2022年3月8日火曜日

日銀審議委員人事に悪い予感…インフレ目標軽視は「雇用軽視」 金融政策は旧体制に逆戻りか―【私の論評】今後日銀が金融政策を間違えば、制裁中のロシアのように景気が落ち込みかねない日本(゚д゚)!

日本の解き方


岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏

 政府は、7月に任期満了を迎える日銀の片岡剛士審議委員と鈴木人司審議委員の後任に、岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏と三井住友銀行上席顧問の田村直樹氏を充てる国会同意人事案を提示した。

 高田氏はいわゆるエコノミスト枠、田村氏は金融機関枠だ。金融機関枠は、金融政策とは直接関係のない業界代表といえるため、本コラムでは高田氏に絞って考えてみよう。

 高田氏は財務省の「国の債務管理の在り方に関する懇談会」のメンバーを務めた。その意味で、今回の提示は典型的な財務省人選だ。

 2013年には『国債暴落―日本は生き残れるのか』という著書を出版している。単純な国債暴落論ではなく、中身はそう簡単に国債は暴落(金利は急上昇)しないということを主張したものだ。ただし、どこかのタイミングでは国債暴落(金利上昇)とも書いている。

 高田氏は、国債が暴落しない理由として、①経常収支黒字②ホームカントリーバイアス(自国通貨志向)③財政規律の存在―を挙げている。

 今はそうでもないが、将来には国債暴落もあり得る―というのは、財務省にとって好都合な主張である。そうならないために財政再建が必要だという流れになるからだ。高田氏は「財政規律は不可欠。消費増税は最低限の姿勢」との見解を示しており、財務省と同じ路線だ。

 高田氏の財政状況の見方は、財務省と同じく、債務残高対国内総生産(GDP)比だ。この数字は悪いため、暴落もあり得るが、前述の3つの要因があるから、今のところなかなか暴落しないというものだ。

 ファイナンス論からいえば、国債は政府の債務なので重要なのは政府の財政状況であり、国全体の話ではなく、①の経常収支は関係ない。②の自国通貨志向は多少あり得るが、どこの国でも同じことで決定的ではない。③について、消費増税が財政規律の表れというのは、バランスシート(貸借対照表)から財政状況をみるファイナンス論からすると、財務省を忖度(そんたく)しているように感じてしまう。

 国債関係者は市場機能を重視するので、国債市場に日銀が出てくるのを伝統的に嫌ってきた。その意味で、大量の国債オペが伴う大規模金融緩和に消極的な人が多い。

 今回の人事について、一部のマスコミは「非リフレ派」と報じている。「リフレ派」は、世界標準のインフレ目標に従って金融政策を考える人なので、非リフレ派が日銀に入ってはまずいのではないか。

 国債関係者は、市場機能を重視し、インフレ目標について考えることが少ないと懸念している。

 インフレ率は雇用と大きな関係がある。インフレ目標というが、裏を返せば、それを軽視するのは雇用軽視にもなる。今後の日銀人事によっては、かつての白川方明(まさあき)総裁時代の金融政策に逆戻りする予感がする。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】今後日銀が金融政策を間違えば、制裁中のロシアのように景気が落ち込みかねない日本(゚д゚)!

岸田文雄首相は4日の参院本会議で日本銀行の黒田東彦総裁の後任に関し、2%の物価安定目標に「理解のある方が望ましい」と話しています。

黒田総裁は2023年4月に任期満了となるため、「後任人事についてはその時点で日銀総裁に最もふさわしいと判断する方を任命することが基本」とも述べました。2%物価目標の早期実現を明記した13年1月の「共同声明」を岸田政権下で再確認したことにも触れ、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向け、今後とも緊密に連携して取り組んでいく」と強調しました。

4日の参議院報会議に臨む岸田総理

海外の主要中央銀行がインフレ対応で金融緩和からの転換に乗り出す中で、日本は未だ金融緩和が不十分なのは明らかであり、そうした中ての総裁人事は「新しい資本主義」を掲げる岸田政権の金融政策を占う試金石となります。

大胆な金融政策をアベノミクスの第一の矢に掲げた当時の安倍晋三首相は、黒田総裁を起用し、政策委員にリフレ派を次々と送り込み世界標準のインフレ目標に従った金融政策を実現しようとしました。

岸田政権が、「2%物価目標の早期実現」を本気で目指すなら良いでしょうが、そうでなく誰かの意見を聞いて、これを翻ることにでもなれば、日本はまたデフレに舞い戻ってしまいます。

日銀は現在でも緩和はしてはいるものの、16年1月にマイナス金利を導入した際、日銀はターゲットを「量」から「金利」へと明確に切り替えたので、長期国債買い入れの金額にノルマは存在しません。

日銀当座預金の政策金利残高にマイナス0.1%、10年物国債利回りにゼロ%程度という長短金利ターゲットを設定したイールドカーブコントロール(YCC)の下で、それと整合的なイールドカーブが形成されるような長期国債の買い入れを実施しています。

21年11月末に日銀が保有している長期国債残高は、前年同月末比プラス16兆3265億円にすぎません。ターゲットがまだ「量」だった頃、この数字はプラス80兆円を超えていたので、実態としては「テーパリング(量的緩和の縮小)」的なことはすでに相当進んでいるわけで、これを「ステルス(隠密)テーパリング」と呼ぶ向きもあります。

ETF(上場投資信託)買い入れはどうでしょうか。21年3月に行った金融緩和策の「点検」の際に日銀は、ETFの買い入れ手法を「柔軟化」したという体裁をとりつつ、相場急落時以外の買い入れは行わない態勢に移行しました。ETFの新規買い入れからは事実上「撤収」したと言っても過言ではないでしょう。

