人工知能(AI)やロボットの導入により、今後多くの仕事が失われるとの予測がある。今後も必要とされるスキルや身につけておくべきは何か。
2013年に発表された英オックスフォード大のフライ氏とオズボーン氏による『雇用の未来-コンピューター化によって仕事は失われるのか』の中で、タクシー・トラック運転手、ネイリスト、銀行の融資担当者、弁護士助手らの仕事は、コンピューターに代替される確率が90%以上とされている。
ほかにも、コールセンター業務、電話オペレーター、集金人、時計修理工、映写技師、カメラ・撮影機器修理工、ホテルの受付係、レジ係、レストランの案内係、不動産ブローカー、スポーツの審判、仕立屋(手縫い)、図書館員補助員などの伝統的な仕事もなくなるという。
金融業界も大転換があり、投資判断、資産運用アドバイス、保険の審査担当者、税務申告書代行者、簿記・会計・監査の事務員などは消えるとしている。
これらには、専門的なスキルといわれてきた「士業」が多く含まれている。法律などによる専門資格を要件としているが、そうした「専門的スキル」と称されるものがAIで代替可能になるというわけだ。
例えば、弁護士は、難関の国家資格が必要とされる業務である。しかし、その実態といえば、過去の判例を調べることが中心ともいえる。過去の判例はデータベース化されているので、適切な類似例を調べるのは、今でもパソコンを使ってやっている。そうであれば、AIでもかなり代替できる可能性がある。
筆者は、定型的な業務が多い役人こそAIに向いていると思っている。役所の業務は定型的であるとともに、えこひいきはご法度だ。それはAIの特徴とかなり適合する。
国家公務員の残業の一因となっているのが国会対応だが、国会想定問答の大半は過去のものと同じである。筆者の経験では、一晩に100問以上の想定問答を作ったこともあるが、ほとんどは過去のパターンの繰り返しであるので、AIならもっと速くできるだろう。実際、経済産業省ではAIで国会想定問答に対応した結果、すでにこの種の残業がなくなっているといわれている。
金融業界では、将来をにらんで大リストラ時代に入ってきている。
定型的な労働はロボットでもできる。定型的な知的作業で資格規制によって守られている業務は将来なくなるので、そうした資格は今後必要とされなくなるだろう。
冒頭の論文では、芸術など感性に基づいた仕事については代替確率は低い。芸術と限定することはないが、自分の力で付加価値を生み出せるものは、AI時代でも生き残れるというわけだ。
それは、「言うは易く行うは難し」というのが現実だろう。というのは、簡単にできるのならばAIやロボットでもできてしまうからだ。難しいからこそ付加価値を生み出せるので、それを考えることこそが、重要なのではないだろうか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】コミュニケーション能力こそ、AIでは不十分な人間にとって最後の砦(゚д゚)!
さて、AIにより、これから世の中で様々なことが変わっていくことと思います。経営学大家ドラッカー氏は変化について以下のように語っています。
変化はコントロールできない。できるのは変化の先頭に立つことだけである。(『ドラッカー 365の金言』)
今日のような乱気流の時代、200年に一度という大転換期においては、変化が常態だとドラッカーは言います。変化はリスクに満ち、楽ではありません。
しかし、この変化の時代を乗り越える唯一の方法が、あえて変化の先頭に立ち、変化の生み手になることだというのです。
恐怖は、後方の席に深々と腰を落ち着かせたとき、高まります。変化は、最前列で腰を浮かせハンドルを握るとき、初めてコントロールできるものです。
いわんや今日の乱気流下の悪路にレールはないのです。自らハンドルを握ることなく、転覆を避けることはできません。急激な構造変化の時代を生き残るのは、チェンジ・リーダーとなる者だけなのです。
そして、そのチェンジ・リーダーになるための方法が、変化を脅威でなく、チャンスとしてとらえることだといいます。進んで変化を探し、本物の変化を見分け、それら本物の変化を利用することです。
おそらくはこれこそが、ポストモダンにおける生き方、考え方、事業の仕方の王道、常識となるべきものです。
この方法が成功を保証してくれるわけではないのです。しかし、この方法なくして成功することはありません。
みずから未来をつくることにはリスクがともなう。しかし、みずから未来をつくろうとしないことのほうがリスクは大きい。(『ドラッカー 365の金言』
だかこそ、私達はAIによる変化の先頭に立たなければならないのです。AIによる、未来はどのようなものになるのでしょうか。
ドラッカー氏は「すでに起こった未来」について以下のように語っています。
社会的、経済的、文化的な出来事と、そのもたらす変化との間にはタイムラグがある。(『創造する経営者』)
あらゆる変化が、他の領域に変化をもたします。そして機会をもたらすのです。AIによる変化も例外ではありません。
人口、社会、政治、経済、産業、経営、文化、知識、意識が変化します。特にAIにもたらす変化は、知識の変化であると考えられます。その変化が次の変化をもたらすのです。ただちにではありません。そこには、タイムラグがあります。そこでドラッカーは、それらの変化を“すでに起こった未来”と呼ぶのです。
