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2020年4月5日日曜日

米国「コロナ爆発的拡大」背景にある政治的事情―【私の論評】日本の「クラスター戦略チーム」は、「FUKUSHIMA50」に匹敵する国難を救う英雄だ、彼らに感謝し支援しよう(゚д゚)!

米国「コロナ爆発的拡大」背景にある政治的事情
両党の認識の齟齬が初動の遅れを招いた

アメリカで新型コロナウイルス対策の初動が遅れた理由は

2月29日、ワシントン州でコロナウイルス(COVID-19)によるアメリカ初の死亡例が公表された。それ以降、このウイルスはアメリカ各州に広がり、感染者21万人以上、死者は5000人近くに上る。

 3月13日には国家非常事態宣言が出され、多数の商店やレストランが閉鎖された。また、さらなるウイルス感染拡大のリスクを最小限にとどめるため、一部の知事や市長は住民に自宅待機を求める「ロックダウン(都市封鎖)」を発令した。

3月初旬には共和党、民主党で認識に大きな違い

 3月のはじめ、アメリカで「あなたの地域におけるコロナウイルスの感染拡大についてどの程度心配しているか」と質問したところ、共和党員の40%以上は「まったく心配していない」と答えたのに対し、民主党員で同じ答えは5%未満と、35%の開きがあった。

 しかし3週間後の3月21日になると、共和党員による同回答は40%から18%にまで急激に減少し、民主党員の回答も5%から2%に下落した。3月はじめにおける共和党員と民主党員の間の35%というこの差は、政党間の分断を反映したものと言える。

 しかしながら、このように3週間で両党の差が35%から16%に縮まったということは、この危機に対し両党の認識が近づいているということなのかもしれない。とは言え、共和党員と民主党員の間で脅威の認識にこのような乖離が生じるのはなぜなのだろうか。

 1つめの理由として、指導者たちが国民に向けて相反するメッセージを発していたということがある。アメリカの情報機関は、1月初めには中国でコロナウイルスの感染が拡大していること、そしてそれが世界的パンデミックにつながりうることをドナルド・トランプ大統領に説明していたが、大統領がその問題を真剣に受け止め、国家非常事態宣言が必要であるとの結論に至るまでには1カ月以上かかった。2月27日になっても、トランプ大統領は「今は15人だが、この15人も数日以内にほぼゼロになるだろう」と力説していたのである。

 同じ頃、国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・フォーシは、「来週、あるいは2、3週間のうちに、われわれは地域のあちらこちらで多数の症例を目にすることになるだろう」と警告していた。そしてその後まもなく、民主党の州知事であるカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事やニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事などは、それぞれの州でロックダウンを発令し、不要不急の企業活動の休止や住民の自宅待機を促した。

 2つめの理由として、情報源の二極化がある。調査によると、共和党員のテレビ視聴者に人気のFOXニュースと、民主党員の多くが視聴するMSNBCでは、コロナウイルスについての報道がまったく異なっており、保守陣営の中には、民主党が意図的に「11月の大統領再選にダメージを与えようとコロナウイルスの感染拡大を「でっちあげ」ているのだ」と非難する者すらいる。

 また、共和党のSNSユーザーの多くは、主に保守系情報源を利用し、民主党SNSユーザーの多くが主に進歩系情報源を利用しているために、両者は互いに異なった、ときとして互いに理解不能な世界を作り出しているのである。

地理的な事情も影響した

 3つめの理由として、地理的な政治要因がある。東海岸および西海岸の高人口密度地域(ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シアトル)や、アメリカ中西部の大都市(シカゴ、デトロイト)は、特に感染者が多い場所である。そしてこれらは民主党が強い地域でもある。

 これに対し、感染者数が比較的少ない中西部や南部は共和党の牙城である。従って、共和党員の間でコロナウイルスに対する危機感が弱いのは、彼らの生活圏が大都市に比べて感染拡大による影響が少ない地域だからということも考えられるのである。

 コロナウイルスに対する危機認識は共和党員と民主党員の間で収束しつつあるが、この危機に対するトランプ政権の対応については、依然として党派間で意見が両極端に分かれている。

 3月初め、アメリカで「コロナウイルス発生に対する米国政府の現在の対応にどの程度満足しているか」という調査を行なったところ、共和党員では50%が「完全に満足している」と答え、「全く満足していない」と答えたのはわずか4%であった。

