好きなことを仕事にする。よく言われるフレーズではあるが、みなさんの解釈はどのようなものだろうか。ゆかしメディア読者のみなさんは、おおむね次のような解釈をしているのではないか。
@tanakayoshikazuさんがツイートする。
「好きなことをしている、とよく言われる。ただ、僕が好きなことをやるために、どれだけ楽しくなく、苦痛なことを、粘り強く、諦めずやり続け、何かを捨て、多くを犠牲にしているのか、知らない人や想像できない人には、簡単に言われたくないし、自分も同じだと言われると、同じではないと思う」
ツイート主は言うまでもなく、グリー創業者の田中良和氏。
好きなことを仕事にしても、辛いことの方がはるかに多い。ただ、好きだからやり遂げるまで頑張ることができる。楽をしたいならば、好きなことを仕事にしない方が良いだろう。
好きなことを仕事にする、とはそういう意味だ。
【私の論評】好きなことだけをする人は、大成しない、大成するには、規律が不可欠である!!
昔まだ、私がこどもだった時に、あるプロのヴァイオリニストに、「ヴァイオリンを演奏するのは好きですか?好きだとしたら、好きなことを職業とすることは、楽しいことですか」と聴いたことがあります。彼女の答えは、以下のようなものでした。
「私は、ヴァイオリンを演奏するのは、本当に好きです。でも、それを職業とすることは、楽しいことであるとは限りません。どんなときにでも、演奏すべきときには、演奏しなければなりません。また、どんなときでも、日々練習を欠かすことはできまぜん。そうして、プロとして、いつも、技量を落とさないように、さらにうまくなるようにしなければなりません。これが、趣味であれば、どんなに良いことかと思います。あなたが、どう思っているか判りませんが、本当に好きなことは、職業にはせずに、趣味にしておいたほうが良いと私は思います」。
その頃は、そんなものかと思い、長い間忘れていたのですが、あるときこの言葉をはっきりと、思い起こされることがありました。
それは、ドラッカーの書籍を読んだときに、「好きなこととうまくできることは違う」という話が掲載されているのを読んだときです。
人は好きなことを中心に物事を考えがちですが、ドラッカーはそれは違うといいます。お客様に求められ、喜ばれることでうまくできることに焦点を当てるべきなのです。
バイオリンを演奏するアインシュタイン |
ドラッカーは、物理学者のアインシュタインが大変なバイオリン好きで、「オーケストラのメンバーになれるほどの技量が得られるならノーベル賞と引き換えにしてもよい」といったというエピソードを取り上げています。
彼は弦楽器を弾くことが好きで日に四時間も弾いて楽しんだ。しかし弾くことはかれの強みではなかった。彼は数学をやるのは嫌いだといつも言っていた。しかし、彼が天才だったのは数学においてだけだった。
『非営利組織の経営』よりこれは極端なエピソードですが仕事というものの本質を表していると思います。似た話ですが、プロ野球の城島捕手は大変な釣り好きだそうで、釣り雑誌の連載も持っているプロはだしの腕前の持ち主だそうです。
あるインタビューで「釣りを職業にしたい気持ちがありますか?」と尋ねられて「野球と同じ年俸をもらえるなら釣り師になる」といっているのを見ましたつまり城島捕手にとって、釣りの方が野球よりはるかに好きであるということです。
仕事でも好きなやり方で成果が上がらなければ、より成果の上がるやり方が強みであるわけです。それは趣味ではありませんから好きなやり方ではなく成果のあがるやり方を選ぶべきなのです。アインシュタインや、城島捕手の話などから、子供の頃聴いたヴァイオリニストの言ったことの意味が良くわかりました。
なお、ドラッカーは、このことに関連して、別の書籍で以下のようなこともいっています。
「(アメリカで学生運動が運動が盛んだった頃の)学生がいう、好きなことをするという考えは間違いである。事実、好きなことで、大成したものは一人もいなかった。物事を大成するために、必要なのは、好きなことをやることではない。必要なのは、規律である」
どの書籍であるか、思い出せないのですが、確かにこのようなことを言っていました。物事を大成するには、好きなことをするとかしないとかいうことは、ほとんど関係ないということです。それには、規律(discipline)が必要不可欠ということです。本当にそうだと思います。習い事などで本当に好きなことで、趣味でやっているにしても、上達するには、ある程度の規律が必ず必要です。やりたいときだけやって、あとはやらないというのでは、いつまでたっても上達はしません。
たとえ、好きなことであっても、仕事であれば、成果をあげなければなりません。成果をあげるためには、規律が必要だということです。規律なしには、どんなことでも、大成はしないということです。 田中良和氏の言っていることは、そういうことだと思います。
一流のプロが仕事でやるようなことは、一見どんなに、優雅で美しく魅惑的なことに見えることだって、どれだけ楽しくなく、苦痛なことを、粘り強く、諦めずやり続け、何かを捨て、多くを犠牲にして成就していることか。それに、思いが至る人のみが偉大なことを成し遂げられるのだと思います。
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