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2017年2月22日水曜日

【正論】自ら首絞めた北の正男氏暗殺 中国と関係悪化、国際的孤立が深化した 東京基督教大学教授・西岡力―【私の論評】日本は正男殺害に関心を奪われ、重要な問題をなおざりにしている(゚д゚)!


西岡力氏  写真はブログ管理人挿入 以下同じ
 北朝鮮の独裁者・金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄である金正男氏が暗殺された。捜査にあたっているマレーシア警察はインドネシア国籍とベトナム国籍の2人の女、リ・ジョンチョルという北朝鮮国籍の男を容疑者として逮捕し、事件直後に出国した北朝鮮国籍の4人の男を指名手配した。

 これまでも北朝鮮は多くのテロを行ってきた。今回のテロと比較すると、共通点は「国家テロ」を行いながら、それを隠すために外国人が行ったと偽装することだ。特異な点はあまりに拙速でミスが多いということだ。以下、具体的にそのことを論じ、最後にこのテロが意味するものを考える。

≪金正日が下した工作方針≫

 金正日は1974年に金日成から2代目に指名された直後、党の組織指導部に検閲部門を発足させた。党、政府、軍の幹部らをつるし上げて忠誠を誓わせ、最後に予算と人材が最優先で回されていた党の工作機関の検閲を行った。

 工作機関の老幹部を容赦なく批判し、これまでの工作の成果はゼロだと結論づけた後で76年に新しい工作方針を下達した。そのなかに「工作員の現地化を徹底的に行え。そのために現地人の教官を拉致せよ」という命令が含まれていた。この命令の直後の77年と78年に世界中で拉致が多発する。

金正日
 日本でも政府認定17人のうち13人がこの2年間に拉致された。「工作員の現地化」とは工作員を外国人に偽装することだ。それには2つの方法があった。第1が北朝鮮工作員に現地化教育を授けるケースだ。大韓航空機爆破テロの実行犯である金賢姫は田口八重子さんから日本人化教育を受け、マカオから拉致された中国人女性から中国人化教育を受けていた。

 第2は外国人を洗脳して工作員として使うというもので、実は横田めぐみさん、田口さんらは当初、工作員になるための教育を受けさせられた。ところが、同じ教育を受けていたレバノンの拉致被害者が海外で活動中に逃走したため計画は頓挫し、彼女らは北朝鮮工作員の現地化のための教官にさせられた。一方、よど号ハイジャック犯とその妻らは完全に洗脳され、朝鮮労働党の下部機関である「自主革命党」を結成して日本人拉致や自衛隊工作などを行った。

≪洗脳教育とは違った「手口」≫

 現地化にはテロなど国家犯罪を行う際、北朝鮮の犯行であることを隠すという目的があった。今回の暗殺テロもベトナム人とインドネシア人が実行犯として使われた。これも外国人が犯人であるように偽装するという点で、これまでのテロと共通している。

ただし、外国人を工作員として使う場合、これまでは徹底した洗脳教育を実施していたが、今回はテレビのいたずら番組の撮影などとだまして実行犯に仕立てた。これが大きな違いだ。

 監視カメラが多数設置されている空港では金正男氏が警戒を緩め、外国人記者らをすぐ近くまで接近させているという事実に注目して、外国人をだましてテロに使うという「新しい手口」を考えたのではないだろうか。素人女性を数日間、訓練しただけで殺人を成功させたテロはある意味、見事だった。逮捕されたのが女性2人だけだったら、北朝鮮とは関係ないという主張がより説得力を持ち、その意味で危なかった。

≪独裁者の拙速なミスを突け≫
 しかし、今回のテロの特徴は、これまでのテロと異なり、あまりにも拙速でミスが多いということだ。4人の犯人は犯行直後、出国している。それは計画通りだろう。しかし、実行犯をリクルートしたとも言われているリ・ジョンチョルは、家族と住むマレーシア国内の自宅に帰ったため、マレーシア警察に逮捕された。これが分からない。なぜ、犯行直後に4人と一緒に出国しなかったのか。なぜ、警察が来たとき自殺を図らなかったのか。