 これに対し、民主党の回答者のうち「全く満足していない」と答えたのは61%、「完全に満足している」と答えたのはわずか3%であった。3月21日の調査では、民主党員は64%が「全く満足していない」と答え、「完全に満足している」と答えたのはわずか2%。共和党員の回答者のうち、「完全に満足している」と答えたのは46%、「全く満足していない」と答えたのは5%だった。

 つまり、共和党員の間で危機認識が高まりはしたものの、トランプ政権のコロナウイルス危機への対応についての評価には、党派間の溝が依然として存在するのである。しかし、こうした党派間の分断にもかかわらず、党派的ないざこざの後、コロナウイルスによる経済的損害の緩和に向けた2兆ドルの法案を、3月25日に上院で可決できたことは心強い。

 おそらくこれは、誤魔化しが効く政治的危機とは対照的に、具体的に死者がでている現実的な危機的状況においては、党派の主義主張よりも事実が勝るということを示しているのではないだろうか。

統一的対応の欠如は中国の存在感を高めることに

 つい最近までは、トランプ大統領が3月24日に「4月12日のイースターまでに経済活動を再開したい」という意向を示したことをめぐり、新たな論争が勃発し始めた。大統領は、「ちょうどいい時期だし、ちょうどいいタイミングだと思った」のだという。

 しかし、公衆衛生の専門家から「その期限はあまりにも時期尚早であり、コロナウイルスの克服という見地から見て悲惨な結末につながる」と非難されたため、3月29日、大統領はこの目標を撤回した。

 世界的パンデミックの中心地はこの2カ月間で中国からイタリアへと移動し、そして今やアメリカがその中心地である。トランプ政権は、「武漢ウイルス」や「チャイナウイルス」などとレッテルを貼り、中国がパンデミックの発生源であると非難しているが、国内における両党派の対立や世界におけるアメリカの統一的な対応の欠如は、最終的には中国の存在感を高めることにつながる可能性が高い。なぜなら、現実はさておき、中国には国内における危機の克服と他国に対する支援の両面で明確な戦略があったからである。

 国内だけでなく、世界においても、党派間の対立を克服し、科学、エビデンス、透明性、そして真実に基づくリーダーシップをアメリカが発揮できるようになることを期待したい。

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【私の論評】日本の「クラスター戦略チーム」は、「FUKUSHIMA50」に匹敵する国難を救う英雄だ、彼らに感謝し支援しよう(゚д゚)!

米国では、経済対策は電光石火のごとく、挙党一致で動き、素早い対応がみられました。

トランプ米大統領は先月27日、中国ウイルスの感染拡大を受けた2兆ドル(約220兆円:GDPの10%)の経済対策法案に署名し、同法は成立しました。トランプ氏はまた、米自動車大手ゼネラル・モーターズに人工呼吸器を製造するよう命令しました。

与野党は1週間に及んだ攻防の末に同法案を支持し、法案は大統領が署名する数時間前に下院で可決されていました。経済対策では平均的な4人家族に最大3400ドル(約37万4000円)を給付します。

トランプ大統領は「民主党議員と共和党議員が協力し、米国を第一に考えてくれたことに感謝したい」と述べました。

トランプ氏はまた、国防生産法を発動し、人工呼吸器の迅速な製造をGMに命じました。人工呼吸器は新型コロナウイルス感染症の重症患者の生命維持に必要ですが、不足しています。

さらに、このブログでも掲載したように、米連邦準備制度理事会(FRB)は先月3日、金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)を定例会合の17、18日を待たずに緊急開催し、政策金利0・5%の引き下げを行いました。

このように、財政・金融政策では、米国は申し分のない対策を行っています。日本も見習うべきです。そのため、上で述べているように、防疫体制に問題があったにしても、一旦武漢ウイルスの蔓延が終息すれば、米国経済は比較的短期に回復する可能性が大きいです。

しかし、防疫体制には問題がありすぎました。

米国では、一月下旬に国内最初の感染者がワシントン州で確認されました。これを受けて、地域の感染症専門家とその研究チームがインフルエンザ検査を転用して、コロナウイルス検査を実施する方法を提言し、何度も連邦政府に協力を求めたが拒否され続けて何週間も経ってしまいました。彼らは二月下旬に入って、これ以上は待てないと政府の承認なしにウイルス検査の実施を敢行しました。

ところが、この研究チームは独自の検査を即時ストップすることを求められたのです。

連邦政府が彼らの要請を拒否し、検査を中止させた理由は、この研究チームの研究対象がインフルエンザであり、それをコロナウイルスに変えての検査の転用は許可できないということと、医療行為に直接関わる許可を得ていないということでした。つまり、研究倫理に関する規制を優先した結果、感染状況を早期に把握することに失敗してしまったのです。

