ロバート・サター氏 |
「米中関係が歴史的な変革を迎えた」-。米国歴代政権の国務省や国家情報会議で中国政策を30年余、担当したロバート・サター氏(現ジョージワシントン大学教授)は産経新聞とのインタビューでトランプ政権や議会が一致して長年の中国への協調を基本とする関与政策を止める形で新たな対中対決政策へと踏み出したことを明らかにした。新対中政策では日本との連帯への期待も大きいという。3月中旬に行われた同氏とのインタビューの主な内容は次のとおり。(ワシントン 古森義久)
--米国の中国対応は現在どういう状態か
「米国の対中政策はいま歴史的とも呼べる大きな過渡期に入り、変革を迎えた。米中国交樹立以来の『中国との協力分野を増やしていけば、中国は米国にとって利益となる方向へと変わる』という前提に基づく関与政策が米国をむしろ害することが明白となったからだ。
トランプ政権が公表した最近の国家安全保障戦略や国家防衛戦略もこれまでの姿勢を変え、中国を競合相手、修正主義勢力と断じ、米国の価値観に反するなど対決や警戒を中心に据えた。これら厳しい表現は政府レベルで中国に対して使われたことはこれまでなかった」
--米国の態度を根本から変えさせた原因はなにか
「中国の戦略的な動向や意図の本質が明確になったことだ。今回の中国の全国人民代表大会(全人代=国会)でも明らかになったように、中国共産党政権はまずアジア太平洋で勢力を強め、他国に追従を強いて、米国をアジアから後退させようともくろんでいる。『中国の夢』というのはグローバルな野望なのだ。米国主導の国際秩序を嫌い、それに挑戦して、米国の弱体化を図る。軍事、経済、政治などあらゆる面での中国政府の動きが米国を敵視しての攻勢なのだ」
--米側では中国のそうした実態を今になってわかったというのか
「いや基本的に米国の国益をすべての面で害するという中国の挑戦が明白になったのはこの1年半ぐらいだといえる。南シナ海での軍事膨張、貿易面での不公正慣行、国際経済開発での中国モデルの推進、国内での独裁の強化など、みな米国への挑戦なのだ。私は2009年ごろから中国のこの基本戦略は認識していたが、オバマ政権下ではなお中国との協調こそが米国を利するという政策が主体だった」
--中国の対外戦略の基本は米国敵視なのか
「基本はそうだが、米国が強く反発するとなると、攻勢を抑制する。だがその一方で最近の習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と緊密に連携し、米国の力を侵食する手段を画策している。軍事面をも含めてだ。
現代版シルクロード経済圏構想『一帯一路』も中国のパワー誇示の野望の一環だといえる。インフラ建設ではあまり実体のない計画をいかにも巨大な実効策のように宣伝する。情報戦争と呼べるプロパガンダなのだ」
--ではこれからの米国は中国にどう対峙していくのか
「米国は総合国力を強くして中国を押し返さなければならない。米国が本気で押せば、中国も慎重になる。米国はその際に日米同盟への依存をも高めることになる。安倍晋三首相は中国の本質をみる点で優れている。トランプ大統領も対中政策では安倍氏から学んでいる。
中国の膨張戦略はたぶんに米国がもう弱くなってきたという認識から発している。米側では中国のその認識がわかり、中国には対決をも辞さずに強固に立ち向かわねばならないという思考が強くなったのだ。この思考はトランプ政権だけでなく議会でも超党派の支持がある」
【私の論評】米エスタブリッシュメントは金無し中国に興味なし(゚д゚)!
米国の対中国政策が歴史的な転換をし、中国を競合相手、修正主義勢力と断じ、米国の価値観に反するなど対決や警戒を中心に据えることになったとしています。
では、以前の体制はどのようなものだったのでしょうか。これをしっかり把握しておかないと、その変化が良く認識できなくなります。
それを理解するには、以下の動画をご覧いただけると良くご理解いただけるものと思います。この動画は、2015年11月9日のものです。
丁度米国の大統領選挙でトランプ政権が登場する前の年のものです。思い起こすと、この時には米国でも日本でもトランプ大統領の登場を予想する人は誰もいませんでした。
この動画をご覧いただけれは、まずは、米国はいわゆるエスタブリッシュメントといわれる、ほんの一部の支配層が支配する国であることが良く理解できます。そのエスタブリッシュメントのうちの多数派の中国に対するエンゲージメント派は、いずれ中国は民主化するであろうと見ていたようで、中国は将来的にアメリカにとって自分たちが御せる良い市場になると信じていたようです。
この動画で伊藤貫氏は、米国には親中派のエンゲージメント派と中国反対派のコンテインメント(封じ込め)派が存在しており、アメリカの富の大きな部分を握ってるわずか上位0.1%エスタブリッシュメントの多くがエンゲージメント派であるため、エンゲージメント派が圧倒的に有利であると語っています。
この動画で伊藤貫氏は、米国には親中派のエンゲージメント派と中国反対派のコンテインメント(封じ込め)派が存在しており、アメリカの富の大きな部分を握ってるわずか上位0.1%エスタブリッシュメントの多くがエンゲージメント派であるため、エンゲージメント派が圧倒的に有利であると語っています。
ただし、この動画の伊藤貫は、ルトワック氏のような軍事や戦略の専門家ではないことと、アメリカに長期間滞在しアメリカのエスタブリッシュメントやエンゲージメント派に多大な影響を受けていると見られます。
そのためでしょうか、中国の軍事力を過大に評価しているところがあります。現実の中国の軍事力は、伊藤氏の想定よりはるかに遅れています。たとえば、中国の巡航ミサイルは音速を超えたレベルで巡航すると述べていますが、これは最近そうではないことが明らかにされています。
