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2020年6月4日木曜日

「種苗法改正」はなぜ必要なのか 改正案の中身は農家の知的財産保護に主眼 「外資に支配される」も杞憂 ー【私の論評】TPP芸人に変わって、種苗法芸人たちが出てくるか(゚д゚)!

「種苗法改正」はなぜ必要なのか 改正案の中身は農家の知的財産保護に主眼 「外資に支配される」も杞憂

高橋洋一 日本の解き

平昌冬季五輪で、カーリング女子日本代表の選手が休憩時間に食べて話題になったイチゴ

種苗法改正案について、ネットを中心に「海外への不正な流出を防ぐ」として賛成する意見と、「農家が苦しくなる」などと反対する声で二分されている。改正案は、今国会での成立が見送られるとの観測もある。

 著名人がSNSで取り上げたという経緯もある種苗法の改正案だが、農林水産省のサイトはなかなか丁寧に解説していた。江藤拓農水相の記者会見(2020年5月19日)も掲載されており、そこにある法案概要などの方も分かりやすい。

 なお、筆者は政治関係などでよく分からないものについてツイートすることを非難するつもりはないことをあらかじめ断っておく。どのようなものであれ、興味を持って発言するのはいいことだ。

 農水相の話でも言及されていたが、今回の改正法のきっかけになった一つの事件は、2018年の韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪で、カーリング女子日本代表の選手が休憩時間に食べて話題になったイチゴが、日本から流出した品種を元に韓国内で交配されたものだったという事実だ。このほかにも、高級ブドウのシャインマスカットなど、果物の国外流出が後を絶たない。

 今回の改正案の中身は、農家の知的財産権の保護だ。新たな植物品種を育成した者は国に登録することにより、知的財産権の一つである「育成者権」(著作権と同様のもの)を得て、登録品種の種苗、収穫物、加工品の販売などを独占し権利を保護する。

 ちょっと信じがたかったが、現行法では合法的に取得した種苗には育成者権が及ばないため、海外にも容易に持ち出せてしまう。この穴を埋めるため、農水省は昨春から有識者の検討会を開き、法改正案をまとめた。

 今回の改正案では、育成者権の届け出時に輸出できる国などを指定することで、指定国等以外での農作物収穫を制限することができ、結果として新しいブランドの確立に尽力してきた農家を保護することができる。

 ネット上では、今回の改正案で、農家が次期作に備え、収穫物から種や苗を採る「自家増殖」ができなくなるという不安を表明している。たしかに、改正案には、農家の権利保護のため、自家増殖の見直しが含まれている。従来は原則自由だったが、誰が自家増殖をしているか把握できるよう開発者の許諾を必要とした。

 しかし、対象はあくまでも登録品種だ。米の84%、みかんの98%で、リンゴの96%、ブドウの91%、ばれいしょの90%、野菜の91%など主要作物の9割前後は一般品種であり、それらの一般品種は自家増殖しても問題ない。家庭菜園は規制の対象外だ。

 法案の反対理由として「外資に支配される」というものもあるが、これまで日本の農家は利益を失い、その犠牲の上で外資が儲けていた。法改正されれば日本の農家に適正な利益をもたらすので、逆に国内品種で漁夫の利を得ていた外資は、困ることになるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】TPP芸人に変わって、種苗法芸人たちが出てくるか(・Д・)!

今回の改正が影響するのは、上の高橋洋一氏の記事にもあるように、「登録品種」です。ゆめぴりかやつや姫、サツマイモの紅はるか、シャインマスカット、イチゴのあまおうなどが該当する。これらについて、これまでは農家の権利として、自家採種や自家増殖ができたのが、改正されると、こうした行為に育成者の許諾が必要になります。

改正案は一般には「自家採種の原則禁止」だとして騒がれています。ただ、「登録品種」の自家採種はそもそも難しいです。なぜなら、ほとんどがF1種だからです。このF1に関しては、中学や高校の生物学の教科書にも出ていたと記憶しています。

高校の生物学のテキストより

これは、雑種強勢を利用したもので、2つの異なる親の優れた形質を発揮する。固定種に比べ、生育や形状がそろいやすく、病気に強い性質を持つものが多いです。F1は「雑種第一代」という呼び方が示すように、その種をとって繁殖させても、初代ほど優れた形質が均一には現れません。

そのため、たとえ種が採れる登録品種であっても、実際に採種する農家は少ないと見られます。手間がかかる上に、本来の品質からのズレが起きやすいからです。

たとえば、コメだと種もみの更新率(毎年新たに購入する割合)は9割に達します。一般品種も含めての話なので、登録品種の更新率はより高いと推測されます。農家にとって種もみは基本的に毎年買うものです。

効率的な生産を目指す農家ほど、育苗のアウトソーシングをする傾向があります。これは、農業そのものの市場がしぼみつつあるにもかかわらず、野菜の購入苗(育てずに買ってくる苗)の市場がまだ伸びているとされることからも明らかです。

改正が影響するとしたら、それは主に自家増殖の部分になることは間違いないです。ただし、影響範囲はかなり限られそうです。

専門的に見ていくと細かな条件や例外のようなものがあって判り難い部分もありますが、一般家庭でガーデニングや家庭菜園を楽しむ分については、音楽やマンガの著作権と同様に考えておけばトラブルになることはほとんどないと思われます。 私たちがたとえ、誰か有名人の唄を歌ったにしても、それが単なる楽しみであり、それで利益を得るということがなければ、犯罪にはならないのと同じです。

また、自家採種を行っている農家の場合であっても「開発者の権利を一定期間保護して、開発者に適正な利益を還元する」という常識的な判断基準で行動すれば問題になることもありません。また「この行為は微妙かな???」と思える事案については公的な機関の発表したQ&Aの中に回答がある場合がほとんどです。

ネット上(ブログのまとめ記事、Twitterなど)では公的機関の発表した情報(一次情報)すら確認せずに、デマ情報をそのまま拡散している人が多いので要注意です。必ず公式情報を確認しましょう。

*より正確な情報を知りたい方は農研機構 (種苗管理センター/品種保護対策/よく寄せられる質問)などでご確認ください。

種苗法などに興味を持ってSNSなどに書き込むこと自体は、悪くないと高橋洋一氏は語っていますし、私自身もそうは思うのですが、ただ、あまり事実確認をしないで他の人のSNS 記事などを読んだだけで、反射的に反応するのは、良いことではないと思います。


このことについては、私はTPPのことを思い出してしまいます。日本がTPPに加入することを検討していた時期には、多くの人がこれに反対していました。

とにかく、TPPに加入したり、検討しただけでも、米国に良いようにされてしまう、米国に支配されてしまうとか、とにかく大変なことになると大騒ぎしていました。ところが、米国でトランプ大統領が登場すると、大統領選挙の公約に挙げていたTPPからの離脱を本当に実行してしまいました。


トランプ氏の脱退の理由は、TPPに加入すれば、日本などに良いようにされてしまう、日本に支配されてしまうとか、とにかく大変なことになるというものでした。これで、日本がTPPに加入するととんでもないことになると騒いでいた人たちの主張は間違いであることがはっきりしました。

このブログでも、このような人たちを揶揄してTPP芸人と呼びました。

種苗法にも似たようなところがあります。種苗法が改正されるととんでもないことになると騒いでいる人たちは、いずれ種苗法芸人と言われるようになるかもしれません。


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