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2019年6月23日日曜日

200万人デモ「一国二制度」で共鳴する香港と台湾―【私の論評】中共は香港デモを「超AI監視技術」を駆使して鎮圧するが、その後徐々に衰え崩壊する(゚д゚)!

香港デモのもう1人の勝者は台湾の蔡英文総統

道路を埋め尽くしたデモ隊。2014年の「雨傘運動」の象徴である黄色い傘も目立つ

(文:野嶋剛)

 香港と台湾は繋がっている、ということを実感させられる1週間だった。

 香港で起きた逃亡犯条例改正案(刑事事件の容疑者などを中国などに移送できるようにする)への抗議は、103万人(主催者発表)という返還後最大規模のデモなどに発展し、香港社会からの幅広い反発に抗しきれなくなった香港政府は、法案の審議を一時見送ることを決定した。それでも6月16日には、改正案の廃止を求めて200万人近く(主催者発表)が再びデモに繰り出した。

 前例のない今回の大規模抗議行動のもとをたどれば、台湾で起きた殺人事件の容疑者身柄移送をめぐる香港と台湾の問題に行きつくが、同時に香港のデモは、台湾で現在進行中の総統選挙の展開に対しても、非常に大きな影響を及ぼすことになった。

香港と台湾の法的関係

 15日に改正案の審議見送りを表明した林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官の会見では、「台湾」という言葉が何度も繰り返された。逃亡犯条例を香港対中国の文脈で理解していた日本人にとっては、いささか不思議な光景に映ったかもしれない。

 この逃亡犯条例の改正は、台湾旅行中の香港人カップルの間で起きた殺人事件がきっかけだった。殺された女性はトランクに詰められて空き地に放置され、男性は台湾から香港に戻っていた。香港警察は別件でこの男性の身柄を逮捕しているが、殺人事件自体は「属地主義」のため、香港で裁くことはできない。台湾に移送し、殺人事件として裁かれることは、香港社会の官民問わずの希望だっただろう。

しかし、事態を複雑にしたのは、香港と台湾の法的関係だった。香港は法的にも実体的にも中華人民共和国の一部であるが、台湾は中華人民共和国が中国の一部だと主張していても、実体は独立した政治体制である。

 現行の逃亡犯条例には「香港以外の中国には適用しない」との条項があるため、これを削除して台湾も含む「中国」へ容疑者の身柄を引き渡せるようにするのが今回の改正案なのだが、そこには「中央政府の同意のもと、容疑者を移送する」とある。台湾の「中央政府」は果たして台北なのか北京なのか、香港政府の判断はなかなか難しい。

 さらに5月9日の時点で台湾の大陸委員会の報道官が「国民の身柄が大陸に移送されない保証がない限り、改正案が通っても香港との協力には応じない」と明らかにしている。香港政府が当初の改正理由に掲げた「身柄引き渡しにおける法の不備」を解消するという必要性はあるとしても、殺人事件を理由に法改正を急ぐ必然性は失われており、市民の反対の論拠の1つになっていた。

 林鄭行政長官の記者会見でも、審議延期の理由として台湾の協力が得られない点を強調しており、「台湾に責任を押し付けることで事態を切り抜けようとしている」(台湾メディア)と見えなくはない。

もう1人の勝者は蔡英文総統

 香港デモの最大の勝者は、法案の延期を勝ち取った香港市民であるが、もう1人の勝者は紛れもなく台湾の蔡英文総統であった。

 予備選が始まった3月末時点では逆に頼氏に大きく差を開けられていた蔡総統だが、候補者決定の時期を当初予定の4月から6月にずらしていくことで支持率回復の時間稼ぎを試み、頼氏と並ぶか追い抜いたところで、香港デモのタイミングにぶつかった。

 与党・民進党では、総統選の予備選がデモの発生と同時に進んでいた。民進党は世論調査方式を採用しており、香港で103万人デモが行われた翌日の6月10日から12日まで世論調査が実施された。13日発表の結果は、蔡総統が対立候補の頼清徳・前行政院長に7~9ポイントの差をつけての「圧勝」だった。