日銀は現在の金融緩和策の柱の1つとして、「オーバーシュート型コミットメント」を掲げている。これは「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束するもの」です。

その一方、日銀は21年12月の金融政策決定会合で「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション」(コロナオペ)のうち、民間債務担保分は22年3月末で終了し、制度融資分とプロパー融資分は半年間だけ延長することを決定しました。

コロナオペの残高は足元で80兆円を超えています。満期到来でこれが全部なくなれば、マネタリーベースが落ち込むことは避けられないです。海外投資家の間で「日銀は金融緩和縮小に転じたのではないか」「YCC見直しがあるのではないか」といった思惑が生じる可能性が浮上しています。

この点について、日銀はどう説明して乗り切りを図るのでしょうか。12月会合における主な意見には「昨春以降のマネタリーベースの増加は、感染拡大による流動性需要の高まりに日本銀行が潤沢な資金供給で応えてきた結果である。今回の措置により短期的にマネタリーベースが減少しても、長期的な増加トレンドは維持されるため、オーバーシュート型コミットメントとは矛盾しない」「特別プログラムを全て手仕舞いすることになったとしても、それはコロナ禍対応の終了であり、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』のもとでの金融緩和の縮小を意味するものでは全くない」といった意見が出されたことが記されていました。

そうした日銀による説明(一種の言い訳)がどこまで為替市場で通用するかは見ものです。このように、22年の日銀の金融政策に関しては、米国やユーロ圏の中央銀行のように「緩和の縮小」に動いているのではないかという思惑が為替市場で浮上する素地があります。

また、参院選が終了した後には、岸田首相の言動も市場の関心事になりやすいです。FRBの利上げの限界が徐々に認識される中で、そうした日銀関連の思惑も加わると、ドル/円相場が110円ラインを越えてドル安・円高方向へと動く可能性もあります。

とは言え、結局のところ、日銀の不十分な緩和は22年以降も淡々と続いていくことでしょう。であれば、最悪の事態は免れるかもしれません。ただ、心配なのは今後の日銀人事によっては、かつての白川方明(まさあき)総裁時代の金融政策に逆戻りすることです。そうなれば、またデフレからしっかりと脱却していない日本が、完璧にデフレに舞い戻ることにもなりかねません。

ネット上で貧乏神と揶揄された白川方明

デフレに戻れば、就職氷河期がまた再現されることになります。しかし何といっても、悔しいのは、日本がデフレで苦しむ一方、日本から原材料を輸入する韓国や中国はぬるま湯につかったような状況になることです。

過去のデフレの真っ最中には、実は円が異様に高くなり日本で原材料を組み立てて、輸出するよりも、中国や韓国で組み立てて、そこから輸出したほうがコストがかからないという異常事態が発生しました。当然のことながら、日本から原材料を輸入しそれを組み立てて、輸出する中国や韓国のほうがさらに安いという状況でした。これでは、日本の国際競争力が落ちるのも必然でした。

このような状況では、国内で様々な製品を製造するよりも、国外で製造した方が安いということになり、日本国内の産業の空洞化がすすみ、中国や韓国の多数の富裕層を生み出すことになりました。

中国富裕層

特に韓国では、原材料を製造する技術も高くないし、そういうことをしようとする地道な技術者や経営者を馬鹿にし卑しみ、組み立てる人間が一番偉いという文化があり、日本のデフレはまさにこうした韓国にとっては、うってつけであり、日本がデフレの底に沈んでいるときには、優れた部品や素材を開発する日本を卑しみ、我が世の春を謳歌していたといっても過言ではありません。

挙げ句のはてに、日本では中国の富裕層をインバウンドともてはやし、これに頼るしかなくなる事業者も生まれでる始末でした。何これ?日本人あまりに惨めじゃないですか?なんで金持ちにしてやって、さらに奉仕までしなくてはないのですか?中韓が得ていた莫大な利益は、本来は日本企業や日本国民が得るものだったのではないですか?日銀がまともな金融政策さえしていれば、このようなことは起こらなかったはずです。

さすがに現在のロシアは制裁対象でないのでこのようなことはできないですが、もしロシアがそれができるなら、極東に様々な工場や工場団地を造成して、日本企業を誘致し、そこで組みたてと製造輸出を行い、儲けまくってニューオルガリヒが生まれることになるかもしれません。

このようなことはあり得ませんが、ただ制裁などの対象になっていない国である程度産業基盤のある国では、中国や韓国の大成功にあやかり、日本から安い原材料を輸入し、それを組み立てて大儲けする国も現れるかもしれません。そうして、そうした国で富裕層を生み出し、日本人がその富裕層を大歓迎するなどという、過ちが繰り返されるかもしれません。

そうなれば、現在コロナ禍からも立ち直りきっておらず、ロシアによる制裁による原油高などの悪影響を受けたうえ、さらにデフレということで、2重パンチで、景気が落ち込みデフレスパイラルのどん底に沈み、それこそ制裁を受けているロシアのように経済がどん底に沈み、失われた20年が再現されることにもなりかねません。

ウクライナに侵略したロシアが景気の落ち込みによって苦しむのは、自業自得で致し方ないですが、日本が自分の首を自分でしめるような真似をすることは、まっぴらごめんです。

そのようなことだけは避けたいです。岸田首相が日銀の金融政策を誤った方向に変えようとすれば、安倍元首相や高市政調会長が大騒ぎをするでしょう。ただ、それだけでは、岸田首相の翻意を翻すことはできないかもしれません。やはり、反対の世論形成が重要だと思います。

岸田首相が稚拙な日銀人事で金融引締に走るようであれば、皆で大騒ぎしようではありませんか。そうすれば、人の言うことを聴く耳を持つと自称する、岸田首相も多くの人の反対意見を聴くことになり、過ちを訂正するかもしれません。

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