /政策詳細は後述リンク)。7月の参院選で日本保守党は比例で議席を得て国政政党としての足場を固め、存在感を一気に増した(例:比例上位候補の当選報道として 毎日新聞の速報)。“破竹”の言を控えても、短期間での到達点としては十分に大きい。支持層の細かなデモグラフィックについては、公的な大規模データの公開がまだ限定的であるため、確定的断言は避ける。
 
🔳なぜエネルギーを最優先に据えるのか――安保・外交・改憲を支える土台
 
安保、外交、そして改憲。三つの論点はいずれも国家の大黒柱だ。だが、それらを支える“根太”がエネルギーである。供給が揺らげば、防衛生産も外交交渉力も財政運営も脆くなる。中東有事とホルムズ海峡への依存はアジアの急所であり、日本の脆弱性は繰り返し指摘されてきた(APの分析記事)。ゆえに、当面は安価で機動的な“つなぎ”のエネルギーとして、天然ガス(LNG)へのフォーカスを強めるべきだ。

そのうえで、中長期の“勝ち筋”を二本柱で描く。第一がSMR(小型モジュール炉)、第二が核融合だ。SMRは工場モジュール化で建設リスクを抑え、系統安定と産業熱供給の両面で使い勝手がよい。政府は国際連携で「2030年前後の技術実証」をめざす方針を示してきた(政策枠組みの一端は 経産省資料(英)資源エネ庁の解説記事(英)2025年版エネルギー白書・原子力章 参照)。規制は、推進(経産省・資源エネ庁)と規制(原子力規制委員会)の分離が前提で、独立性の高い三条委員会体制が安全確保の要である(原子力規制委の位置づけ解説)。

出典)© 2021 Joint Special Design Team for Fusion DEMO All Rights Reserved.(原型炉設計合同特別チーム)

核融合は「日本が勝ちにいける」戦略分野だ。国内では、JT-60SAが世界最大級の超伝導トカマクとして2023年10月に初プラズマ達成、統合試運転を重ねている(QSTのリリースFusion for Energyの発表)。国際協力の要であるITERは、2024年の「In a Few Lines」で工程を見直し、D-T運転開始は2039年見通しを公表した(ITER公式の要約ページマックスプランクIPPの解説)。日本政府も「2030年代の発電実証」に向け明確化を進める方向を示した(内閣府・フュージョン戦略(改定素案)文科省・委員会サイト)。

ここで再エネ賦課金だ。家計・企業コストの観点からは、電気料金の構造的圧力になっている。2025年度の標準的な賦課金単価は3.98円/kWhと公表されている(資源エネルギー庁の発表(英))。負担の見直し、とくに景気と産業競争力を重視する立場からは、賦課金の段階的縮減や廃止を求める声が強い。さらに、最近では国立公園内の釧路湿原にメガソーラを設置しようという動きすらあり、国民の多くが怒っている。日本保守党は政策として「再エネ賦課金の廃止」を明記しており、保守連合の共通公約に据えやすい論点である。

さらにガソリン税問題は単なる税制議論ではなく、日本のエネルギー安全保障や国家戦略の入口だ。本来、価格高騰時に税を止める「トリガー条項」は国民を守る仕組みだが、長年凍結され政治の怠慢を象徴している。

今こそ税制見直しを突破口に、石油依存の脆弱性や再エネの限界、原子力の現実的運用を含むエネルギー政策全体を再構築すべきだ。筆者の結論は明快だ。短中期は天然ガスを基軸に電力安定を確保しつつ、SMRを最速で立ち上げ、核融合は国家総力戦で前倒しする。その“橋”としての化石燃料重視は現実主義であり、安保・外交・改憲のいずれを進めるにも不可欠の土台である。

最後に、政局への帰結をもう一度明確にする。自民党は“左派リベラル・親中”に乗っ取られたという憤懣が保守層に強いのは事実だが、これは見方の問題でもある。派閥解体後の“自由化”で思惑が表に出やすくなり、結果として結束で劣った――それが敗因の核心である。ここからの挽回は、理念で束ねる横断連携と、象徴的リーダーの下で“勝てる政策”(とくにエネルギー)に集中投資することだ。保守はもう“ガス抜き”ではない。国家の屋台骨をもう一度組み上げる当事者である。
 
🔳象徴的リーダー――なぜ高市早苗氏なのか
 
高市早苗氏

結論から言う。現状で象徴的リーダーに最も相応しいのは高市早苗氏だ。理由は四つある。

第一に、経験と実績だ。高市氏は岸田内閣で「経済安全保障担当相」を務め、内政・技術・安全保障が交差する最前線で意思決定を担った。過去には総務相を歴任し、党内では政調会長も務めた(自民党公式プロフィール)。この“政・官・党”の三面経験は、エネルギー・半導体・安全保障が一体化する時代に強い武器である。

第二に、安保・外交での骨の通った姿勢だ。高市氏は保守色が明確で、歴史認識や安全保障で一貫していることは国内外メディアも繰り返し報じてきた(ロイターの人物紹介)。また、今年8月には台湾の頼清徳総統と会談し、供給網・新技術・防衛協力などで「価値観を同じくする国々の連携」を強調した(台湾総統府・英語リリース)。地域秩序の核心である台湾海峡と経済安全保障を一体で語れる政治家は、いまの日本に多くない。

第三に、エネルギー政策との整合性だ。自民党総裁選における原子力の扱いは常に争点だが、近年は「脱原発一辺倒」から現実路線への回帰が進み、候補者群の中で原子力を一定の役割として認める機運が強まっている(Japan Timesの総裁選と原子力を巡る分析同・原子力への姿勢の変化)。高市氏は経済安保の現場と接点が深く、LNG・既存原発・SMR・核融合という多層戦略を政治的に束ねる「顔」になり得る。

第四に、勝てる可能性だ。直近の報道ベースでも、高市氏は保守系の中核として世論調査で上位に位置づけられてきた(例:読売の支持率データを引く ロイターのまとめ記事)。もちろん、最終的な勝敗は派閥力学と都道府県連の動きに左右される。だが、保守を横断で束ねる“象徴”としての条件を最も満たしているのは高市氏である。

要するに、理念の明確さ、実務の厚み、外交安保の発信力、エネルギー戦略との整合性、そして選挙戦での実効性。この五点が合わさった政治家は希少だ。高市氏は“旗”を立てられる人材であり、保守再結集の号令役として最適任だと判断する。

参考・根拠(主だったもの)
(注)本文の主張のうち、価値判断・将来提案に属する部分は筆者の分析であり、事実部分は上掲の一次・準一次情報で検証可能である。リンクはすべて辿れる公開情報のみを用いた。

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2025年8月23日土曜日

釧路湿原の危機:理念先行の再エネ政策が未来世代に残す「目を覆う結果」


まとめ

釧路湿原は日本最大の湿地であり、未来世代に残すべき貴重な自然資本だ。しかし、その現場では政治の誤りや制度の欠陥が絡み合い、深刻な危機が進行している。
  • 小泉進次郎氏の再エネ推進や民主党政権の政策迷走が湿原の保護体制を弱め、開発圧力を高めた。
  • メガソーラー施設は2014年の数件から2023年には621件に急増し、規制や環境アセスメントの対象外で被害が拡大。
  • 河川直線化などで湿原の生態系は非可逆的変化を遂げ、人口減少や空き家問題など都市基盤の脆弱化も進む。
  • 再エネ賦課金は家庭に年間約1万9000円の負担を強い、中国製パネル依存や強制労働疑惑も懸念材料。
  • ドラッカーの保守主義の原理に反し、理念先行の政策が自然という社会資本を破壊し、未来世代への責任を放棄している。
🔳政治の誤算と環境政策の迷走
 
