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2018年6月30日土曜日

JR東労組が「敗北宣言」 スト計画の顛末…3万人脱退、立て直し前途多難―【私の論評】変遷した社会についていけなくなった労組は何をすべきか(゚д゚)!

JR東労組が「敗北宣言」 スト計画の顛末…3万人脱退、立て直し前途多難

JR東労組が組合員にストライキへの参加を呼びかけたとみられる資料

 今年の春闘でストライキ権行使を一時予告したJR東日本の最大労働組合「東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)」では、組織の3分の2にあたる組合員約3万2千人が脱退する事態を招いた。これを受け、JR東労組は6月の定期大会で事実上の敗北とする宣言を採択したもようで、トップの制裁と指導体制の刷新をも行った。それでも会社側との関係修復は困難とみられ、組織立て直しに向けての前途は多難だ。

(※6月18日にアップされた記事を再掲載しています)

スト予告で大量離反

 「3カ月という短期間で組織の3分の2が脱退する事態を生み出してしまった…(中略)…18春闘は『敗北』であると総括した」

 6月13日、さいたま市文化センター。JR東労組は定期大会で、こんな大会宣言を採択したもようだ。ストを計画した結果、組合員の大量離反を招いた事態を受けての“敗北宣言”だった。

 JR東労組は今年の春闘で、組合員の基本給について、一律定額でのベースアップ(ベア)実施などを要求。会社側が難色を示したため、2月19日、自己啓発活動を行わないなどとする「非協力闘争」を東京周辺で先行実施することを会社側へ通知した。3月15日から参加者を限定しての「指名スト」の実施を東京地方本部(地本)の運輸系職場を中心に行う計画だったとされる。

 会社側はスト中止を申し入れるとともに、「社員の皆さんへ」と題した社長名の文書を複数回、配布するなど、社員に向けて会社の姿勢への理解を求めた。

 5日後にはスト予告を解除したJR東労組だったが、会社側は「(信頼の)基盤が失われた」として、労使協調を掲げた「労使共同宣言」の失効を通知。この流れの中で、組合員大量脱退の動きが決定的となった。

 会社側によると、5月1日時点の推定組合員数は約1万5千人で、スト予告前の約4万7千人(2月1日時点)から約7割も減少した。関係者によると、推定加入率でみても、昨年10月時点での約80%が、5月1日時点で約25%まで低下した計算になるという。

組織分裂まで招いた

 スト戦術が招いたのは、組合員の大量脱退だけではなかった。各地の地本がスト戦術積極派と消極派に割れ、路線の違いが鮮明になった。スト実施に積極的だった「強硬派」が東京、八王子、水戸の3地本。消極的だった「穏健派」が盛岡、秋田、仙台、大宮、千葉、横浜の6地本だ。

 穏健派6地本はスト中止後、労組の態勢立て直しを図るべく臨時大会の開催を要求。4月12日に開かれた臨時大会で、「組織内に混乱を作り出した」として執行委員長ら幹部2人に加え、臨時大会開催に強硬に反対して執行委員会を途中退場したなどとして、強硬派3地本の執行委員12人についても制裁を決議した。

 そして迎えた6月13日の定期大会。選出された新執行委員の顔ぶれは、会計監査員以外の役職23人に3地本出身者が皆無という結果になった。

 「ずっと中心的だった3地本出身者がここまで排除されるのは異例」(JR労組関係者)。JR東労組が追い込まれたのは、スト戦術に対する“トラウマ”が多くの組合員にあったからだ。分割民営化(昭和62年)以前の国鉄時代、経営陣の合理化に反発した各労組が事実上のストやサボタージュを繰り返し、国民の信頼を失った過去がある。

 中でも激しい労使交渉で「鬼の動労」と恐れられた「国鉄動力車労働組合(動労)」の系譜は、離合集散を経てJR東労組などに受け継がれた。会社側は労使協調路線を続けていたが、平成22年に同労組の「絶対的指導者」(JR関係者)だった松崎明元委員長が死去して以降、関係は変化し始めていたという。

18春闘で動労千葉は千葉検査派出要員削減反対のストに立ち、
3月30日にDC会館でスト貫徹総決起集会を開いた

 50代のベテラン社員は「ストの先に何があるのか。30年かけて築いた信頼が崩れ、経営が傾く状況さえあり得る」とストを“復活”させようとした戦術に憤りを隠さない。

 今回のスト騒動を受けて、会社側の姿勢は硬化した。業務効率化策への協力などをJR東労組との関係回復の条件としているが、「条件が守られても信頼関係は『マイナス』から『ゼロ』になるだけ。実践の中で慎重に見ていかないといけない」(会社関係者)との考えだ。

不審事案に「内部犯行説」?

