政府は「日本再生戦略」の原案を公表した。それは2020年までに環境や医療、観光など11の戦略分野で38の重点施策を掲げ、630万人の雇用を創るという政府の目玉の成長戦略だ。7月末までの閣議決定を目指しているという。
11分野を具体的にいえば、グリーン成長戦略、ライフ成長戦略、科学技術イノベーション・情報通信戦略、中小企業戦略、金融戦略、食農再生戦略、観光立国戦略、アジア太平洋経済戦略、生活・雇用戦略、人材育成戦略、国土・地域活力戦略。これはほぼ全省庁の守備範囲だ。
これだけ広範囲になると、「戦略」という名前がすたってしまう。戦略とは選択と集中が伴うものだが、政府のものは総花的で戦略の名に値しない。まるで、各省庁が予算獲得のために「一丁目一番地」(各省庁の優先政策事項)を束ねたものに見える。
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個別では一見もっともらしいことが、全体を見ると奇妙なことは雇用創出にもある。
人口減少の日本では雇用者数があまり増えない。となると、630万人の新規雇用を創出すると、別の産業で雇用者の減少になるだろう。630万人の雇用が創出されるということは、600万人くらいの雇用喪失が別の産業でありうるということになる。それはどのような産業なのか。政府原案では示されていない。そんな産業はわかるはずがない。
成長する産業としない産業が政府でわかるなら旧共産圏の計画経済は失敗しないはずだ。もし本当に政府が分かるなら苦労はない。
ちなみに、グリーン成長戦略は、50兆円市場で新規雇用140万人。労働分配率が6割として、新規雇用者の平均年収は2100万円になる。どうして「日本再生戦略」を書いた官僚が役所をやめて、そこに就職しないのだろうか。書いた本人はそのいい加減さを知っているからだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】今の政府や政治家は、自分の頭の上のハエを追えない人が、他人の世話を焼いているようなもの、自分がやるべきことに専念せよ!!
上の記事で、高橋洋一氏は、「成長する産業としない産業が政府でわかるなら旧共産圏の計画経済は失敗しないはずだ。もし本当に政府が分かるなら苦労はない」と語っていますが、まったくその通りと思います。成長する産業は、政府はおろか、優秀な民間企業でさえ、見抜けないことがあります。たとえば、あの世界を携帯電話で、席巻したNOKIAです。
ノキアが、実はスマホをアップルに先駆けて、開発していたことをWSJが伝えています。詳細は、WSJをご覧いただくものとして、以下にその記事の一部を掲載します。
スマホ戦略を誤ったノキア 膨らむ開発費、ユーザー動向つかめず
ノキアの開発チームは、アップルがスマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」を発売する7年以上前に、ボタンが1つだけ付いたカラータッチスクリーン搭載の携帯電話を披露していた。端末を使ってレストランを探したり、レーシングゲームをしたり、口紅を注文するデモが行われた。1990年代後半にノキアがひそかに開発していたもう1つの魅力的な製品がタブレット端末だ。無線接続可能で、タッチスクリーンが搭載されていた。それら機能は全て大ヒットしているアップルのタブレット端末「iPad(アイパッド)」に今日搭載されているものだ。民間企業ですら、このような失敗をすることがあるわけですから、政府が成長する産業を見極めることなどほとんど不可能です。特に自由主義経済下では、そのようなことは誰もわからないというのが事実です。いろいろなタイプの企業が種々様々な工夫をして、その結果いずれかの事業がその時々の市場に適合うして、それが産業として伸びて行くというのが普通です。
「なんてこった」。ヌーボー氏は古いスライドを次々クリックしながら声を上げ、「われわれは完璧に仕上げていたのに」と語った。
ノキアの元デザイン責任者、フランク・ヌーボー氏は、アイフォーンを予期させるような試作品をノキアは既に開発していたと話す
いずれの製品も消費者の目に触れることはなかった。これらはノキアの企業文化の犠牲となった機器だ。研究にばかり多額の費用をつぎ込み、開発した画期的な製品を市場に投入するチャンスを無駄にしてきたのだ。
