高橋洋一 日本の解き方
ネットメディアで「アベノミクスに重大な疑惑」といった記事がある。「マネタリーベース(中央銀行が供給するお金)が増えてもマネーストック(金融部門から経済全体に供給される通貨)はほとんど増えていない」「実質賃金は下がっていて生活は苦しくなっている」「アベノミクスがもたらしたのは、円安による為替差益と株価の上昇だけ」「GDP(国内総生産)はかさ上げされている」といったものだが、こうした説に妥当性はあるのか。
約5年半前のアベノミクス開始当初にもこうした言説は多かったが、その後の実績でほとんど消えていった。特に、エコノミストらプロの世界では既に勝負がついているので、今やこうした話はまず出てこない。あるとすると、安倍晋三首相批判のためにする政治的な言説であることが多い。
金子勝氏はアベノセイダーズの急先鋒 |
こうした批判では、雇用という国民生活で最も重要なことが語られない。失業率や有効求人倍率が記録的な良好水準であることの理由の分析を間違え、「実質賃金が上がっていない」という。
金融緩和すると、まず就業者数が増え人手不足になる。その過程で物価はやや上がるが、名目賃金の上昇は追いつけない。それまで失業者であった人が就業者になる場合、名目賃金は比較的安い。こうしたことから実質賃金は上がらず逆に下がるという現象がみられる。これは効果のラグ(時間のずれ)であり、そのうちに名目賃金が物価上昇を追い抜いて上がり出す。
「マネーストックが増えない」というのはそもそも批判にならない。筆者は当初から、マネーストックは金融機関からの貸し出しなので、当分増えないと断定していた。
金融緩和によって実質金利が下がり、雇用とともに設備投資が高まる。しかし、過去の昭和恐慌の際にもみられたが、企業は当初は内部留保で設備投資をするので、すぐには外部資金に依存しない。過去のデータでは2、3年遅れるのが普通である。こうした批判をする人は、金融緩和のメカニズムが分かっていないと言わざるを得ない。
アベノセイダーズ五人衆 |
「円安と株高だけ」との主張も左派の人に多い。実質金利が下がったことで円安と株高になるのであって、実物経済が良好であることの副産物である。
そして、「GDPはかさ上げされている」というのはデマのたぐいだ。日本のGDP統計は、5年ごとに基準改定されている。2016年にも基準改定が行われたが、その際、09年に国連で採択された国際基準も取り込んでいる。改訂された場合、過去の値も遡及(そきゅう)適用されるので、改訂自体で統計数字が混乱するわけではない。もしこの手順が改竄(かいざん)というのなら、政府の統計委員会などに膨大な議事録が公表されているので、ぜひ指摘したらいい。
それまでGDPに計上されていなかった研究開発費について、改訂後は「知的財産生産物」という固定資本として扱われ、その増分は設備投資になる。そこで「かさ上げ」という批判が一時出たが、過去データも遡及すればいいだけだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】常識に欠けた人々には、永遠に満足する機会は訪れない(゚д゚)!
経済政策が効果出すまでにはタイムラグがあるというのは、経済学上の常識です。これは、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
高橋洋一 日本の解き方 物価目標2%は実現できる 黒田日銀の壁は消費再増税、財政出動で景気過熱が必要だ―【私の論評】次の総理はやはり安倍晋三氏しか考えられない(゚д゚)!
2期目に入った日銀の黒田東彦総裁 |
経済対策のタイムラグに関する部分のみを以下に引用します。
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経済政策には以下のようラグがあります。
1)内部ラグ
経済情勢の把握から経済政策の実行迄
もし安倍政権がアベノセイダーズ等の批判に負けて、金融緩和政策を中途半端でやめていれば、現在のような雇用の改善はみられなかったはずです。
世の中には、アベノセイダースだけではなく、一般の人でも、マスコミのインタビューなどに応えて賃金が倍にならなければ、経済が良くなったという実感が得られないなどと応えている人もいるようですが、こんなことはいくら経済対策がうまくいったにしても、ありえないです。
どうしてもそうしたいというのなら、企業に居続けるなら、職位の階段を短期で上るしかありません。あるいは、会社をやめて消費者・生活者に支持される事業を起こすしかありません。
ハイパーインフレにならない程度の緩やかなインフレ下で経済が伸びている状況では、1年や2年では賃金があがったにしても、誤差程度にしか感じられませんが、20年〜30年たつと倍になっているという感覚です。
ただし、インフレによって物価が上がっているので、それを相殺すると1.5倍というところでしょうか。
そのようなことでは大したことはないと思われるかもしれませんが、デフレが続けばこれとは反対のことがおこるわけです。デフレでも1年や2年では誤差のような感じてあまり賃金が下がったという感覚はないでしょうが、5年、10年で絶望感が生まれてきます。
20年後には今よりは確実に賃金が上がるであろうと確信できることと、20年たっても賃金が同じが下がっているだろうと確信できることとの間には、天と地ほどの違いがあるのです。