また、ほかの専門家も二月中旬頃から初動の重要性、検査の重要性を訴え続けていたのですが、米国は中国からの入国禁止措置で稼いだ時間を事実上、無駄にしてしまいました。民間の研究機関が独自に検査を開発できるようにしようという声もあったのですが、米国食品医薬品局(FDA)がそれを許可することはありませんでした。

日本では、感染蔓延当初、感染症対策には優れた機関であると見なされていた、CDCに至っては、独自検査の開発にこだわった結果、最初に開発された検査キットが失敗作でした。

米国疾病予防センター(CDC)

現在では、トランプ大統領もCDCも、国内で感染が広がった原因は広範な検査を早期実施することに失敗したせいであるということを認めています。

いかに柔軟に規制を緩和し柔軟に対応できるかが、緊急事態における国家の対応力を左右するといえるでしょう。

日本では、米国に比較すると現状では、感染者も死者も少ない状況です。なぜそうなったかとえば、何と言っても「クラスター戦略」つまり「感染の連鎖を見える形にして、その先への感染を抑え込む」という方法論が成功したためです。

この方法論を主唱して実戦の指揮を事実上取っているのが、東北大学の押谷仁教授と、北海道大学の西浦博教授と言われています。

ここ数週間は、孤発例(こはつれい)つまり感染経路をたどれない陽性患者が多く発見され、特に東京では感染拡大の懸念が高まっています。ですが、こうした状況においても厚生労働省のクラスター対策班は、コツコツとクラスターの「見える化」つまり感染者の濃厚接触者のフォローと、感染経路のさかのぼりといった調査を続けています。

その結果として、例えば中国との往来などを原因とした「第1波」の中では、

▼ダイヤモンド・プリンセス下船者からのクラスター発生の阻止
▼武漢からのチャーター機での帰国者からのクラスター発生の阻止
▼東京の屋形船クラスター
▼愛知のクラスター
▼和歌山のクラスター
▼北海道における北見と札幌のクラスター
▼大阪におけるライブハウスのクラスター

などは、感染経路を「見える化」すると同時に、更に感染の連鎖が続くことをほぼ抑え込んでいます。

一方で、3月中旬以降始まった「第2波」においても、多くのクラスターが続々見つかっています。例えば、京都の大学にしても、東京の繁華街にしても、最初は「孤発例」だったのが、クラスター対策班の努力で連鎖が発見できており、「第1波」と同じように封じ込めを目指した努力がされているのです。

もちろん、このアプローチには限界があります。クラスターをたどれない「孤発例」がどんどん増えていく一方で、全く「見える化」されない形で、大きなクラスターができていき、ある日突然その中から多数の重症者が病院に殺到する、つまり欧米で現在起きているような「感染爆発」が起こる可能性はゼロではありません。

しかしながら、「第2波」についても、何とか追跡ができつつあるという状況だと考えられます。4月1日から2日にかけて明らかとなった、大阪のショーパブにしても、北九州と福岡にしても、まだ油断できない状況ですが、仮にクラスターの全体像が「見える化」できれば感染の連鎖は抑え込むことは可能なはずです。

一方で、「接触の削減」については欧米ほどではないものの、一斉休校や外出自粛などの対策が強化されつつあります。これは、相当数あると思われる「見えない感染者」からの感染拡大を低減するには、必要な対策です。日本でも、一旦「クラスターが追えない」というフェーズに入ってしまうと、欧米のような事態に陥る可能性はゼロではないからです。

反対に、対策の結果として、孤発例が減少していき、「見えないクラスター」の存在する可能性が消えていく、その上で「見える化」されたクラスターを全部「潰す」ことができれば、感染の暫定的な収束に持っていくことは可能です。これが現在の日本の状況だと考えられます。

感染爆発が起こってしまった米国等においては、もうすでに「クラスター戦略」は有効ではありません。だから、米国等の国々が日本のやり方を踏襲することはできません。残念なことです。ただし、感染者数が比較的少ない中西部や南部ではまだ有効かもしれません。

私は、「クラスター戦略」を主唱して実戦の指揮を事実上取っている東北大学の押谷仁教授と、北海道大学の西浦博教授および、彼らをサポートするおそらく、少人数のチームの人々に多くの人々が感謝とともに、協力すべきと思います。以降これらの人々を「クラスター戦略チーム」と呼びます。

