トランプ米大統領 |
■真のアジア回帰へ日本も動け
トランプ大統領が就任演説で掲げた「米国第一主義」は、強いアメリカを取り戻すことに主眼があったはずである。
本来その源泉は、米国が重視してきた自由と民主主義の普遍的価値、国際秩序を守ることにある。だが、トランプ氏は必ずしも重きを置いていない。
その結果、南シナ海などで、中国にわが物顔の振る舞いを許してしまった。中国は軍事、経済の両面で、米国が主導し、国際社会が繁栄の基盤としてきた既成秩序の破壊を狙っている。
《中国の台頭は秩序壊す》
米国をも脅かそうとする、北朝鮮の核・ミサイル問題への対応という変数もあった。日米が足並みをそろえ、圧力路線を推し進めた点は評価できる。だがそれは、米国が中国を押さえ込み、アジア太平洋地域の安全保障に積極的に関与することを直ちに保証するものにはみえない。
米政権の行方は同盟国日本の針路を左右する。安倍晋三首相が、緊密な関係をもつトランプ氏に対し、替え難い価値観や秩序の重要性を説き、共有を促し続けていくことは極めて重要だ。
昨年1月20日に就任したトランプ氏が真っ先に表明したのは、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの離脱だった。
TPPには、自由主義経済の大国である日米が連携し、中国の覇権主義を押さえ込む戦略性があった。アジア回帰を唱えたオバマ前政権は、実際には中国による南シナ海の人工島建設を看過した。ただ、TPP構想は辛うじて中国を牽制(けんせい)するものだった。
米国の撤退は、中国の「国家資本主義」という独善性を解き放ってしまった。現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を起爆剤に、中国に都合の良い規制やシステムを各国に押しつける動きに拍車がかかっている。
中国は昨年1年間で、南シナ海で29万平方メートルの軍事関連施設を整備した。東シナ海では尖閣諸島への領土的野心を募らせている。
安倍首相が提唱し、トランプ氏が受け入れた「インド太平洋戦略」は、軍事、経済の両面で中国に対抗する狙いがあるが、まだ緒についたばかりだ。
トランプ政権は昨年12月、国家安全保障戦略報告で「力による平和の維持」を打ち出した。中国をロシアとともに、既存秩序の変更をたくらむ「現状変更国家」と位置づけたのは妥当だ。
北朝鮮問題では、米国は軍事的手段の選択肢を残し、圧力を強める姿勢を貫いた。国連安全保障理事会では制裁決議採択を主導した。いずれも日本が支持してきた点である。政権内の人事が停滞する中でも、マティス国防長官やマクマスター大統領補佐官ら有能な外交安保チームが仕事をした。
《自由貿易の価値重視を》
それでも、北朝鮮包囲網の強化にあたり、中国への依存を強めざるを得なかった。中国が原油の全面禁輸を拒む限り、早急な核放棄の実現は至難である。対北政策の舵(かじ)取りは極めて難しい。
金正恩政権は平昌五輪を「人質」に、韓国の文在寅政権の懐柔を図っている。それを許容した点で米国に油断はないか。南北融和ムードが醸し出され、米本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させる時間を北朝鮮に与えかねない。トランプ氏が批判した「過去25年間の失敗」を繰り返してはならない。
価値や秩序の重要性に目を向けず、北朝鮮やその庇護(ひご)者である中国と妥協する懸念も残る。日本はトランプ氏に真のアジア回帰を促すべきだが、それには日本自身の役割拡大を示す必要がある。
昨年末に成立した大規模減税と好調な景気は政権に追い風となっている。ロシアによる大統領選介入疑惑は、政権中枢まで捜査の手が及ぶ気配だ。危うさが拭えない政権運営を立て直せるか。
11月の米中間選挙で、共和党が上下両院の過半数を失えば、トランプ氏弾劾の動きが勢いづく。
そうした事態を避けるため、白人労働者の支持層をつなぎ留めようと「内向き」政策に拍車がかかる懸念は残る。貿易赤字の是正に躍起となって、相手国を恫喝(どうかつ)する通商交渉を激化させれば、米国は孤立し、威信そのものが損なわれよう。
【私の論評】経済が上々のトランプ政権は「孤立主義」になる心配は全くない(゚д゚)!
