2023年6月12日月曜日

「16日解散説」急浮上 岸田自民党は〝大惨敗〟か 小林吉弥氏「過半数割れ危機も」 有馬晴海氏「今しか勝てるタイミングない」―【私の論評】LGBT法案成立で、百田保守新党ができあがる(゚д゚)!

「16日解散説」急浮上 岸田自民党は〝大惨敗〟か 小林吉弥氏「過半数割れ危機も」 有馬晴海氏「今しか勝てるタイミングない」


 岸田首相は、6月21日までの国会会期末を前に、衆院解散を検討している。立憲民主党は、首相不信任案を提出する構えで、与野党間で駆け引きが続いている。

 岸田首相は、防衛力強化や少子化対策などの重要課題に取り組んでいるが、財務省の影響が色濃い安易な増税路線には批判が根強い。さらに、党内外に批判が噴出したLGBT法案や、自衛隊機への韓国軍艦船のレーダー照射事件を棚上げした日韓防衛協力など、国益を逸脱するような外交・内政に世論の不信感が増している。

 政治評論家の伊藤達美氏は「自民党は議席を減らす。単独過半数を確保するかが焦点だ。立憲民主党は、それ以上に議席を減らすだろう。馬場伸幸代表の日本維新の会は伸ばすだろうが、急速な勢力拡大で〝飽和状態〟だ。そもそも、統一地方選の年は、地方議員は動かない。自民党には公明党との連携の課題があり、明確な争点もない。理想的な選挙時期は9月あたりではないか」と語った。

 政治評論家の小林吉弥氏も「自民党の『惨敗』『過半数割れ危機』もあり得る。現状では、岸田自民党には『消極的な支持』しかない。東京選挙区での公明党との選挙協力の調整がつかず、全国に波及して、公明支持者の間で『自主投票』になるリスクもある。最悪の場合、大物数名を含む50~60人が危機に立つ」と指摘した。

 ある自民党議員も「G7広島サミットで上昇した支持率は、首相の長男、翔太郎元秘書官の不適切行動や、LGBT法案をめぐる右往左往で霧散した。予想外の惨敗になりかねない」と語る。

 少し違う見方もある。

 政治評論家の有馬晴海氏は「今しか、岸田自民党が勝てるタイミングはない。岸田首相は前回衆院選で勝利した経験からも前倒しで、16日に『奇襲作戦』に出るかもしれない。自民党は現有の議席から若干落とすだろう。立憲民主党は伸びない。日本維新の会や参政党などの躍進も考えられる」と分析する。

 さまざまな情勢分析があるなか、岸田首相は決断するのか。小林氏は「焦って解散を打ち、敗北すれば、党内で『岸田降ろし』が加速する可能性もある。岸田首相は慎重だろう。『秋口の臨時国会冒頭解散』の方が、公明党との調整期間もあり、増税や、財源の議論が本格化していないため、惨敗は免れる」と語っているが…。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】LGBT法案成立で、百田保守新党ができあがる(゚д゚)!

LGBT法案成立が16日らしいとされていることと、天皇、皇后両陛下が17〜23日にインドネシアを訪問されるので、6月16日解散がうわさされているようです。


陛下が外国訪問中、国事行為である解散を臨時で代行することは可能ですが、現行憲法下で天皇陛下の外国訪問の間に解散された例はないです。先例で今国会中に解散するなら16日という見方があるようです。

私自身は、上の誰の発言かは知りませんが、「G7広島サミットで上昇した支持率は、首相の長男、翔太郎元秘書官の不適切行動や、LGBT法案をめぐる右往左往で霧散した。予想外の惨敗になりかねない」という意見に賛成です。

さてこうした中、面白い動きがでてきました。ベストセラー作家で保守論客としても知られる百田尚樹氏(67)が、LGBTなど性的少数者への理解増進法案が成立すれば、「保守政党を新たに立ち上げる」と宣言したのです。

自身のユーチューブチャンネルで10日、明らかにしました。LGBT法案が成立すれば社会の根幹をなす家庭や、皇室制度が崩壊し、日本が徹底的に破壊される恐れがあると指摘し。同法案を推進する岸田文雄首相(総裁)率いる自民党はもはや支持できないと訴えました。


百田尚樹氏が保守政党の立ち上げを宣言することで、政治にいくつかの影響が生じる可能性があります。以下にいくつかの推論を示します。

1. 政治的対立の深化: 百田氏が新たな保守政党を立ち上げる場合、これは既存の政党との競争関係を生み出すことになるでしょう。保守派の有権者の中には、百田氏のように性的少数者への理解増進法案に反対する人々もいるかもしれません。その結果、既存の保守政党と新党の間で政治的対立が深まる可能性があります。

2. 保守政治の意識形態の変化: 百田氏が新たな政党を立ち上げることで、保守派の意識形態に変化が生じる可能性もあります。現代の政治環境では、LGBTなどの性的少数者の権利や社会的包摂がますます重要視されてきたものの、それに反対する勢力もあります。

特に、性自認に関しては、科学的に明らかにされておらず、本人がその時々で、「自分は女」「自分は男」とする場合もあり、これが社会に大混乱をもたらす可能性もあります。実際に、海外では、そのような事例があります。LGBに関しては、許容できても、これだけは許容できない保守層も大勢います。以下にこの危険性について、わかりやすいツイートがあるので、以下に掲載します。

また、LGBT法案にそのような危険が潜んでいることを理解していない人も、選挙などでこれらが明らかになれば、これを忌避する人が増える可能性もあります。

もし保守政党がこの問題に対して進歩的であるとして、これを許容するようなスタンスを取るようになれば、保守派のイメージや政策立案に変化が生じる可能性があります。これだけは、絶対に許容できないという保守派も多いです。これらの人々が、百田新党を待望する可能性もあります。

3. 保守勢力の分裂: 百田氏が保守政党を立ち上げると、既存の保守政党の支持者の中には、彼に賛同する人々が新党に移る可能性があります。これによって既存の保守政党の支持基盤が分断され、保守勢力が分裂する可能性があります。この場合、保守派の票が分散されることで、他の政治勢力の有利に働く可能性もあります。

確かにそういう危険性はありますが、自民党にせよ、立憲民主党にせよ、政治信条が異なる者同士が、選挙のためだけに、政党を選挙互助会のように使い、政治信条は二の次という現状はいずれ打破しなければならないでしょう。

4. 政治的競争の激化: 新たな保守政党の出現は、政治的競争を激化させるでしょう。これにより、選挙において保守派の票が分散され、与党や他の野党勢力との争いが激しくなる可能性があります。また、保守派内の競争も激化し、政策や選挙戦略の違いが浮き彫りになるでしょう。

ただ、そうなれば、自民党などをはじめ、多くの政党で、保守並びそれ以外の勢力との違いがはっきりし、離散集合が始まることが期待できます。中短期的には、混乱するかもしれませんが、離散集合により、まともな政党政治が始まるかもしれません。

ただ、政治的には多少混乱しても、政治の継続性の観点から、どの政党が政権につこうとも、重要な政策に関しては、継続する姿勢を貫いていただきたいです。

そうして、安定した政権ができあがれば、独自色を出せば良いと思います。特に、外交関係においては、岸田政権のように安倍路線を継承すべきです。外交関係をコロコロ変えれば、せっかくこれまで築いてきた、日本の国際的な存在感が毀損されかねません。

これらの影響は、百田氏が本当に新たな保守政党を立ち上げるかどうかや、その党がどれだけの支持を獲得するかによって異なるでしょう。また、政治の動向は予測困難なものであり、様々な要因や出来事が絡み合って結果が生まれるため、具体的な影響は予測するのが難しいです。

この件に関して、百田尚樹氏と、そのお仲間の有森香氏は、以下のようなツイートをしています。

新党をつくるにしても、彼らは慎重にすすめるでしょう。今回の解散総選挙がどうのこうのというより、息の長い活動を想定し、日本の政治を変えていくことを目指しているでしょう。

 私としては、大歓迎です。いつも選挙のとき、投票したい候補者がいない場合も多く、迷いながらも自民党の議員に票を投じてきましたが、今後そのようなことはなくなるかもしれません。本当にそうなれば、良いと思います。

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2023年6月11日日曜日

墜落事故から40日 子ども4人無事発見 アマゾン密林でどうやって生存?―【私の論評】ウイトト兄妹のサバイバルは、生存と回復力、そして家族の力の物語(゚д゚)!

 墜落事故から40日 子ども4人無事発見 アマゾン密林でどうやって生存?