この「クラスター戦略チーム」どのくらいの人数なのかは、わかりませんが、おそらく米国のCDCと比較すれば、本当に少ない人数だと思います。

無論私達の大部分は、感染症の専門家ではないので、彼らを直接サポートすることはできません。しかし、彼らに対して協力にサポートすることはできます。

それは、私達自身がなるべく感染しないようにすることです。これから、感染者がどんどん増えていけば、ましてや指数関数的に増えれば、さすがに「クラスター戦略チーム」もクラスターを追跡するのは不可能になります。

そうならないように、少しでも感染を減らして、彼らがクラスターを追跡できるように、時間的な余裕を提供するのです。

私は、彼らの献身的な地味な努力は、人々の目に見えないところで実施されているので、多くの人が意識していないようですが、彼らは、一人でも多くの人々の命を助けたいという使命感に突き動かされているのだと思います。

彼らの努力がなければ、今頃日本は、他国のようにすでに爆発的な感染で多くの人々が亡くなっていたでしょう。

私は、彼らの貢献を見て、歴史上のある言葉を思い出しました。それは、第二次高い大戦中の英国が、ドイツと空の戦い「バトル・オブ・ブリテン」を戦った最中のチャーチルの演説です。
人類の歴史の中で、かくも少ない人が、かくも多数の人を守ったことはない。— イギリス首相ウィンストン・チャーチル、1940年8月20日 下院スピーチ

バトル・オブ・ブリテンの期間中、ドイツ軍は絶え間なく沿岸沿いの飛行場や工場を爆撃した。

日本では、大昔から国難に至ると、必ずといって良いほど、英雄が出てきて国難が回避されてきました。

近いところでは、あの福島原発事故において、我が身の危険も顧みず、原発事故に立ち向かった「FUKUSHIMA50」です。これは、最近映画化されたので、多くの人達が知っていることでしょう。 たった50人があの未曾有の災害に立ち向かったのです。


私は、「クラスター戦略チーム」も日本の国難を救う英雄だと思います。

彼らの努力を無にしないため、各自治体や国の感染症対策への要望や、これから出されるであろう緊急事態宣言により、さらなる要望がでてくると思いますが、私達はそれによる、不自由や不便等は甘んじて受け、「クラスター戦略チーム」を応援しようではありませんか。

そうして、政府としては、せっかく「クラスター戦略チーム」が多くの人々を救ったにしても、その後の経済がなかなか回復しなければ、とんでもないことになりかねないですから、米国に匹敵するような経済対策を実行していただきたいものです。

そうして、忘れてならないのは、現場の医療関係者です。彼らがいなければ、感染者を救うことはできません。彼らも英雄なのです。

現在実施している施策は、第一段として、第二段、第三段と、効果のある経済対策を実施していただきたいです。それでもだめなら、10段でも20段でも実行していただきたいです。それに日銀も、異次元の緩和の姿勢に戻るべきです。

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2019年8月20日火曜日

香港騒動でトランプは英雄になる―【私の論評】トランプの意図等とは関係なく、香港の自治が尊重されないなら、米国は香港を中国と別の扱いにすることはできない(゚д゚)!

香港騒動でトランプは英雄になる

無関心だった大統領が踵を返した3つの理由


「第2の天安門事件」にはならない

 香港での「逃亡犯条例」の改正案をきっかけに燃え上がった香港市民の抗議デモは留まるところを知らない。

 これに対して、中国軍の指揮下にある武装警察が香港と隣接する中国広東省深圳の競技場に集結し、デモがさらに激化すれば出動する構えを見せている。

 一方、市民団体は香港政府に対し、逃亡犯条例改正の完全撤回、逮捕者の無罪放免、普通選挙の実施など「5大要求」を掲げて徹底抗戦の構えだ。

 週末には市民団体は各地で大規模なデモ行進を敢行した。24、25両日には新界地区でもデモが予定されている。まさに一触即発の事態を迎えている。

 もし中国軍が武力抑圧に出れば、1989年6月4日の天安門事件*1の再来もありうる。

 米国は世界でも名だたる「人権重視国家」。たとえ内政干渉と言われようとも他国の人権抑圧政策には口を出してきた。

 それが米国建国のバックボーンになっているからだ(たとえ建て前であろうともその辺が日本などとは異なる)。

 中国で大勢の市民が虐殺されれば真っ先に立ち上がるのは米国だ。また世界はそれを期待している。

 今回の香港デモでも何人かが星条旗を掲げているのもそうした期待度があるからだ。

「第2の天安門」事件となれば、米国は動かざるを得ない。それでなくとも貿易を巡って緊張感が高まっている米中関係に新たな火種となることは必至だ。

*1=2017年に公開された英国外交文書によると、天安門事件で殺害された市民は少なくとも1万人とされる。当時の駐中国英国大使が中国国務院委員からの情報として本国政府に報告した極秘公電で明らかにされている。

