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2018年6月27日水曜日

中国で元軍人デモが拡大 数千人集結、強制排除でけが人―【私の論評】退役軍人への権利や尊厳が守れない状況では、強軍化の夢どころか体制の根底を揺るがしかねない(゚д゚)!


中国江蘇省鎮江市で目撃者が撮影した、集会の最中に座り込む退役軍人ら(月22日撮影、25日公開)

 中国各地で元軍人らが待遇改善を求めるデモが拡大している。江蘇省鎮江市では数千人規模のデモが発生し、治安当局による強制排除でけが人が出たもようだ。人民解放軍が介入の準備を進めているとの報道もある。

江蘇省(地図の赤い部分) 図表写真はブログ管理に挿入 以下同じ

 鎮江でのデモは今月19日に市政府周辺で始まった。中国南部在住で、デモを支援する元軍関係者の男性(60)は産経新聞の取材に対し、現地に集まった元軍人の数を「4千人程度」と推測。22日から23日にかけて行われたとみられる強制排除でデモ参加者にけが人が出たことも認めた。排除にあたったのが人民武装警察部隊(武警)か、現地の警察部隊かは不明という。

 強制排除を受けて全国各地の元軍人が鎮江へ応援に向かったが、24日以降は当局が元軍人らの移動を厳しく取り締まっている。四川省を出発した数百人が河南省・鄭州の鉄道駅で拘束されたほか、鎮江周辺の高速道路では検問が行われ、元軍人らの市内への移動を阻止しているという。


 インターネット上では鎮江で起きたデモ関連の書き込みや画像などが次々と削除されている。ただ、元軍人らが国旗や共産党旗などを掲げて警察官らに抵抗しながら行進したり、地元住民が水や食料を差し入れる様子を映した動画も拡散している。

香港紙・星島日報は、デモ参加者が近くの校舎に30時間近く拘束されたり、入院先の病院で2日間食事が与えられなかったケースがあったと報道した。また軍が介入する可能性も伝えている。

 米政府系メディア、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が現地住民の話として伝えたところでは、市政府の周辺道路と、強制排除で負傷した元軍人を収容している病院には警察や私服警官が多数配置されているという。

 中国では6月上旬、河南省●(=さんずいに累)河市でも元軍人による数千人規模のデモが発生。中旬にも四川省中江県で、中越戦争で障害を負った元軍人が自宅で警察官に暴行され、それに抗議する数百人規模のデモが行われた。

 中国の退役軍人の数は約5700万人に達するとされ、その待遇をめぐって不満の声が高まっている。中国社会の不安定化につながりかねない問題であり、習近平指導部は退役軍人への保障強化を掲げて4月、国務院(政府)に「退役軍人事務部」を発足させた。

 ただ元軍人らへの保障の多くは財政が逼迫する地方政府に任されており、問題解決の糸口は見えていない状態だ。

【私の論評】退役軍人への権利や尊厳が守れない状況では、強軍化どころか体制の根底を揺るがしかねない(゚д゚)!

中国では、ついこの間、全国のあちこちでトラック運転手の大規模ストライキが起きたばかりです。これについては、このブログでもお伝えしました。

今度は、元軍人たちのデモが起きました。29年前の学生運動とは違って、労働者や元軍人たちが連帯的な反抗活動を始めたことは、「天下大乱の兆し」と見ることができるでしょう。

この軍人の大規模デモは、何も最近ふってわいたわけではなく、2016年にもありました。これについては、このブログにも掲載して解説しています。当時は、あのような大規模なデモは初めてだったので、習近平の権力掌握がうまくいっていないのではと、囁かれました。

