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2020年3月20日金曜日

【日本の解き方】米と「ケタ違い」だった日銀緩和 80兆円の量的緩和復帰すれば、財政出動の効果も発揮される―【私の論評】簡単なことがわからない日銀総裁と、日本の政治家(゚д゚)!


日銀黒田総裁

 米連邦準備制度理事会(FRB)は15日、ゼロ金利復帰と7000億ドル(約75兆円)規模の量的緩和を決めた。16日に前倒しした日銀の金融政策決定会合では上場投資信託(ETF)の買い入れ額を年6兆円から12兆円に増やすと公表された。

 筆者は事前に、FRBはゼロ金利と純増で5000億ドル程度の量的緩和を予想していたので、日本の円を安定化させるためには、日銀も同様の量的緩和が必要と考えていた。

 具体的には先日の本コラムに書いたように、80兆円ベースの量的緩和への復帰を思い描いていた。そうなれば、60兆円程度のマネタリーベース(中央銀行が供給するお金)の純増分が日米でほぼ同じなので、当面の為替の安定は確保できる。

 しかし、現在のイールドカーブコントロール(長短金利操作)政策から量的緩和への復帰に日銀内で抵抗があり、ETFの買い増しで対応するという情報が漏れ伝わってきた。これは、日銀事務局によるいわゆる「地ならし」だ。こうした話が出てくるのは、経験則上ダメな政策のときだ。筆者は決定会合の前に、「ETFの買い増しでは緩和の規模について日米間で桁が違って力不足になる」とツイートした。

 日銀が会合を16日に前倒したのはいいが、内容はやはり事前情報通りにETF購入額を6兆円から12兆円へ増やすというもので、純増は6兆円だった。

 これに対し、FRBは国債などの買い増しにより75兆円の純増だった。やはり、日米間で金融緩和の桁が違ってしまった。

 これに対して、国民民主党の玉木雄一郎代表から興味深いツイートがあった。「今、求められている政策は12兆円で株を買うのではなく、12兆円を家計に流すことだ。国債発行による給付と減税を大規模にやるしかない」というものだ。

国民民主党の玉木雄一郎代表

 12兆円を家計に流すというのは正しい政策だ。しかし、大規模な金融緩和を否定して、この政策を行うのは、必ずしも効果的でない。

 というのは「マンデル=フレミング効果」があるからだ。その原理をかいつまんでいえば、国債発行をすると、国内金利が海外と比べて高くなりがちなので自国通貨が高くなるというものだ。国債発行による財政出動で内需を拡大しても、為替高で外需が減少し、財政出動の効果が減殺されるというわけだ。

 提唱者のロバート・マンデル氏のノーベル経済学賞受賞業績にもなっているくらいなので、古今東西で事例が見られる。例えば2011年3月の東日本大震災後、大規模な財政出動をした際、円高に見舞われたのはその好例だ。

 こうしたメカニズムが分かっているので、財政出動と同時に金融緩和すれば、国内金利は落ち着き、自国通貨高にならずに、財政出動の効果がそのまま発揮される。

 要するに、消費増税の失敗と「コロナ・ショック」による影響はリーマン・ショック級なので、消費税5%への減税や1人10万円の給付金を実施すれば、25兆円程度の財政出動になる。同時に80兆円ペースの量的緩和への復帰が必要だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】簡単なことがわからない日銀総裁と、日本の政治家(゚д゚)!

上の記事では、「マンデル=フレミング効果」について語られてますが、これを定量的に理解するのは結構難しいところもありますが、ざっくりと理解し、現状の財政政策や金融政策を理解する程度にするのは、難しいことではありません。

以下に簡単に説明します。これが、経済理論的に厳密に正しいかどうかは、別にして、これくらいの理解でも、現状の財政政策や金融政策を理解するには十分役立つと思います。

マンデル・フレミング効果とは1960年代初頭に発表された経済モデルです。経済学者のロバート・マンデル氏とジョン・マーカス・フレミング氏が同時期に発表したことによって、両方の名前をとって名付けられました。

世界各国で認められたモデルで、ノーベル経済学賞も受賞しています。簡単に言うと変動相場制において、財政政策の効果は非常に低くなる、というものです。

財政政策とは政府が公共投資、給付金、減税、などの政策行い、市場にお金を流す政策です。市場にお金が供給されるので、景気の改善に繋がります。

しかし、マンデル・フレミング効果を踏まえて考察すると財政政策だけでは、景気対策に限りがあるということがわかります。

政府が財政政策特に積極財を行う時、国債を発行し銀行からお金を吸い上げます。そのお金で様々な対策を行えば、景気がよくなるはずです。しかしこれには、限界があります。

お金を銀行から吸い上げることにより、市中のお金が減少しますから、円高方向に進むことになります。吸い上げたことによる円高で、海外からの投資が増えるので、益々円高が加速することになってしまいます。

それによって、輸出産業に大打撃を与えるので、景気にも後退にも繋がるのです。公共投資による景気改善と、輸出による後退で、財政政策の効果がなくなってしまうのです。以下に財政支出が弱まる仕組みの図表を掲載します。


ただし、固定相場制だと、マンデル・フレミング効果は起こりません。固定相場制の場合、為替レートが決められています。市中からお金を吸い上げても、円高方向に進むことはありえません。

為替レートが変わらないのならば、輸出にダメージを与える心配はありません。このように固定相場制の場合はマンデル・フレミング効果は働かず、財政政策のメリットが非常に大きくなるのです。

では、日本のような変動相場制の国で財政政策の効果を出すにはどうしたら良いのでしょうか。財政政策と金融緩和を同時にやることです。

財政政策による円高が、無効化の原因であれば、金融緩和で市中に回る円を増やし、相違的に円高にならないようにすればいいのです。ちなみに、為替についてざっくりと説明すると、たとえば日銀が金融緩和を実行し、FRBが実行しなければ、相対的にドルよりも円が多い状態になりますから、円安になります。

これは、物価と同じように考えれば、すぐに理解できます。ある特定の物が非常多くなれば、その物の価格は安くなります。通貨も同じです。ある国が徹底的に緩和をして、他国が緩和しなければ、ある国の通貨は相対的に他国の通貨よりも多くなり、安くなります。

「そんな、簡単なことなの?」と思われる皆さんも、いらっしゃるかもれませんが、そんなに簡単なことなのです。無論、方向性としては、全く簡単ということです。

米国の作家・詩人チャールズ・ブコウスキー(写真)の言葉。『簡単なことを難しく言うのがインテリ。
難しいことを簡単に表現するのが芸術家。』

ただ、方向性がわかっても、日本国内や世界の情勢を理解し、どの程度の緩和をすれば良いかという定量的なことを計算するのは難しいかもしれません。しかし、これもある程度金融政策を実行してみて、緩和をしすぎれば、引き締めをし、緩和が足りないならさらに緩和するという具合で実行すれば、さほど難しくありません。

そのための目安として、日本には物価目標というのがあります。物価目標を達成し、さらに物価が上がり続ければ、緩和をやめれば良いのです。物価目標が達成できなければ、緩和を継続すれば良いのです。何も難しいことはありません。

これが、日銀の実行すべきことなのです。この簡単なことがわからないのが、他ならぬ日銀の黒田総裁であり、日本の大方の政治家なのです。もしかすると、日本では金融機関の人もわかっていないかもしれません。

情けない限りです。

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