【中国深層リポート】共産党内の反発で、思い通りにならなかった党規約改正
中国共産党二十回代表大会(二十大)は衝撃的な指導部人事を発表して幕を閉じた。習近平主席の浙江閥が通称チャイナセブン(共産党政治局常務委員会の7人)を独占し、表向きは習派の完全勝利。だが、実は習の高笑いは聞こえてこない。
習近平への忠誠心とイデオロギーの一致が、能力よりも重視された指導部メンバーが発表された。その翌日、中国株は国内外の市場で急落した。投資家が新指導部に対する失望を表明したのだ。習近平が市場開放追加策など株暴落を防ぐ手を打ったにも関わらず、外資は競い合って逃げ出す有様だった。
中国国内にも悲観的な雰囲気が漂っている。不動産市場もバブル崩壊の兆しをみせ、豪邸が半額で売られ始めた。
知人からは「定年になったが資産は持っているので、日本への移民は可能か」との問い合わせがあり、驚いた。著名な映画監督の馮小剛がアメリカ・ロサンゼルスの豪邸で暮らす写真がSNS「微博」で拡散し、彼と家族がアメリカに逃げ出したと伝えられた。22万のフォロワーを誇る彼の「微博」の書き込みは全て消された。
知人の多くは「二十大のあとに、中国はゼロコロナ政策を中止すると期待していたのに、この指導部の顔ぶれではもう期待ができない」と嘆く。「CCTV」など政府系メディアに習近平の”勝利”と宣言された「二十大」のあと、中国の人々は重苦しい失望感に襲われて「習近平の新時代」を祝う雰囲気はなかった。
習近平の最大の誤算は党の規約修正だ。目指す「北朝鮮化」の実現のために、個人崇拝禁止の条項を取り除き、自分を毛沢東並みの地位に持ち上げるはずだった。だが、実際に発表された修正案にはその目的は反映されていなかった。
「習近平思想」もなければ、「人民領袖」や「二つの確立」もなかった。台湾に関しても「台湾独立を断固として反対し,抑制する」と追加しただけで、習近平が大会報告で公表した「決して武力行使の放棄を約束しない」と言う文言は加えることができなかった。党内に武力統一への反対意見が多く存在するのだろう。
習近平が台湾を香港のように早く手にいれることに拘っていることは周知の通りだ。「二十大」期間中の17日に、「中国は台湾統一を早める意志を持っている」とブリンケン米国務長官が警告を発した。習政権に対する牽制だが、米国なりに掴んだ情報を分析した結果だろう。
習近平は自分の任期内の台湾統一を計画しているのだ。従って、党規約に習近平の意向をもっと盛り込んでもいいはずだった。しかし、ふたを開けてみたら、修正は習近平報告よりもソフトな内容となった。また習近平終身制に有利な国家主席制度の復活のための規約改正も実現できなかった。
この点こそ、一部の長老たちや軍のトップ及び党内の改革派など”反習近平勢力”の抵抗が功を奏した結果だと思う。今夏の「北戴河」会議では激しい争い(【中国深層リポート】
北戴河会議後も習・李の路線の違いくっきりを参照)があったと伝えられたが、その結果は「二十大」につながり、現在のような修正案となったとみられる。
李克強首相も含めた共青団派が全員排除されたというのが大半の意見だが、李自らが引退覚悟で習近平に異議を唱え続けたという見方もあった。中国の路線を改革開放と逆の方向に向かわせようとする習近平派に抗議する意味で「青年団派」が全員身を引いたとも見える。
その見方を裏打ちするのが10月24日の記事だ。新華網が新華社記者の署名付きの記事で新しい政治局常務委員選抜を取り上げた。それによると、習近平は年初から党員たちと対話を重ね、意見をくみ上げたうえで、人事を決定、一部の党と国家指導同志は自ら退職を希望したと強調した。
習近平派が勝利した指導部人事だが、晴れの舞台に登場した7人の顔には笑顔がなく、規則を破った後ろめたさが隠せなかった。
胡錦涛が大会の閉幕式で不本意に退場させられたことも習近平の勝利をアピールしたい「二十大」に影を落とした出来事の一つだ。習政権は胡氏の健康問題が退場の理由だとごまかしたが、余波は大きく広がった。
胡一族軟禁説から息子の逮捕説まで、噂が後を絶たない。中国政府は息子の胡海峰・浙江麗水市書記をメディアに登場させるなどして、噂の取り消しに躍起だ。恩人である胡錦涛をあのような形で退場させた習の冷酷さが世間に知られ、大きなイメージダウンとなったことは確かだ。
このことは、今後の政権運営にも影を落とすだろう。
林 愛華 (国際ジャーナリスト)
