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2020年4月22日水曜日

広島知事、県職員の給付金10万円活用を撤回 「誤解与える表現だった」―【私の論評】給付金を受け取らないのは、大きな間違い、大事なのはなるべく早く使い切ること(゚д゚)!


湯崎英彦広島県知事=広島県庁で

 新型コロナウイルスの感染拡大で政府が国民に一律支給する10万円を巡り、広島県の湯崎英彦知事は22日、「県職員から給付金を集めることはない」と述べた。県職員の受け取り分を募り、休業要請に伴う支援金などの対策費に活用する考えを示していたが、県議会や県民から抗議が相次ぎ、事実上撤回した。

 湯崎知事は21日の記者会見で「財源を捻出するため聖域なく検討したい」と話し、県職員からの10万円を基金に積み立てるなどして対策費に充当する意向を表明していた。

 県によると、発言の趣旨を尋ねるメールが県庁に2400件以上寄せられ、ほとんどが批判的な内容だったという。記者団の取材に22日応じた湯崎知事は「強制的に徴収するような誤解を与える表現だった」と謝罪。ただ、職員への協力は改めて呼びかけるとし、自身の報酬については減額を県議会に提案するという。【池田一生】

【私の論評】給付金を受け取らないのは、大きな間違い、大事なのはなるべく早く使い切ること(゚д゚)!


島県の湯崎英彦知事は21日、政府が緊急経済対策として全国民に一律給付する10万円について、県職員から供出してもらい、県の財源に充てる考えを示していました。実施するかは今後、検討するとしました。県の休業要請に応じた中小企業などに支払われる10万~50万円の協力支援金の財源約100億円が必要で、湯崎知事は「聖域なく検討したい」と述べました。

県によると、県警や県教委の職員も含む約2万5000人が対象で、全員が受け取れば計算上、総額25億円に上ります。県の財政調整基金の残高は、2018年7月の西日本豪雨からの復旧などで取り崩しが続き、20年度末の残高は33億円の見込み。湯崎知事は「感染拡大防止のためにやらなければいけないことはたくさんあるが、圧倒的に財源が足りない」と理解を求めていました。

一方、県職員からは不満の声が漏れていました。男性職員の一人は「事前に説明があっても良かったのでは。強制でなくても、『右にならえ』で出さざるを得なくなると思う」と戸惑っていました。

総務省特別定額給付金室は「あくまで家計の支援を目的とした個人への給付で、公務員から寄付を募って事業の財源とすることは想定していない」としています。

この件について、経済学者の田中秀臣氏がツイートをしており、私はリプライをしました。その内容を以下に掲載します。


湯崎英彦広島県知事のこの発言は、本当に愚劣です。そうして本日は、「職員への協力は改めて呼びかけるとし、自身の報酬については減額を県議会に提案するという」とさらに、恥の上塗りのような発言をしています。

この人には、経済的センスが全くないのかもしれません。今から予言しておきたいです。広島県はこの知事のもとでは、コロナからの復興が他都道府県よりもかなり遅れることでしょう。広島県民の方々は、もっと憤るべきです。

なお、私のリプライで、テレビのインタビューで「受け取らない」とする人々とは、高齢者の方々二人で、この二人を想定していました。このような方も大勢いらっしゃるのかもしれません。

しかし、10万円の給付金を受け取らないことは美徳でも何でもありません。受け取らない人が大勢でた場合、本来そのお金が市場に出回るはずなのに、そうではなくなり、苦しむ人も大勢でてくる可能性があります。さらに、これらが出回れば、市場に流通するお金が増えるということで、中国肺炎で景気が低迷するのを下支えする作用が減殺されることになります。

そうして、受け取らない政治家が国民にやさしいわけでもありません。 「美徳の強制」が蔓延っても自分の頭で考えるべきです。それにしても、政治家の中にも「給付金を受け取らない」ことを当然とする人たちも大勢いることに、驚きました。

そもそも、政治家が給付金を受け取らないという態度は次の給付を少ないものにするための、格好の隠れ蓑になるだけです。お金はばら撒いて使うことで、お金の価値は下がり貧富の格差は平準化する事実をもう一度見つめなおすべきです。お金の価値は年々下がるからこそ労働や社会資本の形成が進むのです。だかこそ、緩やかなインフレは経済に良い影響をもたらすのです。