政治家には運がどうしても必要だ。その意味では、蔡総統は運を味方につけた形になったが、香港デモの追い風はそれだけではない。対中関係の改善を掲げ、「韓流ブーム」を巻き起こした野党・国民党の韓国瑜・高雄市長は、すでに国民党の予備選出馬を事実上表明して運動を始めているが、その勢いは香港デモによって損なわれている。

 韓市長は、3月に香港と中国を訪れ、特に香港では、中国政府の香港代表機関である「中央政府駐香港聯絡弁公室(中聯弁)」を訪問するという異例の行動をとっていた。香港の抗議デモがなければ、この行動は賛否両論の形で終わっていたが、香港政府や中国との密接ぶりを演じたパフォーマンスは、今になって裏目に出た形となっている。

 対中関係については民進党と国民党の中間的なスタンスを取っている第3の有力候補、柯文哲・台北市長も打撃を受けており、この3人を並べて支持を聞いた今回の世論調査では、これまで同様の調査で最下位であった蔡総統が一気にトップに躍り出ていたのだ。

「今日の香港は明日の台湾」

 この背後には、香港情勢をまるで自分のことのように感じている台湾社会の感情がある。香港に適用された「一国二制度」は、もともと台湾のために鄧小平時代に設計されたものだ。香港で「成功」するかどうかが台湾統一の試金石になる。どのような形でも統一にはノーというのが現時点での台湾社会のコンセンサスだが、それでも、香港が中国の約束通り、「高度な自治」「港人治港(香港人による香港統治)」を実現できているかどうか、台湾人はじっと注意深く見守っている。

 香港のデモは連日台湾でも大きく報道され、台湾での一国二制度の「商品価値」はさらに大きく磨り減った。一国二制度に対して厳しい態度を示している民進党は、総統選において有利になる。「今日の香港は明日の台湾」という言葉が語られれば語られるほど、香港は台湾にとって想像したくない未来に映り、その未来を回避してくれる候補者に有権者は一票を託したくなるのだ。

 かつて香港人は、欧米流の制度があり、改革開放を進める中国大陸ともつながる香港の方が台湾より上だという優越感を持っていた。しかし、香港の人権や言論の状況が悪化し始め、特に「雨傘運動」以降、政治難民に近いような形も含めて、台湾に移住する香港人が増え始めている。香港に失望した人々にとって民主と自由があり中国と一線を画している台湾は、親近感を覚える対象になった。

 また、香港では言論や政治で縛りが厳しくなっているため、今年の天安門事件30周年の記念行事でも、かつての学生リーダーを欧米などから招いた大型シンポジウムは、香港ではなく、あえて台湾で開催されていた。

反響しあって大きなうねりを起こす

 香港では皮肉なことに返還後の教育で育った若い世代ほど、英語よりも普通語(台湾では北京語)の能力が高く、台湾と香港との交流の壁は低くなっている。

 一方、台湾からの影響力の拡大を懸念した香港政府は、台湾の民進党関係者や中国に批判的な有識者や活動家に対して、入国許可を出さないケースが相次いでおり、民間レベルでは近づきなから、政治レベルでは距離が広がる形になっている。

 香港の雨傘運動は、台湾の「ひまわり運動」から5カ月後に発生した。タイミングは偶然だったかもしれないが、「中国」という巨大な他者の圧力に飲み込まれまいとする両地にとっては、それぞれの環境が反響しあって大きなうねりを起こすことを、2014年に続いて改めて目撃することになった。

 台湾のアイデンティティが「中国人」から「台湾人」へ大きくシフトし、香港人のアイデンティティも若い世代ほど「中国意識」が薄れてきている。香港・台湾の人々の脱中国という心理の動きは、中国政府の今後の対応如何でさらに進行していくだろう。

 今回の200万人という再度の大規模デモでは、あくまで市民は逃亡犯条例改正案の審議延期では満足せずに撤回を求めており、香港人の怒りはしばらく収まりそうにない。

 台湾の総統選は半年あまり先に迫っている。「一国二制度と中国」を巡って起きている香港・台湾両地の共鳴現象は、今後注目を要する視点になるだろう。


野嶋剛


1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、「台湾とは何か」(ちくま新書)。訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。最新刊は「タイワニーズ 故郷喪失者の物語」(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

【私の論評】中共は香港デモを「超AI監視技術」を駆使して鎮圧するが、その後徐々に衰え崩壊する(゚д゚)!