特に若い世代にとってはそうです。20年後には現在の職位のままであっても、賃金は間違いなく上昇して1.5倍くらいにはなっているだろうし、職位がある程度あがれば、賃金が現在の倍になっている可能性は十分にあると考えられるのと、デフレで20年後にはリストラされている可能性すらあると考えるのは雲泥の差です。
若い世代は20年後の自分が今より確実に良い状況にいるであろうとかなりの確率で想像できれば、結婚も積極的にするだろうし、その後の様々なライフステージで結構な消費もするでしょう。車を購入するとか、子供部屋のある家を購入するとか、定年後のことも考慮に入れ様々ライフスタイルを模索するようになります。
しかし、デフレのさなかではそのようなこともままなりません。将来に対する絶望や、不安が支配するようになり、さしせまってとても大きな消費はできないと考えるようになります。とにかく自分の身を守ることで精一杯という状況に追い込まれます。
どちらが良いかといえば、デフレは絶対に駄目です。緩やかなインフレが良いに決まっています。
しかし、経済政策で緩やかなインフレにもっていくには、上記で述べたようにタイムラグがあります。タイムラグがあることを無視して、経済対策をはじめてすぐに効果があがらないとして、すぐに打ち切ってしまえば、元も子もなくなるのです。
こんなことは、何も経済を学ばなくても常識で考えればわかることです。たとえば、ある大企業が何らかの理由で一度業績を落としてしまえば、そこから回復するには少なくとも、3年以上はかかるでしょう。
にもかかわらず、企業が何か手を打ったからといって、打った途端に即座に回復しないのはおかしい、自分の賃金もあがらないなどと騒ぐ社員がいたら、それこそそのような社員はリストラの対象にされるかもしれません。
企業の対策も、政府の対策も、何か手を打ったからといって、すぐに効果が出て、回復などということはありえません。タイムラグの存在を認められない人は、何も成就することはできないでしょう。
「よーし勉強するぞ」と決意し、3日目で「効果が出ないからダメだ」などと思い込むのは、滑稽ですらあります。こういうのを世間では「三日坊主」といいます。
いずれにしても、そもそも安倍憎しで、何でも安倍総理のせいする人々や、経済回復の兆しを感じるのは賃金がすぐに2倍にならないと感じられないなどというような人々は、常識に欠けていると言わざるをえないです。
常識に欠けた人々には、永遠に満足する機会は訪れないのは確かです。どんなに良い境遇に置かれたにしても、満足感は得られないでしょう。
安倍総理も次の総裁選では、勝ちそうですから、すぐに引退ということはないですが、いずれ引退の時期は必ずきます。総理が他の人に変わったとしても、常識に欠けた人たちは、今度は次の総理を憎んだり、相変わらず政策の効果が見えないままでいるだけ話です。こんな人たちに振り回されるべきではありません。
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経済政策には以下のようラグがあります。
1)内部ラグ
経済情勢の把握から経済政策の実行迄
1-1)認知ラグ2)外部ラグ
経済現象を認知する迄
1-2)決定ラグ
政策当局が経済情勢を判断し経済政策の発動の決定を行う迄
1-3)実行ラグ
決定した政策を実行に移す迄
政策実行から経済に効果が生じる迄
金融政策は決定ラグ、実行ラグが財政政策に比べて短く、外部ラグが長くなります。これは、日銀の9人が金融政策決定会合(時には緊急開催もあり)で、即座に決定、実行することができます。過半数の5票を取ることが出来れば良いので、追加緩和が必要であれば、その政策提案に5人の賛成で決定・実行できます。
財政政策は、与党内の調整や国会での議論などを通じて法制化しないと実行できず、決定から実行までに時間がかかります。安倍晋三総理が消費増税延期のために(修正法案提出・可決に必須ではない)衆院解散したことを見ても、財政政策の決定から実行に時間とコストがかかることが分かります。
外部ラグですが、財政政策はどの部分にいくら、と直接的にお金を使うため効果が早く出ますが、金融政策は様々な波及経路を通じて経済に効果を及ぼすため、半年〜1,2年程度のラグがあります。
金融政策は決定ラグ、実行ラグが財政政策に比べて短く、外部ラグが長くなります。これは、日銀の9人が金融政策決定会合(時には緊急開催もあり)で、即座に決定、実行することができます。過半数の5票を取ることが出来れば良いので、追加緩和が必要であれば、その政策提案に5人の賛成で決定・実行できます。
財政政策は、与党内の調整や国会での議論などを通じて法制化しないと実行できず、決定から実行までに時間がかかります。安倍晋三総理が消費増税延期のために(修正法案提出・可決に必須ではない)衆院解散したことを見ても、財政政策の決定から実行に時間とコストがかかることが分かります。
外部ラグですが、財政政策はどの部分にいくら、と直接的にお金を使うため効果が早く出ますが、金融政策は様々な波及経路を通じて経済に効果を及ぼすため、半年〜1,2年程度のラグがあります。
以上のようなラグがあるからこそ、金融政策と財政政策をうまく組み合わせる必要があるのです。世の中には、財政政策と金融政策を比較してどちらが良いとか悪いとか語る人もいますが、医療の分野では同じ病気を治療するにしても、患者のその時々の状況にあわせて、複数の薬を使い分けるのが普通です。金融政策と財政政策も同じようなものであり、どちらか一方というのでは、経済を速やかに立て直すことはできません。