このような観点からも、給付金10万円受け取り拒否は「公衆の敵」と言っていいと思います。市中に本来還流すべき現金を止めるのですから。それを与党幹部が率先してやろうというのは、たいへんおかしな話です。

こういう政治家の意味のない選択が、国民の給付金に対する姿勢を、妙に緊縮寄りにしてしまうのです。本当に日本の政治家は愚かだと思います。これは、意見の相違とかではなく、完全に駄目です。消費・将来の消費(=貯蓄、不安の解消)こそいまが最善の日本を救う政策だと国民に示すことを忘れた政治家の最悪の振る舞いです。

私自身としては、給付金は当然受け取り、受け取ったその日にでも何かに使おうと思います。違法なことに、お金を使うのは駄目ですが、合法的なものであれば、何に使っても良いと思います。できるだけすぐ使うべきと思います。

何やら、寄付金を受けとつて寄付する等の政治家もいますが、埼玉県和光市の松本武洋市長は本日、給付に関して「10万円、私は申請して、全部地域で消費させていただきます」とツイート。インターネット上で反響を呼んでいます。

埼玉県和光市の松本武洋市長

ツイートの内容を以下に掲載します。

「10万円、私は申請して、全部地域で消費させていただきます。申請しないと国庫に溶けてしまうだけ。本来、和光市には来ないお金なので、全額きっちり市内で使います。時節柄、飲食店のテイクアウトかなあ。タグ作ってみました。♯10万円の使い道♯10万円もらう政治家」

SNS上には「ぐうの音も出ないほど正しい姿」「申請しないと国庫に溶けてしまうだけ。そんな考えはなかったな」「和光市長さん、素晴らしい!♯10万円もらう政治家がもっともっと出て、どんどん地域で消費してくれますように!素敵な♯10万円の使い道どんどん紹介してください!」などの書き込みが見られました。

私としては、給付金に関しては一番良いのは、日本国民が全員受け取りなるべくはやく、全額使い切ることだと思います。使い道は個人の自由です。先にも述べたように、合法的なものに使えば、たとえ誰に対して使ったとしても、そのお金は市場に出回り、誰かの賃金等になり、その賃金がまた何かにつかわれるということで、お金は確実に日本国内を周ります。しかし、最初から受け取らなければそその分お金は市場に出回らなくなります。これは、大きな間違いです。

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2018年5月8日火曜日

イラン核合意問題 専門家はこう見る―【私の論評】トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用している(゚д゚)!

イラン核合意問題 専門家はこう見る


アメリカのトランプ大統領が、イラン核合意についての判断を日本時間の9日発表することについて、日本とサウジアラビアの専門家に聞きました。

トランプ政権の悪あがき イランはNPT離脱も

イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授は、中東のレバノンでの総選挙で、イランの支援を受けるイスラム教シーア派組織、ヒズボラの陣営が躍進したことなどが背景にあるとしたうえで、「イランの影響力が地域に広がるのを止めることに躍起になっているトランプ政権の悪あがきではないか」と分析しています。

そのうえで、「イランの核合意から離脱か、破棄するという内容になると思う」と述べ、合意から離脱すると発表する可能性が高いという見方を示しました。

また、アメリカが核合意から離脱した場合、「イラン側の責任ある立場の人から、核合意を履行することと、イランがNPT=核拡散防止条約にとどまることを条件付ける発言が出てきた。かつての北朝鮮と同じようにNPT離脱というカードを振りかざしてくる可能性がある」と述べ、イランが、強硬路線に踏み切る可能性もあると指摘しました。

そのうえで、「IAEA=国際原子力機関が、現在、世界で最も厳しい査察態勢のもとで、イランを監視しているが、これがなくなるため、イラン国内で何が行われているのか一切情報が見えなくなり、核兵器を開発しているとの疑いが生まれてしまう。こうした状態をイスラエルやサウジアラビア、それに、アメリカやヨーロッパが放置するとは考えにくく、イランの核施設に対する限定的な軍事攻撃か、イランの現体制を崩壊させるために、大規模な軍事介入をする可能性もある」との見方を示しました。

