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2014年12月2日火曜日

財務省が仕掛けた罠 増税にお墨付きを与える解散総選挙―【私の論評】勝って兜の緒を締めよという言葉もあるが、ここは素直に喜んでも良いのでは?最終的には政府が財政政策の方針を設定できるようにすること(゚д゚)!


倉山満氏


Q.安倍首相が打って出た今回の解散総選挙は大義名分がないの?

「増税延期」の建前で選挙をやれば、増税にお墨付きを与えかねない!




即死は回避した。

前回の本欄で、現在のデフレ下での消費増税10%は日本経済を破滅させると書いた。それを何とか回避した。11月18日の総理会見で飛び出した「1年半延期の後、必ず増税」というのは気にくわないが、「余命半年で即死」から1年半の猶予を得たのはよしとすべきだ。

今回の消費増税阻止に関しては、本田悦朗内閣参与の獅子奮迅の大活躍をあげねばなるまい。テレビに出ずっぱりで増税反対を訴えた気迫が世論を動かし、最強の財務省に勝ったのだ。昨年とは逆に、日本中に「増税反対」の声が巻き起こった。首相官邸筋からは「増税延期、そして総選挙」の解散風が吹いてくる。総選挙前に総裁に造反できる根性のある自民党議員など皆無である。大勢は決し、財務省は白旗を揚げた。

しかし、財務省はあくまで戦略的撤退をしたにすぎない。そして、罠を仕掛けた。最後まで増税断行に固執していた民主党も含め、全野党が増税延期を認めた。これで終了ならば、安倍首相の手腕は見事だったと言えよう。だが、吹き出した解散風は止まらない。

そして問題は解散の大義名分である。これまで増税を推進してきた民主党が「大義名分のない解散」と絶叫しているので、良識派は顔をしかめるかもしれない。しかし、「聖書は悪魔も引用する」ではないが、民主党でもマトモなことを言う場合もあるのだ。理由を2つあげる。1つは、今回の措置は「1年半の増税延期」である。これでは、1年半後に増税するのを確定させるような解散ではないか。2つは、自民党の党利党略である。自民党は仮に議席を減らしても過半数は維持すると見られている。それでは去年、財務省に怯えて増税に賛成した議員に免罪符を与えるだけではないのか。現に財務省は、与野党問わず増税派だけを当選させようと画策している。

■増税賛成派を抵抗勢力と見做す選挙なら許すが

そもそも経済状況は、「10%は論外、8%は地獄」なのである。ならば、「アベノミクスが順調だった頃の5%に戻す」が正しい経済学的知見ではないのか。仮に安倍首相が、「過ちは改めるに如くは無し。消費税は5%に戻す!」「財務省をぶっ潰す!」「アベノミクスが本当に必要ないのか、国民の皆様に聞いてみたい!」「増税に賛成する者は抵抗勢力だ! 公認もしないし、すべての選挙区に増税反対の候補を刺客として送る!」「日本を守るためならば殺されたっていい!」と宣言して解散を断行するなら、諸手をあげて支持しよう。だが、そうはなっていない。私のように、アベノミクスを支持し、増税に反対してきた人間は、自民党こそ許せないのだが……。いずれにしても、日本を守るための戦いは終わっていない。総選挙後こそが本番だ。

◆「景気条項」の撤廃で将来的な増税は確定!

18日の会見で安倍首相は、消費税率10%への引き上げを2017年4月に延期することを宣言。ご丁寧に、引き上げ時期の経済情勢が著しく悪化した場合に、増税を留保できる「景気条項」を撤廃すると明言してしまった。財務省に取り込まれた麻生副総理に唆されてのようだが、これで選挙がどうあれ将来の増税が確定

■倉山満 ●憲政史研究者、倉山塾塾長 くらやまみつる◎’73年、香川県生まれ。中央大学大学院在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤研究員を務め、日本国憲法を教える。’12年より、コンテンツ配信サービス「倉山塾」を開講。新著に『偏差値40の受験生が3か月で一流大学に合格する本』(扶桑社刊)、『逆にしたらよくわかる教育勅語』(ハート出版)など

【私の論評】勝って兜の緒を締めよという言葉もあるが、ここは素直に喜んでも良いのでは?最終的には政府が財政政策の方針を設定できるようにすること(゚д゚)!

上記の倉山氏の主張は良く理解できます。ただし、今は年末だし、消費増税先送りに関しては、もっとみんな喜んだ方が良いのではないでしょうか。これは、かつてない首相の地位にある人の素晴らしい貢献です。何しろ、全政党が賛成した増税を覆したのですから。勝って兜の緒を締めよという諺があるものの、これについては、素直に喜んで良いと思います。

第三十三回陸軍記念日絵葉書

無論、景気条項は、経済政策としてはあった方が良いに決まっています。しかし、再増税は2017年4月です。その前に2016年7月参院選があります。場合によっては衆院選の同時解散選挙もあり得るということです。

国政選挙で再増税が議論にならないはずはありません。政治的な議論はいくらでも出来ます。これは財務省にとっては不都合な真実かもしれませんが、今回の解散のいい教訓でしょう。

安倍総理は、まさに、財務省に対する総理大臣による御しかたを国民に目に見える形で、提示したわけです。このように解散総選挙を実行されてしまえば、財務省といえども、自分たちの都合の良い政策を政治家に押し付けるわけにはいかないということです。

ところで、一部のマスコミは「増税を決めた法律には景気次第で増税を停止できる景気条項があるのだから、解散しなくとも政権が決めればいい。税金の無駄遣いだ」と解散を批判しています。これは、私に言わせると、財務省寄りのマスコミの屁理屈というものです。

