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2019年7月29日月曜日

かんぽ生命の不正販売、背景にある民主党政権「郵政再国有化」の真実―【私の論評】官僚が商売や事業等を直接しても絶対にうまくはいかない(゚д゚)!

かんぽ生命の不正販売、背景にある民主党政権「郵政再国有化」の真実

「ノルマ」に頼る構造はなぜ生まれたか

「民営化の歪み」が原因ではない

かんぽ生命に、顧客に対し新旧契約の保険料を故意に6ヵ月以上二重払いさせるなど、かなり悪質な不正が多数発覚している。

かんぽ生命の顧客数は約2600万人だが、不正契約件数は実に約9万3000件にのぼるという。被害に遭った顧客のほとんどは高齢者層である点も悪質だ。「常套手段」とされていたのが乗換時の不正で、保険の二重契約(2万2000件)、無保険期間を作る(4万7000件)といったものだ。

被害者からは、「80歳代の母が、かんぽ保険の乗換で被害に遭い、30万円の不利益を被った。母は郵便局を信頼していたから、貯めたお金を言われるがままにだまし取られた」との声も上がっている。郵便局というブランドを信じていた人々の心を踏みにじる、詐欺的な行為だ。被害総額の詳細は、まだわかっていない。

この種の話が出ると、「郵政民営化による歪み」のために不正が起こったという、早とちりの意見がすぐに上がる。しかし経緯を調べれば、このような見方がすぐに間違いだとわかる。

マスコミの報道だけしか知らない人は「郵政は民営化された」と思い込んでいるが、実は民主党政権時代に「再国有化」されているのだ。不正の発端も、そこに潜んでいる。どういうことか説明しよう。

筆者は小泉政権時代、郵政民営化の制度設計を担当した。まず、郵政民営化が実行された理由をあらかじめ書いておきたい。マスコミはこの基本を理解していないし、そのせいで国民は郵政民営化の背景を知らなすぎるからだ。

民営化前の郵政は、(1)郵便事業、(2)郵貯事業、(3)簡保事業を営んでいた。しかし、郵便はインターネットの登場によりジリ貧、郵貯は貸出部門がなく、簡保は100年前の不完全保険である「簡易保険」しか商品開発できず、いずれの事業でも経営問題が起こることは時間の問題だった。

こうした経営問題を抱える事業を維持するためには、年間1兆円もの税金補填(ミルク補給)が必要だった。それでも、いずれ郵政が経営破綻するのは確実だった。このあたりの詳細については、拙著『財投改革の経済学』に記してあるのでご覧いただきたい。

小泉政権が成立させた郵政民営化法では、(1)日本郵政という持株会社の下に、郵便会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を設けること(4社分社化)、(2)日本郵政への政府株、郵便会社と郵便局会社への日本郵政の株式をいずれも維持しつつ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命では、日本郵政の株式をすべて売却する(完全民営化)としていた。



こうした民営化を通じて、郵便会社と郵便局会社には「郵便」以外の事業展開を、ゆうちょ銀行にはまともな貸出を、かんぽ生命には「簡易保険」以外の商品開発を促そうとしたのだ。それと同時に、年間1兆円にのぼる血税からの「ミルク補給」も打ち止めにしようとした。

郵便局会社を作ったのは、そこで簡易保険だけではなく、他の民間生保の商品も販売できるようにしないと、郵政全体の経営が危うくなるからだ。後で詳しく述べるが、郵政民営化の制度設計当時から、簡易保険の商品性はあまりにお粗末であり、経営上簡易保険以外の商品も売る必要に迫られていた。

事実上、また「国有」に

しかし、2009年に政権交代が起こった。民主党政権は、この民営化スキームを変更して、郵政を事実上「再国有化」した。つまり、(1)日本郵政という持株会社の下に郵便会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を設けること(3社分社化)、(2)日本郵政への政府株、郵便会社、ゆうちょ銀行とかんぽ生命への日本郵政の株式はいずれも維持する(非民営化)としたのだ。


