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2019年7月31日水曜日

五輪まで1年で何が起きるか? 消費増税で大規模景気対策へ、金正恩氏訪日の仰天展開も―【私の論評】景気の低迷で、ちゃぶ台返しの5%減税の仰天展開も(゚д゚)!


2020年東京五輪のメインスタジアムとなる新国立競技場

 東京五輪・パラリンピックまで1年を切った。開幕までに政治、経済でどのようなことが焦点になるだろうか。

 まず、政治日程を確認しておこう。9月17日から30日までニューヨークで国連総会がある。その直後、10月1日から消費税率が10%へ引き上げられる。同22日は即位礼正殿の儀がある。同31日は英国の欧州連合(EU)離脱の期限だ。秋のどこかのタイミングで臨時国会が開かれ、世界経済の情勢や消費増税の影響を考慮し、補正予算・景気対策となるだろう。

 来年1月からは通常国会が開かれ、3月までは来年度予算が審議される。そして7月24日から8月9日まで東京五輪、同25日から9月6日までパラリンピックが開催される。

 その間の7月30日には小池百合子都知事が任期満了を迎え、る。五輪前のドタバタであるが、特例法でも制定されない限り、五輪直前に都知事選が実施されることになる。

 安倍晋三政権は、現在歴代3位の長期政権だ。今年8月に佐藤栄作、11月に桂太郎を抜き歴代最長になる見通しだ。

 長期政権の利点は外交で存在感を高められることだ。外交といえば、あと1年で北朝鮮との関係がどうなるのかに関心が寄せられている。

 この意味で注目すべきは、まず9月の国連総会だ。例年であれば、ここで日米首脳会談が開かれる。トランプ米大統領は、先日、板門店(パンムンジョム)で金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談し、再会談する意向を示したが、今度は正恩氏が訪米する番だ。その場として、国連総会は好都合である。

 その際、トランプ大統領の計らいで日朝首脳会談もありえる。その後、来年7~8月の東京五輪に正恩氏の訪日という仰天の展開もあるかもしれない。

 内政については、憲法改正が重要課題になる。カギを握るのは国民民主党だ。先日、玉木雄一郎代表がインターネット番組の「文化人放送局」において憲法改正を議論すると明言していた。筆者はたまたまその場にいたが、野党の中で埋没しないためにも、安倍首相が秋波を寄せている今が好機と判断しているのだろう。

 国民民主党の成り立ちからみても改憲勢力のはずだし、ここでしっかり意見を出さないと、草刈り場になるか、立憲民主党にのみ込まれる結果になってしまうだろう。秋の臨時国会での国民投票法改正、来年通常国会での憲法改正発議までいけるかどうかが注目だ。

 経済では、やはり10月の消費増税が心配だ。安倍首相は、経済対策の用意があると明言している。米中貿易戦争を受けた中国経済の減速、英国のEU離脱を受けた欧州経済の低迷、中東での偶発的な紛争の恐れなど、火種がたくさんある。

 安倍首相は、政治的に消費増税は不可避だが、増収分を吐き出して景気対策に使えばいいと考えている節がある。たしかに政治家らしい発想だ。

 秋に衆院解散との見方もあるが、消費増税後なのでやりにくい。となると、来年の衆院解散に向けて各党がどう動くのかが注目点だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】景気の低迷で、ちゃぶ台返しの5%減税の仰天展開も(゚д゚)!

オリンピックまでの後1年ということで、今後一年は確かに高橋洋一氏の予想の通りになる確率が高いと思います。

ただし、増税の悪影響は、思ってもみなかったこともおこることが考えられます。やはり消費税への10%増税はかなりの悪影響を及ぼす可能性が大きいです。これについては、以前もロンドンオリンピックの例をあげて解説したことがあります。

その記事のリンクを以下に掲載します。
景気後退…消費増税「回避」待ったなし!? 専門家「4月に判断しないと間に合わない」―【私の論評】ロンドンオリンピック直前に消費税増税した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!
このまま増税すると大変なことになる。安倍総理の決断は?
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。まずは、以下に英国の税収動向のグラフをあげておきます。


