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2020年4月26日日曜日

このままでは二の舞に…⁉コロナ禍で日銀を立て直すことは出来るのか―【私の論評】財務省に対する積極財政への圧力は高まるばかりであり、日銀の金融政策は量的緩和の一方向しかない(゚д゚)!

このままでは二の舞に…⁉コロナ禍で日銀を立て直すことは出来るのか

新・日銀審議委員の実力はいかに


新・日銀審議委員、安達誠司氏に期待すること

3月26日、日銀の審議委員に民間エコノミスト出身の安達誠司氏が就任した。

日銀

新型コロナウイルスによる経済悪化が危惧される真っ只中での就任となり、同日の記者会見では「いつ底打ちするのか全く見えない状況だ」と語った。また、金融政策運営については「企業を中心に資金面で持ちこたえるような政策が必要だ」と指摘した。

一橋大学大学院を修了後、大和総研やドイツ証券などを渡り歩いた安達氏は、エコノミストきってのリフレ派とされる。

先の会見でも、「経済が危機的状況にあっては、金利を動かすよりも流動性の供給が重要だ」と述べている。コロナ禍にあって今ひとつ目立った金融政策を打ち出せていない日銀を立ち直らせることはできるのか。

安達氏の就任が決まったのは、国会同意人事があった1月28日のこと。氏のコラムなどを読むと、その直前に「消費税10%の導入によりどんなことが起きたか」といった趣旨の記事がある。定量的な観点や歴史的な視点も併せ持っていると筆者は感じた。

ひとくちにエコノミストと言っても、タイプは千差万別だ。独自の分析というよりも、多くの意見を聞いて主張を決める、マスコミチックな人も多い。一方で、しっかりとした理論をもとに自分で定量計算できる学究タイプもいる。

現在のような非常事態における政策実践の現場では、前者のいろいろな意見を総合するマスコミタイプより、後者の自分で計算のできる学究タイプのほうが重宝される。

というのは、この学究タイプの定量的な分析や意見は政策決定に直結するもので、しかも事後的に検証可能だからだ。もし成果が出なくても、その後の政策運営の資料になる。

しかも、実際の政策決定では、関係各所の調整・説得が欠かせないが、定量的な議論は非常に説得力がある。

黒田総裁の今の体たらくを正してほしい

いわゆるリフレ派の中で、典型的な学究タイプは、今回の安達氏と現日銀審議委員の片岡剛士氏だ。日本経済を研究するリフレ派の人間は、片岡氏と安達氏の経済分析結果の知見を積極的に取り入れている。

ところがどうやら、日銀組織全体には彼らの影響力の大きさが伝わっていないようだ。
コロナ・ショックに対して、米FRB(連邦準備理事会)は、3月15日にゼロ金利政策と量的緩和に踏み切った。23日には社債購入も検討と再び追加の金融緩和を行うことを決めた。これで、FRBは80兆円程度の追加金融緩和になる。

一方、日銀の黒田東彦総裁は、3月16日に上場投資信託(ETF)の購入を6兆円積み増ししたに過ぎない。日米でカネの刷り方を比較すると、日銀のほうが刷り負けている。
リーマン・ショックの際、日銀は欧米の中央銀行に比べてカネを刷り控えたせいで、日本経済に大打撃を与えたとされる。このままではその二の舞になってしまう。

安達氏は原田泰氏の後任で、リフレ派は多数決で決まる審議委員会の少数派である。したがって、政策決定そのものへの影響は限定的だろう。冒頭に引いた会見でも、発言は控えめだった。

安達氏ひとりで日銀が劇的に変わるとは言い切れないが、審議委員会で大暴れし、黒田総裁の今の体たらくを正していただくことに期待したい。

週刊現代2020年4月11・18日号より

【私の論評】財務省に対する積極財政への圧力は高まるばかりであり、日銀の金融政策は量的緩和の一方向しかない(゚д゚)!

新型コロナウイルス感染拡大で市場が動揺する中、27日の金融政策決定会合で、「年間80兆円増をめど」とする国債の購入枠撤廃を柱とする追加金融緩和策が盛り込まれる見通しです。社債やコマーシャルペーパー(CP)の買い入れ額拡大や企業の資金繰り支援も検討します。

追加緩和が実施されれば、上場投資信託(ETF)の購入額倍増などを決めた3月に続いて2会合連続となります。

米連邦準備制度理事会(FRB)はすでに、無制限で国債を買い入れる方針を打ち出しました。日銀も買い入れ枠にとらわれず国債を購入し市場に資金を供給する姿勢を示すことで各国の中央銀行や政府と歩調を合わせ、金融市場の安定も目指します。

日銀は黒田東彦(はるひこ)総裁就任直後の2013年4月、長期国債の保有残高が年間約50兆円増えるよう購入することを決定。14年10月に約80兆円に引き上げました。ただ、市場に出回る国債が少なくなっていることなどを理由に、最近は80兆円を大幅に下回る水準で推移していました。

日銀は、□□を検討するとか、〇〇を目指すとか等と悠長なことを言っているのではなく、すぐに2013年当時の異次元の量的緩和の姿勢に戻るべきです。

安達氏や、片岡氏が存分に暴れまわって、他の審議員らを突き動かしてほしいものです。

現在の日銀審議委員

現在、財務省の緊縮財政により、あまり積極的な財政が実施されていませんが、それでも先日は個々人に給付金10万円が、給付されることが決まりました。

現状では、東京都や大阪府では、パチンコ店の営業自粛を要請していますが、それでも営業を続ける店舗あり、大阪府では営業を続ける店舗の名称を公開しましたが、結局さらに名指しされた店舗を訪れる客を増やすという結果になりました。

東京都も営業を続ける店舗の名称を28日に、公開すると小池知事は語っていましたが、これを実行すれば、営業しているパチンコ店を都内はもとより、隣接の県などの、パチンコ愛好者ら、特にパチンコ依存症の愛好者らに、営業している店舗の宣伝をするようなもので、かえって来店者を増やす結果になるでしょう。

吉村知事も、小池知事も、店舗名公表は、特措法45条第2項に基づく要請をし、そうして店舗名の公表を始めていきたいとしていますが、特措法を根拠とする措置でも、パチンコ店では依存症者が存在するのは最初からわかっていることであり、店名公表では逆効果です。特措法に基づくなら、本来は店舗名を公表するのではなく、管理者や経営者の氏名公表が筋です。



それに、強制的に休業を求めるというのなら、休業補償を求める声が大きくなっていくことでしょう。パチンコ店に対して休業補償をするというのなら、他業種の店舗もそれを求めるようになるでしょう。さらに時がたてば、多くの国民から減税を求める声も大きくなっていくことでしょう。

このように、現場では、大きな混乱がありながらも、つまるところ積極財政を求める声は、各方面でかなり大きくなっていくことが予想されます。

さしもの、財務省もいずれこれらの声を無視するわけにはいかなくなるでしょう。いままでのようなわけにはいかないのです。たとえば、台風などの自然災害や、東日本大震災のときには、地域が限定されましたが、現在は東京都を含めて全国が中国ウイルス感染のために、大変なことになっているのです。規模が全く異なるのです。

コロナ対策における自治体の動きも、政府の動きも、なぜ鈍いのかといえば、財務省が積極財政を貫き通すために、抵抗しているからです。この財務省の抵抗は、いずれ多くの国民の知るところとなるでしょう。

政治家の多くが、財務省の国税庁の動きに牽制されて、財務省にはまともには逆らえないなどの事情もありますが、それにしても、個々の政治家の支持母体の有権者らの、さらなる積極財政を求める声は大きくなってくるのは、目に見えています。

無論、有権者の多くは、財務省など意識してないかもしれません。ただ、休業補償や、さらなる給付金、減税などを求める声は、より切実になっていくことでしょう。この有権者の声は、ここしばらくは、日増しに大きくなることはあっても、衰えることはありません。この声を政府に届けない財務省のポチのような政治家は、与野党に限らず木偶の坊と見なされ、次の選挙では支持を得られなくなる可能性もあります。

とにかく緊縮さえすれば、良いという財務省のスタンスは、元々何の正当性もなく、平成年間のほとんどがデフレという有様であり、早晩続けられなくなることが、十分予想されます。財政赤字などの嘘や、財政均衡のための増税の必要性の嘘も、最近ではかなり多くの人が知るようになっています。今後そのような人はますます増えるでしょう。

とにかく日銀は、財務省が緊縮路線を崩さないというのなら、量的緩和を拡大して景気を下支えするしかありません。さらに、財務省が嫌々ながも、積極財政に転じた場合でも、なおさら金融緩和をしなければなりません。

日銀は、いずれに転んでも、大規模な金融緩和に踏み切らなければならないのです。なぜ、政府が積極財政をはじめた場合、金融緩和をしなければならないのか、ということはこのブログでも、掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】米と「ケタ違い」だった日銀緩和 80兆円の量的緩和復帰すれば、財政出動の効果も発揮される―【私の論評】簡単なことがわからない日銀総裁と、日本の政治家(゚д゚)!
日銀黒田総裁

結局のところ、日本のような変動相場制の国では、財政政策だけでは限界があるということです。それは、マンデル・フレミングの法則により、確かめられています。マンデル・フレミングの法則に関する部分をこの記事より引用します。
   その(マンデル・フレミングの法則)原理をかいつまんでいえば、国債発行をすると、国内金利が海外と比べて高くなりがちなので自国通貨が高くなるというものだ。国債発行による財政出動で内需を拡大しても、為替高で外需が減少し、財政出動の効果が減殺されるというわけだ。 
 提唱者のロバート・マンデル氏のノーベル経済学賞受賞業績にもなっているくらいなので、古今東西で事例が見られる。例えば2011年3月の東日本大震災後、大規模な財政出動をした際、円高に見舞われたのはその好例だ。 
 こうしたメカニズムが分かっているので、財政出動と同時に金融緩和すれば、国内金利は落ち着き、自国通貨高にならずに、財政出動の効果がそのまま発揮される。
日本のような、変動為替相場制の国では、財政政策だけでは効果が減衰されることは、日本でも、変動相場制の他国でも実際にみられていました。

米国は、すでに米連邦準備制度理事会(FRB)が3月15日、ゼロ金利復帰と7000億ドル(約75兆円)規模の量的緩和を決めました。そうなると、日本が緩和しないと円高に傾くわけです。

さらに、財務省が多くの国民による積極財政圧力に屈して、財務省の基本原則である緊縮財政をとりやめ、積極財政に傾けば、なおさら、緩和をしなければならないということです。

日銀は、現状マイナス金利状態にあるわけですから、緩和するにしても量的緩和しかないわけであり、しかも物価目標2%も達成できていないわけですが、なおさら、量的緩和をしなければならないのです。

日銀の金融政策は、現在は量的緩和拡大への一方向しかないわけであり、安達氏、片岡氏が審議委員会で大暴れし、緩和を主張しなければならない現状はどこか狂っているとか言いようがないです。

本来ならば、日銀は一丸となって、金融緩和に取り組んでいなければ異常なのです。

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2020年2月12日水曜日

2020年も引き続き予測を破る米雇用市場―【私の論評】日韓の政治家は、真摯にトランプ大統領の金融政策に対する姿勢を学ぶべき(゚д゚)!


