10月12日付のニューヨーク・タイムズ紙(NYT)で、同紙のデイヴィッド・サンガーが、バイデン政権が発表した国家安全保障戦略について、示された課題や目標に対して手段や施策が伴っていないとの批判がある旨論じている。
バイデン大統領は、10月12日に発表した国家安全保障戦略において、今後数年間の米国の課題は、「自国の傷ついた民主主義の回復に注力しつつ」「中国に対抗し」「ロシアを抑制すること」であると宣言し、長期的には、「修正主義の外交政策で権威主義の統治を重ねようとする」と中国の動きをより懸念していることを明らかにした。
同文書で、ロシアは、国際システムに対する差し迫った脅威ではあるが、中国は、国際秩序を再構築する意図と、その目的を推進するための増大する経済力、外交力、軍事力及び技術力を併せ持つ唯一の国であると記している。
ただ、「米国は、ロシアやいかなる国にも、核兵器の使用やその威嚇により目的を達成することを許さない」とあるが、「許さない」の意味や、プーチンがウクライナで戦術核兵器を使った場合の米国や北大西洋条約機構(NATO)の対応ついての説明はない。
サリバン補佐官は、第一に、国際秩序の将来を形成するための大国間の競争、そして、第二に、気候変動、感染症、テロ、エネルギー、インフレなどの国境を越えた課題への対処という二つの戦略的課題を強調した。しかし、既にそれらの難しさに直面している。
バイデンは、夏に訪問し原油の増産に同意したサウジアラビアが、石油輸出国機構(OPEC)の減産する動きを主導したことで足をすくわれた。中国の気候問題への協力はほぼ停止状態になり、ロシアとの核兵器の制限に関する「戦略的安定」交渉も終わった。
戦略文書の軍事計画の多くは、宇宙、サイバー、海上で中国に対抗するためのものである。サイバーセキュリティを強化し、米国は同盟国や民間部門と協力して、中国の対米投資を制限し、中国への主要技術の輸出を規制することを促している。
ただ、この戦略にはスピード感が不足しているとの批判もある。中国の台湾併合を抑止するのに、軍の近代化が間に会わない等の声もある。
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ロシアのウクライナ侵略で発表が延期されていたバイデン政権の国家安全保障戦略が 10月12日に公表された。内容的には、既に同政権が種々の機会に表明して来た国際情勢認識に基づく安全保障政策を取りまとめたもので、新しい要素がある訳ではないが、改めてバイデン政権の情勢認識や外交目標、特に安全保障上の優先順位を確認し、その問題点を把握する上で有益な資料と云える。
米国の目標は、人権が保護され自由で開放的で繁栄し安全な国際秩序の実現であり、そのために⑴米国の力と影響力の源泉と手段への投資、⑵課題に対応するためのできるだけ強力な連合の形成、⑶軍事力の近代化と強化の3つの面で努力する。その努力には外交、開発協力、産業政策、経済政策、防衛面の要素を含む。
ザンガーの論説は、特に注目すべき点として、ロシアは当面の国際秩序に対する脅威であり封じ込める必要はあるとしても、長期的には、台頭する中国との競争が最重要課題である点を明確にしたこと、内政と外交を一体としてとらえ、米国の力の源泉は民主主義であるとして当面の問題を「独裁国家対民主国家の闘争」と位置付けるバイデンの持論を再確認し国内においても民主主義のルールを守るべきことを強調したこと、中国と対抗する上で半導体等を始めとする先端産業への国内投資の促進を図ること等を挙げている。
スピード感ある具体策がカギ
戦略文書で、突出しているのは、軍事面、技術面での中国への対応であり、宇宙、サイバー、及び海上戦力での対抗を強調すると共に、先端技術に関する貿易・投資面での中国への規制によって技術的優位を確保しようとする。これについては、現在のバイデン政権の予算や施策では、中国の勢力拡大のペースに追いつけないとの批判がなされている。
この戦略文書は、課題を的確に指摘し理想的な目標を掲げているが、そのための対応や具体的な施策に説得力を欠くとの印象を与える。日本との関係では、今回の国家安全保障戦略で台湾海峡の一方的な現状変更を許さないことや、初めて尖閣諸島が日米安全保障条約の対象となることが明記されたことは良いが、前述の通り海軍力で既に米国は中国に劣勢であるとの見方がある。
また、論説が指摘するように、米国内に計画された半導体生産の新工場が稼働しても、これは米国が必要とするごく一部を供給することに過ぎない。NATO、日米豪印による枠組み「QUAD(クアッド)、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」など民主主義国との協力関係は強化されているが、東南アジア諸国連合(ASEAN)は分裂気味であり、中南米における米国の影響力の低下は顕著である。
重要なのは、バイデン政権がこの戦略を実行する具体策をスピード感をもって進めることであり、バイデン自身がこの戦略に従った行動をとることであろう。
【私の論評】現状の日本の安保は、財源をどうするかに焦点が移ってきた(゚д゚)!