釧路湿原は日本最大の湿地であり、1980年には国内で初めてラムサール条約の登録湿地となった。世界的に価値ある自然環境として知られ、日本の象徴ともいえる存在だ。しかしその美しい景観の裏で、自然破壊の危機が静かに進行している。制度の欠陥、政治判断の誤り、国民負担の仕組み、安全保障や人権を脅かす構造が絡み合い、この湿原は今や我が国の環境とエネルギー政策の縮図となっている。
2020年、環境大臣だった小泉進次郎氏は国立公園内での再生可能エネルギー導入を推進する方針を打ち出し、規制を緩和した。理念を掲げながら現場を顧みないその政策は、釧路湿原の開発圧力を一気に高め、「最後の聖域を崩す愚策」として批判を浴びた。さらに2009年から2012年の民主党政権下では、エネルギー政策の迷走や優先順位の欠如、政治不信が地方行政や環境保全体制を弱体化させたと指摘される。釧路市政でも前市長の蝦名大也氏はメガソーラー規制に消極的で、条例制定は後手に回った。こうした政治の迷走が今日の危機を招いたのである。

湿原の周辺では、ここ10年で大規模太陽光発電施設、いわゆるメガソーラーが急増した。2014年には数件に過ぎなかった施設は2023年には621件にまで増え、釧路町や標茶町、鶴居村を含む周辺自治体でも50件から301件にまで急増した。「パシクル沼」周辺では330ヘクタールに及ぶ敷地で12万枚のパネルを設置する計画が進んでおり、湿原の景観と生態系は壊滅的な危険にさらされている。
 
🔳経済負担、安全保障、人権問題
 
農村部や国立公園外では太陽光パネルは「建物」と見なされず、建築規制の対象外であり、多くの事業が環境アセスメント義務からも外れている。積み重なる環境負荷が十分に評価されないまま、開発は加速している。釧路市は2023年に「建設不適切区域ガイドライン」を策定し、2025年には「ノーモア・メガソーラー宣言」を掲げ、10キロワット以上の事業を許可制とする条例を施行予定だが、施行前の駆け込み建設が続き、実効性には疑問符がつく。

湿原の生態系は一度壊れれば元には戻らない。戦後の治水事業や河川直線化で地下水位は下がり、土砂が堆積した結果、湿原はヨシやスゲの草地からハンノキ林へと変貌した。環境庁や研究者は河道の蛇行を復元し、AI解析で地下水位の回復を確認したが、植生は元に戻らず、湿原の変化は非可逆的であることが示された。釧路湿原の保全の難しさを象徴する事例だ。
再エネ賦課金は全世帯に毎月課されている 上は電気量の使用料明細

この現実を直視すれば、理念先行の政策の危うさは明らかだ。再エネ普及を名目に導入された「再生可能エネルギー発電促進賦課金」、いわゆる再エネ賦課金はFIT(固定価格買取制度)の財源となり、2025年度には3.98円/kWh、家庭の負担は年間約1万9000円に達する。だがこの仕組みは結果的に自然破壊を伴う開発にも資金を流し、国民は知らぬ間に破壊的プロジェクトの費用を背負わされているのだ。電気料金の高騰と相まって、この現実は国民の怒りを増幅させている。

さらに、太陽光パネルの大半が中国製であることも重大な懸念だ。パネルにはサイバー攻撃や情報流出の危険が指摘され、エネルギーインフラが外国依存となる安全保障上のリスクを抱える。加えて、多くのパネルが新疆ウイグル自治区での強制労働によって製造されているという国際的な告発もあり、人権問題としても看過できない。
 
🔳ドラッカーの警鐘と未来への責任
 
ここで、経営学の大家ピーター・ドラッカーの『産業人の未来』で説かれた「改革の原理としての保守主義」を思い起こす必要がある。

「保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である。」

釧路湿原の現状は、この原理を真っ向から踏みにじっている。自然という社会資本を守る責任を放棄し、未来への遺産を理念と短期利益で犠牲にしているのだ。これは保守主義の理念からかけ離れ、破壊的な冒険主義と呼ぶのに相応しい蛮行である。

野口健氏

一方で、希望の兆しもある。登山家で環境活動家の野口健氏は釧路湿原のメガソーラー計画に反対し、「犠牲が大きすぎる」と訴えた。彼の発信は全国で数千万件の閲覧を集め、著名人や文化人を巻き込んだ署名活動や抗議運動が広がった。釧路湿原の危機は今や国民的な議論となりつつある。

釧路湿原は単なる観光地でも教育素材でもない。国家の基盤をなす自然資本であり、我々の歴史と文化そのものである。この湿原を未来に残すか否かは、いまの判断にかかっている。政治も社会も「守るべきものを守る」という保守主義の真髄を取り戻さねばならない。

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2025年8月22日金曜日

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 ― 我が国外交の戦略的優先順位


まとめ

  • 安倍のインド太平洋戦略は米・豪・印との協力で中国抑止を現実化し、米国に採用された国際秩序の柱となった。
  • 石破の「インド洋–アフリカ経済圏」構想は戦略的裏付けを欠き、外交資源を分散させインド太平洋戦略を弱めかねない。
  • 安倍は「安全保障のダイヤモンド」でQuadを実現したが、石破には国際的な知的発信の実績がない。
  • 外交には優先順位が不可欠であり、課題を並列処理すれば「モグラ叩き」に終わる。
  • 日本にとって最優先は中国抑止であり、インド太平洋戦略に注力すれば他の課題も整理される。
我が国の外交において、いま改めて問われるべきは「何を優先すべきか」という戦略的視点である。安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」は、国際社会において高い評価を受け、米国をはじめ主要国の政策にも取り込まれた。対して、石破首相が打ち出した「インド洋–アフリカ経済圏」構想は、一見すると壮大に聞こえるが、現実的な安全保障の裏付けを欠き、外交の優先順位を見失わせかねない。いま必要なのは、新しいスローガンではなく、安倍路線を冷静に再評価し、我が国外交の戦略的集中を見極めることである。
 
🔳石破政権の「インド洋–アフリカ経済圏」構想の危うさ
 

石破首相が打ち出した「インド洋–アフリカ経済圏」構想は、一見すれば新たな国際ビジョンのように映る。しかし実態は戦略的裏付けを欠いた空虚なスローガンにすぎない。むしろアフリカに重点を移すことで外交資源を分散させ、インド太平洋戦略の比重を意図的に薄めようとしている可能性すらある。

現実には、アフリカはすでに中国の「一帯一路」に深く浸透されている。日本が後追いで経済圏を打ち出しても大勢を覆すことは困難だ。結果として、東アジアでの抑止力を弱め、米国・インド・豪州との連携を緩める危険すらある。
 
🔳安倍晋三氏「安全保障のダイヤモンド」との比較
 
project Sydicateでは安倍氏のインド太平洋戦略に関する功績を解説している

決定的な差は、戦略の知的基盤にある。安倍晋三氏は2012年、国際論壇「Project Syndicate」に寄稿した論文「Asia’s Democratic Security Diamond(安全保障のダイヤモンド)」で、日本・米国・インド・オーストラリアの連携こそが海洋の自由と安定を守る要であると訴えた。

この論文はやがてクアッド(Quad)の枠組みへと結実し、米国が採用するインド太平洋戦略の布石となった。世界の世論を動かす力を持ち、自由主義陣営の安全保障の礎を築いたといえる。

石破氏にはこうした知的発信の実績が見られない。彼が「Project Syndicate」や国際論壇に寄稿し、世界の知識層を動かした事実は確認されていない。理念を掲げても国際的裏付けを欠けば、それは単なる看板倒れに終わる。安倍と石破の差はここに尽きる。
 
🔳安全保障上のリスクと優先順位の原則


外交・安全保障政策において最も恐ろしいのは、課題を無秩序に並べ、同時に処理しようとする姿勢だ。それはモグラ叩きに似ており、結局どの課題も解決しない。

最優先課題に集中し、これを突破すれば、二番目・三番目の課題も自動的に片付くことが多い。現状を見れば、日本にとって最優先すべきはインド太平洋戦略であり、中国の拡張を抑えることである。ここに全力を注げば、他の地域での問題も自然と整理されていく。