<引用元:ホワイトハウス 2020.2.7>大統領経済諮問委員会

労働統計局(BLS)の毎月雇用状況の最新データから、歴史的に見て強い米国労働市場が2020年も継続して拡大していることが確認できる。

一般教書演説で雇用の良さを強調したトランプ大統領
報告書の事業所統計によると、1月は22万5千人の雇用が増加し、15万8千人の雇用という市場予測を破った。11月と12月の上方修正を含めて、過去1年の月平均雇用増加は17万1千人という健全なものとなった。先月最も増加した分野は教育と医療サービス(+72,000)、建設(+44,000)、そしてレジャー・サービス業(+36,000)だった。

今月の報告書には事業所統計に対するBLSの年間修正も含まれていた。この修正によって、2019年3月の年度末の間に以前報告されたよりも51万4千人少ない雇用増加だったことが分かった。この修正は雇用が失われたという意味ではなく、むしろ以前は過大に見積もり過ぎていたという意味だ。だが1月の強い雇用増加によって、それでもトランプ大統領の選出以来700万人の雇用が増加している。選挙から38カ月、そのうち34の月で少なくとも10万人の雇用を創出しており、毎月雇用が増加している。

長期化した雇用創出は米国人の賃金を引き上げている。過去1年半では景気後退以来で最大の賃金上昇となった。平均時給は前年比で3.1パーセント増加し、18カ月連続で3パーセント以上の上昇率となっている。賃金上昇は製造・非管理職労働者でさらに速く、前年比で3.3パーセントとなった。トランプ大統領の下で、労働者の賃金は管理職の賃金よりも速いペースで増加している――前政権とは逆の結果である。

別の世帯調査では1月に失業率が3.6パーセントに上昇したことが分かっているが、1969年以来最低のレベル近辺に留まっている。1月には23カ月連続で失業率が4パーセント以下となった――50年で最長の記録だ。失業率は、連邦議会予算事務局の選挙前の最終予測である5.0を依然として大きく下回っており、トランプ大統領が2016年11月に選出された時のレベルより1.1パーセント低い。

歴史的に見て恵まれないグループは、現在のひっ迫した労働市場から利益を受けている。2019年にアフリカ系米国人、ヒスパニック系米国人、アジア系米国人の失業率は全て過去最低となった(テーブル参照)。高校卒業資格を持たない人々と障害者も昨年は過去最低の失業率となった。


1月のわずかな失業率上昇の主要原因は、傍観者の立場にいた労働者が仕事を探そうと労働人口に加わることが増えたためだった。この3カ月で労働市場外から来た新たな労働者の平均割合は73.2パーセントだった。1月に就労率は63.4パーセントにまで上昇した――2013年以来で最高のレベルだ。重要なこととして、働き盛り世代(25歳から54歳)の就労率も1月に83.1パーセントに上昇したが、2016年11月の数字を1.8パーセント上回るものだ。

重要性が小さく見える就労率の変化は雇用市場に重大な影響を持っている。例えば、トランプ大統領の下で働き盛り世代の就労率が上昇したということは、労働力として220万人の働き盛り世代労働者が加わったということになる。就労率の増加以上に、働き盛り世代労働者の労働力人口比率は1月に0.2パーセント上昇して80.6パーセントとなった――2001年5月以来最高レベルだ。

労働者の流入は経済に対する自信増大と就職見通しの改善を示している。全米産業審議会の消費者信頼感は1月に131.6に上昇し、トランプ大統領の選出前月から31パーセントの増加となった。その上仕事が「得難い」と答えた人に比較して、仕事が「十分にある」と答えた人の割合は4対1以上だ。

過去最高の2019年の後、2020年の米国経済は再び強い雇用報告で始まった。昨年起きたように、1月の雇用増加は予測を破り、賃金は3パーセント以上上昇し、失業率は歴史的な低さかそれに近い数字を保った。

【私の論評】日韓の政治家は、真摯にトランプ大統領の金融政策に対する姿勢を学ぶべき(゚д゚)!

本ブログの読者であれば、金融政策が雇用政策であることを私が繰り返し書いてきたことを知っているでしょう。その意味では、米国で金融緩和により失業率が低下し、有効求人倍率が上昇してきたのは、私にとっては想定内のことです。

失業率の定義は、労働力人口に対する完全失業者の占める割合です。完全失業者は労働力人口から就業者を引いたものなので、失業率は、1から就業者数の労働力人口に対する割合を引いた数になります。

トランプ大統領は金融政策と為替の関係を理解しているようです。これは考えてみれば、簡単なことなのですが、これを理解しない人は結構多いようです。

金融緩和にはいくつかの方法がありますが、この世界に緩和の方法がお札を刷り増すことしかなかったとします。そうすると、ドルを徹底的に刷ります、すなわち金融緩和を徹底的に行うと、ドルが相対的に増え、ドル安になります。

逆に、米国が大規模な金融緩和をしていないにもかかわらず、日本や、EUが円やユーロを徹底滝に刷り増せば、相対的に円やユーロがドルよりも増えて、ドルの価値が下がり、ドル安になります。

為替の動きは、短期的には様々な要因がありなかなか正確にあてることはできないですが、長期的には米国と他国の金融緩和政策の方向性で6割型は、予想できます。長期では、結局金融政策の方向性でほとんどか決まります。これは、小学生でもわかる理屈です。お金も、相対的に他国、特にドルと比較して多ければ、安くなりますし、少なければば、高くなります。それだけの話です。

トランプ大統領は、金融政策が雇用と、為替に大きく影響することを、どの政治家よりも理解しているようです。それは、不動産業をやってきた実績から、学んだことなのでしょう。

実際トランプ大統領は昨年3月2、共和党関連の行事で演説し、中央銀行の金融引き締め策がドル高を招き、米経済に悪影響を及ぼしているとして米連邦準備理事会(FRB)を再び批判しています。FRBは1月、2019年に2回想定していた追加利上げを見送って「当面は様子見する」方針を示していたのですが、トランプ氏は改めてけん制した格好でした。
トランプ氏は「米国にとって好ましいドル(の水準)を求めている。外国と事業取引するのを妨げるような強すぎるドルは求めていない」と主張しました。名指しを避けつつも「利上げを好み、量的引き締めを好み、非常に強いドルを好む紳士がFRB内に1人いる」と述べ、パウエル議長を暗に批判した。

不動産業はその時々のFRBの政策に大きく影響されます。だから、いつが儲け時なのか、耐え時なのかを判断するには、FRBの金融政策に大きく影響されます。そのため、実践的に金融政策の重要性を学んだのでしょう。

米国経済を見るときのポイントは、失業率とインフレ率です。それに応じて、マクロ経済政策がどのようになるのか、ほとんど予測できます。

実際の金融政策は「テーラー・ルール」によって行われているといわれています。テーラー・ルールとは、1933年にスタンフォード大学のテーラー教授が提唱したもので、オリジナルな形は、インフレ率と実質国内総生産(GDP)水準の2つから、実際に行うべき金利政策がほとんど説明できるというものです。

実質GDP水準は、失業率と密接な関係があるので、インフレ率と失業率から決まるといっても良いです。具体的にいえば、インフレ率がインフレ目標の2%より高い時に利上げ、低い時に利下げとなり、失業率がNAIRU(インフレを加速しない失業率)といわれる4%より高い時に利下げ、低い時には利上げということが多いとされてきました。

昨年の4月の米国のインフレ率は2%、失業率は3.6%でした。この時点で過去1年くらい、失業率は4%以下となっており、従来のテーラー・ルールからみれば利上げになるという状況でした。

米経済で、失業率が4%を下回ることは極めて珍しいです。戦後を見ても、1960年代後半の4年間程度に見られただけの「超人手不足」状態でした。

これまでであれば、インフレ率がかなり高くなっているはずでしたが、まだ高くなっていませんでした。まさにインフレ目標2%の範囲内になっていました。

当時は、じわりとインフレ率が高まりつつありましたが、より重要な将来のインフレ予想はそうでもありませんでした。

インフレ予想は、物価連動国債と通常国債の金利差である「ブレークイーブン・インフレ率」によって測ることができます。そのデータを見ると、2017年以降、2%の上下0.2ポイント程度で安定していました(5年物)。

従来のデータでは、米国のNAIRUは4%程度というのが定説ですが、ここ1年くらい失業率が4%を下回りながらも、インフレ率が上がっていないということは、NAIRUが3%台半ばになっているのかもしれないことが認識できました。

「超完全雇用」であっても、雇用のミスマッチや、避けられない失業があるためにゼロにはならない。ただ、最近は、インターネットの発達などにより、雇用のミスマッチが少なくなっていることも考えられます。

このブログでは、失業率を事実上の最低ラインのNAIRU(インフレを加速しない失業率)になるように、一方で経済が過熱しないようにインフレ目標があると説明してきました。もし、NAIRUが3%台半ばであれば、それに対応するインフレ目標は2%台半ばになっている可能性もありました。その場合、当時のインフレ率や失業率であれば、利下げの可能性もありえました。結局は、FRBはトランプ大統領の圧力もあって、利下げはしませんでした。

その結果として、上の記事でも示されるいるように、米国の雇用は過去最高の2019年の後、2020年の米国経済は再び強い雇用報告で始まったのです。昨年起きたように、1月の雇用増加は予測を破り、賃金は3パーセント以上上昇し、失業率は歴史的な低さかそれに近い数字を保ったのです。

