高橋洋一 日本の解き方
緊急利下げについて記者会見するFRBのパウエル議長=3日、ワシント |
米連邦準備制度理事会(FRB)は3日、金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)を定例会合の17、18日を待たずに緊急開催し、政策金利0・5%の引き下げを行った。
しかし、3日の株式市場は反応せず、ダウ工業株30種平均は785ドル安だった。それほど、新型コロナウイルス・ショックは米国人に脅威なのだろう。
米市場では、今後30日間の株式市場の予想変動範囲を算出し、恐怖指数と呼んでいる。過去にはリーマン・ショック時に90近くまで上昇し、米中枢同時テロやアジア経済危機、ギリシャ危機などの際には50近くまで上昇した。
今回の新型コロナウイルス騒ぎでも、2月末に50近くまで上昇した。この意味で、リーマン・ショックほどではないが、これまでの大きな経済危機並みに、米国の投資家を恐怖に陥れているといえるだろう。
トランプ大統領は、コロナウイルスを過度に心配している。11月に大統領選を控え、対応に不手際があると再選が危うくなるからだ。国民の生命に関わる話なので、こうした危機管理に政治家はより細心の注意を払うのだ。
FRBもそうした政治家の機微に触れる話で躊躇(ちゅうちょ)はなく、今回の緊急利下げを行った。さらなる利下げもあり得る状況だ。
これが日本に与える影響は、為替だ。今回のFRBの利下げは、日銀が金融政策を変更しなければ円高要因になる。
本コラムでは、為替決定理論を繰り返し説明してきた。大ざっぱにいえば、円相場は長期的には日米のマネタリーベース(中央銀行が供給するお金)の比率でだいたい説明できるということだ。もちろん、この動きを中期的には日米の実質金利差を使って説明することもできるが、これはともに矛盾しないばかりか、理論的には同じことの言い換えである。
この理論は、為替の動きをかなりうまく説明できる。日銀は白川方明(まさあき)総裁時代、リーマン・ショックの際に金融政策を変更しなかったが、FRBは量的緩和を行った結果、円高になった。2013年に黒田東彦(はるひこ)総裁になってから、「黒田バズーカ」と呼ばれる量的緩和を行ったので、円安になった。
しかし、16年9月から黒田日銀は量的緩和からイールドカーブコントロール(長短金利操作)に移行し事実上、金融緩和をやめた。一方、FRBも出口戦略で金融緩和から脱しつつある。このため為替相場は安定してきた。
しかし、今後FRBが再び金融緩和基調になるのであれば、日銀も為替を動かさないように、金融緩和して同一歩調を取らなければならない。
もちろん、日本は名目金利はゼロまたはマイナス金利なので、実質金利を下げるように、日銀は再度量的緩和を行う必要がある。
ここで日銀が名目金利に言及し、「金融緩和の余地がない」という言い訳をしたら、失望だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】緩和に踏み切らなければ、日本は雇用が悪化、韓国は奈落の底に落ちこの世の生き地獄状態に(゚д゚)!
このブログでは、円相場というか為替についても何度か掲載してきました。簡単に言ってしまうと、米国が金融緩和をして、市場に出回るドルが増えたにもかかわらず、日銀が金融緩和をしなければ、相対的に円高になります。日銀も金融緩和をすれば、相対的にドルと円の価値は変わりなくなるので、円高にはなりません。
このブログでは、円相場というか為替についても何度か掲載してきました。簡単に言ってしまうと、米国が金融緩和をして、市場に出回るドルが増えたにもかかわらず、日銀が金融緩和をしなければ、相対的に円高になります。日銀も金融緩和をすれば、相対的にドルと円の価値は変わりなくなるので、円高にはなりません。
円高になるのは、相対的にドルが多くなり、円が少なくなるからです。物の値段も、相対的に物が多くなれば、安くなり、少なくなれば、高くなります。通貨も同じことです。これは、常識を働かせれば、小学生でもわかる理屈です。
しかし、驚いたことに、金融機関の人でもこのような簡単なことがわからない金融アナリストなるが人が日本には、大勢います。円相場に関して、そのような人は、日米の金融政策のことなどおかまいなしに、様々な世界情勢の変化、しかも数ヶ月単位のことしかいわず、もっともらしいことをしたり顔で言うのですが、まるで意味をなしません。情けない限りです。それどころか、日銀の官僚も理解していない人が多いのではないでしょうか。
