2024年4月21日日曜日

海上幕僚長「付近に他国の船舶などなく、関与ないと考えるのが適当」 海自ヘリ2機墜落か 7人行方不明、1人発見―【私の論評】事故で浮かびあがった、対潜水艦戦訓練の重要な意義とその危険性

海上幕僚長「付近に他国の船舶などなく、関与ないと考えるのが適当」 海自ヘリ2機墜落か 7人行方不明、1人発見

まとめ
  • 伊豆諸島の鳥島東方海域で海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が対潜水艦戦の訓練中に連絡が取れなくなり、機体の一部が発見された。
  • 計8人が搭乗しており、1人が救助されたが残り7人の捜索が続いている。
  • 海上自衛隊は護衛艦や航空機を投入して捜索を行っており、人命救助に全力を尽くすとしている。
  • 他国の関与はないと見られている。
  • 自衛隊のヘリ墜落事故は過去にも発生しており、2017年や2023年4月にも起きている。
H60K哨戒ヘリコプター

 伊豆諸島の鳥島東方海域で対潜水艦戦の訓練中、海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が行方不明になり、機体の一部が発見された。乗員8人のうち1人が救助されたが、残り7人の捜索が続いている。防衛相は人命救助に全力を尽くすと述べ、他国の関与は否定した。自衛隊のヘリ墜落事故は過去にも起きており、原因究明と再発防止が課題となっている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】事故で浮かびあがった、対潜水艦戦訓練の重要な意義とその危険性

まとめ
  • 海上自衛隊のヘリコプター2機が対潜水艦戦の訓練中に行方不明になり、乗員7人の安否が確認できていない。
  • 対潜水艦戦の訓練は低空飛行、近接運航、実弾使用などの高リスクが伴う。
  • 事故原因は不明だが、詳細は軍事機密のため公表されない可能性が高い。
  • 現代海戦においては、水上艦艇は脆弱化しており、潜水艦と対潜能力の重要性が高まっている。
  • 訓練の危険性と重要な意義を認識し、国民一人ひとりが防衛を支える姿勢が大切。
この度の伊豆諸島周辺における海上自衛隊哨戒ヘリコプター行方不明事故は誠に痛ましい出来事です。現在も7人の隊員の安否が確認できていない状況が続いています。一日も早く全員が無事発見され、家族の元に帰れることを心より願っております。

二度とこのよう事態が起こることのないよう、原因の徹底した究明と再発防止に向けた取り組みが行われることを期待しています。

今回の対潜水艦戦(Anti Submarine Warefare:ASW)の訓練は、具体的に何をしていたのかわかりませんが、この訓練は一般的に非常に高度な技術と集中力が求められ、危険性も高いです。

低空飛行リスク 
ヘリは潜水艦を探索するため、時に波高5mを超える荒天下でも10m前後の低空飛行を強いられます。 地形の影響で気流が乱れたり、視界が制限される可能性があります。 夜間や悪天候時の飛行ではリスクが高まります。
近接運航の危険性 
ヘリは潜水艦の直上まで接近し、対潜水艦兵器を投下する必要があります。 投下の際、ヘリ自体が艦船に接触する危険があります。 潜水艦の急浮上時にヘリが巻き込まれるリスクもあります。
兵器のリスク
音響対潜水艦機雷や深水爆雷などの実弾が使用されます。 誤投射や誘爆の可能性があり、ヘリ自体が被弾する危険もあります。
今回の事故内容の会見に同席した海自トップの酒井良海上幕僚長は「付近に他国の船舶などはなく、関与はないと考えるのが適当だ」と話しています。この発言から、事故についてその理由はや原因は今の段階でもある程度特定されいると思われます。

しかし、海上幕僚長はそれ以上の語っていません。これは、現時点で話せないだけではなく、今後も詳細は公表されない可能性があります。

海自トップの酒井良海上幕僚長

そもそも、日本に限らず世界中の海軍では、潜水艦に関する詳細な情報や、対潜水艦戦の訓練における具体的な事故事例については、一般に公開されていないケースが多いです。

軍事面での機密保護の観点から、以下のような情報は極秘に扱われる可能性が高いです。
  • 潜水艦の詳細な性能や装備
  • 潜水艦の行動パターンや運用方法
  • 対潜水艦戦で使用される最新の兵器や探知システムの詳細
  • 事故の原因となった具体的な手順や人的ミスなどの情報
  • 自国の能力の空白部分が露呈する恐れのある情報
このように、敵対国に有利な情報が渡ることを防ぐため、対潜水艦戦の訓練における事故の詳細については一般に公開が控えられがちです。

たとえば、新鋭潜水艦のハッチなどは、報道陣の写真撮影等許可されない場合が多いです。潜水艦のハッチにより、その潜水艦の潜水できる深度等が予測可能になってしまう危険性があるからです。

一方で、訓練における安全対策の重要性を国民に呼びかけるという観点から、一般論として危険性が公表されることはあります。

つまり、事故の危険性自体は認識されつつも、具体的な事例は機密扱いとされる傾向にあると言えるでしょう。

レーダーや監視衛星、哨戒艦や哨戒機の水上艦艇発見能力が高まった現在では、精密なミサイル誘導システムやドローン等の無人兵器の発達により、大型の水上艦船は簡単に標的となり、撃沈されてしまう可能性が高くなっています。

海自の対潜哨戒機P3Cと、女性機長

そうした状況下で、潜水艦の重要性が一層高まりました。潜水艦は水中に潜伏することで探知が難しく、機動性と隠密性に優れているためです。現代技術の粋を結集した監視衛星ですら、未だに水中の潜水艦を特定するに至っていません。潜水艦は、敵の艦隊に対する偵察や威嚇、さらには重要な標的への突破などの役割が期待できます。

そのため、実戦が始まれば先手を打つのは潜水艦となり、水上艦艇は潜水艦からの脅威にさらされ、行動が制限されることになります。対潜水艦戦(ASW)の能力が十分でなければ、水上艦隊は機能不全に陥ってしまう可能性が高いです。

つまり、現代の本格的な海戦においては、潜水艦の能力と対潜水艦戦能力の確保こそが最重要課題となります。潜水艦を効果的に運用し、敵潜水艦を事前に排除できるかどうかが戦況を左右する鍵を握ると言えるます。したがって、ASWこそが本当の現代海戦の主役といえるのです。

ASWにはソナー等の探知能力の高さ、潜水艦の能力の高さなどハード面の能力の高さが重要ですが、このハード面を使いこなす人間の能力の高さも重要です。

それは、たとえば、現代の高度な脳外科手術において、様々な最新鋭の機器等を備えたにしても、それ使いこなす脳外科医の能力が高くないと手術はうまくいかないのと同じです。

現代の高度な脳外科手術でも脳外科医の腕は欠かせない

日米ともに、ASWは世界トップクラスであり、中露をはるかに凌駕しています。最近は、ハード面では中国の猛追がはじまっていますが、それでも日米と中国の間にはかなりの開きがありますし、当面追いつけそうにありません。それは、日米にはハード面だけではなく、長い間のソフト面での大量の蓄積があるからです。

こうしたソフト面の蓄積には、日々の厳しい訓練が必要です。その訓練のさなかに今回の事故が発生してしまったのです。

今回の事故は、対潜水艦戦訓練がいかに危険を伴うものであるかを物語っています。しかし、同時にその訓練の重要性を改めて認識する機会ともなりました。

 現代の海戦においては、潜水艦の活躍と対潜能力の重要性が高まる一方です。隊員の方々は、国民の命と平和を守るため、過酷な訓練に臨んでこられました。

この事態を機に、国民一人ひとりが防衛の現場を思い、訓練の意義を再確認し、支える心構えを持つことが何より大切なのではないでしょうか。

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2024年4月20日土曜日

「血を流す場合もある」国民に説得を 岸田首相「グローバル・パートナー」の責任 集団的自衛権のフルスペック行使、憲法改正が必要―【私の論評】憲法改正をすべき決断の時が迫ってきた!日本国民は覚悟をもってこれに臨め

八木秀次「突破する日本」

まとめ
  • 岸田首相は米国訪問後、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と位置づけ、安倍元首相の憲法改正の志を引き継ぐ決意を示した。
  • 「グローバル・パートナー」と称したからには、集団的自衛権の制約を外し、同盟国と連携して権威主義国家に立ち向かうため、憲法改正が求められる。
  • 安倍元首相は「血の同盟」と表現し、日米同盟の本質は互いに血を流す覚悟が求められると説明していた。
  • 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。
  • しかし、「グローバル・パートナー」として日本に犠牲や負担が求められる可能性があり、政府は国民にその覚悟を真剣に訴える必要がある。
 岸田首相は米国訪問後、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と位置づけ、安倍元首相の憲法改正の志を引き継ぐ決意を示した。