日銀はNAIRUを無視して事実上の利上げである「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」を行っています。米国の動きは、円高を加速させる可能性はかなりありました。そうして、実際そうなっています。

以下は、マクロ政策・フイリップス曲線といわれるものです。数値は日本のものです。日本では、NAIRU最近まで、3%台と思われてきたのですが、3%切ってもインフレ目標が達成されないため、2%台であると認識されるようになりました。米国の場合はNAIRUは従来は4%台であると認識されていたのですが、米国でも失業率が3%台になっても、目立った物価上昇はみられず、NAIRUが3%台であると認識されるようになりました。

マクロ政策・フィリップス曲線

さらに、財務省は昨年10月に消費税増税を実行してしまいました。2014年の増税のときも、それまで積み上げてきた、日銀による金融緩和の成果をぶち壊しにしました。特に、インフレ目標(物価目標)の実現はさらに遠のきました。ただし、緩和は継続されてきたので、雇用の良さはすぐに戻ってきました。

しかし、イールドカーブ・コントロールが実施され、消費税が10%に増税された後はどうなるのでしょうか。日銀が今のまま、抑制気味の金融緩和政策を継続し続ければ、せっかくの金融緩和の成果である、雇用はまた悪化し、インフレ目標実現もさらに遠のいてしまうでしょう。

韓国に至っては、金融緩和をしないで最低賃金だけを機械的にあげたので、大方のエコノミストの予想通り、雇用が激減してとんでもないことになりました。


トランプ大統領は、先の述べたように、金融政策と雇用、為替の関係を理解しているようで、そのせいでしょうが、上の記事にも示されているように空前の雇用の良さを実現しています。

しかし、日本では未だにインフレ目標も達成できず、それでも安倍総理は日銀をトランプ大統領がFRBを批判したようには、批判していません。韓国では、金融緩和をせずに機械的に最低賃金を上げて、雇用が激減する有様です。

安倍総理に関しては、少なくとも文韓国大統領よりは、金融政策に関しては理解があるようですが、それにしても、現在はまさに大規模な緩和のやりどきなのにもかかわらず、実際には日銀を動かせていません。文韓国大統領は、なりふり構わぬ、親北姿勢を崩しませんが、そのようなことの前に、まずは正しい金融緩和政策を実施して、韓国の雇用市場を立て直すべきです。

これは、総理や大統領だけではなく、両国の他の与野党の政治家にも言えることです。親北や「もりかけ桜」は、政治家のメインの仕事ではありません。まともな政治家は、まずは政府だけが実行できるまともなマクロ経済政策を理解し、まともな政策を実行できるように動くべきです。それができない政治家は、政治家とはいえません。単なる政治屋です。

両国とも、米国を見習って、まともな金融政策を実施すべきです。それによって、雇用がよくなり、さらに経済にも良い影響を及ぼすのは確実です。特に、トランプ大統領の金融政策に対する姿勢を学ぶべきです。

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2019年3月14日木曜日

景気後退はなぜ起きた? リーマン・ショックや東日本大震災、増税と金融政策で説明可能だ―【私の論評】世界情勢と国内景気後退にもかかわらず、消費税増税にひた走る財務省とマスコミの思考回路(゚д゚)!

景気後退はなぜ起きた? リーマン・ショックや東日本大震災、増税と金融政策で説明可能だ

高橋洋一 日本の解き方

景気動向指数は3カ月連続の悪化となり、基調判断も下方修正された。中国経済減速の影響と解説されているが、国内要因はなかったのか。

 以前の本コラムで、内閣府の景気動向指数研究会(座長=吉川洋・立正大教授)が、2012年12月から続く景気拡大期間がいまなお続いていると判定していることについて、異論があると書いた。正直にいって、景気動向指数(一致指数)のデータを素直に見る限り、14年4月の消費増税の悪影響がその前後ではっきり出ており、そこに景気の「山」があり、16年6月あたりで「谷」がある。

 研究会座長は、消費増税しても景気への影響は軽微だという主旨の発言をしていた。それは結果として間違いだったが、その後の研究会の意見が左右されたようにも思われ、すっきりしない印象だとも書いている。

 景気動向指数(一致系列)は、生産指数(鉱工業)、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、所定外労働時間指数(調査産業計)、投資財出荷指数(除輸送機械)、商業販売額(小売業、前年同月比)、商業販売額(卸売業、前年同月比)、営業利益(全産業)、有効求人倍率(除学卒)を採用し、これらから機械的に算出している。景気動向指数研究会のような「解釈」は疑問であるが、景気の動きを素直に客観的にみるにはいい指標だ。

 1月はマイナス2・7ポイント、昨年12月はマイナス1・3ポイント、11月はマイナス1・8ポイントと3カ月連続のマイナスになったので、基調判断は下方修正された。

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 一方、月例経済報告といい、内閣府が資料を作るが、関係閣僚会議に提出された後了承という経過を経て公表される「政府の見解」がある。

 2月の月例経済報告では、基調判断は「景気は、緩やかに回復している」としており、景気動向指数のものと異なっている。月例経済報告は、さまざまな経済指数を分析するとともに指標の動きの背景にある経済環境や企業の景況感などを総合的に勘案した結果であり、機械的な算出ではないからだ。

 筆者は、機械的な算出の景気動向指数をより重視しているが、これまでの動きを見ると、マクロ経済政策(金融政策、財政政策)と外的要因(リーマン・ショックと東日本大震災)で転換点の「山」と「谷」はほぼ説明可能だ。

 中国経済という要因は確かにあるが、17年12月あたりが「山」で、それ以降下降している。これは、効果ラグを考慮すると16年9月のイールドカーブコントロール(長短金利操作)による金融引き締めの結果とも読める。それに最近の中国要因が加味されたとみるほうがいいだろう。これまでの、00年8月のゼロ金利解除、06年3月の量的緩和解除の後、半年~1年半くらいの後に景気の転換点を迎えているからだ。

 国内要因で景気が落ち目になったときの外的ショックは、下り坂で押されるのと同じで、大きく景気が落ち込む悪影響になるので要注意だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】世界情勢と国内景気後退にもかかわらず、消費税増税にひた走る財務省とマスコミの思考回路(゚д゚)!

世界経済の先行き不安が広がりつつあります。中国経済の減速は続いており、米中新冷戦が拍車をかけかねないです。英国のEU(欧州連合)離脱の破壊的衝撃も懸念されます。

日本経済は景気拡大局面を続けてきましたが、国際情勢の懸念もあって足元は弱含みです。こうしたなか、政府は今年10月、消費税率10%への引き上げを断行できるのでしょうか。

永田町には「安倍晋三首相は最終的に増税を回避するのではないか?」と推察する向きも多いです。

総額で初めて100兆円を上回る2019年度予算案の審議が4日、参院予算委員会で始まりました。 当然、消費税も議論になりました。

茂木敏充経済再生相

茂木敏充経済再生相は、野党議員から消費税増税を考え直すように迫られて、「16年後半以後の日本経済は、プラス成長で推移するなか、 財政再建をしっかりやりながら、(人材に投資する)『人づくり革命』などをするためにも消費税率の引き上げは不可欠だ」と語りました。

今年10月の増税は法律で決められている。このため、閣僚は増税を「既定路線」とした答弁を続けています。

ただ、世耕弘成経産相は、増税対策について問われて、「国際経済状況が非常に不透明であることを鑑みながら…」と前置きして、「税率の引き上げ以上に消費を喚起したい」と答弁しました。

世耕弘成経産相

消費増税などやっている場合でないことはあまりにも明らかです。にもかかわらず、絶対に増税すべきという人たちがいます。そういう人たちの思考回路は一体どうなっているのでしょうか。特に財務省とマスコミの思考回路はどうなっているのでしょう。

彼らが、政治家やマスコミの増税論を主導する理由は、表向きには、いわゆるエコノミストらが正当化する増税の必要性です。ここでは、その必要性に関しては、マクロ経済的に見てあまりにもバカバカしいので、詳細は掲載しません。しかし、なぜそのような"必要性"を持ち出してまで、増税をしたいのでしょうか。

こうした疑問に対して、元財務官僚の経験を元に、財務省の批判をしている冒頭の記事を書かれている経済学者・高橋洋一氏は、著書でこう語っています。

「財務省では、せいぜい向こう三年間か普通は一年間という短期的な視野でしか経済を考えない。財務官僚の頭を支配しているのは、目先の財政収支の均衡なのである」「財政収支の均衡をはかるために最も確実で、手っ取り早いのは増税である。責任問題から見ても、増税のほうが心理的に楽である」(高橋洋一著『消費税「増税」はいらない!』)

高橋洋一氏
つまり、財務省は「増税が財政再建につながらない」ことを知りながら国民を偽っているというより、本気で「財政再建するなら増税がいい」と信じている部分があるのです。

「最も確実で、手っ取り早いのは増税」「増税のほうが心理的に楽」という指摘も、興味深いです。「税率を上げると、税収が下がる」という理論も、当事者にしてみれば怖い話なのかもしれません。

「想い人を追いすぎると、想い人が離れていく」ことが、当人には分からない……ようなものかもしれません。「想い人を追わないなんて、それこそ、離れていきそうな気がして不安……」。そんな気分なのでしょうか。

財務省が増税したい動機については、他にも「増税することで、一部業界への税率を軽減する権限が増える」という"悪代官"路線もあります。とにかく、財務省としては権限を増すことは省益につながると考えているようです。

次に、マスコミの多くが表立って増税に反対しない動機について触れてみます。

マスコミ、特に経済記者には、財務省に決して嫌われてはいけない理由があります。それは、「経済の特ダネは財務省が握っている」ということです。

経済情報という面で、財務省に勝てる存在は日本にいません。財務省は、全国の家計や企業のお金のやり取りを把握し、税金を徴収しています。

つまり、全国の経済活動に関わる膨大な情報が、霞ヶ関に集まってくるのです。一方、巨大マスコミである日経新聞がどんなに頑張っても、GDP(国内総生産)ひとつ計算できません。