アマゾンの熱帯雨林

 先月、コロンビアで起きた小型機の墜落事故で、1歳から13歳のきょうだい7人が行方不明となりました。

 しかし、約40日後にコロンビア軍が彼らを南米アマゾンのジャングルで発見し、救助しました。

 この奇跡的な救出劇では、子どもたちのうち4人が無事であることが確認されました。彼らは猛獣の生息するジャングルで40日間も生き延びたのです。

 コロンビア軍は救助犬や捜索隊を投入し、子どもたちの存在を示す足跡やシェルターを見つけました。

 この地域は危険な存在も潜んでおり、生存するために子どもたちは煙を上げるなどの方法で助けを求めました。

 40日以上の捜索活動の末、子どもたちは無事に見つかりました。彼らの生存は驚異的であり、彼らの祖父母やコロンビアのペトロ大統領も喜びと感謝の気持ちを表明しました。

 子どもたちは先住民のウイトト族の知識を活かして生き延び、果物などの自然の資源を利用したと報じられています。

 これは、元記事の要約です。詳細をご覧になりたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】ウイトト兄妹のサバイバルは、生存と回復力、そして家族の力の物語(゚д゚)!

テレビで、コロンビアに何度も足を運び、現地の人たちとも交流しており、いわゆる現地通の人が、テレビでインタビューを受けていて、今回の子どもたちの発見に関して、答えていました。

食べものや、水の入手などに関して、様々な推論を述べていて、最後のほうにインタビューアーが「この子たちは、ウイトト族の子どもたちだそうです」というと、その人は、「ウイトト族の子どもですか。それなら大丈夫なわけです。水や食料の入手法も知っているし、乳児の面倒のみかたも知っているわけです」と力強く明るい顔で、答えていました。

最初にコロナワクチン接種を受けたとされるウイトト族の女性

やはり、今回の救出劇では、遭難したのがウイトト族であるということが大きなキーポイントであるあると考えられます。

では、ウイトト族とはどんな民族なのでしょうか。コロンビア南東部およびペルー北部の先住民族であるウイトト族。コロンビアに約6,000人、ペルーに約4,000人、合計約10,000人が住んでいると推定されています。ウイトト族は、南米の他の言語族とは無関係なウイトト語族の言語を話します。

ウイトト族は伝統的にアマゾン川とその支流に沿った小さな遊牧民の村に住んでいました。彼らは狩猟採集民であり、漁業や農業で食事を補っていました。また、ウイトト族は幻覚作用のある嗅ぎタバコを宗教的、薬事的な目的で使用していたことでも知られています。

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ウイトト族はヨーロッパからの入植者がもたらした病気(伝染病)によって壊滅状態に陥り、伝統的な生活様式を捨て、より定住的なライフスタイルを強いられることになりました。もともとウイトトト族は、定住民ではなかったのです。

現在、ウイトト族は、コロンビアやペルーの主流社会と同化し続ける中で、自分たちの文化やアイデンティティを維持するために奮闘しています。

ウイトト族は、何世紀にもわたって多くの困難に直面してきた魅力的で回復力のある人々です。彼らは、南米に存在する多様な文化の豊かさを思い起こさせる存在なのです。

ここでは、ウイトト族について、さらにいくつかの事実を紹介します。

彼らの、伝統的な衣服は樹皮の布から作られています。また、熟練した船大工であり、航海士でもあります。

ウイトト族の伝統的衣装

神話、伝説、歌など、豊かな口承伝承があります。精巧なボディペインティングと宝飾品で知られていますし、彼らは平和的な人々で、そのもてなしで知られています。

ウイトト族は、アマゾン地域の文化的・生物学的多様性の重要な一部です。彼らは、この地域の豊かな歴史と先住民の文化を保護することの重要性を、今に伝える存在なのです。

ウイトト族は、。アマゾンの熱帯雨林の天然資源をベースに、豊かで多様な食文化を持っています。

ウイトト族の食生活は、魚や鳥獣、野生の果物や野菜が主なものです。また、トウモロコシ、マニオク、プランテンなど、さまざまな作物も栽培しています。

魚はウイトトの主食で、ピラニア、ナマズ、カメなど、さまざまな種類の魚を捕ることができます。サル、シカ、バクなどの狩猟動物も重要なタンパク源です。

野生の果物や野菜もウイトトの食生活の重要な一部で、バナナ、プランテン、パパイヤ、アボカドなど、さまざまな種類のものを採取しています。また、トウモロコシ、マニオク、プランタンなど、さまざまな作物も栽培しています。

ウイトト族は、ロースト、ボイル、フライなど、さまざまな方法で食べ物を調理します。また、唐辛子、ニンニク、タマネギなど、さまざまなスパイスを使用します。

ウイトトの食文化は、アマゾンの熱帯雨林の豊かな自然資源を反映したものです。伝統的な知識と慣習に基づいた、健康的で持続可能な食事です。

ここでは、ウイトトの伝統的な食べ物の具体例をご紹介します。

ピカディージョ:魚や鳥獣、野菜などを使った煮込み料理で、唐辛子やニンニク、タマネギなどで味付けされることが多い。

カサベ:キャッサバの粉で作った平たいパンで、シチューやスープと一緒に食べることが多い。

チチャ:トウモロコシから作られる発酵飲料(酒)で、特別な日によく飲まれる。

チチャ

ウイトトの食文化は、彼らのアイデンティティと生活習慣の重要な一部です。自然界とのつながりや、伝統的な知識や習慣への依存を思い起こさせます。

子どもたちがウイトト族であったことが、彼らの生存に一役買っていた可能性は十分にあります。ウイトト族は、アマゾンの熱帯雨林で何世紀にもわたって暮らしてきた先住民族です。

熱帯雨林とその資源について深い知識を持ち、厳しい環境の中で生き抜く術を身につけています。子どもたちが40日間もジャングルで生き延びることができたのは、熱帯雨林に関する知識と、土地に根ざした生活を営む能力があったからだと思われます。

また、ウイトト族は、家族の絆が強いことで知られています。そのため、子どもたちは家族の絆に支えられながら、試練を乗り越えることができたのでしょう。

ここでは、ウイトト族が熱帯雨林を熟知し、その土地で生活する能力を備えていたことが、子どもたちの生存を助けたと考えられる理由をいくつかあげます。

彼らは、熱帯雨林のどこで食料や水が手に入るか知っていますし、狩猟や漁労に必要な道具や武器の作り方を知っています。

そうして、彼らは、毒のある植物や動物の見分け方を知っています。さらに、熱帯雨林を移動する方法を知っています。

さらに、これだけではなく、ウイトト族の強い家族の絆も、子どもたちが生き延びるための支えとなったかもしれません。子どもたちは、家族の支えによって力を得ることができ、愛する人と再会するために生き延びようとする意欲が高まったのかもしれません。

ウイトト兄妹の物語は、本当に驚くべきものです。それは、生存と回復力、そして家族の力の物語といえます。

彼らのサバイバルはこれから、徐々に明らかにされていくでしょう。私達も、真摯に彼らのサバイバル法を学ぶべきでしょう。

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2023年6月10日土曜日

「悪い円安論」がやはり下火に…株価は上昇、埋蔵金も増える マスコミも忖度、政府が儲かる「不都合な事実」―【私の論評】いわゆる「悪い円高」を主張した人々の言説は今後信じるべきではない(゚д゚)!

 最近、円安が進行しているにもかかわらず、「悪い円安論」は影を潜めている。その理由は、そもそも「悪い円安論」が間違っていたのではないかということだ。

 本コラムでは、為替がマクロ経済に与える影響を繰り返し説明してきたが、円安(自国通貨安)は、輸出関連・対外投資関連企業にはプラス、輸入関連・対内投資関連企業にはマイナスだ。

営業利益が高い企業は軒並み、輸出関連企業 表はブログ管理人挿入

 企業の生産性などの地力を見ると、一般的に国際市場で競争する前者の方が後者より高いので、前者にメリットを与えて後者にはデメリットを与えた場合、全体としてはメリットが大きくなる。自国通貨安による経済成長は、ほぼどこの国でも成り立つので、「近隣窮乏化」として知られている。

 ところが、日経新聞など国内メディアの多くは、円安による輸出増が見られないことから、円安による輸入価格アップによるデメリットのほうが大きいと考え、悪い円安論を展開したようだ。古今東西ある近隣窮乏化理論に無謀にも挑んだわけだが、最近の株高を目の当たりにすると、さすがに悪い円安論は言いにくくなったとみられる。株価指数を構成している企業は、円安メリットを享受しやすい輸出関連・対外投資関連企業が多いからだ。

 もちろん筆者の近隣窮乏化理論は、自国通貨安が国内総生産(GDP)増につながると定量的に主張するもので、株価上昇に直接的に言及するものではないが、GDP動向と株価には一定の相関があるので、株価上昇で悪い円安論が下火になったのは想定内だ。

 悪い円安論を好意的にいえば、輸入原材料やエネルギーに大きく依存する企業ではコストアップ要因になるという、ミクロ的な話です。マスコミのミスリーディングなところは、そのミクロがまるで日本経済全体の話のように書くところだ。

 円安の最大の利益享受者は、純資産が100兆円以上もある日本政府だ。いうまでもなく外国為替資金特別会計(外為特会)です。評価益のみならず円貨換算の運用益も大きくなる。なので、円安で苦しむ企業への対策は容易なはずだが、なぜかメディアは悪い円安論一辺倒で、日本政府が最大の利益享受者として容易に対策財源を捻出できることを言わなかった。

 悪い円安論が出るたびに、筆者の意見を含めて日本政府が円安で最も儲けていることがテレビやネットでしばしば流れた。筆者の邪推だが、それを政府が嫌い、忖度(そんたく)したマスコミが悪い円安論をあまり言わなくなった可能性もあるのではないか。外為特会はいわゆる「埋蔵金」なので、とりわけ財務省は隠したがるものだ。

 もっとも、「為替は国力であり、円安は国力低下だ」という経済学的には意味不明の意見もいまだに少なくない。為替は長い目で見れば単に二国間の金融政策の差で決まるのであって国力の差を表すものでない。為替の短期変動を説明する理論はないので、誰でも独自見解を主張できる。そのため、時々で「ご都合主義」が横行しがちだ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、是非元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】いわゆる「悪い円高」を主張した人々の言説は今後信じるべきではない(゚д゚)!