当時のキャメロン政権は「緊縮財政路線」を決め、ロンドンオリンピックの前の年の1月に「付加価値税率(日本の消費税にあたる)」を17.5%から20%へ引き上げました。その結果、どうなったかといえば、税収は増えるどころか、付加価値税の税収はかなり減りました。
窮余の一策が、中央銀行であるイングランド銀行(BOE)による継続的かつ大量の紙幣の増刷(量的緩和)政策でした。BOEといえば、世界で初めて金(きん)の裏付けのない紙幣を発行し、フランスなどとの戦争費用を政府に提供した中央銀行であり、その大胆さは世界でもずぬけています。 
BOEは11年秋から英国債を大量に買い上げ、ポンド札を金融市場に流し込んでいました。BOEはリーマン・ショック後、米連邦準備制度理事会(FRB)に呼応して量的緩和第1弾に踏み切ったのですが、インフレ率が上昇したのでいったんは中断していました。 
インフレ率は5%前後まで上昇しましたが、そんなことにかまっていられず、12年5月にはリーマン前の3.7倍にまでマネタリーベース(MB)を増やしました。幸い、インフレ率は需要減退とともに同年5月には2.8%まで下がりました。国債の大量購入政策により、国債利回りも急速に下がっています。ポンドの対米ドル、ユーロ相場も高くならずに推移し、ユーロ危機に伴う輸出産業の競争力低下を防いでいます。
英国は量的緩和政策で景気が回復基調に入ったにもかかわらず、「付加価値税」の引き上げで消費が落ち込み、再び景気を停滞させてしまいました。 
その後、リーマン・ショック時の3.7倍の量的緩和を行っても、英国経済が浮上しなかった教訓を日本も学ぶべきです。 
この増税により、雇用がかなり悪化しました。特に若者の雇用が悪化しました。皆さんの中には、テレビなどの報道で英国で若者の過激なデモがしょっちゅう報道されていたのを覚えているかもしまれません。

その後、英国の保守政権は、緊縮財政を繰り返しましたが、最近登場したボリス・ジョンソン新首相は積極財政に転じることを国民に約束しています。

この記事にも書いたとおり、積極財政に転じる、英国は、ブレグジットの悪影響をおさえこみ、ソフトランディングに成功するかもしれません。

その後、増税に転じた日本は、どちらかというと、イールドカーブ・コントロールで抑制敵な緩和をする日銀の金融政策ともあいまって、かなり経済が悪化することが予想されます。

ただし、経済が悪くなることははっかりしています。悪くなるのはわかりきっているのですが、どの程度になるかが問題です。

今回の増税は、2014年の8%からさらに10%にあげるというものです。10%というと、かなり切りがよく、誰もがすぐに消費税の計算をできますから、これはかなり個人消費が落ち込むことが予想できます。

さらに、日銀は現在物価目標を達成していないにもかかわらず、抑制敵な金融政策をしていることから、イングランド銀行のような積極果敢な緩和を行うとは考えられず。そうなると、かなり景気が落ち込むことが予想できます。これは、他ならぬ安倍総理が一番了解しているでしょう。

上の高橋洋一氏の記事では、「安倍首相は、政治的に消費増税は不可避だが、増収分を吐き出して景気対策に使えばいいと考えている節がある」としていますが、景気対策の規模にもよりますが、たいていの経済対策は一時的なものであり、これで景気を支え続けるのは至難の技です。だからよほど大型の景気対策を長期にわたって打たなければ経済がかなり悪化することが予想されます。

安倍総理は昨年の9月以下のような発言をしています。

「私もできれば上げたくありません。それは本当にそうなんですが、昨年の衆院選で約束した幼児教育の無償化を来年10月から始め、再来年、高等教育の無償化をスタートするには、やはり消費税を上げなければなりません」
産経ニュース 9月30日

これは安倍首相が9月19日に党のインターネット番組に出演した際の発言です。消費税増税はこれまで2度にわたって延期されてきました。
今回も「再々延期」に踏み切るのではないかという憶測もありましたが、結局増税に踏み切ることになりました。昨年の衆院選で自民党は消費税増収分を幼児教育の無償化などに充てると公約して勝利したので、「再々延期」すると公約違反となり、さらに安倍首相自身が「アベノミクス」の失敗を認める形になりかねないためです。
増税による税収の一部を教育無償化の財源にするのは衆院選の公約ですが、消費税増税中止を訴える産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員の田村秀男氏は、それを「方便同然」と批判しています。「消費税増税によって中低所得層を最も痛めつけておいて、子弟の教育費負担を軽減するというなら、増税せずに景気を拡大させ、それによる税収増を無償化に充当するのが合理的というものだ」としています(産経ニュース 9月23日)。

