トランプ氏(右)との首脳会談に臨んだ文氏だが、表情はさえなかった |
「今は適切な時期ではない。(北朝鮮が『完全な非核化』をして)適切な時期を迎えれば、大きな支援が行われるだろう。韓国、日本、多くの国々も支援に手を挙げると考えている」
トランプ氏は11日午後(日本時間12日未明)、ホワイトハウスで行われた米韓首脳会談の冒頭、こう断言した。報道陣から、南北共同事業である開城(ケソン)工業団地や、金剛山(クムガンサン)観光再開について問われたことに対する回答だった。
昨年6月と今年2月に続く、正恩氏との3回目の米朝首脳会談についても、トランプ氏は「可能性はあるが、急ぐつもりはない」といい、米国の求めるビッグディールは「核兵器を取り除くことだ」と明言した。
「従北」の文氏には、「ゼロ回答」に等しい通告だった。
以前から、文氏は世界各国を訪問して、北朝鮮に対する制裁解除を呼びかけてきた。今年1月の年頭記者会見では、開城工業団地と金剛山観光の再開に意欲を見せていた。
同盟国の韓国に対し、「冷たすぎる」ようにも見えるトランプ氏の対応は、会談時間にも表れていた。
韓国・聯合ニュースによると、トランプ氏と文氏の2人きりの会談は29分間行われたが、報道陣との質疑応答が27分間続き、実際の会談は2分程度だったのだ。
決して、トランプ氏に時間がなかったわけではない。報道陣とのやり取りでは、ゴルフのマスターズ・トーナメントについて「誰が勝つと思うか?」と聞かれ、タイガー・ウッズなど有力選手の名前まで挙げて冗舌に答えていた。
トランプ氏の米韓首脳会談での態度について、米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「事実上、『韓国との首脳会談を拒否した』といってもいいぐらいの対応といえる。2分というのは、通訳の時間を入れたらゼロに近い。文氏は首脳会談前、マイク・ポンペオ国務長官や、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と会っている。トランプ氏としては『文氏に伝えるべきことは2人を通じて言ってあるので、首脳会談では具体的なことを話す必要はない』ということではないか」と説明した。
韓国サイドでも開催前から、首脳会談の行方を心配する意見があった。
首脳会談の席には両大統領に加え、メラニア夫人と金正淑(キム・ジョンスク)夫人の姿があった。1泊3日の実務訪問に夫人を同行させることも、夫人同伴の首脳会談も極めて異例といえる。
この形式について、韓国紙、朝鮮日報(日本語版)は11日、社説で「北朝鮮制裁の緩和を望む文大統領と実質的な話し合いをするつもりはないからだとの印象を与える」として、「今回の韓米首脳会談が韓米同盟の決裂を防ぐ機会になることを祈るばかりだ」と指摘していた。
そもそも、今回の会談日程は、文氏には厳しいものだった。
11日は、日本統治下の1919年に、中国・上海で独立運動家らによる「大韓民国臨時政府」が設立されてから100周年にあたるのだ。過激な「反日」言動を続ける文氏にとって、ソウルで11日夜に行われる記念式典は晴れの舞台になるはずだった。
韓国情勢に精通するジャーナリスト、室谷克実氏は「トランプ政権が、会談日として11日を提示したのは意図的だ。文氏に対して『無理に来なくていい』というメッセージだったのではないか」と分析する。
案の定、トランプ政権に「冷遇」された文氏は、ほとんど成果のないまま帰国することになった。今後、米韓関係はどうなりそうか。
前出の島田氏は「北朝鮮による瀬取り取り締まりのため、米国は3月、沿岸警備隊の大型警備艦を朝鮮半島沖に派遣した。『韓国船舶が北朝鮮に協力している』との情報があり、派遣には『韓国の監視』という意味もある。米韓両軍の大規模軍事演習も3つすべてが中止されており、事実上、米韓同盟は空洞化したといっていい」と話した。
【私の論評】トランプ大統領は、外交音痴の文に何を話しても無駄と考えた?