上の記事にでてくる「近隣窮乏化」とは、貿易相手国を犠牲にして自国の経済を改善することを目的とした経済政策です。通貨安、関税などの貿易障壁、国内産業への補助金など、さまざまな手法で行われます。英語では"Beggar thy neighbor(汝の隣人を乞え)"policyといいます。

ただ、「近隣窮乏化」策は、理念上の政策に過ぎず、これを実行し続ければ、超インフレを招くなどの状況を招くことになったり、あるいは当該国の通貨が基軸通貨出ない場合、基軸通貨のキャピタルフライトが起こったりするので、現実には実施できない政策です。

世界でこれに近い政策を取っているのは中国かもしれません。ただ、中国はこのブログで指摘したように、国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策が実行しにくい状況に至っています。

中国は「近隣窮乏化」策に近い政策をとっているが・・・・・

「近隣窮乏化」策の目的は、他国が自国の商品やサービスを輸出するのを難しくする一方で、国内の生産者が自国の商品やサービスを販売しやすくすることです。その結果、他国は輸出よりも輸入の方が多くなり、貿易赤字になることがあります。

ただし、「近隣窮乏化」策は、短期的には効果的ですが、長期的にはマイナスの結果をもたらす可能性があります。例えば、他国からの報復を招き、貿易戦争に発展する可能性があります。また、国内生産者が関税やその他の貿易障壁のコストを消費者に転嫁するため、物価の上昇につながることもあります。

一般的に、近隣窮乏化策は良い経済政策とは考えられていません。世界経済にとって不公平で有害であると見なされることが多いです。

以下は、「近隣窮乏化」策の例です。

通貨切り下げ: 自国の輸出品を安くし、輸入品を高くするために、通貨を切り下げることができます。これにより、他国が国内生産者と競争することが難しくなります。

関税: 輸入品に関税をかけることができます。これにより、輸入品がより高価になり、国内生産者の競争力を高めることができます。

クォータ(割当): ある国は、輸入品に割当を課すことができます。これにより、国内に入ることができる輸入品の量を制限することができ、国内生産者の競争力を高めることができます。

補助金: 国は、国内産業に補助金を出すことができます。これは、国内の生産者がコストを下げ、より効果的に競争するのを助けることができます。

しかし、隣人窮乏化策が常に有効であるとは限らないことに注意する必要があります。例えば、ある国が自国の通貨を切り下げると、他の国も自国の通貨を切り下げて報復することがあります。その結果、各国が通貨安を競い合う「底辺の競争」に陥る可能性があります。これは、消費者の物価上昇や経済成長の低下につながるため、世界経済にとって有害です。

ただ、「底辺の競争」にはならないというか、いずれの国でもできなくなる可能性が高いです。本気で通貨安を競うとすれば、相対的に自国通貨の量を他国通貨の量より上回るようにする必要があるからです。それをどこまでも続けていれば、いずれ必ず超インフレになり、この政策を続けられなくなるからです。

為替は長い目で見れば単に二国間の金融政策の差で決まるのであって国力の差を表すものではありません。為替の本質は、ドルと円で示すと、以下の式で表すことができます。

(全世界で流通している円の総計)÷(全世界で流通している円の総計)≒(円ドル為替)(¥/$)

無論、中短期では、様々な要因があるので、このようにはならないですが、長期的にはこの方向で動いていくことになります。

全世界でたとえばA国が、通貨量を増やし、B国がそのままであれば、A国通貨、B国通貨に対して通貨安になります。

無論短期的には、為替介入である程度の操作はできますが、中期ではそろそろ効果がなくなり、長期では操作不能で、(円の総計/ドルの総計)の方向に動いていくことになります。為替介入は、せいぜい急激な変化を緩やかな変化にすることくらいしかできません。

通貨の価値は最終的にその通貨の需要と供給によって決まります。ある国の中央銀行が通貨の流通量を増やすと、その通貨の供給量が増え、通貨の価値が下がります。これは、通貨の流通量が増えたため、1単位あたりの通貨の価値が下がるからです。

一方、ある国の中央銀行が自国の通貨の供給を一定に保ち、別の国の中央銀行が自国の通貨の供給を増やした場合、最初の国の通貨の価値は2番目の国の通貨に対して高くなります。これは、最初の国の通貨が少なくなったため、その通貨の1単位の価値が高くなったためです。

そうして金融政策と為替レートの理論は、経験則に裏打ちされています。例えば、国際通貨基金(IMF)の調査では、マネーサプライが1%増加すると、為替レートは0.3%下落することが分かっています。

金融政策と為替レートの理論は、政策立案者にとって重要な意味を持っています。例えば、ある国の中央銀行が自国通貨の減価を防ぎたい場合、債券やその他の資産を売却することで通貨の供給量を減らすことができます。逆に、自国の通貨安を促したいのであれば、債券やその他の資産を購入することで、通貨の供給を増やすことができます。さらに、自国通貨を刷り増せば、さらに供給を増やすことができます。

しかし、先に述べたように、自国通貨安を促し続ければ、いずれインフレに、さらに促し続けれは、ハイパーインフレになります。そのため、通貨安競争にはおのずから限界があるのです。

通貨戦争は幻想に過ぎない

高橋洋一氏が「近隣窮乏化」策といったのは、無論日本がそのような政策意図的にとっているわけではなく、日本国内の都合で金融緩和策を行っているので結果として、そのような状況になっていることを言っているのです。

円安は、現状の日本にとってあたかも「近隣窮乏化」策を実施してGDPを増やす政策を実行しているようなものであり、これを「悪い円安」などと呼ぶのは間違いです。

これで、米国やEUさらに、日本の金融緩和策が多大な影響を及ぼす中国や韓国などが、日本の円安に関して、苦情を言うなら理解出来ますが、日本のメディアが円安を批判した理由が良くわかりません。

過去に日本の金融引締で、超円高になった日本で製造業が日本で部品を組み立てて輸出するより、韓国や中国で組み立てて輸出したほうがコスト安になったため、ぬるま湯に浸かったような状態になった中国や韓国ですらそのようなことをいわないのに、日本のメデイアが「悪い円安」などと批判するのは、私にはほとんど理解不能です。

最近は、さすがに「悪い円安論」はなりを潜めていますが、このような論を語る人々は、そもそも為替がどのように決まるのか、通貨安はどのような効果をもたらすのかを全く理解していないのでしょう。

そうして、高橋洋一氏が語るように、長期では為替は(円の総量/ドルの総量)できまり予測もできるのですが、中短期では多くの要素があり予測不能なので、これについては好き勝手なことがいえるので、これを利用して奇妙奇天烈、摩訶不思議な論を打ち出し、特定の意図への誘導をはかっているのでしょう。

いわゆる「悪い円高」を主張した人々の言説は今後も信じるべきではありません。

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2023年6月9日金曜日

フランスの「本物の米国離れ」に中国は大歓喜、アメリカは大激怒している…!―【私の論評】10年経てば、中国の弱体化は誰の目にも明らかに!それまで日米は、他国を繋ぎ止める努力を(゚д゚)!

フランスの「本物の米国離れ」に中国は大歓喜、アメリカは大激怒している…!

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)の東京事務所設置計画に反対しており、「中国を刺激したくない」という理由を挙げています。彼の反対姿勢は、NATOの活動範囲の拡大が大きな過ちになると述べた発言によって明らかにされました。マクロン氏は中国に配慮した発言をすることで物議を醸し、今回の反対も「マクロンの裏切り」第2弾とされています。

 NATOは、米国、カナダ、および欧州の30カ国が安全保障を約束する同盟であり、「攻撃されればすべての加盟国が共同して反撃する」という原則に基づいています。NATOの適用範囲は北大西洋の同盟国に限定されています。

 NATOは中国の脅威に対処するために、東京事務所の設置を検討しており、日本を含むアジア諸国との協力関係を強化する狙いがあります。しかし、マクロン氏は東京事務所の設置が「アジアへのNATO拡大につながる」とみなし、欧州の信頼性を損なう可能性があると主張しています。

 NATOの意思決定は全会一致が原則であり、フランスが反対すると東京事務所設置計画は頓挫する可能性があります。中国はマクロン氏の反対を喜んでおり、他のNATOメンバー国もフランスの立場に共感しているが、米国に逆らうことはできないとしています。

 マクロン氏は中国に配慮する姿勢を見せており、米国との距離を置こうとする姿勢は本物とされています。これに対し、米国ではフランスの地政学的なナイーブさや米国からの欧州への過度な関与に反発する声があります。

米中の対立が激しさを増す中、マクロン氏のような「米国離れ論」が広がっており、これらの意見は今後も強まる可能性があります。

【私の論評】10年経てば、中国の弱体化は誰の目にも明らかに!それまで日米は、他国を繋ぎ止める努力を(゚д゚)!


