2019年1月23日水曜日

対中貿易協議、トランプ米大統領の態度軟化見込めず=関係筋―【私の論評】民主化、政治と経済の分離、法治国家が不十分な中国で構造改革は不可能(゚д゚)!

対中貿易協議、トランプ米大統領の態度軟化見込めず=関係筋

米中会談時に演説するトランプ米大統領。2017年11月に北京

複数の米政府当局者によると、トランプ大統領は米中貿易協議で成果を出し、株価を押し上げたいと考えているが、中国側が知的財産権の問題を含め、本格的な構造改革に踏み切らない限り、態度を軟化させることはないとみられる。

中国側が米国製品の輸入拡大を提案しても、それだけでは問題は解決せず、1月末に訪米する劉鶴副首相との協議でも構造改革が議題になる見通しという。

米政府は、中国が知的財産を盗んでおり、中国に進出する米国企業に技術移転を強制していると批判。中国側はそうした事実はないと反論している。

米政府は3月1日までに貿易協議で合意できなければ、2000億ドル分の中国製品に対する制裁関税の税率を10%から25%に引き上げる方針だが、関係筋によると、両国の隔たりは大きく、合意には構造問題の解決が不可欠という。

ある米政府当局者は匿名を条件に「まだ、我々の懸念が十分に対処されたと言える状況ではない」と指摘。対中強硬派のライトハイザー通商代表部(USTR)代表が率いる米国の交渉団は、貿易不均衡だけでなく、構造問題を重視しているとの認識を示した。

国家経済会議(NEC)のカドロー委員長も、ロイターに対し、技術の強制移転、知的財産権の侵害、出資制限が、トランプ政権の優先課題だと指摘。「大統領はこうした問題がいかに重要であるかを繰り返し表明している。大統領は譲歩しない」と述べた。

関係筋がロイターに明らかにしたところによると、トランプ政権は、協議の進展がみられないため、劉鶴副首相の訪米を控えた米中の通商予備協議を拒否した。

劉鶴副首相

フィナンシャル・タイムズ(FT)紙も、通商予備協議が拒否されたと報じたが、複数の米当局者は報道を否定。カドロー委員長はCNBCに対し、通商予備協議を巡る「報道は真実ではない」と言明した。

ホワイトハウスのウォルターズ報道官も「今月末の劉鶴副首相とのハイレベル協議の準備のため、接触を続けている」と述べた。

ただ、ある関係筋は「協議は進展しているが、文書化できる合意はまだ何も成立していないと認識している」とコメントした。

トランプ大統領は、株価への影響を意識し、協議が概ね順調に進んでいるとの見解を示している。19日にはホワイトハウスで記者団に「何度も協議を重ねており、中国との合意がまとまる可能性は十分にある。順調に行くだろう」と表明した。

ムニューシン財務長官は先月、中国が1兆2000億ドルを超える米国製品の輸入を確約したことを明らかにしたが、米当局者は「単なる『確約』で事が解決すると考えるのは、我々の過去の経験を見過ごしていると思える」とコメント。

米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所で中国問題を担当するスコット・ケネディ氏は、中国側は新法の制定などを通じて知的財産権の問題にすでに対処したとの考えを示唆しているが、米国側は満足していないとし、「今後の協議で、中国が知的財産の問題でさらに譲歩するのか、引き続き輸入拡大に軸足を置くのかがわかるだろう」と述べた。

カドロー委員長は「私に言えるのは、月末の劉鶴副首相との会談が非常に重要だということだけだ」と語った。

【私の論評】民主化、政治と経済の分離、法治国家が不十分な中国で構造改革は不可能(゚д゚)!

ペンス米副大統領は16日、「中国当局は国際ルールを無視している」と中国を再び非難しました。米ボイス・オブ・アメリカが17日報じました。

ペンス副大統領は同日、米国務省が開催した「駐外公使会議(Global Chiefs of Mission Conference)」で演説を行いました。副大統領は演説のなか、複数回にわたって中国当局に言及しました。

ペンス副大統領

「中国は近年、世界の安定と繁栄を半世紀にわたり維持してきた国際法とルールを無視してきた。米国としてはもう座視できない」

また、副大統領は、中国当局が「債務トラップ外交」と「不公平な貿易慣行」で影響力を拡大し、南シナ海で「攻撃的な行動」を取っていると批判しました。「すべての国は航行の自由と開かれた貿易取引ができるよう、米国は自由で開かれたインド太平洋を支持する」

ペンス副大統領は、中国当局が不公平な貿易慣行を改め、構造改革を実施すべきだと強調しました。昨年2500億ドル(約27兆円)相当の中国製品を対象にした追加関税措置を通じて、トランプ政権は「中国に警告した」と述べました。副大統領は今後、米中通商協議で中国当局が米中双方の利益にかなう改革に取り組まなければ、対中関税を引き上げると強調しました。

副大統領は会議に出席した米国の外交官に対して、中国当局やイスラム過激派テロ組織「ISIS」、イラン、キューバ、ベネズエラなどが「米国が過去半世紀にわたり守ってきた国際秩序を覆そうとしている」が、これに対抗するために「米国が戻ってきた」と述べましたた。過去の政権の外交・軍事政策を修正したトランプ政権は、「力による平和」の実現に注力し、米の軍事力を強化していくといいます。

劉鶴副首相とのハイレベル協議においては、知的財産権の保護や非関税障壁など中国経済の「構造改革」が主な争点となるとみられます。

さて、このような「構造改革」を本当に実行するためには、ただ単に中国政府が掛け声をかけて、資金を投入すればできるというものではありません。

構造改革とは、現状の社会が抱えている問題は表面的な制度や事象のみならず社会そのものの構造にも起因するものであり、その社会構造自体を変えねばならないとする政策論的立場のことです。

日本では、いわゆる構造改革は失敗して結局何も変わりませんでした。その要因としては、日本の経済の不振は、構造的なものよりも、マクロ経済政策が間違っていたことによることのほうがより悪影響が大きかったためです。

このような状況の中では、まずはまともなマクロ政策を実施して、ある程度経済を良くしなければ、構造改革などできません。実施したとしても、何が良くなれば、何かが悪くなるというもぐら叩き状態になるだけです。そのため、日本のいわゆる構造改革はほとんど掛け声だけに終わりました。何一つ成功したものはありません。

今でも構造改革病の人がいるようですが、そういう人には現在の韓国を見ろといいたいです。現在の韓国では、まさに過去の日本のように構造改革病にとりつかれています。文在寅は、金融緩和はせずに、最低賃金だけあげるという、まるで立憲民主党代表の枝野氏の主張するような経済対策を実行したがために、雇用が激減してとんでないことになっています。

しかし、中国は日本などの先進国とは異なります。中国はまずは構造改革しないことには、まずは米国の制裁を免れることはできないですし、制裁は別にしてもこれから先経済発展するのも不可能です。

そのことは中国もある程度は理解していたようで実は、中国自身も過去に構造改革を進めようとしていました。

2015年の中国経済を振り返ると、1-9月期の成長率は実質で前年同期比6.9%増と前年よりも0.4ポイント低下しました。もっと低いのではとの見方もあって議論になっていますが、確かなのは構造変化が進んでいることで、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という“ふたつの二極化”が起きていました。

中国経済を「世界の工場」に導いた従来の成長モデルは限界に達しており、対内直接投資が伸び悩むとともに対外直接投資が急激に増えてきました。中国経済を供給面から見ると世界における製造業シェアがGDPシェアを10ポイントも上回る過剰設備の状態にあり、需要面から見ると投資の比率が諸外国と比べて突出して大きい過剰投資の状態にあります。そして、この過剰設備(又は過剰投資)の調整を進めれば、成長率を押し下げる大きな負のインパクトをもたらすことになります

中国政府はこの負のインパクトを和らげようと、新たな成長モデルを構築するための構造改革を進めていました。具体的には、需要面では外需依存から内需主導への構造転換、供給面では製造大国から製造強国への構造転換、同じく供給面では第2次産業から第3次産業への構造転換の3点である。この構造改革を三面等価の観点から再整理すると下図表のようなイメージになります。


この構造改革に成功しても中国の成長率鈍化は避けられないです。しかし、成長の壁を克服するには他に道がないため、中国はこの構造改革は続けるしかありません。従って、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という“ふたつの二極化”も長く続くトレンドと考えられます。

そうして、この構造改革の最大のポイントは、個人消費を拡大することです。実際、中国の個人消費はGDPの40%であり、これは日本のような先進国が60%程度、米国では70%にも及ぶことを考えると、数字の上では確かにこの考えは妥当といえば妥当です。

それにしても、この構造改革なかなか進みませんでした。それが進まない中で、米国から厳しい経済冷戦を挑まれてしまったのです。

中国政府事態は、個人消費の拡大という構造改革を自身ですすめつつ、米国からは知的財産権の保護のための構造改革を迫られています。

さて、これらの構造改革を進めるには、実際にどのような改革を行うべきなのでしょうか。

それに必要なのは、まずは中国社会の根本的な構造改革が必要です。それについては、以前からこのブログに掲載してきました。

そうです、民主化、政治と経済の分離、法治国家化です。まずは、これがある程度実施されなければ、そもそも個人消費の拡大などおぼつきません。

先進国が先進国となり、国が富んだのは、まさにこれらを実行したため、多数の中間層ができあがり、それらが自由で活発な社会経済活動を行ったからです。個人消費を伸ばすにはまずはこれが不可欠なのです。政府が音頭をとって、金をバラマキ、個人消費を拡大することはできません。それは、一時的には可能かもしれませんが、長い間継続するのは不可能です。

また、知的財産権の保護についても、まずは中国国内で、これらが保証されない限りは、不可能です。そのため、やはり民主化、政治と経済の分離、法治国家は避けて通れません。

ただし、これを実行すれば、中国における共産党統党独裁は崩さざるを得ません。これらを実行すれば、中国共産党の統治の正当性が崩れてしまうからです。

中国の選択できる道は、共産党1党独裁を崩しても、構造改革を進め、国と国民を富ませるか、構造改革を拒否するしかありません。

なお、構造改革を拒否すれば、中国は経済的に衰退して、図体が大きいだけの、アジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。そうして、他国に対して影響力を行使できなくなります。

米国としては、中国がどちらの道を選んでも良いわけです。ただ、現状のままの中国は許容しないということです。

私としては、中国の共産党幹部は、先進国の民主化、政治と経済の分離、法治国家化などによってなぜ先進国が先進国となり得たのかなど、本当は理解していないため、結局中国は滅びの道を自ら選ぶことになると思います。

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2019年1月22日火曜日

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを ―【私の論評】日本は英国のTPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを 
高橋洋一 日本の解き方

英メイ首相

英国議会で、欧州連合(EU)離脱案が大差で否決された。今後、どのような影響が出てくるだろうか。

 英国のEU離脱は2016年6月23日に国民投票が行われ、僅差で決まった。

 そもそも英国は、貿易取引ではEUに加盟して有利な条件を受ける一方、ユーロに加盟せずに独自通貨のポンドで金融政策の自由度を確保するという「究極のいいとこ取り」であった。このため、筆者はそもそもEU離脱には懐疑的だったが、もはや時間は戻せない。

 国民投票の結果、英国のEU離脱の期限は3月末となった。ただし、行政機関や企業などが混乱しないように20年12月末までは「移行期間」として現行の諸法制が適用されるとされていた。

 そのためには、英国とEU間で離脱条件などが合意される必要がある。EUとの合意を前提として英国に有利なソフト・ブレグジットか、EUに有利なハード・ブレグジットのどちらになるかが関心事であった。

 今回、英議会が離脱案を否決したので、英国とEU間の合意の可能性はかなり遠のいた。つまり、「合意なき離脱」ということになりそうだ。この「合意なき離脱」ということになると、英国には打撃が大きい。

 EUのユンケル欧州委員長は、「もうすぐ時間切れだ」とし、「無秩序な離脱のリスクが高まった」と述べ、英国国内での意見集約を促している。

 しかし、英国のメイ政権ではいかんともしがたい状況だ。英議会でEU離脱案が大差で否決されたので、コービン党首率いる労働党が提出した内閣不信任案は否決されたが、英国内の政治が混乱したまま時間が過ぎ、3月末の期限を迎える公算が高い。

英政府は、その場合、国内総生産(GDP)を8・0~10・7%押し下げるという予測を昨年11月に出した。イングランド銀行は3~8%、国際通貨基金(IMF)は5~8%のマイナス効果になるとみている。

