2019年4月11日(現地時間)、米ホワイトハウスで行われた米韓首脳会談を受け、韓国メディアでは厳しい論評が相次いだ。さらに北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長からは、「仲裁者」としての立場を改めて否定するような発言まで飛び出した。
トランプ氏とともに笑顔で記者に対応した文氏だったが…(米ホワイトハウス公式FBより) |
朝鮮日報は「ノーディール」とバッサリ
2019年2月27、28日に行われた、ベトナム・ハノイでの第2回米朝首脳会談の「決裂」から、約1か月半。両国の仲裁者を自任する文氏にとっては、ドナルド・トランプ米大統領になんとしても、再び交渉のテーブルに着いてもらうことが、最大のミッションだった。そのために文氏が提案したとされるのが、段階的な非核化・制裁緩和を容認する「グッド・イナフ・ディール(十分に良い取引)」への転換だ。
しかしトランプ氏は、制裁緩和はあくまで完全な非核化が前提だとする「ビッグ・ディール(大きな取引)」論を曲げなかった。また3回目の米朝首脳会談についても、実施に意欲を見せつつ、「一歩一歩だ」「急げば良い取引にならない」。早期開催を求めた文氏と、考え方の溝を垣間見せた。
今回の会談に対し、韓国内の採点は総じて辛い。特に、保守系の大手紙・朝鮮日報は、「ハノイに続きワシントンでもノーディール」(引用は日本語ウェブ版より。以下同じ)と切り捨てる。野党・自由韓国党の羅卿ウォン・院内代表も、「(米国に)なぜ行ったのかわからない」「アマチュア外交」と糾弾した(中央日報)。
韓国リベラル派も認める「カード不足」
もちろん、評価の声もある。リベラル派新聞のハンギョレは、「ひとまず、文大統領が南北首脳会談を推進し、金委員長を説得するための基本動力は作られた」「仲裁者または促進者として文大統領の役割に重ねて信頼を示した」と、会談の成果を強調した。
だが、そのハンギョレですら、「しかし、金(正恩)委員長を説得するカードが明確でないのが問題だ」「文大統領はトランプ大統領に直接確認した『ビッグ・ディール』と『より明るい経済的未来』という立場を金委員長に伝え、決断を下すよう説得するしかない」と指摘する。つまり、文氏が「仲介役」として双方を説得しようにも、肝心の「カード」がないということだ。とすれば結局、文氏にできることは「説得」しかない。それを、支持層のリベラル派さえ認めざるを得ないわけである。
こうした中で12日、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は最高人民会議での演説で、自ら米国との関係に言及した。国営メディアの朝鮮中央通信によれば、「今年の末までは忍耐力を持って米国の勇断を待ってみる」と期限を切りつつ、米国側に「ビッグ・ディール」からの譲歩を迫ったのである。
金氏、トランプ氏とは「敵対的ではない」 韓国ははしごを...
その演説内容は、
「私とトランプ大統領との個人的関係は両国間の関係のように敵対的ではなく、われわれは相変わらず立派な関係を維持」
「米国が正しい姿勢をもってわれわれと共有できる方法論を探した条件で第3回朝米首脳会談をしようとするなら、われわれとしてももう一度ぐらいは行ってみる用意がある」
「今後、朝米双方の利害関係に等しく合致し、互いに受け付け可能な公正な内容が紙面に書かれれば、私は躊躇(ちゅうちょ)せずその合意文にサインするであろうし、それは全的に米国がどんな姿勢でどんな計算法をもって出てくるかにかかっている」など、米国の譲歩を前提にしてはいるものの、交渉に対し前向きとも取れるものだ。
一方、韓国側に対しては、
「南朝鮮(韓国)当局は、すう勢を見てためらったり、騒がしい行脚を催促しておせっかいな『仲裁者』『促進者』の振る舞いをするのではなく、民族の一員として気を確かに持って自分が言うべきことは堂々と言いながら、民族の利益を擁護する当事者にならなければならない」と要求、改めて「仲裁者」としての立場を否定する。韓国としては、はしごを外されたに等しい内容だ。
【私の論評】朝鮮半島問題の本質を理解しない文在寅は、今のままでは米中露北からまともな扱いを受けられない(゚д゚)!