バイデン政権の「国家安全保障戦略」における中国政策について、一部メディアは代わり映えしないと評したましが、1年半前の「暫定国家安全保障戦略指針」に比べると表現がかなり強まっており、中国との「戦略的競争」のレベルが上がったことを反映しています。
バイデン米政権は27日、外交・安全保障政策の指針「国家安全保障戦略(NSS)」を具体化した戦略3文書を発表しました。3文書のうち「国家防衛戦略(NDS)」は、国際システムを作り替えようとする中国の試みを「米国の安全保障に対する最も深刻な挑戦」と位置づけ、同盟国と連携して対中抑止力を強化する方針を打ち出しました。
オースティン国防長官はNDSについて「鍵となるテーマは中国に対する抑止力強化だ」と同日の記者会見で強調した。NDSには、中国による台湾侵攻を念頭に「新たな作戦概念と戦闘能力を開発する」と明記されました。
NDSは中国について、人民解放軍や経済力を使って近隣地域を威圧し、「台湾海峡の安定を脅かしている」と指摘。「(中国は)通常戦力の拡大に加え、宇宙やサイバー、情報戦などの能力を急速に進歩させている」と警戒感を示しました。
中国が米空母などを寄せ付けないことを目指して進める「接近阻止・領域拒否(A2AD)」戦略に対抗し、攻撃能力を確保することをNDSは掲げました。同盟国や友好国と連携し、戦闘領域や地域を越えて抑止力を強化する「統合抑止」の重視も鮮明にしました。
NDSは中国のほか、ロシアによる欧州地域での侵略にも備えるとしました。中露の侵略阻止に向け、米軍の探知に関する速度や精度を向上させます。北朝鮮対応については、NDSと同時に発表された文書「ミサイル防衛の見直し(MDR)」で、「次世代迎撃ミサイルの開発」を掲げました。
バイデン政権は上の記事にもあるように、12日にNSSを発表しました。NDSはその下部文書にあたります。今回、NDSにMDRと「核態勢の見直し(NPR)」を組み込む形で一体的に見直しました。
オースティン国防長官はNDSについて「鍵となるテーマは中国に対する抑止力強化だ」と同日の記者会見で強調した。NDSには、中国による台湾侵攻を念頭に「新たな作戦概念と戦闘能力を開発する」と明記されました。
NDSは中国について、人民解放軍や経済力を使って近隣地域を威圧し、「台湾海峡の安定を脅かしている」と指摘。「(中国は)通常戦力の拡大に加え、宇宙やサイバー、情報戦などの能力を急速に進歩させている」と警戒感を示しました。
中国が米空母などを寄せ付けないことを目指して進める「接近阻止・領域拒否(A2AD)」戦略に対抗し、攻撃能力を確保することをNDSは掲げました。同盟国や友好国と連携し、戦闘領域や地域を越えて抑止力を強化する「統合抑止」の重視も鮮明にしました。
NDSは中国のほか、ロシアによる欧州地域での侵略にも備えるとしました。中露の侵略阻止に向け、米軍の探知に関する速度や精度を向上させます。北朝鮮対応については、NDSと同時に発表された文書「ミサイル防衛の見直し(MDR)」で、「次世代迎撃ミサイルの開発」を掲げました。
バイデン政権は上の記事にもあるように、12日にNSSを発表しました。NDSはその下部文書にあたります。今回、NDSにMDRと「核態勢の見直し(NPR)」を組み込む形で一体的に見直しました。
バイデン政権の国家安保戦略は、日本を含む同盟国に強い口調で防衛力の強化を促しました。「われわれは軍事力近代化と国内の民主主義強化に取り組む。同盟国もその種の能力に投資することや、抑止力を高めるのに必要な計画の立案に着手することなどによって、同じく行動するよう求める」と異例の強い呼び掛けを行いました。
同文書はまた「インド太平洋の同盟国には、欧州の同盟国と協力して望ましい(国際)秩序の形成および中国との競争に関わってほしい」とも書いています。
日本政府も今年末までに自前の「国家安全保障戦略」を含む戦略3文書を改定します。戦略3文書とは、「国家安全保障戦略(国家安保戦略)」「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」を指します。
いずれも国家安全保障会議(NSC)・閣議決定文書です。3文書に基づく防衛力の抜本的強化へ向けて、米国の今回の戦略文書は大きな援軍になります。一方で、この戦略文書を見る限り、米国が日本の防衛力強化への期待を今後さらに強めることは確実であり、岸田文雄政権の本気度が試されることになります。
