まとめ
- 日米がミサイルの日本国内組立で合意。 兵器を買うだけの防衛から、生産・補充できる防衛へ。我が国の安全保障は新たな段階に進むのか。
- 核の傘だけで日本は守れるのか。 核ミサイルへの迎撃能力と通常戦力を維持する力が、日米の抑止態勢を支える。
- F-15Jの改修、F-35Aの整備に日本の底力がある。 製造・修理・改修技術を国家資産として蓄積できるか。問われるのは国家の統治能力だ。
2026年10月28日、フィリピンで行われた日米防衛相会談で、我が国の安全保障にとって重要な合意が成立した。米国製の中距離空対空ミサイル「AMRAAM」の最終組立・検査施設を日本国内に設置し、弾道ミサイル迎撃用の「SM-3ブロックⅡA」についても、増産に必要な技術情報を共有するというものである。
一見すると、ミサイルの製造に関する技術的な合意にすぎない。しかし、その背後には我が国の防衛力が抱える根本的な問題がある。高性能な兵器を保有していても、必要な弾薬を補充できなければ防衛を続けることはできない。防衛力は兵器を買うだけでは維持できないのだ。
さらに、今回の合意は核抑止とも無関係ではない。日米防衛相は、我が国周辺で進む核・ミサイル戦力の増強についても協議した。核兵器による威嚇と通常戦力による攻撃が組み合わされる事態に対し、我が国はどこまで自国の防衛を継続できるのか。米国の核の傘は重要だが、それだけで通常戦力やミサイル防衛の不足を補えるわけではない。
今回の日米合意を手掛かりに、核の脅威への対処、兵器の生産・改修能力、そして国家の統治能力という3つの問題を考えてみたい。
1️⃣日米のミサイル国内組立合意は何を変えるのか
10月28日の防衛省「日米防衛相会談について」によると、小泉進次郎防衛相とピート・ヘグセス米戦争長官は、日米同盟の抑止力・対処力を強化するため、具体的な防衛装備・技術協力を進めることで一致した。その中心となるのが、AMRAAMの国内最終組立・検査施設の設置と、SM-3ブロックⅡAの増産に向けた技術情報の共有である。
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| 日米が合意したAMRAAMの国内最終組立・検査施設と、SM-3ブロックⅡAの増産協力。画像はイメージであり、施設の完成や稼働を示すものではない。クリックすると大します。 |
AMRAAMは、F-35などの戦闘機が敵航空機を遠方から攻撃するための中距離空対空ミサイルである。現代の航空戦では、戦闘機の性能だけでなく、搭載するミサイルの性能と数量が戦闘能力を左右する。どれほど優れたF-35を保有していても、ミサイルの補充が止まれば、その能力を維持することはできない。
今回、日本国内に最終組立・検査施設を設置することで合意した意味は、ミサイルの供給を支える工程の一部を国内に確保することにある。ただし、最終組立ができることと、全ての部品を国産化できることは異なる。また、防衛相会談で合意したのは施設の設置方針であり、建設工事の発注、必要な予算措置、量産開始まで完了したわけではない。施設の所在地、稼働時期、生産能力も、今回の発表では明らかにされていない。
一方、SM-3ブロックⅡAは、日米が共同開発した弾道ミサイル迎撃用の兵器である。イージス艦から発射され、大気圏外を飛行する弾道ミサイルを迎撃する。今回の合意は、生産量の拡大に必要な技術情報の共有であり、具体的な増産数量や生産施設の新設を決定したものではない。
こうした協力は、突然始まったわけではない。2026年版防衛白書の「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議」によれば、日米は2024年からミサイル共同生産、米軍装備の維持整備、供給網の強化について協議を重ねてきた。2026年4月には、協力が実行段階に移行していることを踏まえ、協議の枠組みを「DICAS 2.0」と呼ぶことで一致した。
つまり、今回の合意は単発の外交成果ではない。複数年にわたる防衛産業協力が、具体的な生産体制の整備へと進んだものである。我が国の防衛力を、装備の購入だけでなく、生産・補充・維持整備まで含めて強化する。その方向が明確になりつつあるのだ。
2️⃣ 核の脅威に対して、通常戦力とミサイル防衛は何ができるのか
今回の合意を考えるうえで見落としてはならないのが、核抑止との関係である。
核兵器への対処というと、核兵器には核兵器で対抗するしかないと考えがちである。しかし、実際の抑止態勢は核兵器だけで成り立っているわけではない。核攻撃に対する報復能力に加え、弾道ミサイルの迎撃能力、通常戦力による侵攻阻止能力、それらを支える日米共同の対処能力が重要になる。
特に注目すべきなのがSM-3ブロックⅡAである。2020年11月16日、米国は同ミサイルを使用し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を模した標的の迎撃試験に成功した。これは米国ミサイル防衛庁の公式発表で確認できる。核弾頭を搭載し得る長距離弾道ミサイルに対して、迎撃技術が一定の能力を示した事例である。
