2022年11月12日土曜日

侵攻〝唯一の成果〟ヘルソン州喪失の危機 プーチン大統領に屈辱的な大打撃 一方「撤退がロシアに有利に働く可能性も」専門家―【私の論評】たとえ現状維持しても、プーチンのカリスマ性は失われ、ロシアは激烈な権力闘争に(゚д゚)!

侵攻〝唯一の成果〟ヘルソン州喪失の危機 プーチン大統領に屈辱的な大打撃 一方「撤退がロシアに有利に働く可能性も」専門家


ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとっては屈辱的な大打撃となりそうだ。ウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソン市を、奪われつつあるのだ。ヘルソン市は今年2月に始まったウクライナ侵攻で、ロシアが唯一掌握していた州都。ウクライナ側は完全掌握に向けて作戦を進めており、ロシアが今回の侵攻で得た数少ない成果を失う時が近づいている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11日、ビデオ演説でヘルソン市を「取り戻している」と延べ、奪還が間近との認識を示した。さらにゼレンスキー氏は通信アプリで、「私たちのヘルソン」というタイトルの映像を公開した。そこにはウクライナ軍を歓迎するヘルソン市民の姿が映っていた。

ウクライナ国防省情報総局は同日、ヘルソン市内の統制を取り戻しつつあると発表した。「ロシア軍は兵士に民間人の服装に着替えて自己責任で逃げるよう命じていた」と市内に置き去りにされた露軍兵がいると指摘。逃走は不可能だとして、ロシア兵に投降を呼び掛けた。

ロシア国防省はすでに、ヘルソン市を含むドニエプル川西岸地域から東岸地域へのロシア軍部隊の移送が11日未明に完了したと発表していた。ドニエプル川の両岸を結ぶアントノフスキー橋の一部が崩落したと報じられており、ウクライナ軍の追撃を防ぐためにロシア軍が橋を破壊したとみられている。

プーチン氏は撤退について公にコメントを発表していない。このため、欧米メディアでは、ロシア当局が、プーチン氏と今回の撤退決定を切り離そうとしているとの見方が浮上している。

一方、ロイター通信は、今回の撤退がロシアにとって有利に働く可能性もあるとして、「ロシアを敗者と見なしてしまうのは、あまりにも時期尚早だ」という専門家の分析を報じている。

【私の論評】たとえ現状維持しても、プーチンのカリスマ性は失われ、ロシアは激烈な権力闘争に(゚д゚)!

「ロシアを敗者と見なしてしまうのは、あまりにも時期尚早だ」という専門家の分析は、以下のリンクからご覧になれます。
焦点:ロシア軍のヘルソン撤退、ウクライナには「もろ刃の剣」

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を掲載します。

英国の元駐ロシア大使、アンソニー・ブレントン氏は、ロシアはしばらく前から、ドニエプル川西岸から撤退するための準備を進めてきたと指摘。冬の間に部隊を再編成するための時間を稼ぎたいのは明らかだと解説する。

「ヘルソンがもはや防御不能になった以上、(撤退は)合理的な動きだ。ロシアは依然として(冬の終わりまでに)軍を結集させられる可能性に賭けている」とブレントン氏は語った。

ブレントン氏の見立てでは、ロシアは相次ぐ後退にもかかわらず、クリミア半島、半島につながる陸の回廊、クリミアにとって必要なウクライナ海域へのアクセス、そしてウクライナ東部ドンバスの広い地域について、できる限り掌握することを今も望んでいる。

ブレントン氏は「トップは自分たちが現状をほぼ維持できる結末を望んでいると思われるが、それは不可能だろう」と述べ、ロシア側も最終的に何らかの合意を結ぶ必要があることを理解しているが、今は合意の可能性は極めて低いようだとの見方を示した。
ロシアは今後、今秋に新たに招集した約30万人の動員兵も投入し、ドニエプル川東岸の守りを固める方針です。西岸地域を奪還される失策を取り返すため、東部の戦線も立て直し、ドネツク、ルガンスク両州の全域の占領をめざすとみられます。

