2024年9月25日水曜日

中国のSNSに“反日”氾濫──地方政府幹部「我々の規律は日本人を殺すこと」 当局、男児殺害は「偶発的」主張…どう対応?―【私の論評】中国人の日本への渡航制限をすべき理由:安全保障・経済・社会的リスクを検討すべき

中国のSNSに“反日”氾濫──地方政府幹部「我々の規律は日本人を殺すこと」 当局、男児殺害は「偶発的」主張…どう対応?

まとめ
  • 中国南部の深センで日本人の男児が殺害された事件の後、地方政府幹部がSNSに反日的な書き込みをしたと報じられた。中国当局は事件を「偶発的」だと主張しているが、十分な説明をしていない。
  • 日中両政府は国連総会で会談したが、議論は噛み合わず、中国は事件の計画性や反日思想との関連を否定しようとしている一方、日本は中国のSNS上の反日投稿の取り締まりと事件の真相解明を求めている。
  • 同様に、中国で米国人教員が刺される事件も起きており、中国政府の対応が厳しく批判されている。事件が遠方で起きているように思えても、問題は身近なところまで広がっていることに気づくべき。

中国南部の深センで日本人の男児が殺害された事件の後、地方政府幹部が悪意ある投稿をSNSに書き込んだと報じられた。中国では反日的な投稿がネット上にあふれているが、当局は事件について「偶発的」と居直り、十分な説明をしていない。

香港メディアによると、四川省の地方政府幹部である黄如一副県長が、SNSに「我々の規律は日本人を殺すことだ」などと書き込んだとされている。この書き込みは、深センの事件の後に行われたものだ。中国のSNS上では、この副県長の行為を批判する声が上がっている。

また、中国のIT大手企業が、中国と日本の対立を煽ったり、有害な情報を流したりしているユーザーに対して、アカウントの閉鎖などの処分を行っていることが報じられた。これは中国当局の意向を反映した新たな規制とみられているが、依然として悪質な投稿が後を絶たない。

国連総会の場で行われた日中外相会談では、日本側が中国のSNS上での反日投稿の取り締まりと、事件の真相解明を求めたが、中国側は「偶発的な個別事案」だと主張し、両政府の立場は噛み合っていなかった。

同様に、中国で米国人の大学教員4人が刺される事件も起きており、中国政府の対応が厳しく批判されている。被害者の家族の痛みに寄り添うことが重要であり、事件が遠方で起きているように思えても、問題は身近なところまで広がっていることに気づく必要がある。 

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国人の日本への渡航制限をすべき理由:安全保障・経済・社会的リスクを検討すべき

まとめ
  • 日本政府は中国への渡航危険情報を「レベルゼロ」に維持しているが、他の環太平洋の先進国は警戒レベルを引き上げている。
  • 日本人の中国での事件を受けても、日本政府は危険情報の引き上げを検討していない。
  • 中国の「国家情報法」により、中国人旅行者の日本国内での情報収集活動が懸念されている。
  • 中国人旅行者の日本への渡航は、様々なリスクがある。
  • さらに中国の反日教育による社会的リスクも存在し、日本人の中国への渡航制限だけではなく、中国人の日本への渡航制限をすべきである。

環太平洋の先進国や地域で、中国本土への渡航や滞在に関する危険情報が引き上げられている中、日本のみが「レベルゼロ」を維持していることが明らかになっています。米国は4段階の警戒レベルのうち、上から2番目のレベル3を発令し、中国国内での不当な拘束のリスクを理由に「渡航の再考」を求めている。台湾も今年6月にレベル3へ引き上げ、不必要な渡航の自粛を勧告しています。

カナダやオーストラリア、ニュージーランドはレベル2、韓国はレベル1としており、日本以外の環太平洋の先進国ではいずれも一定の警戒がなされている状況です。

一方で、G7の欧州4カ国(英国、フランス、ドイツ、イタリア)では、中国への危険情報は引き上げられていません。

日本外務省の危険情報は4段階で、レベル1からレベル4まで設定されていますが、6月に発生した蘇州での日本人母子切りつけ事件や、深圳での日本人児童刺殺事件を受けても、レベルの引き上げは行われておらず、新疆ウイグル自治区やチベット自治区を除いては「レベルゼロ」のまま維持されています。

外務省は事件後に「特にお子さん連れの方は、十分注意して行動してください」とのスポット情報を出すに留まっており、現時点で危険情報の見直しは検討していないとしつつも、中長期的な観点で総合的に判断するとしています。

こうした中、国会議員からは危険情報のレベル引き上げを求める声が出ており、元拉致問題担当相の松原仁議員は「中国で暮らす日本人は反日教育の影響を受けるリスクがあり、今回の事件を契機に日本が危険情報を引き上げることで、習近平政権に対して対応の改善を促すべきだ」と主張しています。

私は、日本人の中国への渡航制限は、当然すべきと思います。日本政府がなぜためらっているのか全く理解に苦しみます。

私は自身は、日本人の中国への渡航制限に加えて、中国人の日本への渡航制限もすべきと思います。

まず、安全保障の観点から、中国政府は自国民に対し、海外で情報収集を行うよう求める法律を持っており、これが日本国内におけるスパイ活動や情報漏洩のリスクを高めています。中国の「国家情報法」第7条には、中国国民が国家のために情報提供を行う義務が明記されています。

この背景から、中国人が日本国内で重要な情報を収集し、それが日本の国家安全保障に悪影響を及ぼす可能性が懸念されています。実際、他の国々でも中国による技術や情報の盗用が問題視されており、日本でも同様の懸念が現実的なものとなっています。

さらに、健康・衛生のリスクも考慮に入れる必要があります。中国からの渡航者が新型感染症を持ち込む可能性は、2020年の新型コロナウイルスの世界的流行において顕著になりました。COVID-19は初期段階で中国から拡散し、世界中で甚大な被害を引き起こしました。

このような感染症のリスクが再び高まることを防ぐためには、予防策として渡航制限を設けることが重要です。特に、今後も中国政府が感染症に関する情報開示に不透明さを見せるようであれば、渡航制限はますます必要となるでしょう。

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経済的な側面でも、中国人による日本国内での不動産や企業の買収が問題となっています。特に北海道や沖縄など、戦略的に重要な地域での土地購入が増加しており、これが長期的には日本の経済的自立や安全に悪影響を及ぼすリスクがあります。

また、観光産業においても、日本は一部の観光業が中国人観光客に過度に依存していると信じ込まされているところがあります。これは、日本の観光産業に占める割合をみると明らかです。

2021年の観光消費のうち、海外旅行者(インバウンド)の支出はわずか日本のGDPに占める割合は0.7%でした。

日本の観光産業のGDPに対する貢献度は、2021年には約4.2%であり、2023年には6.8%に増加すると予測されています。しかし、特にインバウンド消費は非常に小さく、2021年時点ではGDP全体のわずか0.7%に過ぎません。

このことは、日本の観光業が外部からの旅行者による消費に依存していないことを示しています。また、日本の観光産業のGDP貢献度は、スペインの12.4%やフランスの7.5%と比較して低い水準にあり、他の先進国と比べても相対的に影響力が小さいことがわかります。これらのデータから、日本の観光業はGDP全体に対して比較的小さな影響を持つことが明らかです。

これらのデータから、日本の観光産業全体のGDPに対する貢献度は全体の4〜7%程度であり、さらにインバウンド消費自体の割合が非常に小さいことがわかります。中国のインバウンド消費となるとさらに小さくなります。日本のマスコミは中国のインバウンドだけを過大に扱ってきたといえます。中国のインバウンド消費がなくなっても日本に与える影響はほとんどないといえます。

中国人のインバウンド消費は超過大に評価されてきた AI生成画像


しかし、この状況か続けば、中国政府が観光客の渡航を制限することで、日本人の心理に影響を与えようと試みる可能性もあります。そのような試みをはねのけるためにも、渡航制限を考えるべきです。

さらに、国際的な地政学的対立も影響しています。米中関係が緊張する中で、米国は中国人の渡航を制限する動きを強化しており、他の西側諸国でも同様の対策が進んでいます。特に技術流出や国家安全保障の問題が絡んでおり、日本もこれに追随する形で、中国人の渡航制限を検討すべきだという声が高まっています。