 「グローバル・パートナー」と称したからには、集団的自衛権の制約を外し、同盟国と連携して権威主義国家に立ち向かうため、憲法改正が求められる。

 安倍元首相は「血の同盟」と表現し、日米同盟の本質は互いに血を流す覚悟が求められると説明していた。

中国を訪問した安倍首相

 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。

 しかし、「グローバル・パートナー」として日本に犠牲や負担が求められる可能性があり、政府は国民にその覚悟を真剣に訴える必要がある。

 岸田首相は米国訪問から帰国後、国会で米国とのグローバル・パートナーシップを強調した。これは安倍元首相が目指した「血の同盟」、つまり米国と共に自由や民主主義、法の支配を守るために必要ならば犠牲をいとわない決意を示したものと解釈された。

 「グローバル・パートナー」と位置づけた以上、日本には集団的自衛権の行使制限を外し、同盟国・同志国と連携して中国・ロシア・北朝鮮などの権威主義国家に対処できるようにすることが求められる。そのためには、憲法改正を含む国内法整備が不可欠となる。

 安倍元首相は過去に「血の同盟」という言葉で、日米同盟の本質を説明していた。米国が攻撃を受ければ米兵が血を流すが、当時の憲法解釈下では自衛隊はそうできず、完全なパートナーと言えないと指摘した。その後、安倍政権で集団的自衛権の行使が一部可能となり、現在では米軍が攻撃された場合、自衛隊員も戦闘に加わり血を流す可能性がある。

 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、国家安全保障戦略の改定、防衛費増額、反撃能力保有など安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。日本の抑止力を高め、国際的地位を格段に上げたと評価できる。

 しかし同時に、「グローバル・パートナー」としての日本には、場合によっては自衛隊員や国民に犠牲や負担が強いられる可能性もある。自由社会を守る役割の増大に伴い、そうした覚悟を政府から国民に真剣に訴える必要がある。権威主義国家の脅威に対し、日本は相応の役割を果たさなければならない。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。
 
【私の論評】憲法改正をすべき決断の時が迫ってきた!日本国民は覚悟をもってこれに臨め

まとめ
  • 岸田首相の「グローバル・パートナー」発言には、日米間の軍事、価値観、地政学、経済など多面的な協力関係が含意されている。
  • 軍事面では日米同盟の強化が期待されるが、安倍元首相の「血の同盟」発言のように、現行憲法下では対等とは言えない。
  • バイデン政権は自由・民主主義の価値観を共有する日本を重要パートナーと位置付け、中国の対抗上、日本の地政学的役割を期待している。
  • 経済面でも、重要技術分野などで日米協力が経済安全保障の観点から求められている。
  • こうした協力関係を実現するには、日本の憲法改正が不可欠であり、トランプ前大統領がこれを支持する可能性もあるが、結局のところは民意であり、政府も国民にも決断の時が迫っている。

米国にとって、岸田首相が米連邦議会の演説で「グローバル・パートナー」と呼んだ日米関係には、軍事、価値観、地政学、経済など、多面的な側面が含まれていると考えるでしょう。

軍事面では、安倍元首相が「血の同盟」と表現したように、同盟国同士として緊密に連携することが期待するでしょう。ただし安倍氏の発言は、当時の日本の憲法解釈では米国と同等の関係とはいえないと批判的に指摘したものです。それでも、岸田首相の「グローバル・パートナー」発言は、日米同盟の軍事的協力関係を再確認したと受け止められたでしょう。

また、バイデン政権は「民主主義対権威主義」の構図を重視しており、自由・民主主義の価値観を共有する日本を重要なパートナーと位置づけています。「グローバル・パートナー」という表現には、こうした価値観の共有関係が込められているとみられます。

さらに、中国の台頭に対抗するため、日米はインド太平洋地域におけるルール作りなどで協力する地政学的な戦略的パートナーとしての機能が期待されています。アジア重視を掲げるバイデン政権にとって、日本はこの地域での軸足となる存在です。

加えて経済面でも、日米は貿易、投資、金融をはじめ幅広い分野で協力関係にあります。特に重要技術分野での連携が経済安全保障の観点から求められており、「グローバル・パートナー」にはそうした経済面での協力も含意されていると考えらます。

このように「グローバル・パートナー」という言葉には、多岐にわたる分野での緊密な協力関係が内包されています。米国は日本が同盟国であり、価値観を共有するパートナーであり、地政学的・経済的に重要な役割を果たすことを期待しているといえます。

これらを実現するためには、特に日本が米国との地政学的パートナーであるためには、日本国憲法の改正が必須です。

米国の保守派からみても、日米関係が最も重要であることは明らかです。米保守派は、第二次世界大戦後、左派勢力によって押しつけられた日本国憲法の平和主義的性質が、日本が世界舞台で対等なパートナーとなる能力を妨げてきたとみているでしょう。

日本は自国の憲法をよく見直し、より積極的で貢献的な同盟国となるために必要な改正を行う時期が来ていると認識しているでしょう。

自民党の麻生副総裁は、来週、アメリカを訪問する方向で調整しています。関係者によりますと、トランプ前大統領との面会を模索しているということで、秋に大統領選挙を控える中、幅広く人脈を構築するねらいがあるものと見られます。

自民党麻生副総裁

これが実現したとして、麻生・トランプ会談では、当然日米の「グローバルパートナー」としての関係を強めることも話題になると考えられると思います。

米国の保守派は、トランプ氏は、日本の憲法改正を支持すると思います。それが、日本の憲法改正を支持する可能性もあると考えているでしょう。

日本の左派は、他の西側諸国の左派と同様に、現状維持を好む傾向があり、特に軍事面での新たな動きに対しては警戒感を持つ傾向があり、進化する安全保障上の課題を認識することに消極的であることが多いです。 彼らは、自国を守り、地域の安定に貢献できる強い日本が日本国民の最大の利益であることを理解していません。 

しかし、トランプ大統領の潜在的な支持と適切なメッセージがあれば、麻生副大統領と自民党は日本国民に説得力のある主張をすることができるかもしれません。 強固な日米同盟の重要性を強調し、民主主義と自由という共通の価値観を強調し、安全で繁栄したインド太平洋地域のビジョンを提示すれば、憲法改正を支持する世論を揺るがす可能性があります。 

私は麻生副大統領とトランプ大統領の会談は確かに日本の憲法改正への足掛かりとなる可能性があると思います。 トランプ大統領の支持と正しい戦略的アプローチがあれば、自民党は日本国民に説得力のある主張をし、反対を克服し、日本を世界でより自信を持って積極的な役割を果たす方向に導くことができるかもしれません。

2021年の憲法改正毎日新聞世論調査では「賛成」48%、「反対」31%です。 憲法改正は全く不可能という状況ではないと考えられます。現在では、「賛成」の比率がもっと高くなっているかもしれません。

もし、そうであり、さらにトランプ氏が大統領に返り咲き、日本の憲法を改正を支持する旨をはっきりさせれば、憲法改正の後押しになるのは間違い有りません。

トランプ氏

ただ、現状では岸田政権の支持率が低く、仮に岸田政権が崩壊して総理大臣が変わったにしても、自民党政権が続く可能性が高いですが、ポスト岸田は、岸田氏と同等か、それ以上のリベラル派である可能性が高いです。そうなると、憲法改正は遠のく可能性があります。

これを防ぐためにも、日本でも与野党に限らず、保守派の台頭が望まれるところです。ただ、最終的には国民の民意が憲法改正の実現を左右する最大の要因になると考えられます。

憲法は国民主権の理念に基づく最高規範であり、改正には国民投票による過半数の賛成が必要不可欠です。保守派の台頭や政権与党、米国政府の後押しは一定の影響力を持ちますが、それだけでは改正を実現するには不十分です。

中国、ロシア、北朝鮮など、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、それに伴い日本の防衛力強化の必要性が高まっています。現行憲法の縛りのため、自衛隊の活動には一定の制約があることも事実です。

そうした中で、憲法改正に向けた動きが過度に遅れれば、日本の安全が脅かされかねません。時間をかけすぎて機を逸してしまっては本末転倒です。国民的議論を尽くしつつも、スピード感を持って対応すべきです。

仮に結局国民議論が十分に尽くされず、国内が分断したとしても、他国に占領されたり、そこまでいかなくても、他国に蹂躙されるよりはましです。憲法改正によって国民が、分断しても、その後議論を尽くすことはできます。しかし、日本が独立を失ったり、他国に蹂躙されて、従属するようになれば、それはできません。

政府も、国民も、場合によっては自衛隊員や国民に犠牲や負担が強いられるかもしれないことを覚悟したうえで、憲法改正をすべき決断の時が迫ってきたといえます。

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2024年4月19日金曜日

財政審「コスト重視」の噴飯 高橋洋一氏が能登復興遅れ激白 補正予算編成せず 過疎地の財政支出「ムダと認識」で邪推も―【私の論評】災害対策の予算措置は補正予算が最適!予備費では遅れる