4月11日にワシントンで開かれた米韓首脳会談は異例づくめでした。通常は首脳だけで膝を突き合わせる「首脳の単独会談」に何と、両国のファーストレディも参加したからです。
文在寅政権に批判的な保守系紙の朝鮮日報は会談当日に掲載した社説「『夫婦同伴の韓米首脳会談』だなんて」(4月11日、韓国語版)で以下のように疑念を表しました。
●(韓国)大統領府は首脳会談が2時間以上にわたり「単独会談」→「スタッフが同席しての小規模の会談」→「昼食兼拡大会談」の順で開かれると発表した。実際、4月11日の米韓首脳会談は朝鮮日報が危惧したように首脳が膝を突き合わせて話し合う機会はありませんでした。両大統領と記者とのやりとりに時間が使われ、「夫婦同伴の首脳会談」でさえ2分間に終わったと冒頭の記事にもあるように、韓国各紙は報じました。それどころか会談自体が、記者団を前に文在寅大統領の要求をトランプ大統領がことごとく打ち砕いて見せる場となったのです。
●ところがこの単独会談に双方の夫人が同席するという。1日3泊の実務訪問に大統領夫人が同行するのも異例だが、首脳会談を夫婦同伴でするのもほぼ前例がない。
●通訳の時間を除けば事実上、挨拶を一言交わせば終わってしまう短い時間であり、実質的な単独会談はないも同然だ。「スタッフが同席しての小規模の会談」がそれなりの議論の機会にも見えるが、それだってすぐに昼食会に移ってしまう。
●韓米首脳が同席者なしで北朝鮮の核、韓米同盟など重要な案件に関し深い会話を交わす時間は実質的にない。この形式は米国側が提案したという。
大統領執務室での首脳会談の冒頭、韓国が望んでいる北朝鮮への制裁緩和について記者が聞くと、トランプ大統領は「制裁を続ける。それを強化する選択肢だってある。今の水準が適切と思うが」と答えました。
「文大統領が言う『小さな取引』に応じる気はないか」との問いには「いろいろな『小さな取引』もあり得る。一歩一歩、部分的に解決もし得る。だが、現時点では(完全な非核化を求める)『大きな取引』を話し合っている。それにより(北朝鮮の)核を取り除かねばならない」と真っ向から否定しました。
さらに第3回米朝首脳会談について「可能性はある。ステップ・バイ・ステップでね。すぐに始まりはしない。私がそうなると言及したことはない」「私はずうっと言ってきたが、早めれば良い取引にはならない」と急がない姿勢も明確にしました。
これに先立ち、文在寅大統領が記者団に「対話の機運を維持し、第3回朝米首脳会談が近く開かれるとの見通しを国際社会に示すことが重要だ」と語ったのを、またもや明確に否定しました。
一連のやり取りはホワイトハウスの「Remarks by President Trump and President Moon Jae-in of the Republic of Korea Before Bilateral Meeting」(4月11日)で読めます。
同盟国のトップを呼びつけておいて、万座の中でこれほど徹底的にその意向を否定して恥をかかせるのも珍しいです。
「首脳だけで顔合わせする時間はなし」という異例の設定も、文在寅の話などに耳を傾けず、トランプ大統領が一方的に説教する構図を世界に見せつけるのが目的だったのでしょう。
なお、4月11日は文在寅政権が肝入りで開く大韓民国臨時政府の発足100年記念式典の当日でした。ワシントンに向かった文在寅大統領は参加できず、代わりに李洛淵(イ・ナギョン)首相が出席しました。
4月11に挙行された大韓民国臨時政府の発足100年記念式典 |
米韓首脳会談の開催をどちらの国が言い出したかは不明ですが、この記念式典から勘案すると、4月11日という設定は米国が決めたのは確実です。
米国の政界は「文在寅政権は金正恩(キム・ジョンウン)政権の使い走りだ」と見なしています。2月27〜28日にハノイで開かれた米朝首脳会談で「非核化せずに制裁解除だけ狙う」北朝鮮の姿勢が確認できました。
というのに3月1日、文在寅大統領が「開城工業団地と金剛山観光事業の再開」を言い出し、制裁の解除に動いたからです(デイリー新潮「米国にケンカ売る文在寅、北朝鮮とは運命共同体で韓国が突き進む“地獄の一丁目”」[19年3月20日掲載]参照)。
北朝鮮も韓国の尻を叩いています。3月15日、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は各国の外交官やメディアを集めた席で「韓国は米国の同盟国であるため『プレイヤー』であって『仲介者』ではない」と言い放ったのです。
「米朝の仲介者」のイメージを演出することで国民の支持を集めてきた文在寅政権に対し、「仲介者」の称号を剥奪すると脅し、自分の側に引きつけようとしたのです。効果はすぐに出ました。