確かに音速を超えて巡航はするのですが、標的に突入する直前には速度を通常の巡航ミサイルなみに落とした上で狙いを定めて突入するということが、軍事専門家によって解明されています。そのため、思ったほどの脅威ではないということが解明されています。
中国の巡航ミサイル |
しかし、この点を除けば、伊藤貫氏の見解は、この当時までは正しいものだったと思います。これは当時の米国のエンゲージメント派の中国に対する見方だったのだと思います。軍事的にも強いので、中国とは協調すべきであるという考え方だったのでしょう。
これは、確かに2015年あたりまでは、米国の正しい見方であったかもしれません。しかし、トランプ大統領が登場したあたりからこれが変わり始めました。ただし、選挙期間中は、中国に対して対抗心をむき出しにしたトランプ氏でしたが、トランプ氏が大統領になった当初は、彼自身もエスタブリッシュメントに対抗するのは得策ではないと考え、中国政策を決め兼ねていた部分があったと思います。
しかし、米国のエスタブリッシュメントの中国に対する見方が、最近変わってきたのだと思います。だからこそ、トランプ大統領も中国への対決姿勢を露わにしたのです。
なぜ変わったといえるかといえば、それは非常に簡単に理解できることです。それは、中国からの資金の流失がとまらないという現実があるからです。
それに関しては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【田村秀男のお金は知っている】外貨準備増は中国自滅のシグナル 習近平氏の野望、外部からの借金なしに進められず―【私の論評】頼みの綱の一帯一路は幻影に過ぎない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事に掲載した上のグラフをみると一目瞭然ですが、中国からの資金流出が止まりません。
中国からの資金流出は2015年には一旦止まったようにも見えたのですが、16年からまた流出が増え、17年中も増え続けました。その動きは今年に入ってからも止まりません。この状況は、中国の外準は海外からの借金で賄われていることを示しています。
中国の過去の経済発展は、中国内のインフラを整備に投資することによって実現することができました。しかし、国内ではインフラ整備が一巡して、現状では大きな投資先はなくなりました。
ここで、中国政府が国内の構造改革に着手して、国内産業を育成するために投資をするなどのことをすれば、米国のエスタブリッシュメントも中国に対する見方を変えなかったかもしれません。しかし、これを実行するためには、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もある程度すすめなければなりません。これは、まさにエンゲージメント派の抱いていたシナリオでした。
とこが、中国政府は不可思議な投資をはじめました。それは、例の「一帯一路」です。このプロジェクトは失敗することが最初から目に見えているようなものです。これが失敗する理由は、このブログにも掲載したことがあります、その記事を以下の【関連記事】のところに掲載しておきます。興味のある方は是非ご覧になって下さい。
国内投資と、海外投資では明らかな違いがあります。国内投資の場合は、たとえ中国政府が多大な投資をして大失敗したとしても、それは国内を回り回って、国内景気を上向かせたり、雇用を生み出したりした後に、結局税金という形で中国政府が回収できます。
ところが、「一帯一路」のような海外投資場合は、そうではありません。失敗はただの失敗で、かなり多くの部分が中国からは消えてしまいます。
中国の中国による中国のための一帯一路 |
ただし、中国は実際には中国企業にこのブロジェクトを請け負わせ、労働者も中国から覇権して、なるべく外貨獲得につとめようとしているようです。しかし、労働者だって食事はするし、たまには休暇を楽しんだりするはずで、それまで規制して全部中国から持ってきたものを食べたり、休暇のたびに中国に帰るなどということは不可能で、やはり幾分かの資金は現地に落ちるはずです。
さらに、海外投資は自国より経済成長が圧倒的に高いところに投資すれば、利益率も高まりますが、そうではないところに投資すれば利益率は低下します。
中国は最近は経済の成長率が鈍化したとはいえ、それでも他国と比較すれば、高い方です。であれば、最初から利益率が低いですから、中国企業に受注させるなどの姑息なことをしても、あまり意味がありません。
それに、自分たちの利益だけを重視するようにすれば、当該国はプロジェクトを受け付けなくなります。やはり多少とも、当該国自身やその国の企業に儲けさせるようにしなければ、どこの国もこのブロジェクトを受け付けなくなります。そうなると、たたでさえ低い利益率がますます低くなります。
このような政策をとってしまったからこそ、中国からますます資金が逃避する事態を招くようになってしまったのです。
米国のエスタブリッシュメントは、中国でも金儲けができ、自分もともに栄えることができれば、中国に対する見方を変えることはなかったでしょうが、現状では、様子見に入っているのだと思います。
要するに、米エスタブリッシュメントもまずは金無し中国には興味がないのです。そうして、現在の中国は金が無いどころか、米国の価値観に反する行動をしていることは明らかになりました。
米中国交樹立以来の『中国との協力分野を増やしていけば、中国は米国にとって利益となる方向へと変わる』という前提に基づく関与政策が米国をむしろ害することになることに米エスタブリッシュメントも気づいたのです。
さらに、最近では習近平が中国憲法を変えてまで、終身独裁を宣言するということをしてしまいました。これは、中国が北朝鮮のような体制になるようなものです。これでは、エンゲージメント派がいくら中国はいずれ民主化するなどと擁護しても、信憑性が全くなくなってまいました。
だからこそ、米の対中政策は歴史的な転換点を迎えているのです。
【関連記事】