合意の見直しは不可欠 一層混乱が深まるおそれも

ムハンマド・スラミ博士

中東のアラブ諸国の盟主を自認するサウジアラビアは、おととしからイランと国交を断絶したほか、イランが内戦が続くイエメンの反体制派を支援するなどして、地域を不安定化させていると激しく非難し、アメリカのトランプ政権にイランへの包囲網を強めるよう働きかけてきました。

サウジアラビアのイラン研究機関の代表を務めるムハンマド・スラミ博士は、NHKのインタビューに対し、「核合意はイランの核兵器開発の阻止につながったが、包括的ではなかった。重要なのはイランのアラブ諸国に対する内政干渉をやめさせることを、核合意に含めることだ」と述べ、サウジアラビアにとって合意の見直しは、不可欠だとの立場を強調しました。

一方、「サウジアラビアは、直接戦争を望んでいない。ただ、イスラエルやアメリカがイランの支援を受けた中東各地の民兵を攻撃する可能性はある」と分析し、イランが影響力を拡大するシリアなどで、軍事的緊張が高まり、一層混乱が深まるおそれがあると指摘しました。

また、イランとの経済取引について、「もし湾岸諸国とビジネスの継続を望むならば、イランとビジネスをするべきでない。ビジネスの継続は、イランのネガティブな行動を支援していることにほかならないからだ」と警告しました。

【私の論評】トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用している(゚д゚)!

上記のニュース、イランの核問題について知らないと理解できないと思いますので、まずはそれについて掲載しておきます。

イランの核開発問題(イランのかくかいはつもんだい)とは、イランが自国の核関連施設で高濃縮ウランの製造を企画していた、またはしている、という疑惑がかけられている問題のこと。

イランは医療用アイソトープの生産を行うテヘラン原子炉の稼働のため、20%高濃縮ウランの自国製造を進めています。通常の原子力発電では低濃縮ウランで十分であり、高濃縮ウランを用いるのは原子爆弾の製造を狙っているからではないか、とアメリカなどから疑いをかけられました。

ただし原子爆弾には90%以上の高濃縮ウランが必要であるため、意見が分かれました。イランは自ら加盟する核不拡散条約(NPT)の正当な権利を行使しているのであり、核兵器は作らないと主張した。当時の第6代イラン大統領マフムード・アフマディーネジャードは『Newsweek』2009年10月7日号の取材に対して「核爆弾は持ってはならないものだ。」と否定する発言をしています。

これに対し核保有国アメリカは、イランの主張に疑念を持ち、核兵器保有に向けての高濃縮ウランであると主張して、国際的にイランを孤立化させようとする政策を取ってました。これらには政治的思惑が見え隠れしており、疑惑段階でイランに経済制裁をとる一方で、既に核兵器を保有しているパキスタンやインドなどにはイランのようなボイコット(制裁)を行いませんでした。

イランの政権は、2013年の大統領選挙によって、憲法規定による任期で退任したアフマディーネジャードからハサン・ロウハーニーに交代しました。

2015年にイランは米英仏独中露6か国協議「P5プラス1」との間で、核開発施設の縮小や条件付き軍事施設査察などの履行を含む最終合意を締結し、核兵器の保有に必要な核物質の製造・蓄積を制限することとなりました。

2016年1月16日、国際原子力機関(IAEA)はイランが核濃縮に必要な遠心分離器などを大幅に削減したことを確認したと発表。これを受けてイランとP5プラス1は同日、合意の履行を宣言し、米欧諸国はイランに対する経済制裁を解除する手続きに入りました。

国連常任理事国であり核保有国である5カ国に加えドイツがメンバーとなっている背景には、ドイツとイランの密接な経済的結びつき―とりわけ原子力分野における―があります。イランの核開発はかなりの程度ドイツの原子力技術に依存しており、シーメンスを始めとするドイツの主要企業がイランとの深いつながりを持っています。

バラク・オバマ前大統領時代の2015年に締結されたこの合意は、イランが核開発を制限するのと引き換えに、欧米諸国がイランに対する経済制裁を解除するという「包括的共同作業計画」です。

これに伴いアメリカでは国内手続きとして、イランの合意遵守状況に基づき、大統領が制裁解除を維持するかどうかを定期的に判断することになっています。今度の期限は5月12日です。