4月4日、韓国外交部で北朝鮮の非核化問題を担当する李度勲(イ・ドフン)朝鮮半島平和交渉本部長がソウルで講演し「制裁では北朝鮮の核問題は根本的に解決できない」と語りました。
同じ席で、文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官も「(北朝鮮がすでに廃棄したと主張する)核施設への査察を認めれば米国も制裁緩和など相応の措置が可能だ」と述べ、開城工業団地の再開などを米国に要求しました。
いずれの発言も、米国に対し「制裁を緩和せよ」と要求する一方、その姿勢を北朝鮮に見てほしいという文在寅政権の願いがこもっていたのでしょう。
北朝鮮も援護射撃に出た。4月10日、金正恩委員長は党中央委員会総会に出席し「自力更生の旗を高く掲げて社会主義建設を粘り強く前進させる」「制裁で我々を屈服させられると誤断している敵対勢力に深刻な打撃を与えるべきだ」と述べました。
もちろんトランプ政権はこんな小細工に動じませんでした。それどころか北朝鮮を忖度して動く韓国にお仕置きをしてみせたのです。
金正恩委員長の顔色を常に窺う文在寅大統領も、トランプ大統領に面と向かって「制裁を緩和してくれ」と言い出す勇気はなかったのでしょう。
米国は韓国が裏切るたびに「通貨」を使って韓国に警告を発してきました。
金正恩委員長の顔色を常に窺う文在寅大統領も、トランプ大統領に面と向かって「制裁を緩和してくれ」と言い出す勇気はなかったのでしょう。
米国は韓国が裏切るたびに「通貨」を使って韓国に警告を発してきました。
ことに今、韓国の貿易収支が悪化し、通貨危機に陥りやすくなっている(デイリー新潮「韓国、輸出急減で通貨危機の足音 日米に見放されたらジ・エンド?」[19年2月1日掲載]参照)。
赤っ恥をかかされた文在寅大統領は今後どうするのでしょうか。とりあえずは「韓米首脳会談は成功だった」と言い張るつもりでしょう。
左派系紙で政府に近いハンギョレはこの会談を報じた記事の見出しを「韓米首脳、第3回朝米会談に共感帯…トランプ『引き続き対話するのが望ましい』」(4月12日、韓国語版)と付けました。
読者をミス・リードする見出しです。確かに、次の米朝首脳会談の開催に関しトランプ大統領は否定していないです。だが、はっきりと「急げば失敗する」と言っているのです。
どうせ保守派は「赤っ恥をかいた文在寅」と大笑いするでしょう。だったらせめて、支持してくれる左派からの称賛は得ておこうとの計算でしょう。左派はハンギョレなど左派系紙しか読まないのです。
会談後、青瓦台(大統領府)高官は韓国メディアに「文大統領はトランプ大統領に南北首脳会談の開催方針を伝え、肯定的な返事を得た」と明かしました。これも「米韓首脳会談がうまくいった」とのイメージ作りです。
今回の首脳会談を材料に保守勢力が文在寅政権批判を強めるのは間違いないです。そもそも政策の失敗により韓国経済は苦境に陥っている(デイリー新潮「文在寅の“ピンボケ政策”で苦しむ韓国経済、米韓関係も破綻で着々と近づく破滅の日」[19年4月5日掲載]参照)。
ここで政権を責め立てれば、2020年の国会議員選挙で保守派が圧勝できます。保守の中には「もし3分の2の議席を確保すれば、文在寅弾劾も夢ではない」と語る人もいます。韓国の次の注目点は、国をも滅ぼす激しい左右対立です。
それにしても、文在寅大統領は無論のこと、韓国の政治家のほとんどは外交の素人のようです。日本も似たりよったりのところがありますが、それにしても安倍総理はそこまでは外交音痴ではありません。
朝鮮半島問題に関して、文在寅は素人? |
そもそも、朝鮮半島がどのような状況にあるのか、文在寅や韓国の政治家は理解していないようです。何やら、韓国は北朝鮮のすぐ隣にあり、韓国も北朝鮮も民族的には同じであり、元々気脈が通じており、さらに文大統領は北朝鮮を訪問したことがあり、自分たちは半島問題を掌握していると思いこんでいるようてすが、実際はそうではありません。
私自身は、彼らの朝鮮半島理解は、日本のお花畑の政治家や、マスコミと大した違いはないと思います。ただし、韓国の政治家の半島理解の程度ひ著しく低いにもかかわらず、さも自分たちは他国の政治家よりも良く知っていると思い込んでいるところが、傲慢で始末に負えないと思います。
これについては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
北朝鮮『4・15ミサイル発射』に現実味!? 「絶対に許さない」米は警告も…強行なら“戦争”リスク―【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!