 具体的には、製造業で欧州から受け入れてきた労働者が不足して生産不足に陥る可能性が高い。金融業でも、適用ルールの不明確さから企業活動に混乱が生じかねない。こうした「合意なき離脱」による経済活動への悪影響はいうまでもなく計り知れない。EU側で、離脱の期日延期が検討されていると報じられているのもこのためだろう。

 筆者は、かつての本コラムで、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があると書いている。その当時は「合意ある離脱」が前提であり、英国政府の予測ではGDPに与える悪影響は、3・6~6・0%であった。今は、「合意なき離脱」を覚悟せざるを得ない状態であり、そのインパクトは2倍程度だろう。であれば、まさに、リーマン・ショック級になるのは避けられない。

 日本として政策総動員を準備すべきだ。実際のリーマン・ショック時は、「ハチに刺された程度」と楽観視し適切な政策が打てずに、大混乱したことを忘れてはいけない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本は英TPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

英国が欧州連合(EU)と合意したEU離脱案の採決は、保守党内から大量の造反者が出て、432対202という歴史的な大敗北となりました。

強硬離脱派も、残留派も反対し、労働党からは内閣不信任案が出されました(下院で否決)。EU側は当然ながら失望を表明し、メディアでは「合意なき離脱の可能性が高まる」との見出しが踊っています。

しかし、英ポンドはそれにも関わらず売られていません。「合意なき離脱」の可能性が高まっているのであれば、英ポンドはもっと売られていて良いはずです。つまり、表向きの混乱とは裏腹に「合意なき離脱」の可能性はやはり低いのです。そして今後ますますその可能性が低いことが明らかになっていくでしょう。

英ポンドは市場で売られていない

離脱案が否決されたので、メイ首相は3日以内(1月21日)に代替案を出すことになっているが、この代替案もどうなるかわからないです。

とはいえ、今後は野党の労働党との折衝が始まります。その中で、与野党の多くの議員はソフトな離脱案か再度の国民投票を希望しており、強硬離脱派はあくまで少数意見ということが明らかになってくるでしょう。

そして、万が一「合意なき離脱」の可能性が高まった場合、多くの議員は一致団結してそれを阻止するということがはっきりしてくるでしょう。

つまり、双方の多数派である労働党と保守党の穏健派が合意して超党派的な連合ができれば、簡単に終わる問題なのです。

ところが、そこに英国の政治事情が絡むので、スッキリとは進まないでしょう。メイ首相の頑な態度が、すんなりと合意に向かう道を閉ざしているとも言えるし、態度をはっきりさせないコービン党首が障害になっているとも言えます。

労働党は、結局どうしたいのか、はっきり態度を表明しなければならないです。ソフトな離脱案で行くのか、それとも再度の国民投票を行うのかです。それがはっきりすれば、超党派の連合も形成しやすくなるでしょう。

私は、ソフトな離脱案が結局成立する可能性が6、7割、再度の国民投票の可能性が3、4割と見たいです。個人的には「合意なき離脱」に至る確率は低いとみています。

現在、外国為替市場で少しずつ英ポンドが買われ始めているのは、結局「合意なき離脱」という選択肢が消えて、英ポンドが再評価され買い戻される、その動きを先取りしつつあるのでしょう。

英ポンドは極めて安い水準に放置されていたので、戻り始める(価値が上がる)とかなりのポテンシャルがあります。そして、「合意なき離脱」の選択肢が消えることは、この(2018~19)年末年始に不安定化していた市場に安心感を取り戻すことになるでしょう。

市場は過度な悲観にさらされていましたが、過度な悲観からの巻き戻しが今後、起こる可能性が高まっているのかもしれないです。

国旗を掲げながらブレグジットを支持するデモ隊

さらには、英国のTPP加入の可能性も高まっています。英国は、TPP参加を表明しています。英国のフォックス国際貿易相はロンドン市内で講演し、英国が欧州連合(EU)を離脱した後に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を目指す意向を表明しました。

メイ首相はこれまで離脱後にEU以外の第三国との自由貿易協定(FTA)を締結する方針を示していましたがTPPは一国帯一国の交渉で決めるFTAではありません。TPPは貿易だけでなく投資や知的財産など多くの協定がすでに決まっていて加盟をすればTPPルールを守らなければならないです。

TPPの性質はFTAではなくEUに近いものです。FTAは相手国との貿易について自由に交渉できますがTPPはできないです。EUを離脱する英国がTPPに参加するというのは矛盾しているようにもみえます。

なぜ、EUを離脱する英国がTPPに参加しようとしているのでしょうか。それはEUとTPPは協定の性質が違うからです。

EUはEuropean Unionの略称であり、欧州連合のことです。2013年7月にクロアチアが加盟したことにより以下の28か国が欧州連合に加わっています。

IMFによると、2010年の欧州連合のGDPは16兆1068億ドル(約1300兆円)です。米国のGDPをやや上回っており、世界全体の約26%を占めています。

欧州連合には最高意思決定機関があります。全加盟国の政府の長と欧州委員会委員長、及び大統領にも相当するとされる常任議長による欧州理事会です。

欧州連合の市場は統合されています。外交・安全保障分野と司法・内務分野での枠組みが新たに設けられ、ユーロの導入によって通貨も統合されています。欧州議会の直接選挙が実施されたり、欧州連合基本権憲章が採択されています。

ただし、ブログ冒頭の高橋洋一の氏の記事にあるように、英国はこのユーロは用いていません。そのため英国独自で金融政策を行うことができます。

EU加入国(青)と加入する可能性がある国(緑)

第二次大戦後に急激に社会主義国家圏が拡大していきました。ヨーロッパの社会主義圏の拡大を防ぐためEUは資本主義経済圏の民主主義国家の連合を結成したのです。

1991年にソ連は崩壊し、強大な社会主義国家圏は消滅しました。EUを強固しなければならない根拠となっていた社会主義圏が消滅したためにEUの国家間の矛盾が表面化していきました。

政治は本質的にローカルであるグローバルではありません。国によって生活や経済の程度に差があります。GDPに差があるし国家予算にも差があります。どうしても政治的な対立は生じることになります。

ソ連が存在していた時は対立を我慢していたが、ソ連が崩壊すると対立にが表面化していったのです。この対立を調整するのがEUの課題となっていき、英国はEUを離脱を決意したのです。

英国のEU離脱と米国のトランプ大統領のアメリカファーストをきっかけに、米国や英国だけでなくヨーロッパの多くの国々で反グローバル化の動きが広がっているとマスコミや評論家が指摘しています。

政治はローカル=反グローバルであり、経済はグローバルです。政治と経済は密接に関係していますが、二つの本質的な性質の違いを区別しなければならないです。区別しないから反グローバルを安易に政治目的に使うようになってしまったのです。

格差や貧困が原因で国外に出た難民を受け入れるかどうかを決断するのは政治です。難民を受け入れるか否かを決めるのはそれぞれの国の経済力や国民性が左右するからです。それは政治であり、ローカルな問題なのです。

EUがソ連圏に対抗した政治優先の連合であるのに対して、TPP11は経済優先の連合です。それがEUとTPPの根本的な違いです。そもそも、EUはソ連が存在しなければ結成されなかったかもしれません。

1988年ソ連ではじめてミスコンが行われたときの写真

EUは社会主義国家と対峙した連合でしたから社会主義国家は参加できません。しかし、TPP11は違います。TPP11は社会主義国家であるベトナムが参加しています。このことからもEUとTPP11が性質の違う協定であることが分かります。TPP11は政治ではなく経済を中心とした協定なのです。

EUから離脱した英国がTPP11に参加するのはTPP11がEUのような政治協定ではなく経済協定だからです。

TPP11は政治的にはそれぞれの国が独立しています。EUで問題になっている難民受け入れはTPP11加盟国のそれぞれの国が自由に決めるのであってTPP11全体の問題にはなりません。

このように、TPP11は人類史上初めての新しい協定です。こういうと誇大な表現と思われるかもしれませんが、そうではありません。

EUも国際連合も政治を中心とした連合です。経済も問題にするが優先しているのは政治です。それに比べてTPP11は経済を中心にした連合です。このような連合は、過去にあってもよさそうですが、このような協定はありませんでした。

世界は第二次世界大戦までは戦争の連続であり、帝国主義の世界でした。戦後は議会制民主主義国家圏と社会主義国家圏の対立が続きました。まさに、世界の歴史は、政治対立の歴史であったのです。

ソ連が崩壊し、独裁国家も減り、議会制民主主義国家が増えていきました。政治対立、戦争が少なくなったアジア、環太平洋地域だからこそTPP11が誕生したのです。

英国がTPP参加を表明しましたが、TPPの正式名称は、環太平洋パートナーシップです。名称からすれば環太平洋の国ではない英国は参加できないことになります。しかし、英政府はTPPの参加条件に地理的な制約がないことを確認しています。

それに日本の茂木敏充経済再生担当相も、英国の参加が可能との見解を示しています。経済は政治と違い本質的にグローバルです。TPPには世界のどこからでも参加できるのです。

このTPP11実現をリードしてきたのが安倍政権です。経済政策を重視する安倍晋三首相は「保護主義からは何も生まれない」として、自由貿易体制の維持に取り組んでいます。それがTPP11の実現であり、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の署名です。

メイ首相はEUとの離脱交渉で、「EUの関税同盟と単一市場から英国を離脱させ人の移動の自由を終わらせる」、「モノに関しては自由貿易圏を創設する」などの条件を掲げています。これに対し、人、モノ、金、サービスの四つの移動の自由を基本理念に掲げるEUは、メイ政権の提示条件が妥協的であると批判し、交渉は膠着状態に陥っています。

しかし、EUの本音は別のところにあるようです。

実はEUは、域内2位の経済力と最大の軍事力を誇る英国の離脱と、英国に追随する他国の動きを警戒し、英国を牽制しているのです。その顕著な例が、メイ政権のモノの移動の自由に関する条件を逆手にとり、アイルランド国境管理問題を持ち出し、北アイルランドがEUとの関税同盟に残留せざるをえないよう仕向けています。

つまり、北アイルランドに経済的国境を作るという圧力をかけ英国の提示条件を拒絶しているのです。ちなみに、英国とEUは2017年12月、地続きであるアイルランドと英領北アイルランドの物理的な国境管理(税関、検問所)を離脱後も復活させないことで基本合意した。

これに対し、メイ首相はEUに「合意なき離脱」という脅しをかけ、自らの離脱計画案の再考をEU側に求めています。仮にメイ首相の案をEUが飲んでも、あるいは合意なき離脱となった場合でも、英国国会で批准されるかどうかは不透明で、メイ政権は厳しい舵取りを余儀なくされています。

もともと英国はEU加盟に積極的ではありませんでした。EUの前々身であるEECにはフランス主導であることを理由に加盟を拒否し、EU加盟時には共通通貨のユーロを使わなかったことなどの事例がそれを物語っています。

自国に対するプライドもあるし、EU経済圏に入ることのメリットも少ないと考えていたようです。ただ、ヨーロッパ全体が一つの経済圏としての機能を持ち始めたため貿易の面で加入せざるを得ない事情があったようです。

しかも、英国はEUの盟主であるのなら離脱はなかったと思われますが、英国がEUの大統領を輩出しているわけでもないし、フランス、ドイツなどにリーダーシップを握られていることが面白くなかったわけです。

英国がリーダーシップを取れなかった理由は国内経済の低迷にあります。英国は国家の伝統ばかりを後生大事に抱えていてイノベーションができていなかったことに起因します。

英国国内の一部には離脱以降、世界経済の中で英国が新たな立ち位置を築くことができるのではないかとの期待もあります。しかし、その一方で、メイ首相の構想ではEUの規制から逃れられず、世界各国と自由にFTAを結ぶことができなくなると危惧する意見が出るほど国論が混乱しています。

いずれにせよ英国が歴史的な変化の前に苦悩していることだけは間違いありません。

先日の英経済紙フィナンシャルの一面に「英国のTPP加盟を歓迎する」との安倍首相のインタビュー記事が掲載されました。内容は「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する。英国は合意なきEUを回避するため妥協してほしい」「英国のEU離脱による、日本のビジネスを含むグローバル経済に対するネガティブなインパクトが最小化されることを心底願っている」というものでした。

「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する」という安倍総理の
インタビューを掲載したフィナンシャルの記事を報道する日本のテレビより

実際、英国の窮状を救うことができるのは日本だけかもしれません。TPP交渉で米国の離脱後も粘り強く推進してきた日本が、英国をTPPの枠組みに入れることでEU離脱後の英国経済の破綻を防ぐことができるものと考えられます。

さらに、TPPのもう一つの本質的な機能は中国包囲網の形成にあります。

TPPへの英国の加盟は、海洋国家の日米英の連携が一層強まり、中国政府と中国海軍による違法行為の封じ込めに役立つものとなります。英国は、インド太平洋地域にも英領西インド諸島を領土として持ち、ヨーロッパでも英国の領海、領有は広く、軍事戦略上きわめて有効です。

英国のTPP加盟はEU離脱後の英国経済のマイナス面を補うだけでありません。日本は積極的に英国支援に向かうべきです。そうして、英国のEU離脱によるリーマンショック級の悪影響が出ることを未然に防ぎ、今後も日英同盟を強化していくべきです。

ただし、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があるのは事実であり、日本もそれに備えるべきです。米国が対中国冷戦を実行し、英国がEU離脱し、世界経済に悪影響を与えるかもしれない今日、わざわざ消費増税などすべきではありません。財務省は、このような世界情勢を理解できないのでしょうか。だとすれば、大虚け者(おおうつけもの=虚けとはもともと、からっぽという意味であり、転じて虚け者とは、ぼんやりとした人物や暗愚な人物、常識にはずれた人物をさす)と呼ぶ以外にありません。

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2019年1月21日月曜日

照射問題に見る韓国軍艦の不自然な行動 文在寅氏は北朝鮮の言いなりか―【私の論評】南北統一の虚妄より、北の核が結果として朝鮮半島への中国の浸透を防いでいることに注目せよ(゚д゚)!