公的事業の民営化のキモは、株式の民有化、経営の民間化である。郵政3事業にはすべてに政府株が係っている。しかも、小泉政権時代の民営化の際、民間から西川善文元住友銀行頭取ら20名程度の民間人が入った。まじめに経営しようとすれば、この程度の人員がいなければ、郵政のような巨大組織は運営できない。この意味で、西川氏は本気で郵政を民営化しようとした。

しかし、上述のように民主党政権で民営化は否定され、「再国有化」された。特に痛かったのは、政府株だけではなく、小泉民営化で馳せ参じてきた民間人もすべて追いだされたことだ。

さすがに、民間人なしではマズイと思ったのか、お飾り程度の人材は来たが、西川氏のように大量に腹心を連れてくるようなことはなく、ほぼ一人で来て、あっという間に元郵政官僚に籠絡されるのがオチだった。

その後民間では、民主党政権時代に、郵政へ送り込まれた民間人が追い出された事実が知れ渡ったから、経営の心得がある人材は誘われても敬遠するようになった。どちらかといえば、小粒な民間人が単発で来るようになったことも、郵政が実質的に「再国有化」されたことを物語っている。

要するに郵政は、小泉政権時代に民営化されたが、民主党時代に再国有化され、事実上、以前の国営とたいして変わりなくなったのだ。今回のかんぽ生命の不祥事を考える上で、この点をおさえておかなければいけない。

激化する競争に勝てるはずもなく

郵政が改革をサボっている間に、保険市場は激変した。

かつて、日本人は生保好きといわれていた。そのため外資系保険会社は日本市場への参入を強く希望していた。たしかに、1990年代の生命保険料のデータを見ると、日本は先進国の中でも高い部類だった。

一方、1990年代まで、日本の保険業界には金融縦割り規制があった。保険業界でも生命保険と損害保険は分離され、銀行、証券とも分離されていた。それが金融自由化の波とともに、業界の垣根が取り除かれていった。特に証券投資信託の販売は、証券会社だけではなく銀行にも広げられた。

実は、保険という金融商品は保障の面ばかりが強調されるが、運用面をあわせて考えると、保障と証券投資信託のハイブリッド商品であるともいえる。掛け捨ての保険なら保障機能だけといえるが、保障機能が弱く満期返礼金が強調される貯蓄型保険は、証券投資信託とほぼ同じなのだ。

かつて保険好きと言われていた時代の日本で主流だったのが、貯蓄型保険だった。それが金融自由化により、証券投資信託の販売が広く銀行などに認められるとともに、外資系保険会社にも参入が認められたので、本邦系生保会社の競争環境は激変した。

その結果、今では日本の生命保険料などは概ね標準的な水準に落ち着いた。もはやデータからは「生命保険好き」と言えない状況だ。日本の保険市場における競争はそれほど激化し、低金利・ゼロ金利環境も保険会社の収益に影響を与えている。

しかし、これらの環境変化が民間生保会社にもかんぽ生命にも等しく影響を与えている中、かんぽ生命では事実上、商品が簡易保険しかないという特殊事情がある。

簡易保険は今からおよそ100年前の1916年にに開発された古い商品だ。その特徴は、健康診断がないという点だ。

民間生命保険の場合、健康診断を要件としてリスク管理を行った上で、保険料率と保険額を決めている。しかし簡易保険の場合は健康診断がないのでリスク管理がうまくできず、それをカバーするために、保険額を低く抑えている。

単純なしくみだが、保険数理からみれば「どんぶり勘定」にも近いものであり、保険商品として保障機能が弱く、運用成績の悪い証券投資信託と同じような商品であるといえる。このため簡易保険は、金融自由化の波をモロに被ってきた。

そして「ノルマ」に頼った

筆者は郵政民営化の制度設計時に、簡易保険という旧来商品だけではまともな生保会社になれるはずもないので、新商品開発とともに、民間生保の特色ある保険も販売できるようにした。しかし、民主党時代の「再国有化」によって、その時間はムダになってしまったようだ。

かんぽ生命は新商品開発を怠り、その代わりに従来通りの「ノルマ」で戦おうとした。民間生命保険会社のような商品は開発能力がなく作れないので、旧来商品を体育会系のノリで、販売員へ「ノルマ」を課すことで乗り切ろうとしたのだ。