増税による悪影響が、かつの英国のように甚大となっても、財務省は大型景気対策に二の足を踏み、日銀も抑制敵な緩和から抜け出す気配がないなどのことになれば、次の衆院選挙では負ける可能性も濃厚です。安倍総理の宿願でもある憲法改正ははるかに遠のくことになります。安倍総理危機感を募らせることになるでしょう。

安倍総理としては、それは何よりも避けたいところです。そうなると、金正恩氏訪日の仰天展開よりも、さらに大きな仰天展開も考えられます。それは、消費税減税です。

麻生太郎・副総理兼財務相らは増税断行を目指してきたのですが、4月16日から始まった日米貿易交渉で風向きが変わっていました。トランプ政権は消費税の輸出戻し税を自動車などへの「輸出補助金」と批判し、10月からの消費増税を問題視したのです。

安倍総理と麻生財務大臣

もともと、日本経済は悪化する傾向が顕著でした。2019年以降、トランプ政権による対中国冷戦の強化、中国経済や欧州経済の悪化、残業規制の強化、2014年の消費税増税による個人消費の悪化の継続など内外の様々な下振れリスクがありました。これが、新たなの消費税造成で顕在化した場合、日本の実質GDPは最大で数%程度減少する可能性もあります。

これは、おそらくリーマンショック当時のGDPマイナス3.7%に匹敵する事態です。逆に舵を切れば、景気減速を防ぎ、選挙にも有利、米国の圧力もかわす一石三鳥になります。それが「サプライズ減税」もあり得るとの噂となりました。結局のところ、安倍総理は増税を決めたのですが、この状況は今でも変わっていません。

今後、かなり経済が落ち込み、憲法改正が遠のき、選挙でも負けそうな事態となれば、安倍総理が減税に踏み切るという展開も考えられます。それも、8%に戻すというのではなく、5%にするという仰天展開もあり得ると思います。そうなれば、まさに安倍総理のちゃぶ台返しです。

そうなれば、麻生財務大臣は自ら辞任するか、それ以前の内閣改造で安倍総理が入閣させないか、入閣させたとしても財務大臣からはずということも考えられます。

いずれにせよ、今後1年間はどんな仰天展開が起こるか、注目していきたいです。

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2018年1月20日土曜日

【主張】トランプ政権1年 「孤立主義」と決別せよ―【私の論評】経済が上々のトランプ政権は「孤立主義」になる心配は全くない(゚д゚)!

【主張】トランプ政権1年 「孤立主義」と決別せよ

トランプ米大統領
 ■真のアジア回帰へ日本も動け

 トランプ大統領が就任演説で掲げた「米国第一主義」は、強いアメリカを取り戻すことに主眼があったはずである。

 本来その源泉は、米国が重視してきた自由と民主主義の普遍的価値、国際秩序を守ることにある。だが、トランプ氏は必ずしも重きを置いていない。

 その結果、南シナ海などで、中国にわが物顔の振る舞いを許してしまった。中国は軍事、経済の両面で、米国が主導し、国際社会が繁栄の基盤としてきた既成秩序の破壊を狙っている。

 《中国の台頭は秩序壊す》

 米国をも脅かそうとする、北朝鮮の核・ミサイル問題への対応という変数もあった。日米が足並みをそろえ、圧力路線を推し進めた点は評価できる。だがそれは、米国が中国を押さえ込み、アジア太平洋地域の安全保障に積極的に関与することを直ちに保証するものにはみえない。

 米政権の行方は同盟国日本の針路を左右する。安倍晋三首相が、緊密な関係をもつトランプ氏に対し、替え難い価値観や秩序の重要性を説き、共有を促し続けていくことは極めて重要だ。

 昨年1月20日に就任したトランプ氏が真っ先に表明したのは、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの離脱だった。

 TPPには、自由主義経済の大国である日米が連携し、中国の覇権主義を押さえ込む戦略性があった。アジア回帰を唱えたオバマ前政権は、実際には中国による南シナ海の人工島建設を看過した。ただ、TPP構想は辛うじて中国を牽制(けんせい)するものだった。

 米国の撤退は、中国の「国家資本主義」という独善性を解き放ってしまった。現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を起爆剤に、中国に都合の良い規制やシステムを各国に押しつける動きに拍車がかかっている。

アジア諸国には、インフラ投資や経済援助をエサに、中国に切り崩される例が出ている。

 中国は昨年1年間で、南シナ海で29万平方メートルの軍事関連施設を整備した。東シナ海では尖閣諸島への領土的野心を募らせている。

 安倍首相が提唱し、トランプ氏が受け入れた「インド太平洋戦略」は、軍事、経済の両面で中国に対抗する狙いがあるが、まだ緒についたばかりだ。

 トランプ政権は昨年12月、国家安全保障戦略報告で「力による平和の維持」を打ち出した。中国をロシアとともに、既存秩序の変更をたくらむ「現状変更国家」と位置づけたのは妥当だ。

