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2018年12月23日日曜日

米軍シリア撤退の本当の理由「トランプ、エルドアンの裏取引」―【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した(゚д゚)!




 トランプ大統領による米軍のシリア撤退発表は、米政府高官らも驚く突然の決定だった。その背景には、シリアをめぐって「大統領とエルドアン・トルコ大統領の思惑の一致」(ベイルート筋)という“裏取引”が浮かび上がってくる。マティス国防長官はトランプ氏に撤退を思いとどまらせようと最後の説得を試みたが失敗、抗議の辞任に踏み切った。長官の辞任は来年2月の予定。

反対押し切り独断で決定
 撤退の発表は唐突にツイッターで行うというまさに「トランプ流」だった。トランプ大統領は12月19日のツイッターで「イスラム国(IS)に歴史的な勝利を収めた。いまこそ米国の若者たちを帰国させる時だ」と宣言。この発表は米政府だけではなく、シリアに関与してきた中東各国やロシア、イラン、そして米国と組んでISを壊滅させた有志連合諸国を驚がくさせた。

 とりわけ、米国の求めに応じてIS壊滅に多くの血を流してきたシリアのクルド人の衝撃は大きかった。クルド人は将来のクルド人国家の実現を米国が後押ししてくれるという期待があるからこそ、IS攻撃の地上戦の主力を担った。それだけに「裏切られ、梯子を外された」(同)との怒りは強い。

 シリアについては、トランプ大統領は選挙公約で、IS壊滅後、早急に米部隊を撤退させると主張し、今年4月にも盛んに撤退論を繰り返した。しかし、マティス国防長官ら政権内の安全保障チームが強く反対、9月になって大統領はIS壊滅後も敵性国イランの影響力拡大を阻止するため、小規模の部隊をシリア領内に残すことに同意し、シリア政策を変更した。

 事実、大統領の信頼が厚いボルトン補佐官(国家安全保障担当)は当時、「イランの部隊が展開している限り、われわれが撤収することはない」と言明していたし、米政府のマクガーク有志連合代表もつい先週、ISを物理的に壊滅させても、われわれはこの地域の安定が維持されるまで留まる」と述べていた。

 政策が変わったのは大統領がツイッターで撤退を公表した前日の18日だ。ワシントン・ポスト紙などによると、この日、ホワイトハウスでごく少人数の秘密会議が開催された。出席者はトランプ大統領、ポンペオ国務長官、マティス国防長官、ボルトン大統領補佐官らだった。

 この席で大統領がシリアから部隊を撤退させたい意向を表明。これに対し、出席者のほとんどはIS掃討作戦がまだ完全には終わっていないこと、イランやロシアの影響力拡大を食い止める必要があること、米部隊が撤退すれば、混乱が生まれかねないことなどを主張して反対した。だが、大統領は反対論を強引に押し切った。

 シリアの米部隊は公式には503人だが、実際には4000人弱の規模と見られている。ほとんどが特殊部隊で、クルド人に訓練や武器援助し、ユーフラテス川の北東部に駐留。クルド人とともに、シリア全土の3分の1を支配下に置いている。トランプ大統領は30日以内に撤退するよう指示した、という。

取引の中身

 撤退の決定は1国の指導者を除いて事前に伝えられることはなかった。その指導者とはトルコのエルドアン大統領である。両首脳はサウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、カショギ氏殺害事件について先の20カ国・地域(G20)首脳会合の場で話し合い、続いて12月14日に電話会談した。

 トランプ大統領が撤退の決定をする要因となったのがこの電話会談だったようだ。エルドアン大統領はこの直前、テロリストと見なすシリアのクルド人勢力の脅威を取り除くため、数日中にシリアに侵攻すると恫喝、事実、シリアとの国境に軍や戦車を集結させ、巻き込まれないよう米軍に警告していた。

 同紙によると、エルドアン大統領はこの電話会談で、シリアのクルド人はテロリスト集団であること、ISはすでに掃討されているのに、米軍が駐留する必要性はないこと、有事の際には北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であるトルコが対処するので心配ないことなどを伝えたという。

 また、特筆すべきはトルコが1年以上も求め続けてきたパトリオット迎撃ミサイルの売却について、トランプ政権が撤退の決定と同時期に承認し、議会に通告した点だ。政権内部では、エルドアン氏がロシアから最新の迎撃ミサイル・システムを購入するなどしたため、パトリオットの売却に反対論が噴出していた。しかし、トランプ大統領は今回、エルドアン氏の要求をのんだことになる。