すでに起こった未来に資源を投じることにも、不確実性とリスクが伴います。しかし、そのリスクは限られています。
例えば、人口構造の変化は、労働力、市場、社会的圧力、経済的機会に基本的な変化をもたらします。人口の変化は逆転しにくいです。その変化は早く影響を現します。小学校の施設に対する圧力となって現れるのは、わずか5~6年後です。
20年後、25年後には労働力人口に重大な影響をもたらします。市場を変え、経済と社会を変えます。AIによる変化ももうすでに起こってしまったのです。
組織の内部にもすでに起こった未来を見つけることができます。新しい活動が組織内に変化を引き起こし、すでに受け入れられているものと対立します。知らずして急所に触るのです。
すでに起こった未来は、体系的に見つけることができる。(『創造する経営者』)
さて、人にはできて、AIにはできないことがあります。それは、大雑把にいうと以下に3つです。
1. クリエイティブ
0から1を作り出す事。これは機械には出来ません。AIは過去のデータを元に未来を予測する事は出来ますが、全く新しいものを作り出すのは人間にしか出来ません。デザイナーやエンジニア等のクリエイティブな仕事はこれからもどんどん必要とされていく一方になることでしょう。
2. リーダーシップ
優れたビジョンを掲げ、卓越したコミニュケーション能力で人々を導いて行く存在。人間との心の通じたやりとりができるそのスキルは自動化が進む現代こそ一層求められています。人間がロボットのリーダーに従って心が一つになる時代は恐らくしばらくは来ないでしょう。いや、永遠に来ないかもしれません。
3. 起業家
機械は基本的には起業しない。むしろ絶対にしないでしょう。交渉力、ビジネスセンス、問題解決能力が求められるのが起業的スキルです。その点においてはテクノロジーがどんなに進化しても、新しいプロダクトやビジネスを通じ社会を変えて行く起業家は世の中にとって今後もより一層必要とされるでしょう。この3つを支えるのはやはり「言語能力」だと思います。上の3つをうまくするためには、飛び抜けた言語能力が必要です。
言語を理解することはとても難しいことです。それに関していえば、実は単純な翻訳技術の精度は相当上がっています。例えばGoogle翻訳ですが、米Googleは一昨年11月15日、ニューラルネットワーク技術を活用した新しい機械翻訳システム(Neural Machine Translation)を、日本語など8言語に適用したと発表した。従来より自然な翻訳が可能になり、「飛躍的な前進」としていました。
実はこれがかなりできるようになりました。精度が相当上がっているはずなので、ドイツ語やフランス語の文章などを日本語に翻訳するというのは、割とできるようになってきています。
私自身、Google翻訳がではじめた頃、実際に使ってみて、使用に耐えないと判断して、それからずっと使っていませんでした。ところが、一昨年SNSでかなり良くなったということを言う人がいたので実際使ってみたところ、かなり能力が上がっていることに驚きました。
このように大まかな外国語の理解は簡単なのですが、それを超えた言語の理解をするためには、人間の言語の理解に背景知識を相当必要とします。言葉の単語の意味だけ分かっていても、その背景の歴史的な経緯や、(例えば会話する)二人の人間性、あるいは社会のコミュニティーの雰囲気などを反映します。
このように大まかな外国語の理解は簡単なのですが、それを超えた言語の理解をするためには、人間の言語の理解に背景知識を相当必要とします。言葉の単語の意味だけ分かっていても、その背景の歴史的な経緯や、(例えば会話する)二人の人間性、あるいは社会のコミュニティーの雰囲気などを反映します。
同じ言葉を話していても、意味合いが違っているということがあるため、実はそういう背景知識や個性がすごく強いのです。そのため、AIに全てを理解させることは難しいのです。
サッカーのワールドカップの監督に外国人が来ます。日本チームの監督はずっと外国人で、それぞれに通訳が付きます。あの通訳の人たちは、実は全然正しく翻訳をしていません。
ワールドカップ日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督 |
NHKの番組で、過去の通訳の経験者3人ほどで鼎談(ていだん)をしている番組がありました。これが大変面白く、言語を翻訳するとはいったいどういうことかについての本質が見えてくるような番組でした。
そこで言われていたことは、「正しく伝える」「文字通りに翻訳する」ことが、監督の言葉を正しく伝えることではないということです。文字通り正しく伝えてしまうと、間違った意図として受け取ってしまうことがたくさんあるため、わざと違った言葉に置き換えるのです。
「ライオンが何とかをした」という比喩があるらしいのですが、その比喩をそのまま伝えると、日本人には全く伝わらないです。場合によると、ものすごく勇敢にやるという意味に取られてしまいます。
でも本当は、そんな意味では全然ないのです。そのことわざは、その言葉の歴史的な背景の下で出てきているからです。そこで通訳は、言葉を完全に言い換えてしまうのです。話を聞いていると、それは翻訳ではないだろうといったことを話しています。でもそれが必要なのです。そういうことは、AIにはできません。
