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2020年7月6日月曜日

コロナ禍でも着実にアフリカを従属させていく中国―【私の論評】中国は目の前の、ザンビアの債務問題と、人種差別問題の両方で、厳しい舵取りを迫られている(゚д゚)!


岡崎研究所

 6月11日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙のアフリカ担当編集委員のピリングが、米国がアフリカの実情を無視して、米中冷戦の観点からのみ対アフリカ政策を策定するのは誤りであると論じている。ピリングの論説の一部要旨を紹介する。


 武漢に始まる新型コロナウイルスの感染拡大が、アルジェリアからジンバブエに至るまでアフリカ経済を不況に陥らせ、結果、中国に対する巨大債務の問題が顕著になった。それは今やアフリカの債務全体の5分の1を占める。

 しかしながら、中国は、自国の評判を高めるためにパンデミックを利用してきた。欧米諸国が検査キットや防護具を買い占めたと非難された時期に、ジャック・マーはアフリカ54か国に莫大な寄贈を行った。米国がワクチンが開発された場合の知的所有権につきその立場をあいまいにしている間に、WHO総会で習近平は中国で開発されるワクチンは自動的にアフリカで利用可能となる旨述べた。米国は、ビル・ゲイツ財団などを通じ或いは政府間で、中国よりもはるかに多くの拠出をアフリカの保健分野に行い続けている。それでも、何故か、中国は中国の方がより多く貢献しているかのように見せている。

 中国がアフリカで地歩を固めつつあることの証拠はいくらでもある。中国の対アフリカ貿易は米国のそれの4倍以上に達し、アフリカ人留学生は米国よりも中国の方が多い。アフリカにおける通信分野においては、ファーウェイにまともな競争相手はいない。米国がアフリカで何をしようと十分とは言えない。

 上記のピリングの論説で挙げられているよりも以前から、実は、中国のアフリカにおけるプレゼンスは築かれてきた。古くは冷戦期から、AA(アジア、アフリカ)グループの一員として、また、1990年代以降からは、アフリカの資源開発等に中国は投資を始めた。今日では、巨大な市場をアフリカの一次産品に提供し、経済面での中国依存を深化させてきた。さらに、2001年の中国WTO(世界貿易機関)加入を契機に、消費財の輸入も中国に依存することになった。そして、習近平主席の登場による「一帯一路」構想によりインフラ整備の資金供給源としての中国の存在感はさらに高まった。

 そして、この新型コロナウィルス危機である。今後、感染拡大が予想され、医療体制が整わず医療機器も不足するアフリカ諸国にとっては中国の援助は有難いに違いない。債務問題についてもG20の債務モラトリアムの方針に中国も同調したと伝えられる。西側諸国は、今後必要になる債務削減に中国が参加するよう圧力をかけるべきであろう。

 アフリカ諸国にしてみれば、米中冷戦の観点からアフリカを巻き込まないでもらいたいということであり、少なくとも米国の対中国非難に同調することは期待できない。民主主義という点で米国に対する好感度もまだ残っている由であるので、米国はアフリカのニーズに直接に向き合い、アフリカの支援を考えるべきであろう。

 中国は、短期的には、新型コロナウイルス感染発生国としての責任回避や当初の隠蔽といった事実から目をそらさせるために、ことさら医療支援に力を入れている。長期的には、中国経済を支えるための国際的な経済流通圏を構成し、また、中国の意向に従わせることにより、台湾や尖閣諸島をめぐる有事の際の国際的な多数派工作の基盤を作ろうとしているのであろう。

 欧米メディアでは、中国批判を取り上げがちであるが、アフリカ等の現場では、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト主義」により米国は孤立し、中国との国際的な宣伝戦においても劣勢のように見える。米国にとり外交政策立て直しは急務であり、アフリカ政策も例外ではない。

【私の論評】中国は目の前の、ザンビアの債務問題と、人種差別問題の両方で、厳しい舵取りを迫られている(゚д゚)!