インド洋やアフリカへの関与を否定するものではない。実際インド太平洋戦略においても、アフリカを無視しているわけではない。それは、上のイメージでも明らかである。しかし、それは中国抑止の次に来るべき課題である。そのことを安倍ははっきりと示した。優先順位を誤れば、資源は浪費され、抑止力は失われ、同盟国の信頼も揺らぐだろう。外交の道は、スローガンを競うことではなく、現実の優先順位を見極め、そこに国家資源を集中させることに尽きる。

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2025年8月21日木曜日

製造業PMI49.9の真実──外部環境ではなく政策の誤りが経済を蝕む


まとめ

  • 製造業PMIが49.9となり、2カ月連続で縮小。輸出受注は17カ月ぶりの低水準に沈み、世界経済の減速や円高、コスト高が重なり製造業を直撃している。
  • 外部要因以上に国内政策が深刻。日銀は金利を高止まりさせ円高を招き、銀行はリスクを避けて中小企業や新産業への資金供給を怠り、低金利でも資金が実体経済に届かない。
  • 財政政策も失策。防衛費や社会保障に偏重し、成長を支える公共投資や法人減税は後回し。消費税・社会保険料の重負担が内需を冷やし、研究開発支援も不足している。
  • エネルギー政策の迷走。再エネ偏重投資と原発再稼働の遅れで電力コストが高騰し、企業は国内投資を避けて海外へ拠点を移し、産業空洞化を招いている。
  • 安倍政権期との差が決定的。異次元緩和や公共投資、法人減税で外部ショックを和らげた当時とは対照的に、現政権は外部要因を逆に増幅させ、経済の体力を奪っている。

🔳製造業PMI49.9が突きつけた現実
 

2025年8月、日本の製造業活動を示すPMI(購買担当者景気指数)の速報値は49.9となった。50を下回れば縮小を意味する。二カ月連続の縮小であり、景況感が悪化していることは明白だ。

直近のPMI推移を見ると、2025年春先には急落した後、持ち直しつつも依然として50を下回る局面が続いていることが分かる。7月に一時50.0まで回復したものの、8月には再び49.9へと縮小領域に戻った。つまり、日本の製造業は「底打ち感が出ては後退する」という不安定な状態にあり、構造的な弱さが数字に現れている。

今回の数字で際立つのは輸出の落ち込みだ。新規輸出受注は17カ月ぶりの低水準に沈んだ。背景には世界経済の減速がある。アメリカや欧州で需要が鈍り、日本の主力輸出品である自動車や電子部品に冷たい風が吹いている。そこへ追い打ちをかけるのがトランプ政権による通商政策の不透明さであり、さらに円高傾向が輸出採算を直撃している。加えて原材料費や人件費の高騰、物流の混乱といった国内要因が企業の体力を削っている。

製造業は日本経済の柱である。その縮小が続けば、設備投資は鈍り、雇用は減少し、景気全体を押し下げる。もはや単なる統計数字ではなく、日本経済の行方を左右する危険信号である。

🔳外部要因以上に深刻な国内政策の失敗
 
ただし問題の核心は、外部環境よりも国内の政策にある。日銀は「物価安定」を掲げながら金利を高めに維持し、円高を招いている。欧米が景気減速に合わせて緩和的な政策をとるなか、日本だけが逆行している。これでは輸出依存度の高い製造業が打撃を受けるのは当然だ。


さらに問題なのは、低金利の環境にあるはずなのに企業への資金供給が滞っている点だ。銀行は自己資本規制に縛られリスクを取らず、国債や大企業向け融資に偏重する。新規事業や中小企業への融資は後回しにされ、ベンチャー企業や成長産業には資金が流れない。低金利でも資金が回らなければ、設備投資も研究開発も停滞する。日銀の金融政策は「蛇口を開いたのに水が流れない」状態に陥っており、実体経済に届かないのだ。

財政政策も同様だ。防衛費や社会保障費が膨張する一方、成長を下支えする投資や法人減税は後回しにされてきた。その結果、製造業は研究開発支援も税制優遇も十分に受けられない。消費税や社会保険料の重荷は内需を冷やし、国内市場までも痩せ細らせている。

エネルギー政策の迷走も深刻だ。再生可能エネルギーに偏重投資しながら、採算性も安定供給力もないまま進めた結果、電力コストは高止まりしている。さらに原発再稼働は政治的理由で遅れ、安定した電源が確保できない。エネルギーが不安定で高コストであれば、企業は国内投資をためらい、生産拠点を海外に移すのは当然だ。これが日本の産業基盤を空洞化させている。

AIや半導体、そしてエネルギー産業といった国家の未来を担う分野への投資も不十分であり、日本は世界の成長潮流に取り残されつつある。PMI49.9という数字は、こうした政策の失敗が積み重なった帰結にほかならない。

🔳安倍政権との比較と「数字を複数で読む」視点

思い起こされるのは安倍政権時代だ。2014年から2016年にかけて、世界経済の減速と原油安で輸出は停滞し、PMIが50を割る場面もあった。だが当時は「異次元緩和」と呼ばれる金融政策を展開し、量的・質的緩和やマイナス金利政策によって長期金利を押し下げた。結果として円は1ドル=80円台から120円台へと進み、輸出企業の収益を支えた。さらに公共投資や法人減税も実施され、政策が外部ショックを緩和する役割を果たした。

日銀黒田総裁と安倍首相(当時)

ところが現在の石破政権下では逆の構図になっている。金利は相対的に高止まりし、円は強含みで、輸出企業の競争力を削いでいる。財政も防衛費と社会保障費に偏り、成長分野への投資は置き去りにされたままだ。外的要因を和らげるどころか、逆に増幅させているのである。

ここで忘れてはならないのは「数字を一つだけ見てはいけない」ということだ。マスコミはPMI49.9という数値を取り上げ、「縮小だ」とだけ報じる。しかし実態を知るには複数の数字を合わせて見る必要がある。新規輸出受注が17カ月ぶりの低水準に落ち込んでいること、円相場が円高に振れていること、企業物価指数(PPI)が高止まりし、消費者物価指数(CPI)が家計を圧迫していること。これらを突き合わせると、単なる景況感の悪化ではなく、政策の誤りが外部ショックを拡大させている姿が浮かび上がる。

結論は明快である。今回のPMI49.9は「外部要因の影響を受けた一時的な落ち込み」ではない。国内の金融・財政政策の失敗が、日本経済の体力を奪い、外的ショックを深刻化させているのである。安倍政権時代に可能だった「政策で緩衝材を作る」という発想は今や影も形もない。数字を複数組み合わせて読むことで、その深刻さは誰の目にも明らかだ。

【関連記事】

今回のPMI低迷の背景には、金融政策や財政運営の誤り、通商交渉の失策、そしてエネルギー政策の迷走が絡み合っています。より深い理解のために、以下の記事もぜひご覧ください。

減税と積極財政は国家を救う──歴史が語る“経済の常識”  2025年7月25日
拡張的財政政策の歴史的根拠を示し、今の日本が取るべき方向性を説いています。

景気を殺して国が守れるか──日銀の愚策を許すな  2025年8月12日
日銀の金融政策が景気を冷やす構造的問題を明らかにし、政策転換の必要性を訴えています。

日米関税交渉親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊  2025年8月8日
通商交渉の弱体化が製造業を直撃するリスクを分析しています。

トランプ半導体300%関税の衝撃、日本が学ぶべき『荒療治』 2025年8月4日
米国の通商政策の転換点と、それにどう対応すべきかを論じています。

日本経済を救う鍵は消費税減税! 石破首相の給付金政策を徹底検証  2025年6月19日
財政刺激策の比較を通じて、消費税減税の効果を検証しています。

2025年8月20日水曜日

殉職した消防士の犠牲を忘れるな――命を懸ける職業を見殺しにするな

まとめ

  • 道頓堀火災で消防司令・森貴志さん(55歳)、消防士・長友光成さん(22歳)が殉職し、他に消防隊員や市民も負傷した。勇敢な献身に深い敬意と追悼を捧げる。
  • 現場のビルは過去に消防法違反を指摘されながら是正されず、構造的欠陥と杜撰な管理が被害拡大を招いた。
  • 新宿・歌舞伎町火災や京都アニメーション放火事件など国内の事例、ロンドン・グレンフェル火災やフィリピン工場火災など海外の事例と同じく、「避難経路の脆弱さ」「規制の甘さ」「管理不備」が共通している。
  • 我が国は短期的に「完了確認制度」の徹底、避難訓練の強化、消防ドローン導入など緊急対応が必要である。
  • 中長期的には建材不燃化の徹底、防火通路確保を前提とした都市再開発、「防災コミュニティ」の制度化を進め、都市防災を抜本的に強化すべきである