最後に、反日教育による社会的リスクも無視できません。中国国内では反日感情が教育の一環として強調されており、これが中国人の日本滞在中に問題を引き起こす可能性があります。実際に、中国では反日デモが過去に暴力事件に発展した事例があり、このような感情が日本国内での対立や事件につながるリスクがあります。このため、中国人の日本への渡航を制限することで、日本国内の社会的安定を維持し、安全を確保する必要性が増しているといえます。

以上のように、安全保障、健康リスク、経済的影響、国際情勢、そして社会的安定の観点から、中国人の日本への渡航制限は多面的に検討されるべき重要な課題であり、その実施が日本の安全や国益を守るために必要であると言えます。

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2024年9月24日火曜日

ロシア軍機に初のフレア警告、無線通告では不十分と判断か…防衛省「警告の意図を明確に」―【私の論評】ロシア太平洋艦隊の戦闘力不足と日本への影響:米戦争研究所の分析と日本の安保意識の高まり

ロシア軍機に初のフレア警告、無線通告では不十分と判断か…防衛省「警告の意図を明確に」

まとめ
  • 23日、ロシア軍機が礼文島付近で3回領空侵犯し、木原防衛相は厳重に監視する方針を示した。
  • 初めてフレアを使った警告が行われた。
  • 領空侵犯はロシア・中国の艦艇との連携の可能性がある。
  • 防衛省は意図を分析し、警戒監視を続けている。
ロシア軍哨戒機「IL38」

23日、北海道・礼文島付近でロシア軍哨戒機「IL38」が3回領空侵犯し、木原防衛相はこれを「軍事的挑発」とし、厳重に監視する意向を示しました。

ロシア軍機による領空侵犯は2019年の沖縄付近以来で、フレアを使用して警告するのは今回が初めてです。木原氏は、この警告が相手の動きに応じたものであると説明。防衛省も、フレアの使用を「強度の高い警告」と位置づけています。

さらに、22日と23日にはロシア軍と中国軍の艦艇9隻が宗谷海峡を東に進み、ロシア軍機の領空侵犯が艦艇との連携に関連する可能性があると防衛省は見ています。防衛省は引き続き警戒監視を強化し、ロシア側の意図について分析を進めています。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ロシア太平洋艦隊の戦闘力不足と日本への影響:米戦争研究所の分析と日本の安保意識の高まり

まとめ
  • ロシア太平洋艦隊は日本を脅かすほどの戦闘力がなく、現状での軍事的挑発は意味が薄い。
  • ロシアの軍事演習や領空侵犯は、実際の軍事的脅威というより政治的メッセージや威嚇の手段として行われている可能性が高い。
  • これらの行動は、ロシアが限られた軍事力で存在感を示し、地域での影響力を維持しようとする試みかもしれない。
  • 日本にとっては、防衛産業の活性化や国民の安全保障意識の向上など、一部プラスの影響もある。
  • しかし、これらの「プラスの影響」は平和と安定を脅かす行為を肯定するものではなく、現状対応の副産物として捉えるべきである。
ロシアが日本に対する「軍事的挑発」をしたとして、現状ではあまり意味はありません。そもそも、ロシア太平洋艦隊に日本を脅すほどの戦闘力はありません。これについては、以前このブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない──米ISW―【私の論評】ロシアが北方領土で軍事演習を行っても日本に全く影響なし(゚д゚)! 2023年4月17日

詳細は、この記事もしくは元記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事の内容を要約したものを以下に掲載させていただきます。

米シンクタンク戦争研究所(ISW)の分析によると、ロシアの太平洋艦隊は他国から脅威とみなされるには戦闘力が不足している可能性が高いとされている。 
ロシアは太平洋艦隊の抜き打ち検査の一環として、ミサイル発射と魚雷のテストを実施した。ISWはこれを、近日開催されるG7サミットで日本のウクライナ支援を抑止するための威嚇と分析している。 
ロシア国防相はこの検査の目的を「海洋における敵の攻撃を撃退するための能力向上」と説明し、千島列島南部とサハリン島への敵上陸を撃退する能力も含むと付け加えた。 
ISWは、ロシアが日本の北方領土周辺で軍事態勢を強化していることを、日本のウクライナ支援増加への警告と見ているが、同時にロシア軍が現時点で日本を脅かす立場にないと評価している。太平洋艦隊の一部部隊がウクライナ東部で大きな損害を被ったことを指摘し、ISWは太平洋艦隊が戦力投射能力に必要な戦闘力を欠いており、日本への真の脅威や中国に対する軍事大国としての印象を与えることは困難だと結論づけている。
米国のシンクタンク戦争研究所(ISW)のロゴ

私は、この分析は正しいと思います。現状のロシア太平洋艦隊は、日米に比して貧弱で駆逐艦以上の戦闘艦艇は7隻程度しかなく海上自衛隊の10分の1程度です。さらに、海上自衛隊は、現代海戦の要ともいえるASW(Anti Sumarine Wafare:対戦戦争)能力では、ロシアをはるかに上回っています。では、ロシアはなぜこのような「軍師的挑発」を行ったのでしょう。

ロシアの太平洋艦隊の戦闘力不足に関する分析と最近の領空侵犯事件は、一見矛盾するように見えますが、これらは異なる観点から解釈することができます。

戦力投射能力の不足は大規模な軍事作戦や持続的な脅威を与える能力の欠如を示唆していますが、単発的な挑発行為や小規模な軍事行動は依然として可能です。領空侵犯は実際の軍事的脅威というよりも、政治的メッセージや威嚇の手段として使用されることがあり、ロシアは限られた軍事力でも存在感を示そうとしている可能性があります。

この行動はロシアが地域での影響力を維持しようとする試みかもしれず、実際の軍事力が不足していても、こうした行動で緊張を高め、注目を集めることができます。また、領空侵犯はロシアの軍事戦略の一部である可能性もあり、相手国の対応を試したり、防空システムの情報を収集したりする目的があるかもしれません。

内政的な理由も考えられ、国内向けに強硬な姿勢を示すことで政権の支持を維持しようとしている可能性があります。したがって、太平洋艦隊の全体的な戦闘力不足と個別の挑発的行動は必ずしも矛盾するものではなく、ロシアは限られた能力の中で最大限の効果を得ようとしている可能性が高いと考えられます。

プーチンロシア大統領

ただ、このような軍事的挑発がロシアの思惑通りに運ぶかどうかは、全く別の話です。

これ、日本にとって必ずしもマイナスの影響だけではなく、いくつかのプラスの側面も見られます。中国やロシアの軍事的挑発は、日本にとって必ずしもマイナスの影響だけではなく、いくつかのプラスの側面も見られます。

特に注目すべきは防衛産業の活性化です。実際に、三菱重工業の株価は上昇傾向にあり、2023年5月頃から値上がりを強め、2024年2月には1万2000円を突破しました。

2024年2月時点で約12,000円だった株価は、4月に1:10の株式分割が行われ、株式分割後には理論上約1,200円となりました。アナリストたちは三菱重工業の株価がさらに上がると予想しています。2024年9月19日時点の株価から、さらに5.92%上昇すると予測されており、アナリストの平均目標株価は1,966円となっています。この上昇傾向は、防衛関連企業への注目度の高まりを反映している可能性があります。

このような状況は、直近で政治的にも影響を与える可能性があります。例えば、自民党総裁選において、高市早苗氏のような世界水準からみれば真っ当な安全保障政策を主張する候補者が注目を集める可能性があります。高市氏は「国の究極の使命は、国民の皆様の生命と財産を守り抜くこと、領土領海領空、資源を守り抜くこと」と主張しており、このような状況下でその主張が注目されています。

また、軍事的挑発は日本国民の安全保障に対する意識を高める効果があり、長期的に見て国の防衛力強化に対する理解と支持につながる可能性があります。同時に、日米同盟をはじめとする国際的な安全保障協力の強化にもつながり、日本の外交的立場を強化し、国際社会での影響力を高める機会となる可能性もあります。