21世紀の世界の牽引役として期待を集めているアフリカ、その中でも特に注目を浴びているのはナイジェリアです。

国土は日本のおよそ2.5倍、人口は1.9億人、GDPは世界31位となっています。国連の予測によると2020年以降人口増加率の上位10位はすべてアフリカ諸国で占められます。2050年にはナイジェリアの人口は世界第3位まで増加し、世界の黒人の7人にひとりはナイジェリア人となります。2030年の段階で世界の5人にひとりがアフリカ人となる計算です。


20世紀にはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の成長が注目されましたが、今注目されているのはMINT(メキシコ、インドネシア、ナイジェリア、トルコ)です。

ナイジェリアに限らず、アフリカの多くの国は人口の増加と経済発展を続けており、そこには中国の資本とメディアが入り込んでいます。世界におけるアフリカの重要性は増しており、中国はそれを見越して着々と準備を進めてきました。一帯一路もそのひとつです。

中国がアフリカで行っているのは「欧米とは違う新しい選択肢を提示」ということです。これは一見よいことのように聞こえますが、民主主義的価値観に照らすとそうではありません。

ひらたく言えば、「独立を維持しつつ経済発展を促進する」ことなのですが、中国のいう独立とは既存の権威主義(独裁や全体主義など)の維持に他なりません。表向きは民主的プロセス(投票など)を経るものの、内容はそうではありません。

欧米の援助あるいは経済関係において、民主主義的価値の尊重は重要であり、人権侵害などがあれば経済制裁を加えられることもあります。これに対して中国は民主主義的価値の尊重には重きを置かないどころか、むしろ尊重していない方が望ましいのです。そのためアフリカ諸国の多くは現状の政治体制を維持しつつ、経済発展を遂げることができるかもしれないのです。

これには欧米の苦い失敗も影響しています。かつてアフリカにおいて民主主義は混沌と破壊をもたらす劇薬でした。急に民主主義的プロセスだけを導入してもうまくいかないということが図らずも実証されてしまったのです。

アフリカ諸国は、いずれ中国に飲み込まれる可能性が十分ありました。冒頭の記事も、その懸念を表明しました。しかし、この状況は、コロナ禍で随分変わってしまいました。

中国のマクドナルドの店舗
広東省広州のマクドナルドの店舗は4月14日、入り口に「アフリカ人入店お断り」の貼り紙を貼りだしたが、その写真がSNSなどで拡散した結果、謝罪に追い込まれました。

これは氷山の一角に過ぎません。中国政府が3月半ば、「コロナのピークを過ぎた」と宣言するのと同時に「外国からコロナが持ち込まれる懸念がある」と述べたこともあり、医療体制がとりわけ貧弱なアフリカの出身者が、あたかもコロナの原因であるかのように白い目で見られているのです。

その結果、Twitterには住んでいた部屋をいきなりオーナーに追い出されてホームレスになったり、警官にいきなり拘束されたりするアフリカ人たちの姿が溢れています。

英BBCの取材に応えたシエラレオネ出身の女性は、「ピーク越え」が宣言された後もアフリカ人にはPCR検査を義務づけられ、自分は検査結果が2回とも陰性だったにもかかわらず隔離されていると証言しています。

アフリカ進出を加速させる中国は、人の交流を増やしてきました。そのため、中国には8万人ともいわれる留学生をはじめアフリカ人が数多く滞在しています。

こうした人の交流は従来、中国とアフリカの関係の強さの象徴でした。しかし、それは今や外交的な地雷にもなっているのです。

中国と異なりアフリカのほとんどの国では、国の体制は独裁であつたにしても、たとえ手順に問題があっても選挙が行われ、ネット空間も中国よりは自由です。そのため、中国でのアフリカ人差別に激高する世論に政府も反応せざるを得ないのです。

実際、中国に滞在するアフリカ各国の大使は連名で中国政府に状況の改善を要求しており、アフリカの大国ナイジェリアの外務大臣は「差別は受け入れられない」と非難しています。

これに関して、中国政府は「人種差別はない」と強調しています。また、ジンバブエやアルジェリアなど、とりわけ中国との関係を重視する国も「一部の問題を大げさに言うべきではない」と擁護しています。