まずは、道頓堀の火災で殉職した消防司令・森貴志さん、消防士・長友光成さんのお二人に、心からの追悼を捧げたい。お二人は市民の命を守るため、まさに命を懸けて炎に立ち向かった。その献身と勇気は尊い犠牲となり、ご遺族の無念を思うと胸が張り裂ける思いである。また、負傷された消防隊員や市民の方の一日も早い回復を祈らずにはいられない。

そして忘れてはならないのは、我が国には常に命を賭して国民を守る人々がいるという事実だ。消防士だけではない。自衛隊、海上保安庁、そして警察。彼らが昼夜を問わず、危険を顧みず任務にあたっているからこそ、我々は安心して暮らすことができる。今回の惨事は、その存在の尊さを改めて突きつけた。
 
🔳道頓堀火災の全貌


火災が発生したのは2025年8月18日午前9時50分、大阪・道頓堀の繁華街にある雑居ビルだった。戎橋からほど近く、人通りの絶えない観光の中心地である。火は発報からわずか2分で猛烈に燃え広がり、黒煙が川沿いの街を覆った。炎は隣の建物にも延焼し、最終的に約100平方メートルが焼け、鎮火までに9時間を要した。

この消火活動の最中、悲劇が起きた。森司令(55歳)と長友消防士(22歳)が6階で倒れているのが見つかった。死因は酸素欠乏による窒息である。天井の崩落によって退路を断たれたとみられる。彼らは3人1組で建物に進入したが、脱出できたのは1人だけだった。さらに消防隊員4人と市民1人が負傷し、病院に搬送された。命に別状はなかったが、現場がいかに苛烈であったかは想像に難くない。

このビルは以前から問題を抱えていた。2023年の立ち入り検査で、火災報知機の不備や避難訓練の未実施など6項目の消防法違反が指摘されていたのである。そのうち4項目は改善されないまま放置されていた。狭い道路と川沿いという立地も災いし、はしご車が使えない。雑居ビル特有の構造的欠陥と、杜撰な管理体制が重なり、被害を大きくしたのは明らかだ。

横山市長は「建物の崩落により避難中に命を落とした可能性がある」と述べ、大阪市消防局は事故調査委員会を設置して原因究明と再発防止にあたる方針を示した。だが、これは単なる一火災の話ではない。繁華街に密集する雑居ビルが抱える危険を白日の下にさらした事件なのである。
 
🔳国内外の火災が示す教訓

過去を振り返れば、同じような悲劇は繰り返されてきた。2001年の新宿・歌舞伎町の雑居ビル火災では44人が死亡し、避難経路の欠陥と法令違反が指摘された。2019年の京都アニメーション放火事件では、逃げ道の脆弱さが被害を拡大させた。複雑な構造と防火設備の欠如――今回の道頓堀火災もその延長線上にある。

2017年のロンドン・グレンフェル・タワー火災

世界を見れば、我が国だけの問題でないことは明らかだ。2017年のロンドン・グレンフェル・タワー火災では、外壁材の可燃性パネルが炎をビル全体に広げ、72人が死亡した。2015年のフィリピン・靴工場火災では、施錠された脱出口が労働者の命を奪い、70人以上が犠牲となった。共通点は「逃げ道の脆弱さ」「規制の甘さ」「管理体制の放置」である。道頓堀の火災も同じ構図だ。

雑居ビル火災は国や地域を問わず、法令違反と管理不備が悲劇を生むという普遍的な構造を持つ。だからこそ我が国も規制強化と監督の徹底を避けて通ることはできない。

🔳我が国の都市防災に求められる改革

では、我が国は何をすべきか。まず短期的には、違反是正が完了するまで営業を許さない「完了確認制度」の徹底が急務だ。さらに繁華街のビルに対する緊急避難訓練を義務化し、利用者を巻き込んだ実戦的な訓練を年数回行うべきである。加えて、消防用ドローンや小型無人偵察機を導入し、狭隘地での初動対応を迅速化する。これらはすぐにでも実行可能な施策だ。

避難訓練

一方で中長期的には、建築基準法や消防法を改正し、建材の不燃化を徹底することが不可欠だ。ロンドンの悲劇が示したように、資材規制の厳格化は急務である。また、繁華街再開発の際には防火通路を確保する「都市防災リデザイン」が求められる。そして地域ごとに「防災コミュニティ」を制度化し、自治体・事業者・住民が一体となって平時から訓練を重ねる体制を築かねばならない。

短期施策と長期改革を両輪として進めることで、道頓堀火災の悲劇を真の教訓にできる。我が国の都市防災を進化させることができるかどうか――今こそ政治と行政に決断が求められている。

【関連記事】

国家の危機管理体制や法整備の脆弱さを告発する内容。火災対応に必要な制度整備の必要性とも合致。

減税と積極財政は国家を救う──歴史が語る“経済の常識” 2025年7月25日
経済政策と危機対応の両立が防災政策の継続可能性を支えるという観点で、都市基盤の強化にも通じる議論を展開。

東日本大震災14年 教訓を次に生かす決意を 早期避難が津波防災の鉄則だ 2025年3月11日
震災の記憶が風化しつつある現実に警鐘を鳴らし、耐震基準の強化や避難施設の整備、迅速な避難の重要性を説く。
緊急時に現場の声をどう政策に反映させるか、文民統制と危機対応力の関係にも通じる示唆を含む内容。

火災の海自掃海艇が転覆 沈没の恐れも、乗組員1人不明―【私の論評】日本の海上自衛隊が国を守る!掃海艇の重要性と安全保障の最前線 2024年11月
海自掃海艇の火災・転覆事故を通じて、最前線で国を守る海上自衛隊の重要性と危機管理の現実を論じた記事。

2025年8月19日火曜日

秘密は守れてもスパイは捕まえられない――対中・対露に無防備な日本の法的欠陥


まとめ
  • 2025年8月15日、政府は閣議で答弁書を決定し、日本が「スパイ天国」と呼ばれているとの見方を否定した。
  • れいわ新選組の山本太郎代表が提出した質問主意書に対し、政府は「情報収集・分析体制の強化」や「違法行為の取り締まり」を理由に挙げた。
  • しかし、日本に存在するのは特定秘密保護法や国家公務員法などの守秘義務を課す法律にとどまり、外国のスパイ活動そのものを処罰する法律は存在しない。
  • そのため、政府が答弁で強調した「違法行為の取り締まり」は実際には空虚であり、スパイ活動の未然防止や摘発はほとんど不可能な状態が続いている。
  • 英国や米国、ドイツ、フランス、オーストラリアではスパイ行為を明確に犯罪化し、外国勢力の影響活動についても登録や監視の制度を導入しているのに比べ、日本は法的に無防備であり、早急に実効性あるスパイ防止法を整える必要がある。
政府は8月15日、れいわ新選組の山本太郎代表の質問主意書に対する答弁書を閣議決定した。その中で日本について「スパイ天国」との評価を否定し、「情報収集・分析体制の充実強化」や「違法行為の取り締まりの徹底」に努めていると強調したのである。

山本氏の質問主意書は、国会の公式文書として参議院のサイトに公開されている。件名は「『日本はスパイ天国』という評価及び『スパイ防止法』制定に関する質問主意書」。令和七年八月一日に提出され、同月十五日に答弁書が出された。本文では、国会でたびたび指摘されてきた「スパイ天国」という言葉や「抑止力が全くない」との発言を引用し、政府の認識とその根拠を問う内容となっている。
 
