2022年11月8日火曜日

ウクライナ戦争は外交も追求すべき時が来ている―【私の論評】中間選挙で共和党が大勝利すれば、米議会は包括パッケージを用意し、ウクライナ戦争をやめさせるかもしれない(゚д゚)!

ウクライナ戦争は外交も追求すべき時が来ている

岡崎研究所

 フィナンシャルタイムズ紙の外交問題コメンテーター、ギデオン・ラックマンが、10月17日付けの論説‘Diplomacy should not be a dirty word in the Ukraine war’で、ウクライナ戦争につき、外交とウクライナに対する軍事的支援のこれら二つのアプローチは並行して進めるべきであり、互いに補完するものだ、外交が必要だ、と述べている。主要点は次の通り。


・ロシアは益々必死になっている。ロシアの弾薬は枯渇してきており、プーチンは、残る唯一の道具として核の使用を脅かし、ウクライナや西側の国を譲歩させようとしている。

・62年のキューバ危機に見られたような秘密交渉を伴うような外交がウクライナ戦争には欠落している。

・外交を強力な軍事的支援に代わるものと考えることは間違いであり、外交は戦闘と同時に進んでいる必要がある。

・米国とロシアのチャネルはほとんどない、第三者の外交はもう少し成果が出るかもしれない(例えば、トルコやインド)。

・幅広いパラメーター(交渉要素)の中には、ロシアの2月24日以前のラインまでの撤退、ウクライナの海へのアクセス、空域支配、安全保障など生存可能な国家の保証等があるがクリミアは最大の難問である。創造的解決のための外交がもっと必要だ。

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 上記のラックマンの主張は思慮深い。外交交渉には良いタイミングが必要だとは良く言われることだが、2月のロシアの侵略から既に半年が経過、ウクライナの国土やインフラは激しい被害を受け、人命も多くが犠牲になり、今や冬季の到来を控え、ロシアの攻撃により電力供給が激減している。

 他方、ロシアも多くの軍人が犠牲になり(米国は死傷者数7万、8万とも推計)、弾薬やミサイル等の武器の供給能力にも問題があり、政府に近い者を含め国内の反対も根強いと言われる。経済については思いの他に強靭だとの見方もあるが、制裁は相当効いているに違いない。時間が経てば、更に効くだろう。そう考えると、双方にとり外交を追求すべき時期に入っているはずである。

 双方とも出来るだけ戦場で勝って、強い立場から交渉したいと考えるだろう。ラックマンは、外交と戦争は同時並行で進むべきだと言う。外交と戦闘を二者択一に考えるべきでないというのは、正しい(特に現段階に至っては)。

解決点をどこに見出すのか

 もう一つ難しい問題は交渉のパラメーターである。ウクライナ戦争は、この点が特に難しいように見える。外交交渉での取引の均衡が非常に難しい。何故ならこの戦争は余りに酷いロシアの侵略であり、半々のバランスではロシアを利することになる可能性が高い。

 ラックマンはクリミアが最大の難問だと言う。しかし、賠償の支払い、戦争犯罪の追及等の問題もありうる。対露制裁を一挙に解除することもできないだろう。

 ウクライナ対ロシアの取引が難しければ欧州に係る要素や米露関係の要素を入れてパッケージを大きくすることが考えられるが、それも容易ではない。しかし、外交はもう進めるべきであろう。

 仲介者についても、ラックマンの示唆する通り、トルコ、インドの可能性がある。国連も自力ではともかく、何らかの形で関与させるのが有益かもしれない。中国の役割を期待する向きがあるかもしれないが、側面援助はともかく仲介者にするには信用が足りない。

 つくづくプーチンは理屈のない、無思慮な戦争を無謀に始めたものだ。戦争は最低でももっと合理的で、規律のあるべきものだ。

【私の論評】中間選挙で共和党が大勝利すれば、米議会は包括パッケージを用意し、ウクライナ戦争をやめさせるかもしれない(゚д゚)!