照射問題に見る韓国軍艦の不自然な行動 文在寅氏は北朝鮮の言いなりか




レーダー照射問題:韓国軍艦のとった不自然な行動

 日本の排他的経済水域内で、北朝鮮の漁船らしき木造船を救助するのに、北朝鮮の海軍警備艇や民間船舶ではなく、韓国の軍艦・警備艦が向かった。

 北朝鮮は、排水量1000トン以上の貨物船などの民間船舶を170隻以上、フリゲート艦、コルベット艦、哨戒艦、高速艇および警備艇の海軍戦闘艦艇約200隻を保有している。

 これらの艦船が本来救出に来るべきなのだが、そうではなかった。

救助に派遣されたのは韓国の最新鋭艦

 1993年5月に、ノドンミサイルとみられる発射実験が行われた際に、その観測支援のためにフリゲート艦とコルベット艦の2隻が日本海に展開したことがある。

 本来、この木造船を救助する必要があるならば、今回もその当時と同様に、軍艦あるいは民間船舶を派遣するのが普通だろう。

 しかし、なぜか韓国が、韓国海洋警察の警備艇に加え、海軍駆逐艦までも派遣した。

 北朝鮮の木造船を捜索するため、派遣された警備艇の参峰号は、韓国最大で最新の警備艇(排水量約6300トン、韓国は2隻保有)だ。

 駆逐艦の広開土大王(クァンゲトデワン)は、韓国で最初に建造された駆逐艦で約4000トンだ。

 木造の小船を大型艦艇が挟み込んで救助しているというのは、常識ではあり得ない不思議な光景である。

 韓国の大型の軍艦と警備艇が、日本海の真ん中よりも日本に近い位置にいた木造船をしかもレーダーには映らない木造船をどのようにして発見したのか。それが疑問である。

北朝鮮のアナログステルス戦闘機

 詳しく説明すると、レーダー波を金属製の航空機に当てると電波が反射して戻ってくるが、木材の場合はレーダー波を反射しない。

 軍事専門家は、北朝鮮特殊部隊を空輸する木材と布で作られた輸送機「An-2」を、皮肉を込めて「アナログステルス戦闘機」と呼ぶ。

 この木造船がSOSの救助信号を発信した可能性もあるが、海上保安庁も海上自衛隊も確認していないという。

 韓国が発表した北朝鮮の木造船の映像をよく見ると、イカ釣り用の電球が並ぶ上に、前方のマストから後方のマストにかけて、AM通信(モールス通信)用のケーブルらしきものがかけられている。

韓国側が発表した映像から

 北朝鮮の木造船は、モールス通信を使用して本国に救助を依頼したのではないだろうか。

 また映像を見ると、その木造船は、沈みかけていない。漂流する原因は、燃料切れだと推測される。

 私は、韓国の大型艦は北朝鮮の木造船に燃料を渡していると判断している。
救助に向かう燃料がない北朝鮮

 韓国が、沈没しそうな木造船と漁民を救助しているというのならば、漁民を救助している写真やその木造船をロープで曳行している写真を発表すべきだろう。

 大きな疑惑がいくつも生じるのは当然のことである。

 私の推測では、北朝鮮の小型木造船は、燃料切れを起こし、本国に燃料補給の救助を求めた。

 だが、北朝鮮は漁船を救助するために、海軍警備艇や民間船舶を派遣するための燃料がない。

 また、海軍軍艦はポンコツで500キロも離れた日本海の中央まで移動して帰投することができない。

 このような理由から、北朝鮮金正恩委員長は、韓国に支援を依頼した。

 北朝鮮としては、金正恩委員長の要求を何でも聞き入れる文在寅大統領に頼めば、すぐに引き受けてくれるだろうという予想通りになった。

いまや金正恩の言いなり、文在寅大統領

 金正恩が頼めば、文大統領は「北朝鮮は非核化をします。国連制裁を解除すべきだ」と欧州諸国を駆けずり回る。

 「自国の漁船を救助してほしい」と頼めば、大型軍艦や警備艇を派遣する。韓国文在寅大統領は、いまや北朝鮮の言いなりのようだ。

 そのことと、南北の陸と海上の境界の障害が徐々に取り除かれていること、南北の融和行事などを合わせると、南北の統一は近いと見てほぼ間違いないのではないか。

 だが、その統一は韓国主導による連邦制ではなく、北朝鮮が韓国を呑みこむ占領という形で行われるのではないか考えられる。

(これについては、軍事情報戦略研究所朝鮮半島分析チーム「可能性が高くなりつつある北朝鮮による半島統一」『JBPress(2018年12月3日)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54805』で詳細に分析している)

【私の論評】南北統一の虚妄より、北の核が結果として朝鮮半島への中国の浸透を防いでいることに注目せよ(゚д゚)!

冒頭の記事では、南北統一のことがいわれています。そうして、その統一は韓国によるものではなく、北朝鮮による半島統一ということがいわれています。

このように多くのメディアで、南北統一が当然のようにいわていますが、南北統一は解決策なのでしょうか、あるいはそれこそが問題なのでしょうか。北朝鮮と韓国の最近の緊張緩和によって、1950年代から分断している南北の統一に新たな可能性が浮上しているのは事実です。

統一という言葉は、東西ドイツを隔てるベルリンの壁が崩壊して家族が再会し、軍が武装解除したときのことを思い起こさせます。

韓国と北朝鮮は平和的な統一を繰り返し訴え、韓国で開催された昨年の平昌冬季五輪では統一旗を掲げて共に入場行進を行いました。また最近にK─POP歌手らの一行が北朝鮮を訪問した際、彼らは北朝鮮人と手をつなぎ、「われらの願いは統一」を歌いました。

「少女時代」のソヒョンが、北朝鮮芸術団と共に感動のステージを披露し、話題を呼んだ。
2018年2月12日11日、国立劇場ヘオルム劇場で開催された北朝鮮芸術団「三池淵管弦楽団」
のソウル公演に、白いワンピースに身を包んだソヒョンがサプライズ登場。

ところが、70年にわたり緊張状態が続く朝鮮半島において、「統一」の理念ははますます複雑さを増し、非現実的だと考えられるようになりました。両国の格差がかつてないほど広がる中、少なくとも韓国ではそのように捉えられていると、専門家や当局者は言います。

韓国はテクノロジーが発達し、民主主義の下で活気に満ちた主要経済大国となりました。一方、北朝鮮は金一族の支配下にあり、個人の自由がほとんどない、貧しく孤立した国です。

1990年に再統一した東西ドイツとは異なり、朝鮮半島の分断はいまだ解決されていない同胞同士の内戦に基づいてます。韓国と北朝鮮は朝鮮戦争を終結するための平和条約に署名しておらず、お互いをまだ正式に認めていません。

過去には、北朝鮮の独裁政権が崩壊し、韓国に吸収されるという前提に基づいた統一計画を描く韓国の指導者もいました。しかしリベラルな文政権はそうしたアプローチを和らげ、最終的に統一へとつながるであろう和解と平和的共存を強調しています。

韓国では、統一を支持する世論も低下しています。韓国政府系シンクタンク・韓国統一研究院(KINU)の調査によると、2014年には70%近くが統一が必要と回答したのに対し、現在は58%に低下しています。1969年に政府が実施した別の調査では、90%が統一を支持すると答えていました。

統一にかかる費用は最大5兆ドル(約550兆円)と試算されており、そのほとんどが韓国の肩にのしかかることになります。

一昨年7月にベルリンで行ったスピーチの中で、文大統領は「朝鮮半島平和構想」について説明。北朝鮮の崩壊を望まない、吸収による統一を追求しない、人為的な方法による統一を追求しない、ことを明らかにしました。

「求めているのは平和だけだ」と、同大統領は語りました。

一昨年7月にベルリンでスピーチした、文大統領
両国とも、統一についてそれぞれの憲法で明記しており、北朝鮮は「国家の最重要課題」と表現しています。

韓国統一省のように、北朝鮮にも「祖国平和統一委員会」があります。北朝鮮からの報道を集めたウェブサイト「KCNAウオッチ」の記事をロイターが分析したところによると、国営メディアは2010年以降、統一について2700回以上言及しています。

北朝鮮は昨年1月、声明で「国内外にいる全ての朝鮮人」に共通の目的を目指すことを呼びかけ、「お互いの誤解と不信感を払拭(ふっしょく)し、全ての同胞が自身の責任と国家統一の原動力という役割を果たすべく、南北間における連絡や移動、協力や交流を広範囲で可能にしよう」と訴えました。

北朝鮮人は、韓国にいても北朝鮮にいても統一を支持しているようです。韓国にいる脱北者の95%以上が統一を支持すると回答しています。

北朝鮮「建国の父」である金日成主席は1993年、祖国統一のための「10大綱領」を発表。その中には、国境は開放しつつ、2つの政治体制を残す提案が含まれていました。

北朝鮮は1970年代まで、憲法でソウルを首都と主張していました。一方、韓国は現在に至るまで、北朝鮮に占拠されたままだとする「以北五道」に象徴的な知事を任命しています。

昨年4月25日、南北統一は解決策なのか、あるいはそれこそが問題なのか、北朝鮮と韓国の最近の緊張緩和によって、1950年代から分断している南北の統一に新たな可能性が浮上していました。

「統一は結局、非核化であろうと人権問題であろうと、あるいは、単に南北間で安定したコミュニケーションを築くことであろうと、喫緊の短期目標の多くを達成困難にする」と、韓国シンクタンク「峨山(アサン)政策研究所」のベン・フォーニー研究員は語りました。

開城(ケソン)工業団地

両国は、開城(ケソン)工業団地のような小規模の協力でさえ、問題にぶつかってきました。北朝鮮の核兵器開発を巡る緊張が高まる中、2016年に閉鎖されるまで、この工業団地では両国の労働者が共に働いていました。

最近では、両国は離散家族の連絡事業再開で合意には至りませんでした。

不信感は根強いです。朝鮮半島を支配するための長期計画の一環として、北朝鮮の指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は核兵器を開発したと、一部の韓国人と米国人は信じ続けているようです。一方の北朝鮮は、韓国の駐留米軍について、金氏の転覆を狙った侵略部隊だと懸念しています。

1990年に東西ドイツが統一したとき、朝鮮半島のモデルになることを期待する向きもありました。

しかし、東西ドイツの場合は内戦を経験しておらず、東ドイツは北朝鮮と比べて国民に対する統制がはるかに弱かったと、元韓国統一省の当局者は2016年のリポートで指摘しました。さらに、東ドイツは核武装はしていませんでした。

最も大きな障害は、金正恩氏自身かもしれないです。平和的な統一に必要な妥協を受け入れる動機が、同氏にはほとんどないと専門家は言います。韓国も、同氏に実権を許すような取り決めに合意する可能性は低いです。

北朝鮮を独立国として、また米同盟国である韓国との間の緩衝地帯として維持することに、中国も既得権を有しています。

長期的に見れば、完全な統一を強硬に求めることを放棄すれば、両国は関係を修復できる可能性があると、朝鮮半島情勢について複数の著書があるマイケル・ブリーン氏は指摘しています。

「矛盾しているようだが、統一はある種、ロマンチックで、健全で、民族主義的な夢として考えられている」と同氏は言う。「だが実際には、問題の多くはそこから生じている」

そもそも、統一後を考えた場合、金正恩にとって、韓国人が1番のリスクになります。北朝鮮と違い韓国人には将軍様への敬意などはなく、気に入らなければデモとクーデターで彼を攻撃する存在に豹変します。結果、アラブの春以降のアラブや中東が再現されることになります。