民間生保には「生保レディー」という強力な販売部隊がいたので、それを活用する人海戦術も行ったが、さすがにそれには限界もあり、現在では新たなステージに移行し対応している。しかしかんぽ生命は民間生保から見れば「周回遅れ」の状況だ。

ネット上では、かんぽ生命関係者を名乗る人物からのこのような書き込みがある。

「今回の問題は今に始まったことではなく、ずっと以前からあった問題です。お客様を騙してでも保険契約をした職員は評価され、それを指摘した職員は評価されないだけではなく、邪魔者としてパワハラされるのがかんぽ生命です」(元郵便局員)

「会社の上層部は昔から不適切な営業をして数字という結果を残してきた人がほとんどです。優秀成績者と呼ばれる人のほとんどは上から守られるようになっていました」(かんぽ販売員)

こうした営業実態は、10年くらい前から蔓延し始めたという証言もある。ちょうど「再国有化」のタイミングだ。

郵政を「再国有化」すれば元官僚主導の会社になる。新商品開発のための知恵もない。そのため、体育会系の「ノルマ」頼みにならざるを得ない。せめて他の民間生保なみのまともな保険商品であれば、それほどの「ノルマ」を課さなくても、郵便局ブランドである程度販売できただろう。

これで、かんぽ生命は「ノルマ」営業と決別せざるを得ないが、生命保険商品として簡易保険を売ることはもはや不可能だろう。かんぽ生命は経営危機に陥る。

今回発覚した被害の詳細はまだわからないが、現在のかんぽ生命は民間会社ではなく、国の関連企業と言っていい。この詐欺的な営業に、国の責任がないとは言えない。被害者が代表訴訟で訴える可能性もある。そのとき、国はどう対応するのだろうか。

いずれにしても、民営化を逆戻りさせた政策のミスだ。国の責任は免れないだろう。

【私の論評】官僚が商売や事業等を直接しても絶対にうまくはいかない(゚д゚)!

この類の話を聴くと、昔の電電公社の民営化の具体的なとんでもない話を思いだします。電電公社は民営化してNTTとなり、電電公社に所属していた逓信(ていしん)病院はNTT病院と逓信病院に別れました。

この逓信病院は現在でも存在しています。無論NTT病院も存在しています。民営化したばかりのある逓信病院の院長の話として今でもはっきり記憶している話があります。逓信病院にはNTTの職員が多く診断や治療を受けたり、入院したりします。無論、NTT職員意外の人も、逓信病院で普通に診療を受けたり、入院や治療を受けたりすることもできます。

当時ある逓信病院で、その地域のNTT職員でノイローゼになる人が極端に多く出たので、院長が詳しくその原因を調べました。そうするとその原因は、なんと当時まだ売上が伸びていた、テレフォンカードの販売に関係していました。

その地域では、とにかくテレフォンカードの売上を高めることが至上命題となっており、NTTの職員らは、とにかく全員がカードの販売に携わっていました。おそらく、ノルマもあったのでしょう。

懐かしのテレフォンカードは今でもコンビニで普通に売られている

そうして、あろうことが、毎晩9時から10時くらいまで、どうやって売上をあげるのか、議論されていたそうです。それも、営業の人間だけではなく、技術職も事務職もその話し合いに参加していたそうです。強制か、自主的かはわかりませんが、とにかく多くの職場でこの話し合いが行われていたそうです。

普通の感覚であれば、夜遅くまで、論議をしたからといって、それだけで売上が上がるはずもなく、適当なところでやめてしまうのでしょうが、これが数カ月も続いたそうです。そうして、無駄なことを長時間実施したことが、ノイローゼの患者を増やすことにつながったのです。

人は、希望が持てるなら、長時間働いたり、議論をしていてもなんともないですが、徒労としか思えないような話を長時間していれば、おかしくもなります。

そのため、この院長はこの無駄な話し合いをやめさせるように、強くNTTに指導をしたそうです。そのかいもあってか、その後ノイローゼ患者は極端に多くはなくなったそうです。