米当局者幹部がここ数週間、ウクライナに対して、ロシアとの外交協議に前向きであることを示すよう求めていることがわかっています。情報筋が明らかにしました。紛争の終結が見えず、両国とも和平交渉に熱心ではないため、戦争への関与に対する米国内の支持が弱まることが危惧されています。

こうした協議はウクライナに対して、今交渉を行うよう促すものではありません。米国は、ウクライナ政府が、戦争に対する解決策を見いだすことを希望しており、道徳的にも優位な立場にあることをより明確に示すことを望んでいます。

ゼレンスキー(左)とプーチン

ウクライナのゼレンスキー大統領は10月、ロシアのプーチン大統領との交渉の可能性を正式に否定する法令に署名しました。ロシアがウクライナの4つの州を違法に「併合」したことへの対抗措置でした。

ゼレンスキー氏は法令に署名する前の9月に、「ロシアは、ウクライナの領土を占領していると認める用意ができていない。これは、実質的な会話が行えないことを意味する」と述べていました。

ゼレンスキー大統領がこの法令に署名して以降、米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、こうした発言を変えるよう、より圧力を加えるようになりました。

ゼレンスキー氏は10月、「我々は、ロシアと交渉する用意がある。しかし、ロシアの別の大統領とだ」と述べていました。

情報筋によれば、サリバン氏は先週ウクライナを訪問した際、ゼレンスキー氏とこの問題について直接話し合いを行いました。サリバン氏は米国の見方を説明し、プーチン氏とのあらゆる協議を行わないということは、ウクライナが話し合いを拒絶しているというロシア側の物語を補強することになりプーチン氏の思うつぼだと伝えたといいます。

一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は7日、ロシアはウクライナとの交渉に前向きではあるものの、現在はそのタイミングではないと述べました。

ペスコフ氏は記者団に対し、「我々は、ロシア側が交渉を通じて、その目標を達成することに前向きだと繰り返し述べている」と語りました。ただ、ロシアは現時点ではそのような機会を目にしていないとし、理由として、ウクライナ側による、あらゆる交渉を継続しないとの法令を挙げました。

ロシアのプーチン大統領の戦争目的は何なのか、未だにはっきりしません。当初は、ウクライナに電撃戦で侵攻し、キーフ等を手中に収め、ゼレンスキー政権を国外逃亡させて、ウクライナに傀儡政権を樹立し、これをもってウクライナをNATO諸国との間の緩衝地帯にしようと目論んだと考えられます。

しかし、当初の目論見は、ロシア側の予想をはるかに上回る頑強な抵抗にあい、完全に失敗しました。今後、これが成就する見込みは、ほとんどなくなったと言って良い状況になりました。

その後も、ウクライナ領土内での戦争が続いていますが、プーチン大統領は結局何をしたいのか、はっきりしません。無論、相手に手の内を読まれたくないので、そうしているという面もあるのでしょうが、それにしても、戦争目的が全くはっきりしません。そのためか、出口戦略も全く見えてきません。

一方、米国のバイデン政権も似たりよったりのところがあります。米国に戦争の「出口戦略」がないことは、以前から識者が懸念していました。外交問題評議会のリチャード・ ハース会長は、「奇妙なことに、ウクライナでの西欧の目標は初めから明確とは言い難い。ほぼ全ての議論が手段に集中している。何が戦争を終わらせるかにほとんど言及がない。どう戦争を終了すべきかに答えることは、ロシアとの闘争が重大局面をむかえる中、大規模な戦闘の気配がするので、死活的に重要だ」と早くから指摘していました。

西側は戦争終結の出口戦略とウクライナ支援をパッケージにすべきです。ロシア軍の完全な敗北を目指すと核の惨劇のリスクは高まり、そうならなくても人道被害は甚大になるので、西側は武器支援をキーウが受け入れ可能な紛争解決に関連づけ、もうそろそろ「必要であれば(ウクライナへの)軍事支援の栓を閉めることも厭わないと示す」べき時が近づいているのかもしれません。

プーチン大統領は、ウクライナがEUに加盟することには、反対していません。このブログにも以前述べたように、ウクライナが支援パッケージで経済支援を受けた上に、NATOに加盟できた場合、かなりの経済発展をする可能性があります。前世紀には世界中でみられたものの、今世紀に入ってからはあまりみられなかった、かなりの経済発展がウクライナでみられるようになるかもしれません。