高橋洋一「日本の解き方」


  • 能登半島地震の復興が、従来の復興に比較して遅れている。
  • 野口健氏が「東京と現地の温度差」を指摘し、被災者に「見捨てられた」感があると訴えている
  • 復旧・復興に補正予算ではなく予備費を使っているのが問題である。
  • 過去の地震では発生から1カ月程度で補正予算が組まれているのに対し、今回は予備費対応となっている。
  • 財務省が「コスト」の観点から十分な検討が必要としており、復興への消極的姿勢は問題である。

野口健氏

 2023年1月に石川県能登半島で発生した地震からの復興が大きく遅れているとの指摘が相次いでいる。被災地で復興支援活動に従事するアルピニストの野口健氏は、東京と現地の状況にかい離があり、被災者から「見捨てられた」との危機感の声が上がっていると訴えている。

 一方、過去の大規模災害では、発生からおよそ1カ月程度で補正予算が組まれ、迅速な財政支援が行われてきた実績がある。阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震などの例が挙げられる。しかし今回の能登半島地震については、補正予算を編成せずに、予備費からの支出での対応にとどまっている。

 予備費は、予算編成時に想定していない緊急の事態に機動的に対応するための予算だが、支出規模に制限があり、手続きも煩雑であるため、大規模な復興財源としては不向きである。

 さらに、財務省の財政制度等審議会の分科会では、人口減少地域での復興事業について、将来の需要減少や維持管理コストを考慮すべきだとの意見が出された。これに対し、石川県の馳浩知事は「上から目線」と不快感を示し、政府に対し1カ月以内の大規模補正予算編成を求めていた。

 このように、被災地では復興の遅れが危惧される中、政府の支援策が補正予算の編成を見送り、予備費対応にとどまっていることに、批判が集中している状況にある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】災害対策の予算措置は補正予算が最適!予備費では遅れる

まとめ
  • 通常の予算編成プロセスや補正予算編成は、制度化された手続きのため、予備費利用に比べて時間的ロスが少ない。
  • 通常予算は各省庁の予算要求を受け、関係者間の調整を経て政府案がまとめられ、国会審議を経て成立する。補正予算も同様のプロセスを経る。
  • 一方、予備費利用には所管省庁から財務省への要求、財務省の審査・調整、閣議決定などの手続きが必要で、時間がかかる。
  • 大規模な復旧・復興事業に予備費を活用すると、継続的で十分な財源確保が困難になるおそれがある。
  • そのため、大規模災害からの復興では、早期の補正予算編成による十分な財源確保が重要である。
通常の予算編成プロセスや補正予算編成では、予備費利用に比べて時間的なロスは少ないです。通常予算は、各省庁からの予算要求を受けて、関係者間での調整を経て政府予算案がまとめられます。

与党との事前折衝も行われた上で、国会に提出され審議を経て成立します。補正予算でも同様に、必要な財源を追加的に計上する際に、政府内での調整や国会審議を経る必要がありますが、いずれも制度化された手続きであるため、一定の期間を要するものの比較的スムーズに進行します。

一方、予備費の利用には、所管省庁から財務省への要求、財務省での審査・調整、閣議決定といった手続きが必要となります。予備費は緊急時の機動的な予算活用が想定されているものの、実際には審査に時間を要する側面があります。大規模な復旧・復興事業に予備費を活用する場合、継続的かつ十分な財源を速やかに確保することが困難となるおそれがあります。

茶谷財務次官

通常予算や補正予算の編成プロセスは制度化されているため、審議に所定の期間はかかるもののその後の実行に関しては時間的ロスは少なくなります。一方、予備費利用では手続きの煩雑さから、復旧・復興対応に遅れが生じかねません。このため、大規模災害からの復興では、早期の補正予算編成による十分な財源確保が重要とされているのです。

能登半島地震への対応も、本来は予備費でなく、補正予算を組むべきだつたのです。

能登半島地震への対応のため、補正予算を組むべきことは、以前このブログでも主張したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
能登半島地震から2カ月 "最大震度5弱程度以上"は10分の1に 引き続き地震活動に注意 気象庁―【私の論評】補正予算なしで大丈夫なのか?過去の教訓を忘れて今頃「政倫審」を開催する与野党の無責任
行方不明者を捜索する航空自衛隊の災害救助犬とハンドラー

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、本来補正予算を組む審議をすべきだった時期に国会では何をしていたかといえば、例の政治倫理審査会です。これを開催したとしても、政治資金規正法のプロ中のプロともいえる検察ですら、ほんの一部を除いて立憲を見送ったのですから、これでめぼしい成果をあげられることは最初から望み薄でした。

にもかかわらず、野党は予算成立を人質にとり、予算成立を人質にとり、最初から疑惑が晴れず、本来単なるみそぎやガス抜き、倫理を問われた議員の弁明の場に過ぎない政倫審を開催を要求し、岸田政権にマイナスイメージをつけることに奔走していました。

予算成立を人質にとるくらいですから、補正予算の審議などできるはずがありません。

国民のことを真っ先に考えるなら、政治倫理審査会など後回しにしても、自民は自ら補正予算の審議をすべきでした。野党不在でも立案し速やかに可決すべきでした。

国会の会期中であれば、本予算審議よりも先に能登半島地震対策の補正予算を組むことは可能でした。

通常、新年度予算案は1月に国会に提出され、3月中旬頃までに成立する運びとなります。一方、補正予算案については、必要が生じた時点で随時編成し、国会に提出することができます。

1月1日に能登半島地震が発生した後、政府が機動的に補正予算案を編成し、本予算審議に先立って国会に提出すれば、迅速な復旧・復興対策予算の確保が可能だったはずです。

過去の例を見ても、大規模災害発生後、概ね1カ月程度で補正予算が編成・国会で成立しています。今国会でも本予算よりも先に補正予算を優先することは制度上可能でした。

しかし、実際には本予算編成に補正予算編成を優先せず、当初は予備費による対応に終始したことが、復興の遅れにつながているわけです。本来であれば、災害対策の緊急性から、迅速な補正予算編成が求められたところでした。

野党も同じです。政府が補正予算を組まないことを批判して、組ませるように促すべきでした。これをもっとも大きな争点とすべきでした。

そもそも、地震などの甚大な被害があったときには、与野党一致で、地震対策にあたるべきです。政治倫理審査会など後回しにするか、そこまでしなくても、並行審議をして、予算・補正予算を迅速に成立させ、その後本格的に政治倫理審査を行うなどのことをすべきでした。

私は、政治倫理審査会を開催すべきではなかったと主張しているわけではありません。ただ、災害復旧・復興という緊急事態においては、その重要性を判断し、優先順位を付けるべきであったと主張しているのであり、そうしなかった、与野党を無責任と批判したのです。

国会

この観点は、ほとんどの人が指摘していませんが、重要な観点だと思います。一昨日には愛媛県と高知県で震度6弱を観測する地震があったばかりです。3月2日には、千葉県南部で最大震度4の地震が発生しています。千葉県ではこの地震が発生する前の2月以降18回の地震観測されまていました。首都圏における大地震の潜在的なリスクが指摘されています。

今後地震に限らず、洪水などの自然災害も発生する可能性は大です。であれば、やはり大規模な補正予算を組むべきでょう。その財源は、無論国債とすべきです。これを東日本大震災の復興税のように、増税で賄うとすれば、現世代にだけ負担が発生し、不公平極まりないものになってしまうからです。

考えてみてもください。日本はもともと自然災害の多い国です。これが発生するたびに増税したとしたら、とんてもないことになります。長期国債で賄えば、現世代と将来世代との間で負担を公平に分担することができます。これは、国債の課税平準化機能と知られているマクロ経済上の理論です。

増税だけでこれを賄えば、現世代は疲弊し続け、その結果日本は毀損され、将来世代に毀損した日本を引き継がせることになります。

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2024年4月18日木曜日

竹中平蔵氏「ルール違反」 髙橋洋一氏「全然最初から間違っている」 子ども・子育て支援法についてピシャリ指摘―【私の論評】財務省の企み「異次元の少子化対策」の隠れ増税、放置すれば将来は特別会計のような複雑怪奇な税制になりかねない

竹中平蔵氏「ルール違反」 髙橋洋一氏「全然最初から間違っている」 子ども・子育て支援法についてピシャリ指摘

まとめ
  • 4月17日、慶應義塾大学の竹中平蔵氏と数量政策学者の髙橋洋一氏がラジオ番組に出演し、子ども・子育て支援法の改正案について議論した。
  • 竹中氏は、この改正案が保険制度の目的外使用であり、隠れ増税につながると指摘した。また、野党がこの点を国会で追及しないことを疑問視した。
  • 髙橋氏は、この支援金が本来の保険制度とは異なるものであり、法案自体に問題があると述べた。
  • 番組司会者の質問に対し、髙橋氏は自動車保険の「偶発的なリスク」と子育て支援は全く異なると反論した。
  • 今後の国会審議に注目が集まっている状況だと締めくくられた。
https://www.youtube.com/watch?v=ws8llLwliX0

 4月17日、慶應義塾大学の名誉教授で経済学者の竹中平蔵氏と、数量政策学者の髙橋洋一氏がラジオ番組に出演し、子ども・子育て支援法の改正案について激しい議論を交わしました。