マクロンがNATO東京事務所開設に反対していることを伝えるロシアメデイア「スプートニク」

フランスは、伝統的に米国と距離を置く傾向があります。それは、以下のような理由によるものです。

フランスと米国は、米独立戦争までさかのぼる長い対立の歴史を持っています。フランスは米国を独立国として認めた最初の国の一つですが、両国は貿易、政治、軍事介入をめぐってしばしば対立してきました。

さらに、フランスと米国は、世界の多くの地域で異なる関心を持っています。例えば、フランスは欧州連合(EU)を強く支持し、米国は自国の国益を重視してきました。

そうして、フランスと米国は、死刑制度、移民、社会福祉など、多くの問題で異なる価値観を持っています。このような違いは、時に両国間の緊張につながることがあります。

以下は、フランスが米国と距離を置いた例です。

2003年、フランスは米国主導のイラク侵攻に反対しました。

2015年、フランスは米国主導のシリア空爆に参加することを拒否しました。

2019年、フランスは米国が主導する欧州でのミサイル防衛計画から離脱しました。

ただし、フランスが常に米国に反対しているわけではないことに注意することが重要です。両国は、テロとの戦いや民主主義の推進など、多くの問題で協力してきました。しかし、フランスと米国の歴史的な対立や利害の違いは、時に緊張や不一致を招くことがあります。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、中国に配慮したと見られる発言を繰り返しているのには、いくつかの理由があるようです。

まずは、経済的利益です。 フランスは中国と大きな経済的結びつきがあります。2021年、中国はフランスにとって、ドイツに次いで2番目に大きな貿易相手国でした。また、フランスは中国で事業を展開する企業を多く抱えています。マクロン氏は、中国と敵対することで、こうした経済的な結びつきが損なわれることを懸念しているのかもしれないです。

次に、フランスは、安全保障問題で中国と協力してきた長い歴史があります。例えば、両国はテロ対策や核不拡散で連携してきました。マクロン氏は、他の問題で中国により融和的なアプローチを取ることを意味しても、この協力関係を維持することが重要であると考えているのかもしれないです。

最後に地政学的な利益もあります。 フランスは、ヨーロッパとアフリカの主要国であります。マクロン氏は、これらの地域におけるフランスの利益を守るために、中国との良好な関係を維持することが重要であると考えるかもしれないです。

ただし、マクロン氏は、人権や知的財産の窃盗など、多くの問題で中国に批判的であることにも留意する必要があります。しかし、他の西側諸国の首脳に比べれば、一般的に中国に対してより融和的なアプローチをとってきました。

一部の人々は、マクロンの中国寄りの発言を批判し、中国に媚びへつらう姿勢が強すぎると主張しています。また、中国との付き合い方について現実的なアプローチをとっていると主張し、マクロンを擁護する人もいます。

マクロンの中国政策が長期的にどのような影響を及ぼすかについては、時期尚早と言わざるを得ないです。しかし、マクロンがフランスと中国の関係を形成する上で重要な役割を担っていることは明らかです。

確かに、「米国離れ」説が広がっているようではあります。それを裏付けるような左寄りの情報源もあります。

ガーディアン紙 "米中間の緊張が高まる中、欧州は独自の「戦略的自律性」の構築を目指す" (2023年3月8日)

ガーディアン紙 記事は、米中関係に懸念を示す欧州の高官を多数紹介しています。例えば、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、米国と中国のいずれとも「同盟の誘惑に負けない」ために、EUは「自らの主権を築く」必要があると述べています。

ニューヨーク・タイムズ紙 "ヨーロッパは中国の経済的影響力に対抗するために動く" (2023年2月25日)

ニューヨーク・タイムズ紙 記事は、EUが今後5年間で国防費を20%増加させる計画であることを伝えています。また、EUは独自の軍事指揮統制システムの開発を計画している。

フォーリン・ポリシー 「新冷戦は欧州を自国軍建設に駆り立てている」(2023年1月26日付)

フォーリン・ポリシー 記事は、米中貿易戦争が欧州諸国に "米国との経済関係の再考 "を迫っていると論じています。また、記事は、米国のアフガニスタンからの撤退が "米国の力の限界を浮き彫りにした "と論じています。

これらの記事はいずれも、欧州諸国が米国への依存を減らし、中国など他の国とのより強い関係を築こうとしている証拠を挙げています。この背景には、米中貿易戦争、米国のアフガニスタンからの撤退、米国の力の低下という認識など、さまざまな要因があります。

「米国離れ」論に批判がないわけではありません。新たな冷戦を招きかねない危険で無謀な行動であるという意見もあります。また、米国がもはや支配的でない世界において、欧州が自国の利益を守るために必要なことだとする意見もあります。

「米国離れ」理論が成功するかどうかは、時間が経ってみなければわからないです。しかし、欧州の外交政策において、その傾向が強まっていることは確かなようです。

これらは、"米国離れ "論が広がっていることを裏付ける証拠のほんの一例に過ぎないです。この傾向が続くかどうかはまだわからないですが、欧州の外交政策に大きな進展があることは確かなようです。

このような背景があるからこそ、マクロン氏は、「米国離れ論」を主張したのでしょう。

ただ、考えてみると、米国は現在でも唯一の超大国です。中国は、以前このブログでも示したように、国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況になっています。雇用の改善な、景気の回復のために、金融緩和(利下げや、量的緩和)を実行すれば、超インフレに見舞われたり、資本の海外逃避が加速したりするため、なかなか実行できません。

これは日本のマスコミはほとんど報道しませんが、国際金融などを熟知したまともなエコノミストなら誰でも知っている厳然たる事実です。

これを解消するには、人民元の変動相場制への移行などの構造改革をすべきなのですが、習近平にはまったくその気はないようです。彼にとっては、中国経済よりも、中国を中国共産党が統治することのほうが重要なようです。

中国人民銀行行長「周小川」

そうなると、中国は今後経済的には衰える一方であり、従来言われていたように、中国が米国のGDPを追い越す日は来ないとみるべきでしょう。独立した金融緩和ができなければ、かつての日本が官僚の誤謬により、金融政策を誤りとんでもない状態(GDPがほとんどのびなかったり、賃金が30年間あがらかったこと)になったのと同じような状態になるはずです。

しかも、誤謬については日本では安倍元総理の登場によって、正されたのですが、中国では独立した金融緩和ができないのですから、誤謬よりさらの始末が悪く、これは変えようがありません。

中国がコロナから完璧に立ち直ったとしても、また成長軌道に乗ることはありません。無論、中国が変動相場制に移行するなどの大胆な変革をすれば、別ですが、中国共産党はそれはできないでしょう。習近平は、そのようなことより、中共と自らの統治の正当性を強化することに血道を上げています。中国経済よりも、そちらのほうが優先順位がはるかに高いように見えます。

今後世界で唯一超大国になれるかもしれない国は、インドだけです。ただ、そのインドも、さすがに超大国になるまでの道のりは長くて、今後数十年は要するでしょう。ただ、数十年たってさえ超大国になれるかどうかはわかりません。しかし、いずれ人口だけではなく、経済でも軍事力でも中国を上回るようになる可能性は高いです。

そうなると、当面は超大国は米国一国ということになります。中国は、10年後以降には、誰の目からみても、国力が衰え、世界の主要なプレイヤーで居続けることはできないでしょう。

ただ、今後10年間は、それはなかなか見えず、中国がまた成長軌道に戻ると、幻想を持ち続ける人も多いことでしょう。そのため「米国離れ」が進展する可能性もあります。さらに、中国は10年後に弱体化が誰の目にもはっきりするのは目に見えているので、この10年のうちに大きな冒険に打ってでる可能性は否定できません。

これに関しては、米国下院の「中国委員会」委員長のマイクギャラガー氏もそのような主張をしています。

マイク・ギャラガー氏

米国として、この10年間をなんとかそのようにならないように、多くの国々を繋ぎ止めていく努力が求められるでしょうし、日本も協力していくべきです。

中国の猛威も10年で収まるとみるべきです。先程述べたように、この10年内に中国が大冒険に打って出たとすれば、多くの国が大きな被害を被るかもしれません。無論これは絶対に避けるべきです。ただ、そうなったとしても、中国の衰退は構造的なものであり、中国は確実に衰えていきます。中国共産党の大冒険は、それを早めるだけです。それは、現在のロシアをみれば理解できます。