北朝鮮の核とミサイル廃棄と南北統一は別問題です。 米国としては、本土に届き中東に渡る可能性がある核とミサイルは絶対許せないです。周辺諸国も北朝鮮の難民を望んでいないです。一方北朝鮮は、国の枠組みは変えたくないです。その金体制維持に最も邪魔なものは自由や人権、南北で人の往来が始まれば政権が脅かされることになります。

他国は朝鮮半島の統一を望んでいません。しかし、当事者間の問題であり、関与はしないだけのことです。 中国、ロシア、日本、米国、どこにも積極的なメリットはなく、投資リスクも大きいです。北朝鮮が今のまま、自由化を進める方がメリットが大きいし、衝突リスクも低いです。

それに、以前も述べたように、現在のように北が核を持っている状況は、中国の影響が半島に及ぶことを防いでいます。北の核は中国にとっても脅威なのです。そうして、北朝鮮は中国から完全独立を希求しています。韓国は、中国に従属する道を選びました。

この状況は、米国にとって良い状況です。ただし、北朝鮮が米国を脅かす核ミサイルを開発せず、開発したものがあれば、破棄し、中東に核を渡さないことを約束すれば、中国を睨む米国にとって現状は最善といっても良い状態です。

以上のようなことから、半島情勢をみるときには、南北統一が近いなどという見方はしないほうが良いでしょう。そんなことよりも、北朝鮮の核が結果として、半島への中国への浸透を防ぐ役割もしていることに注目すべきです。

北朝鮮が核を開発していなければ、今頃北朝鮮は中国の傀儡政権であったか、そこまでいかなくても、完璧に中国の意図に沿って動く国であったことは間違いないです。

その場合、韓国は中国の従属国ですから、統一は現状よりはやりやすかったと思います。ただし、統一とはいっても中国の傀儡国家として統一ということになるでしょう。日本としては、対馬のすぐ先が、中国の傀儡国家という状況になります。

それよりは、北により中国からの浸透が防がれてる状況のなかで、韓国が中途半端な中国の従属国であるという現在の状況のほうが日本にとってもよりましであるといえます。

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2019年1月20日日曜日

「空母」保有で防衛の意思を示せ ヴァンダービルト大学名誉教授・ジェームス・E・アワー―【私の論評】日本は、最早対馬を日本の防衛ラインの最前線と考えよ(゚д゚)!

「空母」保有で防衛の意思を示せ ヴァンダービルト大学名誉教授・ジェームス・E・アワー
 正 論 


ヴァンダービルト大学名誉教授・ジェームス・E・アワー


 ≪自衛能力がなかった冷戦期≫

 1966年に私は横須賀を母港とする米海軍の駆逐艦に配属された。当時は冷戦の真っただ中であり、ソ連海軍の太平洋艦隊は多くが核兵器を搭載し、日本の太平洋シーレーンに打撃を与え得る100隻の潜水艦隊を築いていた。

 海上自衛隊は、無人対潜ヘリコプター(DASH)数機を買うことを決め、私の駆逐艦は2000トン以下の海上自衛隊駆逐艦にDASHを効果的に運用できるようなシステムづくりを支援するように言われた。もちろんその当時、海上自衛隊のDASHを搭載している艦船が空母であるとは誰も考えなかった。

DASHを搭載した「たかつき型」護衛艦

 だが、DASH数機を取得することにより、海上自衛隊の駆逐艦はより有能性を増した。当時の日本の社会党と共産党は、他の全ての自衛隊の兵器システムとともに、これらの駆逐艦は憲法9条に違反するという立場だった。

 日本政府はDASHを搭載した駆逐艦は最低限必要な自衛の範囲にあり、従ってそれは合法であるという立場を維持した。だが、海上自衛隊の駆逐艦は、米国や他の国の海軍の駆逐艦とそっくりで同じような能力を持っていても、護衛艦と呼ばれた。

 DASH搭載の駆逐艦が、自衛のために求められる最低限度にさえ達していないという日本政府の主張は正しかった。事実、ソ連太平洋艦隊の潜水艦による妨害から日本のシーレーンを守るために必要なレベルよりも、ひどく下回っていたのだ。

 ≪米海軍とパートナーを維持せよ≫

 2019年に話を進めよう。海上自衛隊は平坦(へいたん)な飛行甲板を持つ空母のような3万トン近くの艦船を2隻保有している。今のところそれらは10機のヘリコプターの運用が可能だが、防衛省は8機のF35Bステルス戦闘機を配備・稼働できるように改修する計画を立てている。

 それができれば、2隻の「いずも」型護衛艦はより有能な艦船となる。しかし、日本の太平洋シーレーンや東シナ海の日本の領土を威嚇する中国海軍は、さらに大きく有能な空母を持っており、もっと巨大で多様な艦船を持つ用意があると発表している。それを考えれば、いくら近代的なステルス機に対応できるように改良したとしても、「いずも」とその姉妹艦は日本の防衛に必要な最低限のレベルに達しないのだ。

 念のためにいうが「いずも」型艦船は、それでも「駆逐艦」とは呼ばれず「ヘリコプター搭載型護衛艦」と呼ばれる。F35B戦闘機は必ずしも常時、ヘリコプター搭載型護衛艦に配備・運用されるわけではない。防衛省は「攻撃型空母」に分類されるべきではないとしている。

 1960年代の日本の小型護衛艦は、ソ連太平洋艦隊の潜水艦による攻撃を防御する能力はなかったし、(常時、攻撃できるわけではない)「いずも」型護衛艦もまた、日本の領土の自衛や中国海軍の日本のシーレーンへの攻撃に対処するには最低限のレベルでしかない。日本の防衛能力が過度かどうかではなく、今問われなければならないのは、この能力が最低レベルでよいのかということだ。

 能力の増強は日本の抑止をより強力なものにするが、中国の深刻な攻撃に対して本当に適切なレベルの自衛能力を持つためには、日本は米海軍とパートナーの関係を維持し続ける必要がある。

 ≪日本の能力向上は評価を高める≫

 60年代でも、軍事専門家や他の国の海軍は海上自衛隊の「護衛艦」は駆逐艦であることを認識していたし、今日でも「いずも」型艦船が正確にはヘリ空母と識別されることを知っている。それにF35B戦闘機を配備することは、日本の防衛能力をより高めることになるが、違法になることはない。

 私は日本が、「駆逐艦」とか「(攻撃型)空母」といった名称を使うことで、挑発的に見られないように注意している理由はよくわかる。しかし、日本は非常に有能な海上自衛隊艦船を保有することや、米国をはじめ東南アジアやオーストラリア、インドなどの日本の友好国が高く評価する、インド・太平洋地域の抑止能力を高めることを恐れる必要はまったくないと思う。

ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」

 かつて安倍晋三首相には、自衛隊を自衛軍のような明確な名称で呼びたいという望みがあった。これを不必要に挑戦的であるという人もいたが、この名称は、自衛能力をもち、信頼の置ける防衛パートナーであるという日本の決意をより明確に示すだろう。挑戦的なのは自衛隊に過度な制限を加え、その能力を効果的な防衛にかなうようにしないことであろう。

 敵は力によって抑止されるが、弱みによって悪事を起こす気にさせる。「いずも」型艦船にF35B戦闘機を配備できるように改修することは、非合法で攻撃的な能力を意味するのではなく抑止を高める。私には、今日は「ヘリ空母」、改修後は(合法的でより能力のある自衛のための)「空母」と呼ぶことが、確かな国家防衛力を築く日本の意思の表れであると思える。

【私の論評】日本は、最早対馬を日本の防衛ラインの最前線と考えよ(゚д゚)!

私も、改修してF35Bを搭載できる「いずも」のことを「空母」と呼ぶべきと思います。それは、中国に対する牽制にもなりますが、韓国に対する牽制にもなります。

もう韓国を日米の同盟国であるとみるのは困難です。例の海自哨戒機に対する、レーダー照射事件をみても明らかです。

それに、ご存知のように韓国は北朝鮮に対する接近の姿勢を崩さず、それに加えて中国への接近もやめていません。

このブログにも以前掲載したように、韓国は自ら安全保障を放棄しています。その記事のリンクを掲載します。
文在寅は誰にケンカを売っているのか?―【私の論評】中国に従属し、安全保障を放棄したぶったるみ韓国にうつつをぬかすより日本はやるべきことをやれ(゚д゚)!
これについて参考になるのが、本ブログをご覧の皆さんにはすでにおなじみの、戦略家エドワード・ルトワック氏の分析です。韓国に関する分析は、『自滅する中国』に詳しく掲載されています。

ルトワック氏
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に韓国が安全保証を放棄していることに関わる部分を少し長めですが、引用します。

以下に、ルトワック氏の韓国の戦略状況の分析の要点を紹介させていたたぎます。ルトワック氏によれば、韓国の戦略状況は以下の要点にまとめられることになります。

===
●国家は普通は独立を尊ぶものだが、従属したがる国もある。それが韓国だ。 
●彼らは中国と中国人にたいして、文化面で深い敬意を持っている。中国の「マーケットの将来性」にもその原因がある。 
●韓国における中国と中国人への尊敬の念は明の時代にまでさかのぼることができる。その一番の担い手は、知的エリートとしての官僚である両班だ。 
●面白いことに、中国文化の影響が非難されるのは北朝鮮。北では漢字は事実上禁止され、ハングルの使用だけが許されているほど。 
●韓国では教育水準が高ければ高いほど反米の傾向が強まる。しかも最近はアメリカが衰退していると考えられているために、中国の重要性のほうが相対的に高まっている。個人で中国でビジネスを行っている人が多いという事情もある。 
●極めて奇妙なことに、韓国は大規模な北朝鮮の攻撃を抑止するのは、グローバル規模の軍事力を持つアメリカの役目だと考えられており、実際に天安沈没事件や延坪島の砲撃事件にたいしても(死者が出たにもかかわらず)ほとんど報復は行っていない。 
●つまり実際のところ、韓国政府は米国と中国に依存する従属者となってしまっている。米国には全面戦争への抑止力、そして中国には一時的な攻撃にたいする抑止力を依存しているのだ。 
●ところがこれは、米国にとって満足できる状況ではない。韓国を北朝鮮から庇護するコストとリスクを、米国は独力で背負わなければならないからだ。 
●その上、韓国への影響力は中国と折半しなければならない。中国は北朝鮮への統制を中止すると脅かすことで、常に韓国政府を締め上げることができるからだ。今のところ韓国が中国に声を上げることはない。 
●米韓同盟を形成しているものが何であれ、そこには共通の「価値観」は含まれていない。なぜなら韓国はダライラマの入国を中国に気兼ねして堂々とビザ発給を拒否しているからだ。 
●現在のような政策を保ったままの韓国は、いわゆる「小中華」の属国として、しかも米韓同盟を続けたまま、中国による「天下」体制の一員となることを模索しているのかもしれない。韓国が自国の安全保障のコストとリスクを受け入れず、かわりに従属者になろうとしているのは明らかだ。 
●このような韓国の安全保障の責任を逃れようとする姿勢は、「日本との争いを欲する熱意」という歪んだ形であらわれている。ところが日本との争いには戦略的に何の意味もないし、日本へ無理矢理懲罰を加えても、韓国側はリスクを背負わなくてすむのだ。
===
いかがでしょう。このルトワックの分析の要点をさらに簡潔にまとめれば、 
1.米国に従属している韓国は、同時に中国にもすり寄っていこうとしている。 
2.その大きな理由は二つ:歴史的・文化的な面での尊敬と、ビジネスのチャンスだ。 
3.安全保障面では、北のコントロールを中国に、そして全面戦争の抑止は米国に依存。 
4.その責任逃れの憂さ晴らしとして、日本にたいする情熱的な敵対心を展開。
となります。

米国人がこのような分析をするというのは意外な感じがしますが、ルトワック自身はこの韓国の戦略を「大間違いを犯している」として非難しています。

もしこの分析が正しければ、韓国はこれから米中を両天秤(ヘッジング)にかけながら、その不満を日本に向かって吐き散らしていくという、構図がますます強まるだけかもしれません。

しかし、果たしてこのような政策を韓国はいつまでも続けていけるのでしょうか?