 この日の番組では、少子化対策を強化した子ども・子育て支援法の改正案について、前日の衆議院特別委員会での質疑が取り上げられました。

 竹中氏は、この改正案が保険制度の目的外使用であり、隠れ増税になる可能性があると指摘しました。そして、なぜ野党がこの点を国会で追及しないのかを疑問視しました。野党だけでなく、与党の内部でもこの問題を認識している人がいるはずだと述べました。

 一方の髙橋氏は、この支援金は本来の保険制度の枠組みから外れたものであり、保険の目的とは異なると批判しました。仮に国民の負担が増えないのであれば、すぐにでも制度を改めるべきだと主張しました。

 番組司会者が、自動車保険の例を挙げて質問を重ねると、髙橋氏は、自動車保険の「偶発的なリスク」と子育て支援は全く異なるものだと明確に反論しました。

 この議論を受けて、今後の国会審議に注目が集まっている状況だと締めくくられました。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】財務省の企み「異次元の少子化対策」の隠れ増税、放置すれば将来は特別会計のような複雑怪奇な税制になりかねない

まとめ
  • 「異次元の少子化対策」の財源について、当初の見積りより大幅に増加し、国民負担が大きくなることへの批判
  • 理想の子ども数と実際の出生数のギャップを解消するため、政府が手厚い少子化対策を講じようとしているが、その方針には問題があるとの指摘
  • 保険特別会計から子育て支援の財源を捻出しようとすることについて、本来の保険制度の目的と矛盾するため、事実上の隠れ増税になる可能性があるとの指摘
  • 消費税の社会保障財源化と保険特別会計の流用は、財務省主導の既存制度の枠組みを利用した新たな財源確保の手段であり、国債発行を避ける意図が反映されているとの分析
  • このような財務省主導の隠れ増税策を許容すると、複雑怪奇な税制・社会保障制度が構築され、透明性と理解が失われる可能性があるため、早期の十分な議論と国民合意が必要

加藤こども政策担当相

岸田首相が掲げる「異次元の少子化対策」の財源となる「子ども・子育て支援金」について、当初は国民1人あたり月300円~500円程度の負担と言われていたのですが、最近になって「1000円超もありうる」と加藤こども政策担当相が認めたことで、批判が殺到しています。

日本総研の2月14日の国民調査では、平均して理想の子ども数は2.25人と高い一方で、実際の出生数は減少傾向にあり、2023年は前年比4万人以上減の72.6万人、合計特殊出生率は1.20程度になる見通しです。

政府は、子育てや教育の費用がかかりすぎるというこのギャップを解消するために、手厚い少子化対策を講じることにしました。過去にも上川前少子化担当相が、手厚い家族政策と国民負担はセットだと発言しており、岸田政権の考え方と同様のものでした。

しかし近年の報告では、この政府の方針では少子化問題を解決できないという指摘がなされています。このブログにも従来手厚い少子化対策で成功してきたフランス、イスラエル、北欧などでも、少子化傾向にあり少子化には具体的な手立てはないと指摘してきました。

そうして、最近公表された米国・ワシントン大学のInstitute for Health Metrics and Evaluation(IHME)が主導する研究活動【Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study 2021】の最新の分析がなされています。

その分析の骨子は以下のようなものです。
  • 1950年以来すべての国で減少している世界の出生率は、今世紀末まで急落し続け、その結果、深刻な人口動態の変化が起こる。出生率は、1950年の4.84から2021年には2.23となり、2100年には1.59まで下がり続ける。 
  • 育児補助金、育児休暇の延長、税制優遇措置など、一部の国が実施している出産促進政策の効果も調べた。その結果、出産促進政策が実施された場合、女性1人当たりの出生数の増加は0.2人以下であり、強力で持続的な回復を示唆するものではなかった。 
  • 子育て支援政策は、他の理由からも社会にとって有益かもしれないが、現在の人口動態の変化の軌道を変えるものではない。
結局、上川氏、岸田首相、加藤担当相らの考え方は、間違いであり。従来の少子化対策といわれるものにはほとんど効果はないのです。

さらに、竹中氏と、高橋氏が指摘しているように、この改正案そのものに問題があります。

竹中氏と高橋氏が指摘している保険制度とこの改正案の関係について、説明します。

子ども・子育て支援法の改正案では、この支援制度の財源を社会保険の特別会計から拠出することが盛り込まれています。

竹中氏の指摘は以下のような意味合いです:
  • 本来、社会保険制度は特定の偶発的なリスク(病気、事故など)に備えるためのものです。
  • ところが、この改正案では保険制度の目的とは異なる子育て支援に保険財源を充てようとしている。
  • これは保険制度の目的外使用であり、本来の保険料の使途とは異なるため、事実上の隠れ増税になる可能性がある、という趣旨です。
一方の高橋氏は、さらに踏み込んで以下のように指摘しています:
  • 子育て支援は保険制度の対象とは本質的に異なるものである。
  • したがって、保険特別会計から支援金を支出するのは適切ではなく、法案自体に問題がある、というのが高橋氏の主張です。
つまり、両氏は、この改正案が保険制度の枠組みを逸脱しているため、制度上の問題があると指摘しているのです。

子育て支援のための財源を社会保険の特別会計から捻出することについて、保険制度本来の目的と異なるため、事実上の隠れ増税になる可能性があるという指摘があります。保険料を本来の目的以外に流用するのは適切ではないという指摘です。

さらに、国民の負担が大幅に増加する可能性についても、批判が強まっています。当初の300-500円程度の負担が、1000円を超える可能性があることが明らかになり、国民の反発を招いています。 経済的負担の増大は、少子化対策の目的に反する結果を招きかねません。

また、こうした大幅な国民負担の増加に対して、国会での十分な議論と国民合意が得られていないことも問題視されています。 少子化対策は重要な政策課題ですが、制度設計や財源措置については慎重な検討と理解が必要不可欠です。

日本の社会保障給付総額は約134.3兆円に上る一方、その財源は保険料が77.5兆円、公費が53.2兆円などとなっています。社会保障の中心をなす年金、医療、介護は本来「保険」制度であるにもかかわらず、日本では社会保険料の割合が半分程度にとどまり、税による公費負担の割合が相対的に大きいです。(数値は、一昨年度の「社会保障給付費」:厚生労働省「国民経済計算」
「社会保障財源」:内閣府「経済財政白書」)。

この背景には、日本が先進国の中で唯一、消費税を社会保障目的税として位置づけていることがあります。一方で日本には歳入庁がなく、社会保険料の徴収が効率的に行われていないのが実情です。

本来は税と社会保険料の一体的な徴収体制を整備することが先決です。しかし、財務省の反対もあり、歳入庁の創設は容易ではありません。日本の社会保障制度には、根本的な制度設計の問題があるのです。

保険の特別会計から子育て支援の財源を捻出しようとすることと、消費税を社会保障の財源として位置づけることには、共通した性質があります。

まず、これらの制度変更は、本来の目的とは異なる用途に財源を充てようとするものです。保険の特別会計は本来、保険制度の運営のためのものですが、それ以外の子育て支援に使おうとしています。同様に、消費税は一般財源として使われるべきものが、社会保障費の財源として組み入れられようとしています。つまり、両者とも本来の制度目的から逸脱しているのです。

財務省は、財政健全化を最優先課題としていますが、その際に国債発行を極力抑えようとしています。財務省にとっては、国債発行は財政の柔軟性を損なう一方で、金利上昇リスクも伴うため、財務省にとって好ましくない選択肢だからです。

茶谷財務次官

以前も述べたように国債発行は財務省が主張するような好ましくない選択肢というわけではありません。以前もこのブログで主張したように、安倍・菅両政権では合計で100兆円のコロナ対策補正予算を組んで、コロナ対策を実施しました。それによって、日本ではコロナ禍でも、失業率はあがりませんでした。

財源はすべて国債でしたが、これによる弊害はありませんでした。もし弊害があれば「それみたことか」と財務省やその走狗たちが今頃その弊害を喧伝しているはずです。

財務省は、国債発行を避けつつ、財政健全化を果たすために、既存の制度の枠組みを活用することで、新たな財源を確保しようとしているのだと指摘できます。保険特別会計の流用や消費税の社会保障財源化は、国債発行に頼らずに財源を捻出する手段なのです。

国民の新たな負担増加を招く一方で、制度の信頼性を損なう可能性もあるこの動きは、財務省の国債発行忌避の姿勢が強く反映されているものと理解できます。

これらの制度変更は、財政健全化を何よりも優先する財務省の企みであり、本来の制度趣旨を無視した実質上の増税策なのです。

国民の負担増加を伴う一方で、制度の信頼性を損なうリスクもあることから、こうした財務省主導の動きは大問題です。

これらの動きを野放しにしておくと、財務省がさらに創造的な隠れ増税策を編み出していく可能性があります。既存の制度の枠組みを利用しながら、国民の負担を増やしていくような手法が増えていくかもしれません。