 そんな中、JR東日本の管内では、線路上に障害物が置かれるなど妨害とみられる不審事案が多発し、3月以降の3カ月間で計約410件にのぼっている。

 踏切内に植木が置かれていた▽乗務員室扉の内側が損傷した▽発車ベルが持ち去られた-といった被害のほか、JR郡山駅(福島県郡山市)構内では4月、無人車両の車輪止めが外れ、別の車両に衝突した。

 JR東日本は、この車両衝突とともに、他の地域で発生した車内トイレ火災、線路上での自転車と列車の衝突事故の計3件について、威力業務妨害罪などに当たる可能性があるとして警察へ被害届を提出した。さらに、同社は防犯カメラを増設するなどして警備を強化している。

 それぞれの事案の関係性は不明だが、JR東労組は6月13日の大会宣言の中で「現在、JR東日本管内で列車妨害が多発している」としたうえで「一部マスコミでは…(中略)…内部犯行説も流布している。JR東労組を社会的に抹殺していく狙いをも警戒し、鉄道マンとして、乗客や乗務員の命を脅かす列車妨害を跳ね返さなければならない」との見解を示したようだ。

 JR東労組の担当者は「組織固めのため、内部での議論を優先したい。今は外部に対して答えられることはない」と話した。

【私の論評】変遷した社会についていけなくなった労組は何をすべきか(゚д゚)!

JR東日本の敗北宣言は、その労組というか、自治労を含めた日本の労組の将来を示す大きな分岐点になったと思います。7割がたが辞めたというのですから、ただごとではありません。

おそらく、日本の多くの組合は、滅亡するか、あるいは大企業にみられる企業内組合のような存在になっていくことでしょう。

では、企業内組合とはどのようなものか、以下にまとめておきます。

結論から言うと、日本の企業内労組の実態は、人事や経理といった部署と同じく、社内の一部門に過ぎません。その会社の正社員だけで構成されるのだから当然です。人事が経営層や管理職と話をしながら仕事をするのに対し、従業員と話をしながら仕事をするというだけのことです。

そして、実は誰よりも経営目線を持っている組織でもあります。たとえば株主は株売ったらそれっきりですし、経営陣もたいてい数年で卒業しますけど、労組だけは20年30年そこで飯を食っていく前提で考え、行動するからです。結果、日本企業の労組には以下のような特徴がみられます。

長時間残業も厭わない

仕事が増えた場合、普通の国の労組ならこういうはずです。

「忙しい?だったら新しく人を雇えばいいだろう。自分たち労働者には関係ない話だ」

一方、日本企業の労組ならこういう感じです。

「また仕事ですか!いいですねぇ!がんがんこっちにまわしてください。新規採用ですか?人増やしちゃうと暇になった時に誰かがクビになるから残業でなんとかしますよ、三六協定結んで月150時間くらい残業出来るようにして対応しましょう」

同じ理由で全国転勤にも労組は協力的ですね。

ストライキなんて絶対しない

労働基本権の一つであるストライキは憲法でも認められたものですが、わが国ではもう長いこと行われていません。当たり前ですね。ああいうのは業界全体で組織された産別労組みたいなものでやるか、流動的な労働市場の下でやるから意味があるんです。

「会社が傾いてもぜんぜん構わない。いつでも転職できるから」と言える環境でないと出来ないわけです。終身雇用でその後も長く飯を食うであろう会社でストやって売上げ減らしても、自分で自分のクビ締めるようなものですね。

賃上げにこだわらない

他国の労組は賃上げにとても積極的で、経営側がどんなに先行投資や内部留保の重要性を説いても「我々には関係ない、今すぐこれだけ払ってくれ」と主張するものですが、この点でも日本の労組はとても協力的です。経営を安定させ、20年30年先も雇用を守るという視点を労使で共有しているからです。

ここ数年、春闘で政府が賃上げをせっつく一方で連合の要求が控えめなことが話題となっていますが、無理やり賃金水準を上げ過ぎると後から経営を圧迫しかねないと連合は遠慮しているわけです。