狭い香港で大規模な武力行動は無理

 ところが、まずそうした状況にはならないだろうと楽観視しているのは香港の事情に精通する米国人ジャーナリスト、ワシントン・ポストのマーク・セッセン記者だ。

「中国の軍隊が香港に侵入し、香港市民の抗議デモを鎮圧するのはかなり難しいのではないのか。軍隊を出動させても抗議デモを天安門の時のように鎮圧できないからだ」

 その理由を3つ挙げている。

 1つは、香港の地形だ。香港島、九龍半島、新界と235余の島からなるが、山地が全体に広がり、平地は少ない。香港島北部の住宅地と九龍半島に人口が集中している。

 市街は曲がりくねった狭い迷路だらけ。それに坂が多い。重装備の戦車や装甲車が活動するには極めて不適切だ。

 2つ目は、今回の抗議デモには指導者がいないし、1か所を叩いてもすぐほかの場所で抗議デモが始まる。モグラ叩きのようなものだ。

 現在は6月に200万人デモを行った民主派団体「民間人権陣線」が抗議活動の指揮を執っているようだが、市民は自然発生的に広がっている。

 3つ目は1989年の天安門事件の当時にはなかったSNSをはじめとするインターネットの普及だ。市民間のコミュニケーションの手段になっているだけでなく、中国軍の一挙手一投足が動画で世界中に流れる。

 中国政府の全く統制の取れない状況下で中国軍対香港市民の武力衝突→多数の死傷者といった事態が同時多発的に全世界に流れる。

 それが習近平国家主席と中国共産党にとってどんな意味を持つか。知らぬはずがない。

https://www.washingtonpost.com/opinions/2019/08/15/china-does-not-have-upper-hand-hong-kong-trump-does/

俄然関心を示し始めたトランプ大統領

 トランプ大統領は、香港デモ発生以降、断片的にツィッターや記者団との即席会見で中国政府が「人道的な解決」を図るよう、促してきた。

「当事者に死傷者が出ないことを望む」

 当事者とは抗議を続ける市民と香港警察の警官双方を指していることはいうまでもない。

(2017年8月、バージニア州シャーロッツビルで過激派極右グループが抗議デモの市民たちに襲いかかった時に発した同じコメントだ。「喧嘩両成敗」的発言だった)

 米情報機関からの情報や国務省、国家安全保障会議などの専門家の分析が閣僚や補佐官を通じてトランプ大統領の耳に入るのに若干時間がかかったからだろう。

 それが15日には豹変した。香港騒動を米中貿易戦争に結びつけたのだ。

「私は習近平主席をよく知っている。彼は中国国民から非常に尊敬されている偉大な指導者だ。彼はいい人物だが、商売(外交交渉)にはタフで、歯ごたえのある人物だ」

「彼が香港問題を早急に人道的に解決したいのであれば、そうできると思っているし、疑いの余地はない」

「(もしこの危機を解決するのに役立つなら自分との)個人的な会談をやれだって? 中国(が国内でやっていること)には何の問題もないが、香港で起こっていることが(今米中間で行っている貿易交渉に)役立ちはしない」

「無論中国は(貿易交渉が)うまくいくことを望んでいるはずだ。(ということは)中国は香港問題を人道的に片づけることが先決だ」

https://www.nytimes.com/2019/08/15/world/asia/donald-trump-hong-kong.html

*筆者はトランプ氏の言ったことをそのまま訳しても、知的に解釈できないと思い、置かれた状況を踏まえてネイティブの助けを借りて意訳した。トランプ氏の実際の発言は以下の通りだ。

"China is not our problem. though Honk Kong is not helping. Of course China wants to make a deal. Let them work humanely with Hong Kong first!"