商売のセンスがない人たちが、追い詰められるとこのようなことになりがちです。結局その当時のNTTも、かんぽ生命のように、売れるテレフォンカード等新商品開発や、テレフォンカードに変わる事業の柱を開発することを怠り、その代わりに「ノルマ」や根性でで戦おうとしたのです。

それは、うまくはいきませんでした。現在のNTTでは、テレフォンカードも存在しているでしょうが、携帯電話やスマホが登場した現在ではそれはもはや主力商品ではありません。

おそらく、現在の郵政でもこのようなことが行われていたのでしょう。

更に驚くべきことかあります。かんぽ生命保険の不適切販売問題をめぐり、日本郵政がかんぽ生命株を国内外の投資家に売却した4月時点で、かんぽ生命の経営陣が不適切な事案を把握していたことが29日、分かったというのです。

同日開かれた政府の郵政民営化委員会の会合で、かんぽ生命幹部が報告しました。重大な経営問題を認識しながら株を売り出し、投資家の不利益を増大させた恐れがあり、経営責任が問われそうです。

29日の民営化委では、不適切販売問題について委員が郵政グループ幹部に聞き取りを実施。同委の岩田一政委員長は会合後に記者会見し、かんぽ生命幹部から「4月の段階で個別の(不適切な事案についての)苦情はある程度把握していた」と報告を受けたことを明かした。事案の規模がどの程度かは把握していなかったといいます。


今月10日の記者会見で、かんぽ生命の植平光彦社長は「不利益が発生している状況は直近の調査で判明した」と説明していました。

郵政民営化法では日本郵政は保有するかんぽ生命株をすべて売却することを目指すと定められています。平成27年にゆうちょ銀行を含めたグループ3社が上場した際に、日本郵政は100%保有していたかんぽ生命株の11%分を売り出し、今年4月の2次売却では89%の保有株を64%程度まで引き下げました。

2次売却の売り出し価格は1株2375円でしたが、その後不適切販売問題が深刻化してかんぽ生命の株価は下落。29日の終値は1797円でした。経営陣が問題を把握しながら株式を売り出したのであれば、市場に対する背任行為として株主代表訴訟も起こりかねないです。

岩田委員長は29日の会見で「契約者に不利益が生じたような事案があった場合は速やかに公表すべきで、透明性が極めて重要だ」と述べ、日本郵政グループの対応を問題視。また、「マーケットが評価しない経営には問題がある」と経営責任にも言及しました。

31日に開催される日本郵政の長門正貢社長らの会見では、かんぽ生命株の2次売却の適正性や経営責任が大きな焦点になります。

やはり、郵政は「再々民営化」が必要です。商売センスのない役人は事業運営にはタッチさせないようにし、民間の保険などのノウハウがある人を入れて、まともにすべきです。でないと、先に掲載したNTTでノイローゼ患者がかなり増えたのと同じことになります。

商売センス・事業センスのない官僚が事業を駄目にするのです。これは、郵政でなくても同じことです。政府は、インフラの整備などに専念して、そのインフラの上で活動するのは、民間に任せるべきなのです。

間違っても、インフラの上で官僚が商売や事業等(福祉事業や社会事業も駄目)を直接しても絶対にうまくはいかないのです。これがうまくいくというのなら、共産主義も成功していたはずです。

共産主義では、頭の良い設計主任が、事業を計画して、あとはその計画通りやれば、すべてはうまくいくはずでした。しかし、それはことごとく失敗して、いまや共産主義は崩壊しました。この基本を忘れると、今回のような事件が起こってしまうのです。

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2017年6月20日火曜日

小池百合子都知事、「豊洲に市場移転」「築地を再開発」の基本方針表明―【私の論評】築地は売却すべき、都が資産をもって事業をしても大失敗するだけ(゚д゚)!