そうなると、全体としての税制や社会保障制度が非常に複雑化し、不透明になっていきます。国民にとっても、自分がどのような負担をしているのか把握するのが難しくなっていきます。

現状の特別会計のように、本来の制度目的とは関係ない資金が積み増しされ、財政全体が非常に複雑化していく危険性があります。結果として、財政の透明性が失われ、国民の理解や信頼を損なう可能性が高まるでしょう。

特別会計に金を溜め込む財務官僚

このような財務省主導の隠れ増税策を許容してしまうと、徐々に税制や社会保障制度が不可解なものへと変容していってしまう可能性があります。速やかに国会での十分な審議と国民的合意を得る必要があります。

今回の「異次元の少子化対策」のは、こうした財務省の企みに光をあてたという点で、大きな意味があったと思われます。ただし、この事実と背景を理解すべきです。

今後、このような隠れ増税策への警鐘が広く共有されることで、少子化対策をはじめとする重要な政策課題について、より健全な議論と制度設計が行われることを期待したいです。

少子化対策の強化に向け、財源として「支援金制度」の創設を盛り込んだ子ども・子育て支援法などの改正案は、衆議院の特別委員会で、自民・公明両党の賛成多数で可決されました。改正案は19日、本会議で可決され、参議院に送られる見通しです。

残念ながら、この法案は成立する可能性が高いです。これに味をしめて財務官僚がさらに実質上の増税を企てるかもしれません。この動きを阻止すべく私達は、この動きを注視していくべきです。

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2024年4月17日水曜日

日銀の「円高症候群」過度に恐れる米国の顔色 アベノミクス切り捨て財務省と協調、利上げと負担増が日本を壊す―【私の論評】現時点の円高誘導は、円高シンドロームの再燃、日本経済への破滅的な悪影響もたらす

ニュース裏表

まとめ
  • 「円高シンドローム」とは、長期にわたる過剰な円高ドル安状況を指す言葉である。
  • その発端は1985年のプラザ合意で、米国レーガン政権が日本などに対してドル安誘導を強要したこと。
  • しかし、経済学的には貿易赤字と為替レートは無関係であり、プラザ合意は誤りだった。
  • にもかかわらず、その後も政治的圧力により円高が続き、日本の政策当局(日銀と財務省)も対米従属を優先して円高を誘導した。
  • その結果、バブル崩壊やデフレ長期化など、日本経済に深刻な影響が生じた。現在も財務省と日銀は円安抑制に動いているが、国内景気への悪影響が懸念される。 

ブラザ合意後円高水準が続いている

 「円高シンドローム」とは、長期にわたって円が過剰な高水準で推移し続けた経済状況を指す用語だ。その発端は1985年のプラザ合意にありました。当時の米国レーガン政権は、累積する貿易赤字を解消するため、日本など諸国に対してドル安誘導の協調介入を政治的に強要したのだ。

 しかし、経済学的に見れば貿易赤字と為替レートは無関係であり、プラザ合意は誤った政策判断に基づくものでした。それにもかかわらず、その後も共和党、民主党を通じて、政治的な圧力により円高が続きました。

 日本の政策当局、すなわち日銀と財務省も、国内経済よりも対米従属を優先し、為替介入や金融緩和により円高を誘導し続けた。その結果、バブル経済の発生と崩壊、長期デフレ不況といった深刻な経済的影響を招くこととなった。

 現在、植田日銀体制では再び円安抑制に動き出しており、金融引き締めを通じた円安防止策をとりつつある。しかしこれは国内景気を冷やしかねず、また物価高対策にも影響を及ぼすおそれがある。

 政策当局には、国内経済の実情を冷静に見極め、適切な通貨・金融政策を採用することが求められている。「円高シンドローム」の反省に立ち、健全な経済成長を実現するための施策が重要となっているのである。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧ください。

【私の論評】現時点の円高誘導は、円高シンドロームの再燃、日本経済への破滅的な悪影響もたらす

まとめ
  • 貿易赤字や黒字は国内需給の均衡状態を反映しているが、為替レートは資金の国際移動で決まるため、両者は基本的に独立している。
  • プラザ合意のような為替レート操作は、本来の経済原理に反するものであり、マッキノン教授らも強く批判している。
  • 1980年代以降の日本の円高傾向は「円高シンドローム」と呼ばれ、日本政府の対応の失敗により長期的な経済歪みを招いた。
  • しかし、安倍政権下の金融緩和政策により、円高が是正されデフレからの脱却が進んだ。
  • 現在では各国政府も日本の政策姿勢を理解しており、強い批判は見られなくなっている。日本は、金融緩和を継続し、国内産業を支援し、消費税減税などをするのが正しい政策てあって、円高誘導は間違いである。
経済学の標準的な理論によれば、国際収支の赤字や黒字は、総需要と総供給の均衡状態を反映しているものです。つまり、自国の国内需要が自国の供給能力を上回れば貿易赤字となり、逆に国内需要が供給を下回れば貿易黒字となります。

一方、為替レートは、国際的な資金の移動によって決まります。資金が流入すれば自国通貨高となり、流出すれば自国通貨安となります。

つまり、貿易赤字というマクロ的な現象と、為替レートというマクロ的な現象は、基本的に独立して決まるものなのです。

例えば、日本の貿易収支の赤字は、日本国内の需給バランスの状況を反映したものですが、一方で円高ドル安は、日米間の資本移動や投資家心理などによって決まっているのです。

よって、政策当局が為替レートを操作することで、容易に貿易収支を改善できるというのは、経済学的に正しくありません。プラザ合意のような為替介入は、本来の経済原理に反するものだったと言えるのです。

上の記事にでてくる「円高シンドローム」という言葉は現在スタンフォード大の名誉教授である、ロナルド・マッキノン氏が最初につかいはじめました。

マッキャノン氏の著書


マッキノン氏は、1980年代半ばからの長期にわたる円高ドル安を「円高シンドローム」と呼称し、その弊害を指摘しています。その中心的な論点は以下の通りです。

マッキノン氏は、プラザ合意以降の急激な円高は、本来の経済調整メカニズムを歪めてしまったと分析しています。通常、貿易収支の赤字国の通貨は自然と下落していくはずですが、日本政府による為替介入で円高が促進されたことで、この健全な調整プロセスが阻害されたのです。

その結果、日本の輸出企業の収益が圧迫され、国際競争力が低下しました。しかし、日本政府は、この円高に対して適切に対応しませんでした。むしろ、財政支出の削減や金融引き締めなどの失敗した政策対応をとったため、かえって財政赤字の増大や超円高、デフレなどの経済的歪みを生み出してしまったと指摘しています。 

つまり、マッキノン氏は、為替レートの人為的な操作が、本来の市場メカニズムを損なっただけでなく、日本政府の政策的な失敗も重なり、長期的な経済の歪みを招いたと警鐘を鳴らしているのです。

この分析は、クルーグマンやスティグリッツ、バーナンキなどのノーベル経済学賞受賞者の見解とも共通するところがあります。彼らも、為替レート操作による経済歪曲の危険性を指摘しており、マッキノン氏の指摘は、そうした国際的な経済学者の問題意識と軌を一にしていると言えるでしょう。

2012年に安倍晋三氏が首相に就任すると、いわゆる「アベノミクス」と呼ばれる経済政策が導入されました。その中核となったのが、日銀による大胆な金融緩和策でした。

この金融緩和政策によって、長年続いた円高傾向が是正され、円安基調に転じていきました。これにより、日本の輸出企業の収益改善や国際競争力の回復が見られるようになったのです。

つまり、安倍政権の登場と、その下で実施された金融緩和政策は、まさに「円高シンドローム」からの脱却につながったと言えるのです。マッキノン氏らが懸念していた経済の歪みは、徐々に解消されつつあったと考えられます。



特に、この頃から実施された金融緩和政策に関しては、他国から批判されていません。米国政府は当初、日本の金融緩和策に対して批判的な姿勢を示していたものの、近年ではデフレ脱却と経済成長を重視する日本の政策姿勢を理解する傾向にあるようです。

一方、中国も円安傾向に対する警戒感は示していたものの、自国の通貨政策を展開していることから、日本の政策に大きな異議を唱えるには至っていません。韓国も、日本の金融緩和による円安が輸出企業に影響すると懸念していたようですが、自国の通貨政策を通じて輸出競争力を高めてきた経緯があり、強硬な批判は行っていないのが現状のようです。

つまり、当初は各国が日本の金融緩和策に対して警戒感を示していたものの、最近では日本の政策姿勢を理解する傾向にあり、大規模な批判は見られなくなってきているということができます。プラザ合意の際のような強い政治的圧力は、現時点では生じていないようですし、これからも生じる可能性は低いです。

それに独立国家であれば自国内の経済のために、独自の金融政策を実施するのは当然の権利であり、これに反対するような国にはその誤りを指摘しつつ、独自の金融政策を実行するのが本来のありかたです。

