イージス・アショアの計画停止を発表した河野防衛相 |
◇
「イージス・アショアの配備は、防衛計画大綱にも明記している。とりあえずの『計画停止』だが、別の候補地が見つからなければ『中止』になりかねず、大変な話だ。自民事前の相談はなかった。機密保全に配慮したのだろうが、残念だ」
自衛隊OBで「ヒゲの隊長」として知られる、自民党参院議員の佐藤正久前外務副大臣は、こう語った。
イージス・アショアは、イージス艦と同様の高性能レーダーと、ミサイル発射装置で構成する地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム。北朝鮮の弾道ミサイルへの対処を目的に導入が進められていた。陸地にあるため、イージス艦と比べて常時警戒が容易で、長期の洋上勤務が必要ないため部隊の負担軽減につながるとされた。
ところが、日米で協議を進めるなかで、迎撃ミサイル発射後に分離されるブースターを海上や演習場内に落下させるには、ソフトウエアだけでなく、ハードウエアの改修が必要だと判明した。5月下旬には、10年以上の開発期間と、数千億円の費用がかかると分かり、「計画停止」もやむを得ないと判断した。
河野氏は15日、「コストと配備時期に鑑みてプロセスを停止する」「当面はイージス艦でミサイル防衛体制を維持する」と記者団に説明した。
安倍晋三首相には12日に報告し、了承を得たという。今後は国家安全保障会議(NSC)に報告したうえで、閣議で正式に計画停止を決定する方針。
気になるのは、日本の安全保障体制だ。
現在、日本の弾道ミサイル防衛は、海上自衛隊のイージス艦の迎撃ミサイルと、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の2段構えだ。これにイージス・アショアを加えて3段構えにする計画だった。
北朝鮮は昨年13回、今年は4回の弾道ミサイルを発射した。従来型の液体燃料に比べて、機動性に優れる固体燃料を使ったミサイルの開発が進展しているうえ、発射後に軌道が変わるミサイルもあり、迎撃が困難になりつつある。核弾頭も着々と増やしている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は15日、北朝鮮の保有数は昨年の20~30発から30~40発に増加したと発表した。
軍事ジャーナリストの井上和彦氏は「今回の計画停止で、『イージス・アショアが不要になった』と考えるべきではない。イージス・アショアのレーダーによる覆域の広さは、日本の防衛を考えるうえで重要な役割を果たす。日本としては依然として3段構えの弾道ミサイル防衛が必要だ。北朝鮮に備えるだけでなく、日本に弾頭ミサイルの照準を向けているとみられる、中国やロシアといった脅威に備える面にも注目すべきだ」と語る。
評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「なぜ、このタイミングで発表したのか疑問だ。(ブースターの)問題点は、当初から言われていたことだ。北朝鮮がミサイルを発射する兆候もあるなか、世界に向けて『(日本の防衛は)穴だらけだ』と示したに等しい」と指摘する。
日米同盟への影響も懸念される。
潮氏は「日米間でイージス・アショアは契約済みだ。莫大(ばくだい)な解約料を払うか、THAAD(高高度防衛ミサイル)を代わりに購入するかという問題もある。計画停止を前向きにとらえ、中国やロシアの極超音速ミサイルや、北朝鮮の軌道が変わるミサイルに対処するため、日米で次世代の迎撃システムを共同開発することも考えられる」と語った。
ミサイル防衛全体だけでなく、日本の防衛体制を見直す案もある。
前出の佐藤氏は「イージス・アショアが計画停止となれば、イージス艦は日本海周辺などに張り付くしかなく、南西諸島の守りが手薄になりかねない。中国の軍事的台頭を考えれば、大きなマイナスだ」と指摘したうえで、続けた。
