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2018年5月8日火曜日

イラン核合意問題 専門家はこう見る―【私の論評】トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用している(゚д゚)!

イラン核合意問題 専門家はこう見る


アメリカのトランプ大統領が、イラン核合意についての判断を日本時間の9日発表することについて、日本とサウジアラビアの専門家に聞きました。

トランプ政権の悪あがき イランはNPT離脱も

イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授は、中東のレバノンでの総選挙で、イランの支援を受けるイスラム教シーア派組織、ヒズボラの陣営が躍進したことなどが背景にあるとしたうえで、「イランの影響力が地域に広がるのを止めることに躍起になっているトランプ政権の悪あがきではないか」と分析しています。

そのうえで、「イランの核合意から離脱か、破棄するという内容になると思う」と述べ、合意から離脱すると発表する可能性が高いという見方を示しました。

また、アメリカが核合意から離脱した場合、「イラン側の責任ある立場の人から、核合意を履行することと、イランがNPT=核拡散防止条約にとどまることを条件付ける発言が出てきた。かつての北朝鮮と同じようにNPT離脱というカードを振りかざしてくる可能性がある」と述べ、イランが、強硬路線に踏み切る可能性もあると指摘しました。

そのうえで、「IAEA=国際原子力機関が、現在、世界で最も厳しい査察態勢のもとで、イランを監視しているが、これがなくなるため、イラン国内で何が行われているのか一切情報が見えなくなり、核兵器を開発しているとの疑いが生まれてしまう。こうした状態をイスラエルやサウジアラビア、それに、アメリカやヨーロッパが放置するとは考えにくく、イランの核施設に対する限定的な軍事攻撃か、イランの現体制を崩壊させるために、大規模な軍事介入をする可能性もある」との見方を示しました。

合意の見直しは不可欠 一層混乱が深まるおそれも

ムハンマド・スラミ博士

中東のアラブ諸国の盟主を自認するサウジアラビアは、おととしからイランと国交を断絶したほか、イランが内戦が続くイエメンの反体制派を支援するなどして、地域を不安定化させていると激しく非難し、アメリカのトランプ政権にイランへの包囲網を強めるよう働きかけてきました。

サウジアラビアのイラン研究機関の代表を務めるムハンマド・スラミ博士は、NHKのインタビューに対し、「核合意はイランの核兵器開発の阻止につながったが、包括的ではなかった。重要なのはイランのアラブ諸国に対する内政干渉をやめさせることを、核合意に含めることだ」と述べ、サウジアラビアにとって合意の見直しは、不可欠だとの立場を強調しました。

一方、「サウジアラビアは、直接戦争を望んでいない。ただ、イスラエルやアメリカがイランの支援を受けた中東各地の民兵を攻撃する可能性はある」と分析し、イランが影響力を拡大するシリアなどで、軍事的緊張が高まり、一層混乱が深まるおそれがあると指摘しました。

また、イランとの経済取引について、「もし湾岸諸国とビジネスの継続を望むならば、イランとビジネスをするべきでない。ビジネスの継続は、イランのネガティブな行動を支援していることにほかならないからだ」と警告しました。

【私の論評】トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用している(゚д゚)!

上記のニュース、イランの核問題について知らないと理解できないと思いますので、まずはそれについて掲載しておきます。

イランの核開発問題(イランのかくかいはつもんだい)とは、イランが自国の核関連施設で高濃縮ウランの製造を企画していた、またはしている、という疑惑がかけられている問題のこと。

イランは医療用アイソトープの生産を行うテヘラン原子炉の稼働のため、20%高濃縮ウランの自国製造を進めています。通常の原子力発電では低濃縮ウランで十分であり、高濃縮ウランを用いるのは原子爆弾の製造を狙っているからではないか、とアメリカなどから疑いをかけられました。

ただし原子爆弾には90%以上の高濃縮ウランが必要であるため、意見が分かれました。イランは自ら加盟する核不拡散条約(NPT)の正当な権利を行使しているのであり、核兵器は作らないと主張した。当時の第6代イラン大統領マフムード・アフマディーネジャードは『Newsweek』2009年10月7日号の取材に対して「核爆弾は持ってはならないものだ。」と否定する発言をしています。