察署へ連行される北朝鮮籍のリ・ジョンチョル容疑者
 また、4人の犯人も実行犯の女と一緒に空港で予行演習をしているところを、監視カメラで撮影されている。そのため、すぐ氏名などが特定され、顔写真付きで指名手配された。なぜそのような証拠を残したのか。

 この拙速さの背景について論じよう。2011年12月、金正日が死亡したとき、その葬儀の日に合わせて私たちは東京で「金正日による犠牲者に思いを寄せる集会」を開いた。金正日によって犠牲になった多くの人々を悼むべきだという趣旨だった。そこで北朝鮮軍人出身の金聖●・自由北朝鮮放送代表はこう語った。「金正日が築き上げた個人独裁システムは強固だから、金正恩政権はすぐに崩壊することはない。しかし、20代の若造が全てのことを決裁する独裁者の地位に就いたのだから、必ずミスをする。そのミスをいかにうまく利用するかが、拉致被害者救出運動の鍵を握るだろう」

 まさにその通りのことが今回起きた。このテロの結果、中国との関係悪化や、国際的孤立が深化し、金正恩政権は大きなダメージを受けるだろう。それを賢く利用して拉致問題解決に結びつけるために皆で知恵を絞るべきときだ。(東京基督教大学教授・西岡力 にしおかつとむ)

●=王へんに文

【私の論評】日本は正男殺害に関心を奪われ、重要な問題をなおざりにしている(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事で西岡力氏が主張するように、金正恩はミスをおかしたのは間違いないです。今回の殺害がどのようなブロセスで誰によるものであったとしても、結局のところその責任は金正恩にあります。

韓国政府によれば、金正恩氏は2011年末に政権を継承して以降、100人以上の党高級幹部を処刑してきました。最近では、処刑の実行役だった金元弘国家安全保衛相も粛清したとされています。

韓国国情院は2月15日の国会で、正恩氏が異母兄の正男氏を嫌い、「金正男は嫌いだ。やってしまえ」と語ったと説明しました。

しかし、正男暗殺指令がスタンディング・オーダーだったとしても、北内部で、今回の殺害に関してどこまで合理的で綿密な議論がされたのか怪しいです。おそらく、関係者はとにかく正恩が恐ろしいから、ろくな検討もなしに、暗殺に走った可能性が大きいです。そ金正男氏をかついだ亡命政府樹立のうわさがありましたが、これについても北朝鮮が慎重に真偽を確かめなかった可能性が高いです。

北朝鮮には主な暗殺機関だけで、偵察総局、統一戦線部、国家安全保衛省の3部署があります。このうち、統一戦線部は部長が金養建氏から金英哲氏に替わったし、国家安全保衛省は最近、国務委員会直属の「部」から、他の政府機関と同等の「省」に格下げになったうえ、組織トップの金元弘氏が粛清の憂き目にあっています。

金元弘
今回の殺害には、これらのそれぞれが組織の生き残りをかけて金正恩への忠誠競争を繰り広げた可能性もあります。

結局、恐怖支配のなかで、ろくな準備もなく、子供だましのような犯行に及んだのが今回の金正男氏殺害事件だったのでしょう。

国情院によれば、正恩氏は自らの身の危険を案じ、夜もよく眠れず、酒におぼれて暴れることもたびたびだといいます。正男氏殺害事件から2日後、平壌で開かれた金総書記の生誕75周年を記念する報告大会に出席した正恩氏は終始、怒気を含んだ恐ろしい表情に終始していました。

金総書記の生誕75周年を記念する報告大会に出席した正恩氏
追い詰められた金正恩氏と、それに従わざるを得ない北朝鮮が起こした悲劇が今回の事件とするならば、万全のようにも見える金正恩体制がいつの日か、突然崩れることも十分ありうることでしょう。

しかし、それはあくまで金正恩体制の崩壊ということになるかもしれません。なぜなら、約20年前、食料供給体制が崩壊して餓死者が相次いだ時代でさえ、その支配体制は揺るがなかったからです。そもそも経済の不振が理由で国家が崩壊するというなら、アフリカの貧困国はとっくに崩壊して存在していないはずです。