🔳「違法行為の取り締まり」は空文にすぎない
 
閣議に臨む石破首相

確かに日本はここ十年、防衛省や警察庁を中心にインテリジェンス体制を拡充してきた。その点をもって「情報収集・分析体制の強化」は事実と言える。しかし問題は「違法行為の取り締まり」である。政府はあたかもスパイ行為を取り締まる法が存在するかのように答弁しているが、実際にはその根拠法は存在しない。

日本にあるのは、国家公務員法や自衛隊法による守秘義務、そして特定秘密保護法といった「秘密を守らせる」法律だけだ。外国の指示で情報を収集する行為そのものは、犯罪として規定されていない。したがって逮捕や勾留の根拠がなく、現行法では重大な既遂事態、たとえば外患誘致や国家転覆に至らなければ動けない。これは取り締まりとは言えず、事後処罰にすぎない。
 
🔳他国の制度との圧倒的な差
 
こうした現実を踏まえれば、「日本にはスパイ防止法は不要」という見解は完全に的外れである。秘密を守る法はあっても、スパイを捕まえる法が欠けているのだから抑止力など生まれない。だからこそ、外国スパイにとって日本は格好の活動拠点となっているのである。

英国の対外諜報機関である秘密情報部(Secret Intelligence ServiceSIS)通称MI6の建物


他国はどうか。英国は2023年の国家安全保障法で、スパイ行為や外国勢力の干渉を包括的に犯罪化し、外国影響活動の登録制度を導入した。米国は1917年のスパイ防止法を基盤に経済スパイ法や外国代理人登録法を重ね、刑罰と透明化の両面で抑止を強めている。ドイツは刑法で外国情報機関の活動を独立の犯罪として規定し、国外犯にも管轄を及ぼす。フランスは「国家の基本的利益」を守る概念を中核に据え、平時からスパイ行為を広く処罰できる。オーストラリアは2018年の改正で準備行為まで処罰対象とし、外国影響活動を登録させる仕組みも導入した。いずれも犯罪化と透明化、そして監視体制を組み合わせている。

🔳日本が直視すべき現実

かつて日本に滞在し米国に亡命したレクチェンコ氏は日本をスパイ天国と証言(写真はレクチェンコの外国記者証)

これに比べれば、日本はあまりに無防備だ。山本氏の質問主意書は、その空白を浮き彫りにした。政府は「スパイ天国ではない」と強弁するが、根拠法が欠けている以上、言葉遊びにすぎない。必要なのは、スパイ行為そのものを定義し、準備段階から処罰できる刑事法制である。加えて、外国勢力の影響活動を登録させる透明化の仕組みを整え、同時に乱用を防ぐため司法審査や国会報告、公益目的の活動に対する明確な除外規定を置くことが欠かせない。

要するに、日本には「秘密を守る法」はあるが「スパイを捕まえる法」がない。この核心的な欠陥を放置したままでは、同盟国との信頼も揺らぎ、わが国は諜報戦の時代に取り残される。山本太郎氏の質問主意書は、その事実を突きつけたのである。今必要なのは、答弁の言葉ではなく、実効性あるスパイ防止法を一刻も早く整備することだ。

【関連記事】

国家の内側から崩れる音が聞こえる──冤罪・暗殺・腐敗が… 2025年8月4日
日本が先進国で唯一「包括的なスパイ防止法を持たない」現実を指摘し、制度の空白がどのように諜報活動や国家転覆に悪用されてきたかを鋭く論じた記事です。法制度の欠如が国家の脆弱性につながる構造を提示しています。

次世代電池技術、機微情報が中国に流出か 潜水艦搭載を検討中 経産相「調査したい」―【私の論評】…スパイ防止法を制定すべきである 2025年3月2日
先端技術の流出という安全保障と直結するテーマから、スパイ防止法の整備が必要である理由を具体的に示す記事です。

中国で拘束の大手製薬会社の日本人社員 起訴―【私の論評】スパイ防止法の必要性と中国の改正反スパイ法に対する企業・政府の対策 2024年9月9日
国家間の諜報・情報収集を巡る事例を通じ、日本の制度的対応の遅れを指摘した内容。スパイ防止法の必要性を具体例と共に論じています。

日本の基地に配属の米海軍兵、スパイ罪で起訴―【私の論評】スパイ防止法制定を、日本の安全を守るために 2024年4月2日
日本がスパイ行為への法的対応に遅れをとっている現状を、米国との比較も交えて論じた記事。制度整備の遅れがいかにリスクを高めるかが示されています。

産総研の中国籍研究員を逮捕 中国企業への技術漏洩容疑―【私の論評】LGBT理解増進法よりも、スパイ防止法を早急に成立させるべき 2023年6月15日
具体的スパイ事件を通じて、日本にはスパイ取り締まりの根拠法がなく、制度的脆弱性を露呈している点を訴える力強い内容です。

2025年8月18日月曜日

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然

 まとめ

  • 石破総裁誕生の裏側には「高市早苗だけは総理にしない」という派閥横断の一致があり、保守派は数の力に慢心して油断した。
  • 2024年6月に自民党公式組織「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」が設立され、安倍派系議員が外交・安全保障で具体的提言を始めている。
  • 高市排除の動きは橋下徹氏の発言にも現れており、保守派こそ党内に残るべきで、リベラル左派や親中派が党を出て行くべきだ。
  • 官僚機構は政治理念ではなく天下り利権のために政治へ不当介入し、その結果、我が国の混乱が周辺国を利している。
  • 自民党や立憲民主党の「選挙互助会」的体質は制度疲労を起こしており、政治家は信条ごとに再編し、官僚支配を排して政治改革を急がねばならない。
🔳石破総裁誕生の裏側と保守派の油断


安倍派潰しは石破政権から始まったのではない。発端は岸田政権であり、石破政権はそれをさらに徹底・強化したのである。裏金問題は検察が不起訴としたにもかかわらず、マスコミと連携して巨悪のごとく描き出し、党内手続きの誘導──たとえば次の選挙での公認取り消しなど──にまで利用した。これは「高市早苗だけは総理にさせない」という思惑と直結していた。

総裁選の裏側では、さまざまな旧派閥にまたがる一派が、徹底して高市排除に動いた。メディアを使ったイメージ操作、党内人事を利用した圧力、さらには資金問題を口実にした議員への恫喝。あらゆる手段が総動員され、「高市だけは阻止する」という一点で一致団結したのである。その結果、石破総裁が誕生した。一方で、自民党内で最大の数を誇った保守派は、数の力に慢心し、結束を欠いた。この油断こそが致命傷となった。
 
🔳 保守派の反撃と「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」

しかし保守派は反撃を試みている。2024年6月に設立された「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」は、自民党の公式組織であり、安倍派系議員を中心に立ち上げられた。この組織は、他の類似団体とは異なり、党の正式な枠組みに位置づけられ、外交・安全保障政策で具体的な提言を繰り返している。最近では、南西諸島防衛の強化や日米豪印の連携深化に関する政策提案を行い、党内に一定の存在感を示している。

そこまで言って委員会NP「迷言・暴言」で上半期を大総括!石破総理編も
 
この流れの中で、2025年8月10日放送の読売テレビ『そこまで言って委員会NP』で、橋下徹氏が「自民党が割れるのは大賛成」「高市氏が覚悟を持って割って出られるか」といった趣旨の発言をした。高市早苗氏は8月12日にXでこれへ反論。これは、発言の是非は別にして、いかに自民党内で高市排除が進められているかを象徴する発言である。

しかし自民党の党綱領には「保守政党であること」「憲法改正を目指すこと」が明記されている。ならば、出ていくべきは保守派ではなく、リベラル左派や親中派である。小沢一郎氏には数々の問題があるにせよ、自民党を飛び出し自らの信条を掲げたという一点では、岸田や石破より筋が通っていた。自民党内のリベラルや親中派もまた、小沢氏にならい、自らの旗を掲げて出て行くべきだ。
 