なお、この分析は2012年までの知見もとに構築されています。あれから時がたち、米国は本格的に中国に対して冷戦Ⅱを挑んでいます。そうして、これはから長期間にわたって継続すると考えられます。

文在寅大統領になってからは、韓国の前のめり北朝鮮への接近が目立つようになりました。

とはいいながら、韓国の戦略状況は上のルトワック氏の分析とさほど変わりないのだと思います。北への傾斜は、北朝鮮による韓国への浸透の結果もたらされたものであり、文在寅氏の戦略ではありません。

また、昨日もこのブログに述べたように、北朝鮮は親中ではなく、反中もしくは嫌中であるととらえるべきです。ここが、韓国との根本的な違いです。

このような韓国の状況をみていると、ここ何日かこのブログに掲載してきたように、以下のようことがいえると思います。
北朝鮮の核保有は北朝鮮の独立を保証すると同時に、中国の影響力を朝鮮半島全土に浸透させることも防いでいます。米国にとって、朝鮮半島が南北に分断され、北朝鮮が核を保有している現状が中国をにらみ望みうる最善の状態です。
米国は現状中国と本格的に対峙しているため、特に北の核が朝鮮半島に対する中国の影響力をそいでいることに注目していると思います。
"

現在の韓国海軍は未だかなり能力が低く、到底日本の海上自衛隊と対峙できるような存在ではありません。たとえば強襲揚陸艦「独島」は、レーダーや武器管制システムに欠陥があるまま就役し、2015年の韓国独立70周年を記念する竹島への派遣には、スクリューの故障で参加できないという失態を犯しました。

また、韓国初の国産潜水艦の「孫元一」型は燃料電池の不具合で数日間しか潜行できず、基準値よりも大きな水中雑音を発するため、まともに作戦行動がとれないとも伝えられています。


トラブル続きの韓国初の国産潜水艦の「孫元一」型

しかし、韓国が中国との関係をさら強め、米韓同盟も破棄した場合どのようなことが予想されるでしょうか。

中国が韓国に対して、武器を供与したり、空母の建造を助けたりして韓国軍の増強をはかることが考えられます。

さらに、韓国が対馬に侵略することをそそのかすかもしれません。それは、十分に考えられます。実際韓国には、過去には竹島を占拠しています。

さらに、ソウル近郊・京畿道の議政府市議会が2013年3月22日、日本政府に「対馬の即時返還」を求める決議文を採択したと韓国メディアが報道していました。

「地理的、歴史的、科学的にみても韓国領土であることは明らかだ」と主張しているですがその根拠は乏しいです。議政府市が「対馬は韓国領」の根拠としているのは、朝鮮王朝時代の地理書や1855年の英国地図、1865年の米国地図などでした。

しかし、魏志倭人伝の根拠を超える説得力はなく、その上、これまで韓国側が実効支配した事実もありません。韓国側の対馬返還要求は2005年2月、島根県が「竹島の日」を制定したことに対抗した動きだとする見方が有力です。

2005年3月、南東部の慶尚南道馬山市議会が条例で「対馬島の日」を制定。馬山市がその後昌原市と合併したことにより、現在は昌原市の条例となっています。

このようなことから、韓国が中国にそそのかされて、対馬に侵攻することはあり得ないことではありません。

中国とししては、韓国に日本に対する代理戦争をさせて様子をみるということも考えられます。北朝鮮は、中国から完全独立したいと考えていること、さらには核を有していることから、北朝鮮をそそのかすことは、難しいのとさらにはもしそそのかしに成功したとしても、北が日本に対して軍事攻撃したりすれば、国際的にかなりの非難を浴びることは想像に難くありません。

しかし、韓国の場合は核を有しているわけではないですし、韓国自身が元々対馬を侵略したいという考えがありますから、かなりそそのかしやすいです。韓国が対馬に侵攻して、奪い取ることができれば、中国側は、尖閣奪取は簡単だし、沖縄本島の奪取も可能であると考え、日本侵略を本格化させるかもしれません。

しかし、韓国が対馬に侵攻しようとしても、最初から無理であるとか、侵攻しようとして日本側から本格的に反撃を受けて、失敗したとなれば、中国は日本侵略はできないと考えるでしょう。

このようなことは、いますぐではないにしても十分に考えられます。今回の海自哨戒機に対するレーダー照射事件は、その前触れなのかもしれません。

日本は、最早韓国が北朝鮮や中国の緩衝地帯になっているという考えは放棄し、対馬を日本の防衛ラインの最前線にするという考え方で、韓国に対する備えを固めるべきです。

もうすでに、そうなっているか、将来確実にそうなるという考えで、安全保障を考えるべきです。そうすることが、韓国ならびにその背後に対する中国に対しての牽制となります。

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2019年1月19日土曜日

TPP「拡大」打ち出して米国と中国を牽制―【私の論評】世界は、軍事・経済的覇権によって振り回され続けることに倦んでいる(゚д゚)!

TPP「拡大」打ち出して米国と中国を牽制


TPP協定発効記念式典で各国の関係者と談笑する安倍晋三首相
(中央右)と茂木敏充経済再生担当相(同左)=19日午後、首相官邸

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加11カ国が19日、新規加盟の拡大を目指すことで一致したのは、米中による貿易戦争が激化する中で、世界経済の先行きに不透明感が強まっているからだ。広い分野の関税撤廃と高水準のルールを共有する“仲間”を増やすことで、米国の保護主義的な動きや中国の不公正な貿易慣行を牽制(けんせい)する狙いだ。(大柳聡庸)

 現在、新規加盟に最も近いとされるのがタイ。近隣のベトナムに比べ農産品分野などで競争力が低下することに危機感を抱いているからだ。タイの加盟申請は総選挙後になるとみられる。2月末と想定されていた総選挙は延期の公算が大きいが、早ければ今年前半にも新規加盟に向けた交渉が始まる可能性がある。3月に欧州連合(EU)からの脱退を予定する英国も加盟に強い意欲を示す。

 TPPを離脱した米国の産品は関税が下がらず輸出競争力が低下するため、TPPに復帰を促す契機になる可能性がある。閣僚級会合で議長を務めた茂木敏充経済再生担当相は19日の記者会見で、「多くの国・地域の参加を期待している。米国も同様だ」と述べた。

 また、TPPは知的財産権の保護で模倣品などに対する厳格な規律をもうけるなど、高水準のルールを定めており、不公正な貿易慣行を続ける中国に対する抑止効果も期待できる。

 米中の貿易戦争は、中国による知財侵害に対し、米国が追加関税といった保護主義的な動きで対抗したのがきっかけだ。

 安倍晋三首相は会合で「不満が保護主義への誘惑を生み出し、国と国との間に激しい対立を生み出すが、私たちは時計の針を決して逆戻りさせてはならない」と述べ、米中の貿易戦争を念頭に、自由貿易体制の重要性を訴えた。

【私の論評】世界は、軍事・経済的覇権によって振り回され続けることに倦んでいる(゚д゚)!

TPP=環太平洋パートナーシップ協定の発効後、初めて参加11か国の閣僚らが集まり、本日加盟国の拡大に向け共同声明を発表しました。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐっては、冒頭の記事にあるインドネシアやタイだけではなく、台湾、コロンビアといった国や地域が新規加盟に関心を示しています。「TPPは世界とアジア太平洋地域の経済・貿易の発展に重要な意義を持つ」(台湾)などと、新規メンバーの早期受け入れを求める声も上がっています。

中でも注目されるのが、3月末に欧州連合(EU)からの離脱を控える英国です。離脱後は、米国などEU以外の国々との貿易関係の強化が急務となりますが、メイ英政権は各国との自由貿易協定(FTA)締結に加え、TPPへの加盟に意欲を見せています。

英国メイ首相

フォックス国際貿易相は先月30日のTPP発効に際し、「(英国が)TPPに参加すれば、カナダや日本のような古くからの友人との強い経済的な結びつきを固めることになるだろう」とする声明を出しました。今月10日の日英首脳会談で安倍晋三首相は、英国がTPPに加盟意欲を示していることを歓迎しています。

加盟希望国に共通しているのは、巨大な経済圏内に入ることによる輸出拡大など経済的な恩恵への期待感です。また、TPPの枠内で新たな国際ルールの整備が進めば、自国が取り残されるという警戒感もあります。

一方、TPP加入の積極論と慎重論がせめぎ合っている国もあります。

「TPP参加で板挟みにある韓国」

韓国の英字紙、コリア・タイムズ(電子版)は今月上旬、同国でTPP参加の可否が割れていると報じました。

TPPに入らないことで加盟国と比べて貿易面で不利な立場に置かれる恐れがある一方、加盟すれば関税の引き下げで自動車など日本製品との激しい競争に国産製品がさらされるとの懸念を指摘。そのため韓国政府は「取引に積極的に参加すべきかどうか迷っている」のが現状だといいます。

TPPの最大の意義は、米国の保護主義的な動きや中国の不公正な貿易慣行を牽制(けんせい)できる可能性が大きいことです。これに関しては、以前のこのブロクにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
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詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 トランプ大統領が「TPPは正しい考え方ではなく、我々は貿易でTPP以上の成果を得られる」とTPPを否定する理由は、関税自主権を行使して、中国などとの貿易不均衡を是正したいからです。昨年のアメリカの対中貿易赤字は3470億ドル(約40兆円)。これを関税などによって解消しようというのが、米国の対中貿易戦争です。 
「弱いアメリカ」がTPP参加国とともに中国経済に対抗する方針から、「強いアメリカ」として二国間交渉で中国に臨む方針に変わったということのようです。そうして、米国は実際に対中国貿易戦争を開始しました。これは、もうトランプ政権による貿易戦争の次元から、超党派の米国議会による経済冷戦の次元にまで高まっています。
昨年1月23日、トランプ米大統領は選挙公約通り、TPPからの正式離脱に関する大統領令に署名した

おそらく、中国の体制が変わるまで、かなり長い間、米国は対中国制裁をやめないどころか、あらゆる手段を講じて、中国を追い詰めるでしょう。 
中国は、アメリカを抜いて世界の覇権を握ることを目指していますが、まだ米国と全面対決できるほどの力はありません。 
米国が問題視している国際貿易機関(WTO)で規定されていない、知的財産権や技術移転要求については、日本は米国に協調できます。その手段として考えられるのがTPPの活用です。米国が中国に対して懸念していることのすべてはTPP協定でカバーしています。 
タイ、インドネシア、台湾、英国、コロンビアなどを加入させてTPPが拡大し、また米国がTPPに復帰するなら、TPPは巨大な自由貿易圏を形成することになります。そうなると、中国もTPPに参加せざるを得なくなります。その時、中国に知的財産権や投資についての高度な規定を課すことができます。努力すべきはTPP参加国の拡大です。 
ただし、中国はTPPに加入するということになれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化という構造改革を実施しなければなりません。これを実行しなければ、TPPには加入できません。 
この構造改革を実施することになれば、中国共産党は、統治の正当性を失うことになるでしょう。それは中共の崩壊を意味します。 
最悪、米国や中国がTPPに参加しない場合でも、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けることができます。これには、EUも賛成するでしょう。 
TPPのルールを世界のルールにするのです。単なる先進国だけの提案ではなく、アジア太平洋地域の途上国も合意したTPPの協定をWTOに持ち込むことには中国も反対できないでしょう。 
この段階まで来ると、中国は中共を解体してもTPP協定を含むWTOに入るか、中共を解体せず新WTOにも入らず、内にこもることになります。内にこもった場合は、中国が待つ将来は、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。その時には他国に対する影響力はほとんどなくなっているでしょう。
米国が中国に対して懸念していることの全てはTPP協定がカバーしています。これは、当然米国も理解しているでしょう。だから、TPPから脱退したトランプも、良い条件が得られるならという留保を付けたにせよ、TPPに復帰してもよいという発言をしたのでしょう。

タイ、インドネシア、韓国、台湾、イギリス、コロンビア等を加入させてTPPが拡大し、また、米国がTPPに復帰して来るなら、TPPは巨大な自由貿易圏を形成することになります。そうなると、中国もTPPに参加せざるを得なくなるか、参加せず(参加することは中国社会の構造改革をすることを意味する)に米国の制裁を受け続け経済的にかなり弱体化し他国に対する影響力を失うことになります。

農地の視察をする習近平(中央)

いずれにせよ、TPP「拡大」は、米国と中国を牽制するだけではなく、混沌とする世界に新たな秩序をもたらし、世界を救うことにつながることになります。

このTPPを日本という軍事的・経済的覇権によらない国が旗振り役を務めたということが大きいです。

最早世界は、軍事・経済的覇権によって振り回され続けることに倦んでいるのだと思います。ここに、日本が世界でリーダーシップを発揮できる好機が訪れたともいえます。

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2019年1月18日金曜日

習近平が大々的に発表した「包括的な台湾政策」―【私の論評】今年は日米が韓国から台湾に大きく軸足を移す年になる(゚д゚)!