「北朝鮮で軍事クーデターが起きて、金正恩政権が倒れるのでは」と予測する人もいるが、その可能性は低い。実は、北朝鮮軍には党に逆らわないための安全装置が付いているのです。

北朝鮮人民軍の組織図
それが「政治委員」による二元指揮制度、2つの命令系統の存在です。一般の軍の将校のほかに、党から派遣された政治委員が各部隊に配置され、軍の将校のみならず、政治委員が命令書にサインしない限り、部隊を動かせないシステムになっているのです(図参照)。

これは北朝鮮に限らず、旧ソ連や中国など革命で政権を奪取した国の軍隊にはよく見られるクーデター防止システムであり、北朝鮮では朝鮮戦争後に導入され、組織内で粛清を重ねるたびにその権力を増してきました。

たとえクーデターで金政権が倒れたとしても、新たな政権が北朝鮮に誕生するだけで、北朝鮮という国家そのものが消滅することはなかなかありえないかもしれません。

そもそも国家は、戦争以外のどんな状況で“崩壊”するのでしょうか。

経済と国家の安定性の関係については、研究者の間でも明確な答えは出ていません。「産業化で急速に経済発展した国では、政権が倒れやすい傾向があった」ということぐらいです。あくまでも「傾向」です。

過去には、目ぼしい産業がなかった国で工業化が進むと、労働人口が農村から都市周辺に大量に移動し、人々の教育水準も上がる。それによって従来の統治体制がうまく機能しなくなり、デモやクーデターが発生して政権の崩壊に至るというパターンが多くみられました。しかし、インドや中国を見れば、経済発展が政権崩壊に直結するわけではないことは明らかです。

「経済が発展すると民主化が進む」と主張する者もいますが、これとて現実には双方が比例関係にあるわけでは決してありません。シンガポールやカタール、UAE、クウェートなど1人当たりGDPが日本より高い国でも、政治制度は必ずしも民主的ではないし、10年以降の「アラブの春」による動乱で民主化したといえる国は、チュニジアのみです。

このように、経済発展の程度と国家の安定性の間には、さしたる因果関係が見当たらないのです。

いずれにせよ、利害関係が伴う運動家ならばいざ知らず、政治学の研究者の中で「北朝鮮という国家が近い将来、崩壊する」と真剣に考えている者は、そう多くはいません。日本としては当分の間、現体制が継続するという前提で対北朝鮮政策を考えなければなりません。

すると今、一番気になるのは、やはり北朝鮮の核兵器とミサイルの存在です。

北朝鮮の核開発は、03年に米朝関係が悪化し、米軍がイラクに侵攻した頃から加速し始めました。イラク戦争の帰結を目の当たりにし、米国が本気で侵攻してくる可能性を考えたことが、北朝鮮が核兵器開発に固執する要因の1つだと推測できます。

06年には核実験に成功したことが判明。その前後から、北朝鮮は核を手放すことを匂わす発言はほとんどしなくなりました。平和協定締結についても、核開発の放棄とリンクさせることは拒否し、「平和協定の締結が先、核の問題はその後」と主張しています。平和協定などなくとも、核兵器がある限り、米韓側からは攻めてくるまいと考えている節があります。

現在の北朝鮮にとって、核兵器とミサイルは自国の安全保障上、不可欠のものである。昨年1月の水爆実験後、韓国との南北共同の工業団地「開城工業地区」が封鎖されましたが、いかに厳しい経済制裁を科されても、北朝鮮がこれらを手放すことは、まず考えらません。国民の負担がいかに増えようとも、国家が消滅するよりはましだからです。

しかも北朝鮮には、アジアで最も良質といわれるウラン鉱脈が存在します。核開発に費用はかかりますが、今では外貨はそれほど必要としないでしょう。核実験はおよそ3年おきに行われています。

韓国と同様、北朝鮮もまた朝鮮半島全域を自国の領土と規定しています。北朝鮮側から見れば、韓国政府こそ消滅させるべき反乱者です。韓国も北朝鮮も互いに相手を国家として認めず、「いずれ叩き潰すべき獅子身中の虫」と捉えています。隣国どうしが対立し合う単純なイメージとは大きく異なります。

