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2019年9月16日月曜日

小泉進次郎氏「原発処理水」言動に批判集中! 有本香氏「悪しきポピュリズムの典型」―【私の論評】勉強不足の原因は、主なる情報源がテレビ・新聞だからか?

小泉進次郎氏「原発処理水」言動に批判集中! 有本香氏「悪しきポピュリズムの典型」

        内堀雅雄福島県知事らとの面会後、会見する小泉進次郎環境相=2019年9月12日
        午後4時31分、福島市杉妻町の福島県庁

第4次安倍再改造内閣の目玉である小泉進次郎環境相が、早くも試練に立たされた。東京電力福島第1原発の汚染水浄化後の処理水をめぐり、原田義昭前環境相が「海洋放出しかない」と発言したことを、「(環境相の)所管外」といいながら、関係者にすぐ謝罪をしたからだ。ネット上では、容認派と反対派の双方から批判を浴びる事態となっている。

「福島の漁師の皆さんが、どんな日々を過ごしてきたかに思いをはせなければ、(処理水に関する)発言はできない。今度、福島で採れる(高級魚の)ノドグロを一緒に環境省で食べてみたい」

進次郎氏は13日の記者会見で、こう述べた。

原田氏は退任直前、「私の所管外だが、処理水は思い切って放出し、希釈するほか選択肢はない」と発言した。

すると、進次郎氏は就任当日の11日、「所管外で、(原田氏の)個人的な見解」と強調し、「福島の皆さんの気持ちを、これ以上傷つけないような議論の進め方をしないといけない」と述べた。

翌12日には、福島県の内堀雅雄知事や漁業関係者を訪ね、原田氏の発言は国の方針ではないと釈明し、「率直に申し訳ない」と頭を下げた。

確かに、処理水の海洋放出の可能性については現在、経産省内で慎重に検討が続いており、結論は出ていない。

進次郎氏の対応について、反対派とみられる人々は「所管外で片付ける姿勢に不信感」「無責任」「日本の漁業を潰す気か」「メディアは持ち上げるのをヤメロ」などと批判。容認派とみられる人々は「処理水の海洋放出は問題ないと説明すべきだ」「風評被害を広めて、どうするのか」「処理水の問題解決次第で、進次郎氏の将来が決まる」などと批判や注文を付けた。

夕刊フジで人気コラム「以読制毒」(毎週木曜)を連載するジャーナリストの有本香氏は「悪しきポピュリズムの典型だ」といい、続けた。

「前任の原田氏が、あえて批判の的になることを覚悟して『海洋放出』というボールを投げた。ところが、進次郎氏はじっくり考えずに動いた。世界の事例から考えても、処理水は希釈し、海洋投棄しても何ら問題はない。進次郎氏はその可能性をつぶしたのではないか。進次郎氏は、自らの発信力を『風評被害払拭』に向けるべきだ。寄り添っているフリだけ巧みにしているようでは、今後が心許ない」

【私の論評】勉強不足の原因は、主なる情報源がテレビ・新聞だからか?

原田前環境相の言い分は、9月10日の記者会見での発言です。内容は11日の自身のブログに書かれています。


結論から言えば、詳しくは後から述べますが、科学的見地などから見ても適切な発言です。

一方、後任の小泉環境相は11日の就任記者会見で、原田発言に異論を唱えました

記者からの2つ目の質問への答えだったのですが、いわき市小名浜の漁連組合長を「素晴らしい人」とし、「そうした人たちに寄り添っていくことが大切」という趣旨で、いわば情緒によって科学的な知見に基づく意見を否定してしまった形になりました。

小泉環境相は、先日の結婚会見の際に「理屈じゃない」と述べたと記憶していますが、もしかすると処理水のことについても、そうした直感で判断したのかもしれないです。

今回の小泉環境相の対応のまずさは、第一に、個人名を挙げて政治判断の根拠としている点です。行政は特定個人の意見や利益のために行われるものではありません。憲法第15条にも、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と規定されています。

以下に汚染水「処理」の具体的手順を掲載します。

まず、福島事故での処理水問題は、過去の世界の原発事故では見られなかったものです。東電福島第一原子力発電所では、デブリ(溶融燃料)を冷やし続けるための水や雨水、地下水が放射性物質に汚染され、汚染水が発生しています。

東電は、建屋内に入り込む雨水や地下水をできるだけ少なくしてきました。しかし、汚染水は2014年度平均の1日470トンから減ってきてはいるものの、まだ1日170トン(18年度)あります。

東電は、専用の装置である多核種除去設備 (ALPS)を使って、汚染水からセシウム、ストロンチウムなど62種の放射性物質をおおむね取り除いています。ただ現在の技術では、トリチウムをきちんと除去することは困難です。

こうした現状については、東電の処理水ポータルサイトを見ればわかります。



昨年夏、処理水にはトリチウム以外にも、基準値以上の放射性物質が含まれていることが報じられました。反原発派は、東電の「ALPSによりトリチウム以外は除去している」という言い分は間違っており、東電はウソをついていた、と批判しましたた。
一方の東電は、タンクに貯蔵している処理水の中には基準を満たしていないものがあるのですか、環境に放出する際にはもう一度浄化処理(二次処理)を行い、基準を満たすとしています。なお、このようなデータはきちんと情報公開しており、ウソではないと反論しています。