10年といえば、長いようですが、過ぎ去ってみればそれほど長くもないと思います。10年後には、中国とロシアがかなり衰えたことを前提に新たな世界秩序が生まれることになるでしょう。日米はこのことを、いまから世界中の国々に啓蒙していくべきと思います。

ロシアに関しては、日米欧とも、ここ数年は別にして、5年から10年の長期では、確実に敗戦するとみています。

10年後以降には、中国は数十年前の中国のようになり、ほとんど世界に影響力を及ばす事ができない国になる可能性は高いです。この国がかつて、GDPで米国を追い越すと思われたいたとはとても思えないような国になるでしょう。

中国の体制が変わった場合は、支援しても良いかもしれませんが、現体制のままであれば、支援はすべきではないでしょう。なぜなら、支援すれば、また同じことの繰り返しになるからです。

民主化、政治と経済の分離、法の支配を追求しない中国は、たとえ統治者が誰に変わろうと、現在と変わりがなく、支援を受けて経済を回復すれば、同じことを繰り返すだけです。日本も、かつてのようにODAで中国を助けるなどのことはすべきではありません。

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2023年6月8日木曜日

中国・中央アジアサミットが示すロシアの影響力後退―【私の論評】ロシアが衰退した現状は、日本にとって中央アジア諸国との協力を拡大できる好機(゚д゚)!

中国・中央アジアサミットが示すロシアの影響力後退

岡崎研究所

習近平は中央アジア首脳会議を主催

 中国主席習近平は、中央アジアとの関係を強化し、中国の影響力を拡大するために中央アジアの首脳会議を主催しました。この動きは、ロシアの影響力が弱まり、ウクライナ戦争によって注意がそらされている中で行われました。中国は中央アジア諸国との経済的および政治的な関係を強化するための機会として、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンとの首脳会議を開催しました。

 中国は中央アジアにおける安全保障の重要性を認識しており、特に新疆ウイグルの西部地域の安全保障に関心を持っています。しかし、中央アジアの人々の中には中国への懐疑的な意見や債務増加への懸念もあります。ロシアはまだ中央アジアで支配的な役割を果たしており、好意的に受け入れられていますが、国際情勢が変化する中で中国の存在感が増大する可能性があります。

 中国は中央アジアとのエネルギー貿易やレアアースの開発などで協力を深めることができます。また、中国は地域の安全保障協力の強化を発表する可能性もあります。しかし、中国の立場は時に矛盾しており、ロシアのウクライナ侵攻を非難しつつも、各国の領土の一体性を支持しています。

 ロシアはウクライナ戦争によって中央アジアやコーカサス地域での影響力を失っていると言えます。中国は中央アジアでの存在感を高めており、中国との関係強化は続くでしょう。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ロシアが衰退した現状は、日本にとって中央アジア諸国との協力を拡大できる好機(゚д゚)!

ロシアがウクライナへの侵攻を始めてから2年目に入りましたが、侵攻はまだ終わりの兆しは見えません。最初の段階でロシアが早期に勝利する見込みがないことを認めざるを得なくなったロシアは、自国の天然資源を利用してウクライナと欧州を凍結させることを決めました。

ロシア軍に破壊されたウクライナの都市

しかし、この作戦は裏目に出ました。欧州がエネルギー戦争に勝利したことで、ロシアの影響力は減少し、財政的にも苦境に立たされるようになりました。欧州の成功と中国の超然とした態度は、中央アジアの抵抗を引き起こすことになりました。

欧州に対するロシアの抵抗は明らかですが、中央アジアの抵抗は微妙なものです。中央アジアはロシアと中国によって囲まれ、地理的に孤立しており、経済的な依存関係がロシアの植民地関係の上に成り立っています。

しかし、中央アジア諸国は現在、ロシアからの難民を受け入れ、欧州連合(EU)との経済協力を拡大し、対ロシア制裁に同調し、自由化することで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対抗しようとしています。

最大の問題は、中央アジアと欧州を結ぶ既存のエネルギー輸送設備やパイプラインが、ロシアを通っていることです。代替ルートは地政学的に受け入れがたく、カスピ海を越えて西方への中部回廊が最善の選択肢となっています。

中部回廊の実現には時間がかかりますが、西側諸国は慎重に考える必要があります。ロシアからの輸出が全面的に禁止されれば、中央アジア諸国の主要な貿易ルートが閉ざされ、欧州のエネルギー価格が上昇し、中央アジアの依存度が高まる可能性があります。

日本では、中央回路を通り、カスピ海を経由する「カスピ海ルート」が注目されている

中央アジア諸国はロシアのウクライナ侵攻に不満を表明し、西側の対ロシア制裁に同調し、欧米の影響力と投資を呼び込むことで、ロシアと中国の影響力を緩和し続けています。

欧米は中央アジア諸国に投資し、ロシアと中国のバランスを取り、中国の存在感に対抗しなければなりません。中央アジアは経済的な潜在力を持ち、民主化に対する熱意や反ロシア感情が高まっています。欧米はこの機会を逃さずに関与し、戦略的な関係を築くべきです。

そのためには、政界、金融界、産業界などの主要な主体が戦略的に関与する必要があります。西側諸国は自国の利益を明確にし、大国間の競争で敗北を認めることなく、地政学的かつ経済的な利益を守る柱を見つける必要があります。

今やロシアの衰退が顕在化した中、さまざまな形で安全保障上の保険をかけたい中央アジア諸国としては、たとえ中国のウイグル・カザフ等トルコ系民族に対する弾圧には不興を感じても、秩序維持という点では発想を共有し、「一帯一路」を通じて実利をもたらす中国との関係強化を考慮せざるを得ない、というのが実情でしょう。
中国はわずか30年で中央アジアにおいてロシアを圧倒し、しかもロシアには反対する余裕もない状態を実現したと言えます。穿った見方をすれば、昨年2月4日の中露「無限の協力」宣言と、ロシアのウクライナ侵略に対して歯止めをかけない中国の態度は、ロシアに先に侵攻させて国力と影響力を削ぎ、同時にウクライナを援助する米欧の国力も削ぎ、中国が安心してその後を埋めるための計だったのではないかとすら思えます。 

とはいいながら、中央アジア諸国の発想の根底にあるのは、なるべく多角的に協力者を求めて安全保障を図るという発想です。世界中が疫病禍からほぼ抜け出した昨今、もちろん日本をはじめ開かれた規範を尊ぶ諸外国にも、中央アジア諸国との協力を拡大する余地は多大にあると思われますし、ロシアが衰退した今はむしろその好機と言えるかも知れないです。

中央アジアの国々と、日本とをパイプラインで直接結ぶことは、中国とロシアが障壁となって無理ですが、もし中央アジアの石油が、西欧諸国に中部回廊を通じてとどけられるようになれば、日本もこれを利用できる可能性がでできます。これについては、日本も関心を示しています。

林芳正外務大臣は昨年12月24日、東京都内で中央アジア5カ国の外相との会談を行い、ロシアを経由しないエネルギー資源などの国際貿易路「カスピ海ルート」や両者の人材育成における協力などについて話し合いましたた。日本外務省が発表しました。(写真下)

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外務省によると、当時訪日したのは「中央アジア+日本」対話の枠組みに参加する旧ソ連のカザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタンの5カ国の外相。

会談後の記者会見で林外相は、「厳しい国際情勢を踏まえ、ロシアを経由しない国際輸送路である『カスピ海ルート』について意見交換を行った」と述べました。

また、中央アジアの持続可能な発展に向け、「人への投資」や「成長の質」などに重点を置いた新たな発展モデルを推進していく考えを示しました。

日本は中央アジア諸国に対してこれからも、支援をしていくべきでしょう。

特にカザフスタンはポテンシャルの高い国です。 カザフスタンは中央アジアで最大の経済力を持ち、2021年のGDPは1740億ドルに達します。同国の経済は、石油、ガス、ウランなどの天然資源のほか、農業や製造業を基盤としています。カザフスタンは一人当たりのGDPが高く、経済は安定的に成長しています。

さらに、カザフスタンの軍事予算は中央アジアで最も多く、2021年には24億ドルに達します。同国の軍隊は装備と訓練が充実しており、国境を守り、侵略を抑止する能力があります。カザフスタンは、旧ソ連6共和国の軍事同盟である集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟しています。

カザフスタンの経済的、軍事的潜在力は中央アジアにおける重要なプレーヤーにさせています。この地域の経済発展と安全保障において、主導的な役割を果たすことができる位置にあります。

日本としては、カザフスタンを支援し、カザフスタンが強国になれば、西と東で中国を挟む形になり、安全保障上も有利になります。

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2023年6月7日水曜日

NEC、太平洋島嶼国を結ぶ光海底ケーブルの供給契約を締結―【私の論評】日米、中国の南太平洋での覇権争いは前からすでに始まっている(゚д゚)!