さらに、防衛力強化の必要性から、先端技術の研究開発が促進される可能性があり、これらの技術は民間分野にも応用され、産業全体の競争力向上につながる可能性があります。ただし、これらの「プラスの影響」は、平和と安定を脅かす行為を肯定するものではなく、あくまでも現状に対応する中で生じる可能性のある側面として捉えるべきです。ただし、現状のロシアの日本への軍事的挑発はロシアの意図を成就させるものとはならないでしょう。

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2024年9月23日月曜日

アメリカは中国との絆を切る―【私の論評】総裁選に埋没する日本の対中政策:米国の中国特別委員会から学ぶべき課題

アメリカは中国との絆を切る

まとめ
  • 米国議会下院中国特別委員会が、中国共産党の活動に対し厳しい監視と規制を行っている。
  • 米中の大学間の共同研究が、中国軍との関係を理由に中止されるなど、学術分野にも影響が。
  • 米国の中国に対する強硬姿勢は、日本にも重要な教訓となり得る。


アメリカでは大統領選に注目が集まる一方で、中国問題が連邦議会で重要な課題となっている。特に下院の中国特別委員会は、超党派で中国の活動を監視し、強硬な対応を進めている。最近の公聴会では、中国政府が批判者を抑圧するために法律を利用している事例が取り上げられ、議員たちは人権弾圧や領土拡張を厳しく非難した。

この委員会は、ジョージア工科大学と中国の天津大学との共同プログラムを終了させた。これは、天津大学が人民解放軍と密接な関係にあることから、安全保障上の懸念が理由とされている。アメリカでは、中国を「敵性国家」と呼ぶことも一般化しており、警戒感が高まっている。日本も同様の対中認識を見直す必要があるかもしれない。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】総裁選に埋没する日本の対中政策:米国の中国特別委員会から学ぶべき課題

まとめ
  • 日本にはアメリカの中国特別委員会に相当する単一の組織が存在せず、対中政策が複数の機関に分散しているため、一貫した戦略の策定と実行が困難になっている。
  • 最近の日本人児童刺殺事件や福島処理水問題は、中国による反日教育や情報操作が背景にあると考えられ、これらの問題に対する対応が不十分である。
  • 米国は下院特別委員会を通じて、中国に対する統一された戦略を立案・実行しており、これが国家統治術として位置づけられている。
  • 日本も米国の例を参考にし、対中政策を国家統治術の次元に引き上げる必要があり、専門的な組織の設立が求められている。
  • 総裁選に注力するあまり、対中政策が埋没している現状は、日本の国益を損なう可能性があり、早急な対応が必要である。

総裁選には過去最大の候補者が立候補

日本でも総裁選にあまりに多くの光が集中し、他の重要課題がみすごされがちです。

そもそも、日本には米国の「中国共産党とアメリカの戦略的競争に関する下院特別委員会」に相当する単一の組織が存在しないことは、深刻な問題です。この欠如は、日本の国益を損なう可能性がある多くの理由があります。

現在の日本の対中政策は、国家安全保障会議(NSC)、外務省中国・モンゴル第一課、国会の外交防衛委員会、自民党外交部会、そして「日本の領土を守るため行動する議員連盟」などの超党派の議員連盟など、複数の機関や枠組みによって分散して形成・実施されています。この分散した体制により、一貫した戦略の策定と実行が困難になっています。

最近の日本人児童刺殺事件は、この問題の深刻さを浮き彫りにしました。この事件の背景には、中国による組織的・体系的な反日教育があるとみられています。長年にわたる反日感情の醸成が、このような悲劇的な事件につながった可能性があります。また、福島第一原子力発電所の処理水放出問題に関しても、中国政府による情報操作や過剰反応が、両国間の緊張を高めています。

これらの問題に対して、日本の現在の分散した体制では十分に対応できていない可能性があります。例えば、中国残留邦人等への支援など、特定の問題に対しては厚生労働省が対応していますが、より包括的な対中政策の立案と実施には至っていません。

一方、米国は下院特別委員会を通じて、中国に対する統一された戦略を立案・実行しています。この委員会は、中国の脅威を包括的に分析し、それに対する効果的な対策を提案する役割を果たしています。日本もこのような専門的な組織を設立することで、中国の反日教育や情報操作、経済制裁などの問題に、より効果的に対応できる可能性があります。

中国共産党とアメリカの戦略的競争に関する下院特別委員会初代委員長マイク・ギャラガー

また、中国に進出した日系企業が直面する問題や困難に対しても、統一された対応が不足しています。行政上の問題や規制の問題など、企業が直面する課題に対して、日本政府が一貫した支援や交渉を行うためには、専門的な組織が必要不可欠です。

さらに、台湾問題に関しても、日本の対応は分散しています。米中関係の行方は台湾問題と密接に関係しており、台湾が米中摩擦の代理戦争的な舞台となることが懸念されています。日本も、この問題に対して統一された戦略を持つ必要があります。

このように、日本の対中政策における分散した体制の問題点は多岐にわたります。米国の中国特別委員会のような単一の専門組織を設立することで、これらの課題に効果的に対応し、日本の国益を守ることができるでしょう。同時に、こうした組織は、日中関係の改善や相互理解の促進にも貢献する可能性があります。

米国が中国特別委員会を設置したことは、対中政策を米国のstatecraft(国家統治術)の次元に高めた重要な動きです。statecraftとは、国家の利益を追求し、国際関係を管理するために用いられる政治的手腕や外交技術を指します。これには外交、経済政策、軍事戦略など、国家が用いるあらゆる手段が含まれます。

米国ではステートクラフト・シミュレーターが学生向けに提供されている


中国特別委員会の設置により、米国は対中政策を単なる外交問題や経済問題としてではなく、国家の総合的な戦略として位置づけました。この委員会は、経済、技術、安全保障、人権など、多岐にわたる分野で中国との競争や対立に対処するための包括的な戦略を立案し、実行する役割を担っています。

これにより、米国は中国との競争を国家の最重要課題の一つとして明確に位置づけ、政府のあらゆるリソースを動員して対応する体制を整えました。この アプローチ は、単なる対症療法的な対応ではなく、長期的かつ戦略的な視点から中国との関係を管理し、米国の国益を守るためのものです。

日本も同様のアプローチを採用し、対中政策をstatecraftの次元に引き上げることで、より効果的かつ一貫した対応が可能になるでしょう。これは、日本の国益を守り、地域の安定に貢献する上で極めて重要な課題となっています。

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2024年9月22日日曜日

ユニクロ柳井氏の「日本人滅びる」発言 混同に注意、企業経営者の「ミクロ」の視点で「マクロ」経済の答えは出てこない―【私の論評】マクロ・ミクロ経済の違いを水道管理の例で徹底解説:相互作用とバランスの重要性

 高橋洋一「日本の解き方

ユニクロ柳井氏の「日本人滅びる」発言 混同に注意、企業経営者の「ミクロ」の視点で「マクロ」経済の答えは出てこない

まとめ

  • ユニクロの柳井正会長は生産性向上のために移民受け入れを提唱し、日本人の働き方について警鐘を鳴らした。
  • 楽天の三木谷浩史会長は、海外企業の労働環境を引き合いに出し、労働規制の見直しを求めた。
  • ZOZOTOWNの創業者前沢友作氏は「日本人らしさ」を重視し、連帯の重要性を主張した。
  • 経営者の意見はミクロ経済の視点に基づいており、日本全体の問題はマクロ経済で考えるべきである。
  • 日本経済の低迷は金融政策と財政政策に起因しており、経営者にマクロ経済の解決策を求めても効果が薄い。

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の「日本人は滅びる」発言が論争を呼んでいる。柳井氏は生産性向上のため移民受け入れを提唱し、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は労働規制の見直しを求めた。

 一方、ZOZO創業者の前沢友作氏は「日本人らしさを生かして連帯すべき」と反論した[2]。これらの意見の相違は、企業経営のアプローチの違いと捉えることができる。

 しかし、経営者の発言はミクロ経済の範疇であり、日本全体の問題はマクロ経済の視点が重要となる。マクロ経済の観点からは、バブル崩壊後の日本経済の低迷は金融政策と財政政策の問題に起因するのだ。