 いずれにせよ、大統領はエルドアン氏の説得に応じて撤退に傾いたことが濃厚だ。大統領にしてみれば、選挙公約であるシリアからの軍撤退を実現し、仮にトルコが侵攻しても、米兵が巻き添えを食うことはなくなる。カショギ氏殺害事件についても、撤退を条件に「トルコがサウジの責任追及をやめる」約束を取り付けた可能性すらある。

 トランプ大統領は現在、ロシアゲートや不倫もみ消し事件、大統領就任式準備委員会の不正など様々な疑惑追及にさらされている。しかも民主党が下院の多数派を握ったことで、弾劾の可能性が現実味を帯びてきている。このため、シリアからの軍撤退を発表することで、こうした厳しい追及を逸らす意図もあるかもしれない。

 エルドアン大統領にとってみれば、米軍の撤退で目の上のコブが消え、シリアに侵攻し、最大の懸案だったクルド人の勢力拡大に歯止めを掛けることが可能になる。トランプ大統領が米国に居住している政敵のイスラム指導者ギュレン師を強制送還してくれる、という期待もあるだろう。カショギ氏殺害事件の追及をやめても十分お釣りがくる計算だ。

「私には辞任の権利がある」

 撤退には一貫して反対してきたマティス国防長官は20日、大統領を翻意させようとホワイトハウスに赴き、最後の説得を試みたが、大統領は耳を貸さなかった。長官は提出した辞表で「大統領には考え方の近い国防長官を持つ権利があり、私には辞任の権利がある」と述べた。

 マティス長官は同盟国との国際協調を重視し、大統領の“暴走”にブレーキを掛けてきた。だが、長官の辞任により、政権内に大統領に直言できる人物はいなくなり、大統領の米国第一主義に基づく行動が加速することになるだろう。

 マティス氏は大統領から請われて国防長官に就いた。大統領は当初、長官をあだ名の「マッド・ドッグ」(勇者)と呼んで称賛、大のお気に入りだった。だが、大統領の戦略なき衝動行動を諫めているうちに遠ざけられ始め、ここ数カ月は話もできないような関係になっていた。

 とりわけ長官が次の統合参謀本部議長にゴールドフィン空軍参謀長を推挙したのに、大統領がこれを無視、ミリー陸軍参謀長を選んだのは長官への当てつけだった。北朝鮮との交渉でも、長官は外され、長官が大統領に見切りをつけるのは時間の問題と見られていた。

 トランプ大統領は将軍好きといわれ、就任当初からマティス長官のほか、フリン補佐官(辞任)、マクマスター補佐官(同)、ケリー国土安全保障長官(当時、後に首席補佐官)ら将軍を重用した。しかし、ケリー氏は年内で更迭されることが確定し、残るのはマティス将軍だけとなっていた。

【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した(゚д゚)!

トルコ紙ヒュリエト(電子版)は21日、トランプ米大統領がシリアからの米軍部隊撤収を決断したのは、14日に行われたエルドアン・トルコ大統領との電話会談の最中だったと報じました。
エルドアン・トルコ大統領

それによると、トランプ氏は電話の中で、「われわれが撤収したら、(トルコが)過激派組織『イスラム国』(IS)の残存勢力を一掃できるのか」と質問。エルドアン氏は、IS掃討でトルコがテロ組織とみなすクルド人勢力に頼る必要はないと強調し、「われわれがやる」と答えました。

この直後、トランプ氏は電話会談が続く中で、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)に撤収に向けた準備に取りかかるよう指示したといいます。

トルコのアナトリア通信はこれより先、14日の電話会談について、両首脳がシリア情勢をめぐり調整を行うことで合意したと伝えていました。トルコのチャブシオール外相は21日、撤収を歓迎すると述べた。

以上のことは、多くの人々に驚天動地の出来事であったかもしれません。しかし、米国の戦略家ルトワック氏の米国のあるべきシリア戦略について知っていればそのようなことはなかったかもしれません。

これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。
アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!
シリアの首都ダマスカス。アサド大統領のポスターの前で警備に当たるロシア軍とシリア軍兵士。
米軍が大規模な攻撃を仕掛ければ、ロシアとぶつかる危険がある

