米国の朝鮮半島専門家が明かす北朝鮮の悪魔の交渉術
北朝鮮の国旗 |
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が4月20日、核兵器や長距離ミサイルの実験中止を宣言した。日本や米国を含む国際社会の大方は、北朝鮮の核兵器破棄、つまり非核化が前進するとして、この宣言を歓迎している。
しかし、現実はまったく違うと強調したい。北朝鮮の声明をざっと読むだけでも、実は核武装の完成の宣言であることがすぐに分かる。「核の兵器化」が完了したから、核実験は中止すると述べているのだ。非核化とは正反対の宣言なのである。
北朝鮮のこうした言動と国際社会の反応をみると、これまでの北朝鮮の欺瞞の交渉術の巧みさが想起される。1990年代以来、ワシントンで北朝鮮の核武装と米国の反応を取材し報道してきた私にとっては、不吉な予感さえ覚えさせられるのだ。
宣言の中身は「核の兵器化の完結」
北朝鮮の今回の核実験中止宣言は、核兵器の放棄にはなにも触れていない。非核についてはまったく言及していないのだ。
金正恩委員長の報告は、冒頭に近い部分で以下のように述べていた。
「核戦力の建設を5年に満たない短期間に達成した勝利は、並進路線の偉大な勝利である。(中略) 経済と核建設を並進させる路線が示した課題が貫徹された。
核開発の全工程が、科学的に、順次行われたし、運搬攻撃手段の開発も科学的に行われ、核の兵器化の完結が検証された」
また、同時に発表された北朝鮮労働党中央委員会総会の決定書要旨には、次の記述があった。
「並進路線の過程で核実験や運搬手段(弾道ミサイル)開発の事業を順次行い、核の兵器化を実現したことを厳粛に宣言する」
要するに、北朝鮮は「核の兵器化の完結」を宣言したのである。だからもう核の実験も長距離弾道ミサイルの実験も必要がないということなのだ。これは非核化とは正反対の宣言である。米国が期待する北朝鮮の核兵器の「完全で検証可能で不可逆的な破棄」とはまったく逆なのだ。
北朝鮮の核問題に関する表明や誓約が虚構であり、欺瞞だった実例はこれまでにもあった。1994年の米朝核枠組み合意では、核放棄をはっきり約束しながら密かにウラニウムでの核爆弾製造を続けていた。また、2005年には6カ国協議で「すべての核兵器と核計画を放棄する」ことを公約しながら、その直後に北朝鮮当局は「軽水炉の提供がなければ、核放棄は論じられない」という逆転の声明を発している。
繰り返される「悪魔のサイクル」
こうした北朝鮮の過去の言動パターンを踏まえて今回の展開を見ていると、以下のような論評を思い出した。
「北朝鮮は得たいものを得るために、協定や条約を結ぶことではなく、そのための前段階の交渉プロセスから利益を引き出す」
この言葉は、米国政府を代表して北朝鮮との裏交渉に長年かかわったチャック・ダウンズ氏の2005年のコメントである。前記の6カ国協議での北朝鮮の誓約破りを考察して発せられた論評だった。
チャック・ダウンズ氏 |
ダウンズ氏は国防総省などの政府機関での活動のほか、民間の「北朝鮮人権委員会」のトップも務めた朝鮮半島情勢の専門家である。私がダウンズ氏のこの言葉を想起したのは、今の状況がこの「前段階の交渉プロセス」に合致するからだ。
周知のように金正恩委員長はまもなく韓国の大統領との南北会談と、米国大統領との米朝会談に臨む姿勢をみせている。その両首脳会談に備えての水面下の「前段階の交渉プロセス」が、まさに今なのだ。
ダウンズ氏は1990年代末に『北朝鮮の交渉術』という本を出している。そのなかで北朝鮮の対外交渉術として、相手に「楽観」「幻滅」「失望」という心理状態を順番に抱かせる「悪魔のサイクル」という特徴を指摘していた。
悪魔のサイクルについて同氏は次のように説明する。
「北朝鮮は自国の政策の基本が変化したように振る舞い、相手国に有利となりそうな寛容な態度を示唆する。相手が楽観へと転じ前に出てくると、自国が欲する制裁解除や経済援助を取りつける。だが、その後に態度を急変させ、相手を幻滅させる。北朝鮮はさらに交渉の事実上の打ち切りまでに至り、相手を失望させる。相手は最悪の状態のなかで、やがてまた北朝鮮の軟化を期待し、楽観への道を歩むことになる」
簡単にいえば、相手を揺さぶって、騙し、取りたいものだけを取るという、したたかな交渉術だというのだった。
ダウンズ氏がこうした考察を私に語ってからすでに十余年経ったが、また同じ歴史が繰り返されようとしているということだ。北朝鮮への楽観が生まれつつある今の日本でも、さらには米国でも念頭に入れておくべき分析だろう。
【私の論評】北朝鮮だけでなく米国も時間稼ぎをしてきたという現実を見逃すな(゚д゚)!