 経営者にマクロ経済の問題を尋ねても適切な解決策は得られず、問題を複雑化させるだけである。政府と日銀にとっては、この状況が過去の失政を隠蔽するのに好都合となっている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。まとめは、元記事の内容をまとめ5つの箇条書きにしたものです。

【私の論評】マクロ・ミクロ経済の違いを水道管理の例で徹底解説:相互作用とバランスの重要性

まとめ
  • ミクロ経済は企業や家庭の水道管理に例えられ、マクロ経済は政府や水道局による大規模な水の供給管理に相当する。
  • マクロの適切な水管理があって初めて、企業や家庭は効率的に水を利用でき、両者は相互に支え合っている。
  • 個別の企業や家庭が自己利益のみを追求すると、渇水時の水確保やインフラ整備が不十分になり、全体に悪影響を与える。
  • マクロレベルでの水源管理やインフラ投資が不足すると、個々の節水努力では水の安定供給を維持できない。
  • 水道の例と同様に、経済政策でもミクロとマクロの両方を考慮し、バランスの取れた対策が必要である。

最近の水道メーターはデータを管理会社に発信し、さらにスマホで確認できる

マクロ経済とミクロ経済を巡っては、上の記事で述べられているような混乱がよく生じます。ここでは、水の管理を例に挙げて、両者の違いを説明しましょう。ミクロ経済を企業経営者の視点から見ると、自社の建物内の水道設備、つまり蛇口から水道メーターまでの管理に例えられます。これには社内の水の使用量管理、水道料金の支払い、配管の修理や維持、節水対策の実施が含まれます。

一方、マクロ経済を政府や水道局の視点から見ると、より大規模な水の供給と管理を担当します。具体的には、水源の確保と保護、浄水場の運営、主要な水道管のネットワーク整備、水質管理、供給量全体の調整、水道料金の設定、渇水時の対応などが含まれます。

マクロ経済は単にミクロ経済の積み上げではない

マクロ経済が単にミクロ経済の積み上げではない理由は、水の管理でも明らかです。例えば、ある企業の水の使用が他の企業や家庭の利用可能な水量に影響を与えることがあります。また、個々の企業が水を大量に使用したり、汚染を発生させたりすれば、社会全体の水質や供給に影響を及ぼすこともあります。

さらに、政府の水道料金設定や節水政策が、企業や家庭の水使用に大きな影響を与えます。大規模な水道システムの運営は、各企業や家庭が独自に水を確保するよりも効率的です。

このように、水の管理においては、ミクロとマクロの両方の視点で異なる要素や対応が必要となります。マクロ経済は、複雑な相互作用や大規模な要素を考慮に入れる必要があるため、単にミクロの行動を足し合わせたものでは説明できません。この例は、経済全体にも当てはまります。

ミクロの観点だけで水道を管理すると、いくつかの問題が生じる可能性があります。例えば、企業や家庭が自己の利益のみを考えると、全体としての水資源の効率的な利用が難しくなることがあります。渇水時に一部の企業が過剰に水を確保すれば、他の利用者に深刻な影響を与える可能性があります。また、大規模なインフラ整備が疎かになると、水の安定供給が脅かされる恐れがあります。

さらに、個別の利用者では一貫した水質管理が難しくなり、公衆衛生上の問題に発展する可能性もあります。各家庭や企業が独自に水を確保する場合、非効率な投資が生じ、災害時には大規模な供給が困難になることも考えられます。このように、ミクロの視点だけでは水道システム全体の持続可能性を確保することは難しく、マクロ的な視点が必要です。

マクロ的な管理が長期間適切に行われないと、ミクロの努力では補えない深刻な問題が生じることがあります。例えば、水源の管理や大規模な浄水場、主要な水道管ネットワークの整備が適切でない場合、個々の家庭や企業が節水に努めても、安全で安定した水の供給は困難になります。

安定した水の供給があってこそ、ミクロレベルでの水道管理が意味を持ちます。蛇口をひねれば清浄な水が出るという状況が確保されているからこそ、個々の利用者は自分たちの使用量や料金管理に集中できるのです。水源や主要設備に問題があれば、いくら注意深く水を使っても水質や供給量の問題を解決することはできません。

つまり、水道事業はマクロとミクロの両方の視点が調和して初めて機能します。マクロレベルでの適切な計画や投資が、ミクロレベルでの効率的な水利用を可能にし、それが全体の水道システムの持続可能性を支えるのです。

マクロ的な管理が不足している状況をミクロの視点だけで捉えると、様々な問題が生じます。個別の事例や短期的な現象に注目することで、長期的かつ構造的な問題を見逃す恐れがあります。例えば、水道インフラの老朽化を単なる漏水事故としか認識できないことがあります。

水道は局所的な対策では対処できない場合がある

局所的な解決策では根本的な原因に対処できず、同じ問題が繰り返されるリスクもあります。資源が効率的に配分されないことで、全体のパフォーマンスが低下することもあります。相互依存性を無視した対策は、他の部分に悪影響を及ぼす可能性もあります。したがって、ミクロ的アプローチだけでは複雑な経済システムや社会インフラの問題に適切に対処することはできず、マクロとミクロの両方の視点が必要です。

水道の例から得られる教訓は、経済においてもマクロとミクロの視点を統合することの重要性です。個々の経済主体の行動(ミクロ)を理解し、それが集積して形成される経済全体の動き(マクロ)を把握することが不可欠です。

水道システムの持続可能性が適切なマクロ管理とミクロレベルでの効率的な利用に依存するように、経済の健全な発展も、適切なマクロ経済政策と個々の経済主体の合理的行動の調和に依存します。一方だけでは十分ではなく、両者のバランスが重要なのです。この教訓は、経済政策の立案や企業戦略の策定において、常にマクロとミクロの両面から分析し、総合的な視点を持つことの重要性を示しています。

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2024年9月21日土曜日

3位転落 小泉進次郎の「誤算」、自民党総裁選の終盤情勢は?「高市総理」誕生なるか―【私の論評】高市早苗氏の支持急増と派閥政治への影響:保守主義と急進改革の対立

3位転落 小泉進次郎の「誤算」、自民党総裁選の終盤情勢は?「高市総理」誕生なるか

まとめ
  • 自民党総裁選は2024年9月27日に投開票予定で、候補者は9人。小泉進次郎氏の支持が伸び悩む中、高市早苗氏が勢いを増している。
  • 各種世論調査では、石破茂氏、高市氏、小泉氏が上位3位にランクインしており、高市氏の支持が特に強い。
  • 国会議員票の行方が重要で、小泉氏は約50票を確保しているが、目標には届いていない。
  • 決選投票では高市氏と石破氏が進む可能性が高く、政策を明確に打ち出す候補が有利になる傾向がある。
  • 各メディアの調査結果では、候補者間での支持率に差が見られ、総裁選の行方は依然として不透明である。

小泉進次郎氏

自民党総裁選は2024年9月27日に投開票が予定されており、9人の候補者による論戦が繰り広げられている。当初、有力視されていた小泉進次郎氏の支持が伸び悩む一方で、高市早苗氏が勢いを増しており、石破茂氏も有力候補として注目されている。小泉氏は改革派として、国政選挙において「改革といえば自民」というイメージを掲げ、迅速な変革を進めることを主張している。

世論調査の結果では、石破氏、高市氏、小泉氏が上位3位を占めることが多く、自民党支持層では高市氏の支持が強い傾向がある。地方党員票では石破氏と高市氏が優位に立ち、国会議員票の行方が重要な要素となっている。小泉氏は約50票を確保しているが、目標には届いていない状況だ。多くの議員がまだ態度を決めかねているため、選挙戦は流動的だ。

今後の展開として、高市氏と石破氏が決選投票に進む可能性が高いとの見方があります。決選投票では国会議員の動向が鍵を握り、政策を明確に打ち出す候補が票を伸ばす傾向にあるため、高市氏に有利な局面も考えられます。

各種調査結果の現状は以下の通り:

●共同通信(9月15~16日)
1位 高市早苗氏 27.7%
2位 石破茂氏  23.7%
3位 小泉進次郎氏 19.9%

●朝日新聞(9月14~15日)
1位 石破茂氏 32%
2位 小泉進次郎氏 24%
3位 高市早苗氏 17%

●読売新聞(9月14~15日)
1位 石破茂氏 26%
2位 高市早苗氏 25%
3位 小泉進次郎氏 24.1%

●産経新聞(9月14~15日)
1位 小泉進次郎氏 29.4%
2位 石破茂氏 24.1%
3位 高市早苗氏 16.3%

●日経新聞(9月13~15日)
1位 石破茂氏 25%
2位 高市早苗氏 22%
3位 小泉進次郎氏 21%

総裁選の行方は依然として不透明であり、上位3候補による激戦が続いている状況だ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】高市早苗氏の支持急増と派閥政治への影響:保守主義と急進改革の対立

まとめ
  • 高市早苗氏の支持率上昇は、自民党内の主要派閥に危機感を与え、従来の派閥政治の構図を揺るがす可能性がある。
  • 高市氏の支持が急増している理由は、経済安全保障政策の実績や保守的な国家観、経済成長を重視する政策によるもの。
  • 高市氏の政策は、戦略的な財政出動や既存の制度を基盤とした着実な改革を強調し、企業からの支持も集めている。
  • ドラッカーの保守主義を例に、高市氏の漸進的な改革が予測可能で実現可能なアプローチと評価できる一方、小泉進次郎氏の急進的な改革はリスクを伴う可能性が大きい。
  • 小泉氏の急進的な改革路線は、自民党の保守的支持層には危険と映る可能性があり、それに対して高市氏の保守的な政策が支持を集めている。

高市早苗氏

高市早苗氏の支持率上昇と勢いの増加は、自民党内に大きな波紋を広げています。当初は泡沫候補に近い扱いを受けていた高市氏ですが、最近では急速に支持を集めており、この状況は一部の派閥にパニックを引き起こしています。

特に旧岸田派、麻生派、旧二階派などの主要派閥は、高市氏の台頭に危機感を抱いているとされています。これらの派閥は従来の派閥政治の枠組みの中で影響力を維持してきましたが、高市氏の支持拡大により、その構図が崩れる可能性が出てきたためです。

高市氏の支持が急増している理由として、経済安全保障担当大臣としての実績や、明確な国家観と経済政策の主張が挙げられます。彼女は経済や国防に関して保守的な立場を示しており、一部の支持層から強い支持を得ています。

また、高市氏は「子育て支援金制度」について、「社会保険料で財源を生み出すことになると、実質的に増税と同じだ」と述べています。さらに、「特に子育て世代の生活を圧迫することになり、やるべきではない」と明確に否定的な立場を示しています。

代替案として、「所得が増えれば歳入は2倍から3倍に増える。まずはいかに所得を増やすか、GDPを大きくしていくかということで成長戦略を訴えている」と述べ、経済成長を通じた財源確保を主張しています。

さらに、高市氏は成長分野や危機管理分野への戦略的な財政出動を主張しており、これが企業からの支持を集めている可能性があります。「明確な国家観を持ち、国家経営理念をしっかり打ち出せる人」という姿勢を強調する彼女のアプローチは、従来の派閥政治とは異なる動きを生み出しています。

この状況は、自民党内の力学や総裁選の行方に大きな影響を与える可能性があり、今後の展開が注目されています。特に、岸田派や麻生派、二階派などの主要派閥が高市氏の台頭にどのように対応するかが、総裁選の結果を左右する重要な要素となるでしょう。

麻生太郎氏

麻生派が高市早苗氏を支持する可能性は十分に考えられます。まず、河野太郎氏の支持が伸び悩んでいる現状があり、麻生派としても期待通りの展開にはなっていません。また、麻生派内には石破茂氏に対して否定的な感情を持つ議員が多く、小泉進次郎氏が菅義偉元首相の後ろ盾を得ていることから、麻生派にとって小泉氏を支持することは難しい状況です。

高市氏の経済安全保障政策や保守的な姿勢は麻生派の政策方針と比較的近く、決選投票で高市氏と石破氏、または高市氏と小泉氏という構図になった場合、麻生派にとって高市氏を支持することが戦略的に有利な選択肢となる可能性があります。麻生氏が派閥内で柔軟な対応を取る余地を示唆していることも、高市氏への支持につながる要因となるでしょう。

当初、泡沫候補に近い扱いを受けていた高市氏がここまで勢いを増したことは驚くべきことです。一方で、当初は有望視されていた小泉進次郎氏が勢いを落としたことも、同様に注目すべき点です。

これは、小泉氏が改革推進派である一方、高市氏が保守派であるという立場の違いの結果かもしれません。ただし、保守主義については多くの人に誤解があるように思われます。保守主義とは、政治上の立場ではないことをこのブログでは過去に掲載しました。どちらかというと、日本語でいうところの中庸に近いものです。

経営学の大家ドラッカーは保守主義について次のように明確に述べています。

「保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会を保つための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していく原理である。これ以外の原理はすべて破綻を招く」(ドラッカー名著集(10)『産業人の未来』)。

ドラッカーが提唱する保守主義は、過去を懐かしむものではなく、未来志向のもとで現実的な問題解決を目指すものです。この考え方には、未来志向であること、現実的な問題解決を重視すること、既存の知識や方法を活用することという3つの特徴があります。

ドラッカーは「過去は復活しえない」「青写真や万能薬をあきらめ、目前の問題に対して有効な解決策を見つける」「使えるものはすでに手元にあるものだけである」と述べ、既存の制度や知識を基盤とした漸進的な改革を重視しています。

彼は、急激な変化が社会に不安定をもたらす可能性があるため、予測可能で実現可能な改革を推奨しています。また、漸進的な改革は広範な合意を得やすく、社会の分断を防ぐ効果もあります。

ドラッカー

一方で、小泉進次郎氏の改革路線は、より急進的で大胆な政策を打ち出しています。彼は「聖域なき構造改革」を掲げ、選択的夫婦別姓やライドシェアの全面解禁、解雇規制の緩和などを提案しています。こうした改革は革新的と評価される一方、急激な変革が社会に混乱をもたらすリスクも指摘されています。特に労働市場改革などの敏感な分野では、慎重なアプローチが求められるべきです。

2023年6月に成立したLGBT理解増進法は、急進的改革の一例として挙げられます。この法律は性的マイノリティへの理解を促進するものですが、その成立過程や内容は、ドラッカーの保守主義的アプローチとは異なり、急進的な側面が目立ちました。拙速な成立には疑問が呈されており、急進的な改革には予期せぬ結果が生じる可能性もあることを認識する必要があります。

こうした背景から、小泉進次郎氏の急進的な改革路線が、保守的な自民党の支持層には危険と映った可能性があります。小泉氏が総理となり、改革を実行すれば、自民党の保守岩盤支持層がさらに離れるという危機感を抱いているのかもしれません。

これは必ずしも上で述べた理路整然としたドラッカーの保守主義の認識に基づくものではなく、肌で感じ取った危機感や地頭での判断かもしれません。しかし、従来の派閥の論理からは離れた動きとして注目すべきと思います。

一方で、高市氏は急激な変革よりも既存の制度や価値観を基盤とした政策を重視しており、それが支持を集める要因となっていると考えられます。彼女の政策や行動を過激と見なす人もいますが、歴史的および国際的な視点から見ると、高市氏の政策等は保守本道を着実に進めているに過ぎないと言えるでしょう。

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2024年9月20日金曜日

<主張>日本人児童刺殺 中国政府に反省ないのか―【私の論評】深セン日本人児童殺害事件:邦人保護の緊急性と中国入国管理強化の必要性

<主張>日本人児童刺殺 中国政府に反省ないのか

まとめ
  • 中国深圳市で日本人男子児童が刺殺され、以前にも日本人母子が襲撃される事件が発生し、日本人の安全に対する懸念が高まっている。
  • 中国外務省は「同種の事件はどの国でも起こり得る」とし、具体的な再発防止策を示さない姿勢は大問題である。
  • 岸田首相は中国側に説明を求めるよう指示したが、より積極的な外交的対応をすべきである。
  • 事件の根本には中国共産党による反日教育があり、在留邦人の安全確保には中国の姿勢の変化が必要である。
  • 日本政府は中国への不要不急の渡航自粛を促し、企業は駐在員や家族の帰国を検討し、政府は帰国後の支援を行うべきである。