「これまでは、『盾と矛』の『盾』の部分を強くしてきたが、これからは『矛』の能力、例えば、(専守防衛の範囲で)『敵基地攻撃能力』につなげる議論が出てくる可能性もある。『盾』についても、イージス・アショアや、数少ないPAC3に限らず、地対空ミサイル(中SAM)にも弾道迎撃ミサイル能力を持たせる議論があってもいい」
【私の論評】日本にとって合理的判断とは何か、憲法9条の改正を含め、国会でも大きな争点として議論すべき!(◎_◎;)
尖閣諸島が攻撃されている時に、防御システムイージスアショアがあっても、あまり意味をなさないからです、そのような時には攻撃力が必要だからです。
北朝鮮のミサイルに関しても、防御だけでこれを防ぐには、いくら金をかけても限界があります。そのようなことよりも、北朝鮮が日本にミサイルを発射することを未然に防ぐ先制攻撃能力を持つこととの方が、より経済的であり現実的であると考えられるからです。
2019年6月28日、米国の著名シンクタンク、ブルッキングス研究所が開催したシンポジウムで、ポール・セルヴァ米統合参謀本部副議長(当時)がミサイル防衛をめぐって注目の発言をしました。
日本ではほとんど報じられませんでしたが、ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(軍事と軍需産業情報に関する週刊誌であり、編集長はPeter Felstead)では大きなニュースにな離ました。米国軍制服組ナンバー2にあたる軍高官が、ミサイル防衛に対する旧来からの考えを変えるよう、聴衆に強く訴えたのです。北朝鮮のミサイルに関しても、防御だけでこれを防ぐには、いくら金をかけても限界があります。そのようなことよりも、北朝鮮が日本にミサイルを発射することを未然に防ぐ先制攻撃能力を持つこととの方が、より経済的であり現実的であると考えられるからです。
2019年6月28日、米国の著名シンクタンク、ブルッキングス研究所が開催したシンポジウムで、ポール・セルヴァ米統合参謀本部副議長(当時)がミサイル防衛をめぐって注目の発言をしました。
ポール・セルヴァ米統合参謀本部副議長(当時) |
セルヴァ副議長は、この年の初めにロシアが公開した新型の地上発射型巡航ミサイル「9M729」への対抗措置として、ミサイル防衛の強化より、ロシア軍のキルチェーン(ミサイル先制打撃システム)を無力化するなど、もっと攻撃型のオプションを検討するよう訴ました。「攻撃は最大の防御なり」という古くからの格言を想起させる内容です。
その理由として、セルヴァ副議長は「(ミサイル迎撃という)命中撃墜型の対策では、どちらがより多くのミサイルを持っているかの数争いとなるため、常に攻撃側が有利になる」と述べた。
セルヴァ副議長は、ミサイル防衛システムでは「弓の矢をやっつけるか。あるいは、弓の射手をやっつけるか」という重要な問題に直面すると指摘した。
「迎撃システムにおいては、私たちは常に攻撃で立ち遅れる。なぜなら、その言葉の定義の通り、私たちは敵の行動にまず順応しなくてはいけないからだ。私が今、提案しているのは、このリンクを断ち切ることだ。つまり、(サイバー攻撃や電子戦で)敵の指揮統制システムやミサイル制御システムに入り込んだり、発射台そのものをターゲットにしたりすることだ」
さらに、セルヴァ副議長は、「ミサイル防衛の駆け引きでは、相手の一発目のパンチを受けても大丈夫なほどこちらは優れていなくてはならない。そして、(敵のミサイル発射位置を突き止めて)相手が二発目のパンチを出すのを防げるほど賢くなくてはいけない」とも述べました。
米軍のナンバー2がミサイル迎撃システムの限界をいち早く示す一方で、日本はイージス・アショアの導入を目指してきました。米国防総省が5月18日に発表した最新のデータによると、イージス・アショアに関する日本の米国との契約総額は既に32億3000万ドル(約3470億円)に膨らんでいます。