ノキアは1990年代にワイヤレス革命を主導し、世界をスマートフォン時代へといざなうことを目指した。そのスマートフォン時代が到来した今、ノキアは株価が落ち込み、数千人の従業員が職を失う事態に陥るなか、競争力ある製品の発売に向けて必死に取り組んでいる。
スマホは、アップルがiPhoneで、現在の原型をつくりあげ、それを市場に投入しました。これが、たまたま、市場に適合していたため、それが、大ヒットして、今日につながっています。そうして、今では、iPhoneだけではなく、Android携帯なども様々の種類のものが、開発され、一大産業となっています。しかし、その影て、ノキアに限らず、ブルーベーリーその他、失敗しているところたくさんあります。それに、私としては、これら携帯電話に限らず、いまでは完璧に姿を消したPDSだって、電話機能さえつければ、現在のスマホと変わりないものがいくつもありました。
スマホの例でもわかるように、どの産業でも、いくつもの会社が、いくつもの新しい次世代のものを開発しており、そのうちの本の数社、場合によっては、1社だけが、次世代の産業を担って、大きく発展していのです。今日確かにアップルは大成功を収めましたが、何かがどこかで違っていれば、アップルがノキアのような目にあっていたかもしれないのです。
そんな自由主義経済下の競争において、政府が発展する産業を見抜けるわけはありません。政府はもともと、そのようなことをする機関ではありません。城山三郎氏の小説「官僚たちの夏」では、あたかも、通産省が日本の産業を主導してきたような扱いですが、あれは、幻想にすぎません。現実には、通産省主導で行ったことは、何一つ成功していません。大成功したのは、先送り戦術だけです。
それに、本来自由主義経済下の政府の役割は、こんなことをすることではありません。政府の役割は、新産業などが生まれやすいように、経済活動が活発になるように、法律を整えるだとか、規制を撤廃するとか、逆に規制を強化するとか、さらに、公共工事をするとか、安全保証などをして、いわゆるインフラ(基盤)を整えることです。このインフラづくりが政府の本命の仕事です。このインフラ上で活動して、成果をあげるのが、民間企業営利企業、非営利企業、その他の組織ということです。間違っても、政府が、インフラの上にのっかって、様々な事業を展開するようなことがあってはなりません。
女性ソ連兵 |
旧ソ連邦の雰囲気を出した携帯電話ショップ |
旧ソ連邦の版図 |
社会主義など魅力的に見え るが過去のものに過ぎない |
計画経済なので、顧客ニーズやウォンツなどとは全く関係なく、政府による来年はいくつ必要になるであろうという予測のもと、それに従って生産して、市場に投入していただけだったのです。競争も何もないため、結局30年にわたって、モデルチェンジも行われなかったのだと思います。
政府がインフラづくりだけでなく、実際に産業活動をしても、できるのは、このようなことだけです。ソ連邦の計画経済ほどは規模は大きくありませんが、政府が、重点施策を実行して、投資をするのも、結局は社会主義国政策と同じようなものであり、結局失敗します。
自由主義経済下の日本政府は、日本再生のための、インフラ整備をすべきです。このインフラ整備の中には、当然のことながら、デフレ対策も含まれるべきです。これなしに、日本再生など考えられません。デフレ対策のためには、まずは、景気を良くしなければなりません。そのために、真っ先に政府がやるべきは、大規模な、財政出動と、金融緩和です。このなこともせずに、やみくもに増税しようとしたり、「日本再生戦略」をぶちあげるなど、とんでもありません。
何やら今の政府や政治家、自分の頭の上のハエも追えない人がやる必要もない他人の世話を焼いているようなものです。そんなことをしないで、本来自分たちがやるべき仕事に専念しろと言いたいです。そうして、何が自分たちの本当の仕事なのか、よくわかっていないのが、腐れ官僚たちなのだと思います。そう思うのは私だけでしょうか?
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