特ダネを狙うことで出世競争をする新聞記者にとって、最強の情報源である財務官僚を、敵に回すわけにいかないのです。むしろ、心を開いてもらい、官僚の仕事に後押しになるような記事を書くくらい、"ずぶずぶ"の関係にならなければ、大事な情報は得られないのです。

これについては、元日経新聞のエリート記者であり今は産経新聞で増税の大批判をしている田村秀男氏は、自身が書いた記事について、財務官僚から「それでいいんでしょうかねえ、田村さん……」と何度も言われたり、幹部が財務省OBに「おタクの田村はひどいな」とささやかれたという話を告白しています(田村秀男著『日経新聞の真実』)。

田村秀男氏

ただし、財務省は客観的な経済統計データを発表する義務があります。そのデータを分析すれば、財務省が何を言おうと、あるいは何も教えてもらえなくても、日本の実体経済を理解することができますが、現在の大手新聞の経済記者の能力があまりにも低く、それがほとんどできないというのが実体です。

私の実感では、一部の例外を除いておそらくほとんどの大手経済記者の頭の中には、高校の「経済社会」で学ぶ経済知識すらないのではないかと思います。

信じがたいことですが、現在まともにデータと理論にもとづき分析できる大手新聞の経済記者は田村秀男氏を含めて数人しかいないでしょう。そのため、現在大手新聞の経済欄はほとんどが、財務省の発表もしくは増税派の識者の発言などを取材したものになっています。

また、役人が報道発表を「ハトの豆まき」と呼んでいたことがあったそうです。私も幼いころは、鳩の前に豆を並べて、歩かせたいルートを歩かせて遊んだこともありましたが、官僚は情報を与える対価として、メディアを思うように動かすこともできるわけです。

現在本当に消費税増税をしてしまえば、日本発の不況が世界を悩ますことにもなりかねません。このような消費税増税は絶対反対すべきです。

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2018年7月31日火曜日

日銀官僚の理不尽な行動原理 金融機関重視する裏に天下り…政策に悪影響なら本末転倒だ―【私の論評】日銀は銀行ではなく日本国民のために、金融政策に集中すべき(゚д゚)!

日銀官僚の理不尽な行動原理 金融機関重視する裏に天下り…政策に悪影響なら本末転倒だ

高橋洋一 日本の解き方

日銀は31日の金融政策決定会合で、「0%程度」としている長期金利の
誘導目標の柔軟化を正式決定した。一定の金利上昇を容認する。写真は
記者会見する黒田東彦総裁=同日午後、日銀本店

日銀は30、31日の金融決定政策会合で、「金融政策を柔軟化する」「緩和長期化が金融機関に与える副作用の対策を検討する」などと報じられた。マスコミ報道で「副作用」といっても、「市場機能の低下」「金融機関経営に及ぼす影響」など抽象的な表現しか出てこないことがほとんどだ。

 「金融機関経営に及ぼす影響」とは、マイナス金利になっていることで、この運用金利では調達金利との利ざやが小さく、金融機関は儲からないということだ。

 「市場機能の低下」と、もっともらしいことをいうが、これも金融機関の儲けがなくなると、金融資本市場がうまく回らないという市場関係者の思い込み(自己保身)に過ぎない。

 実際には、日銀が金融機関から「この金利水準では儲からないから何とかしてくれ」と常日頃、愚痴を聞かされているので、それを「副作用」と表現しているだけだ。「市場機能の低下」は付け足しでしかないのだが、日銀としては金融機関のために金融政策を行うとは言えない建前があるので、市場機能の問題を前面に出して「副作用」を説明してきた。こうした複雑な背景があるので、一般の人には日銀が何を言っているのか理解できないだろう。

 日銀が金融機関を重視するのは、金融政策を行う主体であるとともに、金融機関の監督という準行政的な機能もあるからだ。前者をマネタリー、後者をプルーデンスという。

 実は、日銀内の仕事としてはマネタリーの部分はごくわずかで、多くは「銀行の中の銀行」として金融機関との各種取引を通じたプルーデンスである。プルーデンスは「日銀官僚」が天下るときにも有用であるため、日銀マンの行動に金融機関重視がビルトインされているとみたほうがいい。

 筆者は役人時代、プルーデンスは金融庁に任せればいいという考え方であったが、日銀はプルーデンス重視だった。銀行の収益悪化は、人工知能(AI)対応が遅れたという構造的な側面もあり、必ずしも低金利だけが原因とはいえない。

 プルーデンス重視が、マネタリーに悪影響を与えては本末転倒だ。マネタリーではマクロの物価と雇用だけをみていればよく、ミクロの金融機関経営は考慮されるべきではない。

 報道では副作用対策で日銀内に温度差というが、日銀プロパーはプルーデンスばかり見ているので、外部から日銀に来た人とプロパーの間でマネタリーに対する意見の差があるだけではないか。日銀は「副作用」という言葉で金融機関を支援するのはやめたほうがいい。

 現在でも、日銀は金融機関向けの当座預金に付利している。金融機関による一般事業者向けの当座預金は、臨時金利調整法により無利息であるにもかかわらずだ。日銀の付利により、金融機関は2000億円ほどの小遣いをもらっていることになる。これは、政府特権である通貨発行益の一部を金融機関に移転していることであり、国会での議論が必要だ。いずれにしても、日銀はマネタリーに特化すべきである。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日銀は銀行ではなく日本国民のために、金融政策に集中すべき(゚д゚)!

日銀は、本日の金融決定政策会合の結果を受けて以下の文章を公表しています。以下にその文書のリンクを掲載します。
強力な金融緩和継続のための枠組み強化
この日銀公表文を全部読むと、消費増税もあり物価が上がりそうにないから金利引き上げを(準備)するというふうに見えます。しかしこれでは、ロジックが真逆です。日銀の金融機関擁護の金利引き上げと増税擁護の姿勢を変えなければ、これからも物価がこれからも上がりそうもありません。

物価が上がったから、金利を引き上げるというのが当たり前でというか、これが常道です。日銀は、これからも常道を踏まないつもりなのでしょうか。

ブログ冒頭の記事で、高橋洋一氏は、マネタリーではマクロの物価と雇用だけをみていればよく、ミクロの金融機関経営は考慮されるべきではない。日銀はプルーデンスではなく、マネタリーに特化すべきとしています。

この日銀は、プルーデンスに注力するあまり、過去においてはマネタリーで大失敗をしています。

GDPの伸び率がゼロだった「失われた20年」

日本はバブル崩壊後、長らくデフレに悩まされ、経済成長率も他の先進国と比して著しく低く「一人負けの状態」が続き、また失業率も高く「失われた20年」とも呼ばれてきました。その要因は何であったかといえば、結論からいえば、バブルという羹に懲りてデフレを長引かせた日銀の誤りによるものです。

①日本のバブル期は、一般的に1987(昭和62)年から1990(平成2)年までを言います。
 この間の経済指標は 経済成長率(実質)が4~5%、失業率が2~2.7%、インフレ率が0.5~3.3%とまったく問題ないレベルであり、「失業する人も少ないし、給与も上がり、みんながハッピー」の「理想的な経済」でした。

東京株式市場は1989年12月29日に3万8916円という過去最高値を付けた

②一方、資産価格である株や土地の価格だけが異常に上昇しました。

バブルとは、「資産価格の上昇」と定義できます。株価は89年末がピーク、地価はタイムラグがあり91年頃がピークとなりました。

③インフレ率が上がらず、株や土地という資産価格だけが上がる場合は、金融政策で見ると何か別の理由があると考えられます。

④その頃、証券会社は税制の抜け穴を利用した「財テク」の営業を行い、株価が異常に上昇していました

当時、大蔵省証券局は、証券会社が損失補填する財テクを営業自粛(事実上の禁止措置)させる大蔵省証券局通達を89年12月26日に出しました。これにより、その年の大納会で3万8915円となった株価は、1990年の終わりにかけて2万3000円くらいまでに下がりました

⑤他方、1990年3月に大蔵省銀行局長通達「土地関連融資の抑制について」が出されました。

これは、不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑える措置(いわゆる総量規制)でした。これにより地価は、その後、下落しました。

上記の④と⑤によりバブルは沈静化していきました。ところが、一方で日本銀行が同じ時期に金融引き締めをしてしまったのです。

今から考えれば、これがバブル処理における最大の失敗でした。この致命的な間違いにわってバブルの後遺症が大きくなったのです。そもそもバブルの原因は金融緩和ではありませんでした。

だから、バブルつぶしのために金融引き締めすることが正しかったはずもありません。資産バブルを生んだ原因は、法の不備を突いた営業特金や土地転がしなどによる資産売買の回転率の高さでしたが、日銀は原因分析を間違え、利上げという策を実施してしまったのです。

日銀は物価の番人ですが、物価に株や土地の資産価格は含まれていません。本来、日銀は消費者物価指数のような一般物価を眺めながら対策を講じていれば良いのですが、株価の値上がりが自分たちの金融緩和のせいだと思ってしまったのです。
ここで公定歩合と日銀の金融引き締めの経緯を辿ってみます。

公定歩合は、1980(昭和55)年8月に日銀が9%から8.25%に引き下げて以来、87年2月に3%から2.5%に引き下げるまで10回にわたり引き下げられました。これは、多分に大蔵省の要請(実態は指示に近い)によるものです。

しかし日銀は、バブル当時の1989年5月に公定歩合を2.5%から3.25%に引き上げ、同年10月も引き上げました。さらに、バブル退治の「平成の鬼平」と言われた三重野康氏が同年12月に日銀総裁となり、就任直後の12月に引き上げ、さらに90年3月にも引き上げました。バブルがほぼ沈静化した8月にも引き上げ、公定歩合は6%となりました。

バブル退治の「平成の鬼平」と言われた三重野康氏

一般物価ではなく、株や土地の値上がりに対しては、日銀ではなく大蔵省や国土庁(現・国土交通省)がまず対応すべきものです。少なくとも、90年8月の利上げは不要だったと言わざるを得ないですが、さらに大きな問題は91年7月に6%から5.5%に下げるまでに時間がかかったことです。

下げのタイミングが遅れると、その後の引き下げは後追いとなって景気が回復に寄与することはありません。このように大蔵省との対抗心から、バブル期に日銀は金融引き締めという間違った金融政策をしました。このような経緯から、かつては大蔵省は金融緩和が好き、日銀は金融引き締めが好き、という本当にバカげた話が語られるようになってしまいいました。

過去にこのような大失敗をした日銀です。銀行に泣付かれてまたまた、マネタリーを間違えるということもなきにしもあらずです。マネタリーは雇用と物価、特に物価の上昇・下降速度をみていれば、間違いようがありません。少なくとも上記のような、とりかえしのつかない「失われた20年」を招いてしまうようなことはあり得ません。

にもかかわらず、日銀は、間違えってしまったのですから、いかに日銀のマネタリーの部分に、プルーデンスの部分が大きく影響していたかを示すものです。

二兎を追う者は一兎も得ずという諺もあります。もともとの日銀官僚は、まともに数字も読めず、20年間も金融政策を間違えてきたのですから、日銀にはそういう体質が深く染み付いていると考えるべきです。政治家や国民がぼんやりしていると、日銀はまた「失われた20年」どころか、「失われた40年」を招いてしまうかもしれません。

これから、ふたたび誤った金融政策が行われないためにも何とかして、日銀を金融政策に集中させ、過去の間違いを繰り返させるべきではありません。

【関連記事】

2018年7月17日火曜日

お先真っ暗…韓国「雇用政策」大失態、貿易戦争も直撃、対中輸出3兆円減の試算も―【私の論評】金融政策=雇用政策と考えられない政治は、韓国や日本はもとより世界中で敗退する(゚д゚)!