 トランプ大統領は18日にはさらに嵩に懸かるようにこう警告した。

「中国が香港デモで天安門事件のような対応をすれば、(米中)貿易合意は困難になる」

 なぜ、トランプ氏が強硬になったのか。

 その理由の一つは、前述の通り、トランプ大統領は中国は香港騒動を武力鎮圧はできない、という米情報機関からの分析が入ってきたからだろう。

 第2は、米国には「米国・香港政策法」という法律があることを知らされたからだろう。

 おそらく対中強硬派の経済学者、ピーター・ナバロ通商製造業政策局ディレクター(旧国家通商会議=前カリフォルニア大学アーバイン校教授)あたりから聞いたのかもしれない。

 ナバロ氏には米中戦争突入の戦慄シナリオを書き上げた著書があるくらいだ。

 香港は1842年、南京条約で清朝から英国に割譲され、英国の永久領土となった。その後1984年の中英連合声明を踏まえて、2007年に主権が中国に返還された。

 中国の特別行政区となり、「一国二制度」の下、2047年まで社会主義政策を実施しないことを決めている。

 米国は、香港が中国に返還され、行政特別区となることで対中外交が複雑化することを懸念した。

 そこで1992年、米議会は香港の扱い方を規制する法案(米国・香港政策法)を可決成立させ、97年、香港が中国に返還されると同時に同法を発効させたのだ。

https://www.law.cornell.edu/uscode/text/22/5701

同法により、米国は香港を中国の他の地域とは異なる地域と扱い、関税や査証(ビザ)発給などで優遇措置を採ってきた。

 トランプ大統領は、万一中国が抗議デモも武力鎮圧に出れば、直ちにこの法律を使って対香港関税優遇措置の撤廃に踏み切る。

 中国は米国が香港に対し関税面で優遇措置を採っていることで通商面で多大な恩恵を受けてきた。中国にとっては香港は「金の卵」を産む雌鶏だ。これはどうしても手放したくない。

 実は、米議会は6月13日、香港の「逃亡犯条例」改正案に反発して「米国・香港政策法」の前提になっている香港の自治が保障されているかどうかを米政府が毎年検証することを求めた法案(「香港人権・民主主義法案」)を超党派で提出している。

https://time.com/5607043/hong-kong-human-rights-democracy-act/

 中国が香港デモを武力で鎮圧するような事態になれば、米議会はさらに強硬な法案を出すことを必至だ。

 ことあるごとに角突き合わせているトランプ大統領と民主党のナンシー・ペロシ下院議長もこと、香港問題では完全に一致する可能性大だ。

対中強硬派ブレーンの「文殊の知恵」?

 中国共産党機関紙「人民日報」の傘下にある「環球時報」は、習近平政権の心情を慮ってこう報じている。

「香港での抗議活動が当初の逃亡犯条例改正反対という原点を離れて、(旧ソ連諸国などで政権を倒した民主化運動だった)『カラー革命』(顔色革命)に変質した」

「抗議活動の標的が香港政府から中央政府に移り、香港を再び中国から切り離して西側世界に戻ろうとしている」

「従って(逃亡犯条例改正に拒否する)反対派の要求には絶対に応じられない」

 ところがこれはあくまでも建て前の話。習近平政権にとってはもっと直近な懸念が急浮上してきた。

「香港騒動」に乗じて「米国・香港政策法」をちらつかせてきたトランプ大統領の戦術にどう対応するかだ。

 かってのような人権を守るための「正義」などではなく、進行中の米中貿易交渉の交渉材料の一つに加えるトランプ政権のしたたかであくどい手口だ。

 関税優遇措置を継続させるために「逃亡犯条例改正」案を引っ込めさせるのか。これも政治的リスクは大きい。

 元国務省高官の一人は筆者にこうつぶやいている。

「商売人トランプの真骨頂と言うべきか。ジョン・ボルトン大統領国家安全保障担当補佐官、ステファン・ミラー大統領顧問、ナバロ通商製造業政策局ディレクターら対中強硬派ブレーンの『文殊の知恵』(Four eyes see more than two)か」

「人民の統治を重視する米共和主義のシンボルであるジェファーソニアン・デモクラシーとはあまり縁のないトランプたちが香港の自治とか、市民の人権などを重視して考えついた発想でないことだけは確かだ」

「しかし、結果的にはトランプが香港の自治権を守る英雄のように世界には映るだろうね」

【私の論評】トランプの意図等とは関係なく、香港の自治が尊重されないなら、米国は香港を中国と別の扱いにすることはできない(゚д゚)!