この契約はアメリカのFMS(対外有償軍事援助)を通じて結ばれています。日本の会計検査院はこれまでも、FMSを通じた契約額がアメリカの言い値になり、日本が不利益を被っていると指摘してきました。
イージス・アショアはそもそも北朝鮮の弾道ミサイル攻撃を念頭に、対抗手段として導入が進められてきました。しかし、その北朝鮮も弾道ミサイル以外にも次々と新型のミサイルを開発しています。
日本はこの際、3500億円近くの高い買い物を米国からするより、事前に相手国の基地などを攻撃する能力「敵基地攻撃能力」の保有を目指すべきです。政府は、この能力について憲法上は認められているが、専守防衛への配慮から政策判断として保有しないとし、実際に攻撃能力を持つ方針を示したことはありません。
この契約はアメリカのFMS(対外有償軍事援助)を通じて結ばれています。日本の会計検査院はこれまでも、FMSを通じた契約額がアメリカの言い値になり、日本が不利益を被っていると指摘してきました。
イージス・アショアはそもそも北朝鮮の弾道ミサイル攻撃を念頭に、対抗手段として導入が進められてきました。しかし、その北朝鮮も弾道ミサイル以外にも次々と新型のミサイルを開発しています。
日本はこの際、3500億円近くの高い買い物を米国からするより、事前に相手国の基地などを攻撃する能力「敵基地攻撃能力」の保有を目指すべきです。政府は、この能力について憲法上は認められているが、専守防衛への配慮から政策判断として保有しないとし、実際に攻撃能力を持つ方針を示したことはありません。
とは言いながら、日本も攻撃型兵器について全く検討されてこなかったわけではありません。昨年3月19日に岩屋防衛大臣(当時)が定例記者会見で「超音速対艦ミサイルASM-3の射程延伸型を開発し、F-2戦闘機の後継となる新型戦闘機への搭載を視野に入れている」と説明しました。開発は完了済みで量産はまだ開始されていないASM-3を改良するという異例の方針でした。
私どもは近年、諸外国の艦艇に射程が長い対空火器の導入がどんどん進んでいることから、これに対応するためには、平成29年度に開発完了した空対艦誘導弾、ASM-3の更なる射程延伸を図るべく早期に研究開発に着手し、順次航空自衛隊に導入していくこととしております。出典:防衛省:防衛大臣記者会見 平成31年3月19日(09:39~10:05)記者会見でASM-3射程延伸型の具体的な射程の数値は説明されませんでしたが、ASM-3の射程150~200kmを倍増する300~400kmを目指して搭載燃料を増加する改修を行うと推定されます。
また外国製の長距離巡航ミサイル取得と並行して進められる計画であるとも明言されています。取得する理由は仮想敵国の軍艦が搭載している艦対空ミサイルの射程が伸びてきたため、これを上回る長射程の対艦ミサイルを装備してスタンドオフ(相手の攻撃が届かないところ)攻撃を行う目的と説明されています。
防衛大臣の記者会見では言及されていませんでしたが、私の推定では「中国海軍の艦対空ミサイルが近い将来に米国製SM-6艦対空ミサイルと同様のデータリンクによる超水平線射撃能力を手にする」という重大な事態への対抗策として、自衛隊はこれに対するスタンドオフ攻撃を行える長距離対艦ミサイルを用意するのだと考えます。相手が古い装備のままなら自衛隊も古い装備のASM-2対艦ミサイルのままでスタンドオフ攻撃を行えますが、もうすぐそうではなくなるのです。
すでに取得が予定されている外国製の長距離巡航ミサイル「JASSM-ER」「LRASM」「JSM」と国産の「ASM-3射程延伸型」で決定的に異なるのは速力です。ASM-3はマッハ3を発揮できる超音速対艦ミサイルであり、この種類の対艦ミサイルは米軍も保有していません。