お先真っ暗…韓国「雇用政策」大失態、貿易戦争も直撃、対中輸出3兆円減の試算も

経済政策で窮地に立つ文政権。そこに米中貿易戦争が直撃した

 「雇用拡大」を掲げる韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が、大ピンチに陥っている。雇用状況を示す数値が5カ月連続で低迷し、メディアでは「雇用大惨事」との指摘も上がる。雇用不振の背景には、最低賃金(時給)の大幅アップがあるが、労働界はさらなる引き上げを要求。人件費高騰に苦しむ小規模事業者からは悲鳴が上がり、コンビニ店主でつくる団体は「全国同時休業」も辞さない構えだ。米中の「貿易戦争」の余波も直撃し、韓国経済はお先真っ暗の状態だ。

 《「雇用大統領」文在寅政権下の「雇用大惨事」》(12日、朝鮮日報日本語版)

 《雇用不振に陥った韓国経済、成長最優先への方向転換を》(12日、中央日報日本語版社説)

 韓国の保守系メディアは最近、雇用の低迷ぶりを相次いで報じている。

 韓国統計庁が毎月発表している雇用動向を見ると、今年に入って雇用状況を示す数値は急激に下がっている。文氏が大統領に就任した昨年5月から今年1月までは、就業者数が前年同月比で20~30万人多かった。だが、それ以降は10万4000人増(2月)、11万2000人増(3月)、12万3000人増(4月)、7万2000人増(5月)、10万6000人増(6月)と5カ月連続で20万人台を割り、政権が目標としている32万人増を大きく下回った。

 急激な雇用不振の理由は、1月からの最低賃金大幅アップにあるとの見方がもっぱらだ。その賃上げ率はなんと16・4%に上る。

 前出の社説で、中央日報は雇用不振が消費沈滞につながり、米中貿易戦争で輸出も減少の危機を迎えるとして、「韓国経済が四面楚歌から抜け出すには、まず最低賃金の急激な引き上げを自制しなければいけない」と指摘する。さらに社説はこう続けた。

 「最低賃金委員会で労働界は来年の最低賃金を今年より43・3%増の1万790ウォン(約1070円)を提示した。同意できない。政府は急激な最低賃金引き上げの副作用を認める必要がある」

 大幅に最低賃金を引き上げる動きに対し、人件費高騰に苦しむ事業者は怒りを隠せないようだ。

 東亜日報(日本語版)は13日、《「最低賃金に不服」宣言、350万人の小規模個人事業主の絶叫虚しく》という記事を掲載した。

 記事によると、350万人の小規模個人事業主を代表する小商工人連合会が12日、緊急記者会見を開き、「国家が一方的に定めた来年の最低賃金は受け入れられない」と闘争宣言を行った。

 全国7万余りのコンビニ代表でつくる全国コンビニ加盟店協会も同日、「零細事業主の生活を根こそぎ摘み取る心算で、零細事業主を犯罪者や貧困層に追いやっている」と絶叫し、全国同時休業も辞さない考えを明らかにしたという。

 文氏は昨年6月の施政方針演説で、「雇用」という言葉を44回口にするほど、雇用拡大を売り物にしてきた。だが、行き過ぎた経済政策は零細業者らを破滅に追いやろうとしているようにしか見えない。

 今月に勃発した米中貿易戦争の影響も深刻だ。朝鮮日報(日本語版)は7日、《対岸の火事でない米中貿易戦争、韓国経済に飛び火も》という記事で、現代経済研究院経済研究室のチュ・ウォン室長の試算を紹介している。それによると、米国で中国製品の輸入が10%減少して中国経済全体が大きな影響を受けた場合、韓国からの中国向け輸出は282億ドル(約3兆1100億円)の減少が見込まれるというのだ。

 こんな惨状にもかかわらず、韓国ギャラップが13日に発表した文氏の支持率は69%と高水準を維持している。

 韓国に精通するジャーナリスト、室谷克実氏は「韓国社会の大勢は『積弊(旧体制の弊害)が残っているから、文大統領がやっている政策がうまくいかない。積弊をもっと潰さなければいけない』という認識だから、支持率が高い。今の流れでいくと、人民共和国化に向けて止まらない状況だ」と話す。

 今後、韓国経済はどうなるのか。

 室谷氏は「文氏のやっていることは反米、反資本主義で韓国はキューバ化が進んでいるように思える。世界のどこの国でも『富国強兵』政策をやっているが、韓国は『貧国弱兵』政策を行っている。経済はどうしようもないところまでいくのではないか」と予測した。

【私の論評】金融政策=雇用政策と考えられない政治は、韓国や日本はもとより世界中で敗退する(゚д゚)!

文在寅政権は「韓国経済のパラダイム見直し」との考え方に基づき、「所得主導」と「革新」という2つの軸で成長政策を推し進めようとしています。所得主導は需要の側、革新は供給の側を刺激することで成長動力を引き出そうとする構想です。

所得主導成長の逆説、韓国低所得層の所得が大幅減

しかしこの2つの軸は現政権発足からわずか1年で大きな危機に直面しています。最低賃金を16.4ポイントも大幅に引き上げたものの、低所得層では1年前に比べて所得が逆に8ポイントものマイナスを記録しました。年間30万以上増加していた雇用も7万と大幅にブレーキがかかりました。現政権は自分たちを「雇用政府」と自負していますが、実際は正反対の結果を招いているのです。

革新成長にいたっては成果が全くありません。文大統領は革新成長のコントロールタワーとしてキム・ドンヨン経済副首相を指名しはっぱをかけているようですが、実質的にさほど大きな権限のない経済副首相がやれるような仕事ではありません。

革新成長は何一つうまくいっていない
過去10年続いた保守政権は「グリーン成長」「創造経済」などの旗印で供給側に重点を置いた成長政策を推し進めたのですが失敗しました。営利を前面に出した病院や遠隔医療は医師団体から反対され、カーシェアリングはタクシー業界、スマートファームは農民団体の反対によって挫折しました。またネットバンクは銀行と企業の分離、フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)は個人情報保護などの規制に阻まれ全く進んでいません。

このような状況では、雇用を経済を良くするために、まずは何をさておいても、金融緩和をすべきです。それ抜きに、単純に最低賃金をあげたり、構造改革をしても、過去の日本がそれで失敗して、失われた20年に突入したように、何も得るものはありません。

そうして、金融政策の大きな転換の意識は文政権にはありません。むしろ民間部門を刺激する政策として、財閥改革などの構造改革を主眼に考えているようです。しかし、このような構造改革はデフレ経済に入りかけている韓国経済の浮揚には結びつかないです。

韓国の歴代政権が、金融緩和政策に慎重な理由として、ウォン安による海外への資金流出(キャピタルフライト)を懸念する声がしばしばきかれます。しかし金融緩和政策は、実体経済の改善を目指すものです。特に、雇用状況を変えるものです。

金融緩和とはいっても、無制限ではなく、インフレ目標値を設定しての緩和を実施すれば良いのです。そうすれば、実際にキャピタルフライトしたアイスランドのように、政府は黒字だったものの、民間が外国から膨大な借金を抱え込んでいるようなことでもなければ、滅多なことで、キャピタルフライトが起こるようなことはありません。

日本でも日銀が2013年から金融緩和に転じる前には、「金融緩和するとハイパーインフレになる」「キャピタルフライトする」等といわれてきましたが、そうはなりませんでした。

むしろ最近では、このブログでも解説したように、5月の失業率は2.2%となり、昨年あたりにささやかれていた金融緩和出口論など全くの誤りであったことが明らかになりました。また、昨年まで黒田総裁が主張していた日本の構造的失業率が3%という見解も誤りであったことがはっきりしました。

ただし、この2.2%の失業率が日本の構造的失業率かどうかについてはもう少し様子をみてから判断すべきものと思います。

ただし、政策的には構造的失業率がどうのこうのなどということはあまり重要な問題ではなく、やはり2%物価目標に向けてさらに量的緩和を拡大していくべきでしょう。まだまだ、日銀の量的緩和は手ぬるいとみるべきです。

いずれにしても、日本では、2013年4月から日銀が金融緩和に転じ、現在も継続しています。そのため、雇用もかなり良くなっています。

そもそも、雇用情勢が悪ければ、まずは金融緩和すべきです。そうすれば、雇用が改善され、人手不足になり、黙っていても企業は賃金をあげます。そのような状況になってから、世間相場をみながら最低賃金を上げれば良いのです。

しかし、そもそも文政権は日本と同様のリフレ政策を採用する可能性はいまのところないに等しいです。雇用情勢を良くするには、単純に最低賃金を上げるなどという発想ではうまくいかないのは当然のことです。

経済が大きくなっていないのに、最低賃金だけを機械的にあげれば、雇用が減るのは当然のことです。こんな明白なことに気づかないようでは、韓国経済の長期停滞、特に雇用問題が本格的に解消する可能性は無いです。