中国共産党二十回代表大会(二十大)は衝撃的な指導部人事を発表して幕を閉じた。習近平主席の浙江閥が通称チャイナセブン(共産党政治局常務委員会の7人)を独占し、表向きは習派の完全勝利。だが、実は習の高笑いは聞こえてこない。
習近平への忠誠心とイデオロギーの一致が、能力よりも重視された指導部メンバーが発表された。その翌日、中国株は国内外の市場で急落した。投資家が新指導部に対する失望を表明したのだ。習近平が市場開放追加策など株暴落を防ぐ手を打ったにも関わらず、外資は競い合って逃げ出す有様だった。
中国国内にも悲観的な雰囲気が漂っている。不動産市場もバブル崩壊の兆しをみせ、豪邸が半額で売られ始めた。
知人からは「定年になったが資産は持っているので、日本への移民は可能か」との問い合わせがあり、驚いた。著名な映画監督の馮小剛がアメリカ・ロサンゼルスの豪邸で暮らす写真がSNS「微博」で拡散し、彼と家族がアメリカに逃げ出したと伝えられた。22万のフォロワーを誇る彼の「微博」の書き込みは全て消された。
知人の多くは「二十大のあとに、中国はゼロコロナ政策を中止すると期待していたのに、この指導部の顔ぶれではもう期待ができない」と嘆く。「CCTV」など政府系メディアに習近平の”勝利”と宣言された「二十大」のあと、中国の人々は重苦しい失望感に襲われて「習近平の新時代」を祝う雰囲気はなかった。
習近平の最大の誤算は党の規約修正だ。目指す「北朝鮮化」の実現のために、個人崇拝禁止の条項を取り除き、自分を毛沢東並みの地位に持ち上げるはずだった。だが、実際に発表された修正案にはその目的は反映されていなかった。
「習近平思想」もなければ、「人民領袖」や「二つの確立」もなかった。台湾に関しても「台湾独立を断固として反対し,抑制する」と追加しただけで、習近平が大会報告で公表した「決して武力行使の放棄を約束しない」と言う文言は加えることができなかった。党内に武力統一への反対意見が多く存在するのだろう。
習近平が台湾を香港のように早く手にいれることに拘っていることは周知の通りだ。「二十大」期間中の17日に、「中国は台湾統一を早める意志を持っている」とブリンケン米国務長官が警告を発した。習政権に対する牽制だが、米国なりに掴んだ情報を分析した結果だろう。
習近平は自分の任期内の台湾統一を計画しているのだ。従って、党規約に習近平の意向をもっと盛り込んでもいいはずだった。しかし、ふたを開けてみたら、修正は習近平報告よりもソフトな内容となった。また習近平終身制に有利な国家主席制度の復活のための規約改正も実現できなかった。
この点こそ、一部の長老たちや軍のトップ及び党内の改革派など”反習近平勢力”の抵抗が功を奏した結果だと思う。今夏の「北戴河」会議では激しい争い(【中国深層リポート】
北戴河会議後も習・李の路線の違いくっきりを参照)があったと伝えられたが、その結果は「二十大」につながり、現在のような修正案となったとみられる。
李克強首相も含めた共青団派が全員排除されたというのが大半の意見だが、李自らが引退覚悟で習近平に異議を唱え続けたという見方もあった。中国の路線を改革開放と逆の方向に向かわせようとする習近平派に抗議する意味で「青年団派」が全員身を引いたとも見える。
その見方を裏打ちするのが10月24日の記事だ。新華網が新華社記者の署名付きの記事で新しい政治局常務委員選抜を取り上げた。それによると、習近平は年初から党員たちと対話を重ね、意見をくみ上げたうえで、人事を決定、一部の党と国家指導同志は自ら退職を希望したと強調した。
習近平派が勝利した指導部人事だが、晴れの舞台に登場した7人の顔には笑顔がなく、規則を破った後ろめたさが隠せなかった。
胡錦涛が大会の閉幕式で不本意に退場させられたことも習近平の勝利をアピールしたい「二十大」に影を落とした出来事の一つだ。習政権は胡氏の健康問題が退場の理由だとごまかしたが、余波は大きく広がった。
胡一族軟禁説から息子の逮捕説まで、噂が後を絶たない。中国政府は息子の胡海峰・浙江麗水市書記をメディアに登場させるなどして、噂の取り消しに躍起だ。恩人である胡錦涛をあのような形で退場させた習の冷酷さが世間に知られ、大きなイメージダウンとなったことは確かだ。
このことは、今後の政権運営にも影を落とすだろう。
林 愛華 (国際ジャーナリスト)
【私の論評】習が現役のうちに党規約に「習近平思想」と表記されれば、独裁体制確立とみるべき(゚д゚)!
