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2018年5月30日水曜日

朝鮮半島の"再属国化"を狙う習近平の誤算―【私の論評】「習近平皇帝」を抑え込むためトランプは金正恩という駒を駆使している(゚д゚)!

朝鮮半島の"再属国化"を狙う習近平の誤算

歴史的には"隷属関係"が当然だが…

開催が不透明な状況にある米朝首脳会談。混乱の背景について、著述家の宇山卓栄氏は「北朝鮮の後ろ盾として介入姿勢を強める中国を、アメリカが牽制したのだろう」とみる。その構図を読み解くには、123年ぶりに朝鮮半島の「属国化」を狙う習近平と、中国を利用しつつ干渉は避けたい金正恩という、両国の約2000年の歴史についての知識が必要だ――。

正恩(左)率いる北朝鮮の属国化を目論む習近平(右)だが。5月に開かれた2度目の中朝首脳会談にて

2000年に及ぶ隷属関係

5月24日、トランプ米大統領は突如、米朝首脳会談の中止を表明しました。それに先立つ22日、同大統領は金正恩・朝鮮労働党委員長が、習近平・中国国家主席と2回目の会談をしてから「態度が少し変わった。気に入らない」と発言しています。

27日、トランプ大統領は再び会談に応じると表明しました。会談の主導権はアメリカにあると、明確に示した格好です。24日の会談中止表明は、北朝鮮への介入を急激に進めつつある中国への、アメリカの牽制だったと考えられます。

漢の武帝が紀元前108年、楽浪郡を朝鮮に設置して以来、朝鮮半島は約2000年間、中国の属国でした。高麗(こうらい)王朝の前半に一時期、独立を維持したことがありましたが、朝鮮はその歴史のほとんどにおいて、中国に隷属させられていたのです。

下関条約

日清戦争後の1895年、下関条約により、日本は清(しん)王朝に、朝鮮の独立を承認させます。日本は中国の朝鮮に対する属国支配の長い歴史を断ち切りました。それから123年の時を経た現在、中国は朝鮮半島を再び属国にしようとする野心を隠しません。

中国が目論む二つのステップ

中国は10年~20年くらいの時間をかけて、朝鮮の再属国化を実現することを考えているようにみます。第1段階では、経済支援を通じ、北朝鮮を中国資本の傘下に組み入れます。北朝鮮の立場を強化したうえで、第2段階として、北朝鮮に南北朝鮮の連邦制統一を主導させます。韓国に文在寅政権のような左派政権が現れたことも、赤化統一の追い風になっています。

この二つの段階を経て、中国は朝鮮半島への支配を復権させることができます。普通に考えれば、妄想のように思えるかもしれませんが、中国はこういう妄想を実行する(実行した)国であることをよく認識しておかねばなりません。

2018年の3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で、2期10年の国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正が承認され、習近平主席が独裁権を固めました。習主席は、いわゆる「習近平思想」を国の指針として憲法に盛り込み、中国の国益拡大を狙っています。中国の世界戦略は、これまでのフェーズとは全く違う段階に入っているのです。

中国とむしろ距離を置いてきた歴代「金王朝」

とはいえ北朝鮮のほうは、簡単に中国の支配下に組み込まれる気はないようです。

中国は以前から、北朝鮮を中国資本の傘下に組み入れようと画策し、北朝鮮に「改革開放」を迫ってきました。金正恩委員長の父の金正日は、2000年5月の最初の電撃訪中以降、2011年までに合計8回、訪中しています。その度ごとに、江沢民や胡錦濤は上海の経済特区を金正日に見学させるなどして、共産主義体制を維持しながら資本主義的な市場開放を行うことは可能だと示し、北朝鮮も中国にならって改革開放路線を歩むべきと説得しました。

金正日

しかし、金正日はこれを拒否し続けました。表向きは、「経済の自由化は政治の自由化を求める危険な動きとなる」ということでしたが、実際には「中国の介入を受けるのがイヤだ」ということだったのでしょう。

金正恩も露骨に中国を嫌い、中国を「1000年の宿敵」と呼んでいました。これは前述のように、朝鮮が長年中国の属国であった歴史的経緯を踏まえての発言です(歴史的な事実に基づけば、「2000年の宿敵」と言わなければならないところですが)。さらに2013年には、親中派の代表格で、改革開放を推進しようとしていた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)を処刑します。これ以降、北朝鮮と中国との関係は急速に冷え込みました。

そこへトランプ大統領が登場し、北朝鮮への圧力政策を進めたことで、北朝鮮は窮地に陥ります。中国はこれを好機と見なしました。北朝鮮のクビが絞まれば絞まるほど、中国の差し伸べる「救いの手」は高く売れるからです。

習近平と金正恩は何を話し合ったのか?