NEC、太平洋島嶼国を結ぶ光海底ケーブルの供給契約を締結

NECは、ミクロネシア連邦の海底ケーブル運営会社FSM Telecommunications Cable Corporation (FSMTCC)、キリバス共和国の国営通信会社Bwebweriki Net Limited (BNL)、ナウル共和国の国営通信会社Nauru Fibre Cable Corporation (NFCC)と、光海底ケーブル敷設プロジェクト「East Micronesia Cable System (EMCS)」のシステム供給契約を締結しました。EMCSは、総延長距離約2,250kmの光海底ケーブルで、太平洋島嶼国のミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの3か国4島を接続し、キリバス、ナウル及びミクロネシア連邦をつなぐ初の光海底ケーブルとなります。

光海底ケーブルEMCSルート図

本ケーブルは、キリバスのタラワ島から、ナウル島、ミクロネシア連邦のコスラエ島を経由してポンペイ島へと敷設されます。これにより各国で暮らす人々に、高速、高品質、高信頼かつ安全なインターネット通信環境を提供し、同地域のデジタル化と経済発展に寄与します。

本件は、日本・米国・豪州の各政府が連携支援する「東部ミクロネシア海底ケーブル事業」に基づくプロジェクトで、3か国の資金提供のもとで実施されます。

NECは、過去50年以上にわたり海底ケーブルシステム事業を手掛けるトップベンダーです。地球10周分のべ40万kmを超える敷設実績があり、グローバルに事業を展開しています。また、海底ケーブルや海底中継器、陸上に設置する伝送端局装置などの製造、海洋調査とルート設計、据付・敷設工事、訓練から引渡試験まで、全てをシステムインテグレータとして提供しています。なお、海底ケーブルはNECの子会社である株式会社OCC(注1)で、海底中継器はNECプラットフォームズ株式会社(注2)で製造しています。

本件に関する各社のコメントは以下のとおりです。

コスラエ州はミクロネシア連邦で唯一、海底ケーブルに接続していない州です。本プロジェクトにより、ミクロネシア連邦の全4州における平等なデジタル接続環境を実現し、様々な情報や必要なサービスへのアクセス能力を大幅に向上します。プロジェクトパートナーの皆様のご支援とご協力に感謝いたします。

FSMTCC社 CEO 兼 EMCS運営委員会会長 Gordon Segal

キリバスやミクロネシア地域にとって重要な意味を持つ本プロジェクトを嬉しく思います。BNL社は、EMCSのパートナーである日米豪政府、NECおよび太平洋地域の皆様とともに、本プロジェクトを実現できることを楽しみにしています。

BNL社 CEO Ioane Koroivuki

本プロジェクトによってナウルに初めて海底ケーブルが敷設されることになり、将来の通信システムの生命線としてナウルに大きな利益をもたらします。海底ケーブルの製造、供給、敷設において豊富な経験と実績で業界をリードするNECと契約の締結に至ったことを大変嬉しく思います。同様に、日米豪政府並びにミクロネシア連邦及びキリバスの皆様と協働できることをうれしく思います。本プロジェクトの完遂を心待ちにしています。

NFCC社 CEO 兼 ナウル法務国境管理長官 Jay Udit

近年のデジタル化の進展により、インターネットへの接続性やデジタル技術へのアクセスが、その国や地域の経済的及び社会的発展に及ぼす影響はますます大きくなっています。NECグループが長年培ってきた光海底ケーブル通信技術によって、太平洋島嶼国地域の通信インフラを強化し、より快適で安全な暮らしの実現に貢献できることを大変光栄に思います。

NEC 海洋システム事業部門長 桑原淳


以上

【私の論評】日米と中国の南太平洋での覇権争いは前からすでに始まっている(゚д゚)!

この新しい光海底ケープルは、安全保証上でも貢献するに違いありません。

今回のケーブルは、「東ミクロネシアケーブル」システムと呼ばれるもので、ナウル、キリバス、ミクロネシア連邦の各島しょ国における通信環境を改善するために計画されたものです。

海底ケープルのイメージ

ただ、2021年、南太平洋島嶼国を対象とする世界銀行主導の海底通信ケーブル敷設プロジェクトが、中国企業の参加が安全保障上の脅威だとする米国の警告を各島嶼国政府が聞き入れたために頓挫していました。

関係筋によると、上海市場に上場する亨通光電が過半を保有する華海通信技術(HMNテクノロジーズ、旧社名:華為海洋網絡=ファーウェイ・マリン・ネットワークス=)がこの7260万ドル規模のプロジェクトを巡り、競合のフィンランドのノキア傘下のアルカテル・サブマリン・ネットワークス(ASN)や日本のNECよりも20%以上低い価格で入札に参加したとさてれています。

プロジェクトの入札について直接知る立場にあるこの関係筋2人はロイターに対し、華海通信技術の入札参加を巡って島しょ国の間で安全保障上の懸念が強まったため、プロジェクトが行き詰まったと説明。ケーブルは軍事施設のある米領グアムにつながる計画でした。

今回、このブロジェクトをNECが受注したのです。

中国は、その経済力を利用して、ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルに圧力をかけ、北京が戦略的に重要な地域で軍事的足場を築く可能性のある安全保障協定に署名させたり、させようとしていると非難されています。

この協定は公表されていませんが、米国とその同盟国は、中国が太平洋に軍事基地を設置することを可能にする恐れがあると懸念しています。

中国は、太平洋における軍事的プレゼンスを求めていることを否定していますが、この地域との経済的・安全保障的な関係を発展させることを約束するものであると述べています。

以下は、中国に対する具体的な非難です。
  • 中国は、安全保障協定を締結する代わりに、3カ国への経済援助を申し出ている。
  • 中国は、国連における影響力を利用して、3カ国に協定に署名するよう圧力をかけている。
現在、中国と安全保障協定を結んでいる南太平洋の島嶼国は、ソロモン諸島と、キリバスです。

2022年、中国とソロモン諸島は、米国とその同盟国の間で懸念を抱かせる安全保障協定を締結しました。この協定により、中国は社会秩序を維持し、中国の人員や資産を保護するため、ソロモン諸島に警察や軍人を派遣することができます。この協定は、中国が太平洋における軍事的プレゼンスの確立を目指していることの表れであると解釈する向きもあるようです。

2022年、中国とキリバスは安全保障協力に関する覚書に署名した。この覚書には安全保障協定ほどの法的効力はないが、中国が訓練や災害救助の目的でキリバスへ警察や軍人を派遣することを認めている。

米国とその同盟国は、中国が南太平洋の島国と安全保障上の関係を深めていることに懸念を表明しています。中国がこの地域での軍事的プレゼンスを利用して、自分たちの利益を脅かす可能性があると懸念しているのです。中国はそのような意図を否定し、南太平洋島嶼国との安全保障協力は純粋に防衛的な目的であるとしています。

中国と南太平洋島嶼国との安全保障協定が長期的にどのような影響を及ぼすかについては、まだ判断するのは早計です。しかし、これらの協定がこの地域のパワーバランスを大きく変える可能性があることは明らかです。

ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルは、いずれも太平洋に浮かぶ小さな島国です。いずれも米国との自由連合協定(COFA)に加盟しています。COFAの下、米国はこれらの国々に経済援助、防衛支援、米国市場へのアクセスを提供しています。

また、日本は米国の安全保障上の緊密なパートナーです。日米両国は相互防衛条約を結んでおり、定期的に合同軍事演習を実施しています。また、日本はミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの主要な経済パートナーでもあります。

新しい海底ケーブルが人々の暮らしを豊にすることは間違いないですが、それ以外にも安全保障上でも貢献するのは間違いないです。

6月2日ナウルで行われた「東ミクロネシア海底ケーブルプロジェクト」の交換公文の署名式

まずは、サイバー攻撃への耐性が向上することです。ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの現在のインターネットインフラは、サイバー攻撃に対して脆弱です。新しい海底ケーブルは、これらの国々に、より弾力的で安全な通信ネットワークを提供します。これにより、病院や政府機関などの重要なインフラをサイバー攻撃から守ることができるようになります。

新しい海底ケーブルは、災害対応活動において、より信頼性が高く安全な通信ネットワークを提供します。これにより、災害発生時に初動対応者や政府関係者が効果的にコミュニケーションをとることができるようになります。

また、新しいケーブルは、国境を越えてデータを送信するための、より安全な方法を提供します。これにより、国境警備が改善され、麻薬取引や人身売買などの違法行為の蔓延を防ぐことができます。

全体として、新しい海底ケーブルは、ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの治安を大きく向上させることになります。

中国が、なぜこの地域に関心を示すのかといえば、中国にとって北東アジアで有事の際、まずは、日本周辺にいる米軍が対処するでしょうが、それでは十分作戦が行えないとなればグアム、ハワイさらに本土から米軍の来援があるでしょう。

その来援のシーレーンとなるのがこの南太平洋島嶼国が存在するあたりになります。つまり来援を防ぐという意味で大変重要ですし、オーストラリアとアメリカを結ぶラインでもありますので、これを分断する役割もあります。まさにこれは、旧日本軍が(太平洋戦争で)やろうとしたことと同じことを中国が考えている可能性があります。

南太平洋の戦いで雷撃を受けた米空母「ワスプ」

この地域に中国が軍事的拠点を持てば、太平洋のパワーバランスが変わるという、戦略的重要地域であることはわかっていながら、財政上の問題で大使館を閉めるなど、いわば手を引いていた米国は、今になって大使館を復活させたり、クアッドで500億ドルを超える新たな支援・投資を始めたり躍起になっています。コツコツじわじわ積み上げてきた中国とは対照的です。

そうしてさなかに、日本の会社であるNECが、今回太平洋島嶼国を結ぶ光海底ケーブルの供給することになったのは、まことに喜ばしいことですし、この地域の安全保障にも寄与することになります。

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2023年6月6日火曜日

中国軍、台湾海峡と南シナ海で「攻撃性増大」 米がリスク警告―【私の論評】中国軍の攻撃性増大は、少なくとも半年から1年は大規模な軍事行動しないことの証(゚д゚)!