日本のほとんどメディアでは、共産党大会において、習近平の一方的勝利のように報道されていますが、上の記事と同じく私はそうではないと思っています。そのため、上の記事を読んだときには我が意を得たりという思いがしました。
それについては、以前このブログも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
習氏、3期目へ権威確立 李首相は最高指導部退く 中国共産党大会が閉幕―【私の論評】習近平の独裁体制構築までには、まだ一波乱ある(゚д゚)!
10月22日、中国・北京で開かれた共産党大会の閉幕式に出席した習近平総書記(国家主席) |
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを掲載します。
党規約の中の習近平の思想が「習近平思想」と書かれるようになれば、そうして習近平が現役のうちにそうなれば、習近平の独裁体制が成立したとみなせるでしょうが、まだそうはなっていません。
習近平の独裁体制が確立できるかどうか、それまでにはまだ一波乱ありそうです。また、習近平が権力を握るにしても、握れないにしても、中国経済は以前このブログでも述べたように、国際金融のトリレンマと、米国による半導体の〝対中禁輸〟という2つの構造要因でこれから、従来のように伸びることありません。それどころか、かなり落ち込むことになります。
中国経済が誰の目からみても、かなり落ち込み続けることが明らかになる前までに、習近平が独裁体制を整えなければ、それは不可能になるでしょう。期限は来年中でしょう。
中国の党規約に「習近平思想」という文字は未だに見られません。いまでも「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」と長たらしい名前で掲載されています。
この意味についいては、以下の記事でその詳細を説明しました。
中国で進められる「習近平思想」の確立と普及―【私の論評】党規約に「習近平思想」と平易に記載されたとき、習近平の野望は成就する(゚д゚)!
2019年4月中国社会科学院が編集した『習近平新時代中国特色社会主義思想学習叢書』が出版された |
もし習近平が毛沢東主席並みに偉大な思想家であれば、シンプルに「習近平思想」とすればよいのなぜ、「習近平新時代中国特色社会主義思想」としたのでしょうか。
もうひとつは「習近平新時代」の意味するところが、よくわかりません。結論からいえば、長い思想名となったのは政治的妥協の産物だからでしょう。演説集は、出版されているものの、著作が一作もない習氏の考え方を「思想」と位置づけて良いものなのでしょうか。党内でも様々な意見がありながらも、周到な根回しが済んでいる重要案件を、党大会で無下に却下するわけにもいかず、そこで党内の知恵者が『新しい時代をユニークな社会主義路線で指導する習近平思想』はどうか等と提議して、双方が歩み寄った結果ではないでしょうか。
今回も「習近平思想」なる言葉が党規約に盛り込まれることはありませんでした。ということは、この読みは正しかったと考えらます。
中国共産党内の内部抗争は、非常に複雑で、外部からはうかがい知れないところがありますが、この見方は、非常にシンプルで理解しやすいです。
今後も習近平が独裁体制を完全に掌握したかどうかの、メルクマール(目印)になり続けるでしょう。
やはり、習近平が独裁体制を掌握するまでには、一波乱ありそうです。
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