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2019年11月7日木曜日

最新鋭潜水艦「とうりゅう」進水 海自、ディーゼル推進で世界最大級―【私の論評】リチュウム乾電池搭載潜水艦で日本は「巡洋艦戦略」を実施し、中国海軍を大いに悩ませることになる(゚д゚)!


進水する海上自衛隊の最新鋭潜水艦「とうりゅう」=6日午後、神戸市中央区の川崎重工業神戸工場

海上自衛隊の最新鋭潜水艦の進水式が6日、川崎重工業神戸工場(神戸市中央区)で開かれ「とうりゅう」と名付けられた。12隻の配備が計画されている主力潜水艦「そうりゅう型」の12番艦となる。今後、装備の取り付けや試験航行を経て、2021年3月ごろの就役を予定している。

 海自によると、とうりゅうは基準排水量2950トン、全長84メートル、全幅9・1メートルで、ディーゼル潜水艦としては世界最大級となる。乗員数は約65人、水中での最大速力は約20ノット。建造費は約690億円で、配備先は未定としている。

 11番艦の「おうりゅう」に続きリチウムイオン電池を搭載し、従来型より潜行時間が延びた。

 とうりゅうの名前は、奇岩の間を加古川の激流が流れる兵庫県加東市の名勝「闘竜灘」に由来し、荒々しく戦う竜を意味するという。

 式典には防衛省や川崎重工業の関係者ら約380人が参加した。海自トップの山村浩海上幕僚長がロープを切ると、とうりゅうはドックから水上に勢いよく滑り出し、大きな拍手が上がった。

【私の論評】リチュウム乾電池搭載潜水艦で日本は「巡洋艦戦略」を実施し、中国海軍を大いに悩ませることになる(゚д゚)!

冒頭の記事では、「そうりゅう型」11番艦の「おうりゅう」からリチュウム電池を搭載したことが述べられていますが、本日はこのリチュウム電池搭載の意味や意義などを掲載します。

「そうりゅう型」へのリチウムイオンバッテリーの搭載は、当初は5番艦「ずいりゅう」(2011年進水)から予定されていたのですが、技術開発費不足などから、実現は7年後の11番艦まで待たなければなりませんでした。潜水艦という酷使に耐えなければならない機器に求められるリチウムイオンバッテリー技術の革新は、それだけハードルが高いものだったことが伺えます。

「おうりゅう」以降に搭載されたGSユアサ製バッテリーは画期的な安全性を実現したとされますが、スマートフォンなどの小型家電ですら最近もバッテリーの発火事故が報じられていることからも、全般的には今なお発展途上の技術であるとも言えるでしょう。

GSユアサ制バッテリー(潜水艦搭載型のものではありません)

イスラエルに本社がある軍事用バッテリーメーカー、Epsilorのマーケティング&販売部長のフェルクス・フライシュ氏は、「リチウムイオンバッテリーはあらゆるエレクトロニクス産業に大きな影響を与えているが、防衛産業も今、ドラマチックな変化の時を迎えている」と同社のブログ記事に書いています。

その理由の一つは、リチウムイオンバッテリーのコストが10年ほど前の5分の1程度まで下がっていることです。2022年には、さらに現状の半分まで下がるとみられます。また、安全性・信頼性を含む総合性能が上がり、大型の防衛機器での使用に耐えるものも出てきているのは、「おうりゅう」の登場で証明されたところです。

軍事用でも、無線機、衛星通信機器、熱探知カメラなどのポータブル機器、ECM・ESMなどの電子戦装置などでは、既に10年ほど前からリチウムイオンバッテリーが使われています。フライシュ氏は、一昨年8月の時点で、今後5年間で軍用車両、船舶、シェルター、航空機、ミサイルなどの「酷使に耐えなければならない機材」にも、リチウムイオンバッテリーの使用は広がると予測しています。

フライシュ氏によれば、
現代の戦争は大国同士の軍隊がぶつかり合うものではなく、民間人に紛れた武装勢力やゲリラとの戦闘がほとんどだ。そうしたケースでは、正規軍の方にも隠密行動が求められる。例えば、各国の陸軍を代表する兵器と言えば主力戦車や装輪装甲車だが、これらにも今は潜水艦のような静粛性が求められている。そのため、各国の軍隊で高性能バッテリーの需要が高まっているという。 
特に高性能バッテリーとの関連性が挙げられるのが、 「サイレント・ウォッチ」という夜間監視・偵察活動だ。敵に気づかれないように夜間の警戒任務に当たる戦車や装甲車はエンジンを止め、バッテリーのみで監視装置や武器を使用できるようにしなければならない。鉛蓄電池を8個から10個搭載する現行車両が「サイレント・ウォッチ」任務につけるのはせいぜい4、5時間。例えば中東の夜は10時間から14時間続くが、同等のリチウムイオンバッテリーに置き換えれば12時間程度監視任務を持続できるとされる。つまり、ほぼ夜通しの任務遂行が可能となる。 
現在、アメリカやイスラエルの軍産複合体が「サイレント・ウォッチ」を見据えたリチウムイオンバッテリーを開発中だという。また、デンマーク陸軍は既にリン酸鉄リチウムイオン(LiFePO4)バッテリー搭載型のピラーニャV装輪式兵員輸送車を発注済。イタリア軍が採用しているフレッチャ歩兵戦車、チェンタウロ戦闘偵察車も、次期タイプではリチウムイオンバッテリーを搭載するとみられる。さらに、イスラエルのエイタン装輪装甲車もハイブリッドになると見られ、インド軍も10年以内に2,600両以上のリチウムイオンバッテリーを搭載した歩兵戦闘車を配備しようとしているという。
海自はこのリチウム潜水艦で何をしようとしているのでしょうか。それは、南シナ海でのゲール・デ・クルース(guerre de course)です。旧軍では「巡洋艦戦略」と訳された海軍戦略です。