ところが、北朝鮮は簡単には中国の「救いの手」を握りませんでした。北朝鮮は韓国を仲介にして、アメリカへ抱き付いたのです。この抱き付き作戦が予想以上に効果を発揮し、3月8日、トランプ大統領は米朝首脳会談の開催を決めました。

この一連の動きに焦ったのが中国です。中国は、北朝鮮が窮すれば自分たちのところへ頭を下げに来るはずだとタカをくくっていましたが、見事に当てが外れました。3月と5月に、習主席は金正恩と2回にわたって会談。3月の会談は中国側が金正恩を招聘(しょうへい)したもので、5月の会談も中国側の招聘で行われたとみて間違いないと思います。中国は北朝鮮という暴れ馬の手綱を握ろうと必死なのです。

この2回の首脳会談で、中国は北朝鮮に譲歩し、北朝鮮に有利な合意が形成されたことでしょう。これは、アメリカと中国をてんびんにかける北朝鮮の二股外交です。中国が金正日時代から求めている改革開放路線は是認されたものの、「カネも出す、口も出す」とはいかず、「口も出す」部分について、中国は大幅に制約をかけられたとみるべきです。

よくありがちな「北朝鮮が中国に泣きついた」論では、実態を捉えることはできません。北朝鮮はわれわれが考える以上に、外交技術に長(た)けた国です(北朝鮮は、外交官だけは処刑しない)。貧弱な小国でありながら、これまでも、アメリカや中国などの大国に外交上伍(ご)してきました。転んでもタダでは起きないのです。韓国の文在寅政権などが扱える相手でないことだけは確かです。 ただ、トランプ大統領が首脳会談の中止を表明した5月24日以降は、北朝鮮もトランプ大統領にはかなわないと思ったことでしょう。

金日成による朝鮮戦争後の「親中派」粛清

中国は北朝鮮との経済連携を進めていきさえすれば、いずれ北朝鮮を中国資本の傘下に収めることができるという長期的な戦略を描いているでしょうし、それを対アメリカの外交カードに利用することもできます。そこで、まずは北朝鮮と経済連携をすることを急いだのです。習主席は5月16日、北朝鮮の訪中使節団に対し、「金正恩委員長と2度も会い、両国の関係発展の共通の認識を持つことができた」と述べました。

しかし、過去に、中国は北朝鮮に痛い目に合わされています。1950年に勃発した朝鮮戦争で、中国は北朝鮮を支援しました。戦後、毛沢東は北朝鮮への影響力を強め、属国にしてしまおうともくろんでいましたが、失敗します。中国は北朝鮮内の「延安派」と呼ばれる親中派の一派と連携していましたが(延安は1930年代後半の中国共産党の本拠地)、金日成はスターリン批判(1956年)以降の中ソ対立の隙を突いて、延安派を速やかに処刑していきました。

1959年、毛沢東の大躍進政策に対する批判が巻き起こり、中国指導部で内部紛争が生じたとき(彭徳懐の失脚)、金日成は「延安派」を完全に根絶やしにしました。中国は混乱に巻き込まれている間に、北朝鮮支配の足場を失ってしまったのです。中国共産党の対北朝鮮政策は、このように失敗続きでした。

北朝鮮は金日成時代と同じように、中国を都合よく利用しつつ中国の影響力は断つという方法を、今後模索していくと思われます。今日の習政権が、経済連携を通じて北朝鮮という暴れ馬の手綱を完全に握ることができると考えているなら、大きなしっぺ返しを食らうでしょう。中国の「朝鮮属国化構想」を阻止するうえで最も大きな力を発揮するのは、アメリカではなく北朝鮮かもしれません。

「二股外交」はどこまで通用するか

もっとも、アメリカと中国の両方を利用しようとする北朝鮮の二股外交が、トランプ政権にどこまで通用するかはわかりません。

北朝鮮はこれまで、中国の支援を背景にアメリカに対して強気なアプローチを展開し、ペンス副大統領を罵倒までして揺さぶりをかけていました。ところが、トランプ大統領が突然会談中止を表明したことで、北朝鮮のこうしたアプローチはピシャリと退けられました。同時に、裏で策動していた中国の影響力も、一定のレベルで低下しました。