まとめると、労働市場の流動性が低く社内労組中心の日本では、労組が率先して残業や転勤に協力し、賃上げには抑制的でストもうたないということです。それを“御用労組”と言えばそうでしょうが、終身雇用の下ではそれがもっとも合理的な選択です。

ちなみに、こうした良好な労使関係を維持するため、多くの大企業ではユニオンショップ協定というものを労使間で結んでいます。これは、その労働組合への加入を従業員に義務付け、脱退した人間を解雇するという労使間での取り決めです。

これにより労組は何にもしなくても正社員を自動的に組合員に出来ますし、組合費も天引きしてもらえます。会社は共産党とか新左翼系の「しゃれですまない労組」の組織内への浸透を抑えられるという強力なメリットがあります。まさに労使一体の象徴のような協定です。

日本の企業内労組は労使協調路線によって戦後の高度成長を支える原動力となりましたが、同時に長時間残業の蔓延や賃金抑制といった副作用も併せ持つという点は留意すべきでしょう。

なぜ労組は弱体化したか

JR東日本は今や一民間企業です。ただし、かつては国鉄だった名残として、強硬な労組の体質が残りましたが、それも年とともに薄れていき、現在に至っているわけです。

さて、労働組合の本来の目的は、労働者の雇用環境の向上や諸条件の維持改善にあります。しかし、近年は著しくその存在感が薄れてきており、全労働者に占める組合員の比率も、戦後は半数を超えていたのですが、現在では20%に満たない状態で、今なお低下し続けています。



では、何が労組の弱体化を招いているのでしょうか。

まずは、過去20年間において、非正規雇用者の割合の推移を見ると、男性が8%だったのが20%近くに、女性では38%だったのが、今では半数以上に急増しています。

しかし、企業内労組も含め労働組合の多くは中高年の正規雇用者で構成されており、積極的な非正規雇用者の保護は、自らの首を絞めることになると考えてしまうため、肥大するそれらの労働者を守ることができずにここまで来てしまったようです。

以前に比べ、従業員を大切にする経営者も増え、一見労働組合は不要に見えるかも知れないですが、検討すべき課題は従来とは異なる場所で発生しています。その辺りについて建設的に意見を交わせる労働組合は組織全体にとってもメリットが大きいでしょう。

改めて労働組合の使命は何か、顧客は誰か、顧客にとっての価値は、といった問いについて整理する必要があります。

特に、過去の20年くらいは日本はデフレ・円高不況に見舞われ、非正規労働が増えていたので、労組の弱体化の要因として、これが最も大きなものだったと考えられます。しかし、これに関しては、日銀の金融緩和政策により、雇用情勢が良くなり、徐々に解消されつつあります。

労組の弱体化要因は、このような流れのほかに、大きな社会の変化があります。それは、2000年あたりを境にして、日本社会が知識社会に突入したということです。


知識社会とは、富の源泉が従来のように、ヒト・モノ・カネという時代から、知識に移行した社会です。

確かに、今でもヒト・モノ・カネが重要ですし、社会の大きな部分が知識社会に移行したとしても、全部が一気に知識社会に移るというわけではなく、まだら模様のように移行していきますから、国民の全部が知識社会に移行したとは言い切れない面もありますが、社会的に最もインパクトがったのは、やはり知識社会への移行です。

知識社会に移行した組織やコミュニティーにおいては、新たな知識を想像したり、知識を仕事に適用しなければ、富や利益を創造することはできません。

通称、ファーストと呼ばれるたリーバイス506XX。1920年頃から1953年(または1952年)
までのかなり長い期間製作された肉体労働者用のデニム・ジャケット。
現在では純粋な肉体労働者は少数派になった。

そうして、知識社会の担い手が、知識労働者やテクノロジストといわれる人々です。現代社会においては、肉体労働のみを行う人はほんの一握りで、きわめて多くの労働者が知識労働と肉体労働の両方を行います。そのような人たちをテクノロジストと呼びます。今やテクノロジストこそ、先進国にとって唯一の競争力要因です。

そうして、経営学の大家ドラッカーは知識労働者は組織を通じてでなければ、成果をあげなければならないとしています。これは、知識労働と肉体労働の両方を行うテクノロジストにもあてはまることです。

