Economist誌10月30日号が「ロシアのエリートがプーチンなき将来を考え始めている。プーチンの排除が少なくとも考えられている」との記事を掲載している。主要点は次の通り。
・ロシアのエリート、官僚、実業家たちは、「次は何か。プーチン後の生活はあるのか。彼はどう立ち去るのか。そして誰が彼にとって変わるのか」といった疑問を抱いている。
・ウクライナ侵攻は、プーチンは全面戦争のリスクを冒さないと考えていたロシアの支配層にとってはショックであったが、当初の軍事的前進、ロシアの経済が崩壊しなかったこと、和平交渉への初期努力を見て、自らを落ち着かせようとしていた。
・エリートたちの考えはプーチンの「部分」動員で粉砕された。大勢の人の国外出国、広範な徴兵逃れは、この冒険を新しい「大祖国戦争」にするプーチンの試みが失敗したことを示す。
・プーチンはこの戦争に勝てない。なぜなら戦争当初から明確な目標がないからである。多くを失い、彼は深い屈辱をうけることなく、戦争を終わることはできない。
・9月までロシアのエリートはプーチンを支持するとの実利的選択をしてきたが、今や彼らは種々の敗北のシナリオの中で選択しなければならないところまで事態は進展した。
・軍事的敗北はそれを支持した者へのリスクを伴いながら、政権の崩壊につながるだろう。プーチンは安定の源泉と思われてきたが、不安定と危険の源と考えられるに至っている。
・政治アナリストのガリアモフによれば、次の数週間、数カ月で、エリートたちはシステム内でのプーチンの後継者探しを行うだろう。
・ガリアモフが挙げる後継者の候補は、ドミトリー・パトリシェフ(ニコライ・パトリシェフ安全保障会議書記の息子)、セルゲイ・キリエンコ(大統領府次官)、ソビヤニン(モスクワ市長)、ミシュスチン首相など。
・逆に、「もっと攻撃的なグループ」も既に姿を現し始めている。エヴゲニー・プリゴジンや(元刑法犯でプーチンのコックとして知られ、傭兵のワグナーグループを率いる)、ラムザン・カディロフ(チェチェンの強権指導者で私的な軍を持つ)である。二人はプーチンに個人的に忠誠である。プーチンはウクライナを破綻国家にしようと望んだが、代わりに彼はロシアを破綻国家にしかねない。
エコノミスト誌は相当な調査能力を持つ会社で、ロシアのエリートがプーチンとウクライナ戦争をどう見ているかという難しい問題にこの記事で取り組み、プーチン後継問題にも言及している。
ここで描写されているロシア国内の状況はおそらく現実であると思われる。プーチン離れやプーチン批判がエリートの中で広がっていることは、ウクライナ戦争がうまく行っていない中、当然予想されることである。
最近、ショイグ国防相がプーチンに「30万人の動員は実現した。追加動員の計画はない」と報告した画像をロシア国営テレビは流したが、動員がロシア国内に与えたショックが如何に大きかったか、それへの反発をなくしたいとの政権側の意図は明確である。この戦争は、今やロシア国民の支持を得ておらず、ロシア軍の士気もよくなる見込みはない。
多くのオリガルヒは戦争に反対
この戦争はプーチンが起こしたもので、彼の責任は重い。プーチンの統治への不満はこれからも高まっていくだろう。権威主義政権が権威をなくしてきていると考えても大きな間違いではない。国内のみならず、中央アジア諸国もロシア離れを起こしている。
クセニア・ソプチャクがリトアニアに逮捕を避けるために逃げたことは特に大きな衝撃を与えた。プーチンが今の地位にいるのはクセニアの父、ソプチャク・レニングラード市長が彼を副市長にしたことが契機になっている。支配層の中で分裂が見られる。
エリツィンの次女の夫で大富豪のデリパスカが、プーチンの戦争に起因する経済的損失が大きすぎると批判しているのが良い例だが、オリガルヒは大体戦争に反対である。
引退後の後継者としてはニコライ・パトリシェフが最有力のようにも思われるが、上記の記事が言うように彼の息子、ドミトリー・パトリシェフが選好される可能性はある。考えてみれば、ニコライ・パトリシェフはプーチンより2歳年上であるから、後継者にはなりにくい面がある。
ドミトリーは44歳で、農業大臣をしたほか、農業銀行の頭取をしたことがあり、経済がわかるとの利点がある。さらに自身も治安機関で働いたことがあり、父のコネもあるので、いわゆるシロビキ(治安関係者)に近い。有能とされている。
「もっと攻撃的グループ」といわれるプリゴジンやカディロフがポスト・プーチンで力を得た場合には、とんでもないことになりかねない。われわれ自身が「プーチンはまだましだった」と懐かしむことにさえなりかねない。
【私の論評】今のままだと、岸田首相は年金支払期限の延長で窮地に至ったプーチンと同じ目にあう(゚д゚)!2018年モスクワで年金支給年齢の引き上げに抗議する人々 |