その一方で中国政府は、外交問題にまで発展しつつある人種問題を覆い隠すように、アフリカに医療支援を増やしています。

中国は自国の「ピーク越え」宣言と並行して海外に向けて医療支援を始め、その相手は3月末までに世界全体で約90カ国にのぼりました。この段階ですでにアフリカ29カ国に中国政府は支援していたのですが、これに加えて3月25日には中国のネット通販大手アリババがエチオピアを経由してアフリカ54カ国に500台の人工呼吸器などの空輸を開始しました。

なぜ中国から直接各国に運ばず、一旦エチオピアを経由するかといえば、他のアフリカ各国は中国との航空路線をキャンセルしているからです。そのエチオピアには4月18日、中国の医療チームが支援に入っていました。

先進国の場合、相手国との関係次第で援助を減らすことは珍しくないです。これに対して、アフリカの警戒と批判に直面する中国は支援を減らして恫喝するのではなく、官民を挙げて支援を増やすことで懐柔しようとしているといえます。

中国が少なくとも公式にはアフリカへの不快感を示さず、むしろ友好関係をことさら強調することは、医療支援を通じてポスト・コロナ時代の主導権を握ることを目指す中国にとってアフリカへの支援に死活的な意味があるからとみてよいです。

アフリカは医療体制が貧弱で、このままではコロナ感染者が半年以内に1000万人にまで増加するとも試算されている。先進国が自国のことで手一杯のなか、ここで「成果」を残すことは、コロナ後の世界で「大国としての責任を果たした」とアピールしやすくなる。

もともと中国にとってアフリカは、冷戦時代から国際的な足場であり続けてきました。

それまで中華民国(台湾)がもっていた「中国政府」としての国連代表権が1971年に中華人民共和国に移った一因には、国連の大半を占める途上国の支持があったのですが、なかでも国連加盟国の約4分の1を占めるアフリカの支持は大きな力になったといわれています。

つまり、「世界最大の途上国」を自認する中国にとって、数の多いアフリカとの良好な関係は国連(その一部にはWHOも含まれる)などでの発言力を保つうえで欠かせないのです。だからこそ、中国はアフリカの不満を力ずくで抑えるより、歓心を買うことに傾いているのです。

この状況のもと、米国政府が4月24日、ケニアや南アフリカに医療支援を約束したことは、アフリカを「こちら側に」引き戻すための一手といえます。とはいえ、先進国からの援助は決して多くないため、アフリカ各国の政府にとって中国と対決姿勢を保つことは難しいです。

ただし、医療外交をテコに勢力の拡大を目指す中国にとって、最大のウィークポイントは人種差別にあります。

アフリカでは一般的に、中国との取り引きに利益を見込めるエリート層ほど中国に好意的で、ブラック企業さながらの中国企業に雇用される労働者や、中国企業の進出で経営が苦しくなった小規模自営業者ほど中国に批判的です。

そのため、海外で中国人が巻き込まれた暴行などの事件の約60%はアフリカで発生するなど、コロナ蔓延の前からアフリカでは「中国嫌い」が広がっていたのですが、中国における人種差別でこれは加速しています。例えば、ナイジェリアの医師会は中国の医療チームの入国に反対しました。

国によって温度差はあるものの、「中国嫌い」が加速するなかで中国が援助を加速させれば、人々の反感は各国の政府にも向かいかねないです。それによって反中的な政府が誕生したりすれば、中国にとって逆効果になるため、支援をひたすら増やすことも難しいです。

こうしてみたとき、中国で広がる人種差別は、まわりまわって中国外交の足かせにもなっているといえるでしょう。

地図の赤い部分がザンビア
こうした最中、最近中国がザンビアの「債務のわな」に捕らわれています。ザンビアは、中国国営銀行のほか国際通貨危機金(IMF)などの国際機関や、国際的な民間債権者が絡む、複雑な外貨建て債務の再編を進めようとしています。交渉結果は他のアフリカ諸国にとって重要な前例になるとともに、アフリカ大陸における中国の立場を再定義する可能性があります。