以前このブログで指摘した通り、文在虎も韓国の大多数の政治家も、それに韓国マスコミも、朝鮮半島問題の現状を理解していないようです。
朝鮮問題も当初は、米国・韓国と中露・北朝鮮の対立というところから出発しましたが、朝鮮戦争終了から70年近くたち、随分と様相が変わってしまいました。
韓国は、北との接近をはかりつつ、中国に従属しようとしています。これは明らかに、同盟国米国に対する敵対行為です。
2017年文材寅は中国を訪問したが、驚くほどの冷遇を受けていた |
ソ連は崩壊し、ソ連の軍事力や軍事技術を引き継いだロシアは、軍事大国としては相変わらず大国ではありますが、経済規模は縮小し、今やそのGDPは東京都を若干下回る程度しかありません。ちなみにこれは、韓国と同規模です。中国は、経済発展をとげ一人あたりのGDPはまだまだ小さいものの、全体では世界第二位の経済大国になりました。
これについては、中国の経済統計はデタラメで、未だドイツ以下とする識者もいますが、それが事実だとしても、ロシアなどは問題外であるほどに経済が大きくなったのは事実です。しかも、人口はロシアは一億四千万人ですが、中国は十三億人以上です。極東においては今やロシアよりも、中国のほうがはるかに影響力が強大です。
一方の北朝鮮は、中国の干渉を嫌うようになりました。張 成沢氏や金正男氏を殺害したのはそれを阻止するためです。北朝鮮は核ミサイルを開発しました。これについては、ほとんど報道されませんが、北の核ミサイルは、日米にとって脅威であるばかりではなく、中露にとっても脅威です。
北朝鮮にとって、ロシアの影響力は弱まったのですが、中国の影響力は増すばかりで、金正恩は、自らが後継者となった金王朝を守るためには、中国の影響を弱めなければならないと判断したため、核ミサイルの開発により、中国に脅威を与えるとともに、米国との接近を図ろうとしたのです。
そのため、結果として、北朝鮮とその核は、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐ役割を果たすようになりました。
ただし、金正恩としても、中国の影響力を削ぎたいのであり、中国と本格的に対立しようなどという意図は毛頭ありません。無論、米国に従属したいとは毛頭考えていません。米国に従属してしまえば、金王朝を守り抜くことは難しくなります。金正恩の本音は、国境を接している中国の北朝鮮への影響を削ぎ、自らと自ら継承した金王朝を守り抜くことです。
だからこそ、米国に接近を図ったのです。そうして、米朝会談にまでこぎつけることができました。
そうして、北朝鮮は、韓国と統一したり、中国・ロシア、米国などと対立する気は毛頭ありません。本当に望んでいるのは、現在の体制をそのまま維持することです。
一方、米国や中国・ロシアも現状維持を望んでいます。米国にとっては、朝鮮半島問題で最悪なのは、半島全体が中国の影響下に収まってしまうことです。一方中国にとっては、北朝鮮が完璧に米国の配下に収まってしまうことです。
これらの状況よりは、現状維持のほうが、米国にとっても中露にとってもはるかに良いのです。これについては、以前のこのブログにも掲載しました。
朝鮮半島において、現状維持が崩壊するような動きがあれば、米中露とも具体的な行動をすることでしょう。
2017年9月6日、ロシア極東ウラジオストクで行われた経済フォーラムで握手するプーチンと文 |
現状では、ロシアは経済的に半島問題に直接介入する力はありません。米中としても、米中の経済冷戦が勃発した現在、朝鮮半島は現状維持をして、経済戦争に専念したいと考えています。特に、米国は本気で長期にわたる冷戦を挑んでいます。朝鮮半島問題などは、この冷戦で勝利すれば、自動的に解決すると考えています。
ところが、文在寅をはじめとする韓国の政治家やマスコミは、この現状を把握していないようです。だから、以前このブログでも述べたように、文材寅は米中露・北朝鮮が現状維持を望んているにもかかわらず、それを破壊するような行動に出て、一人芝居をしているようなものなのです。
金正恩は、韓国や文在寅に対して、親近感を抱いているわけでも何でもありません。厳しい制裁に対する抜け穴として利用したいと考えているだけです。だから、文在寅に対して良い顔をしておだててきました。
金正恩におだてられた文在寅 |
そうして、文在寅は、有頂天になり、北制裁の緩和や排除を標榜し、米国に赴き、仲介者の役割を果たそうとしました。
北朝鮮としては、これ自体は悪いことではありませんが、文在寅の一人芝居が過ぎるようになってきたため、それを放置しておけば、自らも米国や中国・ロシアから、現状維持を崩そうとしてみられる危険性を懸念するようになったのでしょう。
だからこそ、韓国の「仲裁者」としての立場を否定してハシゴを外したのでしょう。文在寅はこうした背景を理解しないと、いつも北朝鮮からハシゴを外されるようになるでしょう。
そんなことより、文在寅は、朝鮮半島問題の本質である現状維持(Status quo)を理解したその上で北、米中露へ対応していくべきでしょう。これができないから、一人芝居状態になっているのです。トランプ、習近平、プーチン、金もその点では一致していると思います。
【関連記事】