 中国深圳市で日本人学校に通う10歳の男児が刺殺され、数ヶ月前には蘇州市でも日本人母子が襲撃される事件が発生した。これらの事件は、日本人が中国で安全に暮らし、活動できるかという深刻な疑問を投げかけている。無辜の児童が命を奪われた痛ましさと、理不尽な凶行への怒りは計り知れない。

 中国外務省の対応は不十分で、「同種の事件はどの国でも起こり得る」という発言は許しがたい。短期間に日本人が相次いで襲撃される国は中国以外にない。中国政府は事態を深く反省し、具体的な再発防止策を明確に示すべきだ。

 岸田首相は中国側に説明を求めるよう指示したが、自ら動いて中国首脳に対策を講じるよう直接迫るべきである。また、日本政府は中国側に犯行動機などの情報公開を強く求めるべきだ。

 事件の根本的な原因として、中国共産党政権による反日教育が指摘される。東京・九段北の靖国神社で相次ぐ中国人の落書きも同じだ。政治的思惑で反日をあおる中国の姿勢が改まらない限り、在留邦人の安全は確保できない。

日本政府は中国への不要不急の渡航自粛を国民に促し、企業は駐在員や家族の帰国を検討すべきだ。政府は帰国後の住居や教育などの支援も行うべきである。

 このような邦人が被害を受ける悲劇を二度と繰り返さないために、日中両政府による迅速かつ効果的な対策が急務である。

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【私の論評】深セン日本人児童殺害事件:邦人保護の緊急性と中国入国管理強化の必要性

まとめ
  • 深センでの日本人児童殺害事件は、意図的に日本人を標的とした可能性があり、邦人に対する重大な脅威として捉えるべきである。
  • 日本政府は海外で生活する日本人、特に子供の安全を守る責務があり、迅速かつ的確な対応が求められる。
  • 過去の事例(バングラデシュでの日本人殺害など)を踏まえ、今回の事件でも邦人保護のため帰国を強く促すべきである。
  • 中国での組織的な反日教育や歴史的対立の背景を考慮し、予防的に邦人の帰国を促すことが重要である。
  • 国内の安全確保のため、中国人の入国管理についてより厳密な審査や監視体制の検討が必要である。

この事件は確かに大変悲惨で、特に子供が犠牲となったことは多くの人々に深い衝撃を与えています。まずはなくなったお子さんの御冥福をお祈りさせていただきます。

深センでの日本人児童刺殺事件は、南山区(Nanshan District)で発生したと報道されています。南山区は、深セン市の中でも比較的裕福なエリアで、特に高い技術産業や外国人居住者が多く、日本人学校もこの地域に位置しています。


中国における日本人学校での事件がどのような意図のもとで発生したか、現時点での公式な情報はまだ明確ではないものの、日本政府は迅速かつ的確な対応を行うべきです。

日本政府は、海外で生活する日本人を保護をする責務があります。特に子供の安全が脅かされる状況では、迅速な対応が求められます。過去の例では、政治的緊張が高まった国や地域で、政府が自国民に対し帰国を促すケースは少なくありません。

たとえば、2020年の新型コロナウイルスのパンデミック初期には、日本政府は感染リスクの高い地域からの邦人の帰国を奨励しました。こうした前例に基づき、今回の事件を受けて、深刻な安全保障上の懸念がある場合には帰国を強く促すことは正当です。

バングラデシュ北部ラングプルで、日本人男性の星邦男さんを銃撃し死亡させたとされる四人の犯人

日本人がターゲットとなった事件は、過去にも世界各地で発生してきました。たとえば、2015年10月3日、バングラデシュ北部ラングプルで、日本人男性の星邦男さんが銃撃され、死亡しました。星さんは農業プロジェクトに従事しており、移動中にバイクに乗った二人組に襲撃されました。

この事件では、イスラム国(ISIS)が犯行声明を出しましたが、バングラデシュ政府は国内の過激派組織「ジャマートゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)」が関与している可能性を指摘しています。同時期にイタリア人もダッカで殺害されており、外国人を狙った一連の襲撃として国際的に大きな警戒が高まりました。日本政府も邦人保護のため、対応を強化しました。

今回の深センでの事件も、確証が得られていないものの、意図的に日本人を標的とした可能性が考えられるため、同様に邦人に対する脅威と捉えるべきです。

テロ行為はしばしば、社会に大きな恐怖や不安をもたらすことを目的としています。そして、その恐怖を最大化するために、無防備で弱い立場にある人々が意図的に狙われることが多いです。

2014年にパキスタンの学校で発生したタリバンによる襲撃事件での犠牲者

たとえば、2014年にパキスタンの学校で発生した襲撃事件では、タリバンが学生を標的にし、多くの子供たちが犠牲となりました。今回の深センでの事件がテロと見なされるべきかどうかはまだ議論の余地がありますが、子供が犠牲になったという事実は、深刻な意図を感じさせるものであり、日本政府としても「テロ」として警戒することは必要です。

中国当局が今回の事件をどのように認識し、対応するかは、今後の調査次第ですが、日本政府としては慎重かつ迅速な外交的対応が求められます。中国は1990年代から組織的・体系的な反日教育を実施しており、日中間の歴史的な対立や領土問題などが影響し、特定の個人や集団が日本人を敵視するケースも考えられます。

日本政府がこうした背景を踏まえて邦人保護に努めることは当然であり、事件の背景が明らかになるまでの間でも、予防的に帰国を促すべきです。

国内での安全を確保するため、中国人の入国管理について議論することも必要です。多くの国が、テロリズムや犯罪を防ぐために、特定の国からの入国に対して厳しい審査を行っています。

例えば、米国は9.11以降、特定の国からの入国者に対して厳しいセキュリティチェックを行う政策を導入しました。日本においても、中国からの移民や短期滞在者に対して、より厳密な審査や監視体制を検討することは、安全保障の観点から必要です。

深センでの事件は、偶然の犯行ではなく、日本人をターゲットにした計画的な襲撃である可能性が高く、邦人の安全が脅かされる状況にあります。日本政府は、まずは邦人保護を最優先に考え、帰国を強く促すことが重要です。また、国内でのテロの脅威に備えるため、中国人の入国についての議論も行う必要があります。

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2024年9月19日木曜日

今度はヒズボラの無線機が爆発、500人弱死傷 あわてて電池を取り外す戦闘員の姿も―【私の論評】中東情勢最新動向:イスラエルとヒズボラの緊張激化、米大統領選の影響と地域安定への懸念

今度はヒズボラの無線機が爆発、500人弱死傷 あわてて電池を取り外す戦闘員の姿も

まとめ
  • 18日にヒズボラの携帯無線機が爆発し、14人が死亡、450人が負傷。前日にはポケベルの爆発で12人が死亡、3000人近くが負傷。
  • ヒズボラ幹部が報復を宣言し、レバノン当局はイスラエルのモサドの関与を示唆。
  • 米国務長官とUN事務総長が事態悪化への懸念を表明し、外交努力への影響を警告。
  • イスラエルは北部国境に部隊を増派し、対立が激化する可能性が高まっている。

レバノンで起きたヒズボラの通信機器の連続爆発事件が、中東地域の緊張を高めています。18日には携帯無線機の爆発で14人が死亡、450人が負傷し、前日のポケベル爆発では12人が死亡、3000人近くが負傷しました。

これを受けてヒズボラ幹部が報復を宣言し、レバノン当局はイスラエルのモサドの関与を示唆しています。米国務長官とUN事務総長は事態悪化への懸念を表明し、外交努力への影響を懸念しています。

一方、イスラエルは北部国境に部隊を増派し、両者の対立が激化する可能性が高まっています。この一連の出来事は、中東地域の不安定さをさらに増大させ、平和への取り組みを複雑にする恐れがあります。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中東情勢最新動向:イスラエルとヒズボラの緊張激化、米大統領選の影響と地域安定への懸念