さらに、プラザ合意なる誤った政策が実施される背景ともなった幼稚な「通貨戦争」のような概念も廃するべきです。ある国が、輸出を有利にするために金融緩和策をいつまでも継続しているとどうなるでしょうか。いずれかなりのインフレに見舞われて、緩和政策を続けられなくなります。そうして、いずれ引き締めに転じることになります。「通貨戦争」は空想の産物に過ぎません。

通貨戦争 AI生成画像

日本が金融緩和政策を実施しているのは、あくまで国内事情のためであり、需給ギャップがマイナスである日本では、未だ緩和策を継続する必要があります。しかし輸出入を行っているために、国内では海外からの影響も受けます。それに対する調整をする必要があります。

その調整策は、円安で有利になる輸出企業(大企業が多い)の法人税収入は増えるので、それを活用するなどして、輸出産業以外の産業(国内向け、輸入産業、中小企業が多い)支援をし、減税などで消費者を支援する政策などが、正しい政策であって、円高誘導などとんでもあません。

現時点での円高誘導は「円高シンドローム」の再来であり、日本経済に大きな悪影響を及ぼすことになります。

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2024年4月16日火曜日

発展途上国は気候変動対応で債務不履行の恐れ=米大学報告―【私の論評】中国の「一帯一路」政策と同様に、先進国の途上国に対する気象変動対策支援も馬鹿げている

 発展途上国は気候変動対応で債務不履行の恐れ=米大学報告

まとめ

  • 発展途上国の対外債務返済額が過去最大の4000億ドル(約54兆円)に達する見通し
  • 約50カ国が気候変動対策費用のため、今後5年以内に債務不履行に陥る恐れ
  • 47カ国がパリ協定目標のための資金調達で、債務返済不能に陥る可能性
  • 19カ国も資金不足で目標達成困難になる見込み
  • 専門家は発展途上国の債務問題を深刻に懸念

グローバル・サウス AI生成画

 ボストン大学グローバル開発政策センターなどが公表した報告書によると、発展途上国の今
年の対外債務返済額が過去最大のボストン大学グローバル開発政策センターなどが公表した報告書によると、発展途上国の今年の対外債務返済額が過去最大の4000億ドル(54兆円)に達すると予想されている。

 さらに、約50カ国は気候変動対応や持続可能な開発に必要な資金を投じるために、今後5年以内に債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあるという。47カ国はパリ協定の2030年目標達成に必要な資金を拠出すると、対外債務が返済不能の状態に陥ると指摘されている。

 また19カ国は返済不能には至らないものの、資金不足で目標達成できなくなる可能性がある。

 ボストン大学の専門家は、発展途上国の債務負担が非常に重く、必要な資金調達をすれば債務不履行に向かうと危惧している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】中国の「一帯一路」政策と同様に、先進国の途上国に対する気象変動対策支援も馬鹿げている

まとめ
  • 地政学的リスクや、発展途上の事情から、パリ協定の2030年目標は非現実的
  • 西側諸国は地政学的リスクなどを回避するため、エネルギー安全保障を優先べき
  • 発展途上国は、気候変動対策投資困難であり、やはりエネルギー安全保障を優先すべき
  • 先進国による気象変動対策面での途上国への支援は、デフォルトリスクをはらんでいる。エネルギー安全保障面の支援を強化すべき
  • 西側諸国の課題としてエネルギー安全保障確保が喫緊、そうでなければ中露に敗北するリスクがある

パリ協定は2015年に採択


パリ協定は2015年に採択された国際的な気候変動対策の枠組みで、世界各国が自主的に設定した削減目標(NDC)に基づいて温室効果ガス削減に取り組むことを定めています。しかし、近年の情勢変化により、この協定への完全な準拠が困難になってきています。

その主な理由は以下の通りです。
  1. 2030年までの大幅な排出量削減目標設定 日本を含む多くの国が2030年までにCO2排出量を大幅に削減する非現実的な目標を掲げています。しかし、再生可能エネルギーの急速な導入には技術的・経済的課題が多く、短期的には化石燃料への依存を維持せざるを得ない状況です。急激な化石燃料削減は、エネルギー供給の不安定化を招くリスクが高いのが現状です。
  2. 地政学リスクの高まり ロシアのウクライナ侵攻などを受け、地政学リスクが高まっています。化石燃料の安定調達が喫緊の課題となっており、その制限はエネルギー供給の不安定化を招く可能性があります。
  3. 発展途上国の経済発展優先 一方で、発展途上国は経済発展を最優先しており、長期的な環境対策よりも短期的なエネルギー供給の安定性確保を重視する傾向にあります。
このように、エネルギー供給の安定性確保が喫緊の課題となっている中で、パリ協定の目標達成は現実的ではなくなってきています。そのため、協定からの離脱や、その枠組みからの一定の逸脱が正当化される可能性が高まっているのが現状です。具体的には以下のような動きがあります。

例えば、米国ではトランプ政権時代に協定からの離脱が宣言され、その後のバイデン政権でも化石燃料の活用を続ける姿勢が維持されています。EUでも、ロシアからのガス供給削減を受け、2030年排出削減目標の引き上げに慎重な国が見られるなど、柔軟な対応を模索しています。


一方、中国やインド、ブラジルといった発展途上国も、経済成長を最優先し、パリ協定目標の緩和を訴えています。こうした国々にとって、エネルギー確保と経済発展が喫緊の課題であり、長期的な環境対策よりもそちらが重視されています。

日本においても、2030年のCO2削減目標の見直しや、原子力発電の再稼働、水素・アンモニア発電の導入拡大など、現実的なエネルギー政策への転換が検討されつつあります。さらに、将来に向けて、小型原子炉、核融合炉の開発がすすめられています。

このように、主要各国がパリ協定の枠組みから一定の距離を置き、エネルギー安全保障の確保に軸足を移しつつある状況が見受けられます。政治・経済的な現実を反映した現実的な対応への移行が進んでいると言えるでしょう。

発展途上国は自国の経済発展とエネルギー安全保障の確保を最優先せざるを得ず、気候変動対策への投資を増やすことが困難な状況にあります。

一方で、先進国の支援も十分ではありません。COP26での1,000億ドル/年の支援目標は未達成のままです。また、コロナ禍やウクライナ情勢の悪化により、先進国の財政的余力も限られつつあります。

こうした中で、発展途上国が気候変動対策に膨大な資金を振り向けざるを得なくなれば、財政悪化を招き、デフォルトのリスクが高まることが危惧されます。実際に、スリランカやザンビアなどの国でデフォルトが発生しています。

このような事態は国際社会にとって望ましくありません。発展途上国のエネルギー安全保障と経済発展を支援することが重要です。先進国による十分な資金提供や、債務軽減策など、国際的な支援体制の強化が不可欠です。

長期的な視点からエネルギー安全保障と、経済発展を実現するためには、発展途上国のデフォルト リスクを回避することが喫緊の課題だといえます。

中国の「一帯一路政策」は、簡単にいってしまえば、中国国内での大きな利益をもたらすインフラ投資が一巡してめぼしい案件がなくなったため、同じことを海外で展開しようとする試みです。しかし、これにより債務不履行になる国々も存在し、これからもでてきそうです。これは、無謀な試みであり失敗するのが目に見えていますが、その邪な動機自体は理解できます。

一帯一路構想の詳細を記すドイツ語の地図

しかし、パリ協定やSDGs目標達成のために、発展途上国に犠牲を強いるのは、「一帯一路」と同様に馬鹿げています。先進国は、中国の「一帯一路政策」を批判しますが、先進国の気象変動対策は、西側先進国の「一帯一路政策」ともいえる馬鹿げたものだと思います。

西側諸国は自国のエネルギー政策を見直し、発展途上国の経済発展とエネルギーアクセスの確保を支援する施策に重点を置くべきです。そうして、先進国はこれに向けて、発展途上国への財政支援の大幅な拡充も不可欠です。

IEAによると、2050年までに世界のCO2排出量を全廃にするには、新規の石油・ガス開発への投資を即座に停止する必要があります。しかし、この場合、短期的なエネルギー供給の不安定化やエネルギー価格高騰のリスクが高まります。

一方で、中国やロシアなどは化石燃料の積極的な開発と活用を続ける傾向にあります。中国は2030年までのCO2排出量ピーク化目標を掲げつつ、石炭火力発電所の新設を続けています。

ロシアは天然ガスや石油の輸出に大きく依存しており、脱炭素化への意欲は低いです。

このように、西側諸国が気候変動対策に傾倒する一方で、中露などの国々がエネルギー供給の安定性を重視する姿勢が鮮明になっています。

その結果、中長期的にはエネルギー・ドミナンスの点で、西側諸国が中露に劣勢に立たされる可能性が高まっています。特に、地政学的リスクの高まりの中で、安定的なエネルギー確保が困難となる恐れがあります。

したがって、エネルギー安全保障の確保を最優先する現実的な対応への移行が、西側諸国にとって喫緊の課題だと言えます。そうしなければ、エネルギー・ドミナンスの面で中露に敗れてしまう恐れがあります。

そうなれば、発展途上国も衰退し、最悪エネルギーの安定供給を約束する中露に取り込まれることになります。

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ドイツの脱原発政策の「欺瞞」 欧州のなかでは異質の存在 価格高騰し脱炭素は進まず…日本は〝反面教師〟とすべきだ―【私の論評】エネルギーコストがあがれば、独産業・独人は近隣諸国に脱出!独は現状のエネルギー政策を継続できない(゚д゚)!