トランプは選挙戦のときから、イランとの核合意はアメリカが締結した「最も愚かな」合意の1つだとして、その「解体」を約束してきました。それでもジェームズ・マティス国防長官ら閣僚に説得されて、これまでは離脱を思いとどまってきたようです。

トランプ米大統領は7日、P5プラス1とイランの核合意に関し、「8日午後2時(日本時間9日午前3時)に私の決定を発表する」とツイッターに書いており、おそらく合意から離脱すると発表すると考えられています。

トランプ大統領のこの動きは北朝鮮問題とも関係があるものと考えられます。北朝鮮がイランのように原子力分野の開発を継続し、潜在的な核の脅威を温存することを事前に防止するための措置ではないかと考えられます。

実際、これに対応したものかどうかはわかりませんが、中国国営メディアは8日、北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が7日から8日まで遼寧省大連を訪問し、習近平国家主席と会談したと報じました。金氏の訪中が確認されたのは3月下旬以来、2回目です。つい最近会ったばかなのに、これは何か新しい動きに対応していると考えられます。

金正恩としては、トランプ氏のこの動きを察知して、これに対応するために習近平と対応を協議するために面談したということも十分考えられます。

中国国営通信 新華社が8日に配信した、中国遼寧省大連で会談する習近平主席(右)と金正恩委員長

金正恩としては、核のリビア方式による完全廃棄は何とか避けたい、最低でもイランのように原子力分野の開発を継続し、いつでも核兵器を開発できる体制を整えたいと目論んでいたのでしょうが、それも封じられる可能性がでてきたわけです。

イラン産石油の最大の「お得意様」は中国です。金正恩としては、その中国が輸入量を減らす可能性は低いとみて。中国がイラン制裁に踏み切るかどうか探りにでたものと考えられます。

12年にアメリカとEUが対イラン経済・金融制裁を強化したとき、国際市場におけるイランの石油販売量は半減しました。そしてこのことが、イランを交渉のテーブルに引き戻す重要な役割を果たしました。

しかし、今度の制裁に中国が参加しなければ、前回ほどの経済的打撃をイランに与えることはできません。そうなればイランを交渉のテーブルに引き戻すことは難しいし、ましてや、より厳しい条件の「新合意」を結ぶことなど不可能です。

そうして、イランが交渉のテーブルにつかなければ、北朝鮮にとっては有利になります。金正恩は、米朝会談で比較的優位に交渉をすすめられることにもなります。しかし、もし米国がイランに軍事攻撃という事態にでもなれば、金正恩は嫌がおうでも、リビア方式以外に生き残る道はないことになります。


いずれにしても、今回のイラン核合意問題の趨勢が米朝会談にも大きな影響を及ぼすことになりそうです。

私は、今回はトランプ氏が「合意から離脱」を発表をすると見ています。そうして、本当にそうするかどうかはわかりませんが、いずれイランへの武力行使の可能性もちらつかせると思います。そうして金正恩を極限まで追い詰めて、米朝会談をかなり有利にすすめるか、金正恩が会談をキャンセルするように仕向け、米軍が武力攻撃をしやすい状況にもっていくものと考えます。

トランプ氏は元々は実業家です。実業家の場合、常に使える資源は限られていることを自覚しています。だから、優先順位をつけます。現在優先度が一番高いのは、北朝鮮です。優先順位をはっきりつけることと、定めた目標に対しては活用できるものは何でも活用するというのが、優れた実業家の真骨頂です。そうして、本当は米国でさえも、使える資源は限られています。

イラクの問題と北朝鮮の問題に関して、どちらを優先するかということを考えれば、北朝鮮に軍配があがるのは当然のことです。

イラン問題は多少複雑になったり、解決が長引いたにしても、イランが北朝鮮のように核ミサイルを米国に発射することはできません。11月の選挙の中間選挙のことを考えても、多少イラン問題が複雑化しようとも、北朝鮮問題の決着への見通しをこのあたりまでにはっきりと、国民に示したいというトランプ氏のしたたかな思惑が透けて見えます。

これは、政治の専門家や、中東の専門家などにはかえって見えにくい局面だと思います。

私は、トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用していると考えるのが妥当な見方であると考えます。

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2017年8月27日日曜日

なぜ日銀の金融政策では、AIをうまく活用できないのか―【私の論評】AIは2013年以前の日銀がいかに愚かだったかをより鮮明にする(゚д゚)!