中国軍、台湾海峡と南シナ海で「攻撃性増大」 米がリスク警告

米ミサイル駆逐艦「チャンフーン」

米国のホワイトハウスは、中国の台湾海峡と南シナ海における行動は、中国軍の「攻撃性の増大」を反映しているとし、誰かが傷つくようなエラーのリスクが高まっていると警告した。

米国は増大する攻撃性に対処するための準備を整えており、国際空域と海域で活動を継続するとした。

米海軍は駆逐艦チャンフーンが台湾海峡で中国艦に接近された際の映像を公開。米軍の発表によると、台湾海峡で3日、中国軍の艦艇がカナダ海軍との共同訓練を実施していたチャンフーンに約140メートルまで接近した。

ホワイトハウスのカービー報道官は中国の行動に言及し、判断ミスが起こり誰かが傷つくまでにそれほど時間はかからないだろうと記者団に述べた。

空と海の航行の自由を守るため、米国は引き続き立ち向かうとした。

「中国が行動を正当化するのを聞いてみたいものだ」と述べ「空と海での妨害は常に起きている。われわれもそれを行うが、違いは必要と判断した際にプロフェッショナルに行っていることだ」と指摘した。

要するに、米国は中国の行動を非難し、空と海の航行の自由を守るために引き続き立ち向かう姿勢を示した。

これは元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】中国軍の攻撃性増大は、少なくとも半年から1年は大規模な軍事行動しないことの証(゚д゚)!

以下に今回の駆逐艦チャンフーンが台湾海峡で中国艦に接近された際の映像が掲載されたツイートを掲載します。


中国が台湾海峡や南シナ海で攻撃性を高めているのは、中国海軍の非力さを補うためだという側面もあります。その根拠となる事柄があります。

まず、米国防総省は、中国の軍事に関する議会への年次報告書の中で、台湾海峡と南シナ海における中国の "軍事力の増大と自己主張 "は、地域の平和と安定にリスクをもたらすと述べるとともに、 また、中国の軍事近代化努力は、"パワーを投射し、長距離作戦を行う能力の向上に重点を置いている "が、これらの努力は、"まだ完全に能力のある海洋海軍(Blue water navy)を生み出していない "と指摘しました。

海洋海軍(Blue water navy)

ちなみに、海洋海軍とは、グローバルに活動できる海軍のことで、大海原に力を投射することができます。空母、巡洋艦、駆逐艦など、多数の艦船を保有するのが一般的です。また、母港を離れても長期間活動できるよう、強力な後方支援ネットワークを持っています。

ランド・コーポレーション 非営利の研究機関であるランド研究所による2020年の報告書では、中国の海軍は "外洋で効果的に活動するために必要な能力をまだ開発中である "とされています。また、同報告書は、中国の海軍は "近海域を越えて効果的に力を投射することはまだできない "としました。

戦略国際問題研究センター シンクタンクである戦略国際問題研究所による2021年の報告書では、中国の海軍は "真にグローバルな戦力となるにはまだ距離がある "とされています。また、同報告書は、中国の海軍が "外洋での活動経験の不足、十分な訓練を受けた人材の不足、海上での作戦維持能力の限界など、多くの課題に直面している "と指摘しています。

これらの情報源は、台湾海峡や南シナ海での中国の攻撃性の高まりは、中国が海軍の非力さを補うための一手段であることを示唆しています。攻撃的な行動をとることで、中国は、海軍が外洋で大規模な作戦を実施する能力がまだないにもかかわらず、強さと決意をイメージさせることができるのです。

ただ、台湾海峡や南シナ海における中国の攻撃性の高まりには、他の要因もあることに注意する必要はあります。例えば、中国はこの地域での支配力を主張しようとしているのかもしれないし、台湾をめぐる潜在的な紛争に介入しようとする米国を抑止しようとしているのかもしれないです。しかし、中国の非力な海軍もまた、侵略を強める要因ともなっているのです。

ただし、中国が台湾海峡や南シナ海で攻撃性を高めているのは、中国海軍の非力さを補うためだという主張の根拠となる資料がいくつもある。

米国防総省:米国防総省は、中国の軍事に関する議会への年次報告書の中で、台湾海峡と南シナ海における中国の "軍事力の増大と自己主張 "は、地域の平和と安定にリスクをもたらすと述べた。" また、中国の軍事近代化努力は、"パワーを投射し、長距離作戦を行う能力の向上に重点を置いている "が、これらの努力は、"まだ完全に能力のあるブルーウォーター海軍を生み出していない "と指摘した。

ランド・コーポレーション 非営利の研究機関であるランド研究所による2020年の報告書では、中国の海軍は "外洋で効果的に活動するために必要な能力をまだ開発中である "とされています。また、同報告書は、中国の海軍は "近海域を越えて効果的に力を投射することはまだできない "としました。

戦略国際問題研究センター シンクタンクである戦略国際問題研究所による2021年の報告書では、中国の海軍は "真にグローバルな戦力となるにはまだ距離がある "とされています。また、同報告書は、中国の海軍が "外洋での活動経験の不足、十分な訓練を受けた人材の不足、海上での作戦維持能力の限界など、多くの課題に直面している "と指摘しています。

これらの情報源は、台湾海峡や南シナ海での中国の攻撃性の高まりは、中国が海軍の非力さを補うための一手段であることを示唆しています。攻撃的な行動をとることで、中国は、海軍が外洋で大規模な作戦を実施する能力がまだないにもかかわらず、強さと決意をイメージさせることができるのです。

ただし、台湾海峡や南シナ海における中国の攻撃性の高まりには、他の要因もあることに注意する必要があります。例えば、中国はこの地域での支配力を主張しようとしているのかもしれないし、台湾をめぐる潜在的な紛争に介入しようとする米国を抑止しようとしているのかもしれないです。ただ、中国の非力な海軍もまた、侵略を強める要因となっているのも事実です。

中国は近年、台湾に対する主張を強めており、台湾を支配下に置くために武力を行使すると脅している。しかし、中国が実際に台湾への侵攻を準備しているという証拠はありません。

米国は、中国を監視衛星で監視しており、中国が台湾への侵攻準備をしているなら、必ず何らかの兆候が監視結果から判断できるはずです。しかも、数ヶ月前からそのような兆候が見られるはずです。

ロシアによるウクライナ侵攻の直前にも、ロシア・ウクライナ国境付近にロシア軍が多数集結していることが、報告されていました。私は、従来はロシアのウクライナ侵攻は軍事的にも、経済的にも無理だっと思っていたのですが、この事実を知った後には、ロシアのウクライナ侵攻はあり得ると考えを変えざるを得なくなりました。

2021年の年末にウクライナ国境付近に多数集結していたロシア軍部隊

現在中国にはそのような兆候はありません。

その理由は以下のようなものがあります。侵攻にかかるコストが高い。米国が介入してくる可能性が高い。さらに、国際社会は、侵略を非難するでしょう。台湾への侵攻は国際法違反とみなされ、中国に対する制裁につながる可能性が高いです。それは、南シナ海も同じことです。

侵略には高いコストとリスクが伴うため、中国がすぐ(今年中)に侵略を開始することはないでしょう。しかし、中国が台湾に対して脅威を与え続けていることは、この地域の緊張の源であり、今後も状況を注視していくことが重要です。

ウクライナによる大規模反転攻勢が取り沙汰されてから久しいですが、同国国防省は6月4日、ロシア軍に対する攻勢の公式発表はないことを示唆する35秒のビデオ映像を公開しました。 

映像は、複数のウクライナ軍兵士が唇に人差し指を当てて、「秘密」という意味を込めて「シー」というジェスチャーを繰り返して、「謀は密なるを良しとす。開始の発表はない」というテキストに続いて、ウクライナが供与を切望していた2機のF-16戦闘機が映って終わるという短いものでした。

大規模反転にしても、侵攻にしても、大規模な軍事作戦です。しかも、これは軍事機密です。これを公表してから、戦争を開始することはあり得ないです。そんなことをしてしまえば、相手側は準備を整え、攻める側の被害が増えることが想定されます。

中国が台湾に侵攻するとか、南シナ海で何か事を起こそうというときには、わざわざ公表しないで、黙って準備をしていきなり攻撃を始めるでしょう。ロシアのウクライナ侵攻もそうでした。

中国軍、台湾海峡と南シナ海で「攻撃性増大」しており、しかも中国が大規模な軍事作戦を準備していない現在、中国による台湾侵攻などの軍事行動は、少なくともここ半年から1年くらいはないと見るべきと思います。

ただ、注意しなければならないいのは、中国は確かに台湾に侵攻するためには、数ヶ月間の準備が必要ですし、実際に侵攻すれば中国も被害を受けるのは必定ですが、台湾を破壊するだけであれば、今すぐできるというということです。

運悪く様々な条件が整ってしまえば、中国は台湾を破壊する可能性は捨てきれません。それに防いだり、それに備えるべきことは言うまでもありません。これを認識していない人が、中国が台湾に簡単に侵攻できると思い込むことを否定しているだけです。


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2023年6月5日月曜日

クリントン元大統領の「衝撃告白」…実は「プーチンの野望」を10年以上前から知っていた!―【私の論評】平和条約を締結していても、平和憲法を制定しても、条件が整えば他国は侵攻してくる(゚д゚)!