ブログ冒頭の記事で、古森氏が主張する"宣言の中身は「核の兵器化の完結」"という読みは全く正しいと思います。
これに関しては、この記事でも同じ読みを掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
北朝鮮が核実験場を廃棄、ICBM発射中止 党中央委総会で決定―【私の論評】米朝首脳会談は決裂するか、最初から開催されない可能性が高まった(゚д゚)!
20日、平壌で開かれた朝鮮労働党の中央委員会総会で挙手する金正恩党委員長 |
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では朝鮮労働党の中央委員会総会での核に関する決定を以下のように解釈しました。
① 核の兵器化が完結した現在、検証はすでに終了している。当面は、もう実験の必要はない。
② 従って発射実験は不要。核実験場も閉鎖する。もう、核兵器は実戦配備ずみなので、当面実験の必要もなく、発射実験は不要であり、核実験場の閉鎖するということです。
金正恩の発言は、このようにしか受取りようがありません。日本や米国を含む国際社会の大方は、北朝鮮の核兵器破棄、つまり非核化が前進するとして、この宣言を歓迎しているというのは大きな間違いです。
どうしてこのようなことになるかといえば、もうすでに、日米特に日米の世論は北朝鮮の悪魔のサイクルに取り込まれつつあるからでしょう。
私の感触では、これでさらに米朝首脳会談は決裂するか、そもそも最初から開催されない可能性が高まったと思います。それに続く日朝会談も同じ運命をたどるかもしれません。トランプ政権は当然のことながら、過去に何度もだまされてきたのですから、いわゆる悪魔のサイクルについても気づいているでしょう。
だまされたふりをして、北朝鮮の様子を探っているというのが、事実でしょう。米国は北朝鮮がリビア方式の核廃棄に応じない限り、制裁をさらに強化するか、軍事攻撃も辞さない構えです。
リビア方式で北朝鮮が、核を廃棄することを確約し、実際にそれを実行しているところを何らかの方式で直接監視出来ない限り、米国は一切妥協しないでしょう。それに対して、金正恩は核を廃棄するつもりは全くありません。だから、悪魔のサイクルをまわして、米国を籠絡しようとするでしょう。
しかし、トランプ政権はその籠絡には乗らず、核放棄を米国の監視下で行う以外には、核放棄をしたとはみなさないと宣言することでしょう。
これは、もう水と油です。どこかで決裂するのは目にみえています。米国は制裁強化を続け、北朝鮮の体制を崩壊に導くか、それで崩壊しなければ、まずは爆撃等により核関連施設を破壊することになるでしょう。
北朝鮮は、自分たちが時間稼ぎをしているつもりでいるかもしれませんが、同時に米国も時間稼ぎをしているということを忘れているかもしれません。
米国の時間稼ぎとは何かといえば、戦争に突入するための準備のための時間稼ぎです。
いま、米海軍全体の6割の艦船が西太平洋に展開しています。
アメリカのマティス国防長官は、「ソウルや東京に被害が発生しない、民間人が犠牲にならない作戦計画はある」と断言していました。実際、米国はそのような戦争を実行するでしょう。
現在の戦争は最先端の電子攪乱戦です。サージカル・アタック(外科手術的攻撃)といいますが、外科手術の前に麻酔を打つように、北朝鮮の通信網、コンピュータ・ネットワーク、そして電力施設を麻痺させてから空爆に踏み切ることになるでしょう。
