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2019年3月31日日曜日

中国・李首相が「バラマキ型量的緩和」を控える発言、その本当の意味―【私の論評】中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせい(゚д゚)!

中国・李首相が「バラマキ型量的緩和」を控える発言、その本当の意味

「独裁国家」のひずみが見えてくる
ドクター Z

全国的にすすむ「景気の落ち込み」

 2019年に入り、中国の景気減速がしきりに報じられるようになった。今年1~2月の小売売上高の伸び率は前年比8・2%となり、'03年並みの水準に逆戻りしたという。

こうしたなか、李克強首相は「量的緩和(QE)や公共投資の大幅な拡大などの措置を講じようという誘惑に抵抗する」と発言した。緩やかな減税は継続するが、景気拡大を狙った量的緩和は控える、という判断である。このような発表に至ったのは、なぜなのか。
 

 まず、マクロ経済政策には、「財政政策」と「金融政策」の2種類があることを押さえておこう。

 財政政策の選択肢はさらに、「公共投資を増やす」「税金を減らす」と分けられる。減税は続けると言っている中国は、財政政策を取りやめるわけではないことがわかる。

 ただし公共投資と減税は、その効果を受ける対象が異なっている。公共投資の場合は、波及効果を受ける地域は限定される。官製企業の多い中国ならなおさら、恩恵を受けるのは官とつながりのある地域や企業ということになる。

 一方、減税は全国に波及し、民間消費を促す。今回、中国が減税路線を明確にしたのは、景気の落ち込みが全国的に進んでいるのが大きな原因だろう。

 また公共投資の場合、自治体も負担分があるが、中国は地方自治体単位で深刻な債務問題を抱えているところが多い。そもそも公共投資に耐えられる経済状況ではない地域もあるのだ。

 では、量的緩和や引き締めといった金融政策に中国政府が言及しなかったのはなぜか。これは、中国の政治経済の基本的な構造が関係している

 先進国が採用するマクロ経済政策の基本モデルとして、マンデルフレミング理論というものがある。これはざっくり言うと、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先するほうが効果的だという理論だ。

 この理論の発展として、国際金融のトリレンマという命題がある。これも簡単に言うと(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べない、というものだ。


 先進国の経済において、(1)は不可欠である。したがって(2)固定相場制を放棄した日本や米国のようなモデル、圏内では統一通貨を使用するユーロ圏のようなモデルの2択となる。もっとも、ユーロ圏は対外的に変動相場制であるが。

 共産党独裁体制の中国は、完全に自由な資本移動を認めることはできない。外資は中国国内に完全な自己資本の民間会社を持てない。中国へ出資しても、政府の息のかかった国内企業との合弁経営までで、外資が会社の支配権を持つことはない。

 ただ、世界第2位の経済大国へと成長した現在、自由な資本移動も他国から求められ、実質的に3兎を追うような形になっている。現時点で変動相場制は導入されていないので、結果的に独立した金融政策が行えなくなってきているのだ。

 中国の中央銀行である中国人民銀行は、政府の政策に強い影響力を持っているとは言えない。停滞気味の中国がバラマキ型の量的緩和を行えない理由は、急激に発展した一党独裁国家のひずみにあるのだ。

【私の論評】中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせい(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事には、「停滞気味の中国がバラマキ型の量的緩和を行えない理由は、急激に発展した一党独裁国家のひずみにある」としていますが、そのひずみは具体的にいかなるものなのか、本日はそれを掲載します。

結論からいうと、中国では金融緩和を実施すれば、投資効率の低下、資産負債比率の上昇という構造問題が深刻化することが見込まれているからです。債務の株式化も低調であるため、政府はリスクに配慮した慎重な金融政策をせざるを得ないのです。
中国は、長い間、過剰債務状態にありながらも、金融システムが不安定化することはなかったため、政府はもちろん、国外でも先行きを楽観する見方があります。しかし、現状の中国で金融緩和を実施すれば、中国の債務水準は前人未到の領域に入る可能性が高いです。

国際通貨基金(IMF)は、2018年2月に発表した報告書で、過剰債務抑制に向けた抜本的な政策を打ち出さなければ、家計と政府を含む非金融部門の与信残高は2017年のGDP比255.7%からさらに上昇し、2020年に290%に上昇するとの試算を示しました。過去の経験から今後も安泰と考えるわけにはいかないでしょう。

投資効率が低下していることからも、緩和はリスクの高い政策といえます。中国では投資をけん引役とする成長が続いてきたこともあり、収益率の高い投資案件はそれほど残っていないとされています。

政府のシンクタンク国務院発展研究センターによれば、中国はGDP1元を生みだすために6.9元の投資を必要とするのです。1998~2007年、2008~17年はそれぞれ4.0元と5.7元であったことから、投資効率は著しく低下しています。緩和によって非効率な投資が助長されれば、投資効率は一段と低下することになります。

投資効率を低下させている国有ゾンビ企業

投資効率を低下させているのは国有企業です。国有企業は政府が主導するプロジェクトの担い手であることから、民間企業よりも銀行融資を受けやすいです。これは国有企業の投資効率を引き下げると同時に、資産負債比率を引き上げる要因になっています。

鉱工業分野の企業の資産負債比率をみると、私営企業がほぼ一貫して低下しているのに対し、国有企業は60%超で高止まりしており、サービス業を含む国有企業全体では65%を上回っています。国有企業の資産負債比率は緩和によってさらに上昇し、債務不履行が頻発する事態を招来しかねないのです。

株式債権化(デッド・エクイティ・スワップ)の仕組み

政府は企業の債務が積み上がっていくことを警戒していないわけではありません。債務を削減するため、金融引き締めと同時に導入されたのが債務の株式化です。債務の株式化とは、債務を株式に転換することで利払い負担を軽減し、企業の再建を促そうとするものです。

しかし、実績は低調です。銀行と企業は2017年末までに1.5兆元の債務の株式化について合意したものの、実行に移されたのはその1割強にとどまっています。

この背景には銀行が債務の株式化に消極的なことがあります。中国では、1990年代に債務の株式化が実施されたものの、政府主導で進められたことから、銀行と企業の当事者意識が希薄になり、期待されたほどには企業の再建は進まなかった経緯があります。

このため、政府は今回の債務の株式化は市場主導で進める、つまり、企業の選定や債券の取引価格など、個別の事案に政府は介入せず、銀行と企業の自主的な協議に委ねるとしました。

しかし、2017年6月までの実績をみると、債務の株式化を実施した企業の98%を国有企業が、産業別にみても過半を過剰生産能力が問題視される鉄鋼と石炭企業が占めることから、政府は依然として対象企業の選定に関与している模様です。

再建ではなく、救済を目的に対象企業が選ばれれば、配当や株式売却益を得ることが困難になります。銀行が債務の株式化に慎重な背景には、一方的にリスクを負わされることに対する警戒感があるとみられます。

債務の株式化は政府が期待するほどには進まないことから、金融緩和の余地はそれほど大きくないです。また、政府は投資効率や国有企業の財務体質だけでなく、足元で進む人民元安への影響にも配慮する必要があるため、慎重に緩和を進めざるを得ないのです。

成長減速を緩和で回避するという従来型の政策対応のリスクは明らかに高まっています。経済の持続可能性を高めるためには、やはり非効率な国有企業を市場から退出させるといった抜本的な構造改革が避けて通れません。

国営ゾンビ企業のほとんどは、先進国であれば、倒産した企業です。

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