 北朝鮮問題では、米国は軍事的手段の選択肢を残し、圧力を強める姿勢を貫いた。国連安全保障理事会では制裁決議採択を主導した。いずれも日本が支持してきた点である。政権内の人事が停滞する中でも、マティス国防長官やマクマスター大統領補佐官ら有能な外交安保チームが仕事をした。

 《自由貿易の価値重視を》

 それでも、北朝鮮包囲網の強化にあたり、中国への依存を強めざるを得なかった。中国が原油の全面禁輸を拒む限り、早急な核放棄の実現は至難である。対北政策の舵(かじ)取りは極めて難しい。

 金正恩政権は平昌五輪を「人質」に、韓国の文在寅政権の懐柔を図っている。それを許容した点で米国に油断はないか。南北融和ムードが醸し出され、米本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させる時間を北朝鮮に与えかねない。トランプ氏が批判した「過去25年間の失敗」を繰り返してはならない。

 価値や秩序の重要性に目を向けず、北朝鮮やその庇護(ひご)者である中国と妥協する懸念も残る。日本はトランプ氏に真のアジア回帰を促すべきだが、それには日本自身の役割拡大を示す必要がある。

 昨年末に成立した大規模減税と好調な景気は政権に追い風となっている。ロシアによる大統領選介入疑惑は、政権中枢まで捜査の手が及ぶ気配だ。危うさが拭えない政権運営を立て直せるか。

 11月の米中間選挙で、共和党が上下両院の過半数を失えば、トランプ氏弾劾の動きが勢いづく。

 そうした事態を避けるため、白人労働者の支持層をつなぎ留めようと「内向き」政策に拍車がかかる懸念は残る。貿易赤字の是正に躍起となって、相手国を恫喝(どうかつ)する通商交渉を激化させれば、米国は孤立し、威信そのものが損なわれよう。

【私の論評】経済が上々のトランプ政権は「孤立主義」になる心配は全くない(゚д゚)!

トランプ政権もはやいもので、もう1年が過ぎました。その間、米国経済はどうなったのか、以下に掲載します。

株価は、下記の通り右肩上がりで上がりました。


以下に、主な経済指標のトランプ氏就任前と、直近の経済指標をあげておきます。


この中で、貿易赤字のみは少し大きくなっています。トランプ氏は貿易赤字を縮小することを公約に掲げたため、これを批判するむきもありますが、これは貿易赤字に対するトランプ氏の認識のほうが間違っているともいえます。

先日もこのブログで掲載したばかりですが、ユーロ圏では日本のように安易に国債発行やはできません。統一通貨の問題点です。特に為替レートにも関係ないので各国間の格差は拡大します。だからユーロ圏では特に「輸出額=輸入額」ということが必要になります。

米国、日本、中国のような国では、自国で自国通貨を擦り増しできるので、そのようなことはありません。本来、貿易黒字がどうの赤字がどうのと騒ぐ必要性など全くないです。

実際、経済が成長していると、輸入が増えて、貿易赤字は増える傾向にあります。この場合、貿易赤字が単純に悪いとはいえません。貿易赤字に関しては、あくまで中身を検討した上で良い悪いを判断すべきなのです。

トランプ政権の過去の1年では、経済成長をしつつ貿易赤字が減らなかったということですから、これはほとんど問題などありません。

むしろ、先程も言ったように、トランプ氏は大統領選挙中に語っていたような、あかも貿易赤字そのものが悪であるような考え方は改めるべきです。

その他、CPI(物価指数)、Civilian Unemployment Rate(失業率)、10-Yr.Treasury Rate(10年国債金利)、IP(鉱工業指数)、Payroll Employment(雇用者増加数)などの指標を以下に掲載します。


米国内でも日本でも、トランプ大統領を批判する人が多いですが、経済パフォーマンスに関しては上記の指標を見る限り文句のつけようがない程良いです。過去の米政権をみると、経済がよければ、他で批判されても結構長持ちすることが多いです。

アメリカのNAIRU(構造的失業率)は4%程度であり、インフレ目標2%はほぼクリアしています。その結果として経済成長率は3%超えています。これは、かなり良いです。これだと今後も、大減税しつつ金融引締めでこの良さを維持できる確率がかなりあります。

