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2017年5月26日金曜日

南シナ海航行で米艦が「機動演習」、中国の領海主張を否定―【私の論評】中国の世界からの孤立は避けられない(゚д゚)!

南シナ海航行で米艦が「機動演習」、中国の領海主張を否定


   米当局者は25日、米海軍の駆逐艦「デューイ」が南シナ海で中国が造成した人工島から12カイリ(約22キロ)内を航行した際、中国に領海を主張する権利はないということを示すため、「機動演習」を行ったと明らかにした。

    デューイは太平洋時間25日に南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島のミスチーフ環礁付近を航行。トランプ政権の発足後初めてとなる「航行の自由作戦」を実施し、中国の反発を招いた。

   中国国防省報道官は25日、今回の駆逐艦の航行について米国に厳しく抗議したと述べ、米国のこうした動きは南シナ海の平和と安定に資するものではないとの認識を示した。



    アナリストによると、これまでの米国によるスプラトリー諸島付近での「航行の自由作戦」は、軍艦が停止することなく速やかに航行し、事実上領海を認める「無害通航」だった。

しかし米当局者によると、デューイは25日の12カイリ内の航行が無害通航ではないことを示す目的で、「落水者救助」訓練を実施したという。

当局者の1人は「船舶の行動は、人工島が造成されたかどうかにかかわらず、ミスチーフ環礁を領海と主張する権利はないということを示した」と語った。

<今後も続行>
米国防総省のロス報道官は、航行の自由作戦について、特定の国に限られたものではないとし、これらの作戦の概要を年次報告で公表する方針を示した。「これまで同様、定期的な実施を続けており、今後も続けていく」と語った。同省は25日の作戦について確認していない。

また、スーザン・ソーントン米国務次官補代行(東アジア太平洋担当)は26日、南シナ海を巡る米国の政策はトランプ政権下でも変わっていないとの立場を示した。

当地で行った記者会見で同国務次官補代行は、北朝鮮に対する追加制裁の可能性について中国が消極的になった兆候は見られないとも述べた。

【私の論評】中国の世界からの孤立は避けられない(゚д゚)!

中国はトランプを「買収しやすいビジネスマン大統領」と見ていたが、トランプは初の米中会談に合わせてシリア空爆を実行するという想定外のパンチを習近平にお見舞いしました。

国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は、昨年中国が南シナ海に設定した独自の境界線「九段線」には国際法上の法的根拠がないと認定しました。

同裁判所はこのほか、「南沙諸島には排他的経済水域(EEZ)を設けられる国連海洋法条約上の『島』はなく、中国はEEZを主張できない」「中国がスカボロー礁でフィリピン漁民を締め出したのは国際法違反」「ミスチーフ礁とセカンドトーマス礁はフィリピンのEEZ内にある」などと認定。中国の主張をほとんど退け、中国の国際的孤立を浮き彫りにしましました。

すると、中国は逆上したふりをし、「違法茶番劇」(中国メディア)、「紙くず(注――裁判所の判決)に外交努力が邪魔されるべきではない」(駐米大使)と批判して、領有権問題は当事者間の対話で解決されるべきだと、中国政府の従来の主張を繰り返しました。

トランプ・習近平会談
中国は米中二国間対話を進めれば、世界から孤立しないと思い込んでいたようでした。そうして、中国はトランプ新大統領を「買収しやすいビジネスマン大統領」と見ていたようですが、トランプは初の米中会談に合わせてシリア空爆を実行するという想定外のパンチを習近平にお見舞いしました。

それでも、習近平は、トランプ大統領から北朝鮮制裁という宿題をつきつけられ、二国間の話し合いをすれば、世界から孤立することはないと期待し始めたようです。

しかし、これは今回の米海軍の駆逐艦「デューイ」が南シナ海での「機動演習」によって見事裏切られてしまいました。

エドワード・ルトワック氏
そもそも、このような期待をすること自体が、中国の錯誤なのです。米国の世界的な戦略家であるエドワード・ルトワック氏は以前このブログでも紹介した「中国4.0――暴発する中華帝国」(文春新書)の中で、中国の動きを予測するかのように書いています。
(ベトナムのような)小国は圧倒的なパワーを持つ中国と二国間交渉をするはずはなく、他国の支援、同盟によって対抗しようとする。ベトナムより大きい日本でも同様だ。
中国が大きくなればなるほど、それに対抗しようとする同盟も大きくなるのです。中国が日本に対して圧力をかけようとすると、アメリカが助けに来るし、べトナム、フィリピン、それにインドネシアなども次々と日本の支持にまわり、この流れの帰結として、中国は最初の時点よりも弱い立場追い込まれることになります。これが「中国の錯誤の」核心です。