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経済政策のなかでも、特に雇用に密接に関連した金融政策は様々な波及経路を通じて経済に効果を及ぼすため、半年〜1,2年程度のラグがあるいうのは経済学上の常識です。もし安倍政権がアベノセイダーズ等の批判に負けて、金融緩和政策を中途半端でやめていれば、現在のような雇用の改善はみられなかったはずです。
世の中には、アベノセイダースだけではなく、一般の人でも、マスコミのインタビューなどに応えて賃金が倍にならなければ、経済が良くなったという実感が得られないなどと応えている人もいるようですが、こんなことはいくら経済対策がうまくいったにしても、ありえないです。
どうしてもそうしたいというのなら、企業に居続けるなら、職位の階段を短期で上るしかありません。あるいは、会社をやめて消費者・生活者に支持される事業を起こすしかありません。
ハイパーインフレにならない程度の緩やかなインフレ下で経済が伸びている状況では、1年や2年では賃金があがったにしても、誤差程度にしか感じられませんが、20年〜30年たつと倍になっているという感覚です。
ただし、インフレによって物価が上がっているので、それを相殺すると1.5倍というところでしょうか。
そのようなことでは大したことはないと思われるかもしれませんが、デフレが続けばこれとは反対のことがおこるわけです。デフレでも1年や2年では誤差のような感じてあまり賃金が下がったという感覚はないでしょうが、5年、10年で絶望感が生まれてきます。
20年後には今よりは確実に賃金が上がるであろうと確信できることと、20年たっても賃金が同じが下がっているだろうと確信できることとの間には、天と地ほどの違いがあるのです。
特に若い世代にとってはそうです。20年後には現在の職位のままであっても、賃金は間違いなく上昇して1.5倍くらいにはなっているだろうし、職位がある程度あがれば、賃金が現在の倍になっている可能性は十分にあると考えられるのと、デフレで20年後にはリストラされている可能性すらあると考えるのは雲泥の差です。
若い世代は20年後の自分が今より確実に良い状況にいるであろうとかなりの確率で想像できれば、結婚も積極的にするだろうし、その後の様々なライフステージで結構な消費もするでしょう。車を購入するとか、子供部屋のある家を購入するとか、定年後のことも考慮に入れ様々ライフスタイルを模索するようになります。
しかし、デフレのさなかではそのようなこともままなりません。将来に対する絶望や、不安が支配するようになり、さしせまってとても大きな消費はできないと考えるようになります。とにかく自分の身を守ることで精一杯という状況に追い込まれます。
どちらが良いかといえば、デフレは絶対に駄目です。緩やかなインフレが良いに決まっています。
しかし、経済政策で緩やかなインフレにもっていくには、上記で述べたようにタイムラグがあります。タイムラグがあることを無視して、経済対策をはじめてすぐに効果があがらないとして、すぐに打ち切ってしまえば、元も子もなくなるのです。
こんなことは、何も経済を学ばなくても常識で考えればわかることです。たとえば、ある大企業が何らかの理由で一度業績を落としてしまえば、そこから回復するには少なくとも、3年以上はかかるでしょう。
にもかかわらず、企業が何か手を打ったからといって、打った途端に即座に回復しないのはおかしい、自分の賃金もあがらないなどと騒ぐ社員がいたら、それこそそのような社員はリストラの対象にされるかもしれません。
企業の対策も、政府の対策も、何か手を打ったからといって、すぐに効果が出て、回復などということはありえません。タイムラグの存在を認められない人は、何も成就することはできないでしょう。
「よーし勉強するぞ」と決意し、3日目で「効果が出ないからダメだ」などと思い込むのは、滑稽ですらあります。こういうのを世間では「三日坊主」といいます。
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いずれにしても、そもそも安倍憎しで、何でも安倍総理のせいする人々や、経済回復の兆しを感じるのは賃金がすぐに2倍にならないと感じられないなどというような人々は、常識に欠けていると言わざるをえないです。
常識に欠けた人々には、永遠に満足する機会は訪れないのは確かです。どんなに良い境遇に置かれたにしても、満足感は得られないでしょう。
安倍総理も次の総裁選では、勝ちそうですから、すぐに引退ということはないですが、いずれ引退の時期は必ずきます。総理が他の人に変わったとしても、常識に欠けた人たちは、今度は次の総理を憎んだり、相変わらず政策の効果が見えないままでいるだけ話です。こんな人たちに振り回されるべきではありません。
【関連記事】
立憲民主に“ブーメラン”直撃! 猛批判の自民懇談会と同じ日にパーティー挙行、多数のビール瓶が…―【私の論評】与野党に限らず、国民を不幸にする経済センスのない政治家は要らない(゚д゚)!
ユーチューブの異変と現代版の「検閲」 背後に外国勢力の意向か…―【私の論評】我が国はスパイ防止法もない有様で、中国や北朝鮮を増長させ放題にしている(゚д゚)!