 ルトワックが2013年にシリアに関する記事をニュヨークタイムズに寄稿をしています。その中に戦略が掲載されています。その記事のリンクを以下に掲載します。
In Syria, America Loses if Either Side Wins

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に翻訳を掲載します。
どちらが勝ってもアメリカはシリアで敗北する
2013年 8月24日 byエドワード・ルトワック
先週の水曜日のニュースでは、シリアの首都ダマスカスの郊外で化学兵器が使われたことが報じられた。人権活動家によれば、これによって数百人の民間人が殺害されたということであり、エジプトの危機のほうが悪化しているにもかかわらず、シリアの内戦がアメリカ政府の関心を引きはじめた。 
しかしオバマ政権はシリアの内戦に介入してはならない。なぜならこの内戦では、そのどちらの側が勝ったとしてもアメリカにとっては望ましくない結果を引き起こすことになるからだ。 
現時点では、アメリカの権益にダメージを与えない唯一の選択肢は「長期的な行き詰まり状態」である。 
実際のところ、もしシリアのアサド政権が反政府活動を完全に制圧して国の支配権を取り戻して秩序を回復してしまえば、これは大災害になる。 
カギを握るのは、イランからの資金や武器、そして兵員たちやヘズボラの兵士たちであり、アサド氏の勝利はイランのシーア派とヘズボラの権力と威光を劇的に認めさせることになり、レバノンとの近さのおかげで、スンニ派のアラブ諸国やイスラエルにとって直接的な脅威となる。 
ところが反政府勢力側の勝利も、アメリカやヨーロッパ・中東の多くの同盟国たちにとっても極めて危険である。その理由は、原理主義グループたち(そのうちの幾つかはアルカイダだと指摘されている)が、シリアにおける最も強力な兵力になるからだ。 
もしこれらの反政府勢力が勝利するようなことになれば、彼らがアメリカに対して敵対的な政府をつくることになるのはほぼ確実だ。さらにいえば、イスラエルはその北側の国境の向こうのシリアにおいてジハード主義者たちが勝利したとなれば、平穏でいられるわけがない。 
反政府運動が二年前に始まった時点では、このような状況になるとは思えなかった。当時はシリア国内全体が、アサド政権の独裁状態を終わらせようとしていたように見えたからだ。 
その頃は穏健派がアサド政権にとって代わることも現実としてありえる感じであった。なぜならそのような考え方をもつ人々が国の大半を占めていたからだ。 
また戦闘がここまで長引くことも考えられなかった。長い国境線を接している隣国で、はるかに巨大な国で強力な陸軍を持つトルコが、その力を使って介入してくることも考えられたからだ。実際に2011年の半ばにシリアで内戦がはじまると、トルコのエルドアン首相はすぐにその内戦を終結させるようシリアに要求している。 
ところがアサド政権の報道官はそれに屈する代わりにエルドアン首相をバカにする発言を行い、軍はトルコの戦闘機を撃ち落とすという行動をとったのだ。さらにそれまでにトルコ領内に繰り返し砲撃を行っており、トルコとの国境では車に爆弾をしかけて爆破させている。 
ところが驚くべきことに、トルコ側からは何も復讐はなかった。その理由は、トルコ領内に大規模な少数派民族(ブログ管理人注:クルド人のこと)がいて火種をかかえており、彼らは政府を信用していないだけでなく、トルコ軍も信用していないからだ。 
そういうわけで、トルコは権力を行使するどころか、むしろ機能停止状態であり、エルドアン首相はシリア内戦をすぐそばで眺める、単なる傍観者にしかなれていないのだ。 
結果として、アメリカはトルコが支援した反政府勢力にたいして武器やインテリジェンス、それにアドバイスを行うことができず、シリアは無政府的な暴力による混乱に陥ることになったのだ。 
内戦は小さな軍閥やあらゆる種類の危険な原理主義者によって闘われている。たとえばタリバン式のサラフィー派の狂信主義者は、熱心なスンニ派まで殺害しているのだが、これは彼らがスンニ派の異質なやり方をマネすることができなかったからだ。 
スンニ派の原理主義者たちは無実のアラウィー派やキリスト教徒を殺しているのだが、その理由は単に彼らの宗教が違うからだ。そしてイラクをはじめとする世界中からのジハード主義者たちは、シリアをアメリカやヨーロッパにたいするグローバルなジハード運動の拠点にすることを宣伝している。 
このような悪化する状況を踏まえると、どちらかの勢力が決定的な結果を出すことも、アメリカにとっては許容できないことになる。イランが支援したアサド政権の復活は、中東においてイランの権力と立場を上げることになるし、原理主義者が支配している反政府勢力の勝利は、アルカイダのテロの波を新たに発生させることになるのだ。 
よって、アメリカにとって望ましいと思える結末は「勝負のつかない引き分け」である。 
アサドの軍隊を拘束し、イランとヘズボラの同盟をアルカイダと共闘している原理主義の戦闘員たちとの戦争に引きこませておくことによって、ワシントン政府は四つの敵を互いに戦争をしている状態におくことなり、アメリカやアメリカの同盟国たちへ攻撃を行うことを防げるのだ。 
これが現在の最適なオプションなのだが、これは不運であると同時に、悲劇でもある。しかしこれを選択することは、シリアの人々にとって残酷な仕打ちになるというわけではない。なぜならそれらの多くが全く同じ状態に直面しているからだ。 
非スンニ派のシリア人は、もし反政府勢力が勝てば社会的な排除か虐殺に直面することになるし、非原理主義のスンニ派の多数派の人々は、もしアサド政府側が勝てば新たな政治的抑圧に直面するのだ。そして反政府勢力が勝てば、穏健なスンニ派は原理主義的な支配者たちによって政治的に排除され、国内には激しい禁止条項が次々と制定されることになる。 
アメリカは「行き詰まり状態」を維持することを目標とすべきだ。そしてこれを達成する唯一の方法は、アサド側の軍隊が勝ちそうになったら反政府勢力に武器を渡し、もし反政府勢力側が勝利しそうになったら武器の供給を止めるということだ。 
この戦略は、実はこれまでのオバマ政権が採用してきた政策である。オバマ大統領の慎重な姿勢を「皮肉な消極的態度だ」として非難している人々は、その対案を示すべきであろう。アメリカが全力で介入して、アサド政権をとそれに対抗している原理主義者たちをどちらも倒すということだろうか? 
こうなるとアメリカはシリアを占領することになるが、現在アメリカ国内でこのような費用のかかる中東での軍事的な冒険を支持する人はほとんどいないだろう。 
どちらか一方にとって決定的な動きをすることは、アメリカを危険にさらすことになる。現段階では「行き詰まり状態」が唯一残された実行可能な選択肢なのだ。
その後ご存知のように、ISが勃興して、シリア・イラクの大部分を制圧したのですが、 現在はこの勢力はほとんど一掃されました。そうして、現状はこのルトワックの記事の頃に戻ったような状態です。