会談中止の発表直後、中国の「環球時報」は「信義にもとる行為」などという言葉を使って、トランプ大統領を批判する記事を掲載しました。一方で、同じ記事内では「アメリカが北朝鮮に対する軍事的圧力を高めないことを望む」と記され、中国のアメリカに対する屈服をうかがわせる内容となっています。

北朝鮮問題はその本質において、アメリカと中国の二大国の駆け引きであり、「米中冷戦」と呼ぶべき現在の危機構造の一部として存在しています。アメリカにとって、北朝鮮に譲歩することは、中国に譲歩することと同じなのです。「ドラゴンスレイヤー」と呼ばれる対中強硬派で占められたトランプ政権の中枢は、そのことを最もよく理解しています。

宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家。1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『「民族」で読み解く世界史』(日本実業出版社)などがある。

【私の論評】「習近平皇帝」を抑え込むためトランプは金正恩という駒を駆使している(゚д゚)!

トランプ大統領は東シナ海を中国の内海にはさせない

アメリカの最終的な北朝鮮問題に関する、目標が、朝鮮半島の「非核化」(denuclearization)、朝鮮戦争の「終結」(the conclusion of the peace treaty)にあるとは思えません。 

なぜなら、北朝鮮問題は、アメリカという世界唯一のスーパーパワー(=hegemon:世界覇権国)にとっては、そこまで大きな死活問題ではないはずです。核とICBMを持ったからといっても、経済制裁(=兵糧攻め)でいずれ干上がるのですから、平和条約など結ばないで放置しておいてもいいのです。

しかし、相手が中国となると話は違ってきます。中国はアメリカの世界覇権に挑戦し、建国100周年の2049年までに、アメリカを凌ぐ「世界覇権国」になることを宣言しています。これを「中国の夢」(中国梦)と言いますが、そんなことが実現したら、世界はどうなるでしょうか。


ブログ冒頭の記事にもあるように、習近平国家主席は憲法を改正して“終身皇帝”となり、「中華民族の偉大なる復興」を目指して着々と政策を進めています。AIIB(アジアインフラ投資銀行)も「一帯一路」構想も、みなそのための布石です。いまや、南シナ海は、7つの人工島により中国の「内海」となってしまったことは、世界中が知るところです。

自由と人権を無視した“中華秩序”(新冊封体制)が、世界秩序になる、そんな世界が実現して良いはずはありません。

結局北朝鮮問題とはは、中国の世界覇権への挑戦問題とセットなのです。米国としては、中国の夢を打ち砕くためにも、北朝鮮の体制保持を認めることはできないのです。できれば潰したいのです。そうすれば、中華秩序は韓半島に及ばなくなり、東シナ海を南シナ海と同じように中国の内海化されずにすみます。

ドラゴン・スレイヤーが跋扈するトランプ政権

本当の外交は、表面で進行している状況とはと必ずしも一致しているわけではありませか。トランプ大統領が米朝会談をどのように位置付けているかはわかりません。単なる「外交ショー」、「ディール」としているなら、追い詰められた金正恩が「CVID」(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を約束するだけで、体制保証と制裁解除を見返りに与えるかもしれないです。

しかし、そうだとしても、それは「罠」です。アメリカがOKとする非核化までに時間がかかると困るのは、北朝鮮のほうだからです。

北朝鮮は少しでも非核化達成の時期を長引かせます。そうして、段階的に援助を引き出し、うまくいけば核を隠し持とうとするだろうという「見方」が大勢を占めているようです。しかし、そんなことをすれば、経済制裁は解除されず、北朝鮮は完全に干上がります。それはアメリカにとっては思う壺で、そのうちに北朝鮮内に内乱を起こさせ、体制を転覆させることができるでしょう。

アメリカの最終目標は、朝鮮半島の非核化ではなく、金正恩をイラクのサダム・フセイン、リビアのカダフィと同じく、この世から葬ることと考えるべきです。

そうして、“朝貢国”である北朝鮮の背後にいる“冊封国”中国にプレッシャーを与えること。これが、アメリカの本当の狙いでしょう。

トランプは、今年になって政権内を「強硬派」(hawk)で固めました。ハーバート・マクマスターの代わりにやってきたジョン・ボルトン補佐官(安全保障担当)は、「悪魔の化身」(the devil incarnate)と、「狂犬」(mad dog)と称されるジェームズ・マティス国防長官から言われる人物です。