そうでなければ、日銀が白川方明(まさあき)総裁時代、リーマン・ショックの際にFRBなどはじめ、世界中の中央銀行が、量的緩和を行ったにもかかわらず、金融政策を変更しなかったことの説明がつきません。理解してやっているとしたら、どこかの外国の回し者であったのかもしれません。
中央銀行の資産は金融緩和の度合いに比例する、リーマン・ショック後日銀は緩和しなかったことがわかる |
それどころか、日本では金融政策=雇用政策であるということも、一般社会人の常識になっていないようです。そのためでしょうか、枝野氏など金融緩和などはせずに、再配分をすべきということを語っています。これでは、金融緩和せずに最低賃金だけをあげた韓国の文政権のように、雇用を劇的に悪くするだけです。
今回のように、FRBが利下げしても、日銀が何もしなければ、景気が悪化するだけではなく、雇用も悪くなります。それに現状では、物価目標すら達成できていません。日銀は、従来の異次元の金融緩和に戻すべきなのです。
ここは、武漢肺炎がどうのこうのということとは、別にして、とにかくFBRが利下げするというのですから、ゼロ、もしくはマイナス金利の日本としては、量的緩和をするしかないのです。
そうしないと、日本は確実に、円高・デフレにまい戻ることになります。平成年間のほとんどを日銀は、金融引締政策を取り続け、日本をデフレ・超円高の状況に陥れてしまいました。せめて、令和年間には、まともな金融政策で日本を少なくとも、デフレ・円高状況に陥れないようにしていただきたいです。
金融に関しては、この状況ですが、財政に関しては本日は以下のようなニュースが舞い込んできています。
麻生太郎財務相は10日の参院財務金融委員会で、新型コロナウイルス感染拡大で国内の景気が悪化していることに関し「景気対策としての減税は1つの案だ。反対するつもりはない」と述べ、景気対策の一環で、今後何らかの減税に踏み切ることに含みを残しました。
質問した日本維新の会の音喜多駿議員は、昨年10月に消費税率が10%になって以降「日本の景気は悪化局面に入っている」と指摘し、消費税の減税を求めましたが、麻生氏は「消費税(減税)の話をしたのではない」と、くぎをさしました。
新型コロナウイルス対策で米国などが緊急経済対策に着手する中、日本も同様の措置を取るよう求められた麻生氏は「他国のように急にやるのとは違う。我々は細かくやっている」と理解を求めまし。音喜多氏は「リーマン・ショックかそれ以上になるかもしれない、国家の一大事だ」として、早急な対応を求めました。
麻生財務大臣は、消費税については釘をさした形ですが、それでも減税に反対するつもりはないとしています。武漢肺炎であろうが、増税のせいであろうが、景気が悪くなれば、減税の一つの方法であり、これを実行すれば、景気対策になります。その意味で期待できます。
しかも、以前このブログで述べたように8%に減税することは、軽減税率を全品対象にするということですぐに実現できます。8%未満にするには、法律を改定するか、新たに作成する必要があり、ある程度の時間がかかりますが、これも必要とあれば、時間が多少かかっても実行していただきたいものです。
もし、財務省が減税に踏み込めば、日本の景気を悪くしているのは、日銀だけということになります。日銀は、リーマン・ショック時の過ちを二度と繰り返すべきではありません。
さて、FRBの利下げに、日本以外の国々はどう対処するのでしょうか。おそらく大部分の国は、利下げができるところは利下げをし、ゼロ金利に近い国は量的緩和に踏み切るでしょう。
日本は、今のところどうなるかは、わかりませんが、FRBが利下げをしても、絶対に金融緩和しない国が一つあります。それは、韓国です。
韓国は、なぜかひところの日本のように、不正行為撲滅のような構造改革にばかり着目し、なぜか金融緩和、特に量的緩和はしません。ここ数年は、金融緩和せずに、最低賃金を下げるという愚行をしてしまい、雇用が激減するという致命的な大失敗をしでかしました。
韓国は、まもなく奈落の底に落ちこの世の生き地獄状態に。映画『パラサイト』より |
おそらく、韓国は今回FRBが利下げをしても、金融緩和策はとらないでしょう。何らかの財政措置はとるものの、金融緩和をせず、雇用は確実に悪化するでしょう。そうなると、どうなるかといえば、現在ですら雇用がかなり悪化しているのに、雇用がさらに悪化して、しかも武漢肺炎がかなり蔓延しているので、とてつもないことになり、奈落の底に落ち、この世の生き地獄状態になるでしょう。
日本の場合は、現状でも控えめながらも緩和策を続けているので、韓国のように酷いことにはならないでしょうが、それにしても、量的緩和を拡大しないと、雇用がかなり悪化するのは必定です。