冒頭の記事にもあるように、米国と香港の関係は、1992年に成立した「米国・香港政策法」で規定されています。同法は香港を中国とは別の関税自治区かつ経済地域とみなし、それに基づき米国は香港に優遇措置を適用しています。

米国務省は同法の下で、香港に関する年次報告書を公表することが義務付けられています。3月21日に公表された報告書では、香港は優遇措置を正当化する「十分な」水準の中国からの自治を維持しているとしたうえで、その自治権は「減退してきた」としています。

中国は近年、共産党政権に批判的な香港市民を第三国から連れ去り、勾留するため中国に移送してきました。香港市民は、中国政府が「逃亡犯条例」改正により、批判者を特定し、同国の法律の下で起訴し、その後、中国での審理や処罰のために引き渡しを求める明確な権限を持つことになるのを理解しています。

また腐敗した中国の当局者らは本土への移送という脅しをかけるだけで、香港の企業から利益を巻き上げることができるようになるでしょう。

唐人テレビのインタビューに応える米NY私立大学 ベンジャミン・シェパード教授

改正案に「深刻な懸念」を表明した米国務省によれば、香港で活動する米企業は1300社を超えます。また香港における米国の投資額は約800億ドル(約8兆6850億円)で、居住する米国市民は8万5000人に上るといいます。

カート・トン元駐香港米総領事は中国の主張に異議を唱え、「当地において投資はできるが発言権はないと言うのは、責任ある者の考えではもちろんない」と語りました。

冒頭の記事にもあるように、マルコ・ルビオ上院議員(共和、フロリダ州)、ジム・マクガバン下院議員(民主、マサチューセッツ州)、クリス・スミス下院議員(共和、ニュージャージー州)は先に、「香港人権・民主主義法案」を議会に再提出しました。

これは主に、中国が約束した自治を香港が享受し続けているかどうか、2047年まで毎年検証するのを国務長官に義務づけるものです。香港の自治が保障されていない場合、米国の法律の下で香港が受けている優遇措置―関税、査証、法執行上の協力など―はなくなる可能性があります。

民主党のナンシー・ペロシ下院議長
一部には、香港への優遇措置をなくすことで中国を罰するというやり方が、香港を一層傷つけると懸念する向きもあります。しかし、ペロシ下院議長の論理は正しいです。香港の自治が尊重されないのであれば、なぜ米国の政策で香港を中国と別の扱いにする必要があるのでしょうか。

ブログ冒頭の記事は、非常に良い記事なのですが、ただしトランプ政権が「米国・香港政策法」をちらつかせたこと、トランプ政権のしたたかであくどい手口などと評価していますが、それはいかがなものかと思います。

今や米国は、議会は超党派で、そうして司法も中国と対決姿勢を顕にしています。もはや、米国にとって中国はかつてのソ連のような敵となったのです。トランプ大統領が、何かの都合で、ディールを成立させ、中国と和解しようとしても、それは簡単にはできなくなりました。

ペンス米副大統領は19日、ミシガン州で演説し、香港で続く大規模抗議デモへの対応をめぐり、「中国政府は、香港の法を尊重するとした1984年の英中共同声明などの約束を守る必要がある」と語りました。

ペンス米副大統領

香港の自治と自由を尊重するとした英中声明に触れて、武力鎮圧しないよう中国をけん制しました。

そもそも、トランプ大統領の意図など全く別にして、習近平国家主席が中国の誇りであるべき自由都市、そして、台湾に安心をもたらす自治政府の一例である香港に不必要なダメージを与えようとしているのなら、米国は中国政府を信用することなどできません。

これは、トランプ大統領の意思がどうのこうのと言う前に、米国の意思であることを理解すべきと思います。

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2014年5月14日水曜日

【西村幸祐氏ツイート】Hideki Tojo and Jewish refugees ユダヤ人難民を救った知られざる日本の人道主義者たち―【私の論評】東條英機閣下はユダヤ人から「ユダヤ人を救った英雄」と言われていることを知らない自虐的歴史観にまみれた日本人は、もう一度歴史を真摯に見なおせ(゚д゚)!

【西村幸祐氏ツイート】Hideki Tojo and Jewish refugees ユダヤ人難民を救った知られざる日本の人道主義者たち

東條閣下
【私の論評】東條英機閣下はユダヤ人から「ユダヤ人を救った英雄」と言われていることを知らない自虐的歴史観にまみれた日本人は、もう一度歴史を真摯に見なおせ(゚д゚)!