まとめ
  • ヒズボラはハマスよりも強力な軍事力を持ち、イスラエルにとってより深刻な脅威となっている。
  • イスラエルとヒズボラの間で低強度の戦闘が続いており、2024年8月には大規模な衝突が発生した。
  • 米国を含む国際社会は事態の沈静化と紛争の拡大防止に向けて外交努力を続けている。
  • トランプ政権によるアラブ諸国とイスラエルの関係改善は、ハマスやヒズボラの存在意義に深刻な影響を与えている。
  • 米大統領選挙の影響で、イスラエルは警戒を高めており、今回のポケベルやトランシーバーへの攻撃はその一環である可能性がある。
2023年6月21日、レバノン南部ジェジーヌ地区のアラムタ村で訓練を受けるヒズボラ戦闘員

ヒズボラやハマスはテロリストとして知られています。テロリストというと、日本では武装をした暴力団というようなイメージでしょうが、その軍事力だけをみれば軍隊と行っても良いような規模です。

そのなかでもヒズボラはハマスよりも強力な軍事力を持っており、イスラエルにとってより深刻な脅威となっています。具体的には以下の点でヒズボラの軍事力がハマスを上回っています。

1. ミサイル保有数:ヒズボラは12万~20万発の短距離ロケット弾やミサイルを保有しているとされ、これはイスラエル全土を射程に収めています。一方、ハマスは約2万発の中・長距離ミサイルを保有しているとされています。

2. 戦闘員数:ヒズボラは予備役を含めて約5万人の戦闘員を有しているのに対し、ハマスは約3万人の戦闘員を有しています[1]。

3. 戦闘経験:ヒズボラの戦闘員の中には、シリア内戦に参加した経験豊富なエリート特殊部隊約7000人が含まれています。この実戦経験がヒズボラの軍事力を高めています。

4. 装備と訓練:ヒズボラの戦闘員はハマスよりも訓練が行き届いており、装備も優れているとされています。

5. 地理的優位性:ヒズボラはレバノン南部を拠点としており、イスラエル北部に隣接しています。この地理的な近さが、イスラエルにとって即時的な脅威となっています。

これらの要因により、ヒズボラとの大規模衝突が発生した場合、イスラエルは甚大な被害を被る可能性があります。そのため、イスラエルはヒズボラに対してより慎重な対応を取らざるを得ない状況にあります。

レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは最近、イスラエルとの間で低強度の戦闘を続けています。両者の間で攻撃の応酬が続いており、特にレバノンとイスラエルの国境地帯で緊張が高まっています。2024年8月25日には、ヒズボラがイスラエル北部に対して320発以上のロケット弾を発射し、イスラエル軍も約100機の戦闘機でレバノン南部を空爆するなど、大規模な衝突が発生しました。

この衝突の背景には、2024年7月にイスラエル軍がヒズボラの幹部サーレハ・アールーリーをベイルートで暗殺したことへの報復があるとされています。また、イスラエル軍はガザ地区でのハマスへの攻撃を継続しており、ヒズボラはハマスに連帯を示す形で攻撃を行っています。

2024年8月25日には、ヒズボラがイスラエル北部に対して320発以上のロケット弾を発射

イスラエル側の対応としては、ガラント国防相が「戦争を望んではいないが、準備はできている」と発言し、ヒズボラをけん制しています。また、イスラエル軍はレバノンでの地上作戦を想定した訓練も実施しており、事態の悪化を防ぐことが焦点となっています。

一方、国際社会の動きとしては、米国が事態の悪化を防ぐため外交努力を行っています。2024年9月16日には、アメリカの特使がイスラエルを訪れ、ネタニヤフ首相らとヒズボラへの対応について協議すると報じられました。また、米国のブリンケン国務長官は、ガザ地区での戦闘を激化させ、戦闘を拡大させるような措置を避けることが重要だと強調しています。

イランはヒズボラの後ろ盾となっており、イスラエルとの対立においてヒズボラを支持しています。イランの国連代表部は、イスラエルが本格的な攻撃に踏み切れば、中東各地の親イランの武装組織がイスラエルに対する戦闘に加わる可能性を示唆し、警告しています。

この状況は、パレスチナ問題やイランの核問題など、中東地域の他の課題とも密接に関連しており、地域全体の安定に影響を与える可能性があります。米国を含む国際社会は、事態の沈静化と紛争の拡大防止に向けて外交努力を続けていますが、依然として緊張状態が続いています。

アブラハム合意

米トランプ政権におけるアラブ諸国とイスラエルの関係改善は、ハマスやヒズボラの存在意義に深刻な影響を与えました。これらの組織は、イスラエルとの対立を核心に据えているため、アラブ諸国がイスラエルと和解すれば、その政治的正当性が大きく損なわれます。

また、支援の減少、交渉力の低下、イデオロギー的基盤の弱体化、地域的影響力の低下といった問題に直面する可能性が高まります。2020年のトランプ政権の仲介によるアブラハム合意に対する強い反発は、この存在意義の危機を反映しています。

このような状況下で、ハマスやヒズボラは自らの存在意義を維持するために、より過激な行動に出る可能性があり、2023年10月のハマスによるイスラエル襲撃もこの文脈で理解できます。つまり、アラブ諸国とイスラエルの関係改善は、これらの組織の存在意義を脅かす重大な要因となっており、彼らの行動に大きな影響を与えていると言えるでしょう。

米大統領選挙の最中、イスラエルが警戒を高めている可能性は十分にあります。選挙結果によって米国の中東政策が大きく変わるため、イスラエルはその不確実性に備えていると考えられます。また、大統領候補者たちがイスラエル支持を強調することで、敵対勢力を刺激する恐れがあります。

さらに、テロ組織が米国の関心を利用して攻撃を仕掛ける可能性もあり、イスラエルはこれに対処するため警戒を強化しているでしょう。選挙期間中の米国の外交的空白を利用した地域の不安定化も懸念されます。このような状況から、イスラエルが警戒を高めるのは自然な流れと言えるでしょう。

今回のポケベルや、トランシーバーへの攻撃はその一環かもしれません。ただし、そうだとすれば、この攻撃にはリスクも伴います。地域の緊張を高め、報復攻撃を誘発する可能性があるため、イスラエルはこの決定を慎重に検討したことでしょう。

ただ、今回の通信機器への攻撃は、中東地域の出来事にとどまらず、世界中の戦争行為に影響を与える可能性を秘めており、まさにイスラエルはパンドラの箱を開けてしまったかもしれません。これについては、昨日の記事で詳しく解説しました。こちらもあわせて、ご覧になって下さい。

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2024年9月18日水曜日

衣服内で同時爆発、市民パニック 体中が出血、重傷者多数 レバノン―【私の論評】安倍政権下の日米安全保障協議(2プラス2)の成果:サイバー武力攻撃対策に先見の明

衣服内で同時爆発、市民パニック 体中が出血、重傷者多数 レバノン

まとめ
  • レバノンで17日に発生したポケベル型通信機器の同時多発爆発は、イスラエルのヒズボラ戦闘員を標的とした作戦と見られ、市民に大きな恐怖と混乱をもたらした。
  • 爆発により少なくとも9人が死亡し、約2,750人が負傷。病院には多くの重傷者が搬送され、医療従事者不足の中、非番の医師も治療に動員された。
  • 爆発の原因にはマルウェアや高性能爆薬の可能性があり、ヒズボラは通信機器の使用に警戒感を示し、独自の通信システムを利用するよう指示していた。


レバノンで17日、ポケベル型通信機器の同時多発爆発が発生し、市民をパニックに陥れました。この事件は、イスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員を標的としたイスラエルの作戦だと見られています。

爆発により、少なくとも9人が死亡し、約2,750人が負傷しました。SNSには、爆発の瞬間を捉えた動画が投稿され、病院には多数の負傷者が搬送されました。爆発の原因については情報が錯綜しています。マルウェアの使用や高性能爆薬の仕込みなど、様々な可能性が指摘されています。

ヒズボラは以前から携帯電話の使用に警戒感を示しており、最近では独自の通信システムを利用するよう指示していたとされています。この前例のない攻撃は、市民を巻き込み、恐怖と憤りを引き起こしています。医療従事者不足の中、非番の医師も動員されて治療に当たりました。ヒズボラはイスラエルを非難し、報復を示唆しています。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】安倍政権下の日米安全保障協議(2プラス2)の成果:サイバー武力攻撃対策に先見の明