トランプ政権もはやいもので、もう1年が過ぎました。その間、米国経済はどうなったのか、以下に掲載します。
株価は、下記の通り右肩上がりで上がりました。
以下に、主な経済指標のトランプ氏就任前と、直近の経済指標をあげておきます。
この中で、貿易赤字のみは少し大きくなっています。トランプ氏は貿易赤字を縮小することを公約に掲げたため、これを批判するむきもありますが、これは貿易赤字に対するトランプ氏の認識のほうが間違っているともいえます。
先日もこのブログで掲載したばかりですが、ユーロ圏では日本のように安易に国債発行やはできません。統一通貨の問題点です。特に為替レートにも関係ないので各国間の格差は拡大します。だからユーロ圏では特に「輸出額=輸入額」ということが必要になります。
米国、日本、中国のような国では、自国で自国通貨を擦り増しできるので、そのようなことはありません。本来、貿易黒字がどうの赤字がどうのと騒ぐ必要性など全くないです。
実際、経済が成長していると、輸入が増えて、貿易赤字は増える傾向にあります。この場合、貿易赤字が単純に悪いとはいえません。貿易赤字に関しては、あくまで中身を検討した上で良い悪いを判断すべきなのです。
トランプ政権の過去の1年では、経済成長をしつつ貿易赤字が減らなかったということですから、これはほとんど問題などありません。
むしろ、先程も言ったように、トランプ氏は大統領選挙中に語っていたような、あかも貿易赤字そのものが悪であるような考え方は改めるべきです。
その他、CPI(物価指数)、Civilian Unemployment Rate(失業率)、10-Yr.Treasury Rate(10年国債金利)、IP(鉱工業指数)、Payroll Employment(雇用者増加数)などの指標を以下に掲載します。
そうなれば、11月の米中間選挙で、共和党が上下両院の過半数を失うということもないでしょう。となると、元々ほとんど不可能(米国大統領で弾劾された人はいない)だったトランプ氏弾劾の動きはさらに下火になることでしょう。トランプ大統領弾劾の動きは、トランプ氏を貶めるための印象操作であると考えられます。
このような事態を避けるため、トランプ氏が、白人労働者の支持層をつなぎ留めようと「内向き」政策に拍車がかかる懸念も払拭されると思います。
さらに、国内経済が良いことから、トランプ氏が貿易赤字の是正に躍起となって、相手国を恫喝(どうかつ)する通商交渉を激化させることもないでしょうし、そのため米国は孤立し、威信そのものが損なわれることもないでしょう。
この状況は、たとえると安倍政権が成立してから、増税をする前までの1年間のように良い状況です。今後安倍政権が犯した唯一の誤りである、消費増税のような、マクロ経済的に明らかな間違いを犯さない限り、トランプ政権は安定するでしょう。
トランプはグローバル化に取り残された白人層を支持基盤としたグローバル化に抵抗している大統領だ、というイメージが、「孤立主義」とか「保護貿易」といった言葉のイメージに合致するのでしょう。
しかしこれらの言葉を使ってトランプ政権の政策的方向性を描写するのは、あまり妥当なこととは思えません。むしろこれらの概念は、かえってわれわれのトランプ政権の理解を阻害するように思われる。
「孤立主義」という日本の学校教科書などで19世紀アメリカ外交の描写として使われている概念は、20世紀になってから用いられるようになった概念であり、しかも極めて「ヨーロッパ中心主義的」な概念です。
第一次世界大戦の後、議会の反対で国際連盟に加入しなかったアメリカの外交政策を「孤立主義」と形容したのは、失望したヨーロッパ人たちでした。アメリカ人が「孤立」した状態を望んだということではありません。
そもそも19世紀の「モンロー・ドクトリン」の場合ですら、「孤立」はアメリカ人自身が目指した理念ではありません。19世紀前半にアメリカ合衆国は、ヨーロッパ列強が繰り広げていた「勢力均衡」の権力政治には加担しないことを宣言しました。
その「錯綜関係回避」の原則は、「新世界」に作り上げた「共和主義」の独立国を維持するためには、汚れた「旧世界」の権力闘争から隔絶させておくことが必要だという洞察にもとづいた政策でした。
しかしそれはアメリカ合衆国を国際社会から本当に「孤立」させることを目指した政策などではありませんでした。そもそも当時のアメリカ合衆国はすでに、いわゆる「明白な運命」論にしたがって、領土を拡大させ続けた「拡張主義」国家でした。
トランプ大統領が「孤立主義」的に見えるのは、「アメリカ第一」を唱え、TPP脱退などの政策によって国際協調を軽視しているというイメージがあるからでしょう。しかし、TPPから離脱しただけで「保護主義」者や「孤立主義」者になるかは、はなはだ疑問です。
そもそもTPPは太平洋地域の一部の諸国が加入するだけの地域的自由貿易協定にすぎず、全く「グローバル」なものではありません。中国包囲網としての性格も自明であったので、アメリカを中心とする太平洋地域自由主義諸国による関税同盟としての政治的性格が強かったと言えます。ただし、トランプ氏はこの「中国包囲網」としてTPPを理解して欲しいものとは思います。
トランプ政権は、TPP脱退やNAFTA再交渉の代替策として、カナダ、イギリス、日本などとの二国間貿易協定を結ぶことへの関心を表明しています。為替の自由化を求めてWTOを活用する方法も模索しているトランプ政権が、根本的に反自由貿易主義的だと言えるかは疑問です。
安全保障面では、トランプ政権は、NATO構成諸国にいっそうの防衛費拡大の努力を促しています。日本を含む他の同盟諸国にも同じような態度をとっています。
しかし、それは「テロとの戦争」などをふまえて同盟ネットワークのさらなる活性化を狙っているからであり、決して「孤立」したいからではないことは言うまでもないでしょう。
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