ところがロシア国民の反応は、政府の予想をはるかに上回っていました。ロシア全土で反対デモや署名運動が行われました。慌てた政府が行ったのは、女性の開始年齢の引き上げを60歳にとどめるなどの複数の譲歩案の提出でした。
しかし、政府の骨折りも虚しく、国民の憤りはすぐさまプーチン大統領の支持率に跳ね返りました。2014年3月~18年4月にわたり80%前後を維持していた支持率が、わずか数ヵ月で70%台を下回ったのです。ロシアの独立系世論調査機関レヴァダセンターが同年9月に実施した調査では、国民のほぼ90%が受給年齢の引き上げに反対の立場を示しました。
一部の人々は、この出来事が「プーチン神話のほころび」になったと見ています。「国民の意見を尊重して譲歩した」という見方をすれば美談ですが、突き詰めると「強硬君主として知られるプーチン大統領が、支持率の低下を恐れてUターンした」ことに他ならないです。
もちろん、支持率の低下は年金改革だけが原因ではありません。ウクライナを巡る欧米諸国の経済制裁や独裁政権の拡大など、ロシアが抱えているさまざまな問題に対して、一部の国民は長年にわたり不満を抱いていました。年金改革はターニングポイントに過ぎないようです。
これを機に支持率は低下の一途をたどり、そこへパンデミックが蓄積した国民の不満に拍車をかけました。2020年5月の支持率は59%と、2000年代で過去最低水準に落ち込みました。
ちなみに、ロシアで年金制度の基盤が確立されたのは、旧ソ連時代の1930年です。当時のロシア人の平均寿命は43歳でした。
このような背景を認識しているにも関わらず、ロシア国民はなぜそこまで強硬に反発したのでしょうか。ロシア国民が猛反対している理由は、以下の3つに集約されます。
かつてプーチン大統領は、「自分の就任期間中は年金受給開始年齢を引き上げない」と公言しました。しかし、2014年の時点で歳出総額13兆9,600億ルーブル(約20兆9,039億円)のうち、社会保障と軍事が占める割合がそれぞれ30%を超えました。いずれかの削減を迫られたプーチン大統領は、年金の給付総額を減らす選択をし、膨らみ続ける財政赤字を補填せざるを得なくなったのです。
2.平均寿命の短さ
WHO のデータによると、2019年のロシアの男女の平均寿命は世界183の国や地域のうち96位の73.2歳でした。2002年以降は年々上昇しているものの、1位の日本(84.3歳)と比べると10年以上低いです。平均寿命をベースに算出すると、日本では65歳からほぼ20年間にわたり年金を受給できますが、ロシアでは男性は8年強、女性は13年強しか受け取れないです。
3.年金格差
国家年金を受給する国家職員と一般人では、加入できる年金制度の種類や優遇措置、支給額が大幅に異なります。
このように、ただでさえ年金制度に対する不信感が強いところへ、開始年齢の引上げが通告されたような状況です。プーチン大統領を英雄視していた国民が、強い絶望感と怒りに包まれたのは想像に難くないです。
そうして、その理由として少子高齢化が報道で挙げられています。
働く世代が少なくなり、保険料を納付する人数が減ると、年金を支払うための財源は少なくなります。その一方で年金をもらう高齢者は増えるため、財源の確保が難しい状況になっていくという説明です。
ただし、この説明は全くの間違いとまでは言わないですが、年金の本質から外れています。
年金の本質とは何かといえば、それは、長生きした時の「保険」です。死亡保険は死んだ時の保険ですが、長生きした時の保険はイメージしにくいです。ざっくりいえば、みんなから保険料をとって、平均寿命より早死にした人には年金を払わず、平均寿命より長生きした人に年金を払うという仕組みです。
平均寿命が伸びれば、年金額を維持しようとすれば納付期間の延長しか、解がないです。延長しなというなら、納付金額を上げるしかありません。
知っておくべき「年金の本質」 保険料納付の期間延長しか「解がない」理由年金数理から見れば、平均寿命が伸びれば、年金額を維持しようとすれば納付期間の延長しか、解がない。ちょっとした「算数」なので、マスコミはこうした解説もしないとまずいのではないでしょうか。無用の誤解を生む可能性もあります。
ロシアのプーチン大統領は5月25日、一般国民に対する年金を6月1日から、最低賃金を7月1日から、それぞれ10%引き上げると表明しました。モスクワのクレムリンで開かれた閣僚や地方知事らとの会議で述べました。
プーチン氏は同時に、ウクライナでの軍事作戦に参加した軍関係者らへの金銭的補償を充実させるよう指示しました。戦闘長期化や欧米の制裁による物価上昇などの経済悪化を受け、国民の不満を抑える意図があるとみられます。
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