処理水中のトリチウム以外の放射性物質が基準値以下であれば、水で希釈して、海水に放出しても問題ないです。実際、トリチウムの海洋放出は世界中で行われており、原子力規制委員会も認めています。

もし処理水に、基準値を超える量のトリチウム以外の放射性物質が含まれていれば、基準値以下になるまで再除去を繰り返すだけです。それまで、処理水は保管継続するしかありません。

先のポータルサイトでもわかる通り、汚染水に関する国の「規制基準」には、(1)タンクに貯蔵する場合の基準、(2)環境へ放出する場合の基準(国の告示濃度)の2つがあります。現在、ALPS等の処理水はそのすべてで(1)の基準を満たしていますが、(2)の基準を満たしていないものが8割以上あります。環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、(2)の基準値を満たすとしています。

国際法的には、原発事故のような陸起因海洋汚染に関する詳しい規制は存在しないようだ(https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/publications/PI11_01_nishimoto.html)。日本は国連海洋法条約の締約国として、海洋環境を保護し保全する一般的な義務があり(同条約、第192条)、海洋環境の汚染を防止するために「利用することができる実行可能な最善の手段を用い、かつ自国の能力に応じ」て、必要な措置をとることが求められています(同、第194条1項)。国の告示濃度は、そのための措置のひとつとみなされるでしょう。

なお、韓国でもトリチウムは海洋放出されています(http://agora-web.jp/archives/2041419.html)。

世界中でこのような対応になっていることには、トリチウムに関する科学的な知見が大きく影響しています。

トリチウムとは、中性子を2つ持つ水素の同位体であり、半減期は12・3年で、β崩壊してヘリウムになります。トリチウムの放出するβ線のエネルギーは小さく、被ばくのリスクも極めて小さいです。トリチウムの人体への影響は他の核種に比べて非常に小さいため、海洋放出しても問題ないとされているのです。トリチウムを除去することが技術的・コスト的に難しいという理由もあります。

しかし、どうも反原発派は、「東電がウソをついて、放射性物質入りの処理水を海に流そうとしている」と煽り立てます。これに、風評被害をおそれる人々が反応しています。さらに、「処理水タンクに限界がくる」という話に、「デブリ取り出しや廃炉の作業がさらに遅れる」という話まで付け加わっています。

たしかに、原田前環境相が言った「海洋放出しかない」というのは、政府の見解ではなく、原田氏の個人的な見解にすぎないです。この是非については、今のところ経産省小委員会で議論がなされている段階です。

とはいえ、以上のような科学的知見と、各国で海洋放出が行われているという事実をみれば、いずれ日本政府もそうした見解と対応をとらざるを得ないというのは、多少の行政経験があれば容易に推測できることです。原発推進派であろうと、反原発派であろうと、論理的に考えれば同じ結論になるはずです。

そこへ小泉環境相は、就任記者会見でいきなり持論を述べたのです。会見の際の質疑応答については、秘書官が事前に大臣にレクしているはずです。前日に原田氏が述べた「個人的な見解」について聞かれることも当然に想定内であり、応答要領も伝わっていたでしょう。

原田氏の発言に対して小泉環境相が提示すべきだった「模範解答」は、「それは原田氏個人の意見であり、政府としては早急に結論を出すように努力しているので、私もしっかり意見を述べたい」という程度です。さらに付け加えるとすれば、「原田前環境相もいろいろと苦悩されて、最後に意見を述べたのだと思う。私もよく勉強したい」くらいでしょう。

しかし、就任後いきなり福島訪問を決めた手前、原田氏との違いを強調したいがために、海洋放出に否定的になったのでしょう。はっきり言えば、まったく勉強不足だったのでしょう。

もし小泉氏が処理水についてきちんと勉強し、自らの知見に自信があるのならば、「トリチウムの海洋放出は、世界のどこでも行われている」という客観的事実を述べて、政府内の議論をリードしていくこともできるはずです。

政治家の仕事の一つは、説得です。トリチウム以外は国の告示濃度以下になるまで放射性物質を散り除き、トリチウムは希釈して海洋放棄というのは、世界標準の方法であり、日本でも議論の末、そう決まる公算が高いです。それならば、勇気をもって国民を説得し、先導してゆくのも政治家の役割です。小泉氏の環境相就任は、初入閣にしては厚遇といえます。通例、初入閣の場合は内閣府特命担当相が多いですが、このポストには官僚の人事権がありません。内閣府官僚の人事権は官房長官が持っているからです。

それに比べて、環境相は環境省官僚の人事権を持っているので、そのぶん政策を進めやすいはずです。ここでも、小泉環境相に対する期待が大きいことがわかります。ただし、今のところは勉強不足です。今後、どのように政治家として成長していくかを見守りたいところです。

小泉進次郎氏というと、以前も増税等で不穏当な発言をしていました。増税など、小泉進次郎氏だけではなく、ほとんどの政治家が財務省の増税キャンペーンを信じていたり、マスコミも右にならえの状況でしたので、政治家やマスコミにはあまり叩かれることはなかったようですが、さすがに今回はそうはいかなったものと思います。

おそらく小泉氏は情報源のほとんどを新聞とテレビに頼っていて、そこで自分がどう報じられるかエゴサーチしているのではないかと思います。国民は新聞やテレビから離れつつあります、今後大臣としてまともにやっていけるのか心もとないです。政治家なら、まともな情報源を確保すべきでしょう。そうすれば、自分は何を勉強すればよいのかみえてくるはずです。

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