それだけ、ウクライナには潜在可能性があります。ロシアから干渉、国内のあまりに酷すぎた腐敗などが一層されれば、人口も比較的多く、宇宙産業、航空産業、IT産業などの基盤が整っているウクライナは大躍進する可能性があります。

ただ、いまのままでは、ウクライナ戦争はいつまで続くかわかりません。今までは、リアルな解決法を模索することは、ロシアのプロパガンダに利用されるだけといえたかもしれません。そのことを恐れたからこそ、2月24日以前の領土を取り戻すことができれば「ウクライナにとっての勝利とみなす」というキッシンジャー氏の発言にゼレンスキー大統領は、激怒したのでしょう。

しかし、戦争が始まってから、9ヶ月近くになっています。もうそのような状況ではなくなりつつあります。この状態が続けば、ロシアは経済的にも軍事的にも疲弊し、ウクライナは自国領土が主戦場ということでかなり疲弊します。両方とも、先が見えないことに対してかなりの不安を感じているでしょう。

もうそろそろロシアもウクライナも理想論や原理原則ばかりを語ってはおられなくなり、現実的な「出口」戦略を模索することになるでしょう。

まさに「戦争にチャンスを与えよ」で米国の戦略家ルトワック氏が語っていたことが現実になるのです。ルトワック氏は、平和な時代には人々は戦略問題を軽視し、近隣諸国の不穏な動きにも敏感に反応せず、日常の道徳観や習慣の方を戦略課題よりも優先してしまう。このために戦争のリスクが一気に高まるといいます。

これは、まさに2014年当時のウクライナであり、現在の日本の状況でもあるかもしれません。


また、戦争が始まると男達は戦争に野心やロマンを見出し、嬉々としてこれに参加しようとします。しかし、戦争が一旦始まり、膨大な量の血と物資の消耗が始まると、最初の野心は疲弊と倦怠感に取って代わり、戦う気力はどんどんと失われていきます。

ウクライナもロシアもこの状況になったか、そうなりつつあるのは間違いないです。

人々は遺恨や憎しみよりも平和を希求するようになるといいます。あるいは抗争中のどちらかの勢力が圧倒的な勝利を収めた際も戦争は終結します。破れた側に闘う力が残されていないためです。戦争を本当の意味で終結させるのは膨大な犠牲を待たねばならないのです。つまり戦争が平和を生むのです。現在、ウクライナ戦争はこの方向に向けて動き始めているといえるでしょう。

この考え方は、リベラルの立場の人たちには、到底許容できない考え方であり、絶対善のウクライナは、絶対悪のロシアに完全勝利しなければならないと考えることでしょう。

しかし、ウクライナはすべきではない妥協はしないまでも、できる妥協はすべきでしょう。これは、ロシアも同じです。

妥協には2つの種類があります。1つは古い諺の「半切れのパンでも、ないよりはまし」、1つはソロモン王の裁きの「半分の赤ん坊は、いないより悪い」との認識に基きます。前者では半分は必要条件を満足させます。パンの目的は食用であり、半切れのパンは食用となります。半分の赤ん坊では妥協にもなりません。

現在、米国では中間選挙が行われています。もし、この選挙で共和党が圧倒的に勝利すれば、米国はウクライナ戦争への政策を変える可能性があります。

現状では、バイデン政権は、ウクライナに対して、ロシアとの外交協議に前向きであることを示すよう求めている状況ですが、共和党が圧倒的な勝利をすれば、米国議会は、出口戦略とウクライナ支援をまとめた包括パッケージを用意し、ウクライナ、ロシア双方に対して妥協点を見出して、戦争をやめるか、休止するようにせまるかもしれません。

この動きに対して、安倍元総理が存命であれば、日本もロシアとウクライナの仲介をし、日本も「包括パッケージ」を用意して、戦争の集結に尽力できた可能性が高いです。それだけではなく、北方領土交渉もかなり進めることができたかもしれません。

ただ、現状の岸田総理と、林外務大臣には、それを望むべくもないでしょう。米国の動きに追従するだけに終わるでしょう。残念至極です。

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