小池百合子都知事、「豊洲に市場移転」「築地を再開発」の基本方針表明

築地市場の豊洲移転問題で会見する小池百合子都知事=20日午後、都庁
 築地市場(東京都中央区)の豊洲市場(江東区)への移転問題で、小池百合子知事は20日午後、臨時の記者会見を開き、中央卸売市場を豊洲に移転する基本方針を表明した。一方、築地市場については「築地ブランドを守っていく」として、5年後をめどに市場機能を残した「食のテーマパーク」とする再開発を行い、築地に戻ることを希望する仲卸などの業者を支援するとした。

 豊洲市場については「新たな中央卸売市場だ」と明言した上で、冷凍冷蔵・物流・加工などの機能強化を図っていくとした。東京ガスの工場跡地に整備された同市場の開場条件となっていた汚染の「無害化」は達成されていないが、追加対策を実施していくとした。

 小池氏は会見で「築地と豊洲を両立させることが最も賢い(お金の)使い道だ」と述べた。一方で、そのための工程、予算、財源などについては今後、検討していくとした。

 小池氏が昨年8月に築地市場の移転延期を表明して以来、都政の懸案となった市場問題で、豊洲、築地の双方を活用する小池氏の基本方針が示された。23日告示の都議選をめぐり、小池氏と対立する自民党が公約として豊洲への早期移転実現を掲げ、小池氏と連携する公明党は選挙前の決断を求めており、選挙情勢にも影響を与えそうだ。

 東京ガスの工場跡地に整備された豊洲市場をめぐっては、環境基準超えの有害物質が検出された地下水への対応が焦点だった。都の追加対策は、(1)地下水をくみ上げ、浄化する地下水管理システムの機能強化で中長期的に水質改善を図る(2)気化した有害物質が建物の地下空洞に侵入して1階部分に入ることを防ぐため換気設備などを設置する-などとしている。

 小池氏は豊洲の汚染対策に加えて市場会計の持続可能性も重視し、築地のブランド力と好立地に注目。都は小池氏の指示で、築地の跡地を売却せずに民間に長期間貸し出し、日本の食文化の発信拠点などとして活用する案を検討してきた。

【私の論評】築地は売却すべき、都が資産をもって事業をしても大失敗するだけ(゚д゚)!

小池知事は、サンクコストという言葉の定義に関して、間違って理解していて、その間違いにもどいたサンクコストの忌避方法が、今回の小池氏「豊洲に市場移転」「築地を再開発」という基本方針であると考えられます。

1月14日に開かれた専門家会議では、都が実施した豊洲市場の地下水モニタリング調査の結果、最大で環境基準の79倍のベンゼンが検出され、シアンが数十カ所で検出さました。



しかしそもそも、この「環境基準」は飲料水の基準であり、地下水を飲まない豊洲市場では何の問題もありません。もともと去年11月に築地から移転する予定だったのを小池百合子知事が「都民の不安」を理由に延期したのですが、出てきたのは風評被害だけでした。

そもそも「基準値」には、飲用水の基準とは別に工場が下水に流す際の「排水基準」があり、排水基準の場合、飲用水基準より10~100倍の濃度まで許容されています。
9月末に豊洲の地下水モニタリングでベンゼンとヒ素が『基準値超え』と報じられましたが、これはハードルが高い飲用水基準を超えたということです。排水基準から見れば全く問題がない値でした。
建物下でもない場所の地下水で、市場の仲卸業者ですら触れもしない水なのに“生涯にわたって飲み続けて大丈夫か”というレベルの基準でチェックがなされていることをどれだけの人がわかっているのか甚だ疑問です。

これを受けて、小池知事は「豊洲には既に6000億円つぎ込んでいるがどうするのか」という毎日新聞の質問に「豊洲という場所に決めたことには私自身、もともと疑義がある。サンクコストにならないためにどうすべきか客観的、現実的に考えていくべきだ」と答えていました。

これが「豊洲への移転をやめると6000億円の投資が無駄になる」という意味だとすると、小池知事はサンクコスト(埋没費用)の意味を取り違えています。サンクコストとは投資が終わって回収できない費用のことであり、6000億円はすでにサンクコストです。だから、「サンクコストにならないためにどうすべきか」という問いはありえないのです。
確かにサンクコストが問題になる場合もあります。「これだけ費用をかけたから、もう少し出費することによってこれまで払った費用が丸々損しないで済む」、と考えて赤字の事業が続けられることもあります。しかしこの経営判断は、「損している上に、もっと大損しよう」と判断しているのと同義です。過去に使ってしまって回収できないお金は既にサンクコストです。