🔳官僚機構の暗躍と政治改革の急務


看過できないのは、官僚機構の暗躍である。財務省や日銀をはじめとする官僚は、政治理念からではなく、天下り先でのリッチな生活を望むという低俗な動機で、政治に不当に介入している。官僚の利権支配は、財政政策や金融政策の停滞を招き、国内の混乱を深める一方で、中国、北朝鮮、ロシア、韓国といった我が国を取り巻く国家を利する結果となっている。

いまや自民党も立憲民主党も、保守からリベラル、左派、親中派までが同居する「選挙互助会」に堕している。この制度疲労を抱えたスタイルは、もはや時代遅れだ。政局の動きは、保守、リベラル、親中、反中といった信条ごとに政党を再編すべき時代の到来を示している。そして政治家は、この混乱を一刻も早く乗り越え、真の政治改革を断行しなければならない。さもなければ、我が国は再び官僚と外国勢力に蹂躙されることになる。

【関連記事】

【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊 2025年8月8日
通商交渉における専門性の欠如から国益を損ねる危険性を論じた。

石破茂「戦後80年見解」は、ドン・キホーテの夢──世界が望む“強い日本”と真逆を行く愚策 2025年8月6日
「80年談話構想」の思想的偏向と保守派排除としての政治的意味に切り込む。

安倍暗殺から始まった日本政治の漂流──石破政権の暴走と保守再結集への狼煙 2025年8月2日
総裁選の裏側(高市排除の構図)や保守再結集の流れを深掘り。

衆参同日選で激動!石破政権の終焉と保守再編の未来 2025年6月8日
選挙を契機にした保守派の再編が具体的に描かれており、再編の必然性を示す。

与党過半数割れで少数与党か石破退陣か連立再編か…まさかの政権交代も 衆院選開票後のシナリオは―【私の論評】高市早苗の離党戦略:三木武夫の手法に学ぶ権力闘争のもう一つのシナリオ 2024年10月28日
高市氏の戦略的離党の構想を論じ、反高市包囲の構図と保守派が取るべき戦略を展開。


2025年8月17日日曜日

トランプ半導体300%関税の衝撃、日本が学ぶべき「荒療治」


まとめ

  • グローバリズムの幻想:自由貿易と国境なき経済は理想ではなく幻想であり、米国産業を衰退させ、中国を肥大化させる仕組みとなった。
  • グローバリズムが生んだ中国の台頭:WTO加盟を機に中国は国際市場で支配力を強め、知財流出や技術吸収を進め、米国企業も短期利益に溺れた。
  • トランプの荒療治と反グローバリズム:最大300%の半導体関税は、グローバリズムを撃ち抜く象徴であり、経済政策と政治戦術の両面を兼ねる。
  • 日本の失策とグローバリズムの影響:内需大国でありながら、日銀ショックで自ら経済を縛り、外需依存の幻想に囚われた。
  • 結論と政策提言:日米両国がグローバリズムの呪縛から脱し、内需大国としての潜在力を取り戻すことが、自由世界の安定を支える決定的な一手となる。そのために日本では金融・財政政策の立て直しと官僚機構の刷新が不可欠。
🔳グローバリズムという呪文とその帰結
 
20世紀終盤グローバリズムこそ正義という無邪気な熱病が世界を支配した

20世紀の終盤、世界は「グローバリズム」という名の呪文に酔いしれた。国境をなくせば経済は活性化し、すべての国が豊かになると喧伝された。米国はその先頭に立ち、自国の製造業を海外へ移すことを繰り返した。なぜそんな暴挙を許したのか。それは「金融業さえ残れば米国は繁栄できる」という幻想があったからだ。

この政策が最も恩恵をもたらしたのは中国である。2001年、米国が強力に後押しして中国をWTO加盟へ導いたことは歴史的転換点だった。以来、中国は国際ルールの隙を突き、国際市場に浸透し、製造業をのみ込み、利益を吸い上げた。米国企業も短期的利益に目がくらみ、積極的に中国へ投資した。だがその裏で、中国は国家的規模の工作を展開し、先端技術の吸収、知的財産の奪取、影響力拡大を進めた。

つまり、グローバリズムは美辞麗句の陰で米国の産業を衰退させ、中国の台頭を許す最大の仕組みとなったのである。
 
🔳トランプの「300%関税」と日本に刻まれた日銀ショック
 
エアフォースワンから降り立ったトランプ大統領

こうした幻想を真っ向から叩き壊したのがトランプ前大統領である。彼は「アメリカ第一」を掲げ、グローバリズムの果実ではなく、その副作用に光を当てた。そうして、それは米国の内需を拡大することをも意味する。米国の輸出がGDPに占める割合は、戦後長らく輸出がGDPの7%以下(1950年代~60年代)にとどまっていた。それが今日では、10%以上になっている。トランプはこれを元に戻そうとしている。その象徴が「最大300%の半導体関税」だ。2025年8月15日、トランプ氏はエアフォースワン機内で記者団に「来週か再来週にも関税を設定する」と宣言した。導入は段階的で、まずは低率から始め、最終的に200〜300%にまで引き上げる構想を示した。

ここで重要なのは、これは単なる経済政策ではなく政治戦術でもあるという点だ。国内向けには「雇用を守る最後の砦」というメッセージを放ち、支持層を固める。国際的には交渉カードとして機能し、中国や同盟国との駆け引きに使われる。まさに経済と政治を重ねた「爆弾」である。

一方、日本はどうか。日本は米国の過去と同じく、本来「内需大国」であった。輸出依存度は1980〜90年代でも8%前後の一桁台にとどまり、国内市場の力だけで経済を回す潜在力を持っていた。1990年代初頭、バブル経済が崩壊したとされるが、実際の物価指数を見ると必ずしも過熱ではなかった。にもかかわらず日銀は急激な金融引き締めに踏み切り、資産市場と実体経済を同時に冷却した。これこそバブル崩壊ではなく、「日銀ショック」である。さらに追い討ちをかけるように、財務省は、緊縮財政に走った。日本は自らの内需を縛り付け、衰退を招いたのだ。

つまり、日米両国は本来「内需大国」として自立した経済構造を築いていたのである。日本の貿易立国は、幻想に過ぎない。日米ともに内需を伸ばして経済を拡大した国なのである。これは、両国の経済を調べれば、認識できる事実である。
 
🔳グローバリズムを超える内需大国の逆襲

今日、真の内需大国は日米しか存在しない。2010年代後半から2020年代初頭にかけて、EC諸国は「非市場リスク」に限定した規制を導入した。これは過度な輸出支援が市場歪曲を招くことへの警戒からであり、その内容は環境基準を満たさない製品の輸出制限、労働条件が不適切な環境で生産された製品の輸入制限、さらには消費者保護の観点から安全基準を欠いた製品やデータ保護規制に違反した企業のデータ国外持ち出しの制限などを含んでいた。しかし、欧州主要国や中国・韓国は輸出依存度が高く、現状では外需が止まれば経済が停滞する。だからこそ、日米がグローバリズムの呪縛から脱し、内需主導の成長モデルへと舵を切ることが、自由世界の安定を支える決定的な一手となる。

トランプの300%関税は、その荒々しさゆえに副作用を伴うだろう。しかしその背景には、グローバリズムがもはや幻想にすぎないという冷厳な現実がある。日本もまた「外需頼み」という思考停止から抜け出し、内需の潜在力を信じて政策を組み立て直すべきである。

潜在能力に満ちた日本

そして何より、内需拡大は「規制緩和」「技術投資」「国土再開発」といった表層的スローガンだけでは達成できない。第一にマクロ経済政策、すなわち金融・財政政策の立て直しが不可欠だ。そのためには財務官僚や日銀官僚の硬直した思考を改めさせるか、それが不可能なら新たな人材に入れ替えるしかない。ここにおいて日本は、トランプの荒療治から学ぶべきだ。