これに対し核保有国アメリカは、イランの主張に疑念を持ち、核兵器保有に向けての高濃縮ウランであると主張して、国際的にイランを孤立化させようとする政策を取ってました。これらには政治的思惑が見え隠れしており、疑惑段階でイランに経済制裁をとる一方で、既に核兵器を保有しているパキスタンやインドなどにはイランのようなボイコット(制裁)を行いませんでした。

イランの政権は、2013年の大統領選挙によって、憲法規定による任期で退任したアフマディーネジャードからハサン・ロウハーニーに交代しました。

2015年にイランは米英仏独中露6か国協議「P5プラス1」との間で、核開発施設の縮小や条件付き軍事施設査察などの履行を含む最終合意を締結し、核兵器の保有に必要な核物質の製造・蓄積を制限することとなりました。

2016年1月16日、国際原子力機関(IAEA)はイランが核濃縮に必要な遠心分離器などを大幅に削減したことを確認したと発表。これを受けてイランとP5プラス1は同日、合意の履行を宣言し、米欧諸国はイランに対する経済制裁を解除する手続きに入りました。

国連常任理事国であり核保有国である5カ国に加えドイツがメンバーとなっている背景には、ドイツとイランの密接な経済的結びつき―とりわけ原子力分野における―があります。イランの核開発はかなりの程度ドイツの原子力技術に依存しており、シーメンスを始めとするドイツの主要企業がイランとの深いつながりを持っています。

バラク・オバマ前大統領時代の2015年に締結されたこの合意は、イランが核開発を制限するのと引き換えに、欧米諸国がイランに対する経済制裁を解除するという「包括的共同作業計画」です。

これに伴いアメリカでは国内手続きとして、イランの合意遵守状況に基づき、大統領が制裁解除を維持するかどうかを定期的に判断することになっています。今度の期限は5月12日です。

トランプは選挙戦のときから、イランとの核合意はアメリカが締結した「最も愚かな」合意の1つだとして、その「解体」を約束してきました。それでもジェームズ・マティス国防長官ら閣僚に説得されて、これまでは離脱を思いとどまってきたようです。

トランプ米大統領は7日、P5プラス1とイランの核合意に関し、「8日午後2時(日本時間9日午前3時)に私の決定を発表する」とツイッターに書いており、おそらく合意から離脱すると発表すると考えられています。

トランプ大統領のこの動きは北朝鮮問題とも関係があるものと考えられます。北朝鮮がイランのように原子力分野の開発を継続し、潜在的な核の脅威を温存することを事前に防止するための措置ではないかと考えられます。

実際、これに対応したものかどうかはわかりませんが、中国国営メディアは8日、北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が7日から8日まで遼寧省大連を訪問し、習近平国家主席と会談したと報じました。金氏の訪中が確認されたのは3月下旬以来、2回目です。つい最近会ったばかなのに、これは何か新しい動きに対応していると考えられます。

金正恩としては、トランプ氏のこの動きを察知して、これに対応するために習近平と対応を協議するために面談したということも十分考えられます。

中国国営通信 新華社が8日に配信した、中国遼寧省大連で会談する習近平主席(右)と金正恩委員長

金正恩としては、核のリビア方式による完全廃棄は何とか避けたい、最低でもイランのように原子力分野の開発を継続し、いつでも核兵器を開発できる体制を整えたいと目論んでいたのでしょうが、それも封じられる可能性がでてきたわけです。

イラン産石油の最大の「お得意様」は中国です。金正恩としては、その中国が輸入量を減らす可能性は低いとみて。中国がイラン制裁に踏み切るかどうか探りにでたものと考えられます。

12年にアメリカとEUが対イラン経済・金融制裁を強化したとき、国際市場におけるイランの石油販売量は半減しました。そしてこのことが、イランを交渉のテーブルに引き戻す重要な役割を果たしました。

しかし、今度の制裁に中国が参加しなければ、前回ほどの経済的打撃をイランに与えることはできません。そうなればイランを交渉のテーブルに引き戻すことは難しいし、ましてや、より厳しい条件の「新合意」を結ぶことなど不可能です。