習近平が大々的に発表した「包括的な台湾政策」

岡崎研究所 

 中国の習近平国家主席は1月2日、台湾政策に関する包括的な政策演説を行ない、台湾への「一国二制度」導入を含む5項目の方針を示した。演説の主要点は以下の通り。


 中国は統一されなければならないし、されることになるだろう。中国の統一は、70年の両岸関係の歴史の帰結であり、中華民族の偉大な復興にとり不可欠である。

 平和的な国家統一に向けた両岸の共同的な取り組みを求める。長年の懸案を世代から世代へと先送りにするわけにはいかない。

 「平和的統一」と「一国二制度」の原則は、再統一を実現するための最善のアプローチである。再統一が実現された後、中国の国家主権が確保されることを前提に、台湾の安全、発展、社会制度、生活様式は十分に尊重され、台湾同胞の私有財産、信仰、正当な権利、利益は十分に保護される。

 我々は同じ家族である。中国人は中国人と戦わない。しかし、軍事力の行使を放棄することは約束しない。必要なあらゆる選択肢を留保する。こうした措置の対象となるのは、外部勢力による干渉、ごく少数の台湾独立を掲げる分離主義者とその行動だけである。

 我々は、中台の経済協力を進める。社会的インフラを連結し、エネルギーの共同利用を行う。

 台湾の独立は歴史の趨勢に反しており行き詰まることになろう。両岸の平和的で安定的な発展、両岸関係の進展は時流に沿っており、誰にも、いかなる勢力にも止められない。

 台湾問題は中国の内政問題であり、いかなる外部の干渉も許さない。中国人の問題は中国人によって解決されるべきである。台湾問題は中国の核心的利益と中国人の国家的紐帯に関することである。

 中国の再統一はいかなる国の正当な利益をも害せず、他国にさらなる発展の機会を与えるものである。

 今回の演説は、1979年1月1日に全人代常任委員会が「台湾同胞に告げる書」を発表して40周年という節目の記念式典に行われたものである。「台湾同胞に告げる書」、1995年の江沢民による台湾政策演説、2008年の胡錦涛による台湾政策演説、に続く包括的演説である。習近平が提示した5つの原則は、(1)平和的統一、(2)一国二制度の導入、(3)一つの中国、(4)中台経済の融合、(5)同胞意識の促進、である。これら一つ一つは目新しいものではないが、包括的な台湾政策として大々的に発表したことに意味がある。各項目を細かく見ていくと、平和的統一と言っても、武力行使を辞さないと明言したり、一国二制度についても、統一後も台湾人の権利を十分に尊重するとしつつ、中国の国家主権が確保されることを前提条件とするなどしている。

 5つの原則のうち「一国二制度」は、香港での形骸化に鑑み、台湾人を警戒させる可能性はあるかもしれない。「中台経済の融合」、「統一意識の促進」は、経済的取り込み、人的交流、蔡英文政権の頭越しに行われる台湾の地方政府への接触などにより、ますます強化されることになろう。習近平の演説は、蔡英文政権を相手にしない姿勢を明確にし、同政権への圧力強化、国民党への後押しを狙っていると思われる。

 習近平演説は、台湾側、特に蔡英文政権としては、当然、強く反発するような内容である。蔡英文総統は、1月2日には、「我々は『1992コンセンサス』(注:中国側は「一つの中国」「一国二制度」と解釈)を決して認めない。台湾人の大多数は一国二制度に反対している」、「我々は両岸問題につき交渉する用意はあるが、台湾は民主主義であるから、台湾人の授権と監視を受けたものでなければならず、両岸の政府同士の交渉でなければならない」、「中国は台湾が人口2300万の民主国家であるという現実を直視し、台湾の自由と民主主義を否定すべきでない、両岸の相違を台湾人を服従させようというのではなく平等に扱い平和的に対処すべきである」などとする談話を発表している。

「一国二制度」は受け入れら内と表明する蔡英文総統

 蔡英文総統は、さらに1月5日に外国の記者とのレセプションで、台湾は民主主義を実施し国際的価値を共有してきたとして、台湾が中国の圧力に直面している状況に対して国際社会が何も言わず支援しなければ、「次はどの国が同じような目に遭うだろうか」と、台湾への支援を要請した。この呼びかけは、蔡英文の最近の決まり文句であるが、真理をついている。

 習近平が今回のような包括的演説をした以上、中国の台湾政策は圧力を一層増すことになろう。台湾人、そして国際社会の対応が試されている。米国の台湾支持の姿勢が続くか、さらには強化されるか、注目される。

【私の論評】今年は日米が韓国から台湾に大きく軸足を移す年になる(゚д゚)!

日本は安倍総理がリードして、対中国封じ込め政策を実行してきました。一方米国は対中国冷戦Ⅱを挑んでいます。それによって、中国経済がかなり悪影響を受けていることはこのブログにも掲載しました。

米国は昨年3月に台湾を中国の好きにさせない強い意思を示しています。それは、「台湾旅行法」の発効です。これについては、このブログにも掲載しことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【トランプ政権】米で「台湾旅行法」成立、政府高官らの相互訪問に道 中国の反発必至―【私の論評】アジアの脅威は北朝鮮だけではなく台湾を巡る米中の対立もあり(゚д゚)!
トランプ大統領

  米ホワイトハウスによるとトランプ大統領は16日(ブログ管理人注:昨年3月16日)、米国と台湾の閣僚や政府高官の相互訪問の活発化を目的とした超党派の「台湾旅行法案」に署名し、同法は成立した。 
 同法は、閣僚級の安全保障関連の高官や将官、行政機関職員など全ての地位の米政府当局者が台湾に渡航し、台湾側の同等の役職の者と会談することや、台湾高官が米国に入国し、国防総省や国務省を含む当局者と会談することを認めることを定めている。 
 また、台湾の実質的な在米大使館である台北経済文化代表処などの台湾の組織や団体に米国内での経済活動を奨励する条項も盛り込まれている。 
 米国は1979年の米台断交と台湾関係法の成立後、米台高官の相互訪問を自主的に制限してきた。台湾旅行法の成立で、トランプ大統領の訪台や蔡英文総統のワシントン訪問が理屈の上では可能になる。
 法案は1月9日に下院を通過し、2月28日に上院で全会一致で可決された。今月16日がトランプ氏が法案に署名するかどうかを決める期限となっていた。
 米国務省は、台湾旅行法が米台関係の変化を意味するものではないと説明しているが、台湾を不可分の領土とみなす中国が米台の接近に危機感を抱き、「一つの中国」原則に反するとの理由で猛反発してくるのは確実だ。
さて、この記事だけだとあまりピンと来ない方もいらしゃると思いますので、「台湾旅行法」について若干説明を加えます。

米中国交樹立以降も台湾の国防の後ろ盾であり続ける米国ですが、しかしその一方で、台湾を中国領土の一部だとする「一つの中国」原則を掲げる中国への配慮により、米台政府高官の相互訪問を自主規制してきました。

たとえば台湾の総統、副総統、行政院長(首相)、外交部長(外相)、国防部長(国防相)のワシントン訪問を許さず、米国の経済、文化部門以外の高官の台湾訪問も差し控えて来たのですが、トランプ大統領は3月16日、台湾旅行法案に署名し、これまでの台湾泣かせの規制を撤廃したのです。

同法は「あらゆるレベルの米政府当局者が台湾を訪問し、相応の台湾政府当局者と会談すること」や「台湾の高官が米国に入国し、尊重を受けながら国務省や国防総省及びその他の政府当局者と会談すること」を認めるとし、さらには「駐米台北代表処(大使館に相当)などが米国で公式に活動すること」も奨励するとも規定しています。

この法律の施行により、中国との国交樹立以降、自粛されてきた米台高官の相互訪問を解禁し、ドナルド・トランプ大統領の台湾訪問、蔡氏のワシントン訪問も可能にしたとの宣言に等しいです。

この法律の成立について台湾紙自由時報は当時、「中国の台湾への脅威が日増しに拡大するのに伴い、台米関係も深まり行く趨勢だ。トランプ大統領の署名は台米関係正常化への重要な一歩である」「台湾海峡両岸の軍事バランスは崩れつつある。台湾が第一列島線のアキレス腱なれば、周辺情勢も不穏になる。台米の協力関係の強化は待ったなしだ」」と論評していました。

実は2000年にも下院は、台湾安全強化法案なるものを可決したことがありました。1995年、1996年の台湾海峡におけるミサイル演習で、中国が従来になく台湾侵略の野心を剥き出しにしたのを受けてのものでしたが、しかし当時のクリントン政権は中国の反撥と更なる緊張の高まりを恐れ、上院に圧力を掛けて法案を審議保留へと追いやりました。ところが今回の法案は、下院では圧倒的多数(発声投票)で、上院では全会一致で可決され、大統領の署名も得られたのです。

もちろんこれを受け中国は、一中原則違反だなどと大騒ぎしました。同法案がまず下院で可決された翌1月十日、人民日報系の環球時報は「台湾旅行法は台湾破壊法だ」と題する社説を掲げ、次のような恫喝宣伝を行いました。
「中国はすでに強大なパワーとなっており、台湾海峡での対峙では、さまざまな手段と優勢を擁している。もし米国がホワイトハウスで台湾総統のためにレッドカーペットを敷くというなら、それはストレートに台湾を害するだけである。中国は必ず公館相互訪問を行う台米に代価を支払わせることとなろう」
「台湾旅行法の規定が台湾に適用されれば、必ず大陸は台湾問題解決のための決断を下すことになり、台湾海峡情勢は新たな段階に入ることになろう」
そして同法成立の翌3月17日には、外交部報道官が次のようなコメントを発し、米国に警告を発しました。
「一中原則と中米間の三つのコミュニケに違反し、台湾独立勢力に早まったシグナルを送るものだ。我々はこれに断固反対する。米国に対しては、米台当局間の交流と実質的関係のレベルアップを停止し、慎重、妥当に台湾関連の問題を処理し、中米関係と台湾海峡の平和と安定に厳重な損害を与えないよう求める」
同日、国防部報道官も「台湾は中国の一部で台湾問題は中国の内政に属する」として米側の「一中原則」違反だと批判。「米台当局間の交流停止や米台軍事連絡の停止、台湾への武器売却の停止を行い、中米両国両軍の関係発展の雰囲気に重大な損害を与えないよう求める」とコメントしました。

当初、中国の猛反発がありますが、それも「貿易戦争」でのトランプ氏の攻勢により押さえ込まれた格好です。
中国は「一中原則違反」だと中国は噛み付ついていますが、そもそもこれは事実捏造の印象操作です。

そもそも米国はこれまで一中原則への配慮は見せても、それを承認(台湾を中国の一部と承認)したことは一度もありません。「三つのコミュニケ(「上海コミュニケ (ニクソン米大統領の訪中に関する米中共同声明)」でも、そのような表明はありません。

米国はいよいよ、中国がアジア太平洋地域に及ぼす脅威の増大を前に、いつまでも一中なるフィクションに附き合いながら、台湾との関係強化を遠慮し続けることができなくなってきたのです。つまり、中国の軍事大国化は、もはや放置できないレベルにまで達してしまっているというわけです。

日本もまた一中原則を受け入れたことはないですが、それでも中国との国交樹立後は、あの国への配慮で台湾の総統、副総統、行政院長、外交部長、国防部長の訪日は遠慮してもらっているし、政府高官の公務での台湾訪問も自粛し続けています(一昨年副大臣が初めて訪台しましたが)。

一中原則に反対する台湾の人々

台湾と共に第一列島線上の国である日本のこうした弱腰姿勢もまた、今後は列島線のアキレス腱となりかねないです。

ここは勇気を出して米国に倣い、無用かつ不条理な自主規制は撤廃するなどで、台湾との関係強化を図るべきです。

日本も、米国と同じような「台湾旅行法」などを制定して、 台湾との交流を深め、いずれ日米英仏などの艦艇が頻繁に台湾の港に寄港する、航空機が台湾の空港に寄港するなどのことをすべきです。

また、日米ともに、韓国に対する支援などはそこそこにして、台湾に対する支援を強化すべきです。

台湾をいずれ、強力なシーパワー国に成長させるべきです。トランプ大統領は韓国にはほとんど興味がないようですし、日本としてはもう昨年で韓国を相手にしても時間と労力の無駄であることがはっきりました。日本としては、韓国の異常ぶりを国際社会に晒し続けるにしても、もう韓国には一切深入りすべきではありません。今年は、日米両国とも韓国から台湾に軸足を移す年になるでしょう。そのほうが日米としては、対中封じ込めに余程効果を期待できます。

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2019年1月17日木曜日

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レーダー照射問題 韓国軍、日本の武官を呼び抗議


レーダー照射問題 韓国軍、日本の武官を呼び抗議

韓国国防部は17日、日韓のレーダー照射問題に対して日本が一方的な主張だけを続けていると判断しこの日、国防武官を呼んで抗議した。

これは昨年12月21日、日韓のレーダー照射問題が起きて以来、韓国側で約1か月ぶりに行う駐韓日本国防武官に対する初めての措置だ。

双方はテレビでの実務者会議(12月27日)と将官級が参加する対面実務会議(シンガポール、1月14日)など2度にわたり協議を行ったが、立場の違いを確認しただけで、これといった解決策は用意できなかった。

国防部によると、イ・ウォンイク国際政策官はこの日午前、日本海上自衛隊の武官をソウル・国防部庁舎に呼び、1時間ほど最近の事態への懸念と共に抗議の意を伝えた。

国防部は「昨日、日本防衛省が韓国の武官を呼び、(14日の実務会議関連)報道官会見に対して抗議したことと関連し、きょう駐韓日本武官を呼んで関連内容に対する事実関係を明白にし、厳重に抗議した」と伝えた。

また「報道官会見の際に言及した実務会議内容の言及は、正確な事実であることを強調した」とし、「日本メディアが両国間の会議終了前には報道しないとする事前合意を破り、関連内容を報道したことに対して防衛省へ厳重に抗議し、再発防止を促した」と付け加えた。

【私の論評】今年は、米国が韓国から本格的に北朝鮮に軸足を移していく年となる(゚д゚)!