2024年4月15日月曜日

岸田首相らG7首脳「前例のない攻撃、明確に非難」イランによるイスラエル攻撃で声明「激化を避けなければならない」―【私の論評】イスラエルの安全保障を支持する日本の姿勢 - G7との協調と核抑止力の重要性

岸田首相らG7首脳「前例のない攻撃、明確に非難」イランによるイスラエル攻撃で声明「激化を避けなければならない」

まとめ
  • G7首脳がイランによるイスラエルへの攻撃を受け、緊急オンライン会議を開催した
  • G7は「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明した
  • G7は、イランが地域の不安定化と激化を招いていると指摘し、これを避ける必要があると強調した
  • 岸田首相も会議に参加した
  • アメリカ政府高官は、この攻撃に事前通告がなく、イランが死傷者を出すつもりだったと述べ、アメリカはイスラエルの防衛を支援すると警告した

G7のイランのイスラエル攻撃に関するリモート会議

G7首脳は、イランによるイスラエルへの攻撃を受け、オンラインでの緊急会合を開催しました。会合には岸田首相も参加し、G7は「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。

G7は、イランが地域の不安定化と激化を招いていると指摘し、これを避ける必要があると強調しました。

アメリカ政府高官は、この攻撃に事前通告はなく、イランは死傷者を出すつもりだったと述べ、アメリカはイスラエルの防衛を支援すると警告しました。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】イスラエルの安全保障を支持する日本の姿勢 - G7との協調と核抑止力の重要性

まとめ
  • イラン大使館周辺へのイスラエルによる攻撃に対し、イランが報復を行った。
  • G7全体(日本含む)がイランの攻撃を「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明した。
  • イランの領土からイスラエルを直接攻撃するのは今回が初めての事態であり、G7が「前例のない攻撃」と非難した。
  • 多くの中東専門家は、今回の事態が大規模な戦争につながることはないと予想している。その理由は、イスラエルが強力な破壊兵器(核兵器)を保有しているため、イランが過度な攻撃をする可能性が低いからである。
  • 日本の左派政党やマスコミはイランを擁護する傾向にあるが、今回日本政府はイランを非難し、イスラエルを支持する姿勢を示した。今後日本は、このような傾向を強めていくべき
攻撃を受けたダマスカスのイラン大使館周辺

シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館周辺がイスラエルによるとみられる攻撃を受けたことを巡り、イランは報復を行うと表明しており、それが実行されました。

イランによるイスラエル攻撃の際、G7全体(日本を含む)が「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。これは、イランによる攻撃が明らかな国際法違反であり、地域の平和と安全保障を脅かす重大な事態だったため、G7が団結して強い姿勢を示したものです。

さらに、イランの領土から直接イスラエルの領土を攻撃するという事態は、今回が初めてです。

過去にもイランがイスラエルを攻撃する事例はありましたが、それらはイランが支援するシリアやレバノンなどの地域からの攻撃でした。

今回のように、イラン領土そのものからイスラエルに直接攻撃を仕掛けるのは、これまでにない新しい事態でした。

G7がこれを「前例のない攻撃」と強く非難したのは、この点を踏まえてのことだと理解できます。日本もさすがに、イランに対して曖昧な態度をとれなかったのでしょう。イラン領土からの直接攻撃は地域の緊張を一段と高めるものであり、G7が強い懸念を示したのは適切な対応だったと言えます。

イランによるイスラエル攻撃

一方、ハマスによるイスラエル攻撃の際は、日本を除くG6がイスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。この背景には、G6諸国がハマスをテロリスト組織と明確に認識しているのに対し、日本の認識が相対的に希薄であったことが考えられます。

日本は、ハマスの本質を十分に理解していなかったため、G6諸国ほど強硬な姿勢を示せなかったと考えられます。テロリスト組織であるハマスに同情的な立場をとることは適切ではなく、同盟国との連携も重要です。今後は、ハマス等のテロリストの実態をより正確に認識し、国際社会との調和した対応を取る必要があるでしょう。

イランがイスラエルの実効支配下にあるゴラン高原に無人攻撃機やミサイルを撃ち込んだことで、第三次世界大戦への懸念が高まっていると報道されています。しかし、多くの中東専門家は今回の事態が大規模な戦争につながることはないと予想しています。その理由は、イスラエルが強力な破壊兵器を保有(イスラエルは認めていないものの核保有されてるとしている)しているため、イランが過度な攻撃をする可能性は低いからです。

さらに、貧困に苦しむガザ地区を支配するハマスとは異なり、イランはその産油施設を破壊されれば取り返しがつかないです。ハマスのイスラエル攻撃は例外ともいえますが、基本的に、侵略されて女性や子どもが虐殺される国は核兵器を持っていない国に限られます。

日本では核兵器は戦争の象徴とみなされていますが、世界的には平和の象徴と考えられています。日本は日米安全保障条約により、米国の核の傘の下にあります。日本が核攻撃されたら米国は報復するとは明記されていませんが、「危険に対処する」と曖昧に記されています。

その背景には、2023年末時点で日本が世界のドル流通量の1/7以上に当たる1.2兆ドルを保有していることがあります。一方、中国の保有額は約9,000億ドルと報告されています。

つまり、日本はドル資産保有においては中国を上回っているのが現状です。

このように、日本はドル資産保有大国の一つであり、世界の通貨システムにおいて重要な役割を果たしていると言えます。


日本が戦争等にまきこまれドルを大量に売却する姿勢をみせれば、米国はそれに対処せざるを得なくなります。つまり、日本のドル保有がアメリカの対日支援を引き出す要因となっているといえます。

もし、これに加え、日本が核兵器を保有すれば、世界における日本の地位も飛躍的に高まるでしょう。一方で、貧困層を支持する政党は非核化を主張しますが、それは日本の平和と繁栄の基盤を脅かすものだと言えるでしょう。

日本の左派・左翼勢力は、それだけではなく、テロリストのハマスを擁護する傾向が強く、日本のマスコミや学問界でもその傾向が強く、それが日本国内に広く流布しているため、ハマスによるイスラエル攻撃の時には、日本政府はそれにひきづられイスラエルへの「全面的な連帯と支援」の表明からは外されると大失態をしてしまいました。

これと同じように、日本の左派政党やマスコミは、イランを支持・擁護する傾向にあります。これは、イランの反米・反西側的な姿勢や、パレスチナ問題でのハマス支持、さらには核兵器に関する立場などに共感を持っているためと考えらます。

それでも、今回は日本は、「最も強い言葉で明確にイランを非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。これは、一歩前進だと思います。

これからも、日本はこのような傾向を強めていくべきです。そうでないと、せっかくかなり高い潜在的能力を持っているにもかかわらず、世界における日本の地位が低下し、衰退への道を歩むことになりかねません。


G7の「CO2ゼロ」は不可能、日本も「エネルギー・ドミナンス」で敵対国に対峙せよ 「トランプ大統領」復活なら米はパリ協定離脱― 【私の論評】エネルギー共生圏 - 現実的な世界秩序の再編成への道

2024年4月14日日曜日

G7の「CO2ゼロ」は不可能、日本も「エネルギー・ドミナンス」で敵対国に対峙せよ 「トランプ大統領」復活なら米はパリ協定離脱― 【私の論評】エネルギー共生圏 - 現実的な世界秩序の再編成への道

 杉山大志 直言!エネルギー基本計画

G7の「CO2ゼロ」は不可能、日本も「エネルギー・ドミナンス」で敵対国に対峙せよ 「トランプ大統領」復活なら米はパリ協定離脱 

まとめ
  • 日本のエネルギー供給の8割は化石燃料に依存しており、その安定的な調達が重要
  • しかし第6次エネルギー基本計画では、無理難題とも言える46%のCO2削減目標が設定され、化石燃料の利用制限につながっている
  • その結果、燃料調達や関連事業への参入が困難になり、供給不足や火力発電所の休廃止といった問題が懸念される
  • 一方で、気候変動の悪影響を示すデータや予測モデルの信頼性には疑問があり、CO2ゼロ目標の実効性も極めて低い
  • したがって、「エネルギー・ドミナンス」戦略に立ち返り、安定供給を確保する政策を検討すべきであり、パリ協定からの離脱も検討の余地がある
阿蘇外輪山の元牧野に建設されたメガソーラー

 日本のエネルギー供給の8割は依然として石油、石炭、天然ガスといった化石燃料に依存している。これらの化石燃料を安定的に調達し活用することは、日本のエネルギー政策の最も重要な柱のはずだ。