グローバリズムの呪文に踊らされた時代は終わった。グローバリズム反対を陰謀論とする時代は、終わった。21世紀後半の秩序を決めるのは、内需を覚醒させられる国家である。日米がその道を選ぶか否か——特に日本がそれを選択するかどうかが自由世界の未来を決するのである。

【関連記事】

財務省職員の飲酒後ミスが引き起こした危機:機密文書紛失と国際薬物捜査への影響 2025年6月27日
官僚機構の劣化が国益を揺るがす事例。日本の「官僚刷新」の必要性を説いた本記事の問題意識と強く結びつきます。

高橋洋一氏 中国がわなにハマった 米相互関税90日間停止 日本は … 2025年4月15日
米中の関税応酬を分析しつつ、雇用回復と消費拡大を導いた「内需回帰」の効果を論じた記事。トランプの荒療治と直接リンクします。

米国売り止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む 2025年4月13日
米国の財政・通貨政策が内需とグローバリズムの板挟みにある現実を描写。自由世界経済の持続性という観点で重要。

「AppleはiPhoneを米国内で製造できる」──トランプ政権 2025年4月9日
製造業回帰を通じた内需拡大の象徴。グローバリズム依存からの脱却を掲げる政策の典型例で、日本への示唆が大きい。

習近平の中国で「消費崩壊」の驚くべき実態…!上海、北京ですら 2024年9月2日
「内需を軽視した国の末路」を映し出す好例。日本にとっても教訓的で、本記事の「内需立国復帰」の主張と相互補完的です。

2025年8月16日土曜日

米露会談の裏に潜む『力の空白』—インド太平洋を揺るがす静かな地政学リスク

 まとめ

  • トランプ・プーチン会談は、米露関係改善の可能性を示す一方で、背後には米国がロシアを対中戦略の一部に取り込もうとする思惑がある。
  • ロシアは経済制裁や戦線維持の負担から、完全に中国に依存し続けたとしても余裕がなく、交渉に応じざるを得ない可能性が高い。
  • 中露関係は表面的には堅固に見えるが、歴史的には「氷の微笑」に過ぎず、根底では利害が完全一致していない。
  • 米露接近が進めば、東欧戦線や黒海周辺で抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が生じ、第三国や非国家主体が介入を試みるリスクが高まる。
  • 日本はこの「力の空白」がインド太平洋地域にも波及し、台湾有事や北方領土問題で安全保障環境が急変する危険性を見落としてはならない。

ドナルド・トランプ前米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領の会談は、単なる米露接触ではない。そこには米中露三角関係を揺るがす可能性と、「力の空白」をめぐる地政学的な駆け引きが潜んでいる。日本のマスコミは、この会談を「米露接近=中国有利」と短絡的に片付ける傾向がある。しかし現実はもっと複雑で、場合によっては米国がロシアを対中包囲網に引き込む布石にもなり得る。その含意を理解せずに未来を語ることは、国益を危うくする。
 
米露会談の真の背景
 
米露会談の共同声明

今回の会談の背景には、ウクライナ戦争の長期化、経済制裁によるロシア経済の疲弊、そして米中対立の激化がある。バイデン政権下で冷え切った米露関係だが、トランプは「ディール型外交」で条件次第の手打ちを否定しない人物だ。

米国にとって中国は、経済・軍事・技術の全てで長期的かつ包括的な脅威であり、冷戦期のソ連以上に手強い存在だ。ゆえに、米露対立を緩和し、ロシアを部分的にでも中国から引き離す戦略的価値は大きい。

もっとも、現状の中露関係は密接に見える。だがエドワード・ルトワックが評したように、それは「氷の微笑」に過ぎず、長期的信頼関係ではない。歴史的に両国は国境をめぐって何度も衝突してきた。米国はその構造的不信を利用しようとしている。
 
手打ち条件と「力の空白」
 
ロシアは中国陣営に残るのか?

米国がロシアとの条件交渉に臨む場合、ウクライナ戦線や対中関係が重要な取引材料となる可能性がある。特に「中国陣営に残るか否か」が手打ちの条件に含まれることは十分考えられる。

プーチン政権がこれを受け入れるかは別問題だが、ロシアは経済制裁と戦争の負担で余裕を失いつつある。条件次第では、戦略的譲歩を迫られる局面も出てくるだろう。

この時、東欧戦線や黒海周辺では抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が発生する。これは単なる軍事的隙ではなく、第三国や非国家主体(民兵組織、テロ組織、海賊集団など)が行動を開始する契機となる。歴史的に、このような空白は必ず地域の不安定化を招く。
 
日本への波及と今後の展望

インド太平洋地域

「力の空白」は地理的に遠くても日本に無関係ではない。黒海や東欧での抑止低下は、国際秩序全体のバランスを崩し、中国や北朝鮮といった勢力が太平洋での冒険主義を加速させる口実となる。特に南西諸島や台湾周辺の安全保障環境は、欧州情勢の影響を受けやすい。

さらに、米国が対中戦略を優先してロシアとの対立を緩和すれば、米国のアジア太平洋への軍事資源配分が増える半面、米国の中国への圧力はさらに強まり、日本は「最前線の同盟国」としてより強力な役割を求められる可能性も高い。

今後の展望として、米露接触は短期的には東欧情勢を流動化させるが、長期的には米中対立の主戦場をアジアに集中させる力学を強めるだろう。日本はその渦中に置かれ、「他人事」で済ませられる余地はない。

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2025年8月15日金曜日

力の空白は必ず埋められる―米比の失敗が招いた現実、日本は同じ轍を踏むな

まとめ

  • 2025年8月11日、南シナ海スカボロー礁で中国のミサイル駆逐艦と海警船が衝突。現場はルソン島から120カイリでフィリピンEEZ内にあり、2016年の仲裁裁判所判断にも反し中国は威圧的行動を継続している。
  • 衝突はフィリピン船を追尾していた中国駆逐艦に海警船が接触したもので、海警船は艦首を損傷。救助の申し出に中国側は応答せず、国際法に反する危険な行為とされる。
  • 翌12日、米海軍が駆逐艦「USS Higgins」と沿岸戦闘艦「USS Cincinnati」を派遣し、スカボロー礁近海で航行の自由作戦を実施。2019年以来の展開で米比同盟と国際法秩序の擁護を示した。
  • 背景には1991〜1992年の米軍フィリピン撤退があり、これが力の空白を生み中国の南シナ海進出を許した。その後EDCA締結や中距離・対艦ミサイル配備で米比は抑止力回復を進めている。
  • 日本も防衛力や同盟基盤を弱めれば中国・ロシア・北朝鮮に利用される恐れがあり、米比の過ちを繰り返さず、理念を支える現実の力による抑止を維持・強化すべきだ。
🔳南シナ海で再燃する緊張
 
スカボロー礁近海で、中国人民解放軍のミサイル駆逐艦と中国海警局の巡視船が衝突

2025年8月11日、南シナ海のスカボロー礁近海で、中国人民解放軍のミサイル駆逐艦と中国海警局の巡視船が衝突する異常事態が発生した。現場はルソン島からわずか120カイリ、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置する。2016年の常設仲裁裁判所は、中国が主張する「九段線」を退け、同礁におけるフィリピンの伝統的漁業権を認めたにもかかわらず、中国公船はフィリピン船に対する威圧的な追尾や遮断を繰り返してきた。今回もフィリピン船を追尾していた中国駆逐艦に中国海警船が衝突し、海警船は艦首を大きく損傷。フィリピン側の救助申し出に対し、中国側から応答は確認されていない。このような力による現状変更は国際法の枠組みと相容れず、極めて危険で容認できない行為である。衝突の瞬間は、公開映像の37秒付近で確認できる(映像リンク)。

翌12日、米海軍はアーレイ・バーク級駆逐艦「USS Higgins」と沿岸戦闘艦「USS Cincinnati」を派遣。スカボロー礁から約30海里(約55キロ)の海域で「航行の自由作戦(FONOP)」を実施した。スカボロー礁近海での米艦行動は2019年以来とみられ、米比同盟の結束と国際法秩序を守る強い意志を示した。