そうして、金融緩和をせずに最低賃金だけ上げるという政策は、文在寅の独壇場というわけではありません。日本の野党も政権公約に掲げていたものです。日本の野党の頭には今でも、雇用=金融政策という考え方は、文在寅のように全く無いでしょう。

日本の野党は、2016年7月の参院選挙のときに、最低賃金の引き上げを争点にしました。無論、金融緩和を含む、アベノミクスには反対していました。

同年5月17日には、最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会が「最低賃金をいますぐどこでも時給1000円に!時給1500円をめざす院内集会」を衆議院第二議員会館で開催しましたた。労働組合の参加者や国会議員ら約80人が集まりました。下の写真がその時撮影されたものです。


彼らの、政策は文在寅と本質的に同じです。なぜか、金融政策はすっぽ抜けて、最低値賃金を機械的に上げれば、それで雇用が良くなると単純に信じているようです。

日本の野党は、韓国の単純な最低賃金上昇政策が大失敗に終わったことを他山の石として、真摯に反省すべきです。しかし、そのような様子は全くみられず、何かといえば「アベガー、アベガー」と反政府キャンペーンを繰り返すばかりです。この状況ですから、野党はいつまでも野党であり続けるしかないのです。

私は、いずれ文政権も雇用政策で大失敗して、敗退すると思います。韓国にも安倍総理のように金融緩和を提唱する政治家があらわれないと、いつまでたっても雇用は改善されないでしょう。そんなことでは、国民は絶対に納得しないでしょう。

金融政策=雇用政策と考えられない政治は、韓国や日本はもとより世界中で大失敗しているのです。

この事実に目覚めない、政治家は与野党に限らず必ず失敗することになるのです。


雇用指標、5月は一段と改善 失業率は25年7カ月ぶり2.2%―【私の論評】出口論者に煽られるな!日銀の金融緩和は未だ道半ばであったことが明らかに(゚д゚)!

なぜかマスコミが報じない「大卒就職率過去最高」のワケ―【私の論評】金融緩和策が雇用対策であると理解しない方々に悲報!お隣韓国では、緩和せずに最低賃金だけあげ雇用が激減し大失敗(゚д゚)!

【究極の二択】韓国の若者、将来はチキン店を開業するか死ぬしかないと話題に―【私の論評】金融緩和に思いが至らない政府なら、日本も同じことになった(゚д゚)!

【メガプレミアム】もはや危険水域か、韓国庶民の「家計」…富める者に向けられる「国民感情」―【私の論評】安全保障の面から日米は韓国に強力に金融緩和を迫るべき(゚д゚)!

2018年1月25日木曜日

安倍首相はなぜ「リフレ派」になったのか―【私の論評】ポスト安倍は金融政策を理解しなければ国民からNOをつきつけられる(゚д゚)!

安倍首相はなぜ「リフレ派」になったのか

第196回国会における施政方針演説を行う安倍首相 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 経済評論家の上念司氏が面白いものを書いていた(“週刊「1億人の平成史」 第19回 上念司さんの「アベさんがアベノミクスにたどり着くまで」”)。

 もっとも、この記事は上念氏らが「リフレ派」に入った経緯を書いているが、安倍首相のことは書かれていない。安倍首相がどのようにリフレ派になっていったのか、筆者はその当時のことを知っている。

 それは2006年3月の日銀の量的緩和解除の「失敗」までさかのぼる。

関心の最初は06年の量的緩和解除の「失敗」

 上念氏が書いたものは、時系列的には、安倍氏が日銀の量的解除失敗で金融政策に関心を強め、安倍氏や自民党が在野の時代に、党内の勉強会などで内々に勉強した後、表に出て行ったときの話である。

 その頃には安倍氏は、日銀政策審議委員として金融政策をしていた当時の経済学者やエコノミストよりもはるかに勉強しており、金融緩和がデフレ脱却、雇用環境の改善に大きな効果があることを確信していた。


 この国会答弁によれば、いわば「指南役」は、山本幸三代議士(前地方創成・規制改革担当相)、イエール大学名誉教授の浜田宏一先生と、筆者となっている。

 安倍氏の国会発言の背景を説明しよう。

 時は、12年前の小泉政権と第一次安倍政権に遡る。小泉政権の末期だったが、2006年3月、福井俊彦総裁時代の日銀が、2001年3月から実施してきたそれまでの量的緩和策を解除した。

量的緩和に解除を受けて会見する福井俊彦・日銀総裁=2006年7月14日午後、日銀本店
 この量的緩和策については、中央銀行の手法として、「量的緩和は効果がない」という声と、逆に「副作用が強過ぎてハイパーインフレになる」という二つの極端な批判的な意見が多かった。

 特に、日本では、著名な学者が批判論者であった。

 実は、量的緩和策の先駆者は先進国でいち早くデフレに陥った日本だ。

 日本では、デフレ解消の策として、速水優総裁時代の2001年3月から実施された。

 筆者は、当時の小泉政権で竹中平蔵・総務相補佐官をしていて、政権内で量的緩和の有効性を説き、弊害がないことを指摘していた。

 当時の日銀の量的緩和の問題点は、量の面で不十分であったことだ。

 ところが、量的緩和そのものに反対している学者やマスコミが多く、日銀は2006年3月に量的緩和を解除してしまった。筆者はこれを批判、デフレ脱却が遠のくことを予測し、それは的中した。

 そのことが誰の目にも明らかになったのは、小泉政権の後の第一次安倍政権になってからだ。

「デフレ状態」なのに金融を引き締めた

 その理由は単純で、形式的なインフレ率が0.5%とすると、物価指数の上方バイアスを考えれば、物価はマイナス0.1%という、「デフレ状態」なのに、量的緩和を解除し金融引き締めをしてしまったからだ。

 筆者は、バーナンキ・元FRB総裁やクルーグマン教授がいたプリンストン大学に留学した経験があり、その関係で各国の中央銀行にも知り合いがいた。念のために彼らの意見を聞いたが、やはり量的緩和解除は「時期尚早」だったと言っていた。

 しかし、当時、筆者の意見に賛同してくれた政治家は、竹中総務相、中川秀直自民党政調会長と山本幸三代議士だけだった。

 この事情をよく覚えていたのが、当時の官房長官だった安倍氏だ。

 安倍氏は2度目の首相になった後でも、2006年の量的緩和の解除は時期尚早で失敗だったと言っている。これが、上に引用した国会発言である。

 それ以外にも、その類いの発言はしばしば行い、2006年3月の量的緩和解除は失敗であり、その失敗を踏まえて、2%のインフレ目標を明確に導入したアベノミクスを作ったと言っている。

 もし、その当時に、2%インフレ目標があれば、量的緩和解除の失敗をしなかったはずだと、筆者も考える。

 安倍氏は、記憶力がいい。誰がどのような意見を言って、誰の予測が正しかったのか、間違っていたのかをよく覚えている。

 これは、政治家に求められる資質である。

 経済見通しなどの予測の当たらないエコノミストの話を聞いても時間の無駄であり、予測の打率の高い人の意見を聞いたほうがいい。

 おそらく、その当時から、いろいろなエコノミストの打率を安倍氏は把握するようになったのだろう。

 筆者は、しばしば安倍氏から個別のエコノミストの評価を聞かれることもあるが、安倍氏の論評はかなり正確である。

首相辞任後、金融政策に改めて関心

 ただし、残念ながら、安倍氏はそうした勉強成果を生かす間もなく、2007年9月に首相を辞任してしまった。

 健康問題とはいえ、突然だった。筆者はその当時、官邸勤務だったが、朝の国会質問答弁の打ち合わせを終え、国会に向かうところで体調不良になって、驚くばかりだった。

 その後、かなり療養していた。しばらくすると政治活動を再開したが、安倍氏自身が国会答弁で話したように、時間がたくさんある。

 そうした中、金融政策に関心を持ち始めたように見えた。

 金融政策については、小泉政権の時は、安倍官房長官、竹中大臣、中川政調会長の間で、筆者が説明役になって、しばしば議論していた。

 例えば、中央銀行の独立性について、日本では単に独立性というが、世界では、目的の独立性と手段の独立性を区別して、中央銀行には手段の独立性はあるが、目標の独立性はない、などである。

 そして、金融政策は、海外では雇用を確保する「雇用政策」の側面があり、例えば、アメリカの中央銀行(FRB)は、「物価の安定」とともに「雇用の確保」という責務を担っているとも説明していた。

 筆者の印象では、このときの安倍氏は、そういうものもあるのかという感じで、それほど確信していたわけではないように見受けられた。

自民在野時代に勉強会浜田イエール大教授とも親交

 その後、安倍氏は、健康を回復し政治活動に復帰後、自民党内で金融政策などについての内々の勉強会を開いていたが、その時の会合の発起人は、安倍氏、山本幸三氏、中川秀直氏だった。そこの事務局で筆者も手伝っていた。

 民主党政権になっていたころだ。

 ちょうどその時、筆者のところに浜田先生が訪ねてきた。

 聞くところによると、浜田先生は、安倍フェローシップから研究助成を受けているという。

 もっとも、安倍フェローシップは、安倍氏の父である安倍晋太郎氏のフェローシップである。それならということで、浜田先生を内々の勉強会に呼び、金融政策を様々な角度から話してもらった。

 山本代議士、浜田先生そして筆者は、2006年3月の量的緩和解除の失敗や、2008年9月のリーマンショック以降の金融緩和不作為の失敗、2011年3月の東日本大震災後の政策の失敗などを話した。

 安倍氏はこうした議論を通じて、国会答弁で明らかにしているように、「リフレ派」になっていったようだ。

 その段階で、自民党の中でも、他党を含めても、有数の「リフレ派」になっていた。なお、上記の政策の失敗についての筆者の意見は、本コラムのバックナンバーを見ればわかる。

「金融政策は雇用政策」との理解深める

 その後は、上念氏が書いているように、派閥、党を超えて、安倍氏は積極的に活動を広げていった。

 筆者は、その中で、安倍氏に、「金融政策は雇用政策なので、海外では左派政策と思われるがいいか」と何度も確認している。

 安倍氏は、まったくかまわないし、そのほうが相手のお株を奪えると、まさに政治家らしい反応だった。

 そういえば、トランプ大統領も共和党なのに雇用重視である。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)

【私の論評】ポスト安倍は金融政策を理解しなければ国民からNOをつきつけられる(゚д゚)!