なぜ日銀の金融政策では、AIをうまく活用できないのか

問題は「不透明さ」と「常識の欠如」

最近人間はチェスではAIに負けている
 日銀の政策決定は「不透明」

日本銀行の金融政策を分析・予測するために、AI(人工知能)を用いる試みが、行き詰まっているとの報道があった。AI分析の一例としては、黒田東彦総裁の記者会見や日銀の出す「金融経済統計月報」をAIが読み込み、その特徴から追加緩和などの可能性を予測するものなどが考えられていた。

クレディ・スイス証券もAI分析を取り入れた「日銀テキストインデックス」なるものを公表していたが、計画が行き詰まり2016年に公表を取りやめている。だが、はたして本当に日銀の金融政策をAIで予測することは不可能なのだろうか。

まず、そもそもクレディ・スイス証券が開発したのは「テキストマイニング」というもので、「AI」というと少し大げさだ。経済学におけるテキストマイニングとは、もとはと言えば様々なニュースから株価を予測するモデルのことを指す。

具体的には、黒田総裁の会見など、日銀のテキストから物価に対する見方を数量化して、実際の金融政策と照らし合わせるというもの。「AI」と聞くと最新技術かと思うが、実は古くから採られてきた手法である。

中央銀行の金融政策決定に関する研究は、有名なものではスタンフォード大教授のジョン・テイラー氏が1993年に示した「テイラールール」がある。

このルールに基づくと、政策金利は、現実のインフレ率が目標インフレ率を上回るほど、また実質GDP成長率が潜在GDP成長率を上回るほど引き上げられ、反対に下回れば引き下げられる。このルールに基づいて分析を試みれば、実際の金融政策は9割方予想できると言われている。

もっとも、このルールは、FRB(米連邦準備制度理事会)では有効だが、日銀では通用しない。というのも、日銀がどのようなセオリーで金融政策決定をしているか、不透明なところが多いからだ。クレディ・スイス証券の分析が上手く機能しなかったのも、それが理由として考えられる。

 日銀の金融政策は「常識」が欠けていた

実際、日銀の金融政策はほかの先進国のそれとは大きな違いがある。たとえば他の先進国では、金融政策は物価の安定と雇用の確保のために行うというのが「常識」とされている。このため、インフレ率と失業率が、望ましい値から乖離しないように金融政策が行われている。

ところが、日銀のこれまでの金融政策には、「雇用の確保」が重要な目的であるという「常識」が欠けていた。だから、海外の予測モデルは日銀の金融政策に適用できなかったのだ。

しかも日銀の公表文書は基本的に日銀事務方が書いているが、これはずっと金融政策の「常識」を反映しない従来の日銀スタイルで書かれてきた。クレディ・スイス証券がそうした文書を分析しても、金融政策をうまく予測できなかったのは仕方ないだろう。

この7月、民主党時代からの日銀審議委員2名が退任した。これをきっかけに潮目が変わり、欧米的な経済モデルを取り入れようと意識改革が行われるかもしれない。

そうして金融政策の方法論さえしっかりしていけば、政策予測は決して難しいことではなくなる。筆者の感覚では、自動車の完全自動運転か日銀の自動金融政策の完成か、どちらが早いかというところだ。

【私の論評】AIは2013年以前の日銀がいかに愚かだったかをより鮮明にする(゚д゚)!