 しかし、現行の「第6次エネルギー基本計画」では、2030年までにCO2排出量を2013年比で46%も削減するという非現実的な数値目標が設定され、化石燃料の利用量も極端に低く設定されている。その結果、企業は長期的な燃料調達契約の締結が困難となり、油田やガス田への事業参入も阻害されている。

 こうした事態が進めば、有事の際に法外な価格でしか化石燃料が調達できなくなったり、最悪の場合は全く調達できなくなる可能性がある。また、火力発電所の休廃止も余儀なくされ、定期的に「節電のお願い」が発出されることにもなりかねない。

 一方で、メディアでは気候変動の悪影響が強調されているが、統計データではそのような事態は確認されていない。さらに、気候変動リスクを示すシミュレーションモデルさえ、過去の再現すら十分にできていないと指摘されており、その将来予測を政策決定に活用するのは適切ではない。

 したがって、「2050年にCO2排出ゼロ」という極端な目標を掲げ、日本のエネルギー政策と経済活動を大きく制限することは不適切であると考えられる。そうではなく、安定したエネルギー供給を確保し、経済発展を支えていく「エネルギー・ドミナンス」戦略に立ち返るべきであり、グローバルサウスの支持も得つつ、パリ協定からの離脱も検討する必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】エネルギー共生圏 - 現実的な世界秩序の再編成への道

まとめ
  • 「エネルギー・ドミナンス」はトランプ政権下の米共和党で使われてきた概念で、安定かつ安価なエネルギー供給を通じた経済発展や民主主義の保護を目指すものです。
  • 第6次エネルギー基本計画は「脱炭素」を重視しつつ、再生可能エネルギー以外のエネルギー源の活用も検討されました。
  • この計画は「S+3E」の視点から、安全性、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性を重視しています。しかし、現実には脱炭素、再エネばかりが強調されています。
  • 安倍晋三氏が存命であれば、「エネルギー共生圏(Energy Symbiosis Sphere)」のような新たな概念を提唱し、地球規模でのエネルギー協力体制を構築していた可能性があります。
  • 「エネルギー・ドミナンス」の代わりに「エネルギー共生圏」のような概念を打ち出すことで、より多くの国々の参加を促し、現実的な世界秩序の再編成を目指すべきです。

「エネルギー・ドミナンス」という用語は、米国共和党で使用されてきた概念です。これは豊富で、安定し、安価なエネルギーを供給することを指し、経済発展や防衛力の向上、自由や民主主義などの普遍的価値の保護と発展を可能にするとされています。具体的にこの言葉を最初に使った個人についての情報は見つかりませんでしたが、この概念はドナルド・トランプ大統領の下での米国のエネルギー政策に関連してよく言及されています。

「第6次エネルギー基本計画」は安倍政権下で検討されたものではありますが、安倍総理は、2020年9月16日に辞任しており、閣議決定されたのは、2021年10月の菅政権のときでした。

第6次エネルギー基本計画で目指す総発電量に占める電源別の割合

この基本計画が検討された時期においては、「脱炭素」が世界の趨勢となっており、このエネルギー基本計画は、「脱炭素」にも重点を置き、極端な目標が掲げられている一方、再生可能エネルギー以外のエネルギー源についても詳細に述べられています。

この計画は、本来は、エネルギー政策の基本的な方向性を示すものであり、安全性(Safety)、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)という「S+3E」の視点を重視しています。

具体的には、以下のようなポイントが含まれています。

安全性(Safety):あらゆるエネルギー関連設備の安全性を最優先し、特に原子力に関しては、国民の懸念の解消に全力を挙げることが強調されています。

エネルギーの安定供給(Energy Security):日本のエネルギー自給率が低いため、エネルギー供給の安定性を確保することが重要視されており、レジリエンス(強靭性)を高めることが求められています。

環境への適合(Environment):カーボンニュートラルを目指し、エネルギー分野の脱炭素化に取り組むことが強調されています。これには、再生可能エネルギーの導入拡大や、CO2排出削減技術の開発が含まれます2。

経済効率性(Economic Efficiency):低コストでのエネルギー供給とエネルギーの安定供給、環境負荷の低減を同時に実現することが、日本の経済成長にとって重要であるとされています。

安倍政権が継続されていた場合、あるいは政権が続いていなくても、安倍晋三氏が存命だった場合、経済効率性やエネルギーの安定供給の観点がもっと強調されていた可能性があります。

しかし、菅政権から、岸田政権にかけて、エネルギー政策というと、カーボンニュートラルや再エネ等が大きく注目されるようになりました。そうして、現状では阿蘇山にはメガソーラ発電省が設置され、釧路湿原国立公園内に、6.6haの太陽光発電施設が設置されるという危機的状況になっています。


このままだと、日本はエネルギー政策で失敗して衰退しかねません。だからこそ、エネルギー問題のまともな専門家たちは、危機を感じているのです。

そうして、上の記事の杉山氏の元記事ように
米国とともにアジア太平洋におけるエネルギー・ドミナンスを達成することはできる。それは、ポンペオ氏が指摘しているように、天然ガス、石炭火力、原子力などを国内で最大限活用すること、そして、友好国の資源開発および発電事業に協力することだ。

いま日米が「エネルギー・ドミナンス」にかじを切らなければ、中国に打倒されるだろう。
と警鐘を鳴らしているです。

これは、重要であり、中国やロシアがエネルギー・ドミナンスで優勢になれば、日本を含む西側諸国やその同盟国は安全保証上の脅威にもさらされることを意味しています。

そうして、安倍晋三氏がご存命であれば、この危機にいち早く気づいて、新たな概念を生み出しい、「安全保障のダイヤモンド」のような論文をブロジェクト・シンジケートに投稿していたかもしれません。ちなみに、この論文は、後の「インド太平洋戦略」に結びつき、中国の覇権主義に対抗する上で重要な概念となっています。

エネルギー・ドミナンスの危機に関して、安倍晋三氏がご存命であれば、やはり新たな概念を生み出したかもしれません。

たとえば、「エネルギー共生圏(Energy Symbiosis Sphere)」という概念を生み出していたかもしれません。

これは、意味するところは、以下です。
  • 「共生」の文字から、各国や多様なステークホルダーが互いに協力し合い、共に発展していくエネルギーシステムの構築を表現
  • 「圏」の字は、地球規模での包括的なエネルギー協力体制を示唆しています
  • 化石燃料の利用や、原子力エネルギー等、現実的なエネルギー利用の安定供給を目指すとともに、小型原子炉や核融合炉などの将来のエネルギーの開発等も含めた、エネルギーミックスを構築する
  • 先進国と途上国、エネルギー生産国と消費国が対話を重ね、共生的なエネルギーアーキテクチャを構築することを表す
英語での意味は以下のようなものです。
  • "Energy" - エネルギーという分野を表しています。
  • "Symbiosis" - 共生、相互依存的な関係性を意味します。
  • "Sphere" - 地球規模、あるいは包括的な領域を表す言葉です。圏というと、大東亜共栄圏などを思い起こさせる言葉ですが、Sphereは違います。
つまり、「Energy Symbiosis Sphere」は、各国や様々な利害関係者が協力し合って、現実的なエネルギーシステムを地球規模で構築していくという戦略概念を表しています。

この英語表現も、安倍晋三氏の思想を反映した戦略的なイニシアチブを感じさせる言葉だと思います。

「安全保障のダイヤモンド」は、端的に言ってしまうと、「中国封じ込め政策」なのですが、安倍晋三氏は、そうではなくもっと大きな上位の概念からこの言葉を使っています。これによって、より多くの国々が、この言葉に賛同し参加できるような素地をつくりだし、後にさらに「インド太平洋戦略」という言葉を生み出し、インドや太平洋の平和と安定の重要性も強調しました。これによって、安倍晋三氏は世界の秩序を変えたといえます。

そうして、それが世界だけでなく、日本国内にも大きな影響を及ぼしています。

エネルギー・ドミナンスは日本語訳にすると「エネルギー支配」とも訳すことができ、これではエネルギーに関する覇権争いとも受け取られかねません。これでは、日米のエネルギー・ドミナンスの確立に参加を表明したくてもできない国々が出てくる可能性もあります。

Energy Symbiosis Sphere AI生成画像

しかし、安倍晋三氏が生み出したような「インド太平洋戦略」という中露との対立という概念より、上位の概念は、この地域の平和と安定を目指すものであり、この地域や、他地域の多くの国々の賛同を得ることができ、これに真っ向から反対するのは、一部の権威主義的、全体主義的な国々だけです。

日本国内でも、どなたか有力な方が「エネルギー共生圏(Energy Symbiosis Sphere)」のような言葉を作り出し、安倍晋三氏が、政権発足直前に「ブロジェクト・シンジケート」で公表したように、新たな概念を公表すべきと思います。

これによって、エネルギーを基軸とした、世界秩序の再編成を目指すべきです。

それにしても、それを実現できる人は、なかなか見当たりません。改めて、わたしたちは偉大な人物を亡くしてしまったことが残念でなりません。

このようなことを実現し、それだけでなく、それを目指して行動する人こそ、安倍氏の真の後継者なのかもしれません。

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