ドラッカーは以下のように述べています。
今日では、知識を基盤とする組織が社会の中心である。知識や理論を使うよう学校で教育を受けた人たちのますます多くが組織で働いている。彼らは組織に貢献して初めて成果をあげることができる。(ドラッカー名著集『経営者の条件』)
ドラッカーは、成果をあげることは、新入社員であろうと中堅社員、経営幹部であろうと、彼ら自身の自己実現のための前提だといいます。しかし知識労働者たる者は、組織において、自らをマネジメントしなければならないのです。
動機づけも、組織を通じて成果をあげることにかかっています。組織において成果をあげられなければ、仕事に対する意欲は減退し、九時から五時まで体を動かすだけとなるとしています。
しかも、知識労働者が生み出すものは、知識、アイディア、情報です。彼らのアウトプットは、それだけでは役に立ちません。膨大な知識を得ても、それだけでは意味をなさないのです。
知識労働者には肉体労働者には必要のないことが必要になります。すなわち、自らのアウトプットを他の者に供給することです。他の者のアウトプットと結合させなければ、成果とはなりえないのです。
しかし、組織に働く者は、成果をあげることを要求されながら、それが至って困難であるという状況にあります。時間は他人に取られます。雑用に追われ続けます。
成果をあげるよう意識して努力しないかぎり、まわりを取り巻く現実が彼ら知識労働者を無価値とする。(『経営者の条件』)
このように、知識労働は、そもそも組織を通じて行わなければならず、組織と敵対していては、知識労働者やテクノロジストは成果をあげられないのです。だからこそ、彼らにとっては、会社組織に敵対する旧来の労組には、もともと親和的ではないのです。

だからこそ、日本では上記で述べたような、企業内労組が主流になったのだと思います。ただし、 企業内労組も知識労働者やテクノロジストにとって、労働者の雇用環境の向上や諸条件の維持改善に寄与していないという面があります。

そもそも、肉体労働については、良い仕事に対する良い賃金だけで良かったのです。しかし、知識労働に関しては、そのように単純なものではありません。知識労働については、卓越した仕事に対する卓越した報酬でなければならないのです。知識労働者が求めるものは、肉体労働者よりもはるかに大きいく、異質でさえあるのです。

知識労働者は生計の資だけの仕事では満足できません。彼らの意欲と自負は、知識人としての専門家のものなのです。知識労働者には知識をもって何事かを成し遂げることを欲するのです。したがって、知識労働者には挑戦の機会を与えなければならないのです。

知識労働者に成果をあげさせるべくマネジメントすることは、社会や経済にとってだけではなく、彼ら本人のために不可欠なのです。

知識労働者は、自らがなすべきことは上司ではなく知識によって、人によってではなく目的によって規定されることを要求します。知識には上下も左右もないのです。自らに、関係のある知識とない知識があるだけなのです。したがって知識労働はチームとして組織されます。

仕事の倫理が、仕事の中身、担当する者、期間を決めます。有能なだけの仕事と卓越した仕事の差は大きいです。そこには職人と親方以上のものがあります。知識労働ではこれが顕著に現れるのです。

知識労働は一流を目指さなければならなりません。無難では役に立たないのです。このことがマネジメント上重大な意味をもつとともに、知識労働者自身にとっても重大な意味を持つのです。

そうして、テクノロジストも仕事に知識を適用するということでは、肉体労働を伴うとはいえ、仕事に知識を適用するという点で、やはり卓越した仕事ができる環境を整える必要があるのです。

テクノロジストの典型は外科医。彼らは、手術室で手術という
肉体労働を行が、彼らの仕事は高度な医学知識に基づいている

テクノロジストにも知識労働の比重が非常に高い労働者もいれば、低い労働者もいます。最も知識労働の比重の高いのは、たとえば脳外科医などでしょう。彼らの現場は、手術室であり、彼らは手術室で手術という肉体労働をしますが、その手術は知識に基づいてじっこうされます。

彼らは、狭い空間で糸をすばやく縫う練習をしますが、糸がいくら速く正確に縫えたからといって、脳外科医になれるわけではありません。

そうして、現在の仕事では、ほとんどの仕事が知識を必要とします。ファイルを整理するにも、アルファベットの知識が必要です。

現状では、こうした知識労働者やテクノロジストの要求に、企業組織がようやっと応え始めた段階であり、企業内労組さえまだ応えているとは言えない状況です。

今後、労組も知識社会に対応できなければ、消え行くのみになることでしょう。労組の幹部らは、JR東労組の敗北を他山の石として、改めて労働組合の使命は何か、顧客(肉体労働者から知識労働者とテクノロジストに変化)は誰か、顧客にとっての価値(組織を必要とする、挑戦の機会を必要とする等)は、といった問いに真摯に応える必要があります。

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