振り込め詐欺「道具屋」ら逮捕(この内容すでにご存知の方は、この項は読み飛ばしてください)
他人になりすまして養子縁組や戸籍を移動させるなど文書を偽造した疑いで、振り込め詐欺用の口座を作るいわゆる「道具屋」の3人が電磁的公正証書原本不実記録の疑いで警視庁に逮捕されました。
今月9日に逮捕されたのは埼玉県の無職・細井昭宏容疑者と男女それぞれ1人の合わせて3人です。警視庁によりますと、細井容疑者らは共謀して市役所から住所を削除されたいわゆる「職権消除者」の38歳の男性になりすまし、勝手に養子縁組や戸籍を移動させて架空の住民票を作り、銀行の口座を開設していました。これまでにおよそ500口座を作り、振り込め詐欺グループに1口座5万円ほどで売って2500万円以上を荒稼ぎしていました。
なぜかくも、彼らはバーチャル需要を喚起できるのか(2)?!
警察の必死の捜索などにも限らず、未だ振り込め詐欺の被害はなくなりません。場合によっては、数百万円ものお金を騙し取られる被害者も存在するなど未だ多くの振り込め詐欺グループが暗躍しています。
しかし、これだけ不景気の時代に、なぜ彼はは、かくもお金を騙し取れるのか? これに関しては、以前もこのブログで掲載しました。要するに、彼らの大半は、実は以前コールセンターに勤めていた経験があり、そのときのノウハウを生かしてこれらの詐欺行為を働いているのです。
その、ノウハウとは、オペレーション設計書にあります。電話番号を応えたり、お客様窓口以外の実際にモノを販売する、営業を推進するコールセンターでは、オペレータが電話をかける際のかけ方をオペレーション設計書というものにまとめています。オペレーターは、これを見て、練習して電話をかけます。この設計書には、ありとあらゆる場合を考えて、いろいろな対応の仕方を書いてあります。
コールセンターのオペレーターは、これを日々練習しています。場合によっては、読み合わせをしたり、ロールプレイングをしたりして、練習をします。コールセンターによては、FAQ(頻繁に聞かれる質問への対応集)も作っているいるところもあります。
振り込め詐欺の主犯格は、こうしたオペレーションを統括する、SV(スーパーバイザー)のノウハウを持っているのです。さらに、注目すべきは、こうした高度なノウハウを用いるほかに、事業全体をバーチャル企業化しているということです。
要するに、主犯格のリーダと、5人以下程度の実行グループがいて、これらが本部の役割を担っています。被害者に電話をかけるオペレーターは、これらのグループがリクルートしていて、おそらく、互いに顔も知らず、振込みがあった場合、本部側がキックバックしているのだと思います。本部側がこれらのオペレーターにオペレーション設計書を発信し、あとは電話をかけて、読みあわせや、ロールプレイングをしているのだと思います。オペレーターがたくさんいる場合には、能力の低いものには連絡をしない、仕事を与えないなどのことをしているのだと思います。能力のあるオペレーターに関しては、どんどん仕事を与えているのだと思います。
さらに、今回明らかになったように、お金の出し入れをするというような、多数の口座を作り出すというキャッシュフローにかかわる部門は、また別のグルーフにやらせているということです。他にもいろいろと、本筋ではない仕事を他にやらせているということも考えられます。言葉は、忘れましだが、実際にお金を引き出すグループもいました。
こうして、本部であるリーダー格を中心とした、せいぜい5~6人程度のグループ化、多数のオペレータを動かし、さらには、口座を作り出すグループ(道具屋)、実際に口座からお金を引き出すグループなどを組織化し、一つの有機体にまで高めています。一つの有機体になってはいるのですが、互いに素性も連絡先も良くわからないようにしているのだと思います。
このやり方、最近IT企業にも見られる最新の企業運営方式と似ています。いわゆるアンバンドリングという手法です。バンドリングとは結ぶとか、結集するという意味です。アンバンドリングとは、その逆で、解くとか、ばらばらにするという意味です。企業経営において、何もかも内成化(自前で持つ)というのが、バンドリングです。そうではなく、外注化するといのがアンバンドリングです。企業経営においては、いわゆるIT関連などかなりアンバンドリングが進んでいます。
最近の企業経営ではいわゆる知識産業化していて、あらゆる業務が専門特化しており、たまにしか使わないような専門家の専門知識などを普段から用意しておくことなどは、ひじょうに不経済なので、外注化していることが多いです。これをさらに一歩進めると、いわゆるバーチャル企業というやり方になります。これは、自らは、あまり多くの経営資源を直接持つことなく、ある特定の能力に特化するかわりに、多くの企業と関係を構築しておき、何かあった場合他社の経営資源を使えるようにしておきます。
そうして、何か大きな仕事が発生するたびに、自らがコーディネーターになったり、場合によっては他社がコーディネーターになって、複数の会社を一つの仕事に向かって統合して一つの大きな仕事を遂行するという方式です。複数の会社が一つの仕事をすることによって、実際的は大企業と変わりがない仕事ができます。さらに、個々の会社では多数の専門家をかかえることなく、合理的な経営ができるということです。
この詐欺の実行犯、要するにアンバンドリングして、さらにバーチャル企業の領域に踏み込んでいるということです。だからこそ、これだけ追求の手が厳しくても、場合によっては、素性がばれそうになったグループは切り捨てて、新しいグルーブを採用するなどして、何とか命脈を保っているのだと思います。このグループは、犯罪、金儲けということで、一つの共同体にまとまっているのだと思います。
しかし、こうした詐欺グループの主犯格、こうした新しいやり方を推進する能力があるのですから、詐欺ではなく普通の商売、事業をやれば、能力を発揮して、警察にも捕まらないですむのにと思ってしまいます。本当に、これだけ能力があるのなら、犯罪、金儲けではなく、世の中に役に立つようなことで、社会に貢献する人になってもらいたいです。それとともに、こうした詐欺グループのやり口は、確かに犯罪ではありますが、企業経営者にとっても多いに学ぶことができる点があるのではないかと思います。
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