ここに、人間の強みがあります。コミュニケーション能力の大事なポイントがあります。人間同士のコミュニケーションは、AIには完璧にできないのです。個別化が非常に強いからです。こうやってお話をして、微妙なニュアンスを伝えるのは、AIには無理で、人間だけがやれることなのです。
ここに、人間の強みがあります。コミュニケーション能力の大事なポイントがあります。人間同士のコミュニケーションは、AIには完璧にできないのです。個別化が非常に強いからです。こうやってお話をして、微妙なニュアンスを伝えるのは、AIには無理で、人間だけがやれることなのです。
ドラッカー氏 |
コミュニケーションについてドラッカー氏は以下のように語っています。
上司の言動、些細な言葉じり、癖や習慣までが、計算され意図されたものと受け取られる。(『エッセンシャル・マネジメント』)階層ごとに、ものの見方があって当然です。さもなければ仕事は行なわれません。しかし、階層ごとにものの見方があまりに違うため、同じことを話していても気づかないことや、逆に反対のことを話していながら、同じことを話していると錯覚することがあまりに多いのです。
コミュニケーションを成立させるのは受け手です。コミュニケーションの内容を発する者ではありません。彼は発するだけである。聞く者がいなければコミュニケーションは成立しないのです。
ドラッカーは「大工と話すときは、大工の言葉を使え」とのソクラテスの言葉を引用しています。コミュニケーションは受け手の言葉を使わなければ成立しないのです。受け手の経験に基づいた言葉を使わなければならないのです。
コミュニケーションを成立させるには受け手が何を見ているかを知らなければなりません。その原因を知らなければならないのです。
人の心は期待していないものを知覚することに抵抗し、期待しているものを知覚できないことに抵抗します。
受け手が期待しているものを知ることなく、コミュニケーションを行うことはできない。期待を知って初めてその期待を利用できる。あるいはまた、受け手の期待を破壊し、予期せぬことが起こりつつあることを認めさせるためのショックの必要を知る。(『エッセンシャル・マネジメント』)
受け手の期待していることを理解しなければ、報告をしようが受けようが、連絡しようが受けようが、相談しようがされようが、何をしても結局何も伝わりません。
では、相手の期待を知るためにはどうすれば良いのでしょう。それには、ドラッカー氏も言っているようにまずは、「コミュニケーションとは、私からあなたへ、あなたから私へと一方的に伝わるのではない」ということを理解しなければならないです。
コミュニケーションとは、「私達の中の一人から私達の中のもう一人」に伝わるものなのです。ですから、普段から「私達」という関係を築いておかなければ、コミュニケーションは成り立たないのです。
そうして、普段から「私達」といえる関係を構築して、コミュニケーションが成り立っていれば、たとえ何かの理由でかなり叱責したとしても、それが正当なものであれば、全く関係がこじれるなどということはありません。
そうして、普段から「私達」といえる関係を構築して、コミュニケーションが成り立っていれば、たとえ何かの理由でかなり叱責したとしても、それが正当なものであれば、全く関係がこじれるなどということはありません。
このことを忘れている人が多いです。そうして、「私達」という関係を築くためには、ドラッカー氏は「目標管理」を第一にあげています。しかし、私はそれも重要だと思いますが、これはドラッカー氏も否定はしていませんが、「経験の共有」が一番だと思います。
親しい人などとは、コミニケーションが通じやすいことが多いものですが、これは知らず知らずのうちに、その親しい人と過去において「経験の共有」を積み重ねてきたからに他なりません。
このようなことはAIには不可能です。そうして、私自身はAIが知識労働者の仕事全部を奪ってしまうことはないと思います。比較的簡単で複雑でない知識労働はひよっとして、全部奪われるかもしれませんが、特に高いコミュニケーション能力を必要とする知識労働に関しては、完璧にAIに奪われることはないと思います。
むしろAIは人間の頭を使う部分のうち、計算とか、条件に基づく判断とか、膨大な知識を保存しておき、必要なときに必要な知識を取り出すことなどに使われ、コミュニケーションの部分はやはり人間が行うことになるのではないかと思います。
クリエイティブであったとしても、それを伝える能力がなけば、ないのと同じです。リーダーシップもコミュニケーション能力と不可分です。起業家にも、コミュニケーション能力は不可欠です。
そうして、なぜコミュニケーションが重要かといえば、結局AIは何のために存在するかといえば、人間のために存在しているということです。人間のために存在しない、AIなど全く意味を持たないからです。
AIは人間のために、人間がコミュニケーション能力を十分に発揮できるように補佐するとき最も威力を発揮できることになると思います。これが、AIの強みを発揮するということだと思います。
やはり、コミュニケーション能力こそ、AIでは不十分な人間にとって最後の砦なのかもしれません。
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