北に、反撃の余力はありません。まずは、通常の先進国にみられる、防空体制というものが北朝鮮にはありません。迎撃機も旧式です。米国の空爆、ミサイル攻撃に対して北朝鮮はなすすべがないでしょう。
北に、反撃の余力はありません。まずは、通常の先進国にみられる、防空体制というものが北朝鮮にはありません。迎撃機も旧式です。米国の空爆、ミサイル攻撃に対して北朝鮮はなすすべがないでしょう。
米軍は最初から最大のサルボー・ファイヤー(一斉爆撃)をかけることになるでしょう。2000発以上のトマホーク巡航ミサイルで核関連施設をはじめ、700カ所以上のターゲットをピンポイント攻撃することになるでしょう。
標的情報は偵察衛星、U-2偵察機、最先端の無人偵察機グローバルホークで24時間監視しています。さらにエシュロン(通信傍受システム)で北朝鮮の有線・無線の通信を傍聴して暗号解読までしています。まさに、この体制を築くために米国は時間稼ぎをしていたのです。これによって、米国のサージカル・アタックが可能になるのです。
標的情報は偵察衛星、U-2偵察機、最先端の無人偵察機グローバルホークで24時間監視しています。さらにエシュロン(通信傍受システム)で北朝鮮の有線・無線の通信を傍聴して暗号解読までしています。まさに、この体制を築くために米国は時間稼ぎをしていたのです。これによって、米国のサージカル・アタックが可能になるのです。
ポンペオ氏 |
ポンペオ氏は、もし北朝鮮が米本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に成功したとすれば、「次なる必然的な段階」は、北朝鮮がICBMを量産して「複数発を米本土に同時に発射できる能力を確保することだ」と指摘しました。
また、北朝鮮によるミサイル開発の進展状況について、「ほんの数カ月先」に米本土を攻撃可能になるとの認識を示しました。その上で「私たちは、今から1年後も『北朝鮮が米本土攻撃能力を確保するのは数カ月先だ』と言うことができるように取り組むことだ」と述べ、外交や制裁圧力などを通じて北朝鮮にさらなる核実験やミサイル発射に踏み切らせないようにする方針を示唆しました。
同氏はさらに、米情報機関による北朝鮮関連の情報収集能力がこの1年間で大幅に向上していると強調しました。
この発言からもわかるように、米国も過去1年間時間稼ぎをしていたのです。だからこそ、過去においては空母打撃群を3つ同時に朝鮮半島沖に派遣したりして、圧力をかけたのですが、軍事攻撃にはいたらなかったのです。
この時間稼ぎをせずに、すぐに軍事攻撃をしていたら、大きな戦争になりそれこそ韓国や日本にも大きな被害がでるとともに、北の軍事力が温存され泥沼化していたかもしれません。それを防ぐために、時間稼ぎをしてきたのです。
この時間稼ぎによって得られた情報そのものや、情報収集能力は一般人の想像をはるかに超えたものになっていると思います。核関連施設の位置はもとより、通信施設の場所や、インフラ関連情報、武器や人員の配置などを含め、ありとあらゆる情報が蓄積されるだけでなく、日々更新されていることでしょう。
今の米国は、北朝鮮をサイバー攻撃によって、北朝鮮社会を機能不全に陥れることも可能だと思います。機能不全に陥ったところをピンポイントで攻撃して、核関連施設のすべてを破壊することも可能です。
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