まとめ
- 2070年に8700万人という将来推計は、年16万4000人の外国人の入国超過を前提に描かれた姿である。その前提を、受け入れ拡大の根拠に使ってよいのか。
- 在留外国人は428万1026人に達した。原則が示されない間に、現実と育成就労制度だけが先に進んでいる。
- 先に立てるべきは外国人ではなく、賃金と投資とAIによる我が国の供給力である。年末の人口総合戦略は、その順序を示せるか。
ここで制度上の前提を確認する。人口総合戦略は政府の政策文書であり、それだけで在留資格は生まれない。在留資格の創設や改廃は、国会が入管法などを改正して行う。個別の在留許可は、法律に基づく法務大臣の権限に属し、実務を出入国在留管理庁と地方出入国在留管理局が担う。政府の基本方針や分野別運用方針は、法律の枠の中で受け入れ分野や見込数に影響するが、法律そのものではない。戦略の文言が重いのは、後の立法、予算編成、政省令や告示の改正を方向付けるからである。影響する過程と、直接決定する権限を混同してはならない。
1️⃣推計は前提であり、国民への約束ではない
国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(令和5年推計)によれば、出生中位・死亡中位の推計で、総人口は2020年の1億2615万人から2070年には8700万人へ減り、2020年時点の69.0%となる。65歳以上人口の割合は28.6%から38.7%へ上がり、総人口が1億人を下回る時期は2056年と見込まれる。数字の厳しさは否定できない。
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つまり、8700万人という将来像は、年16万人規模の外国人の入国超過を前提に描かれた姿である。前提に置かれた規模を、受け入れ拡大の結論の根拠に使うことはできない。推計は検証の対象であり、政治の決定を免除する命令ではない。人口総合戦略が果たすべき役割は、前提を追認することではなく、前提そのものを国民の前に示し、どこまで受け入れ、どこからは国内の立て直しで応えるのかを決めることである。
2️⃣原則が示されない間に、現実と制度は進んだ
現実は年末の戦略を待っていない。出入国在留管理庁の在留外国人統計によれば、在留外国人は2021年末に276万635人、2024年末に376万8977人、2025年末には412万5395人となった。さらに、出入国在留管理庁が10月16日に発表した2026年6月末の在留外国人数は428万1026人であり、2025年末から半年で15万5631人、率にして3.8%増え、過去最多を更新した。2021年末からの増加は152万391人に達する。
内訳も重要である。同じ発表によれば、在留資格別では永住者が96万1342人と最も多く、技術・人文知識・国際業務が51万6184人で、前年末から8.5%増えた。短期の労働力として来て帰るという姿だけではない。定住と長期滞在へつながる層が、着実に厚くなっている。
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働く外国人も拡大が続く。厚生労働省の労働経済分析によれば、外国人労働者数は2024年10月末時点で約230万人となり、届出が義務化されて以降12年連続で過去最多を更新し、2014年との比較では2.9倍となった。人手不足への対応が、すでに外国人労働力への依存を深める形で進んでいることは、統計の上で明らかである。
制度の転換も決まっている。育成就労制度は、有識者会議や産業界の要望が直接つくる制度ではない。国会で成立した2024年の改正法に基づく制度であり、出入国在留管理庁の育成就労制度の概要が示すとおり、施行日は2027年4月1日である。技能実習の在留資格は廃止され、就労を通じた人材育成と人材確保を目的とする育成就労が創設される。育成就労計画の認定は外国人育成就労機構が行い、監理支援機関は主務省庁の許可を受ける。分野の設定や運用方針は、法律の枠の中で政府が定める。
制度が法律に基づいて前に進む以上、問いは「拡大するか否か」という抽象論では済まない。すでに進む拡大に対して、総量の考え方、分野ごとの必要性、自治体や国民生活への負担、検証と見直しの方法を、戦略がどこまで具体的に示せるかである。原則なき拡大を、後から言葉で整えるだけでは足りない。
3️⃣先に立てるべきは、外国人ではなく、我が国の供給力である
昨日当ブログに掲載した、ポーランドの教訓は短く言える。学ぶべきは壁の形ではなく、国境と受け入れの主導権を国家が握る姿勢である。ポーランド政府が公表したベラルーシ国境の障壁計画は、高さ5.5m、180kmを超える障壁と、電子的な国境管理を組み合わせる方針を示した。同国は不法越境を許さない姿勢を実力で示す他方、ウクライナ避難民には資格と期限を定めた一時保護で対応し、国境管理と人道保護を区別してきた。この区別の詳細は、前回のポーランド論考で述べたとおりである。
我が国は島国であり、陸続きの国境をそのまま模倣する必要はない。管理の中心は、空港と港湾における入国審査、在留管理、警察と自治体の連携に置かれる。地理の違いは、管理を緩めてよい理由にはならない。制度が曖昧で、資格外活動や不法残留への対処が遅れれば、島国であっても秩序は崩れる。
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その上で、戦略には少なくとも3点を書き込むべきである。1点目は、受け入れ分野ごとに必要性を立証する手続である。2点目は、住宅、教育、医療、言語支援、治安に関わる自治体負担の明示と、その財政措置である。財政措置は政府が予算案に計上し、国会の議決を経て初めて執行できるものであり、戦略の一文だけで負担が消えるわけではない。3点目は、効果と負担を定期的に検証し、想定を超えた場合に見直す仕組みである。広げる仕組みだけを持ち、戻す仕組みを持たない制度は、国家の統治とは言えない。
結論
人口総合戦略に最初に書くべきは、受け入れ人数ではない。我が国は誰を守るのか。人口減少に何で応えるのか。受け入れが必要だというなら、その必要性を誰が立証し、負担を誰が負い、結果に誰が責任を持つのかである。
年末の戦略がこの問いに、法律、予算、運用方針のどこで何を決めるのかまで含めて答えるなら、それは人口対策を超えて、国家の統治能力を示す文書になる。逆に、推計と人手不足を理由に拡大を追認するだけなら、賃金の低迷、投資不足、地域の負担は温存され、国民生活への影響だけが積み重なる。
必要のない移民受け入れを既定路線にしてはならない。国内の賃金、投資、教育、技術を立て直し、少子高齢化の下でも供給力を維持できる国をつくる。その順序を守ることが、国益を守ることであり、真に保護すべき人への支援を持続させる道でもある。
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