ジョン・ポルトン補佐官

ヘンリー・キッシンジャーやジェームズ・ベーカーなど共和党の歴代国務長官のバックサポートを受け、「平和は力によって達成できる」(=交渉や条約では達成できない)と信じています。かつて、「国連などというものはない。あるのは国際社会だけで、それは唯一のスーパーパワーたるアメリカによって率いられる」と発言したことがあります。

水面下交渉のため2度、平壌に行ったマイク・ポンペオ国務長官も、完全な強硬派です。ボルトンもポンペオもかつて北朝鮮に対しては、予防戦争をやって体制を崩壊させるべきだと発言していました。

対北朝鮮ばかりか対中国を見ても、トランプ政権内には「対中強硬派」(ドラゴン・スレイヤー:dragon slayer)がそろっています。制裁関税に反対して政権を去った大統領国家経済諮問委員会のゲリー・コーン委員長に代わったのが、ラリー・クドロオ氏。アンチ・チャイナの代表的論客で、中国へ高関税を課すのは「当然の罰だ」と言う人物です。

さらに、商務長官のウィルバー・ロス氏、国家通商会議のピーター・ナヴァロ氏、そしてUSTR(アメリカ合衆国通商代表)のロバート・ライトハイザー氏も、対中強硬派である。とくにナヴァロは「アメリカの災難はすべて中国によってもたらされている」と言ってはばかりません。

このようなトランプ政権が、非核化だけで北朝鮮を生かし続けるるはずがありません。 いくら核を捨てようと、彼らは暴力と恐怖で国民を支配する独裁体制を維持し続けます。これから人々を解放することが本当の平和の達成であり、かつまた、アメリカ覇権(パクス・アメリカーナ)を維持することです。

要するに、米朝会談をきっかけとして、いずれ北朝鮮を国家として葬り、中国の力を削いでいくこと、これが、いまのアメリカの国家目標でしょう。これが、トランプ氏の本音でしょう。

トランプ大統領は金正恩をがんじがらめに

13日、ポンペオ国務長官は、アメリカの民間企業による北朝鮮への投資を認めるかもしれないと、『FOX』のニュース番組で発言しました。また、アメリカの投資家が北朝鮮のエネルギー供給網構築を支援できるかもしれないとも述べました。

ボルトン補佐官もまた、『ABC』の番組で、非核化の証拠が得られれば、アメリカは北朝鮮に民間投資を導き、経済を繁栄させる用意があると、ポンペオと同様の話をしました。

これは金正恩に対する「CVID」に同意せよというメッセージであり、「撒き餌」でしょう。この餌に食いつかせれば、あとはアメリカの思惑通りにできます。ところが、金正恩
は、中国に行き、習近平と会談しました。

トランプ大統領は27日、元駐韓国米大使で現在は駐フィリピン米大使を務めるソン・キム氏が率いる米国実務者代表団を北朝鮮に派遣しました。ソン・キム氏は長年にわたり北朝鮮の核問題を担当してきました。

同行者の中には、国家安全保障会議(NSC)のフッカー朝鮮部長のほかに、ランディ・シュライバー国防次官補らがいました。ランディ・シュラ-イバー次官補は、このブログでも紹介したことがありますが、強烈な反中派です。

その彼が、いまや板門店の北朝鮮側施設「統一郭」にいて北朝鮮の対米外交を担当する崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官らと、実務者レベルの話し合いをしていたのです。話し合いは29日まで続いたとされています。

同時にトランプ大統領はシンガポールにヘイギン米大統領次席補佐官ら一行を派遣し、北朝鮮との間で米朝首脳会談開催の調整に当たらせています。北朝鮮側からは金正恩委員長の執事(秘書室長格)とされているキム・チャンソン国務委員会部長が参加。

彼は北京経由でシンガポール入りしました。キム・チャンソン部長は5月24日に北京に到着し、26日に帰国した人物です。その間に、トランプ大統領の米朝首脳会談中止宣言が出されました。

北朝鮮とシンガポールで米朝実務者レベルが会談するという状況にいきなり追い込まれた金正恩委員長としては、まさか習近平に助けを求めに行くことなどできはしないでしょう。

おまけにトランプ大統領は27日にツイッターで「北朝鮮には素晴らしい潜在力があり、いつか偉大な経済・金融国家になるだろう。金委員長と私はこの点で認識が一致している」とつぶやいています。「北朝鮮が核放棄に応じれば、北朝鮮がこれまでにない経済発展を遂げることができる」とも言い、金正恩委員長の心を刺激しています。