中国人民解放軍南部戦区は「米艦が中国の許可なく侵入した」と非難し、「追い払った」と発表した。しかし米第7艦隊はこれを真っ向から否定し、「国際法に基づく正当な航行権の行使だ」と主張。USS Higginsは任務を終え、自発的に離脱したと説明した。両国の発表は真っ二つに割れたままである。スカボロー礁は、仲裁裁判所の判断にもかかわらず、中国の実効支配が進んだ象徴的な地点だ。
 
🔳米比の過去の誤算とその代償
 
中国が南シナ海を自国の「歴史的権利のある海域」として主張するために地図上に引いた九段線

この事態の根には、1991〜1992年の米軍撤退という歴史的な判断がある。当時、フィリピン上院は米軍基地延長条約をわずか1票差(11対12)で否決し、コラソン・アキノ大統領は議会の意思を覆せず、撤退を受け入れた。その結果、クラーク空軍基地は1991年に、スービック海軍基地は1992年に閉鎖・返還され、米軍はフィリピンから完全撤退した。米国側も賃料や核兵器の持ち込みを巡って譲歩を渋り、交渉は決裂。フィリピンにとっては「主権回復」の象徴であったが、戦略的には力の空白を生み、その空白を中国が突いて南シナ海での影響力を急速に拡大した。2012年のスカボロー礁対峙でフィリピンが後退し、中国の支配が既成事実化したのは、その延長線上にある。

その後、米比両国は失われた均衡を回復するため動いた。2014年の防衛協力強化協定(EDCA)によって米軍はフィリピン国内の指定施設にアクセスできるようになり、2023〜2024年にはEDCA対象拠点の拡大とともに、タイフォンやNMESISなどの中距離・対艦ミサイルを段階的に配備した。今回のFONOPも、その戦略の延長線上にある。単なる示威行動ではなく、国際法秩序を現実の力で裏付ける是正措置だ。
 
🔳日本への警鐘
 
中国、ロシア、北朝鮮に隣接する日本

この歴史は明確な教訓を突きつけている。米比が1990年代初頭に犯した最大の過ちは、抑止力の基盤を軽視し、政治的感情と短期的な交渉不調で長期的な安全保障を損なったことだ。その空白は中国によって埋められ、地域のパワーバランスを根底から変えた。米比が今進める再軍備と同盟強化は、単なる失地回復ではなく、過去の戦略的失敗を正す試みである。

そして、この教訓は日本にとっても他人事ではない。我が国が防衛力や同盟基盤を弱めれば、その隙は必ず中国、ロシア、北朝鮮に利用される。彼らは既成事実化や軍事的圧力で勢力を拡大してきた実績を持つ。外交辞令や国際法の条文だけでは、こうした現実を押し返すことはできない。米比のように抑止力の空白を許す愚を繰り返してはならない。守るべきは、理念だけではなく、それを支える確かな力である。これを怠れば、我が国の安全と主権は一気に脅かされるだろう。

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2025年8月14日木曜日

「力の空白は侵略を招く」――NATOの東方戦略が示す、日本の生存戦略


 まとめ

  • NATOはロシア・イラン・中国への対抗のため、防衛ラインをバルト海から黒海、東地中海へと拡大し、力の空白が生じれば敵が必ず攻勢に出るという現実を踏まえて行動している。
  • バルト三国やポーランドへの強化前方配備(eFP)、黒海沿岸での海上プレゼンス、東地中海での監視・抑止体制など、兵力配置とインフラ整備を伴う実戦的な包囲網を形成している。
  • ドイツはリトアニアに第45装甲旅団を恒久配備し、Leopard 2A8戦車44両とPuma歩兵戦闘車44両を含む部隊を展開予定。オランダ・ノルウェーはF-35をポーランド上空に配備し、ポーランドは「東の盾」構想で国境防衛網を強化している。
  • NATOは欧州防衛にとどまらず、極東からの日米の牽制やインド太平洋・中東との安全保障連携も重視し、イランの核脅威や弾道ミサイルへのBMD体制強化にも取り組んでいる。
  • 日本もロシア・中国・北朝鮮の三正面の脅威に直面しており、NATOのように防衛戦略を地域限定からグローバル視野へ拡張し、多域での安全保障ネットワークを構築する必要がある
🔳力の空白とNATO東方防衛ラインの現実

2008年のグルジア侵攻を皮切りに、2014年のクリミア併合が追い打ちとなり、バルト海から黒海、さらには東地中海へ――安全保障の包囲網が現実のものとなった。ここで見逃せないのは、力の空白が生まれれば、必ず敵が押し込んでくるという冷徹な現実である。クリミア併合も、2022年のウクライナ全面侵攻も、その典型だ。抑止力が弱まり、国際社会の対応が鈍った瞬間、ロシアは迷いなく領土拡張に動いた。


上の地図では、NATOが築き上げた東方防衛ラインの全貌が一目で分かる。バルト三国やポーランドに展開する強化前方配備(eFP)、黒海沿岸諸国での海上プレゼンス、東地中海における監視・抑止体制、さらにリトアニアに恒久配備されたドイツ第45装甲旅団の位置まで、視覚的に把握できる構成になっている。地図を見れば、NATOの包囲線が単なる抽象的戦略ではなく、実際の兵力配置とインフラ整備によって現実に存在することが理解できるだろう。
 
🔳 強化される兵力配置と軍事インフラ

軍事インフラと機動力も飛躍的に向上した。バルト海から黒海に至る兵站ルートは、高速道路や鉄道の軍事利用に対応し、部隊の迅速展開を可能にした。2025年4月には、ドイツがリトアニアに第45装甲旅団(Panzerbrigade 45)を恒久配備。将来的には約4,800人の兵士と200人の文民スタッフを擁し、203装甲大隊にはLeopard 2A8戦車44両、122歩兵戦闘大隊にはPuma歩兵戦闘車44両を配備する予定だ(theguardian.com, de.wikipedia.org)。この旅団は2027年に完全戦力化を目指す。


同時に、オランダとノルウェーはF-35戦闘機をポーランド上空に配備し、24時間体制の警戒を構築中だ。2024年には「Steadfast Defender 2024」と称する約9万人規模の大演習が行われ、早期展開能力と多ドメイン戦闘力が一段と高まった。ポーランドでは「East Shield(東の盾)」構想の下、ロシア・ベラルーシ国境に電子監視、物理的障壁、AIセンシングを組み込んだ防衛網を整備している。
 
🔳欧州を超えたグローバル抑止と日本への教訓

NATOは欧州だけを見ているわけではない。極東からの日米による牽制も望んでいる。日本はNATOのパートナー国として首脳会議に出席し、共同訓練やサイバー・宇宙分野でも協力を進めている。在日米軍と自衛隊のプレゼンスは、ロシア極東への戦略的抑止力だ。

中国との対峙でも役割を果たす。イランの核脅威や弾道ミサイル、さらに中東の不安定化は、NATOのBMD(弾道ミサイル防衛)導入を促す契機となった。2016年ワルシャワ首脳会議ではBMDの初期運用能力が宣言され、2025年にはイランの核兵器開発阻止が議題となった。ホルムズ海峡封鎖などが現実となれば、欧州経済にも直撃するため、軽視できない脅威である。

EUはNATO首脳会議に毎回招待され、参加。 (2016年7月8日、ワルシャワで開催されたNATO首脳会議)

これらすべては、多方面からロシアと中国を消耗させる「現代版・二正面作戦」の構図である。欧州防衛だけでなく、インド太平洋、中東まで視野に入れたグローバルな抑止構造だ。そして、この戦略の根底にあるのは「力の空白を作らない」という鉄則である。空白は、必ず敵の侵略を招く。

この教訓は我が国にも突き刺さる。日本もロシア、中国、北朝鮮という三正面の脅威に直面している。だからこそ、NATOのように防衛戦略を地域限定からグローバル視野へと拡張すべきだ。同盟国との多域連携を強化し、経済、サイバー、宇宙、海洋といった全方位の安全保障ネットワークを築くことこそ、未来の抑止力と国益を守る道である。

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