世界が固唾を飲んで見守っている香港の大規模デモは、一定の成果を挙げて一段落しました。

それにしても、6月9日に103万人と発表されたデモの参加者が、1週間後の16日には200万人を超えたというのですから驚きです。主催者発表の動員数ですから鵜呑みにはできないにしても、写真や映像を見る限り、大変な盛り上がりでした。

現在の香港の人口は750万人です。そのうち中国からの移住者150万人、それに高齢者や子どもたちを除いて考えると、未曽有の参加者数といえます。

香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、9日の「103万人デモ」に遭遇しても強硬姿勢を崩しませんでした。そして、そのデモを評して、「法律を顧みない暴動行為」と決めつけました。

1989年、中国・北京を舞台に起きた「天安門事件」を、中国共産党が「動乱」と決めつけたことが事態を急激に悪化させましたが、今回も30年前同様、そうなりました。

ところが、その林鄭長官が「200万人デモ」に至って、態度を大きく変えた。「香港社会に大きな矛盾と紛争を生み、市民に失望と悲しみを与えた」と陳謝したのです。

民衆に対決姿勢で臨んだところ、一週間後にはなんと抵抗勢力が倍増しました。200万人と対峙(たいじ)すれば、デモはいっそう強力になって、手に負えなくなります。そうなれば、警察の力を借りるどころか、戒厳令の発動や人民解放軍の出動にもつながりかねないという判断が透けてみえます。

ただ、こうした高度な政治判断が、林鄭長官に任されているはずはないです。背後にある、中国政府、中国共産党、習近平・中国国家主席が「方針転換」の指示を出したと見るのが妥当でしょう。今月末には、大阪で主要20カ国・地域(G20)サミットで開かれる。そこで、習主席が孤立したり集中砲火を浴びたるすることを恐れたのかもしれないです。

林鄭長官は記者会見で「改正審議は再開できないと認識している」と発言。さらに香港政府は21日、「逃亡犯条例案の改正作業は完全に停止した」との声明を出し、廃案にする構えを示しました。

林鄭月娥行政長官

中国政府、香港政府はなぜ、今回の大規模デモや市民の動向を読み間違えたのでしょうか。おそらく、5年前の「雨傘運動」が意外に容易に沈静化したからでしょう。

ご存知のように、香港政府のトップである行政長官は、民主的な普通選挙によって選ばれているわけではありません。複雑な手続きによって、中国政府に批判的な人は排除される仕組みになっています。これに対して、民主的な選挙制度を求め、学生や市民が立ち上がったのが2014年秋の雨傘運動でした。

「それと比べると、逃亡犯条例改正問題に対する市民の関心は薄い」と当局が判断したとしたら、それは大きな誤算でした。選挙制度は確かに重大な問題ですが、今回の問題は香港人ひとり一人にとって、それ以上にきわめて身近で深刻な問題であるからです。

いつ身に覚えのない疑いを受けて、中国司法の闇の中に放り込まれるかわからなくなるのいです。自分が拘束されなくても、家族の誰かがそうなるかもしれないです。欧米流の民主主義に馴れている香港人は、「自由」という価値の大きさを熟知しています。

今回のデモの中核は、主婦であり、家族連れであるといわれています。天安門事件や雨傘運動のように、スター的な指導者もいないです。このことも、中国政府や香港政府に方針の転換を促したのでしょう。

今回の香港の大規模デモが、天安門事件から30周年、そしてブログ冒頭の記事にもあるように、台湾の総統改選期とも重なったことも、相乗効果として中国政府に方向転換を促したのです。とすれば、この際、中国政府、中国共産党は、1997年の香港返還に際しての国際公約、「一国二制度」と「高度の自治」を前向きに、積極的に果たしていく方向に踏み出すべきなのではないでしょうか。