クリントン元大統領の「衝撃告白」…実は「プーチンの野望」を10年以上前から知っていた!


 米国のビル・クリントン元大統領が5月4日、ニューヨークでの講演で「ロシアによるウクライナ侵攻の可能性」を2011年にロシアのウラジーミル・プーチン大統領から直接、聞いていたことを明らかにした。 

 米国は、なぜ戦争が起きる前にしっかり対応しなかったのか。 

 戦争開始から1年以上も経ったいまになって、こんな話が飛び出すとは、まったく驚きだ。 

 これは、「リベラリズム(理想主義)の失敗」と言ってもいい。 

 5月5日付の英「ガーディアン」によれば、クリントン氏は2011年にスイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムでプーチン氏と会談した。 

 プーチン氏はそこで、ウクライナとロシア、米国、英国が1994年に結んだ「ブダペスト覚書」の話を持ち出し、自分は合意していないと語ったといいます。

 だが、クリントン氏は、それより3年前の時点で、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性を認識していたことになる。

 それによれば、プーチン氏は2008年4月に開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で「クリミア半島は1954年に旧ソ連からウクライナに移譲されました。 

 いま振り返れば、その時点で「ウクライナ侵攻も時間の問題だった」と言って良いです。 クリントン氏は、論文で自己弁護に終始していたのに、いまになって「実は、プーチンが侵攻する可能性は、本人から聞いていたので知っていた」「ウクライナの核放棄は残念だ」などと言うのは、批判されても当然ともいえます。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は是非元記事をご覧になってください。

【私の論評】平和条約を締結していても、平和憲法を制定しても、条件が整えば他国は侵攻してくる(゚д゚)!

2023年5月4日、ビル・クリントン元米大統領は、ニューヨークで開催された「クリントン・グローバル・イニシアチブ年次総会」で講演を行った。その中でクリントン氏は、2011年にロシアのプーチン大統領から "ロシアによるウクライナ侵攻の可能性 "について直接聞いたことがあると明かしました。

クリントン氏は、モスクワでプーチン大統領と会談した際、大統領のほうからウクライナ問題を持ちかけられたといいいます。プーチン氏は、ウクライナは「ロシアの歴史的な一部」であり、同国が西側との結びつきを強めていることを懸念していると述べました。クリントン氏は、ウクライナはロシアにとって脅威ではなく、安定し繁栄するウクライナは両国の利益になるとプーチン氏を安心させようとしたといいいます。

しかし、プーチンは納得していませんでした。ウクライナのNATO加盟を「許さない」、ウクライナが加盟しようとすれば「行動を起こす」と言い出しました。クリントンは、プーチンの発言に「深く悩まされた」とし、「来るべき事態の予兆である」と考えていたといいます。

この情報の出所は、ビル・クリントン自身です。彼は、クリントン・グローバル・イニシアチブ年次総会でのスピーチで、この事実を明らかにした。この主張には、他に独立した裏付けはないです。しかし、プーチンのウクライナに対する見解について我々が知っている他の事柄と一致しています。

上の記事もでてくる「プタペスト合意」について以下に掲載します。

ブダペスト安全保障覚書は、1994年12月5日にハンガリーのブダペストで開催されたOSCE会議において、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの核兵器不拡散条約(NPT)への加盟に関連して、署名国が安全を保証するために締結した政治協定です。この3つの覚書は、もともとロシア連邦、英国、米国の核保有3カ国によって署名されたものです。中国とフランスは、別の文書でやや弱い個別保証をした。

覚書の条項の下で、3つの核保有国は以下のことに合意しました。

  • ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン(以下3国と記載)の独立と主権、既存の国境線を尊重する。
  • 3国の独立と主権、および既存の国境を尊重する。3カ国の領土保全や政治的独立に対する武力による威嚇や使用を控える。
  • 3国の政治的又は経済的意思決定に影響を与えるために、経済的、政治的又はその他の圧力を行使することを差し控える。
3国のいずれかが武力攻撃またはその安全に対するその他の脅威の犠牲となった場合、相互に協議する。

その見返りとして、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンは以下のことに合意しました。
  • 核兵器問題の解決に向けた国際的な取り組みに、あらゆる側面から貢献する。
  • NPTの下での義務を誠実に履行すること。
  • 核兵器開発のための援助を求めたり受けたりしない。
ブダペスト合意は、あまりにも曖昧で、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに真の安全保障を提供しないとの批判があります。しかし、これら3カ国の安全保障に特化した唯一の国際協定であることに変わりはない。

ブダペスト合意は、締結後、何度も違反されています。2014年、ロシアはウクライナからクリミア半島を併合しました。2022年、ロシアはウクライナに侵攻しました。いずれの場合も、ロシア政府は、ウクライナは主権国家ではなく、ブダペスト協定の条件を遵守していないため、これらの行動を取ることは正当であると主張してきました。

ブダペスト覚書の将来は不透明です。専門家の中には、ウクライナの現状を考えると、もはや意味がないと考える人もいます。また、まだ重要であり、強化すべきと考える人もいます。米国とその同盟国は、ブダペスト合意書を守ることを約束すると言っていますが、それができるかどうかは未知数です。

プーチンはプダペスト合意を認めていないと発言しており、だからこそ、現在ロシアはウクライナに侵攻しているのです。

ある国が平和条約を結んだり、平和憲法を定めているからといって、侵略されないという保証はありません。平和条約を結んでいるにもかかわらず、侵略された国の例はたくさんあります。

以下はその例です。

古い事例としては、第二次世界大戦末期、日ソ不可侵条約を締結して板にも関わらず、ソ連は当時のソ満国境を超えて、侵攻しました。

ソ連は1979年にアフガニスタンに侵攻しました。アフガニスタンは1969年のジュネーブ協定に調印しており、この協定ではアフガニスタンからすべての外国軍を撤退させることを求めていました。

ソ連がアフガンに侵攻したときのソ連兵

米国は2003年にイラクに侵攻しました。イラクは安全保障理事会の承認なしに他国に対して武力を行使することを禁止する国連憲章の署名国であったにもかかわらずです。

イラクに侵攻した米軍

さらにすでに述べたように、ロシアは、ウクライナが核兵器の放棄と引き換えにウクライナの安全を保証する1994年のブダペスト覚書に署名していたにもかかわらず、昨年ウクライナに侵攻しました。

いずれのケースでも、侵略国は自国に正当な理由があると主張しました。しかし、これらの侵略が国際法に違反するものであったことに変わりはないです。

平和条約や憲法が、戦争を防ぐために必ずしも有効でないことを忘れてはならないです。政情不安、経済的苦境、ナショナリズムの台頭など、戦争勃発の要因はさまざまです。平和条約を締結していても、平和憲法を制定していても、条件が整えば他国が侵略してくる可能性もあるのです。

結局のところ、いかなる国もまずは自国は自国で守るという気概がなければ、他国から侵略される可能性を否定できなくなってしまうのです。これは、現在のウクライナでも証明されたと思います。

ウクライナにその気概なければ、戦争の初期にキーウをロシア軍に占領され、今頃ウクライナにはロシアの傀儡政権ができていたかもしれません。ゼレンスキー大統領がウクライナにとどまり徹底抗戦をする姿勢を見せたので、そうはならなかったのです。他国からの支援も得られることになったのです。

私たちは、中露北という、3国の独裁国に囲まれた日本こそ、そのような気概が多くの国民になければ、条件が整えば、侵略される危険と隣り合わせであることを認識すべきです。

それにしても、悔やまれるのは、クリントン元大統領が、戦争の可能性を察知したのなら、はやめにそれを公表して、警告を出すべきでした。そうすれば、事態は変わっていたかもしれません。返す返すも悔やまれます。

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