2022年11月18日金曜日

国が後押しする次世代半導体 かつて世界シェアの5割も円高と引き締めで10年遅れに 新会社「ラピダス」は迅速な意思決定が追撃の鍵―【私の論評】日銀の金融政策の間違いが中・韓の企業をぬるま湯に浸け、日本企業を痛めつけてきた(゚д゚)!

日本の解き方


記者会見後、写真撮影に応じる「Rapidus(ラピダス)」の小池淳義社長(左)と東哲郎会長=11日午後、東京都港区


 トヨタ自動車やソニーグループ、NTTなど8社が次世代半導体の国内生産に向けた新会社「ラピダス」を設立し、政府は700億円を補助するとしている。経済安全保障の観点からの動きとみられるが、その狙いや成否はどうか。

 今の岸田文雄政権は、経済産業省主導の振興策ではかなりまともだ。第2次補正予算案では半導体支援策が充実している。日米連携の次世代研究拠点整備に約3500億円、先端品の生産拠点支援に約4500億円、製造に不可欠な部素材の確保に約3700億円など、計1・3兆円を充てている。

 日米は次世代半導体分野の研究開発での協力で合意している。上記の研究拠点整備予算に基づく拠点は年内にも設置され、国内外の企業や研究機関とも連携する見通し。萩生田光一前経済産業相が既に道筋をつけ、具体的な企業名も挙がっている。今回の次世代新会社は、その研究成果を量産につなげる役割で、既に700億円の支援は決まっている。

 日本の半導体産業は、1970年代に日立製作所やNECなどの総合電機メーカーが高い競争力を備え、80年代後半には日本勢が世界シェアの5割を握っていた。

 しかし、日米などの「プラザ合意」を契機として、それまでの円安が是正され始めると、時を同じくして、日本の半導体産業に陰りが見え始めた。

 円高による競争力低下と同時に、日米貿易摩擦に伴う輸出制限などもあり、韓国、台湾勢が急速に力をつけてきた。90年代以降、バブル潰しに躍起になり、金融引き締めを行ったので、半導体産業でも先端製品の開発や量産に不可欠な設備投資余力を失った。そしてリーマン・ショック以降、さらなる金融引き締めで円高を誘発し、2010年代における回路線幅の微細化を巡る投資競争にもついて行けなかった。

 筆者の記憶に残っているのは、12年2月のエルピーダメモリの破綻だ。当時の坂本幸雄社長は「為替については、リーマン・ショック前と今とを比べると、韓国のウォンとは70%もの差がある。70%の差は、テクノロジーで2世代先に行かないとペイしない。為替変動の大きさは、企業の努力ではカバーしきれないほどだ」と語っていた。

 日本は自国通貨高だったが、韓国や台湾勢などは不況期も巨額投資を続け、日本は10年近い技術的な差をつけられた。

 半導体では、国の資金が投入されても失敗も少なくなかった。06年の日立と東芝、ルネサステクノロジ(現ルネサスエレクトロニクス)によるファウンドリー(生産受託会社)設立構想、前述した日立とNEC、三菱電機の半導体事業が母体となった旧エルピーダメモリなどだ。当時は競争力を大きく損なう円高時期とも重なっていたが、今回は円安であるので、そうした言い訳はできない。

 新会社ラピダスは利害関係者が多いので迅速な意思決定ができるかどうかが鍵となる。必要なエンジニアを十分に確保し、過去よりはるかに良い円安という外部環境を生かしてほしい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】日銀の金融政策の間違いが中・韓の企業をぬるま湯に浸け、日本企業を痛めつけてきた(゚д゚)!

日本の半導体産業に関して、あれが駄目、これが駄目などと批判ばかりしている人がいます。こういった人たちに対しては、苦言を呈したいです。

上の高橋洋一氏の記事でも、以下のように語っています。
 90年代以降、バブル潰しに躍起になり、金融引き締めを行ったので、半導体産業でも先端製品の開発や量産に不可欠な設備投資余力を失った。そしてリーマン・ショック以降、さらなる金融引き締めで円高を誘発し、2010年代における回路線幅の微細化を巡る投資競争にもついて行けなかった。

 筆者の記憶に残っているのは、12年2月のエルピーダメモリの破綻だ。当時の坂本幸雄社長は「為替については、リーマン・ショック前と今とを比べると、韓国のウォンとは70%もの差がある。70%の差は、テクノロジーで2世代先に行かないとペイしない。為替変動の大きさは、企業の努力ではカバーしきれないほどだ」と語っていた。
90年代以降のバブル潰しは完璧に間違っていました。当時の経済統計資料をみると、たしかに当時は株価や土地がかなり値上がりしていましたが、一般物価はさほどではありませんでした。当時は物価が上がり、「狂乱物価」であったと記憶している人もいるようですが、それは完璧に間違いです。

にもかかわらず、日銀は金融引締をしてしまったため、バブルは崩壊してしまいました。ただし、バブルというのも間違いです。当時の統計資料を見返すと、さほどではありません。それは、下のグラフをみてもわかります。


なぜ物価が上がらなかったかといえば、日銀が金融引締を繰り返したからです。2014年から、日銀は金融緩和に転じましたが、あまりに長い間金融引締を続けてきたため、未だ物価は十分に上がっていません。この時代は、ひどい円高だったことを覚えていらっしゃる方も大勢いると思います。

円高の理由も簡単です。他国がまともに金融緩和しているときに、日本だけが緩和をしなければ、円高になるのは当然の理屈です。

為替レートに関して、難しいことをいいたてて、煙に巻くような愚かな人が大勢いますが、それは非常に簡単です。

日銀

為替レート(円ドル)≒世界全体に流通している円の総額÷世界全体に流通しているドルの総額(円/ドル)です。これを計算すれば、どう考えても140〜150円くらいに収まると考えられますが、500円になると予測愚か者も存在します。