まとめ
  • ヒズボラが導入したポケベル型通信機器の爆発事件は、物理攻撃とサイバー攻撃の境界が曖昧になってきていることを示している。
  • 2019年日米安全保障協議委員会では、サイバー攻撃による物理的攻撃を武力攻撃とみなすものとして、日米安保条約第5条の規定を適用しうるものとした。これは安倍政権の成果。
  • サイバー攻撃が物理的被害をもたらす「サイバー物理攻撃」のリスクが増大しており、電力網や水処理施設、自動車システムなどが脆弱性が狙われる可能性が高まっている。
  • IoTデバイスの普及に伴い、サイバー攻撃の現実世界への影響が強まり、サイバーセキュリティと物理的セキュリティの統合が重要となっている。
  • 法規制の強化とリスク管理の必要性が高まり、統合的なアプローチによるセキュリティ体制の構築が求められている。
ヒズボラが導入した通信機器は、台湾メーカーの最新型ポケベルで、ここ数カ月以内に導入されたものです。この機器は、イスラエルに位置情報を察知されにくく、サイバー攻撃のリスクが低いと考えられいたようです。

爆発の原因については、通信機器内部に爆発物が仕込まれていた可能性や、遠隔操作で爆発させる技術的可能性が議論されています。多くの専門家やメディアは、この攻撃がイスラエルの工作である可能性を指摘していますが、具体的な証拠は公表されていません。

一方、米国防総省は事件への関与を否定しています。技術的側面では、使用されていた機器が従来のポケベルよりも高度な機能を持っていた可能性が示唆されています。

この前例のない攻撃方法は、中東地域の緊張をさらに高める可能性があり、特にヒズボラとイスラエルの関係に大きな影響を与えると考えられます。しかし、この事件の詳細な仕組みや背景については、まだ多くの不明点が残されています。今後の調査や関係国の声明によって、さらなる情報が明らかになることが期待されます。


2019年4月19日に開催された日米安全保障協議委員会(2プラス2)(写真上)では、日米両国が「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて協力することを確認しました。これについては、このブログにも掲載しました。この会議で特に注目されたのは、宇宙、サイバー、電磁波を含む新たな領域での協力の重要性が強調されたことです。

特筆すべきは、サイバー攻撃に対して日米安保条約第5条が適用され得ることが明記されたことです。この条項は、日本国の施政下にある領域に対する武力攻撃が発生した場合、日米両国が共同して対処することを定めています。具体的には、日本が武力攻撃を受けた際、アメリカ合衆国は日本を防衛する義務を負うことを意味します。

これは、サイバー攻撃による物理的攻撃を武力攻撃と同視し、自衛権の対象となり得ることを意味しています。この決定は、NATOなど他の国際的な取り組みの流れに沿ったものであり、サイバーセキュリティの国際規範の強化につながる重要な一歩だったといえます。

これらの成果は、安倍政権下での外交・安全保障政策の重要な一環として評価できます。安倍晋三首相の時代には、特に日米同盟の強化が重視され、「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンも安倍政権が提唱してきた戦略の一部でした。サイバー攻撃に対する日米安保条約第5条の適用を明記したことは、安倍政権のリーダーシップのもとで進められた安全保障政策の成果と言えます。

この合意は、主に中国とロシアの宇宙空間やサイバー空間での活動を念頭に置いたものですが、最近のレバノンでのポケベル型通信機器の爆発事件とも無関係ではないと考えられます。この事件は、通信機器を利用した新たな形態の攻撃として、サイバーセキュリティの重要性を改めて浮き彫りにしました。

ポケベル型通信機器の爆発事件は、従来の物理的な攻撃とサイバー攻撃の境界線が曖昧になりつつあることを示しています。この事件は、日米が2019年に合意したサイバー攻撃への対応強化の必要性を裏付けるものとなっています。通信機器を介した攻撃が、物理的な被害をもたらす可能性があることが明確になり、サイバーセキュリティと国家安全保障の関係がより密接になっていることを示しています。

このような状況下で、日米両国がサイバー防衛の協力を強化することは、同盟の強化だけでなく、新たな形態の脅威に対する国際的な対応能力の向上にもつながると考えられます。ポケベル型通信機器の爆発事件は、2019年の日米合意の重要性と先見性を改めて示す出来事となり、今後のサイバーセキュリティ政策に大きな影響を与える可能性があります。

AI生成画像

ポケベル型通信機器の爆発事件は、サイバー攻撃が物理的な被害をもたらす可能性を示す最新の事例です。このような「サイバー物理攻撃」または「サイバー運動攻撃」と呼ばれる攻撃は、近年増加傾向にあり、重大な懸念事項となっています。以下に、サイバー攻撃が物理的攻撃になりうる事例や可能性をいくつか挙げます

1. 産業制御システム(ICS)への攻撃:
2010年のStuxnetウイルスは、イランの核施設の遠心分離機を物理的に破壊しました。同様の攻撃が他の重要インフラに対しても可能です。

2. 電力網への攻撃:

2015年にウクライナで発生した停電は、サイバー攻撃によるものでした。2013年にはアメリカのカリフォルニア州で、メトカーフ変電所が物理的な攻撃を受け、大規模な損害が発生しました。2016年には、ロシアのハッカー集団がアメリカのバーモント州の電力会社のシステムに侵入を試みましたが、幸いにも電力網への直接的な影響はありませんでした。

同じ時期にイスラエルでも、国家電力局のコンピューターシステムが大規模なサイバー攻撃を受けましたが、迅速な対応により被害は最小限に抑えられました。

さらに、2022年にはアメリカで電力インフラに対する攻撃が急増し、過去10年で最多の件数を記録しました。これらの事例は、電力網がサイバー攻撃と物理的攻撃の両方に対して脆弱であることを示しており、電力インフラの保護が重要な課題となっています。

3. 水処理施設への攻撃:
2021年にフロリダ州の水処理施設がハッキングされ、飲料水に含まれる水酸化ナトリウムの濃度を危険なレベルまで上げようとする試みがありました。具体的には、ハッカーが遠隔操作で水処理システムに侵入し、水酸化ナトリウムの濃度を通常の100ppmから11,100ppm(約111倍)に引き上げようとしました。幸いにも、オペレーターがすぐに異常に気づいて設定を元に戻したため、実際の被害は発生しませんでした。

4. 自動車システムへのハッキング:
研究者たちは、車両の制御システムをリモートでハッキングし、ブレーキやステアリングを操作できることを実証しています。

5. 医療機器への攻撃:
インスリンポンプやペースメーカーなどの医療機器がハッキングされ、患者の生命を脅かす可能性があります。実際の攻撃ではなく、現在のところは潜在的なリスクや脆弱性の発見が報告されていますが、これらのリスクに対処することが患者の安全を確保する上で極めて重要です。

6. スマートホームデバイスの悪用:
スマート家電やIoTデバイスがハッキングされ、火災や他の物理的被害を引き起こす可能性があります。

これらの事例は、サイバーセキュリティが単にデータ保護の問題ではなく、物理的な安全にも直結することを示しています。重要インフラや産業システムのデジタル化が進むにつれ、このような脅威はさらに増大する可能性があります。

現在までは、サイパー攻撃が物理的攻撃になった事例はあまり報告されていませんが、今回の事件により、こうした攻撃が一気に顕在化したといえます。

今後の、サイバーセキュリティ対策は、デジタル空間と物理的な世界を包括的に捉えるアプローチが不可欠となりました。ネットにつながるIoT機器の普及により、サイバー攻撃が現実世界に及ぼす影響が増大しており、物理的なセキュリティ対策との連携が重要性を増しています。


同時に、人的要因や組織的な取り組みも考慮に入れる必要があります。統合的なリスク管理を行うことで、より効果的なセキュリティ体制を構築できます。

また、強化される法規制への対応も、この包括的なアプローチの中で考えていく必要があります。サイバー空間と物理的な世界の境界が曖昧になっている現代において、このような統合的な視点は、組織の安全と持続可能性を確保するための鍵となるでしょう。

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