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2019年3月15日金曜日

かつての米国の敵・ベトナムは今や重要なパートナー―【私の論評】北朝鮮がベトナムのような発展を目指すには?

かつての米国の敵・ベトナムは今や重要なパートナー

岡崎研究所

 第2回米朝首脳会談が行われたべトナムのハノイでは、2月27日、もう1つの重要な首脳会談が開催された。それは、トランプ大統領とグエン・フー・チョン共産党書記長兼国家主席との米越首脳会談である。

ハノイで27日、会談に臨んだトランプ米大統領(左)と
グエン・フー・チョン書記長=背後はホー・チ・ミン初代国家主席の銅像

 同日、ホワイト・ハウス(米大統領府)は、ホーム・ぺ―ジの外交政策の欄に、「トランプ大統領はベトナムの米企業との提携拡大を歓迎する」と題して、以下のような内容のファクト・シートを掲載した。

・トランプ大統領は、「パートナーとして前進することで、我々は、米越両国の国民に、素晴らしい繁栄と成功をもたらすだろう。」と述べた。

・トランプ大統領は、ベトナムの航空会社が、米国企業から新たに航空機、エンジン及びサービスを購入することを嬉しく思う。

・米越両首脳は、ベトナムの航空会社と米企業との貿易取引の署名に立ち合った。

・これらの合意は、米越間の深化した経済連携の表れである。

・取引の総額は、210億ドルを超え、以下のものを含む。

ベトジェットは、米国製ボーイング737-MAX100機とGEが開発したLEAPエンジンを215個購入予定である。

バンブー・エアウェイズは、ボーイング787-9を10機購入する。

ベトナム航空は、5千万ドル以上の予約システムやその他サービスをサーブル・コーポレーションより購入することを決めた。

・これらの購入は、米国の83000人以上の雇用を支え、ベトナムその他の旅行者の安全と信頼性を高める。

・これらの取引は、今までトランプ大統領が両国のパートナーシップを強化するために手掛けてきたことの反映である。

・2017年5月、トランプ大統領とグエン・スアン・フック首相は、両国間の包括的パートナーシップを強化することで合意した。

・その中で、両者は、相互に利益のある経済関係を促進し発展させることを約束した。

・2017年11月、トランプ大統領の初めての歴史的訪越の際、ベトナム企業は、120億ドル相当の米国の物品・サービスを購入することに合意した。

・ベトナムは、また、米国農産物の輸出に対して貿易障壁をなくし、米国農家に市場を開放することを約束した。

・トランプ大統領は、米国のために自由で公平かつ相互的な貿易を強化し、米国民の為により良い取引の交渉を行うために毅然とした行動をとっている。

参考:White House ‘President Donald J. Trump Hails Vietnam’s Commitment to Expanding Commercial Partnerships with American Companies’ February 27, 2019

 結果はどうであれ、ベトナムで米朝首脳会談を開催したのには、それなりの意義があった。トランプ大統領も指摘したように、ベトナムは、北朝鮮にとって、モデルになる国である。米国とベトナム戦争という激しい戦いを繰り広げながらも、1995年には国交を正常化し、現在は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中でも経済成長している優等生である。トランプ大統領は、金正恩委員長に、非核化をきちんとすれば、ベトナムのように経済発展できると促した。

 上記のファクト・シートでは、貿易取引のことばかりが語られているが、米越首脳間では別の議題も取り上げられた。ポンペオ米国務長官は、自らのツイッターで、「トランプ大統領とチョン書記長は、北朝鮮の最終的、完全かつ検証された非核化、自由で開かれたインド太平洋及びより強固な米越の包括的連携に向けて、継続した前進の必要性を確認した。」と述べている。従って、安全保障を含む様々な議題がテーブルに上ったことになる。おそらく、南シナ海問題や中国についても触れたに違いない。

 かつての米国の敵、ベトナムは、今や重要な米国のパートナーとなっている。そういえば、2017年のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議は、ベトナムの保養地ダノンで開催され、トランプ大統領は、インド太平洋地域の平和と安定について素晴らしい演説をした。

【私の論評】北朝鮮がベトナムのような発展を目指すには?

ハノイでの米中首脳会談が決裂した後、北朝鮮は、再び核施設を稼働させており、また、サイバー攻撃や「瀬取り」で、不当な手段で核開発資金を稼いでいます。一方、首脳会談が行われたベトナムは、今や国際社会に開かれた国になって、経済発展を遂げています。

北ベトナムは、第二次大戦後、フランス、そして米国という大国と戦って勝利しました。そして、南ベトナムを降伏させて南北統一を果たし、1976年にベトナム社会主義共和国として新たなスタートを切りました。復興を目指すベトナムは、鄧小平が進めた中国の改革開放路線と同様な「ドイモイ」政策を、1986年に採用しました。

サイゴン

経済の飛躍的発展を目指し、日本など先進諸国に援助を仰ぎ、国際社会に開かれた国造りに励んでいるベトナムは、1995年には、ベトナム戦争で戦ったアメリカとも和解し、協力関係を深めています。北朝鮮は、朝鮮戦争でアメリカと戦っており、この点では北ベトナムと同じです。

北朝鮮の改革モデルとなるのは、中国であり、ベトナムです。中国は、改革開放政策で社会主義市場経済を進め、今やGDPで日本を抜いて世界第二位に躍り出て、アメリカの覇権を脅かすまでになっています。

北朝鮮がベトナムや中国と決定的に違うのは、金ファミリーによる「王朝」だという点です。ベトナムや中国は、独裁制であっても、それは共産党による独裁であって、特定の政治家ファミリーによる支配ではありません。「王朝」ではないし、世襲でもなく、集団指導体制です。