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| 米国の核戦力、ミサイル防衛、通常戦力を組み合わせた日米の抑止態勢。迎撃経路や防御範囲は概念図であり、実際の作戦配置を示すものではない。クリックすると拡大します。 |
ここで重要になるのが「拒否による抑止」である。相手が攻撃しても目的を達成できないと判断すれば、攻撃を思いとどまる可能性が高まる。ミサイル防衛や通常戦力の強化は、この考え方を支える。核兵器による報復の可能性を示す抑止とは役割が異なるが、両者は補完し合う関係にある。
実際、2026年6月10日の日米拡大抑止協議の共同声明では、米国が核を含むあらゆる能力を用いて日本を防衛するとの約束を再確認した。同時に日米は、地域の核の脅威、米国の核戦力の近代化、日本の防衛能力について協議している。米国の核による拡大抑止と、我が国自身の防衛能力の強化は、切り離して考えるべきものではない。
もう1つ知っておくべき事実がある。米軍のF-35Aには、B61-12核爆弾を運用できる仕様が存在する。2026年版防衛白書の「米国の安全保障・国防政策」にも、米国がNATOの核任務を支援するため、核・非核両用機の役割をF-15EからF-35Aへ移行する計画が記されている。F-35Aは、通常兵器だけでなく核兵器も運用できる機種なのである。
ただし、これは航空自衛隊のF-35Aが核爆弾を搭載できるという意味ではない。2024年6月12日の衆議院外務委員会で、鬼木誠防衛副大臣は、航空自衛隊のF-35Aは核兵器を搭載する仕様にはなっていないと答弁している。今回のAMRAAM国内組立も、核兵器の国内生産やF-35Aへの核運用能力付与を意味しない。
NATOの核共有では、米国が核兵器の管理権限を保持しながら、一部の同盟国が核任務に対応する航空機や関連施設を提供している。しかし、我が国はこの仕組みを採用しておらず、政府は非核三原則を堅持する立場を示している。こうした制度の違いを無視して、今回の日米合意を核共有への移行と結びつけることはできない。
重要なのは、核兵器の保有や核共有の是非とは別に、我が国が通常戦力とミサイル防衛をどこまで強化できるかという問題である。核による威嚇を受けながら通常兵器による攻撃を仕掛けられた場合、我が国に十分な防御力と継続的な対処能力がなければ、相手の軍事的な圧力に対抗することは難しくなる。
核抑止を支えるのは核兵器だけではない。通常兵器による侵攻を阻止し、防衛を継続できる能力も、抑止態勢の重要な一部なのである。
3️⃣ 我が国は有事にも防衛を継続できるのか
では、我が国は必要な防衛装備を確保し続けられるのか。
2026年版防衛白書の「持続性・強靱性の強化」は、自衛隊の持続可能な対応能力が必ずしも十分ではないことを認めている。弾薬の価格上昇、製造企業の撤退、部品製造の長期化、火薬庫の不足などが課題として挙げられている。政府は2027年度までに弾薬の不足を解消する方針を掲げているが、達成には生産能力と保管施設の整備が欠かせない。
これは深刻な問題である。戦闘機や艦艇を大量に保有していても、搭載するミサイルが不足すれば戦力は低下する。装備が損傷しても修理部品を確保できなければ、戦場に復帰させることはできない。防衛力を評価する際には、保有数量だけでなく、必要な期間にわたって運用を維持できるかを問わなければならない。
今回のAMRAAM国内最終組立合意は、この問題への対応を進める一歩である。しかし、組立施設を設置するだけでは不十分だ。重要部品や原材料を海外に依存していれば、輸送経路の遮断や供給企業の生産停止によって、国内の組立工程まで止まる可能性がある。国内でどの部品を製造できるのか、代替調達先は存在するのか、必要な備蓄を確保しているのか。こうした供給網全体の検証が必要になる。
その意味で、今回の合意は国内産業政策とも直結している。防衛生産基盤強化法に関する防衛白書の説明によれば、政府は防衛装備の安定供給に向け、原材料の国産化・備蓄、製造工程の効率化、供給網の強化、人材育成などを進めている。防衛産業を支えるのは大手企業だけではない。高度な加工技術や特殊部品の製造を担う中小企業も、国家安全保障の重要な一部である。
実は我が国には、海外から導入した戦闘機を国内で生産し、改修を重ねてきた実績がある。その代表例がF-15Jである。F-15Jは国内でライセンス生産され、レーダーや電子機器の更新、国産ミサイルへの対応など、近代化改修が続けられてきた。防衛省の防衛力整備計画では、近代化改修を施したF-15について、電子戦能力の向上、長射程ミサイルの搭載、搭載ミサイル数の増加などが計画されている。既存の装備を改修し、性能を高めながら使い続けることも、防衛産業の重要な能力なのである。
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| F-15Jの整備・改修を支える国内技術力を表現したAI生成イメージ。実際の機体や整備現場を撮影したものではない。 |