私はAIというと、あの名画『2001年宇宙の旅』のHAL9000を思い出してしまいます。以下のこの映画から、HAL9000が人に対して反乱を起こす場面の動画を掲載します。


この、今でいう人工知能でもある、HAL9000。何故HALは反乱を起こし、人間を殺害するに至ったのでしょうか。

これは一般的には「正確な情報を正確に処理する事を義務づけられた人工知能であるHALは、乗組員にはモノリスの情報を隠しながらも、同時にモノリスと地球外知的生命体の調査は行うように命令されていたため、何も知らされていない乗組員と共同生活の中でその矛盾に苦しみ、一種の精神疾患のような状態に陥った」、「挙動不審なHALの状態に乗組員は危機感を憶え、高度な論理回路だけ切断するという検討を始めた。それを自身の死刑宣告だと判断したHALは人間を排除し、知的生命体の調査は自身の能力だけでするしかない、と考え実行に移した」とされているようです。

この説明を納得するか否か、また他の説明が可能か等はここでは検証しません。個人的には十分納得できるレベルだと思います。

そうして、日本銀行の金融政策を分析・予測するために、AI(人工知能)を用いる試みが、行き詰まるのもこれと同じ理由です。

映画『2001年宇宙の旅』の監督スタンリー・キューブリック氏
正確な情報を正確に処理する事を義務づけられたAIが、方やマクロ経済の常識ともいわれる理論に従ってインフレ率と失業率が、望ましい値から乖離しないように構築されているのにもかかわらず、日銀のこれまでの金融政策には、「雇用の確保」が重要な目的であるという「常識」が欠けていて、とんでもない政策をとってきたからです。

この日銀の政策を正しいものとして、インプットすればAIは自己矛盾を起こし、制御不能となります。これでは、AI(人工知能)を用いる試みが、行き詰まってしまうのも無理はありせん。過去の日銀の政策をみると、景気が落ち込み本来緩和すべきときに引き締めを行い、それで景気が悪くなってもさらに引き締めを行い、それがためにデフレになっても、引き締めるか緩和はしないというものでした。

このAI他のシステムと結びついてはいないで、直接害を及ぼすことはありませんが、もし銀行のシステムなどと結びついたとしたら、大変なことになるかもしれません。それこそ、とんでもない金融政策を打ち出し、それがために大勢の人が苦境においこまれ、途端の苦しみに追いやられら、自殺する人もでるかもしれません。

実際、日銀の間違った金融政策が是正された2013年あたりから、それまで自殺者が3万人台だったのが、2万人台に減っています。これについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
“安倍辞めろ”の先にある「失われた20年」とデフレの再来 雇用悪化で社会不安も高まる―【私の論評】安倍首相が辞めたら、あなたは自ら死を選ぶことになるかも(゚д゚)!
自民党候補の応援演説を行った安倍晋三首相=7月1日午後東京都千代田区

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より失業者と自殺者の推移のグラフとその説明のみを以下に引用します。

ところで、自殺者数と景気は相関が高いことが知られていますが、この数年間の経済状況の改善と、さらに自殺対策にここ数年経費を増加させていく方針を採用していることもあり最近は自殺者数が減っています。類似の事例はホームレス対策にもいえ、ホームレス数は景気要因に関わらず対策費の増加に合わせて減少しています。 
自殺者数の減少については、マクロ(景気)とミクロ(自殺対策関連予算の増加スタンス)の両方が功を奏していると考えられます。 
自殺対策関連予算の推移はまとまったデータがないので拾い集めてみると
平成19年 247億円 平成20年 144億円 平成21年 136億 平成22年 140億 平成23年 150億 平成24年 326億 平成25年 340億 平成26年 361億 となってます。 
日本がデフレに突入した、97年あたりからそれまで、2万台であった自殺者数が、一挙に3万人台になっています。このグラフをみただけでも、経済政策の失敗は自殺者数を増やすということがいえそうです。
再度「2001年宇宙の旅」に戻ります、私がかねてから、疑問に思っていたのは、「どうしてキューブリックとクラークは人工知能が反乱を起こして、クルーを殺すという設定を持ち出して来たのか?」ということです。

実はその裏話の一部始終がクラークの著書『失われた宇宙の旅2001』で語られています。当初はクルー全員が無事に木星圏にたどり着き、ビック・ブラザー(巨大なモノリス)の詳細な調査が行われる予定でした。その後、スペース・ポッドに乗り単独でビックブラザーの調査に向かったボーマンが変化したモノリスに飲み込まれる、という流れになっていました。

最終的にこの案はボツになり、ボーマンだけが生き残る事になりました。その理由は明確ではありませんが、木星探査のプロセスを映像化するには予算が足りない、または当時のSFX技術で映像化するにはハードルが高すぎる(実際木星を映像化するだけでも悪戦苦闘していました)など理由はいくらでもありそうですが、クラークは「そもそもオデッセウスも唯一の生存者だから」と説明しています。つまり神話との共通性を示唆したかってのでしょう。