金正恩は「だとすれば、いっそのこと、中国ではなくアメリカ側に付いてしまった方が得かもしれない」と心ひそかに思ったかもしれません。

トランプは、5月16日に北朝鮮が南北閣僚級会談をドタキャンしたり、「米朝首脳会談だって考え直さなければならない」などと「デカイ態度」を示し始めたことを、「金正恩が習近平と二度目の会談をしてからのことだ」と言い始め、5月7日と8日の大連会談に疑義を挟み始めました。

そうして、トランプ大統領は5月16日以降の北朝鮮の態度の変化を「中国のせい」にしておいて、それもちらつかせながら米朝首脳会談を中止しました。

これに対して、金正恩は、米朝首脳会談復活となれば、この段階でさらに習近平にSOSを出せぱ、きっとトランプがまた機嫌を悪くして「中止する」と言い出しかねないと考えたに違いありません。金正恩としては、腹の中ではどんなことをしてでも米朝首脳会談を成功させたいと考えているでしょうから、彼はもう訪中はできません。。

おまけに板門店とシンガポールの挟み撃ちで米朝実務者レベルの会談に急に追い込まれた状況で、習近平に会いに行くなどしたら、トランプの逆鱗に触れることになります。

こうして金正恩をまず、「がんじがらめにして習近平に会わせないようにする」ことに、トランプは成功したのです。

金正恩をがんじがらめにしたトランプ大統領

こうなると、習近平としては、もう何もできないです。自ら積極的に「さあ、北京にいらっしゃい」とは言えないのです。

トランプ氏は、金正恩の豹変を「中国のせい」ではないことを知りながら、あえて「中国のせい」にしたのです。

さらに、5月26日の今年に入ってから第2回目の南北首脳会談のあと、文在寅大統領は米朝首脳会談のあと「南北米」で朝鮮戦争の終戦協定に入ってもいいと27日に語りました。

となると、朝鮮戦争で最も多くの兵士を参戦させ、また多くの犠牲者を出した中国は、その終戦協定という平和体制への移行に発言力を持てなくなってしまいます。

しかし「米朝は対話のテーブルに着け」と言い続けてきたのは中国です。今まさにそのテーブルに着こうとしているのですから、中国としては文句が言える筋合いではありません。こうしてトランプは、習近平の口をも閉ざさせてしまったのです。

これが十分に練り上げた戦略として編み出されたものか、あるいはトランプのビジネスマンとしての「勘」が、結果的にここまで行ってしまったのかは、わからないです。いずれにしても、トランプの圧勝です。

もしトランプが北朝鮮の「完全な非核化の程度」に満足して莫大な経済支援をしたとすれば、金正恩なら、「習近平からトランプに乗り換える」くらいのことは、やるかもしれないです。

どんなに中朝軍事同盟があり、中朝蜜月を演じたとしても、それはアメリカへの威嚇であって、その威嚇が必要となくなれば、中国は「いざという時の後ろ盾」程度の位置づけになり、存在感を失うことになるでしょう。

こうして、「中国の覇権」を抑え込むために、トランプは十分に金正恩という駒を駆使しているのかもしれないです。

中国に対抗することが米国の長期戦略に

先に、トランプ大統領の目標は、「朝鮮を国家として葬り」と掲載しましたが、これは何も軍事作戦だけを意味するものではありません。

北朝鮮の体制を転換させ、いずれ民主化させるということもありえます。そのほうが、経済的にも、恵まれることになります。そうして、そのときには、北朝鮮は米国にとって軍事的にも経済的にも、対中国の最前線基地になっているかもしれません。

一方、北朝鮮があくまで、体制転換を望まないというなら、その時には徹底的に制裁をして、軍事力も用いて、北の現体制を潰し、新たな政権を樹立させるかもしれません。

トランプ大統領としては、場合によってどのような道も選べるように、強烈なタカ派を重用しつつ、中国に対抗できる体制を整えたのです。そうして、中国に対抗していくことを米国の国家戦略に据えたのです。

そうして、この戦略は習近平が、習近平国家主席は憲法を改正して“終身皇帝”となり、「中華民族の偉大なる復興」を目指して着々と政策を進めている現在、たとえポスト・トランプが誰になろうと、民主党政権に政権交代したとしても、引き継がれることでしょう。その意味で、少し前までの米国と現在の米国は根本的に変わってしまったのです。

これから米国がどのように変わったにしても、習近平皇帝の意のままにはさせないということで、米国は一致団結することでしょう。

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