金正恩氏は東倉里から“人工衛星”を発射するのか |
北朝鮮の望みは、体制維持です。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。米国に届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出しました。間違っても、戦争など望んでいません。
この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じです。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、どうでも良いのです。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまり米国)に渡すことは容認できないのです。だから、後ろ盾になっているのです。結束して米国の半島への介入を阻止し、軍事的、経済的、外交的、その他あらゆる手段を用いて北朝鮮の体制維持を支えるのです。
ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、米国の国力は世界最大です。ちなみに、ロシアの軍事力は現在でも侮れないですが、その経済力は、GDPでみると東京都を若干下回る程度です。
ロシアも中国も現状打破の時期とは思っていません。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずはないです。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのです。少なくとも、今この瞬間はそうなのです。
では、米国のほうはどうでしょうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できないです。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのでしょうか。さらに、北の背後には中露両国が控えています。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられないです。
しかも、文在寅は在韓米軍の撤退を本気で考えています。そうなれば、朝鮮半島が大陸(とその手下の北朝鮮)の勢力下に落ちます。ならば、少しでも韓国陥落を遅らせるのが現実的であって、38度線の北側の現状変更など妄想です。
しかも、以前からこのブログにも掲載しているように、現状をさらに米国側から検証してみると、北朝鮮およびその核が、朝鮮半島全体に中国の覇権が及ぶことを阻止しているのです。北の核は、日米にとって脅威であるばかりではなく、中国やロシアにとっても脅威なのです。
さらに、韓国は中国に従属しようとしてるのですが、韓国は中国と直接国境を接しておらず、北朝鮮をはさんで接しています。そうして、北朝鮮は中国の干渉を嫌っています。そのため、韓国は米国にとってあてにはならないのですが、かといって完璧に中国に従属しているわけでもなく、その意味では韓国自体が安全保障上の空き地のような状態になっています。
このように、米国・中国・ロシア・北朝鮮ともに、現状を破壊することは望んではいないのです。現状維持(英語の外交用語で"Status quo")が当面これらの国々にとってベストな選択なのです。 その中で、韓国だけが、制裁で大変な北朝鮮にうまく利用されて、勘違いして、現状を変更しようとしているのです。この状況は米国にとって決して悪い状態ではないです。この状況が長く続いても、米国が失うものは何もありません。最悪の自体は、中国が朝鮮半島全体を自らの覇権の及ぶ地域にすることです。これは、米国にとっても我が国にとっても最悪です。
米国・中国・ロシアにとって、北朝鮮と韓国が統一するのかどうかなど二義的な問題にすぎません。統一朝鮮が米国側につけば、中国・ロシアの負けです。統一朝鮮が、中露側につけば米国の負けです。
そのようなことになる前には、当然かなりの紆余曲折があり、中米露とも失うものが大きい可能性があります。そのようなことになるよりは、現状維持がはるかに良いのです。
北朝鮮は、南北統一を望んでいません。統一すれば、金王朝が危うくなるだけです。平和的な統一に必要な妥協を受け入れる動機が、同氏にはほとんどありません。
そこにきて、韓国の文在寅は、現状を破壊する方向に向かおうとしています。これでは、文在寅は、周辺国からは単なる秩序破壊者であり、単に一人芝居をしているようにしかみえません。
これが、文がマスコミ関係者というのなら、それはそれで良いかもしれませんが、到底朝鮮半島の未来を背負って立つ人材ではありません。トランプ大統領もこの程度の人物にまともに話をしても時間の無駄と判断したのでしょう。
金正恩は、中国の干渉を嫌っています。この干渉から逃れるため、核を開発して、米国のトランプ大統領を交渉のテーブルに引き出したのです。これが、トランプ大統領が金正恩をある程度評価する真の理由です。
しかし、米国とて北朝鮮に過度に肩入れすれば、現状を破壊してまうことになりかねません。それに北の核は米国にとっても相変わらず脅威であることには変わりありません。
トランプ政権というか米国は、朝鮮半島は現状維持したうえで、中国と対峙し、かなりの時間をかけても、中国の体制を変えるか、あるいは、中国経済を弱体化させ、周辺諸国に対して影響力を行使できないまでに弱体化させようとしています。
もし、これが成就すれば、朝鮮半島問題などほとんど何もしなくても、自動的に解決するでしょう。その中にあって、現状を変更させようとする文在寅は邪魔な存在以外の何ものでもありません。
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