ただし、国内で組み立て、整備できることと、自由に改修できることは同じではない。 特にF-35は、ソフトウェアや電子機器、武装の統合が国際的な開発・改修体系の下で管理されている。米国政府監査院も、2026年のF-35維持整備に関する報告で、整備に必要な技術データへのアクセス不足が、米軍自身の修理能力を制約していると指摘している。国内整備拠点を持つ我が国にとっても、必要な技術情報や整備権限をどこまで確保できるかは重要な課題である。
この点は、現在進められている次期戦闘機の共同開発にも通じる。2026年版防衛白書の「次期戦闘機の共同開発」は、将来の脅威や技術の進歩に対応するため、「改修の自由」を確保する必要性を明記している。英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機では、必要に応じて能力向上を進められる国内の防衛生産・技術基盤が重視されているのである。
この違いは大きい。兵器を購入できること、国内で組み立てられること、修理できること、そして必要に応じて改修できることは、それぞれ異なる能力である。我が国が目指すべきは、単なる国内組立の拡大ではない。技術を蓄積し、装備の能力を維持・向上させる力を国内に確保することである。今回のAMRAAM国内最終組立合意も、そうした能力の蓄積につながるかという観点から評価しなければならない。
重要なのは、国内生産を単なる費用として扱わないことだ。継続的な発注と適切な利益が確保されれば、企業は設備投資を進め、技術者を育成し、製造技術を国内に蓄積できる。そうして維持される設備、技能、人材、供給網は、長期にわたり我が国を支える国家の資産となる。国内雇用や関連産業への効果も期待できる。ただし、そうした効果は発注内容や国内企業の参画範囲によって変わるため、具体的な検証が必要である。
さらに、米国自身もミサイルの生産能力を必要としている。日米の共同生産には、両国の産業基盤を補完し、同盟全体としての供給能力を高める意味がある。我が国が一定の生産工程を担うことは、自衛隊だけでなく、周辺地域で活動する米軍の継続的な対処能力にも関わる。ただし、日米双方の需要が同時に増えた場合、どのように供給を確保するのかという課題も残る。
したがって、今後の焦点は、単に国内施設が完成するかどうかではない。実際に何発を生産できるのか、どの工程を国内企業が担うのか、部品不足や輸送の混乱にも対応できるのか。そして、必要なミサイルをどれだけ迅速に自衛隊へ供給できるのか。政府はこれらの課題について、機密保護に配慮しながらも、可能な範囲で具体的な成果を示す必要がある。
防衛力を維持するには、装備品の調達予算を増やすだけでは足りない。生産能力を整え、供給網を守り、必要な装備を補充し、修理し、改修できる。そこまで実現して初めて、防衛力の強化は実体を持つのである。
結論
10月28日の日米合意は、ミサイルの国内最終組立と増産協力を具体化する重要な一歩である。しかし、その意義を単なる装備品の生産協力として捉えてはならない。
核の脅威が存在する東アジアで、我が国が侵攻を阻止し、防衛を継続できるのかという問題が、その背後にある。米国の核の傘は重要である。しかし、通常戦力による侵攻を阻止する能力、飛来する弾道ミサイルを迎撃する能力、必要な装備を継続して供給する能力が不足していれば、抑止態勢全体の信頼性にも影響する。
我が国には、F-15Jの国内生産と改修、F-35Aの国内組立と整備を通じて培ってきた技術と産業基盤がある。これらを維持し、さらに発展させることが重要である。単に兵器を購入するだけではなく、自ら製造し、修理し、必要な改修を行える能力を確保しなければ、海外の供給事情や技術上の制約に左右され続けることになる。
同時に、防衛装備の国内生産は、国家の経済力と技術力にも関わる。生産設備を整え、企業と技術者を育て、重要な製造技術を維持することは、有事への備えであると同時に、平時の産業基盤を強くすることにもつながる。安全保障と経済を切り離して考えるべきではない。
そして、防衛力の目的は戦争をすることではなく、戦争を起こさせないことである。相手に攻撃しても目的を達成できないと判断させるには、兵器の性能や保有数だけでなく、必要な期間にわたって防衛を継続できるという信頼性が欠かせない。
今回の日米合意が真に意味を持つかどうかは、今後の実行にかかっている。合意した施設を整備し、技術協力を具体化し、国内企業の生産・整備能力を高め、必要な装備を安定して確保できる体制を築けるのか。その成果を検証する必要がある。
兵器を買うことと、国を守り続けることは同じではない。必要な兵器を生産し、補充し、修理し、改修できる国家の能力こそ、持続的な防衛力を支える。我が国がその能力をどこまで築けるのか。今、問われているのは国家の統治能力である。
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