レーダー照射に関して、韓国軍が日本の韓国駐在武官を呼びつけ、抗議をしたというのですから、本当にあきれてしまいます。韓国は、この問題で日本に謝罪するつもりもないですし、よほどのことがない限りこれからもそうすることはないでしょう。

さて、このようなことがあっても、日米韓の同盟を大事にしろとか、韓国は中国・北朝鮮の緩衝地帯であるから、日韓関係を良くしなければならないなどとする人もいるようですが、これが根本的に間違いであることを本日は掲載したいと思います。

韓国というかその当時の朝鮮半島を「緩衝地帯」と明確に位置づけたのは、他ならぬロシアの南下を見据えた明治日本でした。ロシアはすでに1860年の時点で清から沿海州(外満州)を割譲させており、その最終目的地が朝鮮半島であることは当時の国際常識でした。



そのため、「日本の朝鮮侵略は1875年の江華島事件から始まっていた」等いう説は史実に反します。当時は大陸進出どころか、いかにロシアの南下に備えるか、という受身の戦略で精一杯でした。

その国家安全保障政策こそ、「清の属国から朝鮮を切り離し、近代的な独立国家に仕立て上げることで、日露間に緩衝地帯を設ける」というものだったのです。

その戦略を忠実に実行したのが1894年の日清戦争です。その後の下関条約で、日本はわざわざ朝鮮に独立を与え、お節介にも内政干渉してまで近代化を支援したのです。

ところが、この戦略は失敗に終わりました。というのも、「独立させれば朝鮮人とてロシアから自国を守ろうとするはずだ」という予測が外れたからです。

いや、「常識」が通用しなかったと言うべきか。国王を中心とする朝鮮支配層は、日本主導の近代化改革で制限された己の特権を取り戻すべく、ロシアの軍事力をバックにクーデターで日本派内閣を打倒してしまったのです。その直後から凄まじい勢いで国の権益をロシアに切り売りし、自ら属国へと傾斜していきました。

もともと当時の朝鮮は、日本が三国干渉に屈したのを見て、「清に代わる次の宗主国はロシアだ」と確信しようです。彼らには最初から独立の気概も願望もなかったのです。

こうして、朝鮮を緩衝地帯に仕立てるという日本の対ロ戦略は頓挫しました。それどころか、朝鮮は進んでロシアの手先になり、その軍事力を引き込み始めたのです。

結局、日本は己一人でロシアを迎え撃つ羽目になってしまったのです。

そうして次は、第二次大戦後の事例です。

朝鮮戦争は北朝鮮による南侵で始まりました。だから一般に「共産主義陣営と自由主義陣営の戦い」とされています。今でも「怒涛のごとく攻め込んできた中朝軍に対して、米軍を中心とした国連軍が必死で持ちこたえた」というイメージが強いです。ゆえに「韓国が緩衝地帯の役割を果たした」と漠然と信じられ、またこの事例が同説の最大の根拠となっています。

ところが、これですら「韓国緩衝地帯神話」に当てはまらないのです。なぜなら、日本に侵略したのは「南」のほうだからです。李承晩は独裁者に就任した直後から「北侵」による統一を何度も訴え、一方で「対馬奪還」を宣言し、軍を南部に集めました。

こうして、狂気の独裁者は、北朝鮮を散々挑発し、日本を侵略しようとして、自ら南侵を誘発したのです。むしろ、期せずして結果的に北が日本を助ける格好になっています。

朝鮮戦争時、日本は機雷対策や兵站などで国連軍を支援しました。日本という後方基地があったからこそ国連軍は機能したのです。また、大量の避難民も受け入れました。

それに対して礼を言うどころか、1952年、李承晩は一方的に「李承晩ライン」を敷き、竹島を強奪したのです。そして越境を理由に日本人を殺傷し、海上保安庁巡視船16隻を攻撃し、日本漁船を拿捕して約四千名を拉致抑留し、外交交渉の人質としました。



つまり、朝鮮戦争中(休戦は53年)に韓国は、日本を侵略したのです。しかも、完全に恩を仇で返す格好ですから、二重に悪質といえます。今でも韓国人は、「日本は朝鮮戦争で儲けた」とか「朝鮮戦争を引き起こした」などと、逆に因縁をつけてくる始末です。

日本が温かく受け入れた避難民をルーツとする在日コリアンですらそうです。「自分たちは強制連行されてきた」などと嘘八百を吹聴し、恩を仇で返し続けています。

以上、李氏朝鮮・戦後韓国の2つの事例を見てきました。

これらの歴史的事実からすると、韓国が大陸に対する「防波堤」や「緩衝地帯」であるとする見方は、とんでもないジョークであることが分かります。

むしろ、自ら侵略の拠点となるか、でなければ進んで大陸の手先をやってきたというのが事実です。バッファーどころか、韓国こそが常に対日侵略の震源地だったのです。

戦後においては、北朝鮮と韓国に別れましたが、韓国のほうが昔の朝鮮の気質をうけついでいるようです。北朝鮮も韓国も元々は一つでしたが、北朝鮮は中国とソ連と国境を接していて、これらと国境を接しておらず、しかも終戦直後は最強の米国軍が駐留したいない韓国とは、安全保障に対する考え方が全く異なります。

現状では、北朝鮮のほうが独立心は強く、韓国のほうは、従来の朝鮮のまま、独立の気概も願望もないようです。

この事実をみれば、ここ何日か私がこのブログで、以下のように掲載してきたことをご理解いただけるものと思います。
中国からの朝鮮半島の中国からの独立を守っているのは北朝鮮の核であり、韓国ではない。 
韓国は歴史的に中国や日本、米国の支配下に置かれてきた経緯からみても自国の防衛や独立に関心がない。中国に抵抗しようという気もない。 
韓国は中国の覇権に対抗するための国際連携の一員に加わることはできない。 
韓国が自らの独立に関心があるのであれば、在日米軍基地がある日本に安全保障を全面的に依存しているのに、日本といさかいを起こしたりしないはずだ。 
韓国が反日であるということは、韓国が本質的な外交政策に関心がないことを意味する。 
文在寅政権はこれまで米国に保護されていたのを中国に保護してもらうよう、打算的に移行しているにすぎない。
そうであるとしても、確かに北朝鮮の核は日米にとって脅威であることには変わりないですし、北朝鮮国内の人権侵害に関しては許容できません。

ただし、安全保障のみを考えると、上記のようなことは正しいです。

米国としては、当面の中国との対決を最優先するでしょうから、北朝鮮の中国からの独立の気概や願望を最大限に利用することになると思います。まさに、米国にとって、朝鮮半島が南北に分断され、北朝鮮が核を保有している現状が中国をにらみ望みうる最善の状態です。

韓国に関しては、もうすでに特にトランプ大統領は関心がなくなっているようです。

そうして当の韓国ですが、習近平主席が今年韓国を訪問するようです。

ノ・ヨンミン韓国大統領秘書室長は11日、習主席が来る4月の北朝鮮訪問に続き、5月に訪韓する可能性を認めたそうです。

ノ室長はこの日、国会で「共に民主党」のイ・へチャン代表を表敬訪問した直後、記者らに「確定した日程ではない」としながらも、「韓中間の疎通をしているが、まだ具体的安日程が出たわけではない。(しかし)いつからいつまでは出ている」と伝えました。

ノ室長は「上半期に訪問するのか」という記者の質問に「そうなる可能性が高い」と答えました。

先立って、イ・へチャン代表はノ室長との会談で「中国の習近平国家主席が4月に北朝鮮を訪問することが予定されているようで、5月には韓国に来る可能性が高そうだ」とし「中朝首脳会談が開かれ、米朝会談、南北首脳会談が開かれれば、朝鮮半島をめぐる北東アジアの平和ムードがかなり良くなると考える」と述べました。

文在寅と習近平

これによって、ますます文在寅政権は、中国に傾倒していくでしょう。ただし、文在寅の誤解は、北朝鮮が文氏が思っているよりはるかに、中国からの独立を希求しており、どちらかというと反中もしくは嫌中であるということです。金正恩は、文在寅を都合の良いように利用しているだけなのです。

以上から、ここしばらく、ますます中国に接近する韓国、中国からの独立する北朝鮮の独立の気概や願望を利用しようとする米国という図式で、朝鮮半島情勢が推移していくと見るべきです。

今年は、米国が韓国から本格的に北朝鮮に軸足を移していく年となるでしょぅ。無論、これは北朝鮮が米国の対中国冷戦に対して協力するか、あるいは許容するかを条件とすると思います。無論、中国の脅威がなくなった場合の北の核の廃棄も条件とすると思います。ただし、北への制裁はさらに継続し、北が人権問題に取り組む姿勢をみせ、米国に協調する姿勢を見せれば、少しずつ緩和する可能性はあると思います。

金正恩は、北朝鮮の中国からの独立、金王朝の存続を希求しています。北の核兵器の真の目的は、日米を脅すことではなく、中国からの完全独立です。米国は、中国の体制を変えるか、経済的に潰すことを希求しています。両者とも中国が敵であることは確かなので、両者が協調することは十分に考えられます。

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2019年1月16日水曜日

中国経済が大失速! 専門家「いままで取り繕ってきた嘘が全部バレつつある」 ほくそ笑むトランプ大統領―【私の論評】すでに冷戦に敗北濃厚!中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に(゚д゚)!