そうして、イランが交渉のテーブルにつかなければ、北朝鮮にとっては有利になります。金正恩は、米朝会談で比較的優位に交渉をすすめられることにもなります。しかし、もし米国がイランに軍事攻撃という事態にでもなれば、金正恩は嫌がおうでも、リビア方式以外に生き残る道はないことになります。


いずれにしても、今回のイラン核合意問題の趨勢が米朝会談にも大きな影響を及ぼすことになりそうです。

私は、今回はトランプ氏が「合意から離脱」を発表をすると見ています。そうして、本当にそうするかどうかはわかりませんが、いずれイランへの武力行使の可能性もちらつかせると思います。そうして金正恩を極限まで追い詰めて、米朝会談をかなり有利にすすめるか、金正恩が会談をキャンセルするように仕向け、米軍が武力攻撃をしやすい状況にもっていくものと考えます。

トランプ氏は元々は実業家です。実業家の場合、常に使える資源は限られていることを自覚しています。だから、優先順位をつけます。現在優先度が一番高いのは、北朝鮮です。優先順位をはっきりつけることと、定めた目標に対しては活用できるものは何でも活用するというのが、優れた実業家の真骨頂です。そうして、本当は米国でさえも、使える資源は限られています。

イラクの問題と北朝鮮の問題に関して、どちらを優先するかということを考えれば、北朝鮮に軍配があがるのは当然のことです。

イラン問題は多少複雑になったり、解決が長引いたにしても、イランが北朝鮮のように核ミサイルを米国に発射することはできません。11月の選挙の中間選挙のことを考えても、多少イラン問題が複雑化しようとも、北朝鮮問題の決着への見通しをこのあたりまでにはっきりと、国民に示したいというトランプ氏のしたたかな思惑が透けて見えます。

これは、政治の専門家や、中東の専門家などにはかえって見えにくい局面だと思います。

私は、トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用していると考えるのが妥当な見方であると考えます。

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2018年4月21日土曜日

北朝鮮が核実験場を廃棄、ICBM発射中止 党中央委総会で決定―【私の論評】米朝首脳会談は決裂するか、最初から開催されない可能性が高まった(゚д゚)!


20日、平壌で開かれた朝鮮労働党の中央委員会総会で挙手する金正恩党委員長

 北朝鮮は20日、朝鮮労働党の中央委員会総会を開き、21日から核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を中止し、北東部、豊渓里の核実験場を廃棄すると決定した。朝鮮中央通信が21日、報じた。南北首脳会談や米朝首脳会談を前に、核開発を優先してきたこれまでの路線を大きく転換させた形だ。

 中央委総会は、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長出席の下、「経済建設と核戦力建設の並進路線の偉大な勝利を宣言することについて」と題した決定書を満場一致で採択した。

 決定書で、核実験中止は「世界的な核軍縮に向けた重要な過程」で、北朝鮮は「核実験の全面中止のための国際的な努力に合流する」と表明。「わが国に対する核の威嚇がない限り、核兵器を絶対に使用せず、核兵器や核技術を移転しない」と強調した。実験場廃棄は核実験中止の「透明性を担保するため」とした。

6月初旬にも開催が見込まれる米朝会談に向けた条件整備といえるが、核保有国としての立場は取り下げておらず、「完全な非核化」には言及しなかった。完全な核廃棄を求めるトランプ米政権との非核化交渉は難航も予想される。

 金委員長は、朝鮮半島の緊張緩和と平和に向け、「劇的な変化」が現れているとした上で、核やミサイル開発の進展で「核戦力の兵器化の完結が検証された」と強調。「もはやいかなる核実験や中長距離・大陸間弾道ロケット(ミサイル)試射も必要なくなり、核実験場も使命を終えた」と述べた。

 総会では、これまで掲げてきた並進路線は貫徹されたとし、党と国家を挙げて経済建設に総力を集中する新たな路線も決定した。

 韓国大統領府は21日、「非核化に向けた意味のある進展だ」と今回の決定を歓迎するコメントを発表した。

【私の論評】米朝首脳会談は決裂するか、最初から開催されない可能性が高まった(゚д゚)!