ルトワックの提唱する戦略は、アサドの軍隊をクルド人勢力などの反政府勢力と戦わせておいて、アサド側の軍隊が勝ちそうになったら反政府勢力に武器を渡し、もし反政府勢力側が勝利しそうになったら武器の供給を止めるという「行き詰まり状況」を維持するということです。

ただし、ここにきて状況が変わってきました。エルドアン首相はシリア内戦をすぐそばで眺める、単なる傍観者であることをやめて、権力を行使するとトランプ大統領に表明したわけです。

トルコ軍の特殊部隊

エルドアン首相は、トランプ氏に対して、ISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明したのです。トランプ大統領としては、この状況であれは、米国としては、この地域に関してはNATOの同盟国でもあるトルコに任せるべきと判断したのでしょう。

シリアに対してはトルコに対峙させ、米国はこれを支援するようにし、トルコが劣勢になれば、米国が軍事的、資金的に支援すれば良いと考えたのでしょう。パトリオット迎撃ミサイルの売却はその意図の現れです。トランプ大統領は、クルド人勢力に変わる、シリアへの拮抗勢力としてのトルコに期待したのでしょう。

しかし、これはトルコという新しいプレイヤーが登場したというだけで、本質的にはルトワックの戦略と変わりはないのかもしれません。米国はトルコがすぐにアサド政権を打倒できるとは考えていないでしょうが、当面「行き詰まり状態」を維持できることになります。

これで、米国としてはシリアに拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると考えたのでしょう。それに、トランプ氏のIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約も果たせることになります。

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