リチウム化による性能向上、具体的には長距離展開能力、戦域内移動力、接敵能力の強化はそれへの指向を示している。またAIP撤去も従来の待ち伏せ主要からゲリラ戦への変化を示唆しています。

リチウム電池化で得られる諸能力である、長距離展開の実現、戦域内移動力の向上、接敵機会増大により、はじめて海自がゲール・デ・クルース(guerre de course)を可能にしたともいえます。

リチウム化により。海自潜水艦は倍以上も遠くまで進出できます。南シナ海展開は今よりも容易となりました。あるいはマラッカ西口展開も実現性を帯びます。

今日、在来潜水艦も基本的には潜水状態で移動します。水中移動して、ディーゼルで充電を繰り返します。ところが、鉛電池型では最大でも4kt(7km/h)、100時間、400nm(740km)程度だ(ロシア制潜水艦を参照)す。それで電池切れになります。そして充電を完了するまで10時間位はかかります。実際は放電量1/3~1/4で小充電をするのでしょう。ただ能力はその程度です。

それがリチウム化により2-4倍となるのです。電力容量8倍はそれを可能とします。速力2倍で消費電力を4倍としてもなお2倍の時間移動できるのです。8ktで最大200時間、1600nmを移動できるのです。

しかも充電時間は従来のままです。リチウム化で充電速度も約8倍程度に上がります。充電電流量は5倍となり電力量から貯蔵量への変換効率も1.5倍となります。つまり7.5倍です。8倍容量の電池でもほぼ同じ時間で充電できます。

これはゲール・デ・クルースに有利です。より遠方まで進出して潜水艦により脅威を与えられることになります。計算上、鉛電池では呉―バシー間は2週間程度を要します。それがリチウムでは6日半となる。さらには呉から10日で南沙諸島まで展開可能となるのです。

また戦域内移動力も向上します。1隻の潜水艦で南シナ海全体に脅威を与えられます。たとえば台湾海峡で中国艦船を攻撃し、4日間で南沙諸島に移動して再び中国艦船を攻撃し、また3日間で海南島に移動して3たび中国艦船を攻撃するというような行動が可能となります。

その効果は大きいです。中国は南シナ海全体での対潜戦を強要されることになります。たとえば、3海面に対潜部隊を展開するのです。「日本潜水艦はもういない」と判断できるまではそうするのです。

これは中国の対潜努力の強要に向くことになります。「潜水艦は乗員数で400~600倍の敵海軍を拘束する」ともいわれます。乗員65人の海自潜水艦1隻は1海面で中国海軍を3万人づつを拘束する計算となります。3海面並行しての対潜戦なら拘束規模は合計9万人にも及ぶでしょう。


さらに、接敵機会拡大があります。これもリチウム電池による充電高速化の成果です。中国艦船を攻撃可能な位置に収めるチャンスが増えるのです。これもゲール・デ・クルースに資することになります。

短期間で潜水艦脅威を顕在化できるからです。また移動先海面で短期に成果をあげ、すぐに別海面に転進できます。従来の鉛電池潜水艦は低速です。電池容量から接敵速力は上限で8ktでした。戦時には20ktを出す軍艦や平時から15kt付近で航行する商船よりも遅いのです。

そのため接敵・攻撃のチャンスは少なくなります。8ktの潜水艦は20ktで走る軍艦の針路前方47°の範囲にいない限り接敵できません。それがリチウム化で大幅改善します。水中速力12ktあるいはそれ以上も差し支えないのです。それにより攻撃圏は20ktの軍艦の前方74°以上に広がるのです。

リチウム化はゲール・デ・クルースを容易にするということです。そして海自はAIPエンジンを捨てました。水中潜航状態で1週間2週間を待機できる特殊エンジンを廃止したのです。

これは何を意味するのでしょうか。潜水艦運用体制の変化です。冷戦期の待ち伏せから対中対峙におけるゲール・デ・クルースにシフトしたのです。従来は待ち伏せに主軸がおかれていました。

敵軍港前面や重要海峡で待機する。そこを通過する敵潜水艦を攻撃する運用です。そのためAIPエンジンも採用されたのです。その軸足はゲール・デ・クルースに移りつつあります。海自潜水艦の動向、なによりもリチウム化とAIP撤去はそれを示唆しているのです。

進水した「とうりゅう」写真と仮付の艦名プレートの拡大写真

海自はこれにより中国海軍力の分散を目論んでいるようです。潜水艦を広範囲に行動させるのです。南シナ海あるいはマラッカ西方まで展開させるのです。それにより中国に広範囲での潜水艦対応を強要します。また中国に南シナ海防衛を強要し、対日正面戦力の転用・減少を狙う腹積もりなのでしょう。

リチュウム乾電池搭載の潜水艦は、「とうりゅう」でまだ二隻目ですが、これがこれが少なくとも5隻くらいになれば、日本はゲール・デ・クルース(guerre de course)を実施し、中国海軍を大いに悩ませることになるでしょう。

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