人が行動した結果、その際に生じたコストが、後の意思決定に影響することをサンク・コスト効果と言います。図で示すと以下のようになります。


サンクコストに打ち勝つためには「勇気を伴うあきらめ」が必要なのも事実です。しかし、豊洲の移転問題はまた別です。豊洲に移転して、赤字続きでどうしようもないとか、それが今から確実に予想されるいうのなら、わかりますが、そうではありません。

それに、豊洲問題に関しては、確証バイアスの影響もあったものと思います。確証バイアス(かくしょうバイアス、英: Confirmation bias)とは、認知心理学や社会心理学における用語で、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことです。

豊洲でも、環境問題に執着するあまり、本来飲みもしない地下水を検査し、環境基準に適合しないなどとされましたが、豊洲の地下水元々使用しないものです。豊洲近辺は、不動産でもかなり人気があり、高層のタワーマンションなどもすぐに完売するほどの盛況です。

無論、この高層タワーマンションに住む人も、地下水を飲むこともないし、直接豊洲の土に触れる機会もないことから、そのようなことは何も心配していないのでしょう。

豊洲の建築途上のタワーマンション
先に示したように豊洲の6000億円はすでにサンクコストです。これは、豊洲に移転しようがしまいが、築地をどうするなどということは全く関係なしに、サンクコストです。これは、もう回収できません。

このサンクコストに加えて、築地の開発をするとなるとここでもサンクコストが発生します。

このサンクコストとは別に、支出と収入の面から豊洲問題で過去にいわれてきた方式と、今回の小池知事の方式を加えたものを比較してみます。

1.豊洲市場に移転
豊洲市場の維持費(支出) 
豊洲市場で検出された有害物質への対策費(支出)
2.移転中止・築地市場の継続
豊洲市場の維持費(支出) 
築地市場の維持費+衛生管理費(支出) 
豊洲市場の売却益(収入)
3.移転中止・第三の新市場を建設
豊洲市場の維持費(支出) 
新市場の建設費+維持費(支出) 
豊洲市場の売却益(収入)
 4.豊洲に移転・築地市場の継続・開発 
豊洲市場の維持費(支出) 
豊洲市場で検出された有害物質への対策費(支出) 
築地新市場の建設費+維持費(支出)
細かな点は別にして、結局豊洲移転・築地市場継続断念に踏み切る方がコストパフォーマンスは良い計算が成り立ちそうです。やはり、築地は売却して、地元自治体か民間業者に再開発を任せたほうが良いでしょう。過去の経緯からいっても、東京都が資産をもって事業をやろうとするとろくなことがありません。またまた、膨大なサンクコストが発生することになります。小池知事はそれを繰り返そうというのです。

感情論を先行させ、メディアを煽り、都議会で議席数を伸ばすという “政局” を目的に利用する上では豊洲問題は格好のネタです。しかし、それで利益を得られるのは知事派の界隈だけに限定されるということを覚えておく必要があります。

小池知事の豊洲と築地のダブル運営は、「築地ブランド」という魔法の言語で素人を騙しているだけです。築地ブランドはそもそも、築地という土地についたものではありません。仲卸が80年間の努力で積み重ねられた信用のことです。決して土地ではなく彼らが作り上げた誇りです。豊洲に行っても引き継いで更なる信頼の増幅を努力することによって、そのブランドは維持されるのです。ブランドは、あくまで人の努力によって形成されるものなのです。

市場のブランドは土地ではなく、市場で働く人々によって創造される

要するに小池知事は、とてつもない将来債務を発生させる装置をふたつ抱えます、と断言しているということに過ぎません。

それも自分の都議選勝利のために選挙直前まで引き延ばして、それに伴う都民の金銭的負担も別物で発生させつつ、結局この有様です。

無駄遣いなくすと言ってた小池知事が究極の無駄遣いをすると断言しているに過ぎません。小池さん、ずいぶん前からおかしくなっていたようですが完全にぶっ飛んでしまったようです。

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