そもそも消費増税は民主党の野田佳彦政権と自民党、公明党による3党合意で決まったものです。それを合意に加わった自民党の安倍晋三政権がひっくり返すというのですから、あらためて選挙で民意を問うのは、政治的にまったく正統性のある手続きです。

3党合意の増税路線に賛成して自民党に投票した有権者からみれば、安倍政権ができたと思ったら突然、公約を反故にして増税先送りでは納得がいかないのはあたり前のことです。

しかし、一部のマスコミは「増税を決めた法律には景気次第で増税を停止できる景気条項があるのだから、解散しなくとも政権が決めればいい。税金の無駄遣いだ」と解散を批判しています。

私に言わせると、こういう批判は政治の世界の現実や流動性など全く理解しない馬鹿な意見としかいいようがありません。これは、解散なしで増税先送りを決めたとすれば、何が起きるかを考えればすぐに理解できます。

自民党の税制調査会を牛耳るベテランたちは増税断行を強硬に唱えていました。野田毅税調会長は言うに及ばず、麻生太郎財務相や谷垣禎一幹事長も増税派です。自民党内では、おそらく増税賛成派が多数派でしょう。

民主党はもともと増税に賛成です。舞台裏では財務省があの手この手で増税根回しに動いていました。そこで安倍首相が先送りを言い出せば、政権を揺るがす大政局になったのは間違いありません。

大手マスコミはほとんど増税賛成ですから結局、昨年と同じように安倍総理は先送り断念に追い込まれることになったでしょう。そうなったら政権の求心力は低下する一方ですし、景気は悪化するので最終的に政権が崩壊ということになります。

それどころか、増税せざるをえなくなった安倍政権は財務省にとって、もはや用済みです。「総理、ご苦労さまでした」の一言で安倍は谷垣や麻生に交代することになったことでしょう。

これこそが、財務省にとってベストシナリオだったのです。

結局のところ、「景気条項があるから、先送りしたいならできるじゃないか」という議論は一見、もっともらしいのですが、裏に秘めた真の思惑は「安倍政権、さようなら」ということです。

増税を先送りしなければ、5年前の悪夢が再現された可能性もある(゚д゚)!


増税先送りなら政局になるくらいの見通しは、多くの関係者にとつては、領解ずみのことなのですが、それでもなぜ景気条項のような建前論を吐くかといえば、理由は2つです。

まず、左派マスコミは増税賛成だろうが反対だろうが、とにかく安倍政権を倒したいのです。その思惑が一致するから、増税賛成派の朝日新聞も反対派の東京新聞も同じように景気条項論を持ち出すのです。

次に、永田町で暮らす政治記者や政治評論家たちは結局、財務省を敵に回したくないのです。裏で財務省が糸を引いているのは分かっていても、そんな「本当の話」をずばずば書き始めたら、財務省とその応援団に睨まれることになります。

財務省は奥の院でマスコミのトップ層と気脈を通じていますから、記者は下手をすると自分が飛ばされてしまいます。評論家は「永田町の政治が財務省によって動かされている」という実態を暴いたら、飯の食い上げです。彼らにとっては永田町と霞が関情報こそが商売のタネであるからです。商売相手を敵にするバカはいません。

はっきり言えば、政治記者も評論家も国民の暮らしなど眼中にありません。だから解散も予想外だったのです。

昨年に関しては、安倍総理も本当は解散総選挙という手を用いたいという意図もあったでしょうが、そもそも安倍政権が成立してから、1年もたっていないこと、さらに三党合意で決めたことを簡単に翻すこともできず、解散総選挙に踏み切ることはできませんでしたが、今年は違います。

今回の解散は政治バトルの戦場を永田町・霞が関から一挙に国民レベルに拡大しました。その結果、増税派は雪崩を打って先送り容認に動いた、というより動かざるを得なかったのです。戦う前から安倍首相の完勝です。

そうして、これからも、もしこのようなことが発生して、総理大臣と他の意見が真っ向から対立する場合には、節目で、解散総選挙に打って出れば良いということです。

今後の政権は、安倍総理を見習って、何か重大なことを周りに逆らってでも、決定しなければならないときには、このような解散・総選挙という手段を用いるようにすべきです。

そもそも、国民の7割が増税に反対というのに、政府の一下部機関に過ぎない財務省が、国民の意に反する増税を政治家やマスコミ等に対する説得攻勢で実現してしまおうというのが、異常なのです。

財務省の役人は、国政選挙で選ばれるわけではありません。だから、本来財務省が実行すべきは、政府の財務政策の方向性に関しては、あくまで政府が決定し、財務省はその方向性に従い、専門的な立場から、様々な具体案を選択し、実行するということです。


財務省は政府の一下部機関に過ぎない


実際、財務省が過去20年間ほど実行してきた、財務省主導による財務政策は間違いだらけでした。そもそも、デフレの最中に増税するというのが、完璧な間違いです。これをすれば、再度日本はデフレスパイラルの深みはまり、とんでもないことになってしまいます。

これは、8%増税による経済の悪化からみても明らかです。やはり、財務省の官僚は、選挙という正当な手続きで選ばれた人々ではないため、財政政策を決めるということになれば、国民や政治家など不在で、自分たちの省益のみに着目して決めてしまうのです。

しかし、10%増税など、実行してしまえば、景気がかなり落ち込み、税収の源泉である国民所得も大幅に目減りして、いずれ税収も減り、財務省にとっても都合の悪いことが生じていたはずです。

やはり、国民の代表ではない官僚が財政政策を決めてしまうというのは、全くの街がいです。

最終的には政府が財政政策の方針を設定できるようにすべきです。今回の選挙がそのための一里塚になっていただければ、本当に良いことだと思います。


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