そうなれば、11月の米中間選挙で、共和党が上下両院の過半数を失うということもないでしょう。となると、元々ほとんど不可能(米国大統領で弾劾された人はいない)だったトランプ氏弾劾の動きはさらに下火になることでしょう。トランプ大統領弾劾の動きは、トランプ氏を貶めるための印象操作であると考えられます。

このような事態を避けるため、トランプ氏が、白人労働者の支持層をつなぎ留めようと「内向き」政策に拍車がかかる懸念も払拭されると思います。

さらに、国内経済が良いことから、トランプ氏が貿易赤字の是正に躍起となって、相手国を恫喝(どうかつ)する通商交渉を激化させることもないでしょうし、そのため米国は孤立し、威信そのものが損なわれることもないでしょう。

この状況は、たとえると安倍政権が成立してから、増税をする前までの1年間のように良い状況です。今後安倍政権が犯した唯一の誤りである、消費増税のような、マクロ経済的に明らかな間違いを犯さない限り、トランプ政権は安定するでしょう。

ブログ冒頭の記事のように、トランプ政権の政策的態度を「孤立主義」という言葉で描写しようとするコメンテーターが多いように感じます。

トランプはグローバル化に取り残された白人層を支持基盤としたグローバル化に抵抗している大統領だ、というイメージが、「孤立主義」とか「保護貿易」といった言葉のイメージに合致するのでしょう。

しかしこれらの言葉を使ってトランプ政権の政策的方向性を描写するのは、あまり妥当なこととは思えません。むしろこれらの概念は、かえってわれわれのトランプ政権の理解を阻害するように思われる。

「孤立主義」という日本の学校教科書などで19世紀アメリカ外交の描写として使われている概念は、20世紀になってから用いられるようになった概念であり、しかも極めて「ヨーロッパ中心主義的」な概念です。

第一次世界大戦の後、議会の反対で国際連盟に加入しなかったアメリカの外交政策を「孤立主義」と形容したのは、失望したヨーロッパ人たちでした。アメリカ人が「孤立」した状態を望んだということではありません。

そもそも19世紀の「モンロー・ドクトリン」の場合ですら、「孤立」はアメリカ人自身が目指した理念ではありません。19世紀前半にアメリカ合衆国は、ヨーロッパ列強が繰り広げていた「勢力均衡」の権力政治には加担しないことを宣言しました。

その「錯綜関係回避」の原則は、「新世界」に作り上げた「共和主義」の独立国を維持するためには、汚れた「旧世界」の権力闘争から隔絶させておくことが必要だという洞察にもとづいた政策でした。

しかしそれはアメリカ合衆国を国際社会から本当に「孤立」させることを目指した政策などではありませんでした。そもそも当時のアメリカ合衆国はすでに、いわゆる「明白な運命」論にしたがって、領土を拡大させ続けた「拡張主義」国家でした。

トランプ大統領が「孤立主義」的に見えるのは、「アメリカ第一」を唱え、TPP脱退などの政策によって国際協調を軽視しているというイメージがあるからでしょう。しかし、TPPから離脱しただけで「保護主義」者や「孤立主義」者になるかは、はなはだ疑問です。

そもそもTPPは太平洋地域の一部の諸国が加入するだけの地域的自由貿易協定にすぎず、全く「グローバル」なものではありません。中国包囲網としての性格も自明であったので、アメリカを中心とする太平洋地域自由主義諸国による関税同盟としての政治的性格が強かったと言えます。ただし、トランプ氏はこの「中国包囲網」としてTPPを理解して欲しいものとは思います。

トランプ政権は、TPP脱退やNAFTA再交渉の代替策として、カナダ、イギリス、日本などとの二国間貿易協定を結ぶことへの関心を表明しています。為替の自由化を求めてWTOを活用する方法も模索しているトランプ政権が、根本的に反自由貿易主義的だと言えるかは疑問です。

安全保障面では、トランプ政権は、NATO構成諸国にいっそうの防衛費拡大の努力を促しています。日本を含む他の同盟諸国にも同じような態度をとっています。

しかし、それは「テロとの戦争」などをふまえて同盟ネットワークのさらなる活性化を狙っているからであり、決して「孤立」したいからではないことは言うまでもないでしょう。

トランプ政権は「孤立主義」でもなかったし、これからも「孤立主義」に至ることはないでしょう。特に今年1年は現時点で経済が良いこと、さらに特に悪くなる要素もないことから、全くその心配をする必要はありません。

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