『2001年宇宙の旅』の原作者アーサー・C・クラーク氏
ではどうやってボーマン以外の乗組員を殺害するのか?当初は「ホワイトヘッド(映画ではプールに名前が変更)のポッドが故障により暴走しアンテナと衝突、ホワイトヘッドは回収不可能になりアンテナも失われる。その後人工冬眠中のクルーも蘇生に失敗する」というものでした。

これは「偶然にも事故が連発する」という説得力のないもので、当然のようにボツになりますが、同時にヒントももたらされました。上記の原案の中には「ボーマンがアンテナ回収のためポッドで離船しようとした際、人工知能HAL9000(この時はアテーナという名前でした)にそれを断られる」というシーンがあります。これをふくらませて「全システムを管理する人工知能が反乱を起こしクルーを殺害する」という案に落ち着きました。

つまり「HALの反乱」はボーマン一人を生き残らせるための後付けの設定でしかなかったのです。当然先に述べたその原因も後付けです。でもこれによって興味深い偶然が起こります。

つまり「人間と人工知能、同じく知性を持った二つの種のどちらが未来を勝ち取るかという生存競争」という側面がこの物語に付加されたのです。これにはキューブリックもクラークも「しめた」と思ったに違いありません。クラークはこの解釈を効果的に続編『2010年宇宙の旅』(これ以降も)に取り込み、キューブリックは『A.I.』で正面からこの問題に取り組む予定でした。

こんな裏事情を知ってしまうと「な~んだ」となってしまうかも知れません。クラークは「意図したものもあれば、偶然そうなったものもある」と語っています。その偶然がどの部分を指すのかはともかく、この素晴らしいアイデアは、彼らが繰り広げた「際限のないブレーンストーミング」の結果呼び込み事のできた偶然ではない「必然」だったいえるでしょう。

いずれにせよ、中央銀行による金融政策は、HAL9000が担当した、木星探査のための宇宙船全システムの制御という膨大で、複雑なものと比較すれば、極めて単純です。

システムの定義から、定量的なものは完璧に無視して、定性的なものだけとりあげれば日銀のシステムは、以下のようになります。

「不景気になりそうになった場合は適当な時期に金融を緩和する。デフレのときはただちに金融緩和をする。景気が過熱しそうな場合は、適当な時期に金融引締めをする。ハイパーインフレなら、ただちに金融引締めを行う。判断のための指標としては、貨幣の通貨量、物価と雇用状況を用いる」

という具合に、非常にシンプルなものです。無論、定量的なものまであらわすとなるとかなり複雑になります。

HAL9000の心臓部 メモリバンク
一方HAL9000の場合は、「木星まで、行って無事帰還する」などのように定義したとしたら、これは定義などとはいえず、単なる全システムの目的に過ぎません。日銀のシステムの目的は「日本国の金融政策を適正に定める」ということになるでしょう。

システムの定義を定めるのでも、HAL9000は、宇宙船そのものの制御、冬眠を含む乗組員のための環境制御、その他モノリス探査の制御なども含みより複雑です。定義を定めるためだけでも、A4用紙数枚になりそうです。日銀のシステムよりははるかに複雑になります。定量的なことまで含めると、さらにとんでもなく複雑なものになります。

このようなことを考えると、私は意外と、自動車の完全自動運転より単純ではないかと思います。このようなことを考えると、旧日銀はこのような単純なことすらまともにできなかったということが暴露されてしまったと思います。

これから、まともな金融政策をやりはじめてからのデータをもとにして、日本銀行の金融政策を分析・予測するために、AI(人)を作成すれば意外と短期でできあがることになるかもしれません。

そうして、これが成功したあかつきには、少なくともAIは、中央銀行が行う金融政策に関して、定量的なものはともかく定性的には間違うことはないと思います。デフレのときに金融引締めを行う、インフレのときに金融緩和を行うなどという馬鹿なことはしないでしょう。

そうして、いまでも明らかになっているのですが、2013年以前までの日銀がいかに愚かだったかをより浮き彫りにすると思います。

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