さらに、ごく最近でも今年の2月の時点ですでに発生していました。大紀元は、この出来事のついて以下のように伝えています。
中国退役軍人が待遇改善で再抗議、「両会まで続く」=元軍人
 中国の20以上の省から上京した退役軍人は2月22日から24日まで、当局に対して待遇改善政策の実施を訴え大規模なデモを行った。一人の退役軍人は大紀元に対して、3月の全国人民代表大会と全国人民政治協商会議(両会)が開催されるまで、各地の元軍人は今後数回分けて、主要政府機関前でデモを続けていくと話した。 
 米自由アジアオ放送(RFA)によると、現地時間22日に約1万人の退役軍人は、北京市の中国共産党中央紀律検査委員会(中紀委)ビル前で集まり迷彩服を着用し整列しながら、当局が約束した待遇改善政策を着実に実施するようと陳情した。23日早朝に北京警察当局に鎮圧された。その後、退役軍人らが交流サイト(SNS)を通じて、全国各地の元軍人に応援を呼び掛け、24日に各地から駆け付けた一部の元軍人は天安門広場で再びデモを行ったが、また鎮圧された。
今年2月の北京での元軍人によるデモ
 湖北省襄陽市出身の退役軍人の王さんは大紀元に対して、「今回3日間は2万人以上の退役軍人が陳情に参加した。彼たちは2つのグループに分けて北京に入った。両会が開催するまで、第3グループ、第4グループ、第5グループと次々と北京に入るだろう」と話した。 
 中国当局は、退役軍人は社会安定を脅かす者とし、取り締まりの対象と見なしているため、各地の警察当局は地元の退役軍人に対して監視などを強化している。 
 このため、王さんの地元の襄陽市では約50人の退役軍人が24日の応援のために北京に入ろうとしたが、北京に向かう途中で地元の警察当局に阻まれて、北京に入られたのは10人だけだったという。王さん自身も途中で、王さんを尾行した4人の私服警察らに止められた。 
 それでも、王さんは「必ず北京に行く。第3グループに間に合わなかったら、第4グループに参加する。われわれの待遇が改善されない限り、北京でデモを続けていく」と述べた。 
 RFAの報道によると、22日から24日のデモに参加した退役軍人の大多数はすでに地元に強制送還された。また一部は北京市にある地方からの陳情者を拘留する施設に送られた。当局が鎮圧する際、元軍人らを殴打し暴行を加えた。また、当局は北京火車駅で、地方から上京した迷彩服を着る人に対して身分証検査を強化した。
ブログ冒頭の記事にもあった、退役軍人事務部の設置は習近平の肝入りであり、一般の傾向としては、こうした退役軍人問題の責任は習近平の手中にある、という形で、今回の事件の矛先は習近平政権批判に向かいつつあります。


1989年の天安門事件で失脚し、2005年に死去趙紫陽の元秘書、鮑彤は「警察力によって、(退役軍人の)正当な権利を粉砕すれば、(習近平)新時代の社会矛盾が消滅したり緩和したりするとでもいうのか? これが(習近平のスローガンである)治国理政の新理念新方向なのか?」と習近平政権批判につなげています。

鮑彤氏

さて、この事件の背景はまだ謎です。ですが、香港の民主化雑誌「北京の春」の編集長・陳維健がやはりツイッターで興味深いコメントをしていました。
"今回のデモの現場の鎮江は江沢民の故郷の揚州のすぐ隣の地方都市だ。デモと江沢民が関係あるかはわからないが、鎮江政府は(軍による鎮圧という)軽率な対応をしてはならなかった。…退役軍人問題は習近平自身の手中にあり、官僚たちは自分に責任の火の粉がかかるのを恐れて、行動したがらない。この問題を解決するには必要予算があまりにも大きく、鎮圧するにはリスクが高すぎる"
これはには、習近平の宿敵ともいえる江沢民が何らかの形でかかわっているのかもしれません。

また、一部SNS上では、国家安全部二局(国際情報局)がこの事件の背景を調査するために現地入りしたというまことしやかな噂も流れています。中国当局は海外の情報機関の工作を疑っているのでしょうか。

いままでのところ、中国政府からこの事件に対する詳報はなく、多くのがネット上のSNS発情報を引用したものであり、何が事実で、何がデマなのかはまだわからない状況です。

しかし、退役軍人デモが頻発していることは事実です。日本では2016年10月に北京で行われた数千人規模の退役軍人デモのみが大きく報道されましたが、それ以前もありましたし、それ以降も増え続けているのです。2017年も相当規模のものが少なくとも4件はありました。