第一次安倍政権のつまづきは、諸説ありますが、やはり最大のものは、小泉政権の末期だったが、2006年3月、福井俊彦総裁時代の日銀が、2001年3月から実施してきたそれまでの量的緩和策を解除したことでしょう。

ここで、解除しないで緩和を続けていれば、数年で日本はデフレから脱却できていたことでしょう。この時点で金融引締めをしてしまったのは、完璧な失敗でした。その後、日本の経済はふるわず、第一次安倍政権は短命に終わりました。

その後2013年まで金融引締めが続き、その煽りを受けて、第一次安倍政権の後の政権も短命に終わり、政権交代によって成立した民主党政権における政権もすべて短命に終わりました。

このようにどの政権もすべて短命に終わったのは、雇用も経済もふるわなかったせいです。少なくとも、金融緩和を維持していれば、雇用は改善されていたので、国民の不満もおさまりこのように短期政権が続くようなことはなかったでしょう。

平成12年には安倍総裁の自民党が衆院選で大勝利し、平成13年4月からようやっと金融緩和に転じました。そのため、現在に至るまで雇用情勢の改善が継続されています。ただし、平成14年春から消費増税をしてしまったため、経済の成長率はあまり伸びていないというのが現状です。

やはり、当時の福井日銀総裁による量的緩和の解除は日本経済に甚大な悪影響を及ぼしました。

そうして、最近当時の日銀の議事録が公表されています。以下にそれに関する新聞記事のリンクを掲載します。
日銀、06年1~6月の議事録公表 量的緩和解除要因に外圧も
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、量的緩和解除要因が外圧であったことをうかがわせる部分のみを引用します。

当時の水野温氏日銀審議委員 
同年1月の会合では、水野温氏審議委員が「(量的緩和による)低金利が他国に迷惑を掛けているという論調が(世界の)中央銀行の中である」と指摘。福井俊彦総裁も量的緩和が招く円安に言及し、「『これを単純にエンジョイするのか』という感覚が(国際会議の)共通の認識」と呼応した。
ただし、この発言は明らかに間違いでした。そもそも、世の中には「通貨戦争」なる考えがありますが、それは全くの虚妄です。

ある国が「通貨戦争」をするつもりで、金融緩和をすれば、どうなるかといえば、確かに通貨安になります。 それは、他国の通貨に比較して、自国の通貨の量を意図的に増やすわけですから、当然そうなります。

しかし、さらに自国の通貨を安くするために、量的金融緩和を継続し続けるとどうなるかといえば、今度は国内が大インフレになります。だから、「通貨安」のために量的緩和を続けることはできず、インフレになる前に「緩和」を打ち切るのが普通です。

ある国が大インフレになっても良いからと、どこまでも「金融緩和」を続けたとしたら、その先はハイパーインフレになり、金融破綻してしまいます。だから、どこか妥当なところで緩和をやめざるを得なくなります。

そもそも、「通貨戦争」など幻想に過ぎないのです。当時「円安」を非難する国があれば、この話をして反論すれば、それですんだと思います。実際、まともな経済学者であれば、「通貨戦争」の幻想など誰も信じていません。水野氏はこのような考えができなかったのでしょう。

それに、本当にそのような圧力があったかどうかも、疑問です。たとえば、話は少し違いますが、8%の消費税増税に関して、麻生財務大臣は「国際公約だ」などと語っていましたが、これは麻生財務大臣が国際会議の席上で「増税」すると語っただけの話であり、いずれの国からも「日本は増税すべきだ」などとの声は上がっていませんでした。

独立国に対して「増税しろ」「金融緩和をやめろ」などということは内政干渉です。

私は、水野氏の外圧という話も、麻生氏の「増税は国際公約」ような程度のものであり、日本に対して「金融緩和をやめろ」とはっきり言った国など存在しなかったと思います。

ただし、これには例外はありました。それは中国人民銀行総裁の周小川です。しかし、それも2012年に自民党安倍総裁が政権交代のあかつきには金融緩和をすると表明した時であり、2006年当時はそのような声はなかったと思います。ネットで検索しても、ヒットしません。どなたか、その事実をご存知の方は教えていただきたいものです。

中国人民銀行行長(日本では総裁)
それに周小川の要求は、虫の良い話でした。当時の円高、元安はとんでもない水準で、日本企業が日本で製品を製造して国内で販売するより、中国に材料を送って、中国で組み立てて、それを日本に輸入して販売たほうが、安く製品を販売できるという異常事態でした。

これは、中国にとってはぬるま湯のようなもので、日本の製造業はこぞって中国に進出していました。このような異常事態がいつまでも続くと考えるほうが異常でした。

そうはいいながら、周小川の懸念はピタリとあたって、日本が金融緩和したあたりから、中国の経済成長は政府によって公表されている信憑性の低い数字ですら、かなり下がっています。しかし、これは日銀の金融引締めにあぐらをかいて、中国が分不相応なことをしていたというだけであって、何ら日本が批判の対象にされるいわれはありません。

実際、中国を除いた国ではほとんどそのような苦言を呈した国はありませんし、周小川もその後は苦言を呈したことはありません。

さて、2006年の金融緩和解除がいかに異常なものであったのかは、以上のことからもご理解いただけるものと思います。

それにしても、今思えば、2006年当時は、安倍晋三氏を含めたほとんどの政治家が金融政策を理解しておらず、たまに理解している人がいたにしても、今日の安倍総理のように、金融政策を理解しつつ、高い地位にいて影響力のがある人はいませんでした。

だからこそ、当時金融緩和解除はすんなりと実現してしまったのです。

しかし、その後安倍晋三氏は金融政策について真摯に学び、再び総理大臣になることができました。もし、安倍晋三氏が金融政策について理解をしていなかったら、総理大臣に返り咲きもできなかったかもしれません。私自身も、安倍総理が金融政策について理解を示したことを知る前までは、失礼ながら「過去の人」と思っていました。

私はここに、現在の政治家、特にポスト安倍と目されている人たちに警告を発しておきます。あなた方は、安倍晋三氏が真摯に学んだように、2006年から2012年までの日本の金融政策の間違いについて真摯に学ぶべきです。


そうでないと、誰が次の総理大臣になったとしても、その政権は短命に終わります。それでも、金融政策を理解せず正しい金融政策を実行しなければ、自民党そのものが衰えていきます。そうして、その果には金融政策を正しく理解する新たな勢力に政権を奪われることになります。

その後自民党が、与党に返り咲くことはかなり困難になります。日本国民はそれほど馬鹿ではありません。一度安倍総理が、金融政策の有効性に関して範を示したにも関わらず、それを反故にするような、総理大臣や与党には、それが自民党であれ他の党であれ、国民の大多数は当然のことながら、NOを突きつけます。国民を馬鹿にしないで下さい。

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2017年12月21日木曜日

若者の交際キーワードから読み解く「若者のクリスマス離れ」の原因―【私の論評】なぜ日本では金融政策と社会は無縁であるかのような扱いなのか(゚д゚)!


神戸の世界一のクリスマスツリー
株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント(所在地:東京都新宿区、代表取締役:松田 武久)は、首都圏在住の18~79歳の男女3,000人を対象に実施した自主調査を用い、「若者のクリスマス離れ」について分析を行いました。

年々盛り上がりをみせるハロウィンに対し、近年、「若者のクリスマス離れ」が取りざたされ、クリスマスの勢いが弱まりつつあるそうです。若者たちのクリスマスへの関心が弱まっているのはなぜなのか。その要因について考えてみました。

■ 調査結果

・18~24歳の若者は、生活の意識として「自分だけの時間や空間を大事にしたい」が男女ともに6割を超え、他世代と比較して相対的に高い傾向にある。一方で、「色々な人達と積極的につきあい、つきあいの輪をどんどん広げたい」意識もあり、人とのつながりを大事にしたい意識もうかがえる。(図1)

図1 人とのzき合いに関する意識
・18~24歳はスマートフォンで多様なネットサービスを利用しているが、「SNS」「無料通話サービス」「動画投稿配信サイト」といった≪つながる≫≪共有する≫サービスの利用率が高い。

・情報関連の意識態度でも、「個人ネットワークの充実に努めている」「どこでも連絡や情報を受け取りたい」が約半数で、全体と比較して約20pt上回る。一方、他世代と比較して、「常時情報が送られてくるのは煩わしい」が相対的に低く、「いつでも誰かとつながっていないと不安を感じる」が相対的に高い傾向にあることからも、デジタル社会の中での人とのつながり意識も強く現れている。(図2)

図2 情報関連の意識態度(「そう思う」計の比率)
・どこでも情報を受け取りたい&いつでも誰かとつながっていないと不安な層は、「自分のスタイルが仲間から浮かないよう気を配る」「同性からどのように見られているか気になる」「友達に褒められる装いをしたい」がいずれも高めで、他者との同調や共感を意識している傾向がうかがえる。

■ R&D生活者インサイト

以上のように、18~24歳の若者について生活をする上での意識や行動を整理すると、

◇自分だけの時間や空間は大事だが、独りになりたいわけではない
自分一人の時間や空間を大事にしたい意識が高い一方、人とのつきあいについても意欲的である。

◇「ライトで広いつながり」をベースにした若者の交流
思春期あたりからスマートフォンが登場したことで、他の世代に比べ情報スキルも高く、且つ収集量も多い。加えてSNSの浸透が急速に進んだことで直接の知り合いでなくても趣味や嗜好などの共通点を通して広く、ライトに、気軽につながれる交流が増えてきている。

これまで「人との交流=特定の人と深く」というイメージだったものが上述のようなものへと変わってきていると思われる。

◇18~24歳の若者の交際のキーワードは「共感」?「同調」?
スマートフォンでいつでも、どこでも、誰とでもつながれる時代だからこそ、逆につながっていないことへの不安を感じる傾向が見受けられる。また、他者からの評価を意識し、他者に「いいね」をしてもらえないことに対する不安感を持つ者が多い傾向にある。生活には「自由さ」を求めているが、仲間同士の和を乱すことなく無難に楽しく過ごすことに重きをおいており、他者から非難を受けない許容範囲内での「自由」「自分らしさ」「楽しさ」を実践しているようにも感じられる。