自民、公明両党は18日、政府の外交・安全保障の長期指針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定を巡り、両党の幹部をメンバーとする協議会の初会合を開催しました。具体的な論点については別途設置した両党のワーキングチームが19日から議論します。与党内で意見の隔たりの大きな問題については、協議会がまとめる体制を取ります。
協議会は、自民は麻生太郎副総裁、公明は北側一雄副代表がそれぞれトップを務めます。自民から茂木敏充幹事長や萩生田光一政調会長氏ら、公明からは石井啓一幹事長、西田実仁参院会長、高木陽介政調会長らが参加しました。
会合後、自民の萩生田政調会長は、国家安保に関する議論は「政府全体に関わるので、ワーキングチームをサポートして必要があればわれわれ与党協議会でさらなる議論をする体制をつくった」と説明。ワーキングチームでの議論は、「財政の課題も出てくるし、サイバーや経済安保、防衛省で所管をしない他省庁にまたがる課題もしっかり議論を深めることを確認した」と述べました。
公明の高木政調会長は「さまざまな大きな課題については、その節目節目で協議会を開く」と話しました。
初会合では茂木・石井両幹事長が挨拶したが、麻生副総裁から発言はなかったといいます。
ワーキングチームには、自民の小野寺五典・安保調査会長、公明の佐藤茂樹・外交安保調査会長らが参加します。
3文書の改定では、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、防衛費の増額、中国をめぐる認識などで自公に温度差があり、論点次第では自民内にも異論があり、今後の議論が焦点となっています。
防衛費の増額については、自民内では、国内総生産(GDP)比の2%以上も念頭に国債発行による財源確保を求める意見もある一方、自公ともに恒久財源の確保を重視する声があるそうですが、防衛増税ということにでもなれば、とんでもないことになります。
恒久財源確保とは、これは財務真理教用語で、「増税」を意味します。防衛費の増額を増税で賄うなど聴いたことがありません。戦時においても、戦費は主に国債で賄うのが普通です。
また、安倍氏は「北大西洋条約機構(NATO)加盟国並みの国内総生産(GDP)比2%という目標をしっかりと示し、検討してもらいたい」とも語っていました。防衛費は令和3年度補正予算と4年度当初予算を合わせてもGDP比1・09%(約6兆円)にとどまっています。
安倍元首相のこの指摘は正しいです。安倍元総理の遺志を活かすためにも、防衛国債を発行すべきです。増税をするということは、現世代のすべての人々に対して現在と将来の防衛費の負担をさせることになります。国債を発行すれば、負担は国債を購入した現世代の人や機関の負担ということになります。
実際、国債を購入した人や機関は、そのお金があれば、他の事業に投資したり、他の目的で使えるはずですが、国債を持っていればそれはできません。
よく国債は、将来世代への付けということがいわれますが、それは全くの嘘です。これが可能になるのは、将来世代が過去に向けて、戦闘機、艦艇、大砲や弾丸などをタイムマシンで送ることができる場合のみに可能となります。
国債は同世代間による、富の移転に過ぎません。ただ、いえるのは国債であれば、購入してくれる人や機関がいる限り、富が余っている機関や人から、政府にお金が集まることになりますが、税金はそのようなことは関係なく広く浅く、日本国民全部や日本の法人全部からお金を集めることになるのです。
租税の徴収と国債の償還が一国内で完結している場合には、それは単に国内での所得移転にすぎないのです。
一方増税とはすべからく、課税対象の現世代全員が負担するものであることを忘れるべきではありません。財務省の国債は将来世代への負担という考えは、全くの間違いです。小難しい理論などわからなくても、このようなことは常識で判断できます。
財務省のように、とにかくなんでも「増税」などといって、現世代だけが負担していれば、国や国民がますます貧しくなり、将来世代に窮乏国家を引き継ぐことになるだけです。
現状の日本の安全保証の問題点は、安全保証そのものというよりは、その財源をどうするかということに焦点が移ってきたようです。防衛費を増税で賄うということにすれば、日本が防衛力を増せば増すほどに、増税で現世代の負担が増えていくことになります。そんな馬鹿な話はありえません。
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