習近平政権としては退役軍人デモには、他のデモとは違う「話し合い姿勢」を見せており、今回のような武力鎮圧事件に発展したことは意外感があります。習近平の判断というよりは、偶発的な事件をきっかけにした鎮江市の対応の誤りが引き起こした騒動といえそうですが、今後の中央の対応次第では、本当に1989年の六四天安門事件再来の可能性も否定できないと思います。

トランプ米大統領は3月28日、自身のツイッターで退役軍人省のシュルキン長官を解任することを発表し後任には大統領の主治医ロニー・ジャクソン氏を指名しました。退役軍人省は事務手続きが煩雑であることや期間が長すぎということで、退役軍人にはかなり評判が悪い官庁でした。

これを、トランプ大統領は根本的に変えようとしました。はやい話が仕事をしなけば、役人をすぐクビにできるようにしたのです。さらに、効率を良くするために民営化することも検討しているといいます。

とにかく軍人に対して、手厚い支援を積極的にしようという姿勢が見られます。なぜそうなのかといえば、やはり大統領選挙のときに米軍票がかなり大きな役割を果たしたからです。とくに、軍のある程度上のランクの軍人はヒラリー・クリントンを蛇蝎如く嫌っており、軍人誌には、「ヒラリー・クリントンは中国のスパイである」という記事が掲載されたくらいです。

だからこそ、トランプ大統領は、軍人に対する手厚い支援を心がけるのです。これに対して、習近平はどうなのかといえば、元軍人がここ数年は、毎年大規模なデモをするというのですから、トランプ大統領ほどには軍人を大事にはしていないのでしょう。

さらには、中国ならではの特殊事情もあります。そもそも、上記では元軍人という言葉を掲載しましたが、中国には米国のような軍隊は存在しません。

確かに、人民解放軍は核武装までしている軍事組織であることには違いないです。しかし、これは国民を守るための軍隊ではありません。憲法上の定めも、そうはなっていません。あくまで、共産党の下に配置されています。はやい話が、人民解放軍の中国の軍隊ではなく、中国共産党の私兵といっても良い存在なのです。

人民解放軍の使命は、まず第一に共産党を守ることです。そうして、他国に侵略したり、他の公安警察(日本の警察にあたる)などの公権力では力不足で対処できない人民の暴動などを鎮圧・弾圧することです。

さらに、驚くことにこの組織は、大規模な武装をしていながら、独自で様々な事業を営んでいるという不思議な組織です。日本でたとえると、商社のように様々な事業を営んでいます。

人民解放軍の実体は、軍隊ではなく、共産党の私兵であり商社でもある

日本でいえば、商社が武装したような組織が、人民解放軍なのです。そうして、この武装商社は、様々な事業を営んでおり、人民解放軍の幹部は様々な利権を我が物にし、部下もその利権によって様々な面倒をみていました。面倒をみてもらった軍人は、幹部に忠誠を誓っていたのです。

さらには、軍隊内でもさまざまな汚職や、おかしな慣行がはびこっていました。たとえば、ある程度上まで昇進・昇格するには、幹部に対する賄賂が欠かせないという信じがたい慣行もあったりしました。

しかし、習近平は、軍隊のこのような腐敗を撲滅しようとして、かなり多くの幹部らを粛清しました。たしかに、腐敗を撲滅するというのは良いことのようですが、先にも掲載したように、腐れきった組織を是正するには、それなりの準備をして、ある程度の時間をかける必要があったのですが、米国の退役軍人賞にあたる、退役軍人事務部の設置は今年の3月です。

本来なら、もっと早く設置して、具体的に退役軍人に対してどのような支援をしていくのか、明確にすべきでだったでしょう。しかし、民主化も、政治と経済の分離も、法治国家もされていない中国では、このように後手後手にまわってしまったのです。

習近平政権は今世紀半ばまでに、戦争に勝利でき党に従う一流の近代軍隊を作るという強軍化の夢を掲げて軍制改革に踏み出しました。しかし、退役軍人への権利や尊厳が守れない状況で、誰が命をかけて党に忠誠を尽くそうというのでしょうか。このままでは、強軍化の夢どころか、体制の根底を揺るがしかねないです。

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