短期では、他の要素も複座に絡むので、この通りにならないことも多いですが、中長期では、これに近い値になります。

この式をみれば、世界中の国が普通に金融緩和しているのに、日本だけが金融緩和しなければ、円高になるのは当然といえば、当然です。

最近は、日本では、輸入に頼るエネルギー価格やその他の資源が値上がりしているため、大変だ、大変だと語る愚か者も増えていますが、実際に物価をみてみれば、以下の通りです。

10月の物価指数をみると以下の通りです。
(1)  総合指数は2020年を100として103.7  総合CPI
    前年同月比は3.7%の上昇  
(2)  生鮮食品を除く総合指数は103.4 コアCPI
    前年同月比は3.6%の上昇   
(3)  生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は101 コアコアCPI
    前年同月比は2.5%の上昇  
コアコアCPIが、前年同月比で2.5%であることをもって、2%を超えたから大変だ、すぐに金融引締すべきだなどと叫ぶ愚か者もいますが、これも間違いです。

この判断をするには、雇用をみていく必要があります。

9月の雇用指数は以下の通りです。
(1) 就業者数
  就業者数は6766万人。前年同月に比べ40万人の増加。2か月連続の増加
(2) 完全失業者数
  完全失業者数は187万人。前年同月に比べ7万人の減少。15か月連続の減少
(3) 完全失業率
  完全失業率(季節調整値)は2.6%。前月に比べ0.1ポイントの上昇
現在日銀は、金融緩和を継続していますが、9月の時点で2ヶ月連続で就業者が増加しています。完全失業者は、15ヶ月連続で減少しています。完全失業率は前月に比べ0.1ポイントの上昇です。

金融緩和をやめる判断は、緩和を続けても、就業者数が増えない、完全失業率が下がらない状態になってから判断すべきものです。そうなれば、金融引締に転ずることを検討するのです。

9月には、完全失業率が0.1ポイント上昇しているわけですから、これでは積極的に金融引締すべきではありません。金融緩和を続けて物価がある程度上がったにしも、失業率が下がり続けているなら、緩和を続けるべきなのです。

日銀は、このようなことは、無視して、90年年代以降金融引締を2012年まで継続したのです。これは、金融政策の大失敗で、極度の円高をもたらしました。

そのため、日本の産業界で何が起こったかといえば、日本で部品を組み立てて、製品を製造し、それを海外に輸出するよりも、中国や韓国に部品を送り、そこで組み立てて、輸出したほうがコスト的にはるかに安いという状況になりました。

特に、韓国や中国は地理的にも近いですから、運賃を上乗せしても、日本から部品を輸入して、それを組み立てて製品を作るほうが有利でした。

ただ、円高の日本から部品を輸入するのは割高ですから、今度は中国や韓国で部品を製造する動きが加速しました。日本企業もそのほうがさらにコストを低減できるため、様々な企業が中国や韓国に進出して、そこで部品を製造する動きができました。

そうこうしているうちに、中国や韓国は、半導体の製造に多大な投資をして、自前で部品を作れるようになったのです。

超円高でこのようなことが起こっていたのです。日本企業が後塵を拝するようになるのは当たり前です。

これを他の例にたとえると、日本企業は円高という重たい重りを背負わされ、さらに両手、両足を縛られ遠泳をしろといわれているようなものでした。一方中国や韓国の企業は、手首、両足を縛られることもなく、それどころからライフジャケットを付けた状態で、遠泳をするようなものでした。

海自の遠泳訓練

この遠泳で、日本と中国・韓国が競争すれば、日本が負けるのは当然です。そのような状況ですから、日本が経済発展もせず、賃金も上がらなかったのです。中国や韓国が、1990年代に経済成長ができた要因は、日本の円高によるものです。これがなければ、中韓の今日の発展はなかったでしょう。

中国韓国は、日本の円高によって、ぬるま湯に浸かったような状態になり、自らはあまり努力をしなくても、経済発展することができました。一方、日本企業は日本国内で製造した海外に輸出すれは、かなりのコスト高になり、国際競争力は衰えました。一方、国内では強烈なインフレで、良い製品を開発しても売れませんでした。

私は、日本企業が往年の輝きを失った最大の原因は、日銀の金融政策の間違いによるものだと思っています。これさえなければ、日本企業もかなり成長していたことでしょう。

さて、現在は円安です。円安になってから、特に中韓の経済は落ち込んでいます。その理由は、上で述べてきたことから、十分にご理解いただけると思います。

現在は、円安が続いています。中韓にとっては、厳しい状況になっています。しかし、長年ぬるま湯に浸かってきた中韓は、このぬるま湯が麻薬のように悪いほうに効いてしまい、この厳しい状況を打開するのは困難を極めるでしょう。そうして、自分たちの実力のなさを思い知ることになるでしょう。

一方、日本企業は、円高で辛酸を舐め、現在の状況は天国のような状況です。今こそ、日本復活時なのです。日本企業は捲土重を期し、世界のリーダーへと復活していただきたものです。そうして、日本企業は、日銀が金融政策を間違え、円高にさえならなければ、成長を続けられると信じています。

現在の日銀は、金融緩和政策を継続しており、先にも述べたように、この政策は正しいです。現状で、金融引締に転じることになれば、また円高で日本企業が苦しみ、中韓企業はぬるま湯につかることになります。経済安全保障上の観点からも、日銀は正しい金融政策を実施すべきです。

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