平壌では、金正恩に反抗すれば身内でも粛清に遭う恐怖政治が続いており、経済改革も基本的人権の擁護も進んでいません。金正恩の最大の目的は「金王朝」の維持であり、改革開放政策は王朝の崩壊につながる危険性を孕んでいます。

金日成、金正日の遺訓を受け継ぐ金正恩が、体制崩壊の危険を冒すことはないです。つまり改革開放の扉を開けることはまずないです。核兵器の保持に固執する理由は、米国からの攻撃の危険性から「金王朝」を守ることにあります。そうして、中国からの干渉を削ぐことです。

ベトナムと違って、そもそも朝鮮半島は統一しておらず、北朝鮮が計画経済から市場経済に移行すれば、それは韓国と同じ体制になり、韓国主導の統一国家になる可能性につながります。

それは、西が東を吸収したドイツ型統一である。それを金正恩が受け入れることはないでしょう。一方、北が南を吸収するベトナム型統一は容易には実現しないでしょう。

古代以来、東夷西戎南蛮北狄のうち、中国にとって最も警戒すべき国は朝鮮とベトナムでした。日本と違って陸続きですが、小国ながら強力で一筋縄ではいかない国だったからです。

ベトナムは、中越戦争を戦い、今でも南沙・西沙諸島領有件で中国と対立しています。北朝鮮は金正男、張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長を殺害するということで、中国に対決する姿勢を露わにしました。さらに、今回の米朝収納会談の後には北京を素通りして、習近平と会談することもなく平壌に帰りました。

ベトナムのように中国と戦争はしていませんが、核兵器を開発することで、中国の過度な干渉を退けています。一方韓国は、中国に従属しようとしていますが、中国と韓国の間には、核武装した北朝鮮があるため、結果として北朝鮮が中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。

さて、このような北朝鮮がベトナムのようになる可能性はあるのでしょうか。現状のままでは無理です。しかし、現在北朝鮮の社会が変わりつつあります。

それは、北朝鮮にもある程度の民主化の可能性がでてきたということです。これについは、以前もこのブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
決裂すべくして決裂した米朝首脳会談だが・・・―【私の論評】今回の正恩の大敗北は、トランプ大統領を見くびりすぎたこと(゚д゚)!
ベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で、休憩中に散歩するトランプ大統領(右)と
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(左、2019年2月28日撮影)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
金正恩体制は、恐怖政治で国民の動向を統制し、社会主義の体裁を取り繕っています。しかし実のところ、同国の計画経済はすでに崩壊しており、なし崩し的な資本主義化が進行しています。貧富の差が拡大し、良い意味でも悪い意味でも「自由」の拡大が始まっています。 
それを後押ししてきたのは、実は金正恩氏自身でもあるのです。市場に対する統制を緩めたり強めたりを繰り返した父の故金正日総書記と異なり、金正恩氏は放任主義を続けてきました。この間、「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層の存在感はいっそう大きなものとなり、彼らなしでは北朝鮮の経済は成り立たなくなっているのです。
平壌市内のトンジュ向けのカフェで
北朝鮮で民主化が起きるなら、虐げられた民衆が暴政を倒す「革命」として実現する可能性が高いと多く人が信じてきたようです。政治犯収容所などにおける現在進行形の人権侵害を止めるには、それしか方法がないからです。 
しかし、北朝鮮の体制はそれほどやわではありません。民衆が本気で権力に歯向かう兆候を見せたら、当局はすぐさま残忍に弾圧してしまうだろうことを、歴史が証明しています。
その一方、北朝鮮の体制は「利権」の浸食にめっぽう弱いです。北朝鮮社会では、当局の各部門が持つ大小様々な権限が利権化しています。北朝鮮経済は、利権の集合体であると言っても過言ではないほどで、その仕組みは「ワイロ」という名の潤滑油で回っています。軍隊の中にすら、同じような仕組みが存在するほどです。
ただ、国際社会による経済制裁に頭を抑えられているため、その仕組みはなかなか大きく成長することができませんでした。しかし、ここで制裁が緩和されたらどうなるでしょうか。 
海外から流れ込む投資は、北朝鮮の経済の成長を促し、同国の人々が見たこともないような巨大な利権を生み出すでしょう。また、利権の数自体も爆発的に増え、利害関係の錯綜も複雑さを増します。もはや、ひとりの独裁者の権力の下に、すべての利害を従えることなど不可能になるのです。 
そして、無数の利害関係を最大公約数的に調整する多数決の仕組み、つまりは民主主義が必要になるわけです。 
いずれにしても、北朝鮮経済のなし崩し的な資本主義化の流れは止まらないです。あの国は遅かれ早かれ、上述したような道を辿ることになります。
このような道を辿る道筋には、まずは金王朝の崩壊があるでしょう。そうして、ベトナムや中国のような集団指導体制になることが考えられます。中国の指導体制は、現在習近平がかなり優性であり、習近平終生主席の座につきました。ただし、他の派閥が完璧に崩れたわけではないので、集団指導体制であることには変わりないと思います。

まさにそのとき、北朝鮮はベトナムのような国になることを目指すことができるのです。その後は、中国・ベトナムのようになかなか民主化に踏み切れない状態が続くかもしれません。

それにしても、集団指導体制が構築できれば、ベトナムのように経済発展でき、少なくと国家資本主義のような体制を構築することはできるでしょう。ただし、これはここ5年くらいの話ではなく、もっと後になる可能性が高いです。ただし、着実にその方向には向かっています。

このような道を辿る途中で、核問題も解決される可能性があります。ただし、中国が体制を変えるか(共産党1党独裁の廃止)、米国の対中国冷戦により、経済が弱体化し、他国に影響力を及ぼせなくなるかのいずれの状態にならなければ、核の完全廃棄は難しいでしょう。

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