具体的には、まずは香港の司法制度の独立、行政長官の直接普通選挙を実現すべきです。

デモが撤退する気配は今のところないです。運動はおそらく次の目標に向かって再編され、継続するでしょう。「逃亡条例案改正案」の廃案に続き、今後は行政長官の退陣、そして普通選挙による後任長官の選出へと要求が発展していくに違いないです。

ただし、香港デモに同調して、中国共産党が、「逃亡条例案改正案」の廃案に続き、行政官の退陣、さら普通選挙制を導入するということにでもなれば、習近平の権威はかなり毀損されます。

そうなると、習近平は中国共産党内の権力闘争に負けて、失脚しかつての華国鋒のような運命をたどることになります。

華国鋒の運命を知っている習近平は、現状ではG20も迫っているので、厳しい弾圧は控えていますが、G20が終わり、デモが沈静化した頃を見計らって、厳しい弾圧を行い、デモを粉砕しようとするでしょう。

開幕した中国全人代で、政府活動報告のため席を立つ李克強首相。
       左は習近平国家主席=3月5日、北京の人民大会堂

「天安門事件」や「雨傘運動」と今回のデモが違うのは、香港市民が中国本土の「超AI監視技術」を恐れていることです。今回のデモでは、マスク、ヘルメット、ゴーグルなどで顔を隠している参加者が圧倒的に多いです。顔認証システムで、個人を特定されたくないからです。

いずれ中国は香港でも「超AI監視技術」を導入して、デモで実質的に中核になった人々や、その協力者を一網打尽にすることでしょう。

その時は「超AI監視技術」を用いるので、「天安門事件」のときのような虐殺を伴わずに、洗練されたスマートなやり方で、首謀者・協力者などを発見しデモを鎮圧することでしょう。

現在習近平は、このようなことを実施するため、虎視眈々と機会を狙っていることでしょう。おそらく、実行するには半年から一年はかかることでしょう。

なぜそのようなことがいえるかといえば、それは中国共産党の統治の正当性があまりにも脆弱だからです。脆弱であるからこそ、内部での権力闘争があったり、日本を悪魔化して、人民の憤怒のマグマを日本に向けさせ、自らの統治の正当性を強める必要があるのです。

そもそも、中国共産党の中国統治の正当性が高いものであれば、「天安門事件」はなかったでしょう。

こうなると、香港にとって不幸なのはもちろんですが、なにより中国にとって明るい展望は一切見通せなくなります。香港のデモを無理やり鎮圧すれば、たとえそれか従来とはかなりスマートなやり方であったとしても、さらに香港市民を怒りをかい、国際的にも非難されることになります。

米国は最近米国国務省のキロン・スキナー政策企画局長が、ドナルド・トランプ米政権が、中国を覇権抗争の相手国と見なしていることを明確にしています。その背景として、トランプ政権下で急速に対中国強硬論が高まる中、ついに米中の間の対立についても、「文明の衝突」が参照されるようになってきたのです。

米国は、現在の米中の対立は、すでに貿易戦争などの次元ではなく、米国文明と中国文明の衝突であるとみなしているのです。これは、価値観と価値観のぶつかり合いなのです。

そのような中で、中国が最新のテクノロジーを用いたスマートなやり方であっても、香港のデモを鎮圧すれば、米国の「文明の衝突」という観点からの中国の見方を正当化することになります。

そうなると、米国は抑止力としては武力を使うものの、直接武力は用いることはないでしょうが、中国が先進国なみに社会構造改革をして民主化、政治と経済の分離、法治国家化を求めるようになることでしょう。しかし、中国共産党はこれを実行できません。なぜなら、これを実行してしまえば、完璧に統治の正当性を失い、中国共産党は崩壊するしかないからです。

おそらく、中国共産党は米国の要求など聞く耳をもたず、香港デモを無理やり鎮圧して、滅びの道を選ぶでしょう。そうして、米国は中国共産党が崩壊するまで、冷戦をやめないことでしょう。

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