東京商工リサーチによると、日刊紙発行の日本繊維新聞社(東京都中央区)が、10月29日の手形決済に難航し1日から事業を停止した。日刊紙「日本繊維新聞」は11月1日号付で休刊するという。会社側は「事後処理を弁護士に一任すべく相談中」としている。負債総額は今年3月末の決算ベースで5億8964万円。
同社は、昭和18年4月創業。日本繊維新聞のほか、季刊タブロイドフリーペーパーや繊維業界・ファッション関係の出版物も出版し、昨年3月期には年商約5億2000万円をあげていた。
日本繊維新聞は繊維業界紙としては中堅で、ファッション市場の動向から百貨店・専門店情報などを扱い、一時は公表発行部数12万4000部としていた。
しかし、最近はアパレル不況が深刻化。発行部数が大幅に落ち込んでいたほか、広告も不振で業績が悪化。今年3月期末には2億6647万円の債務超過に陥っており、資金繰りに行き詰まった。
結局は世の中の変化に対応して、イノベーションできなかった?
日本繊維新聞社は、私自身は購読したことはないのですが、時々サイトは覗いていたことはあります。昭和18年に創業ということですが、それこそ、太平洋戦争中からずっとやってきたということですね。
いわゆる業界紙の中では老舗なのだと思います。先日も、東京コレクションの話題が掲載されていたので、「【11春夏東コレ】スナオクワハラ」、交差するエスニックを読んだばかりです。
スナオクワハラ、交差するエスニック |
この倒産の直接の原因は、まずは現在は不景気であること、それにこのブログにも以前掲載したように、新聞業界そのものが構造的不況にあること、さらには、主な購読層のアパレル業界も不振状況にあるという、最悪の事態がかさなったという事だと思います。
こうした、会社を存続できない限界的な企業が登場して、しかも、この事例のように、倒産などすると、その原因など、上記の記事のように「資金繰りに行き詰まった」ということが掲載されていることが多いです。要するに、利益がでなかったということで、片付けられてしまう事が多いです。
しかし、このブログでもしばしば引き合いに出すドラッカー氏は違うことを語っています。ドラッカー氏は、「利益は企業の目的ではなく、業存続の条件である。利益とは、未来の費用、事業を続けるための費用である。諸々目標を実現させるうえで必要な利益に欠ける企業は、限界的な危うい企業である」と氏の著書「マネジメント」で述べています。
上のようなことを述べた上で、ドラッカー氏は、利益を企業の目的とすることは、間違いであるばかりではなく、害悪になるとさえ言っています。
これは、以前にこのブログにも掲載しましたが、ドラッカー氏は
企業の目的とは「顧客の創造」であるとしています。また、「企業は、二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす」(マネジメント エッセンシャル版 16ページ)
企業は、二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす」(マネジメント エッセンシャル版 16ページ)
さらに、こうも言っています。
「マーティングだけでは、企業としての成功はない。静的な経済には、企業は存在し得ない。そこに存在しうるものは、手数料をもらうだけのブローカーか、何の価値も生まない投機家である。企業が存在しうるのは、成長する経済のみである。あるいは少なくとも、変化を当然とする経済においてのみである。そうして企業こそ、この成長と変化のための機関である」。
したがって企業の第二の機能は、イノベーションすなわち新しい満足を生み出すことである。経済的な財とサービスを供給するだけでなく、よりよく、より経済的な財とサービスを供給しなければならない。企業そのものは、より大きくなる必要はないが、常によりよくならなければならない」(マネジメント エッセンシャル版 17~18頁)
こうしたことから、私は、この企業のように倒産してしまうのは、資金繰りや、利益がでないことが本当の原因ではないと思っています。要するに顧客の創造ができなかったことが、倒産の本当の原因です。
現在アパレル業界が不況ですから、この新聞社の既存顧客は減少していたのだと思います。であれば、新たな顧客を創造すべきだったのだと思います。このブログにも以前掲載したように、現在従来からあるファッション業界が不況の真っ只中にありますが、少し前までの勢いはないものの、リアル・フアッションの世界はまだ勢いがあります。
こうした、リアル・フアッションの業界の顧客も取り込むべきだったのではないかと思います。さらには、いわゆる業界全体が結構前から不況ということですから、たとえば、最終消費者もターゲットにすべきだったと思います。もっといえば、新聞そのもので儲けるというよりは、情報を求めて集まる人々を対象としたプラットフォームを築くなどの新たなビジネス・モデルを構築すべきだったと思います。
いずれにせよ、こうした顧客を取り込むためには、上の引用で、ドラッカー言っているように、マーケティングだけでは駄目だということです。この新聞社も電子新聞などつくるなど、ある程度の改善はしていたようではあります。しかし、この程度では駄目だったということです。イノベーションを実施しなければならなかったということです。
景気が良かったり、まわりの景気が悪くても、特になにもしなくても、自社だけがたまたま業績が良いなどということがあります。そうであることを多くの人が期待するようです。しかし、そればかりを期待しているようでは、すべからく企業は、いずれ、この新聞社のように限界的な存在になってしまいます。やはり、イノベーションを体系的に、組織的に推進する体制を整えておくことが重要だと思います。
それに、私は、実は不況こそ、イノベーションの機会なのではないかと思います。景気が良かったり、まわりの景気が悪くても自社だけは、景気が良いということにもなれば、既存の商売の枠組みの中で、マーケティングさえしていれば、何とかなるからです。
しかし、不況のときには、イノベーションを実現しなければ、上記の新聞社のような限界的な存在になり、最悪の場合は倒産してしまうからです。まさに、現在のイノベーションの好機だと思います。
実際、過去の歴史をふりかえってみると、まさに、不況のときに多くのイノベーションがなされています。その、典型例として、スーパーマーケットがあります。実は、スーパーマーケットの原型ができあがったのは、金融恐慌の真っ只中の時代でした。
これから、また、景気は悪化しそうです。しかし、それにめげることなく、今こそ、社会変革に結びつく大イノベーションを実施していきたいものです。日本の少数派企業のように、大イノベーションにチャレンジすることなく、既存路線から一歩も出ずに、中国の内需に期待するような企業は、この新聞社の二の舞を舞うことになります。
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