互いに相手を滅すべき存在と見なす両国の間には、常に戦争の危険性があります。南北どちらも「平和的統一」を唱えてはいるが、武力統一の可能性も排除していません。双方の違いは、「外国を交えず民族間で統一するのが正しい道筋」と主張する北朝鮮に対し、韓国側はできうる限り米国を巻き込もうとしていることです。

韓国と北朝鮮が開戦した場合、在韓米軍基地があるため、米国も戦争に巻き込まれる可能性が高いです。日本政府も支援を求められることになるかもしれません。この状況を北朝鮮側から見れば、日本も米国も韓国政府という傀儡政権を後押しする敵国です。そこで核兵器とミサイルの存在が問題になります。

16年1月の核実験が水爆によるものだったか否かについては疑問もありますが、否定する証拠もありません。北朝鮮が「水爆」と主張するのは、どちらかといえば自国民向けのプロパガンダと考えられますが、日米にとっては、仮にそれが原爆であったとしても、脅威であることに変わりはありません。

核兵器は威力が大きいため、精密に目標に誘導しなくとも、敵国の上空で爆発させるだけで、熱、風、放射線、電磁パルスによって、周辺に壊滅的な破壊をもたらします。ロケットで衛星を軌道に乗せる技術を持つ以上、北朝鮮の核兵器はすでに、日米に大きな被害をもたらす水準に達していると見なければなりません。

仮にミサイルに搭載した核爆弾が、40キロ以上の上空で爆発しても、周辺の電子機器は一切使用不能になり、付近を飛行中の航空機は全滅するともいわれます。地上でも信号機が動かなくなるなど大きな混乱が起きるでしょう。これを高高度電磁パルス攻撃といいます。

もちろん核兵器は最終兵器であって、北朝鮮もそう簡単には使わないでしょう。仮に米国に対して核兵器を使えば、核による報復を覚悟しなければなりません。しかし国家として滅亡寸前に追い込まれれば、使う可能性はあります。そうなると米国といえど、うかつには北朝鮮を攻撃できません。これが核兵器の抑止力です。

仮に米国が「自国を核攻撃される恐れがあるから、北朝鮮との戦争には介入できない」と考えたら、日米同盟は機能しなくなります。

そうした事態を防ぐためには、日本が北朝鮮のミサイルを迎撃する能力を備えたうえで、「北朝鮮から米国に向けたミサイルが発射されたら、日本政府は必ずその迎撃を命ずるだろう」と信じてもらうことが必要です。日本にとっては、当面米国からの信頼を確保し、日米同盟を確実に履行してもらうことが、自国の安全保障上、死活的な問題となります。

幸い、安倍政権による一連の安保関連法案の改正により、米国政府における日本の信頼度は高まっています。これらの改正は、対中国を考えても、中東のエネルギー安全保障を考えても、必須のものでした。むしろ、ここまで改正が遅れたことが自体が問題だと私は、思います。

そうして、敢えて批判を恐れずにいえば、拉致問題など本当に家族の方々には気の毒で、このようなことは言いたくはないのですが、拉致問題は日本が核武装をして、さらには日本が北朝鮮に対して拉致被害者救助のための部隊を送ることができるようになり、北朝鮮がそれに対してかなりの脅威を感じることでもなければ、なかなか解決できるものではないです。

このような本格的な議論が行われないことには、拉致被害者問題はなかなか解決しません。以下は、今日の北朝鮮の核武装を予言されていた、故中川一郎氏の講演会のGIF画像です。

故中川一郎氏による講演会での発言

日本では核武装の論議もしようせず、マスコミは以上で述べたような、深刻な問題があるにもかかわらず、そのようなことはそっちのけで、日々金正男氏殺害のニュースばかりながしています。

「ああかもしれない、こうかもしれない」程度のどうでも話を毎日流しています。しかし、そのような論議だけでは何も見えてきません。

やはり、北朝鮮の脅威と、拉致被害者問題解決のためにも、日本国内で核武装も含めたまともな議論と行動が必要です。

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