米軍の新型対艦ミサイルLRASMはマッハ1未満の亜音速で飛翔する遅い巡航ミサイルで、その代わりに射程は800km以上と長くなっています。ASM-3射程延伸型はLRASMと重量がほぼ同じくらいの1.1~1.2トン程度になると予想されますが、超音速飛行の燃費の悪さで射程は400kmが限界です。
亜音速の対艦ミサイルと超音速の対艦ミサイルではこのように性能に一長一短があります。1本あたりの取得費用は超音速型の方が数倍も高価になるので、ASM-3射程延伸型は特別な切り札的な存在として使われることになるでしょう。保有数の少ない貴重な対艦兵器として温存されることになるので、敵基地攻撃用の対地兵器への転用は現時点では全く考慮されていません。
そして当時の防衛大臣の記者会見でASM-3射程延伸型はF-2戦闘機の後継となる新型戦闘機への搭載を視野に入れていることが示唆されました。新型戦闘機が対艦攻撃の主力を担うことが初めて明確になったのです。
そして当時の防衛大臣の記者会見でASM-3射程延伸型はF-2戦闘機の後継となる新型戦闘機への搭載を視野に入れていることが示唆されました。新型戦闘機が対艦攻撃の主力を担うことが初めて明確になったのです。
ただすでに取得予定の長距離巡航ミサイル「JASSM-ER」「LRASM」「JSM」を北朝鮮への敵基地攻撃に使うとは一言も説明していません。
実際に亜音速で飛翔する巡航ミサイルは1000kmも飛ぶと1時間以上掛かってしまい、敵の弾道ミサイル移動発射機が発射準備しているのを見付けてから攻撃しても間に合いません。亜音速の巡航ミサイルは弾道ミサイル阻止には全く役に立たないのです。
今後は、北朝鮮の核基地を迅速に発見し、これを叩く戦略をなるべく早く開発する必要があります。スタンド・オフ攻撃だけに拘らず、航空機にミサイルを搭載し、北朝鮮の近くまで運び発射するという手もあります。北朝鮮の防空システムは、数十年前のままであり、日本の航空機には全く歯が立ちません。
もし北朝鮮を本気で攻撃し北の核兵器を無力化するつもりであれば、空からだけでなく地上からの支援も必要です。地上に要員を配置して、ミサイルをレーザーなどで誘導しなければならないからです。北朝鮮70周年軍事パレードでは超旧式複葉機 「An-2(アントノフ2)」の儀礼飛行も行われた |
つまり「現場の兵士」が必要となるのであり、ミサイルの着弾後も、攻撃目標が間違いなく破壊されたかを確認する必要があります。ミサイルが着弾しても、爆発による煙やホコリが落ち着くまで写真撮影は不可能であり、破壊評価が遅れるので、現場の人員が必要になるのです。そのためには、北朝鮮内に何らかの方法で人員を予め侵入させておき、目標を把握しておかなければならないです。
このようなことは、現状の憲法や法律では、なかなかできないものも含まれています。しかし、イージスショアの配備を中止すれば、これらに対する財政的手当は十分にできます。
さらに、北朝鮮など相手国が日本への攻撃に着手した段階で日本は個別的自衛権行使が可能になるので、日本の攻撃に着手した敵基地への攻撃は専守防衛の範囲内ということになります。敵のミサイルが日本に着弾して被害が出てから行使可能ということではありません。
さらに、北朝鮮など相手国が日本への攻撃に着手した段階で日本は個別的自衛権行使が可能になるので、日本の攻撃に着手した敵基地への攻撃は専守防衛の範囲内ということになります。敵のミサイルが日本に着弾して被害が出てから行使可能ということではありません。
そうして、打撃力を保有していること自体がそれを行使しないまでも、抑止力につながります。中国、北朝鮮等からの高まる軍事的な脅威を踏まえ、日本にとって本当に合理的判断とは何なのでしょうか。憲法9条の改正を含め、国会でも大きな争点として議論すべきです。
【関連記事】