週間新潮4月13日号、「『東條英機』はユダヤ人から『英雄』と称えられていた」という見出しで、以下のような記事が掲載されてます。
A級戦犯の代表といえば東條英機。彼が合祀されている靖国神社への小泉首相の参拝を、「戦後ヒトラーやナチスを崇拝したドイツの指導者はいない」と非難したのは、中国の李肇星外相だが、その東條はなんと、ユダヤ人から「英雄」と称えられていたのである。
(「週間新潮」4月13日号より引用)

この記事のモトネタはラビ・マーヴィン・トケイヤー氏著「ユダヤ製国家日本」。氏は日猶同祖論やユダヤ教のタルムードに関する書籍で知られています。私は、古代ユダヤ教の儀式と神道の祭、古代ヘブライ語と日本のカタカナの相似をもとに展開される日猶同祖論に一時かなり興味を持ったことがあります。

さて、ユダヤ人が東條閣下を「英雄」と称える理由として以下の二つをあげることができます。

1937年、ナチスの暴挙を世界に喧伝するためにハルビンで開催された極東ユダヤ人大会。ハルビン特務機関長だった樋口季一郎らが大会に出席したことに対し、当時、同盟国であったドイツが抗議。その抗議を東條閣下が握りつぶされました。

樋口季一郎
ナチスの迫害から逃れたユダヤ人を満州国に入国させたことに対するドイツ外務省の抗議に対して、東條閣下は、「当然なる人道上の配慮によって行ったものだ」と一蹴されました。

エルサレムの中心地にユダヤ民族に貢献した人、ユダヤ人に救いの手を差し伸べた人達を顕彰するために、「ゴールデンブック(黄金の本)」なるものが展示されています。

ゴールデンブックの第一巻目

この「ゴールデンブック」には二人の日本帝国陸軍軍人、樋口季一郎中将と安江仙弘大佐の名が刻まれています。特務機関の幹部として、ハルビンのユダヤ民族協会を通してユダヤ人社会との交流があった樋口、安江。一方、東條閣下はユダヤ人と親交を結ぶ機会がありませんでした。

それゆえ東條閣下は「ゴールデンブック」入りができませんでした。しかし、「もしユダヤ民族協会との交流があれば、ゴールデンブック入りは勿論のこと、東京裁判の判決に対し世界中のユダヤ人から助命嘆願書がマッカーサーのもとに寄せられたことだろう」と、トケイヤー氏はそう記しています。

ユダヤ人映画監督スピルバーグ氏は、ユダヤ人を救った男の実話を描いた「シンドラーのリスト」について、トケイヤー氏は以下のように語っています。
「シンドラーの行為は無料で使える工員を集めて金儲けするという私欲から発したもの。人道的な精神からユダヤ人を救った日本人とは根本が違う」。
スピルバーグ氏

日本では、ユダヤ人を救った日本人ということになると、外交官の杉原 千畝(すぎはら ちうね)が有名です。第二次世界大戦中、リトアニアのカウナス領事館に赴任していた杉原は、ナチス・ドイツの迫害によりポーランド等欧州各地から逃れてきた難民たちの窮状に同情。外務省からの訓令に反して、大量のビザ(通過査証)を発給し、およそ6,000人にのぼる避難民を救ったことで知られています。その避難民の多くが、ユダヤ系でした。海外では、「日本のシンドラー」などと呼ばれることがあります。

しかし、東條閣下が、ユダヤ人に対して救いの手を差し伸べたことなど、歴史の彼方に消え去り、振り返られることもほとんどありません。これは、やはり、第二次大戦の戦勝国からみるとこの事実は隠蔽しておきたいからかもしれません。

杉原千畝

ユダヤ人に救いの手を差し伸べた閣下が、一方では残虐非道の独裁者であるかのような振る舞いをしたなどということは、はなはだしい矛盾です。そんなことがあり得るはずがありません。

東條閣下をはじめとする、いわゆる東京裁判における戦犯の方々は、すべて戦犯などではなく勝者の裁く一方的裁判でリンチにかけられ、死刑となったものです。これは、重大な戦争犯罪です。日本人たるもの、この事実は永遠に忘れてはならないと思います。日本軍は、ナチスドイツのSSなどとは明らかに違います。日本が軍国主義だったとか、軍人が何もかも権力を握って好き勝手をしたなどというのは、著しい歴史の歪曲です。


スピルバーグは、第二次大戦は自分にとって最も重要なテーマであると語り、実際、第二次大戦を扱った映画をいくつも発表しています。スピルバーグが東條閣下や、樋口、安江、杉原のような日本人を映画化してくれたなら、東條英機閣下の名誉も回復され、呪われた自虐史観も一掃されると思います。こんなことが実現したら本当に素晴らしいことになると思います。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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