中国経済が大失速! 専門家「いままで取り繕ってきた嘘が全部バレつつある」 ほくそ笑むトランプ大統領

トランプ氏(左)の攻勢を受ける習主席

  中国経済が明らかにおかしい。昨年の新車販売台数が実に28年ぶりに前年割れとなり、昨年12月の輸出も輸入も予想外の減少を記録した。米トランプ政権との貿易戦争による打撃と同時に、景気減速も鮮明になってきた。米中協議で3月1日の期限までに合意がなければ、米国は2000億ドル(約21兆6000億円)分の中国製品に対する関税の税率を10%から25%に引き上げる構えだ。習近平政権は追い込まれた。

 中国自動車工業協会が14日発表した昨年の新車販売台数は、前年比2・8%減の2808万600台だった。中国メディアによると、前年割れは28年ぶり。

 販売台数は米国を上回り、10年連続で世界一となったが、乗用車が4・1%減と落ち込んだ。

 日系自動車大手4社の販売台数は、トヨタ自動車と日産自動車が過去最高を更新した一方、ホンダとマツダはマイナスだった。日系メーカー幹部は「販売台数を維持しようと、大幅な値引きに頼るメーカーも出始めている。市場の状況は見た目の台数以上に厳しい」との見方を示す。

 不振は自動車にとどまらない。中国税関総署が14日に発表した貿易統計によると、昨年12月の輸出は前年同月比4・4%減、輸入は7・6%減となり、米中貿易戦争による中国経済への影響が本格化していることを示した。

米国との貿易については、輸出が3・5%減の402億ドル(約4兆3500億円)で、9カ月ぶりにマイナスに転じた。米国の追加関税発動を見越した駆け込み取引が一段落し、今後はさらに落ち込む可能性がある。

 米国からの輸入にいたっては、35・8%の大幅減となる104億ドルだった。12月初めの米中首脳会談では中国が米国産の農産物やエネルギー資源の輸入を拡大することで合意し、すでに中国側が米国産大豆の購入を再開しているが、減少に歯止めがかかっていない。

 税関総署の報道官は記者会見で、2019年の見通しについて「環境は複雑かつ厳しい。一部の国の保護主義によって世界経済は減速する可能性がある」と述べ、米国を暗に批判しつつ困難な状況が続くとの考えを示した。

 習政権は急速な景気悪化を懸念し、減税措置など景気刺激策を積極化。今月4日には中国人民銀行(中央銀行)が預金準備率を引き下げる金融緩和措置を発表するなど対応に追われた。ただ、ブルームバーグは「最近の刺激策にも関わらず、(中国)経済が近いうちに底を見つけるという見方はほとんどない」と伝えた。

 こうした状況にほくそ笑んでいるのがトランプ大統領だ。14日、ホワイトハウスで記者団に対し、「われわれは中国とうまくやっている。妥結できると思う」と語った。貿易戦争の悪影響が日増しに大きくなるなかで、習政権側が何らかの妥協案を示してくると見越しているようだ。

 中国は18年の国内総生産(GDP)の成長率目標を「6・5%前後」としているが、ロイターは、19年の目標を「6~6・5%」へと引き下げることを決め、3月にも公表する見通しだと報じた。

 景気の減速に危機感を強める習政権は、近く自動車や家電の購入促進策を打ち出す方針だ。ただ、米アップルのiPhone(アイフォーン)よりも中国メーカーのスマートフォンを購入するよう奨励する動きがあるように、中国メーカーを優先した策となる可能性がある。中国に進出している外資系企業がどこまで恩恵を受けられるかは不透明だ。

 中国経済の失速について「米中貿易戦争が直接の契機になったのは事実だ」と話すのは中国情勢に詳しい評論家の宮崎正弘氏。

 自動車の販売台数に関しては「中国では自動車の場合、無理して売っていたが、各社の生産台数も落ち込んでいる。自動運転と電気自動車も伸びているように見えたが『本当にうまくいくのか』と懐疑の念が起こってきたのだろう。いままで取り繕ってきた嘘が全部バレつつあるという状況ではないか」と分析する。

中国リスクは高まる一方だ。

【私の論評】すでに冷戦に敗北濃厚!中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に(゚д゚)!

懸念される「家計部門」の債務

経済が債務膨張に依存するいわゆる高レバレッジは、2008年のグローバル金融危機発生以来、大きな金融リスクとして広く認識されています。中国でも近年この問題が深刻化しており、高レバレッジ経済からの脱却は主要政策課題の1つに位置付けられています。これまで主として国有企業や地方政府の債務が問題とされてきましたが、ここへ来て、家計部門にも懸念が出始めました。

中国最大のシンクタンクである社会科学院系列の国家金融発展実験室によると、金融を除く実体経済部門(政府、企業、家計)債務の対GDP比(レバレッジ比率)は2008〜16年、年平均12.3%ポイントずつ急上昇し16年239.7%に達した後、17年242.1%、18年上期242.7%となお上昇傾向は続いていますが、落ち着く兆しを見せています。ただ17年〜18年上期、企業のレバレッジ比率が157%から156.4%、政府が36.2%から35.3%へと低下する中で、家計は49%から51%へ上昇しています。同比率は1993年8.3%、08年17.9%で、長期的にも加速的に上昇しています。

実験室の李揚理事長(元社会科学院副院長)は18年4月、海南で開かれたボアオフォーラムで、「17年末、家計の貯蓄性預金伸び率が初めてマイナスに転じた。この傾向が続くと、家計は債務超過になるおそれがある。08年、米国で債務危機が発生した時も、家計の債務が発端だった」「企業・政府部門の赤字を家計部門の黒字で賄うのが一般的な構造だが、グローバル危機発生時の米国がそうであったように、3部門が何れも赤字になると、経済成長は通貨膨張、金融バブルに依存せざるを得なくなり、最終的に金融危機が発生する。中国もそうした状況に陥らないよう高度の注意を払うべき」と警鐘を鳴らしてます。

「債務リスクを誇張すべきでない」との声もあるが

実験室理事長の上記発言はあるが、他方で、実験室の担当部局は以下のような点を指摘し、債務リスクを誇張すべきでないとしています。

①元本返済と利払いを合計した年あたり債務負担額は、仮に金利4〜5%、償還期間15〜20年とすると4兆元強(家計債務42.3兆元×約10%)。これは対可処分所得比(債務負担率)8%で国際平均12%を大きく下回る。

②理財商品(高利回り資産運用商品)など元本保証のないリスク資産を除いても、リスクに対応できるだけの十分な現預金がある。18年6月末銀行預金残高は債務総額を大きく上回る68.7兆元で、現金も含めると債務の約1.8倍。日本よりは低いが、米英等先進諸国に比べはるかに高い。

③家計の貯蓄率は10年ピークで42.1%を記録した後、やや低下傾向にあるが、15年なお37.1%で米国の17年6.9%など、諸外国に比しはるかに高い。

これに対し、リスクの高まりに警戒すべきとの見方は、次のような点に着目して(2018年2月8日付財新網)。

①レバレッジ比率は全国平均50%だが、広東、浙江、上海は60%以上、北京、福建、甘粛が50〜60%と総じて都市部ほど高い。債務負担率も都市部は11.5%と国際平均並み。このように、債務の大半が都市部住民に集中している。

②中国では可処分所得の対GDP比が低い。仮にレバレッジ比率の分母を可処分所得にすると、17年末すでに93.5%と米国の16年末99.4%並み。

③家計負債の対資産比率は13〜15年5〜9%となお低いが、負債が「剛性」、つまり必ず一定額を償還しなければならないのに対し、資産価値は変動するという非対称性がある。また資産の大半は住居で流動性が低く、賃料収入も債務の金利を賄うほどの水準にない。

潜在リスクを「増加傾向」と見るべき理由

以上、どのような指標に着目するかで見方は分かれているが、近年の家計の資産負債構造の変化を踏まえると、方向としては潜在リスクが増加していると見るべきだろう。まず、資産面では銀行預金伸び率が大きく鈍化している(図表1)。
[図表1]家計部門人民元預金残高推移 出処:中国人民銀行

18年4月には、家計の預金残高が単月で過去最大となる前月比1.32兆元の減少となり、大きな関心を呼びました。実は例年4月、家計の預金残高が減少する傾向がある(14〜17年の4月は各々前月比1.23兆元、1.05兆元、9296億元、1.22兆元の減少)。この背景には、多くの理財商品の満期が季末に設定され、満期が訪れると、理財商品に運用されていた資金がいったん当座預金に入った後、再び理財商品購入のため預金から流出していくという季節要因があります。

しかし中長期的に預金が伸び悩み傾向にあることも事実です。成長率鈍化が基本的背景にありますが、08〜11年、12〜14年の各期間、成長率の変動幅は小さいにもかかわらず(各々9〜10%、7%台)、預金増加率はこの間も大きく鈍化し(各々26%→13%、17%→9%)、15年以降ようやく下げ止まっています(概ね7〜9%台の伸び)。

預金が趨勢的に伸び悩んでいる大きな要因は、預金金利が低水準で推移する中で、元本保証はないがより高い利回りを提供する各種理財商品や「余額宝(ユーアバオ)」に代表されるMMF(マネー・マーケット・ファンド)に資金が流れたことです。

銀行が提供する理財商品も急増しており(うち元本保証のない商品が17年末22.17兆元と全体の75%以上)、うち個人向けは倍増です(図表2)。

[図表2]銀行理財商品の膨張

理財商品を提供する銀行は沿海部を中心とした都市部に集中している(図表3)。また、MMF残高は17年末7兆元強(5月18日付中国基金報)。

[図表3]理財商品提供銀行分布

もう一つの要因は、住宅市場が過熱するたびに各地で導入された住宅購入抑制策で、住宅購入の際に必要となる頭金の比率が上昇し、預金を積む余裕がなくなったことも影響している。15年以降預金伸び鈍化に歯止めがかかっているが、これにはいわゆる個人向け仕組預金の増加が寄与している(人民銀行統計で18年11月末残高前年同期比は大型銀行57%、中小銀行53%の大幅増)。

金融監督が強化される中で、銀行がオフバランスシートの理財商品を圧縮するための代替商品として、あるいはMMFに対抗するため、積極的に商品開発・販売したためと思われるが、伝統的な預金に比べると一定のリスクがあり、将来的に家計の債務返済能力に影響を及ぼす可能性がある。

家計債務に占める住宅関連債務は6〜7割

次に、負債面では住宅関連債務の増加が著しい。金融機関の家計向け住宅融資残高は18年上期末23.84兆元、前年同期比18.6%増(人民銀行統計)。その他、国や企業等の住宅公積(積立)金制度から受ける融資残高が17年末4.5兆元(前年同期比11.1%増)あり(全国住房公積金2017年年度報告)、これを含めると、家計債務に占める住宅関連債務は6〜7割。16年以降、銀行の新規融資の過半が家計向けで、融資残高に占める家計向けの割合は15年末28.9%から18年11月末35.2%へと上昇している(図表4)。

[図表4]人民元融資残高推移(注)総融資は国内向け融資の数値。(出所)中国人民銀行統計

このうち中長期融資が7割以上を占めており、その大半が住宅ローンです。消費者ローンや少額ローンの一部も住宅購入に充てられている可能性があり、そうすると、住宅関連債務はさらに高いことになります。2018年10月に発表された上海財経大学高等研究院調査は、17年以降、中長期債務増加率が鈍化する一方、短期債務の増加率が加速する傾向が出ていますが、個人消費はそれほど伸びておらず、短期融資が住宅購入の頭金や住宅ローンの代替として使われている可能性を指摘しています(2018年10月30日付第一財経)。

さらに11月、中国人民大学が発表した「中国宏観経済報告(2018-2019)」は、「去庫存」、すなわち過剰住宅在庫を解消する政策が採られる過程で、農民工の住宅購入が奨励された結果、住宅債務の罠(套牢)に陥る中所得層が増加、これが消費に悪影響を及ぼすことを懸念しています(11月26日付新浪財経)。

このように、家計の資産負債がいずれも住宅市場の動向や政府の住宅政策に大きく左右される構造になっています。

中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に

上海財経大学高等研究院が今月7日に公表した研究調査によると、2017年までの中国家計債務の対可処分所得比率は107.2%に達しました。米国の現在の水準を上回ったうえ、08年世界金融危機が起きた前の米家計債務水準に近い状況だといいます。

また、中国人民大学の研究チームが6月にまとめた調査報告では、中国家計債務の6割以上が住宅ローンだと指摘されました。一部の市民が、頭金の調達は自己資金からではなく、頭金ローンや消費者金融などを利用しているため、金融リスクを拡大させているといいます。

米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の経済学者、兪偉雄氏は、中国経済の減速による失業率の上昇と所得減少で、今後住宅ローンの返済が困難な人が急増する恐れがあると指摘しました。「これによって、金融リスクは住宅市場から金融市場全体まで広がる可能性が高い」と、兪氏は米中国語メディア「新唐人テレビ」に対して述べました。

一方、中国の蘇寧金融研究院は、家計債務の増加ペースが非常に速いとの見解を示しました。過去10年間において、部門別債務比率をみると、家計等の債務比率は20%から50%以上に膨張しました。一方、米国では、同20%から50%に拡大するまで40年かかりました。

兪氏は、家計債務の急拡大は、近年中国当局が経済成長を維持するために次々と打ち上げた景気刺激策と大きく関係するとしました。「当局は、いわゆるマクロ経済調整を実施して、経済の変動・衰退を先送りしてきた」

上海財経大学高等研究院は同研究報告を通じて、公にされていない民間の貸し借りを加えると、中国の家計債務規模はすでに「危険水準に達した」と警告しました。

家計債務の急増は個人消費に影響を及ぼしています。中国の個人消費の動向を示す社会消費品小売総額の伸び率は7年間連続で落ちています。2011年の社会消費品小売総額は前年比で20%増でしたがが、昨年1~6月までは、前年同期比で1桁の9.4%増に低迷しました。

個人消費の不振は企業収益の減少、銀行の不良債権の増加につながります。

兪偉雄氏は、今後中国経済がハードランディングする可能性が高いと推測しました。

「中国経済に多くの難題が山積みしている。中国当局が今まで、不合理な政策をたくさん実施してきたことが最大の原因だ」

米国から経済冷戦を挑まれている中国、もう八方塞がりの状況です。今のままでは、可処分所得が減るのは当たり前で、そもそも個人消費がかなり低迷することになるのは必定です。もう、中国は冷戦に負けたも同じです。

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