ザンビアは主に4種類の債務を抱えています。ユーロボンドの発行残高が30億ドル、民間銀行による融資が約20億ドル、IMFや世界銀行など国際機関による融資が約20億ドル、そして中国輸出入銀行や中国発展銀行など、中国国営機関を通じた対中債務が約30億ドルです。

手数料500万ドルで債務再編アドバイザーを務めることになったラザードの(世界トップクラスのファイナンシャル・アドバイザリーファーム)にとって、これは平常時でさえ骨が折れる仕事でしょぅ。その上、米中間の緊張が苦労を倍増させます。トランプ米大統領は中国債権者の負担が軽くなるのを望まないからです。

既に50%余りもの債権棒引きが視野に入った民間債権者も、間違いなくトランプ氏の味方をするでしょぅ。中国がザンビアに債務免除の割合を増やせば増やすほど、自分たちが引き受けなければいけない債務免除の割合が少なくてすむからです。

この結果、習近平国家主席が派遣する交渉団は、窮地に立たされるでしょう。いつものように秘密裏に事を進めることは期待できそうもないだけに、なおさらです。

過度に重い条件を要求すれば、銅輸出しか当てのないザンビア経済がしっかりと立ち直れる可能性は低くなり、結果的に債権者の資金回収が脅かされることになります。先にも述べたように、4月に広東省広州市でアフリカ出身の居住者を人種差別する事件が相次いだことで、アフリカの長きにわたる友達という中国のイメージは傷ついており、印象悪化に追い打ちをかけることにもなるでしょう。

しかし、ザンビアに甘くし過ぎると、中国として最終的に経済的な打撃を被りかねないです。米ジョンズ・ホプキンス大の研究者らによると、中国は2000年から17年にかけて、アフリカ諸国に1460億ドルを融資しました。規模は定かでないですが、この大半が未返済だと考えられます。

18年にエチオピアに対して行ったように、中国による債務免除はこれまで、低金利で返済期限を繰り延べる形が主体でした。しかし、新型コロナウイルス感染の世界的大流行によってザンビアの経済的苦境は増幅されており、そうした中国のやり方では、しのげない状況に至っている可能性があります。

新型コロナ危機により、債務免除という寛容さを示すことの倫理的意義も高まった。中国がどの道を選ぶか、同国から融資を受けている他のアフリカ諸国は、固唾(かたず)飲んで見守っている。

このように、中国は目の前の、ザンビアの債務問題と、人種差別問題の両方で、厳しい舵取りを迫られています。どちらも対応を誤れば、中国の今までの努力が水の泡となります。しかも、これをコロナ禍と、米国との厳しい対立の最中に行わなければ、なりません。

米中の外交を比較すると、米国はインド・太平洋地域になるべく多くの勢力をつぎ込もうとしています。そうして、当面の敵は中国であり、中東諸国、北朝鮮やロシアなど、他国は中国と対峙する上での、制約要因に過ぎないとみなしているようです。非常にシンプルです。

中国対応に優先順位をはっきりつけて、中国と対峙し、中国関連の決着がつけば、次の優先順位に大部分の勢力を費やすのでしょう。

しかし、中国は違います。世界中の様々なところで、攻勢に出ています。どれか、最優先なのか、良くわかりません。

個人も、企業も、そうして国でさえ、その中でも米国のような豊な国であってさえ、使える資源には限りがあります。

優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。

 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 

 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。

 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。

 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。
容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る(『経営者の条件』)
優先順位をしっかりつけて、優先すべきものを10個くらいに絞って仕事をしたことのある人ならわかると思います。

最優先事項を解決すると、不思議と二番目から、場合によっては4番目くらいまで、ほど自動的に解決してしまうことがほとんどです。

優先順位をつけず、いくつもの課題を同時に実行すると、時間や手間はかなりかかるものの、いつまでたっても何も成就しないことがほとんどです。

米国と中国を比較すると、明らかに米国は、優先順位をはっきりした、外交を展開しています。米中対決、この点からしても、米国にかなり有利です。

中国のアフリカ展開について、まだ新たなことが生じた場合、このブログでリポートしようと思います。

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