金委員長は20日の党中央委員会総会では、以下のような“勝利宣言”もしています。
「国家核戦力建設という歴史的大業を5年に満たず達成したのは、並進路線の偉大な勝利だ」
核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」は2013年の中央委総会で打ち出され、金正恩体制の政策の柱をなしてきた。昨年10月の前回会議でも、金委員長は、並進路線の貫徹と国家核戦力建設の完遂を鼓舞していました。

昨年開催された第7回朝鮮労働党大会
金委員長は昨年11月の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射を受け、「国家核戦力の完成」を宣言。今回、持ち出したのは「核戦力兵器化の完結」が検証され、もはや核実験やミサイル試射は必要なくなったとの論理です。

廃棄を決めた豊渓里の核実験場は6回にわたって核実験が繰り返されてきました。昨年9月の実験以降は、余波とみられる地震が複数回観測され、これ以上の実験には耐えられないとの分析がありました。早晩廃棄は不可避だったとみられます。

5月18日に撮影された、北朝鮮・豊渓里にある核実験場の衛星写真。
新たに建設が始まったとみられる建物が写っている

完全履行されれば、貿易額の9割を失うという制裁の中、経済政策への集中も避けられない選択でした。

核実験場の廃棄まで宣言したことで、27日に迫った韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との首脳会談の条件は整えられたといえます。

一方で、核保有国として「核軍縮」に臨む姿勢を示しており、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を迫るトランプ政権との溝が埋まったわけではありません。

金委員長は3月、中国の習近平国家主席との会談で、米韓の「段階的で歩調を合わせた措置」が必要だと主張し、今回も既存の核燃料やミサイルの廃棄には踏み込んでいません。

以上のことを総合的に判断すると、朝鮮労働党の中央委員会総会での核に関する決定は簡単にまとめてしまうと、以下のように解釈できます。
① 核の兵器化が完結した現在、検証はすでに終了している。当面は、もう実験の必要はない。 
② 従って発射実験は不要。核実験場も閉鎖する。
①は事実上の核の実戦配置宣言と受け取ることができます。

現状のマスコミ報道等をみていると、①を見て恐怖とショックに陥るということもなく、
②を見て胸を撫で下ろしているように見えます。

今の日本のメディアには、北朝鮮の声明の背景を理解できる能力がないようです。このようなメディアの報道や識者の意見のみを聴いていると、北朝鮮の現実が見えなくなってしまいます。

皆さんも、マスコミ報道などて、②の部分だけを聴いて、少しでも安心してしまうようであれば、かなりマスコミ報道に毒されていると認識すべきと思います。

米国は、北朝鮮の核放棄方式についてリビア方式以外は許容しないでしょう。リビア方式の非核化とは、大量破壊兵器開発計画を推進していたリビアの独裁者カダフィ大佐が当時、自国の開発計画を破棄(非核化)した後、制裁解除、経済支援などの恩恵を得るという米英らの提案を受け入れた内容です。

非核化が先ず先行し、その後に制裁の解除などを得るというやり方です。金正恩氏が主張する同時進行でも「行動対行動」原則でもありません。

問題は、核開発計画を放棄したカダフィ大佐は最終的には政権の存続を失ってしまったという事実です。カダフィは結局新政府軍に殺害されました。

新政府軍の兵士に拘束された瞬間のカダフィ大佐(左)。リビアTVが放送

金正恩氏はカダフィ大佐の二の舞を演じることを絶対避けたいでしょう。だから、北側は「段階的、同時的な措置」に拘ります。換言すれば、核兵器を保有しない北朝鮮の独裁政権は遅かれ早かれカダフィ政権と同じ運命になるという恐れがあるのです。

しかし、それはトランプ大統領のあずかり知らないことです。米国は北朝鮮が、核兵器を放棄するかわりに、制裁解除、経済支援を受けられるようになっても、カダフィのような運命をたどるというのなら、それは金正恩のせいであって、米国や他の同盟国とは全く関係ないという立場です。実際そうです。

北朝鮮国内で、金正恩がどのような運命をたどるかなど、私達にとっては直接関係ありません。それはあくまで、金正恩の都合であって、我々は、北の核の脅威を取り除き、拉致被害者を取り戻したいだけです。

私の感触では、これでさらに米朝首脳会談は決裂するか、そもそも最初から開催されない可能性が高まったと思います。それに続く日朝会談も同じ運命をたどるかもしれません。

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