青い線がドニエプル川

第2次世界大戦注のロシア軍というか当時のソ連軍は、最初は撤退を続けましたが、冬季になってから大反撃に出ています。現在のウクライナ軍は、欧米から支援を受けているので、第二次世界大戦中のドイツ軍のようにはならないでしょうが、それにしも、ロシア軍はドニエプル川より東の、ヘルソン州、既存のザポロジェ州及びドネツク州、ルガンスク州の占領地域を死守することでしょう。

ウクライナ侵攻を命令したのは、プーチン大統領です。彼が「特別軍事作戦」と呼ぶものは、プーチン氏の発案です。その当人がいくらこの戦争の一部から距離を置こうとしても、簡単なことではありません。

ヘルソン撤退の前から、この戦争はプーチン氏にとって危険要素をはらんでいました。この9カ月間の出来事は、ロシア国内での大統領に対する認識を変える危険があります。ロシア国民の受け止め方というよりも、大事なのはプーチン氏の周りにいて権力を握る、ロシアのエリートの見方です。

ロシアのエリート層はもう何年もプーチン氏のことを、一流の戦略家だとみなしてきました。何があっても必ず最後には勝つ、カリスマであると信じてきたのです。自分たちが属する体制は、プーチン氏を中心として作られたもので、彼こそがこのシステムの要なのだと、ロシアのエリートたちはずっと考えてきました。

しかし2月24日以降、ロシアには「勝利」が不足しています。プーチン氏の侵略戦争は計画通りには進んでいません。ウクライナに多くの死と破壊をもたらしただけでなく、彼の戦争は自軍にも甚大な被害をもたらしました。

大統領は当初、戦うのは「職業軍人」だけだと主張したのですが、のちに何十万人ものロシア市民を戦争に動員しました。ロシア人にとっての経済的な負担も、相当なものになっています。

クレムリンはかつて、プーチン氏は「ミスター安定」だとするイメージをロシア国内に広めました。


そのイメージ戦略は、今ではかなり説得力を欠いています。ひょってして、今後ロシアの現実的な軍事戦略によって、ドニエプル川より東の、ヘルソン州とザポロジェ州および、既存の占領地であるドネツク州、ルガンスク州はロシア軍によって維持されるかもしれません。

ただプーチンのカリスマ性は元には戻らないでしょう。

2018年3月18日に行われた、大統領選挙において、ウラジミール・プーチンは圧勝しました。ただ、当時からロシア政治の問題は2024年であるということがいわれていました。


ロシアの大統領は任期が6年ですので、2018年にプーチン氏が勝ったので、2024年に次の任期が終わるわけです。そこで、次の任期が終わった時に一体どうなるのかが、重要な課題となります。

ウクライナ侵攻がなければ、プーチンがまた勝つ可能性はかなり高いと考えられました。それを前提として、プーチンは権力の永続化を目指していたようでが、カリスマ性を失ったプーチンはもはやただの人であり、しかも2024年3月に71歳になります。平均寿命の短いロシアではこれはかなりの高齢です。権力の永続化どころか、大統領に当選することも不可能でしょう。

そこで、これから先、一体どんな形のどんな姿の政権になるのかという疑問がわきます。後継者について憶測はありますが、それは憶測の域を出ないものばかりです。

プーチンは昔の専制君主のように、自身は不滅だと信じていたようです。ロシアに後継者育成計画や緊急時対応計画、もしくは現実には何の計画もありません。メディアが「プーチン後」について口を閉ざしていた理由もここにあります。

ロシアがこれと似たような状況にあったのは、100年も昔のことではありません。スターリンが死去した後には、ロシアのニュースはしばらく途絶えました。米国の識者たちは当時、スターリンには自ら選んだ後継者がいるのか考えを巡らせていました。

スターリンの遺体

しかし、スターリンの没後数年のうちに、後継者育成の計画や手続きがなかったことは明白になりました。ロシアには混乱が生じ、権力闘争が繰り返し繰り返し行われました。この限られた観点で言えば、歴史は悪くない教科書でしょう。プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、それを知る者は誰もいないと考えて差し支えないでしょう。

激烈な権力闘争になるのは確実であり、それで終れば良いですが、悪くするとそれが高じて内乱から内戦になる可能性すらあります。


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