昨年からの、安倍首相の活発な海外歴訪が示すように、実際の昨今の動きはそうなってきています。その分、国際法を無視する中国の孤立化が進んでいます。オランダの仲裁裁判所の判決はその決定打であり、米海軍の駆逐艦「デューイ」が南シナ海での「機動演習」はさらにそれに追い打ちをかけたものというべきものなのですが、中国はそれに気付いていないか、あるいは気付いていても対応を変えられないのです。

ルトワック氏の「チャイナ4.0」とは、かつて国民党軍の高官が酔っ払って書いた「九段戦」という馬鹿げた地図を放棄し、アメリカの警戒感を解消するために空母の建設を放棄することを意味しています。
(このチャイナ4.0は)今の中国にとって究極の最適な戦略だが、現在の中国にはおそらく実行不可能だ
しかし、中国は空母の建設を放棄するどころか、最近さらに新空母「大連」を建造しました。

中国初の国産空母とされる「大連」 
どうして、このようなことになってしまうかといえば、1つは今の中国は内向きで海外の正確な情報が習近平にまで届かず、極めて不安定だからです。また、外国を理解できず、「自分たちこそ世界一、後の国は我々の家来だ」という昔ながら「冊封体制」のメンタリティが外国への理解を阻んでしまうのです。2000年代半ば以降の経済大国化の幻想、過信が「冊封」メンタリティをさらに高め、それが大きな弊害となっているのです。
今1つは習近平がチャイナ4.0を思いついたとしても、彼は人民解放軍に殺されるかもしれないし、人員解放軍がわざと対外危機を起こすかも知れない
世界の大国にのし上がりながら、北朝鮮とそれほど変わらない独裁国家の不安定性が増長されています。まさに、「今そこにある危機」なのです。

北朝鮮の度重なるミサイル発射に対抗して、米国は朝鮮半島付近に大艦隊を派遣していますが、これは無論北朝鮮に対するものではありますが、中国に対するものでもあるのです。

南シナ海で洋上燃料補給のために待機する米海軍のミサイル駆逐艦デューイ(2017年5月19日)
では、こうした「今そこにある危機」に対して、日本はどうすればいいのでしょうか。日本人は今、昨今の尖閣領域への中国軍の侵入の増加などから「中国政府が軍をコントロールできていないために、現場が暴走するのではないか」という懸念を持っています。ルトワック氏は「この懸念は実に真っ当なもの」として対中「封じ込め政策」を提案しています。

その提案は結論から言えば「尖閣領域のような小さな島の問題はアメリカに頼らず、自分でやれ」ということです。

米国は核抑止や大規模な本土侵略に対する抑止は日米条約によって提供します。しかし、島嶼奪還のような小規模なことにまで責任は持てないのです。これは「日本が自分で担うべき責任の範囲」なのです。

ルトワック氏は戦略家として米国の軍事戦略にも深くかかわっています。だから、この姿勢は米政府もほぼ同様だ、と言って良いです。

島嶼防衛は日本独自の責務でなのです。そのためには多元的な対中封じ込め戦略が不可欠だ、と提案しています。
(海上保安庁、海上自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊、外務省などが)独自の対応策を考えておくべきなのである。「多元的能力」を予め備えておくことによって、尖閣に関する「封じ込め政策」は、初めて実行可能なものとなる
その際、「慎重で忍耐強い対応」という日本の役所の大好きな「先延ばし戦略」は逆効果だ、とルトワック氏は警告いています。

そもそも中国は、(過去)15年のうちに三度も政策を変更しています。さらに作戦レベルや現場レベルで、ソ連でさえ決して許さなかったような軍事冒険主義が実質的に容認されています。

昨今の東シナ海、南シナ海での中国海軍の危なっかしい行動にそれが現れています。
これに対抗するには、有事に自動的に発動される迅速な対応策が予め用意されていなければならない。中国が突然、尖閣に上陸したとき、それに素早く対応できず、そこから対応策を検討したり、アメリカに相談をもちかけたりするようでは、大きな失敗につながるだろう
自分でやらずに、すぐにアメリカに頼る日本の外務省の体質を熟知したような指摘です。そして外務省も尖閣侵入のような有事に備えて海外諸国と連携した対応策を容易しておかねばならない、と説いています。

例えば、中国との貿易が多いEU(欧州連合)に依頼して、中国からの貨物処理のスピードを遅らせるよう手配するのです。
こうすれば中国はグローバルな規模で実質的に「貿易取引禁止状態」に直面することになりねかなり深刻な状況に追い込まれるはずだ
大事なのは、こうした具体的な行動が自力で実現できるように、平時から準備しておくことです。

対米依存度の高い外務省や防衛省は「今そこにある危機」に対応し、それをやっているのでしょうか。中国の世界からの孤立は、今回のデューイの「機動演習」によって、再確認されはしたのですが、そこが問題です。

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