◇若者に響くハロウィン/下降気味のクリスマス
当初の問題提起である、イベントの盛り上がりに明暗分かれる件については、18~24 歳の若者のそれぞれのイベントに対するイメージ(定義)として考えると、以下のような特徴として整理される。

・ハロウィン= その場にいる同じ目的の人とライトなつながりで楽しむ
≪場のイベント≫ に対し、
・クリスマス= 特定の親密な人と過ごして関係を深める
≪関係性のイベント≫ と分けられる。

現在の若者のつきあいの感覚からはクリスマスは遠く、逆に、その感覚に親和性のあるハロウィンの普及が本格化しつつあると考えられる。

■ 調査結果グラフ(一部抜粋)
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/146138/img_146138_2.png
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/146138/img_146138_3.png

調査結果の詳細は、無料ダウンロードレポート『若者のクリスマス離れは何が原因?』をご覧ください。
本リリースで取り上げた結果以外に、以下の内容を掲載しております。ぜひこちらもご覧ください。
(弊社ホームページよりダウンロードいただけます)
●生活に求めるイメージ
●友達(恋人)と過ごす時間を増やしたい意識
●自分ひとりで過ごす時間を増やしたい意識
●スマートフォンの所有率、利用しているサービス
●同性からどのように見られているか気になる意識
●自分のスタイルが仲間から浮かないよう気を配る意識
●友達にほめられる装いをしたい意識

今回、発表致しましたデータを含むR&D CORE(生活者総合ライフスタイル調査システム)2017単年の集計表を100,000円(税別)にて販売しております。(18~79才まで性年代別等基本分析軸での集計表アウトプット)
R&D CORE(生活者総合ライフスタイル調査システム)を利用した調査・分析:課題の洗い出しから分析アウトプットまで、R&Dスタッフがお手伝いします。

詳細は弊社ホームページ http://www.rad.co.jp/ をご覧ください。

■ CORE2017調査概要
調査名: CORE2017 マスター調査
調査地域: 首都圏40km圏(調査地点 200地点)
調査対象: 18~79歳男女個人
サンプル数: 有効回収 3000サンプル (人口構成比に合わせて、性×年代別を割付)
サンプリング手法: 住宅地図を用いたエリアサンプリングで抽出
調査手法: 訪問・郵送併用の自記入式留置調査
調査実施時期: 2016年10月(毎年1回10月実施)
※『CORE』は、株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメントの登録商標です。
※1982年から約30年、生活者理解のために毎年実施している自主調査です。

■ 会社概要
会社名: 株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント
所在地: 〒163-1424 東京都新宿区西新宿3-20-2
代表者: 代表取締役社長 松田 武久
資本金: 30,000千円
設立 : 1968年1月17日
URL: https://www.rad.co.jp
事業内容:マーケティング・リサーチの企画設計、実施及びコンサルテーション/経営・マーケティング活動の評価及びコンサルテーション

【私の論評】なぜ日本では金融政策と社会は無縁であるかのような扱いなのか(゚д゚)!

上の分析なかなか面白いものです。私自身は、若者のクリスマス離れは、もっと単純な背景によるものと思っています。

それは、大部分が過去の経済対策の失敗によるもの、特に金融政策 (雇用と密接に関係がある)の失敗によるものではないかと思っています。

以前このブログにも掲載したように、雇用と金融緩和とは密接に結びついています。これは昔からフリップス曲線として経験的に知られていることです。日本では、金融緩和により物価が2〜3%上昇すると、他には何もしなくても一夜にして雇用が数百万人創造されます。逆にいえば、物価が数%下がると、一夜にして雇用が数百万人失われます。

ハロウィーンに関しては、もともとクリスマスを祝うような人がハロウィーンに対しても親和的であって、ハロウィーンは日本で比較的最近祝われるようになったので、注目度が高いので目立っているだけだと思います。

今年も見られた渋谷でのハロウィーンの斬新な?衣装
それを裏付ける統計資料を以下に掲載します。

若者は高齢者より外出回数が少ない

11月21日、国土交通省が5年に1度実施している全国都市交通特性調査の2015年版の結果が発表されました。


その結果、20代の若者が1日に移動する平均の回数が、70代の高齢者を下回ったことが判明した。若者の外出は減少傾向、対して高齢者の外出は増加傾向にあり、2015年の調査で両者がついに逆転した形です。

若者の移動回数の減少は、日本だけではなくアメリカ・イギリスとも共通の傾向にあります。これは、英米では景気が回復傾向ではあるものの、日本と比較すると新卒採用という制度がない欧米では、若者が以前として就職弱者であるという現実があるのだと思います。一方で、高齢者の外出回数が逆転したのは日本だけです。

特に20代男性の休日の外出回数が減少

さらに男女別では、休日の20代男性の外出回数の減少が顕著でした。

20代男性が1日に移動する平均の回数は平日で1.91回、休日で1.24回。これは調査開始以来、最低となっています。初回調査が行われた1987年は平日が2.98回、休日が2.31回。休日の比較では30年間で47%も減少していました。


移動回数は、自宅にずっといた人が0回。自宅と目的地を往復すれば2回、その途中で立ち寄る場所が別にあれば3回とカウントされます。

家の外に一度でも出た割合を表す「外出率」でも、20代男性は平日が81.2%、休日が51.1%。平均して、休日のうち半分は、家から一度も出ていないことがわかった。

外出の目的別で比較すると、平日は男性の「業務目的」の外出が減少、休日は男性の「買物以外の私用」が大幅に減少しています。

背景に「非正規」労働者の増加?

調査では、関連情報としてインターネットやスマートフォンの普及が急速に進んでいることや、宅配便取り扱い数が増えていることなどを挙げています。平日に家でできる余暇が広がったことや、通信販売を利用する人が増えたことが推測されます。

また、就業形態別の調査で、年齢や平日・休日にかかわらず1日あたりの移動回数は、正規就業者、非正規就業者、非就業者の順に低くなっていることが明らかになっています。


20代の非正規就業者・非就業者の割合は53.5%にまで増加(92年は39%)しており、労働形態の変化との関連についても推測されます。

Twitterでは、以下のような反応が挙がっています。
「もう「貧困化」のことを「○○離れ」って言うのやめた方がよくね」
これに関しては、かなり実体をついたツイートだと思います。「若者の○○離れ」とは結局のところ、若者の貧困化や、しょう
「だって外出したらお金いるじゃん」
若者が貧困化していて、さらに将来に希望が持てなければ、まずはお金のかかることをやめようとするのは当然のことです。
「レジャー代一番最初に削るの当たり前」
若者が貧困化していれば、生活に必須なことにはお金を使っても、レジャー代を削るのは当然のことです。 ただし、「他者とつながっていたい」という願望はあるので、
「30年前のデータと比較されてもな。 1987年ってバブル真っ盛りじゃね?」
これに関しては、誤解があります。バブルの頃は、土地や株価の値上がりは顕著でしたが、 一般物価はさほど値上がりしていませんでした。にもかかわらず、日銀は金融引締めに転じました。これは大失敗でした。

その後も日銀は、基本的に引き締め気味の政策を繰り返しました。さらに、本来大規模に緩和すべきところを逆に引き締めをして、大失敗をしました。

これについては、以前のこのブログにも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
「アラフォー世代は一生貧困を宿命づけられている」クロ現のアラフォークライシス特集にネット阿鼻叫喚 「泣けた」「救いが無くてテレビ消した」 ―【私の論評】対症療法、精神論は無意味!真の打開策はこれだ(゚д゚)!

この記事をご覧いただくと、日銀はバブル期の最後と、2006年3月と、リーマン・ショック時に大きな金融政策の間違いを繰り返しています。

金融緩和政策に失敗するということは、若者に対しても重大な悪影響を及ぼします。なぜなら、 上でも述べたように、日本では、金融緩和により物価が2〜3%上昇すると、他には何もしなくても一夜にして雇用が数百万人創造されます。逆にいえば、物価が数%下がると、一夜にして雇用が数百万人失われます。

そうして、雇用が悪化すると、一番先に悪影響を被るのは若者です。企業としては、雇用情勢が悪化したときには、まず最初に若年層の雇用をやめたり、若年層から解雇するからです。そうして、増税などの緊縮財政もそれに追い打ちをかけました。

デフレのときには、金融緩和と、積極財政を行いなるべくはやく、デフレから脱却するのが、経済対策の王道です。しかし、日本では、デフレであるにもかかわらず、

このような日銀の金融政策の失敗により、当時若者だったアラフォーから悪影響を被ることになりました。そうして、この調査がなされたのは2015年のことですから、その当時でも雇用情勢は回復していたのですが、今ほどではありませんでした。

そのため、若者のクリスマス離れがまだみられていたのでしょう。景気というものは不思議なものです、景気が良い時期が続くと、たとえ景気が悪くなっても、多くの人々がまだまだ景気の良い時代は続くとして、それ以前の生活様式を改めることはありません。逆に、景気が悪い時期が続くと、たとえ景気が良くなっても、多くの人々はまだ景気の悪い時代が続くとして、それ以前の生活様式をすぐに改めることはありません。

たとえば、あのバブルの象徴ともいわれる「ジュリアナ東京」はバブルが崩壊した後にできたものです。ジュリアナ東京は、バブル後に設立され、数年営業して閉店しました。

だから、雇用情勢が回復しても、すぐに「若者のクリスマス離れの終焉」はおきないかもしれません。しかし、雇用情勢がしばらく良い状態が続けば、「若者のクリスマス離れ」も終焉するかもしれません。

私は、いつも思うのですが、ブログ冒頭の記事のように社会分析をするにしても、その前後の経済分析も怠ってはならないと思います。経済をみないと、社会の本当の姿を知ることはできません。

今年の「クリスマス」はどうなるのでしょうか。雇用情勢が良くなったので、また若者にクリスマスが復活するかもしれまんし、あるいは来年か再来年あたりになるかもしれません。

あるいは、クリスマスではなく、ハロウィーンがさらに流行るかもしれません。あるは、もっと別なものが流行るのかもしれません。

いずれにせよ、「若者の○○離れ」の背後には、経済政策の良さ、悪さもあることを認識すべきです。それらも、みなければ、本質は見えてきません。

特に、日本では、金融政策と社会とは無縁のような扱いです。このようなことでは、社会の本質は見えません。

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